デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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狂三の謎

[ダイスサーベル!]

 

突然『ビースト』と名乗る姿に変身した真那は、バックルに手をかざすと、バックルから四角い正方形をつけたサーベルを取りだし、士道の突きつけるようにサーベルの先端を突き出す。

 

「うおっ!? おいおいおいおいおいおいっ!!」

 

「兄様、大人しくしてやがってください。手元が狂いやがります」

 

思わず両手を上げて後退る士道は壁にぶつかり、逃げ場を失い、真那はダイスサーベルを突き出したまま、静かに士道に告げる。

 

「待て待て待て待て待て! 待てってっ!! いきなりなにしようとしてんだよっ!?」

 

「安心してやがってください。ちょっと兄様を気絶させて、兄様の中に入って、兄様の中に居座ってやがる魔獣をちょちょいのちょいっと、始末するだけでやがりますから」

 

「気絶させるってなんだよっ!?」

 

≪ほぉ、やれるものならばやってみろ。このケダモノ風情が!≫

 

「ドラゴン! お前も挑発すんなよなっっ!!」

 

「では兄様。安心して、往生しやがって下さい!」

 

「全然安心できねぇえええええええええええええええええええええええっっ!!!」

 

ダイスサーベルを振り上げたビースト、真那に悲鳴を上げる士道だが、意外な救いの手が出された。

 

「はいそれまで」

 

スパンっ!

 

琴里が履いていたスリッパを手にもって真那の頭を勢い良く叩くと、小気味の良い音が響いた。

 

「アタッ! 何しやがるですか琴里さん?!」

 

「何しやがるはこっちの台詞よ。いきなり人の家でバイオレンスな展開は止めてくれる?」

 

叩かれた頭を押さえた真那は、琴里に文句を言うが、琴里はスリッパを持ったまま仁王立ちした。

 

「琴里さん、急な展開に驚かれるのは仕方ないでやがりますが、後でちゃんと説明しやがります。今は兄様の中に潜んでいる魔獣を退治することが「それに関しては正直、是非やっちゃって欲しいけどね」えっ?」

 

「えっ? 琴里??」

 

ドラゴンを退治することを止めるどころか、むしろ推奨する琴里に、魔獣の存在を知っていたのかと驚く真那と、ドラゴン退治を推奨する琴里に唖然となる士道。

琴里は構わず口を開く。

 

「確かに士道の中には、士道の絶望から生まれた魔獣のトカゲがいるわ。できることなら今すぐにでも始末して欲しい所だけど。今はそれよりも、貴女の方が問題なのよ」

 

「えっ!?」

 

「そうだよ、真那! お前なんだよその姿はっ!?」

 

「あっ! その、えっと、この姿はその・・・・!」

 

士道に指摘され、ビースト(真那)は改めて状況を理解し、慌てて変身を解除した。

 

「・・・・・・・・これって、やっぱりヤバいでやがりますか?」

 

≪≪≪≪≪ヤバいな(ヤバいわね)≫≫≫≫≫

 

「真那。お前の中には、“デカイ魔力が1つ”、“小さい魔力が4つ”存在しているって、俺の中のドラゴンが言っているんだが?」

 

「ドラゴン、でやがりますか、兄様の中の魔獣は・・・・ちょっとカッコいいでやがりますな」

 

≪≪≪≪≪真那(ちゃん)っっ!!!!≫≫≫≫≫

 

「あぁゴメンゴメン! もちろんみんなの方がカッコいいでやがりますよっ!!」

 

真那は体内の魔獣達に弁解しているようだが、端から見ると一人芝居をやっているように見える。

 

「なぁ琴里? 俺もあんな感じだったのか?」

 

「ええ。もしかして友達がいなくて1人寂しくエアフレンドとお喋りしているのかと思っていたわよ」

 

「ハハハハハ・・・・」

 

1人平謝りしている真那を見て、士道もドラゴンにド突かれた時は自分も気を付けようと思った。

琴里は気を取り直して、再び真那に向き合う。

 

「それで? 貴女の中にいる魔獣の事を教えて欲しいのだけど?」

 

「・・・・その口ぶりと態度だと、兄様も琴里さんも魔獣の事を知っているようでやがりますね」

 

真那はポケットから、別のリングを取り出して、再びバックルの窪みに差し込んだ。

 

[キマイライズ! ゴー!!]

 

「「っ!?」」

 

バックルから音声が響くと、真那の身体から金色の魔力が流れ、真那の横に“巨大な幻影”が現れた。

 

金色の鬣をしたメタリックな黒いライオン、右肩には橙色の隼のような頭と片方の翼、左肩に青紫のイルカの頭に片方の魚のヒレ、胸に大きな角をした赤いバッファローの頭、尻尾に緑色のカメレオンの頭が尻尾のように舌を伸ばしている、『魔獣ファントム』と言うにはあまりにも異端の獣の姿をした。

 

「コイツらが、真那の身体の中にいる魔獣、『キマイラビースト』でやがります」

 

「『キマイラビースト』・・・・」

 

「この姿、複数の動物が引っ付いたような姿ね?」

 

「キマイラっつーのは、複数の生物を合成させた合成生物でやがりますからね。メインが『ライオンキマイラ』、他に『ファルコキマイラ』、『ドルフィンキマイラ』、『バッファキマイラ』、『カメレオンキマイラ』でやがります」

 

『我らはキマイラビースト。真那に宿る魔獣で、我がリーダーのライオンだ』

 

『オレはファルコ。スピード自慢のイカしたヤツだぜ!』

 

『私はドルフィン。真那ちゃんのお姉さん役よ』

 

『オラはバッファ。好きなのはノンビリする事だ』

 

『オイラはカメレオン。まぁよろしくな、真那の兄ちゃん』

 

どうやら真那の魔獣達は、個々に人格があるようだった。士道はおずおずと口を開く。

 

「・・・・真那は、魔獣をビジョンで出す事ができるのか?」

 

「えぇ、このリングは普段はアンダーワールドって言う精神世界のような場所でしか召喚できないキマイラ達をビジョンで召喚する事ができるのでやがりますよ」

 

「(これって、俺も『ドラゴライズリング』を使えばドラゴンをビジョンで召喚できるって事なのか・・・・?)」

 

≪まぁそう言うことになるな・・・・≫

 

意外な使い方に士道とドラゴンは少し唖然となるが、直ぐに気持ちを切り替える。

 

「それで真那。お前はどうして、キマイラ達を宿すようになったんだ?」

 

「そう言う兄様は、なぜそんな強力な魔獣を宿していやがるのですか? ウチのキマイラ達がさっきから臨戦状態になってやがりますよ?」

 

『『『『『・・・・・・・・・・・・』』』』』

 

ビジョンのビーストキマイラが士道に向かって睨んでいるかのようジッと見据えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は沈黙しているようで、コッソリとドラゴンと脳内会議をして、チラッと琴里に目配せすると、琴里は少し不機嫌そうに小さく頷いた。

 

「実はな。真那・・・・」

 

士道はドラゴンこと、ウィザードラゴンとの出会いを話した。1年前の儀式<サバト>の日の事。

士道が魔力の高い人間・『ゲート』であったため『絶望の魔獣 ファントム』であるウィザードラゴンを生み出した事。

何とかドラゴンを押さえつけ、今日まで共同生活をしてきた事を教えた。

士道がウィザードであることは伏せてある。ドラゴンが、≪あの無表情女<折紙>の知り合いである以上、貴様が識別名〈仮面ライダー〉である事が知られる可能性があるから、ウィザードの事は黙っておけ≫と告げられていたからだ。

 

「・・・・・・・・なるほど、そうでやがりますか」

 

1回真那は頷いてから、再び変身リングを構える。

 

「やっぱり早々に兄様の魔獣を始末しやがりましょう」

 

「まてまて真那っ! こっちは魔獣の事を説明したんだから! お前もビーストキマイラと出会った経緯を説明してくれよっ!」

 

「・・・・・・・・良いでしょう。ではそのあとに始末しやがります。良いですか、琴里さん?」

 

「そうね。話を終えたらそのトカゲを煮るなり焼くなり刻むなりスリ潰すなり、好きにしなさい」

 

「(始末するのは確定なのかよ。つーか琴里、ドラゴンを始末するのは賛成なのか・・・・)」

 

≪ふん。身の程知らずの小娘めが≫

 

「あーそのですね。ちょっと今住んでいる、こう特殊な全寮制の職場で、ちょーっと真那が色々な物を少しだけ、ほんの少ーしだけ壊しちまいましてね。その職場のお偉いさんが壊した物の弁償金を代わりに払ってくれて、そのお偉いさんのアンティークコレクションを見せてもらった時に、この『ビーストドライバー』に触れて、ビーストキマイラ達と共同生活する事になったんでやがりますよ・・・・」

 

「職場・・・・? 真那、今歳いくつだ? 琴里と同じくらいじゃないのか? 学校は?」

 

≪それを言ったら、貴様の義妹も秘匿組織で司令官なんぞをやっているだろうが?≫

 

「(でも琴里はちゃんと学校に行っているよ)」

 

すると真那は気まずそうに目を泳がせた。

 

「そ、その・・・・えーと・・・・ま、またお邪魔しますっ!」

 

「へ・・・・? ちょ、待っーーー」

 

「兄様! いずれ兄様の中のドラゴンは必ず真那が始末しやがりますから!! キマイラ! 行きやがりますよっ!!」

 

『『『『『おう(はーい)』』』』』

 

士道の制止を聞かず、真那はキマイラ達のビジョンを体内に戻すと、ドラゴンに宣戦布告をしたあとで、脱兎の如く去っていった。

 

「なんだったんだ、一体・・・・」

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は頬をかきながら、真那が消えた扉を呆然と眺めるが、向かいの席から士道の横に移動した琴里が、真那の使っていたティーカップを回収し、その意図に気づいているのは、ドラゴンだけだった。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

そして翌日。聞き慣れたチャイムが鼓膜を震わせ、時計の針は8時30分を示し、朝のホームルームの開始時刻となり、辺りで談笑していたクラスメート達がわらわらと席に着き始めていく。

 

「・・・・あれ?」

 

そんな中。チャイムが鳴ったというのに、狂三の姿が教室に無かったことに、士道は小さく首を傾げた。

十香も同じ事を思ったのか、キョロキョロと辺り一面見回している。

 

「むう、狂三のヤツ、転校2日目で遅刻とは」

 

「ーーー来ない」

 

十香がそう言うと、士道の左隣にいる折紙が静かな声でそう言い、視線だけ十香に向けて唇を開く。

 

「ぬ? どういう意味だ?」

 

「そのままの意味。時崎狂三は、もう、学校には来ない」

 

≪っ≫

 

「え? それってーーー」

 

ドラゴンがピクッと反応し、士道が言いかけたところで、タマちゃん教諭が入ってきて、朝のホームルームが始まり、タマちゃん教諭が出席を確認するために生徒の名前を読み上げていき。

 

「時崎さーん」

 

狂三の苗字を呼ぶが、返事はない。

 

「あれ、時崎さんお休みですか? もうっ、欠席するときにはちゃんと連絡を入れてくださいって言っておいたのに」

 

タマちゃん教諭が、プンスカ! と頬を膨らせながら、出席簿にペンを走らせようとした、その瞬間。

 

「ーーーはい」

 

教室の後方から、良く通る声が響いた。

 

「狂三?」

 

士道は後ろを向き、目を見開く。教室の後部の扉を開いてそこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべながら小さく手を挙げる狂三だった。

 

「もう、時崎さん。遅刻ですよ」

 

「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

 

「え? だ、大丈夫ですか? 保健室行きます・・・・?」

 

「いえ、今はもう大丈夫ですわ。ご心配お掛けしてすみません」

 

狂三がペコリと頭を下げると、軽やかな足取りで自分の席に歩いていった。

 

「なんだ・・・・ちゃんと来たじゃねえか」

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

「(ドラゴン?)」

 

≪なんだあの女? 昨日会った時と何か違う・・・・なんだこの気色の悪い、奇妙な、違和感のある気配は・・・・?≫

 

「(え・・・・?)」

 

ドラゴンがまるで総毛立ったような雰囲気で狂三を睨んでいることに、士道も訝しそうに眉をひそめ、先ほど不穏な事を言っていた折紙に視線を向ける。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

折紙は微かに眉根を寄せ、狂三の事を凝視していた。

表情はそこまで劇的に変化があるわけではない。だが、なぜか士道にはなんとなく分かった。今、折紙は間違く、驚愕している。

 

「折・・・・紙?」

 

士道が、小さな声で折紙の名を呼ぶが、折紙は微かに指先を揺らすと、狂三からふっと視線を外した。

ほどなくして、タマちゃん教諭がホームルームを終えて教室を出ていく。

と、その瞬間、ポケットに入れていた携帯が震えた。今朝学校に登校する際、もうすぐ新しいリングが出来上がる事を輪島が連絡してきた際、マナーモードにしていないのを気づいて、マナーモードにしていた。

 

「もしもし? 琴里か?」

 

《ーーーええ、士道。嫌な事態になったわ。控えめに言って最悪よ》

 

琴里らしくない苦々しい語調に、士道は唾液を飲み込んだ。

 

「っ、何かあったのか・・・・?」

 

《ええ。・・・・困った事になったわね。まさかこんなことが現実に起こり得るだなんて》

 

勿体ぶった言い方に、緊張感が高まった士道は、声をひそめるように通話口を手で覆い隠しながら続けた。

 

「・・・・一体、何があったんだ」

 

《ええ、実はーーー》

 

≪小僧。あの女が来るぞ≫

 

と、ドラゴンの言葉で振り向くと、狂三が士道に近づき、不思議そうな顔で首を傾げている。

 

「何をなさっていますの、士道さん」

 

「・・・・っ! あ、ああ・・・・ちょっと電話をな。少し待ってもらっていいか?」

 

士道が言うと、狂三は大仰な動作で驚きを表現したあと、ペコリと頭を下げた。

 

「これは失礼しましたわ。お邪魔するつもりはなかったのですけれど」

 

「ああ・・・・大丈夫だよ。気にしないでくれ」

 

士道は余裕のない笑みでそう言うと、再び通話口に意識を集中させた。

 

「ーーーそれで、琴里? 一体何が・・・・」

 

《ちょっと待って士道。今・・・・誰と話していたの?》

 

「え、誰って・・・・? 狂三だよ」

 

《・・・・・・・・・・・・》

 

すると、琴里は急に無言になったが、何やら電話の向こうで誰かと会話を交わしたあと、言葉を続けた。

 

《士道。昼休みになったらすぐに物理準備室へ向かって。見せたいものがあるわ》

 

≪どうやらあの女絡みのようだな。昼休みになったら行くぞ≫

 

「・・・・分かった」

 

士道がそう言うと、琴里は士道の言葉に返さず、電話を切った。

 

 

 

 

 

そして午後の12時20分。四限目の授業の終了を告げるチャイムが鳴ると、生徒達は昼食の準備を始めていった。

無論、十香も例外ではなかったが、今日は士道の席と合体しようとしなかった。

 

「十香?」

 

「ドラゴンから聞いている。琴里に呼ばれているのだろう? 早く行け」

 

「(ドラゴン。お前いつの間に・・・・)」

 

≪ふん≫

 

コッソリ士道にそう言った十香は、まるで階段のように背丈がきれいに並んだ女子三人のいる席に移動した。

士道は内心十香に謝るが、ふと折紙の方に目をやると、折紙が難しげな顔で、ジッと手元を見つめていた。

 

「・・・・?」

 

気になるが、今は物理準備室に向かおうと、士道は折紙に気づかれないように廊下を出て、そのまま校舎を移動し、階段を上って物理準備室へとたどり着き、扉をノックすると、まるでその場で待ち構えていたかのように扉がガラッと開いた。

 

「ーーー遅い。早く入りなさい。時間が惜しいわ」

 

中学校の制服着た琴里が、不満をさえずるように唇を突き出しながら顔を出す。どうやら弁当も食べずに直行で来たようだ。

士道が物理準備室に入り、奥へと顔を向けた。

部屋の最奥にある回転椅子には、すでに予想通りの人物が座っていた。〈ラタトスク〉の解析官兼都立来禅高校物理教諭・村雨令音である。

 

「・・・・ん、来たね、シン」

 

いつものように令音独特の士道のアダ名を呼び、自分の隣の席を指さす。そこに座れということだろう。

士道はその指示に従うと、椅子に腰掛け、琴里が士道を挟むように隣に腰掛けた。

 

「・・・・それで、見せたいものって?」

 

琴里が机に置かれたディスプレイを示し、令音が手元のマウスを操作すると、画面にとある映像が映し出された。

なぜか『恋してマイ・リトル・シドー2 ~愛、恐れていますか~』なんてギャルゲーが表示されて士道が喚きそうになり、ドラゴンが尻尾でド突いて黙らせる事があったのは割愛する。再び画面が切り替わり、別の映像が映し出された。

ーーー狭い路地裏に、なぜか狂三と、金の鬣に緑の2つの目をつけた仮面の戦士が向かい合って立っている。

 

「ん? これって・・・・真那?」

 

そう、映像に映っている仮面の戦士は、右肩にファルコキマイラの頭部とマントを装備したような姿だが、真那が変身した『ビースト』だった。

 

「ええ、昨日の映像よ。ーーー周りを良く見て」

 

「な・・・・っ。AS・・・・T?」

 

士道は眉をひそめた。何の変哲もない一角に、機械の鎧、CR-ユニットを纏ったAST隊員達がいた。画面の端には、折紙の姿もあった。

 

「ええ。ーーー何故か昨日、急にASTの反応が街中に現れたらしいの。クルーの1人が念のためカメラを飛ばして見たらしいんだけど、確認してみて驚いたわ」

 

「な、何でASTが・・・・」

 

≪バカか貴様は? 精霊が現れて、空間震を引き起こす危険性のある存在が彷徨いているのだ。暴れる前に仕留める自信があったんだろう。あのケダモノ魔法使いには≫

 

「・・・・っ」

 

ドラゴンの言葉に、士道は息を詰まらせた。

 

「で、でもなんで、真那が・・・・」

 

「おそらくだが、彼女はASTに所属しているのだろう」

 

「な・・・・っ」

 

令音の言葉に士道は驚く。

が、画面の中の狂三が両手をバッと広げると、足元の影が狂三の身体を這い上がり、ドレスを形成した。

頭部を覆うヘッドドレス。胴部をきつく締め上げるコルセットに、装飾過多なフリルとレースで飾られたスカート。それら全てが、深い闇を思わせる黒と、血のように赤い光の膜で彩られ、最後に、何故か左右不均等に髪が括られていった。

まるで、時計の長針と短針のように。

 

≪・・・・なるほど。これがあの女の≫

 

「霊、装・・・・」

 

ドラゴンが狂三が霊装を展開する様子を静かに見据え、士道は呆然と声を発した。

そして狂三が、右手を頭上に掲げる。すると再び影が彼女の身体を這い上がり、右手に収束していった。

が、そこで狂三の身体が宙を舞った。

真那が、ダイスサーベルの先端から光弾を放ち、狂三の腹を撃ち抜いた。

ーーー狂三が身を震わせる。

それは恐怖に怯えているというよりも、甲高い哄笑を上げているようだった

あとは、数秒で片が付いた。

狂三が反撃しようとアクションを起こすのだが、それに先んじて、真那は右肩のマントを靡かせると、ハリケーンスタイルに匹敵する飛行スピードで狂三に肉薄し、ダイスサーベルが狂三の身体に連続で突き刺さる。

その度に、さして広くない路地に、真っ赤な血が撒かれた。

さらにダイスサーベルの正方形の部分にリングを押し当てて、再びサーベルを突き出すと、橙色の隼が6匹、狂三の前後左右上下から突撃し、小さな爆発を起こった。

そして、ボロボロの状態で地面に仰向けに倒れ、完全に動かなくなった狂三の首に、真那はダイスサーベルを深く突き立てた。

真那に攻撃を加える間さえなく。

狂三の命は、摘み取られた。

 

「ぐ・・・・ッ」

 

思わず顔を押さえ、目を背ける。真那が狂三を解体し終えた頃、ようやく士道は喉奥に嘔吐感を覚えた。

歯の根がガチガチと鳴って、寒くもないのに身体が震える。

人が、厳密には人ではないが、魔獣ファントムと違って、外見は人と変わらない存在が、殺される。

映像とはいえ、そんな光景を目にして、士道の反応を咎められる者はいない。だが、ドラゴンは殺された狂三の遺体をジィッと見据えていた。

ーーー画面の中の真那は変身を解除すると、その様子に、違和感を感じた。

精霊とは言え、殺しを行った罪悪感も。

焦燥感も。

絶望感も。

それどころか達成感さえない無い。

ひどく事務的な作業。一言で言うなら、“慣れて”いる。

 

「こ、れって・・・・」

 

1分ほどかけてどうにか吐き気を抑え込み、士道は声を発した。

 

「・・・・見ての通りだ。昨日、時崎狂三はAST・崇宮真那に殺害された。重傷とか、瀕死とかではなく、完全に、完璧に、一分の疑いを抱く余地もなく、その存在は消し潰された」

 

「でも狂三は今日、普通に学校に・・・・」

 

士道が言うと、琴里と令音はまったく同じタイミングで腕組みした。

 

「・・・・そう。我々もそこがわからないんだ」

 

「士道が狂三と話してるって聞いた時は、とうとう幻覚でも見え始めたのかと思ったわ」

 

冗談めかした琴里は肩をすくめる。

だが士道は、必死に考えを巡らせ、唇を開く。

 

「あの状態から・・・・蘇生したってことか?」

 

ちょうどAST隊員達が狂三の遺体と血痕の処理を始めていた。その中には折紙の姿もあり、ようやく今朝の彼女の反応の意味が分かった。昨日目の前で死んだ精霊が、今朝平然と現れたからだ。

 

「どうでしょうね。ーーー現段階では何とも言えないわね」

 

「そう・・・・か(ドラゴン、お前はどう見る?)」

 

≪・・・・まだ情報不足だが、考えられる可能性としては、貴様の炎の回復のような“超再生能力”、もしくは精霊の武器、“天使による蘇生”、あるいは“分身もしくは偽物”といった所だな≫

 

琴里が腕を解き、右手の指をビシッと士道に突きつけてくる。

 

「ーーーでもまあ、何にせよ。狂三が生きている以上、作戦は続行よ。確か明日って士道の学校、開校記念日で休みだったわよね? 今日中に、狂三をデートに誘いなさい。かなりグイグイ来てるし、運が良ければこの1回で力を封印できるかもしれないわ」

 

「・・・・は? っ・・・・」

 

士道は、目を点にするが、直ぐに真顔になると沈黙した。またドラゴンとの脳内会議を始めた。

 

「(なんだよドラゴン)」

 

≪何を抜けたアホ面をさらに腑抜けさせている。あの女の能力は分からんが、何らかの条件を満たせば発動する蘇生、もしくはあの時限りの生還だとすれば、次に殺されればおしまいと言うことだ≫

 

「う・・・・っ」

 

確かにその通りだ。次もまた生き返る保証があるか分からない。

 

≪我は別に、あの気色の悪い女が死のうが殺されようがどうでもいいが、ヤツが生きている事はあの無表情女<折紙>を通じて、お前のケダモノ付きの実妹にも伝わっているだろうな?≫

 

「・・・・っ」

 

真那の名を出されて、士道は顔をしかめた。

先ほどの光景を思い起こす。昨日会ったばかりとは言え、自分の妹を自称する少女が、あんなにも無感動に、慣れた調子で狂三を殺すのは、堪らなく嫌だった。

士道は決意を持って、顔を上げると、琴里は何故か少しムスッとした顔で士道見据え、令音は相変わらず無表情で士道を見ていた。

 

「・・・・琴里。やってみる」

 

琴里は不機嫌そうだが、頷いた。

 

「ーーー狂三を、デレさせる」

 

それは重い決意のはずだったのだが、言葉にするとやはり少し間抜けなのだったが、構わない。

次に狂三が真那に殺される前に。

次に真那が狂三を殺す前に。

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

しかしドラゴンは、十香や四糸乃とは違って、あまりにも得たいの知れない狂三に警戒心を高めていた。

 




ビーストキマイラ達は、個々に人格と性格があります。

ライオン・古風な口調のリーダー。

ファルコ・クールで陽気なスピード野郎。

ドルフィン・穏やかな女性。

バッファ・のんびりマイペース。

カメレオン・慎重な性格。

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