デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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今回、オリジナルリングが出ます。


三つの約束

ー折紙sideー

 

士道が教室を出るのを確認した折紙は、夜刀神十香がクラスメートの女子3人と昼食を取りながら話している姿を一瞥してからゆっくりと立ち上がり、目的の人物の席まで歩いていく。

 

「ーーー少し話がある」

 

目的の人物、狂三に冷たい視線を投げてそう言った。

狂三は大仰に首を傾げると、右目をまん丸に見開いた。

 

「折紙さん・・・・でしたわよね。わたくしに何か?」

 

「来て」

 

折紙は短く答え、教室の外に歩き、狂三は数秒間逡巡するように顎に指を当てるが、慌てて折紙を追った。

 

「ま、待ってくださいまし。一体どうしたんですの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

折紙が後方を一瞥する。

今の狂三の姿は、同姓でも庇護欲を掻き立てられる愛らしい少女だった。

だが、折紙はその狂三の姿に、ドラゴンが感じたのと同じ、得体の知れない気味の悪さしか感じなかった。

折紙はそのまま歩を進め、屋上前の扉についた。

平時では人が訪れず、耳を気にしなければならない話をするには便利な空間だ。

 

「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ」

 

階段を一気に上ったからか、肩で息をしながら手すりにもたれかかる狂三。呼吸が落ち着くのを待って数十秒。狂三が唇を動かす。

 

「ええと・・・・何かご用ですの? わたくし、まだお昼を食べていないのですけれど・・・・」

 

少し不安そうな表情の狂三。しかし、折紙は表情をピクリとも動かさず応じた。

 

「あなたは、なぜ生きているの」

 

「え・・・・?」

 

「ーーーあなたは、昨日死んだはず」

 

折紙は昨日、確かに見た。

識別名〈仮面ライダー〉に良く似た姿、『ビースト』に変身した真那に、完全に絶命されたのを。

折紙や他のAST隊員が燎子の命令で招集され、万一真那(ビースト)が精霊を仕留め損ねた時の為に、周囲を固めていたからだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

狂三が、ピクリと眉の端を動かし、その後数秒間、前髪に隠れていない右目で、折紙を睨め回し、そして。

 

「ーーーああ、ああ。あなた。昨日真那さんと一緒にいらっしゃった方ですの」

 

「・・・・!」

 

先ほどまでの庇護欲を掻き立てられる雰囲気から一変した狂三がそう言った瞬間、折紙はその場から飛び退いた。

根拠は無かったが、折紙の脳が得体の知れない違和感を覚え、逃げろと警告したからだ。

 

「まあ! まあ! 素晴らしい反応ですわ。素敵ですわ。素敵ですわ。でぇもォ」

 

「ーーーっ」

 

折紙は息を詰まらせた。後方に飛び退いた先で、何者かに足首を捕まれたのだ。

見やると、いつの間にか折紙の足元にまで狂三の影が伸び、そこから白く細い手が二本、生えていた。

しかもじわじわと影が面積を増すと、壁をも這い上がっていき、そしてそこからも無数の手が生え、後方から折紙の腕と首をガッチリと拘束した。

 

「くーーー」

 

折紙はもがくが、細い指は折紙の身体から離れようとせず、さらに力を増して、折紙を壁に磔にした。

 

「きひひ、ひひ、駄ァ目ですわよぅ。そんな事をしても無駄ですわ」

 

狂三が、数刻前では想像もできない歪んだ笑みを張り付け、聞いているだけで腹の底が冷たくなるが広がるような声を発した。

 

「昨日はお世話になりましたわね。キチンと片付けてくださいまして? わたくしのカ・ラ・ダ」

 

髪をかき上げながら折紙に近づいてくる狂三。一瞬、前髪に隠れていた左目が見えた気がした。無機的な金色。およそ生物の器官とは思えない形状をした瞳に見えるのは、12の文字と2本の針、そう、それはまるで“時計”のように見えた。

 

「わたくしの事を知りながら、1人で接触を図るだなんて、少々迂闊なのではございませんこと? しかもわざわざ、人目につかない場所まで用意してくださるだなんて」

 

「・・・・っ」

 

言われて折紙は自分のミスを自覚した。士道に精霊を脅威と言っていながら、昨日の呆気ない幕切れを見て、油断があった。

 

「あなたーーーは、何が・・・・目的」

 

喉を締め付けながらも、折紙が声を発すると、狂三はニィィ、と唇の端を上げた。

 

「うふふ、一度学校というものに通ってみたかった、と言うのも嘘ではございませんのよ? でも、そうですわね、一番となるとやはりーーー」

 

そこで一拍おいてから、息がかかるくらいの距離にまで顔を近づけてくる。

 

「ーーー士道さん、ですわね」

 

「ーーーッ!!」

 

士道の名が出され、折紙は声を詰まらせた。

そんな反応を見てか、狂三はいたく楽しそうに笑みを濃くした。

 

「彼は素敵ですわ。“彼ら”は最高ですわ。“彼ら”は本当にーーー“美味しそう”ですわ。ああ、ああ、焦がれますわ。焦がれますわ。わたくしは“彼ら”が欲しい。“彼らの力の全てが欲しい”。彼らを手に入れるために、“彼と彼の中の魔獣と一つになるために”、この学校に来たのですわ」

 

その時、折紙の背中にじっとりと汗で湿り、戦慄を感じた。まさか精霊が一個人をーーーしかもよりによって士道を狙って現れるだなんて、予想だにしなかった。

しかし。そこで折紙には疑問が生まれた。

今し方狂三が発した言葉。『彼ら』と『彼らの力』、そして『彼と彼の中の魔獣』とは一体・・・・。

 

「・・・・っ」

 

しかし、そんな思考は狂三によって中断させられた。

狂三が、折紙の身体に妖しい手つきで指を這わせてきたのである。

 

「折紙さん。鳶一、折紙さん。あなたもーーーとても、“いい”、ですわよ。すごく、美味しそうですわ。ああ、たまりませんわ。たまりませんわ。今すぐにでも食べてしまいたい」

 

頬を上気させ、息づかいを荒くしながら、左手を胸元に這わせ、右手で足をなぞって、スカートの中をまさぐるようにしてくる。

 

「・・・・っ、触らないで」

 

「ふふ、そうつれない事をおっしゃらないでくださいまし」

 

そう言い、長い舌を伸ばして、折紙の頬に唾液の線を引いていく。

 

「く・・・・」

 

「ああ、ああ。でも駄目ですわ。駄目ですわ。とてもとても惜しいですけれど、お楽しみはあとにとっておかなくてはいけませんわ」

 

狂三は大仰に首を振って、折紙の首筋に口づけを残して、身体を離していった。

 

「あなたは、“士道さん達”のあとに。ーーーもっと、もっと美味しくなっていてくださいまし」

 

狂三はそう言って、クルリと踵を返して階段を下りていった。

そしてその背中が見えなくなると、折紙を拘束していた手が影の中に吸い込まれていった。

 

「・・・・っ、けほっ、けほっ」

 

床にうずくまった格好で咳き込む折紙。

廊下に広がった影は、狂三の元に帰るように、階段の方へと収縮していった。

 

「士、道ーーー」

 

なぜかわからないが、狂三は士道を狙っている。

早く本部に、士道の妹で精霊を殺す力を持った真那にこの事を伝えなくてはならない。否、たとえそうしても、精霊が個人を狙っているだなんて本部が信じてもらえるかわからないし、真那に頼ってばかりではならないとも思った。

折紙は奥歯を噛みしめ、クッと拳を握った。

 

「私が、士道を守らなくては・・・・!」

 

 

 

ー十香sideー

 

「・・・・むぅ」

 

そろそろ昼休みが終わる時間。

とっくに平らげた弁当を片付けた十香は、最近仲良くなったクラスメート3人の談笑を聞きながら、士道が去った教室の扉をチラチラと見る。

転校生の狂三が精霊であることは、士道の中で魔法使いである士道の協力者(?)であるウィザードラゴンから聞かされており、士道が狂三を救うための作戦を練っていることも聞かされていた。

 

「う・・・・う・・・・」

 

だがなぜだろうか、目がジンワリと熱くなり、鼻で呼吸をするのが苦しくなってくる。ズズッと鼻を啜って、目元を拭う。服の袖が少し濡れていた。と、そこに。

 

「ーーーあれ? どしたの十香ちゃん」

 

「私達の話、面白くなかった?」

 

「マジひくわー。もう授業始まっちゃうよー」

 

十香と昼食を摂っていた女子3人組が、十香に声をかける。よく十香に構ってくれる女子達である。

名前は、『山吹亜衣』、『葉桜麻衣』、『藤袴美衣』。

似たような名前が縁で仲良くなったのだという。

 

「ってうわ! どーしたのよ十香ちゃん! 泣いてんじゃん!」

 

「なになに、私達何か気にさわる事しちゃったの!?」

 

「自分自身にマジひくわーッ!!」

 

見事なコンビネーションで十香を囲い込み、3人が口々に言って頭をおさえて叫びだす。教室にいた生徒も、外に遊びに行って戻ってきた生徒達もビクッと肩を震わせた。

 

「ち、違うぞ! 別に気にさわってはいないぞ!」

 

十香が慌てて手を振ると、3人に訴えかけた。

 

「ええ? そうなの? 良かったぁ」

 

「じゃあなに、どうしたの?」

 

「花粉症? 花粉症なんだ? マジひくわー」

 

十香はブンブンと首を振ると、顔を俯かせてポツポツと呟いた。

 

「シドーがな、まだ戻ってこないのだ。・・・・それで、今日は、あまりシドーと話せていないなあと思ってしまって、そうしたら、なぜか、こう・・・・」

 

それを口に出すと、目からポロポロと大粒の涙がこぼれる。

 

「あぁっ! 十香ちゃん! いいのよ辛いならそれ以上言わなくて!」

 

「て言うか五河君ぶっちゃけあり得ないんですけど! こんな可愛い子泣かせるとか!」

 

「マジひくわー! 首を落として豚の餌にしてくれるッ!」

 

3人がやたらハイテンションで叫んだ。

最後のセリフ辺りをドラゴンが聞けば、「豚の腹がイカれるからやめておけ」と言いそうだが。

十香は再びアワアワと制止した。

 

「し、シドーは悪くないのだ! ただ、私が・・・・」

 

十香は乏しい語彙の中から言葉を拾い集めて、士道に非がない事と、士道がいることに慣れてしまった自分が原因なのだと説明したが、それを聞いて、亜衣麻衣美衣トリオがふぅむと唸る。

 

「十香ちゃん的には、五河君とお話できて、ご飯とか食べちゃって、あまつさえ遊んだりできたらウルトラハッピーなわけね?」

 

亜衣がそう言うと、十香はコクコクと頷く。

 

「くぅッ、なんて純真なの。もうこれ五河君百叩きけってーいじゃ済まないでしょ」

 

次いで、麻衣が芝居がかった調子で涙を拭く真似をして、十香は目を丸くした。

 

「マジひくわー。ちょっと家の物置からアイアンメイデンと三角木馬持ってくるわー」

 

美衣が真顔で言って、十香は首を傾げた。

 

「「「よし!」」」

 

そんな十香を見て3人は膝を叩いた。

 

「十香ちゃんの為なら一肌脱ぐよ私は!」

 

亜衣はそう言って、自分の鞄から二枚の紙切れを持ってきた。

 

「あ、亜衣、アンタそれは・・・・!」

 

「そう、天宮クインテットの水族館のチケットよ・・・・ッ! 明日は開校記念日で休みでしょ? 十香ちゃん! これあげるから、明日五河君といってらっしゃい!」

 

「亜衣! それはアンタが岸和田君と「それ以上いうんじゃあねぇ! 十香ちゃんが遠慮しちまうだろぃ・・・・」亜衣・・・・!」

 

麻衣が言いかけるのを、亜衣は手で制して言った。麻衣と美衣は涙を堪えるような仕草をして、3人のノリに置いていかれている十香の肩をそれぞれ掴んだ。

 

「十香ちゃん・・・・! 黙って受け取ってちょうだい・・・・!」

 

「亜衣を! 亜衣を女にしてやってくんなせぇ・・・・! マジひくわー・・・・!!」

 

「ぬ、ぬぅ・・・・?」

 

なんとなく場の雰囲気を壊してしまうことを躊躇った十香は、大人しく亜衣からチケットを受け取る。

するとその瞬間、亜衣がその場で崩れ落ちた。

 

「十香ちゃん・・・・五河君と・・・・幸せに・・・・ね」

 

「あ、亜衣ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」

 

「気をしっかり持って! 傷は浅いわ! マジひくわー!」

 

「・・・・!? ・・・・!?」

 

十香は突然の展開に目を白黒させ、チケットを持ったまま戸惑う。何かいけない事をしたのだろうかと、十香は涙目になりながら、亜衣の手にチケットを戻した。

 

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

すると、亜衣が復活した。

 

「亜衣!」

 

「マジひくわー! 奇跡だわ!」

 

「って、いやいや」

 

瞬時に冷静になった亜衣が、十香にチケットを渡し直した。

 

「返しちゃ駄目でしょ十香ちゃん。これ持って、五河君にお誘いかけてみなさいって」

 

「お、おさそい・・・・?」

 

「そ。明日デートしてらっしゃいって言ってんの」

 

「・・・・!」

 

十香は目を見開いた。デート。士道と一緒に。

思えばここ最近ずっと、士道と初めてデートしたあの日以来、士道とデートに行っていない気がする。久しぶりのデート。それはーーー。

 

「(ーーー嗚呼、それはとてもいい。とっても素敵な事だと思う)」

 

十香は幸せな気持ちになるが、1つの問題があった。

 

「わ、私が、誘う・・・・のか」

 

緊張に汗を垂らしながら十香は言った。

 

「ええ。いったんさい、いったんさい。たまには女子から誘うのもいいモンよ。ここで誘わなきゃ女が廃るってモンよ」

 

「だ、だが・・・・もし断られたら・・・・」

 

「「「はふゥ・・・・」」」

 

十香は不安げにそう言うと、3人は肩をすくめて息を吐いた。

 

「おっけおっけ。まず断れはしないと思うけど、て言うか断ったりしたら、海より広い私の心が我慢の限界迎えて、堪忍袋の緒が切れましたって感じで五河君、シチュー引き回しの刑だけど、私達がとっておきの秘策を授けてあげるわ」

 

「ひ、秘策・・・・?」

 

「そう。結局男なんてエロで動いてるモンなのよ。十香ちゃんがこの誘い方すれば、一国を制圧できるキラやば~☆なレベルの兵力が集まるわよ」

 

「い、いや、そんなにはいらんのだが・・・・」

 

「いーからいーから。まずはね・・・・」

 

十香は、亜衣の秘策をコクコクと頷きながら聞いた。

 

 

 

 

そして時間が経ち、帰りのホームルームが終わると、士道は直ぐ様席を立つ。

その際、右側の十香がなんだかモジモジした視線を、左側からは折紙の絶対零度の魔眼を浴びた気がしたが、どうにか無視して狂三のもとへと赴いた。

 

「狂三、ちょっといいか」

 

言ってから、廊下の方を指で示し、歩きだし、ひと気のない場所まで歩いてから、大人しく後をついてきた狂三に向き直る。

 

「士道さん。いかがいたしましたの?」

 

「あ、ああ。突然で悪いんだが・・・・狂三、明日暇か?」

 

「? ええ、大丈夫ですけれど」

 

「その、もしよかったら、この辺を案内しようか・・・・?」

 

「え? それって・・・・」

 

「ま、まあ・・・・平たく言うと・・・・デート、かな」

 

その瞬間、狂三がパァッと顔を明るくした。

 

「本当ですの!?」

 

「あ、ああ・・・・どうかな?」

 

「もちろん。光栄ですわ」

 

「そっか、じゃあ・・・・明日10時半に、天宮駅の改札前で待ち合わせな」

 

「ええ、楽しみにしておりますわ!」

 

「じゃあ、また明日」

 

狂三が満面の笑みで言い、士道は軽く手を上げると教室に戻っていった。

 

「(良し。後は狂三とのデートを成功させるだけだな)」

 

≪(・・・・・・・・・・・・)≫

 

士道は明日のデートを成功させようも意気込むが、ドラゴンは警戒心をまるで下げる気配無く、士道の体内越しで、狂三を鋭く睨んでいた。

と、教室の扉を開けると、そこに折紙が立っていた。

 

「・・・・い・・・・っ!?」

 

「ーーー彼女と何を話していたの」

 

怜悧な瞳で士道を見つめ、静かで抑揚のない声を響かせる。

 

「い、いや、何でもないよ」

 

「答えて。これは非常にーーー」

 

≪・・・・おい、早く逃げろ≫

 

「い、急ぐからまたな折紙! 十香! 帰るぞ!」

 

「ぬ? う、うむ!」

 

折紙の脇をすり抜けて自分の席まで走り鞄を手にとって逃げる。十香も何とか反応し士道の後をついてきた。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

しばらく走って、折紙が追ってきてないと確認して、スピードを緩めた。

 

「いきなりどうしたのだ、シドー」

 

「い、いや・・・・とにかく、まあ・・・・なんだ、とりあえず、おっちゃんの所に言ってから帰るか」

 

「ん、シドー」

 

「ん?」

 

「わ、私は先に帰っているが・・・・良いか?」

 

「ん? あ、あぁ」

 

十香が、どこか歯切れ悪くそう言って、先に帰って行った。

 

「どうしたんだろうな、十香のヤツ?」

 

≪さぁな・・・・≫

 

 

 

 

面影堂に付いた士道は、扉を開けると、店の中に輪島の姿は無く、作業部屋にいた。

 

「おっちゃん。来たよ」

 

「おう、今行く」

 

輪島がようやくカッティングを終えたウィザードリングを“3つ”持ってきた。

 

1つは、フレイムスタイルの変身リングに、冠を付けたデザインのリング。

 

1つは、ドラゴンが炎を吐いているデザインの赤いリング。

 

1つは、ドラゴンの影から、別のドラゴンが現れているデザインのリング。

 

「おっちゃん、これが新しいリングなのか?」

 

「ああ。あの魔法石から作ったのが2つ。フレイムスタイルリングに似ているのが、フレイムスタイルの強化形態。もう1つもおそらくその強化形態に関係しているリングだろう。それと、思ってたより早くカッティングが終わったから、新しく作った魔法リングだ」

 

≪あの魔法石から造られたリングは後でどういう能力か試してみるとして、魔法リングは試しておくとするか≫

 

「(だな・・・・)おっちゃん、新しいリングを使ってみるよ」

 

「ああ。どんな効果があるか分からないから気を付けろよ」

 

そう言って輪島は士道から離れて物陰に隠れた。

士道は新しい魔法リングを右手薬指に嵌めて、バックルに翳した。

 

[アバター プリーズ]

 

音声アシスト鳴り響くと、士道の真横に魔法陣が現れ、士道の身体を通過したーーー。

 

 

 

 

「いや~、今回のリングは凄いなぁっ!」

 

≪確かにな。これなら色々と使えそうだ≫

 

士道が家につくと、何故か制服姿の十香が、五河家の前でポツンッ、と立っていた。

 

「十香? 着替えないで待ってたのか?」

 

「し、シドー・・・・! い、いいから、早く鍵を開けろ!」

 

「はあ・・・・まあ、別に良いけど」

 

夕食には五河家にご飯を食べに来る十香なので、特に問題は無く、鍵を開けて扉を開き、琴理はまだ帰ってきていないが、とりあえず「ただいま」と言って、玄関で靴を脱いで家に上がり、リビングに直行すると、ソファに鞄を放って軽く伸びる。

 

「んー・・・・」

 

と、そこで十香が玄関の鍵を閉め直したらしく、ガチャリと音が聞こえ、そのまま顔を俯かせてリビングに入ってきた。

 

「ん? 別に鍵を閉めなくていいぞ? どうせ琴理も帰ってくるんだし」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし十香は答えず、その場に鞄を落とすと、鞄の中に手を突っ込むと、なにやらチケットらしき紙を二枚取り出した。

 

「し、シドー、もしよかったら・・・・なのだが」

 

そしてそこで、何かを思い出したかのように顔を上げた。

 

「そ、そうだ、ちゃんとやらなくては・・・・」

 

「ちゃんと・・・・? 何をだ?」

 

≪(なんだ? 嫌な予感がするぞ・・・・)≫

 

士道が首を傾げ、ドラゴンが半眼で十香を見据えていると、十香はリビングのカーテンを閉めた。

 

「お、おい、十香・・・・?」

 

「ちょっと待っていろ! じゅ、準備する!」

 

「準備・・・・? な、何の・・・・?」

 

十香は答えず、鞄からルーズリーフを1枚取りだし、テーブルの上に置き、それを難しげな顔で見ながら腰元に手をやり、スカートの上部をクルクルと巻き込む。女子達がスカートを一時的に短くする小技であり、十香の健康的な太腿が露になる。

 

「お、おい、十香・・・・?」

 

戸惑う士道を無視して、十香は制服のリボンを緩め、ブラウスのボタンを上から順番に外し、第四ボタンまで開き、ブラウスの隙間から十香の白い胸元が覗き、士道は思わず目を逸らす。

 

「な、なにやってんだ十香!? 着替えるなら自分の家でーーー」

 

「し、シドー!」

 

十香は士道の言葉を遮り、顔は熟れたトマトのように真っ赤になり、チケットを唇でくわえ、その場で四つん這いになる、いわゆる雌豹のポーズをとる。

 

「ほ、ほえを(こ、これを)・・・・!」

 

「な、なななんだ・・・・!? どうしたってんだ一体!?」

 

「だ、駄目か・・・・っ!」

 

士道は混乱したまま言うと、十香は悔しそうにチケットを口から取り落とす。

 

「(・・・・十香の意図が読めないんだけど?)」

 

≪ふ~む。もしかしてだが・・・・≫

 

ドラゴンが何か言う前に、十香はテーブルの上のルーズリーフに再び目をやり。

 

「よ、よし・・・・ッ!」

 

気合いを入れるように叫ぶと、チケットを拾い上げ、なんと、開いた胸元に挟めるように入れて、少し前屈みになって、左手で両胸を寄せて谷間を作ってから士道に視線を向ける。

 

「な・・・・ッ!?」

 

≪ぬ・・・・ッ!?≫

 

なんだか物凄いイケナイものを見ている気がして、士道は後ずさった。

 

≪何をしている〈プリンセス〉っ! そのような卑猥なポーズなどっ!!≫

 

「ぬ? これで誘えば、シドーがチケットを受け取ってくれると聞いてーーー」

 

≪どこのクソ馬鹿がそんな事を吹き込んだのだっ!!!≫

 

どうやらドラゴンがテレパシーで十香と交信したようだ。ドラゴン自身も相当慌てているのか、声を出して十香に注意しているようだ。

 

「十香・・・・?」

 

「シドー・・・・あ、明日・・・・デェトに行かない・・・・か?」

 

「は・・・・? で、デート・・・・?」

 

「う、うむ・・・・!」

 

十香が大仰に頷き、胸元のチケットを示す。

士道も腹を括って、顔中に汗をびっしり浮かせながら、震える手で十香の胸元に伸ばし、十香の胸に触らないように注意を払い、チケットを摘まみ取った。

 

「お、おお!」

 

すると十香の顔がパァっと明るくし、姿勢と服装を元に戻し、鞄を手にとった。

 

「明日! 朝10時に駅のパチ公前で待ち合わせだ! で、では着替えてくる!」

 

そうとだけ言うと、十香は目にも留まらぬ速さでリビングを出て、廊下を走り、玄関の鍵を開けて外を駆けていく。

 

「な、なんだったんだ・・・・?」

 

≪水族館のチケット、それにルーズリーフ、文字からして〈プリンセス〉ではなく、他の女の文字だな≫

 

ドラゴンが言うように、十香が置いていったルーズリーフを見ると。

 

『十香ちゃん悩殺技集』

 

①【雌豹のポーズ】

 

②【おっぱいにチケット】

 

③【上2つで駄目ならもう押し倒しちゃえ】

 

≪・・・・本当に誰だ? 〈プリンセス〉にこんな破廉恥な事を吹き込んだのは・・・・!!≫

 

「・・・・・・・・」

 

ドラゴンの全身から放たれる怒気に士道は先ほどとは明らかに違った汗を流した。

それから司令官モードの琴理が帰って来て、明日十香とデートすることになったと伝えると、その日狂三とのデートがあることを言われ、十香とのデートを断ればただでさえ朝から寂しさメーターが上昇しているので、琴理から十香と狂三とダブルデートをする事になった。

士道ができないとごねようとするが、今度はポケットの中の携帯電話が震え、取り出して画面を見ると、見知らぬ番号から着信だった。

少々不審に思いながら出ると、電話口から折紙の静かな声が聞こえた。

 

「あれ・・・・? 俺、お前に番号教えてたっけ?」

 

《・・・・・・・・明日は休日》

 

「? あ、ああ・・・・そうだな」

 

頬に一筋の汗を垂らしながら聞くが、折紙はしばし無言の後、言葉を続けて士道も答えた。

 

「貴方は、1人になってはいけない」

 

「え・・・・?」

 

《午前11時。天宮駅前広場の噴水前で待っている》

 

「へ?」

 

《デート》

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

《絶対に来て》

 

それだけ言うと、電話を切られた。

・・・・結局、士道の質問には答えてくれなかった。

 

「誰よ、一体」

 

「いや、折紙だったんだが。なんか・・・・デートに・・・・誘われた」

 

「はぁ・・・・!?」

 

琴理が、盛大に眉根を寄せて叫び声を上げた。

 

「デートって・・・・まさか、明日じゃないでしょうね」

 

「その・・・・まさかで」

 

琴理は額に手を当ててため息を吐いた。

 

「(どうするドラゴン?)」

 

≪忘れたか脳足りんの水虫。運良くうってつけのリングが手に入っただろうが?≫

 

「あっそうか!」

 

ドラゴンの罵倒を聞き流した士道は、先ほど輪島から受け取ったリングを取り出して琴理に説明した。

 




次回、『オリジナルリング・アバター』の能力がわかります。
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