デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
駅ビルの屋上にたどり着いた士道の目線の先には、ゆったりとしたローブを身に纏った妖しい雰囲気の少女が、冷徹な眼差しで追ってきた士道に視線を向ける。
「やはり来たか、指輪の魔法使い」
「っ!」
その呼び方は、魔獣ファントムが士道を指して言う名前。
士道は息を飲み、浮遊カメラで状況を見ている〈フラクシナス〉の琴理も目を鋭くし、クルー達も息を飲む(ただ神無月だけは、「あぁ~、なんて鋭くて冷たくて素敵な視線なのでしょう~。これで踏んでくれたり罵倒してくれたらもう最高ですぅ~」と、身体をくねらせながら気持ち悪く言って、琴理がまたもや、黒服の機関員に神無月を連行させた) 。
「俺をそう呼ぶって事は、お前はやっぱり、ファントムかっ!?」
「フン。一応自己紹介をしてやろう。私は『ファントム』、『メデューサ』・・・・!」
そう言って、目の前の少女の身体が変貌した。
紫色の体色。
口元は人間の女性と同じだが、眼にあたる部分がゴーグルの形状。
頭髪はまるで蛇のようになっており、うねるように動いた。
まさに神話やお伽噺に出てくる怪物、メデューサのような姿をしたファントム、『メデューサファントム』だ。
「っっ!!? お、お前が、メデューサっ!?」
≪コイツが、上位存在か・・・・!?≫
その名前に、士道とドラゴンは驚愕する。その名は以前、十香と初めて出会った日に遭遇した『ミノタウロスファントム』が口走った、“十香達精霊を絶望させ、強大なファントムを生み出させよと、命じている上位存在の名前だったからだ”。
《いきなりボスキャラが登場するだなんて・・・・まさか、狂三も『ゲート』なのかしら?》
「っ! おいメデューサ、お前がここにいるって事は、狂三を絶望させてファントムにするつもりか!?」
[ドライバーオン プリーズ]
すでに分身体である『アバター士道』達を消し(十香と折紙にはトイレと言って離れた)、分身体を構成していた魔力も戻っているので、『ウィザードライバー』を起動させた。
しかしメデューサは、士道が何を言っているのか分からないのか、一瞬、首を傾げる。
『・・・・貴様、まさか知らないのか?』
「何がだっ?」
士道がメデューサを睨み、『フレイムスタイルリング』を構える。
が、メデューサは身体を震わせ、口元に手を置いた、あたかも笑いを堪えるような仕草でーーー。
『知らないのか・・・・! あの精霊が、〈ナイトメア〉が、どんな精霊なのかを・・・・!!』
メデューサは滑稽な存在を嘲笑うかのような声で、士道を見ているようだった。
「何がそんなに可笑しいんだよっ!?」
明らかに馬鹿にしたような、見下したような態度で自分をせせら笑うメデューサに、士道は若干の苛立ちを込めてメデューサに叫ぶが、メデューサは笑いを堪えながら士道では向き直る。
「フフフ、まさか、〈ナイトメア〉と指輪の魔法使いが、手を結んだのではないかと、偵察がてら見に来たのだが、とんだ杞憂だったか、ハハハハ・・・・」
「っ! どういう事だ??」
「フゥ、指輪の魔法使い、お前は何も知らないようだな、識別名〈ナイトメア〉の事を・・・・」
「〈ナイトメア〉・・・・? 狂三の事か??」
≪ナイトメア・・・・悪夢?≫
士道が聞き返すが、メデューサは変化を解いて人間の姿に戻った。
「何?」
何のつもりかと、士道が問おうとするが、ミサに戻ったメデューサは、士道を無視して虚空を見つめる。
「(フェニックス、撤退だ)」
《ああっ!? 何でだよ?!》
「(〈ナイトメア〉の目的は分からんが、指輪の魔法使いがどんな存在か粗方理解した。これ以上こんな愚物に時間を費やす価値など無い)」
《ちっ!・・・・分かったよっ!!》
メデューサ、ミサはフェニックスこと、ユウゴにテレパシーで交信し、この場から去るように通達した。
交信を終えるとミサの姿で、士道を冷徹に、侮蔑の眼差しで見下しながら嘲笑する。
「フッ、このような無知な魔法使いなど、我々が直接手を下すまでも無い。相手にするだけ無駄だ」
「何だとっ!?」
今度は完全に自分を嘲弄しているメデューサの物言いに、士道は腹を立てるが、ミサは士道を完全に眼中に入れていないように、背中を向けてその場を去ろうとした。
「待てっ!!」
《士道、待ちなさい》
「なんだよ琴理っ!」
《狂三が移動したわ。ファントムの方も戦う気は無いようだし、ここは争わない方が良いわね》
「でもよっ!」
《優勢順位を間違えないで! 私達の目的は狂三の力を封印することよ! もし彼女が『ゲート』だとしたら、1人にさせておく方がかえって危険だわ、戻りなさい》
「くっ・・・・!!」
士道はすでにこの場から消えたメデューサの背中を睨む。
「(何も知らないだと、知っているさ! 精霊達を守る為にも、狂三は絶対に封印して見せるっ!)」
このすぐ後、士道は今自分が抱いた『決意』が音を立てて砕ける事を、今はまだ知らない。
≪・・・・・・・・・・・・まさか、あの女は≫
ただドラゴンだけは、メデューサが言った【〈ナイトメア〉がどんな精霊なのか】と言う言葉から、狂三がどんな精霊なのか、おおよその検討をつけていた。
ー狂三sideー
駅ビルから公園に移動した狂三とユウゴは戦いを始めようとするが、突然ユウゴが不機嫌そうにこの場を去った。
とんだ肩透かしを食らった気分の狂三は公園のベンチに腰かけて、小さく息を吐く。
「ふぅ・・・・フェニックスさんが戦わずに帰るだなんて、メデューサさんが何か命令でもしたのでしょうか?」
狂三はフェニックスの行動を不審と思い手の平の上に顎を置いて、フフ、と微笑んだ。
「・・・・まあ、でも、良いですわ」
メデューサとフェニックスとの遭遇は想定外だが、狂三にとっては些細な問題であり、全ては過程に過ぎず、道程に過ぎない。
「どうせ最後は、士道さんとドラゴンさん、あのお二方は、わたくしのものになるんですもの」
人差し指でトントン、と頬を叩きながら、適当な鼻歌を口ずさむ。
ふと目を閉じると、自然と士道の顔が浮かんだ。
日常で見るウブで純な少年の顔、識別名〈ハーミット〉を狙うファントム、ヘルハウンドと戦っていた時に見せた凛々しい顔、その顔を思い浮かんだ。
もしかしたらこの感情は、人間で言うところの『恋』にあたるのかもしれなかった。
士道の事を知って以来、寝ても覚めても彼の事が頭にちらつく。
もっと彼の事を知りたい。
彼の趣味。
彼の思想。
彼の力。
彼の信念。
彼のーーー味。
「ーーーふふ」
狂三はさらに笑みを濃くし、その場から立ち上がり、んん、と小さく伸びをすると、妄想で火照った身体を静めようと、冷たいものが飲みたくなり、来がけの道にあった自動販売機があったはずなので、軽い足取りで公園を横切っていった。
「・・・・?」
と、公園を抜けて路地に出ると、耳に、せっかくの良い気分を害する不快な声と音を聞く。
「・・・・・・・・」
狂三は無言で路地裏に奥に歩を進めると、奥まった場所なある袋小路にたどり着くと、四人の男性が、いずれも銃器、おそらくモデルガンで、生まれて間もない仔猫を、おそらく改造モデルガンの試射か、低レベルなストレス発散か、まあそんな所だろうと、狂三はスッと目を細めた。
「・・・・あらあら」
四人の男性が狂三の姿を睨み付けると、眉を動かし、絶世の美少女と言っても良い狂三に馴れ馴れしく、それでいて下卑た笑みを浮かべ、狂三に近づいた。
狂三も、男性達に向かって、凄絶な笑みを浮かべた。
ー十香sideー
「むう・・・・シドーはどこへ消えたのだ・・・・」
十香は眉をひそめながら、首を左右に振って辺りを見回した。辺りにはたくさんの人に溢れており、士道の姿は見受けられない。
先ほど『はんぐり~』でドーナッツを大量に購入して、二人でベンチで食べようとしたら、席を外した士道が心配になり、後をつけて見たのだが、ひとけのない建物の裏手に入り込んだ所で、士道の姿が忽然と消えてしまったのである。
「むう・・・・」
十香はドーナッツが入った紙袋を握る手に力が入る。
せっかくのデートだというのに、士道がいなくなってしまった。
士道とのデートはとても楽しく、一緒に歩き、一瞬に喋り、それだけで本当に、時間を忘れてしまうような感覚を得た。
でも、いやだからこそ、士道がいなくなってしまった後の寂しさは、より強くなってしまうのだ。と、考え事をしていたからだろうか、十香は向こう側から歩いてきた人とぶつかってしまう。
「むぉ・・・・っ!」
その場で尻餅を突いてしまった十香は、お尻をさすりながら立ち上がった。
「す、すまん。急いでいたのだ」
「大丈夫。こちらも不注意だった」
十香が謝意を述べると、ぶつかった相手も抑揚のない声で返してきた。
「(ムゥ? この聞き覚えのある声は?)」
訝しげに眉をひそめて顔を上げると、一番見たくない顔が、そこにあった。
「と・・・・、鳶一折紙!?」
「・・・・っ、夜刀神十香っ」
そこで折紙も気づいたのだろう。十香の叫びと同時に、忌々し気に言ってきた。
「なぜアナタがこんなところに」
「そ、それはこっちの台詞だ! 何をしに来た!」
「貴女に話す義務はない」
「なんーーー」
言い返そうとするが、今は折紙に構っている場合ではないので、思い直した。
「・・・・まあいい。私は今忙しい。貴様を相手にしている暇は無いのだ」
「そう。私も今忙しい」
「ふん、何をしているのか知らんが・・・・」
「士道を捜さなければならない」
「・・・・なんだと?」
折紙の口から出た名前に、十香は眉をひそめた。
「待て。シドーは私とデェトしている。なぜ貴様がちょっかいを出してくるのだ?」
「そんな筈はない。彼は今日、私とデートしている」
「な・・・・っ、なんだと!? 嘘をつくな!」
「嘘ではない。貴女こそ、妄想を垂れ流すのはやめるべき」
「も、妄想などではない! 私は今日、ちゃんとシドーと水族館に来て、一緒にドォナッツを買ったのだ!」
「そのシドーと言うのは、犬? 人形?」
「人間のシドーに決まっているだろうっ!」
「・・・・・・・・」
十香が言うと、折紙はしばしの間思考を巡らせる仕草を見せ、やがて、何かに気づいたように小さく顔を上げた。
「まさか」
言って、十香を置いてその場を歩き出す。
「ちょ、ちょっと待て! 話は終わってないぞ! どういう事だ!」
十香は、折紙の後を追っていった。
ー士道sideー
「はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ、はぁ・・・・っ、」
士道は〈フラクシナス〉からの連絡で、狂三が駅ビル近くの公園にいる事を教えてられていた。
狂三が先ほどまでいた公園にたどり着いた。
「あ、れ・・・・」
《どうしたの、士道》
「や・・・・狂三がいないんだが」
連絡があったベンチには、狂三の姿がなかった。
《え? ちょっとカメラ班、狂三の動きはどうなってるの?》
《え、映像が途絶えています。カメラに何かがあったのかと・・・・》
《・・・・なんですって?》
と、琴理が言った瞬間。
《司令! 微弱ですが、付近に霊波反応が・・・・!》
不意にインカムの向こうから、男性とおぼしき別のクルーの声が響いた。
《どこ?》
《公園東出口の路地裏です!この反応はーーー間違いありません、時崎狂三です!》
「・・・・っ!?」
士道は肩を揺らしてバッと顔を上、公園の東出口の方を見やった。
『・・・・ふむ。何かあったのかしら。士道、向かってみてくれる?一応、変身リングは装備しておいて。何が起こるか分からないわ』
「あ、ああ・・・・!」
≪・・・・・・・・≫
不穏な言葉に緊張感が走り、ドラゴンが全身から攻撃的な威圧感を放ち、士道は公園を横切った。。
〈フラクシナス〉からの誘導に従い、自動販売機の脇を通って、狭い路地を走っていく。
そしてーーー。
「ーーーは?」
≪・・・・・・・・≫
目的の場所に着いた瞬間。
士道は、呆然と目を見開き、その場に立ち尽くし、ドラゴンは目を鋭くした。
視界を埋め尽くしたのはーーーーー赤い色だった。
灰色の塀や地面の上に、夥しい量の赤がぶち撒けられていた。
そして所々に、歪な形をした大きな塊が三つ、小島のように浮かんでいた。
あまりに馴染みないその光景に、士道は一瞬、状況が理解できなかった。
否ーーー一瞬を超え、数瞬を超え、数秒を超え。
それが何かを段々と推測し始めながらも、しかし脳内はそのおぞましい現実を拒絶しようとした。
だって、こんな事実、有り得るはずがない。
こんな街中で。
こんな日常の中で。
ーーー人が、死んでいるだなんて。
「う、うあ、あぁあ・・・・うわぁぁぁぁぁあああああぁぁぁッ!!??」
その恐ろしい事実を、士道の脳は拒絶を超えて、狂ったような、悲鳴染みた叫び声を発した。
《士道!落ち着きなさい、士道!》
「ああっ! あぁっ!! あぁぁあああああああああああああッ!?」
琴里の声が聞こえたが、そんなもの全く意味を成さなかった。
脳が事実を認識した瞬間、士道は辺りに漂う異様な臭気が鼻腔に入り、途方も無い嘔吐感を覚えた。胃袋から胃の中からせり上がってくる感覚に抗うために、思わず口元を覆う。
「・・・・っ、う・・・・っ」
≪・・・・・・・・この現状は?≫
「ーーーあら?」
必死に嘔吐感に抗う士道と違い、ドラゴンは士道の体内から、この惨状を冷静に分析していた。
が、鈴を転がすような声に、視線を上げる。その、赤い海の上に、黒い少女が立っていた。
「・・・・士道さん。もう来てしまいましたの?」
赤と黒の霊装を纏い、細緻な装飾が施された古式の短銃を握っていた時崎狂三が、振り返りながら士道に向かって言ってきた。
とーーーそこで士道はもう一つの事柄に気づく。
路地裏の奥に、男が1人、全身をガタガタと震わせながらへたり込んでいたのだ。
若い男である。なぜか腹部に、血で同心円が三つ描かれており、まるで的当てのようだった。
「ひーーーッ、ひーーーッ。た・・・・ッ、助け・・・・く、れ・・・・ッ! なん・・・・、こいつ・・・・、化物・・・・ッ!!」
男は今にも死んでしまいそうな呼吸をしながら、士道に懇願するように目を向ける。
「あらあら」
狂三は顔を男の方に戻すと、手に握った銃を向けた。
≪さっさと動け、見殺しにするつもりか?≫
「ッ!やめろ、狂三ッ!!」
[フレイム プリーズ。ヒー! ヒー! ヒーヒー、ヒィー!!]
それが何を意味するのか察していたドラゴンは、足がすくんでいた士道に呟くと、士道は、震える足を動かして、狂三の方へと向かい変身し、『ウィザーソードガン ソードモード』の峰で狂三の構えた銃を叩いた。
「あらあら、駄ァ目ですわよ士道さん。ーーー覚悟も決めていないのに、ただ闇雲に向かっては。ふふふ」
「ッ・・・・!?」
その微笑に、仮面越しで士道は恐怖を覚えた。狂三がクスクスと笑い混じりにそう言う。
それはいつものような可愛らしい微笑などではない。聞いているだけで歯の根が鳴るような、不気味な笑い声に士道は戦慄する。
「何かを殺そうと言うのに、自分は殺される覚悟が無いだなんて、おかしいと思いませんこと? 命に銃や剣を向けると言うのは、こういうことですのよ?」
「・・・・!!」
≪(ま、確かにその通りだな。殺して良いのは、殺される覚悟のある者だけ。覚悟も無く殺しているのは、ただの下衆だ)≫
士道は狂三の言葉になにも言えず、力無く両膝を地面に付き、戦意が喪失したのか、変身も解除された。
しかし、ドラゴンは『血の池の中に落ちているモデルガン』と、『銃で撃たれたような傷を付けた仔猫』を見て何かを察した。
「では・・・・」
「・・・・、や、やめ・・・・」
息も絶え絶えの調子の男が命乞いをしようとするが、狂三は躊躇も逡巡も無く、男へ向けて銃の引き金を抜いた。
瞬間、銃口から影を濃く固めたような漆黒の銃弾が、真っ黒い軌跡を描き、男の腹に描かれていた的の中央に吸い込まれていった。
「ひぐーーーッ」
男の身体がビクンと跳ねる。それきり、男は何も声を発さなくなった。
「100点、ですわね」
短く息を吐き、銃をその場に落とすと、銃は狂三の影の中に消えた。
≪(あの銃、まさかあの銃が、ヤツの天使か?)≫
戦意喪失した士道と違い、ドラゴンはただただ冷静に状況と狂三の能力を分析していた。
「さて・・・・お待たせしましたわ士道さん。恥ずかしいところを見られてしまいましたわね」
狂三が、笑いながら士道へと近づいてくる。
《ーーー道! 士道! 逃げなさい! すぐに!》
「っ・・・・!」
そこで士道は、ずっと琴里がインカムから叫びを上げている事に気づいた。どうにか立ち上がると、ガクガクと震える足を殴って制して逃げようとする。
しかし、もはや手遅れだった。
「うふふ、駄ァ・・・・目、ですわよ」
「うわ・・・・っ!?」
後方から狂三の声が響いてかと思うと、士道は急に足を取られ、地面に身体を叩きつけられるように転げて、不意にの事で、頭を強かに打ち付けた。
「つ・・・・ッ! な、なんだ・・・・これ・・・・ッ!」
目の前に火花が散るかのような鈍痛で顔をしかめる。だがそれどころではない。なんとか逃げようとするが、右足と指輪を付けた右手が何者かに拘束され、その場から動けない。
≪まさか、〈ハーミット〉が『氷雪を操る能力』ならば、この女は、『影を操る能力』なのか?≫
仰向けになり、足をばたつかせ、左手で何とか振り解こうとするが、見た目に似合わぬ凄まじい力で手首と足首を締め付けられ、逃れる事ができなかった。
「うふふ、ふふふ、捕まえましたわ士道さん。いえ、先ほどの姿、識別名〈仮面ライダー〉で、『指輪の魔法使いのウィザード』・・・・・・・〈仮面ライダーウィザード〉、と呼んだ方がいいでしょうか?」
言ってニッコリと笑い、狂三がゆっくりと士道の面前にまで迫り、傍らに膝を付いて、士道に覆い被さるように身を寄せる。
「・・・・っ」
心臓が締め付けられたように痛む。だがそれは、狂三の美しい貌と庇護欲を引き立たさせる雰囲気に反した大胆な行動によるものなどではなくーーー純粋な、恐怖からだった。
そう。士道は人間として、魔法使い<ウィザード>として、今初めてーーー狂三に、精霊に恐怖していた。
世界を殺す災厄。人類の天敵にして仇敵。
言葉の上だけなら、何度も耳にしていたその言葉。
飽きるほどに折紙が繰り返していたはずのその台詞。
それが今、初めて、生々しい匂いと実感となって、士道の脳髄へと染み込んできた。
これまで士道は、精霊達は悪くないと訴えてきたが、士道は自分が如何に“無知”だったのかを実感した。
「ーーーああ、ああ、失敗しましたわ。失敗しましたわ。もっと早く片を付けておくべきでしたわ。ーーーもう少し、士道さんとのデートを楽しみたかったのですけれど」
ぴと、士道の両頬を包み込んで、狂三が手を這わせてくる。
「・・・・っ、・・・・っ」
逃げようとした。抵抗しようとした。叫び声を上げようとした。
でも、できなかった。身体は痙攣し、喉からは掠れた息が漏れるだけだった。
「(ドラゴン、た、助け・・・・!)」
≪・・・・・・・・・・・・≫
「(ドラゴン・・・・??)」
士道が何とか体内のドラゴンに助けを求めるが、ドラゴンはまるで、“失望したような目線で士道を見ている感覚があり”、なにもしようとしなかった。
狂三が、笑みを浮かべながら士道に顔を近づけてくる。
しかしそれはキスと言うより、まさに首筋に噛み付こうとしているようでーーー。
「っ?・・・・この感覚、まさかドラゴンさん、あなたは・・・・」
「・・・・っ、え・・・・?」
狂三が顔をピタリと止めると、士道をジッと見つめていた。イヤ、正確に言うとおそらく、士道の体内のドラゴンを見据えているのだろう。
「きひ、きひひひ、なぁるほどぉ。ドラゴンさん、貴方が士道さんに協力しているのは、そう言う事だったのですわね?」
「・・・・???」
狂三がニンマリと口角を上げて、小さく口を開ける。
と、次の瞬間。
「・・・・っ、え・・・・?」
士道の喉からようやく声が出た。
「ーーーーーーっ」
狂三の口が士道に触れるかどうかの所で、短い息を伴って、金色の光と共に、狂三の身体が軽々と後方へ吹き飛んだ。
コンクリートの塀に華奢な肢体が叩き付けられ、細かなヒビが入る。
「なーーー」
士道は何が起きたか分からず、呆然と目を見開いた。
「一体、これはーーー」
「無事ですか、兄様」
「は・・・・?」
どうにか状況を理解しようと思考を巡らせる士道の目の前に、黒と金の仮面の戦士が舞い降り、士道は間の抜けた声を絞り出した。
そこにいたのは、昨日士道の目の前に現れたもう1人の魔法使い。
「真、那・・・・?」
「はい。間一髪でした。大事はねーですか?」
士道の実妹と名乗る少女、崇宮真那が変身した魔法使い、『ビースト』だった。