デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
真那が変身する魔法使い、『ビースト』が『ダイスサーベル』を狂三に突きつけるような姿勢で、狂三を仮面越しに睨んでいた。
「真、那・・・・?」
「はい。間一髪でした。大事はねーですか?」
士道が掠れた声で名前を呼ぶと、真那は仮面越しだが視線を士道に向けて頷いて、士道の身を心配するように声をかける。
「あ、ああ・・・・」
「・・・・ああ・・・・そりゃ驚きやがりますよね。何と言うか、ちょっとワケありでして」
呆然と声を発する士道に真那はどう受け取ったのか、気まずそうに後頭部をかく。
≪真那。奴が動くぞ≫
ライオンキマイラの言葉で真那は視線を狂三に戻して、みぎてのリングを変えた。
「おっと、まあ、話は後です」
真那が言うと同時に、狂三がユラリと立ち上がった。
「あらあら・・・・私と士道さんの逢瀬を邪魔するだなんて、マナー違反が過ぎませんこと? ケダモノ魔法使いの真那さん?」
「うるせーです。人の兄様を狙いやがるだなんて、どんな了見ですか。この陰険陰湿精霊」
真那が言うと、狂三は驚いたように目を見開く。
「真那さんと士道さんはご兄妹でいらっしゃいますの?」
「・・・・ふん、貴様には関係ねーです」
真那は吐き捨てるように言うと、『赤い牛が刻まれた四角いリング』をベルトの窪みに差し込んだ。
[バッファ ゴー! バ、バ、バババ、バッファ!!]
音声が響くと、真那の右肩に小さな赤い魔法陣が展開され、真那の身体を通過すると、真那(ビースト)の右肩に、バッファキマイラの頭部を付けたショルダーアーマーと赤いマント、『バッファマント』が装備された。
「とっととくたばりやがってください、〈ナイトメア〉」
真那は右肩を突き出し、狂三に向かって猛スピードで突進し、狂三にショルダータックルを繰り出そうとする。
まさに瞬きの間の出来事。しかし狂三は身を捻ると、真那の突進を華麗にかわして見せた。
「うふふ、まるで闘牛士のようですわね? 危ないですわ」
「ーーーち」
真那は鬱陶し気に舌打ちすると、ダイスサーベルの正方形の部分を転がす。
「(なんだあれ? サイコロ?)」
士道が困惑していると、真那はサイコロのように回転する正方形を、『バッファリング』を押し込んだ。
[3<スリー>、バッファ! セイバーストライク!!]
サイコロのような正方形が3の目が出ると、真那はダイスサーベルを狂三に向かって突き出し。
『『『モォオオオオ~~!!!』』』
すると、エネルギー体の赤いバッファローが三体、狂三に向かって突撃しようと突き進む!
「アラ、アラアラ、危ないですわね」
狂三がトン、とバッファローの頭上を跳んで回避するがーーーーーー。
「ぎゅ・・・・ッ」
真那は狂三が回避するのを見越して、跳んだ狂三の両足と腹部にダイスサーベルから放たれた光弾が貫いた。
狂三が奇妙な悲鳴を漏らし、着地に失敗して崩れ落ちた。ドクドクと、赤い血が広がる。
「・・・・っ」
あまりに凄惨な光景に、士道は眉をひそめ、ウィザードライバーを起動させる事すら忘れた。
「手間をかけさせるんじゃねーです。化物風情が」
真那は冷淡に吐き捨てると、バッファマントの角を突き立てるように構えて、『爪痕が刻まれたリング』、『クラッシュリング』をベルトに差し込んだ。
[バッファ! ビーストクラッシュ! ゴー! ゴー!!]
真那の身体に赤い魔力が立ち上ぼり、バッファマントの角に集まり、バッファの頭部の瞳が煌めいた。
「ーーーーーーっ」
その時、士道は直感して、息を詰まらせた。これまでの戦闘の経験が叫ぶ。
真那は、これで狂三を仕止めるつもりだと。
「真、那・・・・ッ! 駄・・・・目だ! 殺しちゃ・・・・!」
士道が言うと、真那は不思議そうに首を傾げるが、すぐにかぶりを振った。
「・・・・そう言えばこの女、兄様のクラスに人間として転校してきやがったのでしたね。・・・・兄様。詳しい事は言えねーですが、この女の事は忘れやがってください。この女は人間ではありません。生きていてはいけねー存在なのです」
「・・・・ッ! そういう問題じゃない! やめろ! やめてくれ・・・・ッ!」
士道が懇願すると、狂三が喉をヒュウヒュウと、掠れるような息を漏らしながら、消え入りそうな声を発する。
「・・・・ふ、ふ・・・・やっぱ、り、士道さん、は、優しい・・・・お方」
「兄様をタブらかすんじゃねーですよ・・・・!」
そう言った真那、ビーストの前方に『赤いビーストの魔法陣』が展開され、ビーストが魔法陣に突っ込むと、赤いバッファローのオーラを纏って、上空に急上昇すると、狂三が倒れている場所目掛けて、隕石のように落下する。
『バッファ・アサルト<突撃>クラッシュ』
ドゴォオオオオオオオオオオンッ!!!
「うわぁああああっ!」
激しい音と衝撃波で士道の身体を少し吹き飛び、尻餅をついた。
煙が晴れると、狂三の身体は小さなクレーターの中央に、物言わぬ屍となって倒れていた。
「ふぅ・・・・」
真那、ビーストが軽く首を回すと、右肩に装備されたバッファマントが消えた。
「なん・・・・で」
≪・・・・・・・・≫
そんな真那の背に、士道は震える声を投げ、ドラゴンは静かに状況を見据えていた。
真那は小さく息を吐きながら士道に向き直り、足を進めてくる。
[キマイライズ! ゴー!!]
と、真那が変身を解除し、普通の服装に戻り、真那の身体の大きさ位になったビーストキマイラの幻影を召喚した。
「知った顔が死ぬのは少しショックかも知れねーですが、兄様、あの女を殺さなければ、殺されていたのは兄様ですよ」
「・・・・・・・・」
真那に“認めたくなかった現実”を言われて、言葉を失う士道。
「悪い事は言わねーですから、今日の事は、悪い夢だとでも思って、早目に忘れやがってください。あの女の死に一々心を痛めては駄目です。“アレ”は“死んで当然”の、“存在してはいけないモノ”なのです」
≪≪≪≪≪(コクコク)≫≫≫≫≫
真那の言葉にキマイラビースト達も頷き、士道は思わずきつく拳を握り、唇を噛む。
「っ、ASTの言い分も分かる・・・・! 今助けてもらったのにも礼を言う! でも・・・・でもな、精霊だからって、そんな言い方は・・・・」
士道は現実だと認めたくないように、こんなのイヤだと喚きそうになるのを堪えて言うが、真那は怪訝そうに眉根を寄せ、キマイラ達の目が鋭くなる。
「・・・・精霊の事を知っている? 兄様は、どこで精霊の事を?」
「っ、・・・・」
士道は微かに眉を動かした。そう言えば、真那は士道が識別名〈仮面ライダー〉である事や、精霊やASTの事を知っている事を知らないのだ。
しかし、真那は数秒の後、何やら納得したように腕組みした。
「・・・・さては、鳶一一曹ですね。まったくあの方は・・・・兄様には甘々なんですから」
真那はヤレヤレと息を吐いた。どうやら折紙の言った士道の恋人発言が、上手く功を奏したようだ。
「でもまあ、それなら話がはえーです。どこまで知っているかは存じねーですが、つまり、そういうことです」
真那が何の感慨も持たずに言ってくる。
そんな真那の様子に、士道は怒りよりも先に、戦慄を感じてしまった。
「なんで・・・・お前は、そこまで平然としていられるんだよ?! お前は、今、人・・・・を、」
その言葉を発するのを躊躇い、喉が痛んだが、士道は無理矢理発音する。
「人を・・・・殺し、殺したんだぞ・・・・ッ!」
「人ではねーです。精霊です」
「それでもだ・・・・! なんで、そんなにあっさりとーーーー」
「慣れていやがりますから」
「・・・・っ」
そう言った真那の言葉があまりに冷たくて。士道は、息を詰まらせた。
「〈ナイトメア〉ーーー時崎狂三は、精霊の中でも特別です」
「特別・・・・?」
「ええ。“死なね”ーんですよ。何度殺しても、どんな方法で何度も殺しても。あの女は、何も無かったかのように、必ずまたどこかに出現して、何度も人を殺しやがるんです」
「・・・・っ!?な、なんだよ、それ・・・・」
≪(なるほど、何度も殺しても何度も甦り、人間を殺し続ける精霊。まさに『悪夢』、『ナイトメア』だな)≫
士道とドラゴンはその説明ですぐ腑に落ちた。二人が昨日見た映像と、全て合致したからだ。
≪言葉の通りだ。それ以上の説明は真那も困ってしまうぞ≫
キマイラ(ライオン)が真那を庇うように真那の隣に立つ。
「ーーーだから。私は殺し続けてるんです。あの女を。ナイトメアを。時崎狂三を。それだけが、私の存在理由。それが、私の生きる目的」
疲れたように、真那が続ける。士道は顔を歪めた。
「違う・・・・ッ!」
「え?」
「それは、慣れてるって言うんじゃない。心が、磨り減ってるだけだッ!」
士道が言うと、真那が小さく眉を揺らし、キマイラビースト達が小さく唸り声を上げた。
「何を・・・・言ってやがるんですか、兄様?」
「もう、止めてくれ、真那・・・・お前は、俺の妹なんだろ? なら・・・・一つだけでいい。俺の頼みを聞いてくれ・・・・っ!」
士道が真那に近づこうとすると、キマイラが士道の前に立ちはだかるように出て、牙を抜き出しにして威嚇する。
≪貴様に、真那の何が分かる?! ぽっと出の、平和ボケに生きている兄貴が! ただ腰を抜かして怯えているだけの臆病者が! 真那の何が分かるっ!?≫
「っ!」
≪あの〈ナイトメア〉が、どれだけの人間を殺してきたか知らず、綺麗事ばかりほざいてんじゃねぇっ!≫
≪それだけの強力な魔獣を押さえつけたんだから、どんな奴か少し期待してたけど・・・・≫
≪失望、なんだな≫
ファルコも敵意を剥き出しにし、カメレオンとバッファは士道に侮蔑の視線を送る。
≪皆、そんな事言っちゃ駄目よ。この『甘ちゃんの僕ちゃんお兄さん』が、惨めでかわいそうよ≫
庇っているようで、一番士道を貶しているドルフィン。
「・・・・でも、でもよ・・・・!」
士道は祈るように喉を絞る。
妄想でもなんでもない。心は負担をかけると磨り減り続けてーーー、それがずっと続くと、やがて人の心を失って、ついには元に戻らなくなるほど摩滅してしまうのだ。
ーーー母に捨てられた士道が、そうなりかけたように。ーーー敵意と殺意を向けられ続けた十香が、そうなりかけていたように。
「・・・・無理ですよ、兄様」
しかし真那は、自嘲気味に言った。
「〈ナイトメア〉が生き返りやがる限り、そして人を殺し続けやがる限り、私はあの女の生命を詰まねばならねーんです。でないとあの女はもっともっと、それこそ何百人と人の命を無慈悲に奪います。ーーー私にしか、『精霊を殺せる野獣の力』も持つ、私にしか、できねーんです」
「・・・・・・・・ッ」
ーーー違う。それだけじゃない。その力は、その魔法の力は、キマイラ達の力は、精霊を殺すための力じゃない。精霊に対する方法もそれだけじゃない。
が、士道がそれを口にするより早く、真那とキマイラが右上の方向を見据える。
「ーーーん、兄様。今日はここまでです。増援が近づいています。兄様がここにいては面倒な事になりやがります」
真那が半ば強引に士道を方向転換させて、背中を押す。
「っ、真那、お前は・・・・!」
「聞き分けがねーですね」
苦笑した真那は、指をピンと立てた。すると士道の身体がフワリと浮かんだ。
「なーーーこれは・・・・」
間違いない。これはASTが顕現装置<リアライザ>で展開する随意領域<テリトリー>だった。
真那はCR-ユニットを着装していないにも関わらず、随意領域<テリトリー>を展開したのである。
「また、会いましょう。今度は、もっと時間に余裕を持って」
「待ーーー」
言葉の途中で士道の身体は路地の外まで飛ばされ、優しく着地させられた。
「っ・・・・」
≪・・・・無駄な事はやめておけ≫
AST隊員がいようが関係なしに、路地に引き返そうとする士道だが、路地の入り口には随意領域<テリトリー>により見えない壁が張られ、先に進めない。きっと、真那の仕業だ。
「・・・・っ、クソっ、クソォォォォォォっ!!」
≪・・・・・・・・≫
士道はその場に膝を突くと、血が出んばかりに地面に拳を叩きつけ、ドラゴンは冷淡に士道を見据えるだけであった。
ー真那sideー
≪・・・・真那≫
≪真那・・・・≫
≪真那・・・・≫
≪真那・・・・≫
≪真那ちゃん・・・・≫
キマイラは真那にすり寄るように身を寄せた。
「・・・・あー」
士道を路地の外に移動させると、真那はクシャクシャと頭を掻きむしる。
「色々余計な事話しちまいやがりましたね。これでは鳶一一曹の事を言えないでやがりますな・・・・。でもなんででしょうかね、兄様には聞いて欲しかったでやがりますよ・・・・。こんなのルーチンワークでしかねーですのに」
≪我らはあの小僧に対して失望感を感じずには得られんわい≫
≪≪≪≪ウンウン≫≫≫≫
何も知らない奴が、何も分かっていない奴が、頭ごなしに精霊を殺した事を責める事が怒りに触れたのか、キマイラ達は士道に嫌悪感を抱いていた。
「皆、真那の大切な兄様でやがるのですから、そんな事言うでねーですよ・・・・おや?」
路地の奥で無惨に横たわった〈ナイトメア〉ーーー時崎狂三の遺体に視線を落とすと、どこからか小さな仔猫が後ろ足を引きずりながら、狂三の亡骸に寄り添う。
「ほら、こんな所にいると血で汚れちまいやがりますよ」
不思議に思い、膝を折って頭を撫でると、仔猫は小さな声でニャアと鳴く、真那が仔猫を抱き上げると、再度狂三の亡骸を見た。
「・・・・なんで、か」
士道が言った言葉を口にする。
「(そう言えばなんで、私は〈ナイトメア〉を殺し続けているのでやがりましょう? コイツは人を殺しまくる最悪の精霊で、私には〈ビースト〉の力と、顕現装置<リアライザ>を上手く扱える素質があって、だから私は、その力を皆の役に立てようと、した・・・・はず・・・・なの、だけれ、ど)・・・・つっ!」
≪≪≪≪≪真那(ちゃん)っ!??≫≫≫≫≫
不意に頭に鋭い痛みが走り顔をしかめる。記憶が曖昧で、よく思い出せない。
心配するキマイラ達を片手で制して、軽く頭を振って頭痛を追い払うようにした。
「ん・・・・?」
真那は、士道が狂三に襲われていたあたりの地面の下に、小さな機械のようななもの落ちているのを見つけ、拾い上げて眺める。
「これは、インカム・・・・ですかね?」
≪ふむ、耳に装着するタイプの小型通信機のようだな≫
「何でこんなものが・・・・?」
真那は首を捻ると、何とはなしにそれを右耳に近づけてみた。するとーーー。
《ーーー士道!応答しなさい、士道! 一旦〈フラクシナス〉で拾うわ! 移動して!》
「・・・・・・・・っ?」
どこかで聞いたような声が、真那の兄の名を呼んでいるのが聞こえてきた。
ー士道sideー
士道はフラフラと公園のベンチまで歩くと、どすん、と力無く腰を落とした。
「・・・・・・・・・・・・」
頭の中で、今さっき目の前で繰り広げられた光景がグルグルと渦巻いていた。
狂三が人を殺し、真那が狂三を殺す光景。
≪無様、ここに極まれり、だな≫
そんな士道に、体内のドラゴンが冷徹かつ冷淡に呼び掛けた。
≪頭ではわかっていただろう? 〈プリンセス〉に無表情女とて、2ヶ月前まであのような関係性だっただろう?≫
確かにそうだった。十香と折紙もそうだった。
≪〈プリンセス〉にその気が無く、もしも殺意を持っていれば、〈プリンセス〉も人を殺していた。無表情女に力が無かっただけ、力を持っていればあの女は躊躇い無く精霊を殺していた。お前の実妹と〈ナイトメア〉はまさに、“あり得た可能性”を、お前にとっては“最悪の可能性”を選択したあの二人だな≫
「(ドラゴン、お前は分かっていたのかよ? 狂三が、人を、殺していたって事を・・・・?)」
≪ふん。我は最初から、〈ナイトメア〉には警戒していただろうが? それに先ほどのメデューサの言葉で確信を得たのだ≫
「なんなんだよ・・・・そりゃあ・・・・っ!」
≪何だ? 全てが納得できないと言いたいのか? 〈ナイトメア〉が簡単に人を殺したのも、実妹が簡単に精霊を殺したのも、全部が納得できないと言いたいのか? とことん考え無しのマヌケだな貴様は。〈プリンセス〉は殺す気は無く、〈ハーミット〉はお優しい性質だったから、“殺し”を選択しなかっただけだ。精霊が自らを守る為に、“自衛のために人を殺した事がある精霊”、なんていないと高を括っていたのではないか? “都合の良い考えで思考停止していた”のではないか?≫
「っっ!?」
その通りだった。
頭のどこかで甘えていた。口先では危険と叫びながら、精霊は皆十香や四糸乃のように本当はいい奴に違いないって。都合の良い思考だけあった。ASTには、精霊を殺せる力なんて無いって傲りがあった。いざとなったら、自分が戦えばいいと、そう思い込んでいた・・・・!
≪いざ自分の手に負えない事態になり、覚悟も何も定まらず、どうしたら良いのか分からず、我にすら【助けてくれ】と命乞いをする。まったく、こんな情けない奴に封印されていると思うと、我は我自身に失望してしまうわ≫
「~~~~~~~~!!!」
士道は下唇を噛んで、唇を切ったのか血が流れた。“自分自身の情けなさ”や、“残酷過ぎる現実”に対する行き場の無い感情をぶつけるにはそれしかなかったからだ。
いざ目の前でその光景を目にした時。自分は動く事すらできなかったではないか。
「(何が【最後の希望になってやる】、だ・・・・! 結局俺は、魔法の力を手に入れて、皆を守れるって調子に乗って、天狗になって、いい気になっていただけの、ただのガキだったんだ・・・・!!)」
≪なんだ? ようやくその事に気づいたのか? それだけでも蟻の触角分くらいは成長したな。立派だぞ≫
おそらくドラゴンが自分を褒めたのは、コンビを組んで初めてだった。こんな形で、なんの感情も入っていない声で褒められても、逆に惨めな気持ちでいっぱいになって泣きたくなったが、士道は何とか持ちこたえた。
≪〈プリンセス〉には先ほど交信した。こっちは問題無いから安心しろ。また『ファントム』が現れてそれを退治するために離れた、と伝えておいた。後で適当に話を合わせてこい。無表情女の方は放っておいて良いだろうが、明日学校でフォローしておけ≫
「・・・・・・・」
≪ふん・・・・≫
すると士道は、奇妙な浮遊感に包まれるのを感じた。
「・・・・っ、これはーーー」
覚えがある。フラクシナスの転送装置だ。士道の視界は、人影の無い公園の一角から、フラクシナスの内部へと変貌していた。
「ーーー無事で何よりよ」
と、士道の背に、そんな声が掛けられる。振り向くと、そこには真紅の軍服を着た琴里が、難しい顔をして立っていた。
「・・・・琴里」
「まったく。何度も呼びかけたのだけれど?」
言われて士道は右耳に手をやり、力無く呟く。
「・・・・インカム、ねえや」
そこには、いつも任務中に付けていたインカムが無かった。どこかに落としてしまったらしい。
「・・・・考えられるとした、狂三に襲われたとき・・・・? じゃあさっきの声はーーー」
そこまで考えた琴理は怪我をしている士道を医務室に案内する。
十香と折紙の事を聞くと、ドラゴンと同じ事を琴理が言った。
「・・・・なあ」
道中、士道は琴理の背に声をかけた。
「何よ」
「俺の、俺達のしてることは、正しいんだよな・・・・?」
≪自分のやっている事の善悪を他人に問うている時点で、貴様はすでに間違っているぞ≫
琴理は歩みを止めると、キッと士道に目を向けた。
「それって、どういう意味?」
「・・・・俺は、精霊が・・・・自分の意思とは関係なく空間震を起こしてしまう存在が、理不尽に襲われるのが許せなくて、お前達に協力しているんだ」
「・・・・ええ、そうね」
「でも・・・・狂三は、人をーーー」
人を、殺していた。空間震ではなく、自分の手で。自分の意思で。
それがどうしようもなく、悲しくて、恐ろしかった。
「何が言いたいのよ」
「俺には・・・・無理だ・・・・」
士道はついに、その言葉を吐き出した。
「今まで上手くいってたのは、十香や四糸乃が偶然良い奴だったからなんだよ・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・≫
士道の心は徐々に、“絶望”が広がり始めた。今ドラゴンが行動を起こせば、士道の身体を引き裂く事は容易い。
しかし、ドラゴンは動かなかった。
「結局魔法の力を得ても、俺には、何もーーー」
そして士道が最後の言葉を止めた。ーーー正確には、止めさせられた。
琴理が士道の襟首を引っ張り、見事な平手打ちで士道の頬を叩いたのだ。
「え、あ・・・・」
「・・・・随分と根性が無くなったものね・・・・ッ」
呆然とする士道に、顔をしかめた琴理が言った。しかしそれは、今にも泣き出してしまいそうな表情のようであったが、士道には判別がつかなかった。
≪義妹のこの泣き出してしまいそうな顔、これはまさか・・・・≫
ただドラゴンだけは、以前から考えていた“推測”が、ほぼ“確信”へとかわった。
ーオリジナルリング『クラッシュビーストリング』ー
デザイン:獣の抉るような爪痕が五本。上から金色、橙色、青紫色、赤色、緑色となっている。
能力:マントを装備していなければライオンの、マントを装備していればそのマントのキマイラの力を使った必殺技が使える。
『ライオン・ファング<牙>クラッシュ』:マント非装備時に使用可能。
金色の魔力を右足に集め、金色の魔法陣を通過して、目標に向かって跳び蹴りか上段蹴りを炸裂させる。その際、ライオンキマイラの幻影が目標を噛み砕く姿が現れる。
『ファルコ・フライング<飛翔>クラッシュ』:ファルコマントを装備時に使用可能。
橙色の魔法陣を飛びながら通過して、ファルコのオーラを纏い、片翼だけ大きくなった翼で敵を切り裂く。
『ドルフィン・ダイブ<潜航>クラッシュ』:ドルフィンマントを装備時に使用可能。
青紫の魔法陣を通過して、ドルフィンのオーラを纏って空中を泳ぐように動き、尾びれで目標を潰す。
『バッファ・アサルト<突撃>クラッシュ』:バッファマントを装備時に使用可能。赤色の魔法陣を通過して、バッファのオーラを纏って目標に突撃する技。
『カメレオン・インビジブル<不可視>クラッシュ』:カメレオンマントを装備時に使用可能。
緑色の魔法陣を通過して、カメレオンのオーラを纏い身体を見えなくさせ、カメレオンの舌の連続攻撃、もしくは舌を目標に巻き付け、魔力を流して破壊する。
と、こんな所ですね。