デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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すみません。不死鳥との激突は次回にします。


悪夢は踊る

ー狂三sideー

 

時刻は9時10分。もう既に1限目の授業が始まる時刻だと言うのに、狂三は1人、来禅高校の屋上で妖しく笑いながらトン、トン、と軽快な足音を響かせ、踊るようにステップを踏んで、地面に円を描くようにクルクルと回る。

 

「もう少し、士道さんとの学校生活を楽しんでもよかったのですけれどーーー」

 

上空からその光景を見る者がいれば、その異常に気づいたかもしれない。

狂三が通った場所が、薄暗くなっているのであった。

そうまるで、狂三の軌跡から、影が消えないように。

 

「そろそろ、潮時ですわね」

 

そして、カッ、と踵を地面に突き立てた。

すると屋上を中心に薄暗い線で描かれた円が、ジワジワと面積を広げ、屋上の全域を覆い尽くし、校舎の外壁を伝い、校庭を侵食し、やがて学校を中心とする街の1区画を覆わんばかりに。

 

「ーーーきひひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

 

狂三は唇を歪んだ三日月の形にし、笑みを漏らす。

 

「ああ、ああ、士道さん、士道さん。愛しい愛しい士道さん。貴方はこれでも私を救うだなんて仰いまして? 私を助けると仰いまして? その魔獣、“ドラゴンさんの目論見”を知らずに、私の希望になると仰いまして??」

 

まるでこれから、円舞曲<ワルツ>が始まる事を告げるように、狂三は虚空を見上げて問いかけたーーー。

 

 

ーメデューサsideー

 

「メデューサ様~。アイツ何か始めるようですよ~?」

 

「そうか・・・・」

 

「んで、俺らも動くのかよ?」

 

「・・・・いや、少し時間を置く。相手はあの〈ナイトメア〉だ。戦力を整えておく・・・・」

 

ケットシーとフェニックスの問いに答えるメデューサの背後には、グールとインプの生み出す魔石が大量に置かれていた。

 

 

ー士道sideー

 

「ん・・・・?」

 

≪ぬ・・・・?≫

 

1限目・世界史の授業中、(亜衣麻衣美衣トリオから逃げきった)士道と、(我関せずの態度だった)ドラゴンは、ふっと窓の外に目をやると、辺りが暗くなった気がしたが、空に雲がかかったのかと思ったが、窓から見える空は快晴。雲なんて影も形も見えない。

 

「・・・・まさか」

 

ふと、狂三の方を見るが、狂三は、“1限目の授業の最初から真面目に授業を受けていた”。

 

「気にしすぎか・・・・」

 

≪・・・・・・・・・・≫

 

小さく息を吐き真面目に授業を受ける士道と違い、ドラゴンは狂三を険しい視線で睨んでいた。

 

 

ー琴理sideー

 

現在琴理は、天宮市の南端に位置する廃ビルの1つに訪れ、廃ビルの屋上に到着した。

別に学校を休んで廃墟探索に来たわけではない。こんな辺鄙な場所に来たのは理由があった。

 

「ーーーお待ちしていました、琴理さん」

 

先に屋上で待ち構えていた少女、真那が、琴理に声をかけてきた。

 

『キュァ~!』

 

「お疲れ様でやがりますよ。『グリフォン』」

 

真那は自分の近くに停空してきた、琴理を案内した鳥のようなプラモデルの頭を人差し指で撫でた。

そう。今朝琴理が家に戻ると、琴理の部屋の窓に、時刻と場所、そして真那の名前が書かれた手紙を、ガルーダ達、プラモンスター達と同じ姿をした緑色のプラモンスター、おそらく真那の使い魔であろうプラモンスター、名称を付けるなら『グリーングリフォン』が、手紙を持ってきて、そしてこの場所まで琴理を案内してきたのだ。

琴理は不機嫌そうな心地を隠すまでもなく、フンと鼻を鳴らした。

 

「・・・・まったく、何なのよここは。私を呼び出そうって言うんなら、美味しいお茶とケーキくらい用してからになさい」

 

「これは失敬。ーーーですが、お互いに人の目と耳はねー方が良いと思いやがりまして」

 

「・・・・ふん。それで、一体何の用だって言うの?」

 

「少し、お話がしたいと思いまして」

 

と、真那がポケットから取り出したものを琴理に向かって放り投げ、琴理は両手でキャッチした。

 

「これは・・・・」

 

琴理は眉をひそめた。それは〈ラタトスク〉が使用している超高感度インカム。昨日士道が無くしたものだ。

 

「ーーー〈ラタトスク機関〉」

 

「・・・・っ」

 

真那の口から出た言葉に、琴理はピクリと眉を動かす。

 

「噂には聞いていました。精霊を武力で殲滅するのではなく、対話によって懐柔する事を目的とした組織。ーーー初めて聞いたときは都市伝説かと思っていやがったのですが・・・・」

 

真那が、キッと琴理を睨み付ける。

 

「ーーーまさか、貴方と兄様が」

 

琴理はインカムをポケットにしまい、くわえていたチュッパチャップスの棒をピコピコと動かす。

 

「・・・・なるほど、昨日のあの通信は貴女の仕業だったわけね」

 

士道がインカムを紛失したと判明する前に、〈フラクシナス〉は妙な通信を受け取った。確かに士道の声ではあったが、琴理の名前や現在状況などを幾つか確認すると、急に回線が閉じ、それっきり何も聞こえなくなった。

琴理は真那に聞こえないが、油断していた自分自身に対して大きく舌打ちした。多分その時の返答で、真那は〈ラタトスク〉の実在を確信したのだ。

 

「随意領域<テリトリー>の中でなら声を変えるくらい造作もねーですから」

 

「・・・・そ。それで、何が目的? わざわざ私を呼び出したって事は、何か狙いがあるんでしょう?」

 

髪をかき上げて、不敵に目を細める琴理に、真那は視線を動かさないまま、唇を開く。

 

「ーーー私は、この件を上に報告するつもりはねーです」

 

「・・・・ふうん?」

 

「その代わり。兄様を今すぐに、〈ラタトスク〉から解放しやがってください」

 

真那の言葉に、琴理は眉をひそめた。

 

「どういうこと?」

 

「どういうことも何もねーです。ーーー琴理さん、なぜ貴女は、兄様にあんな危険な真似をさせていやがるのですか。顕現装置<リアライザ>はおろか、通常武器1つも持たせずに精霊と相対させやがるだなんて、とても正気の沙汰とは思えねーです」

 

「これから口説き落とそうって相手に、銃や剣を突きつけながら喋れって言うの? それじゃあ強姦魔と何も変わらないじゃない。もしかして貴女被虐快楽者<マゾヒスト>?」

 

琴理がそう言うと、真那は目つきをさらに鋭くし、語気を強めた。

 

「ふざけねーでください。貴女は兄様を何だと思っていやがるのですか。あの時私がいなかったら、今頃兄様は〈ナイトメア〉に殺されていやがりましたよ」

 

「・・・・・・・・」

 

これ以上の情報を提供してやる義理は無いと思い、琴理は口をつぐんだ。

だが真那は琴理の態度をどう受け取ったのか、奥歯を噛み締め、後を続ける。

 

「琴理さん。ーーーいえ、五河琴理。とても残念です。貴女は兄様の妹失格です。貴女のような人に、兄様は任せられねーです」

 

「・・・・っ」

 

琴理は頬をピクリと動かすと、チュッパチャップスの棒をピンと立てた。

 

「へえ、それで、私が妹失格だったらどうするって言うの?」

 

「私が兄様の身柄を引き受ける事も考えなければなりません」

 

[ドライバーオン!]

 

真那がビーストドライバーを起動させると、琴理は顔を歪めた。

 

「冗談じゃないわ。DEMみたいな悪徳企業に士道を預けろって言うの?」

 

「・・・・っ、なぜそれを」

 

「優秀な友人がいてね。情報を握っているのはお互い様ってこと」

 

琴理が不敵に言うと、真那はふうと息を吐いた。

 

「ーーーまあ、割れているのなら隠す必要もねーですね。そう、私は元々自衛官だった訳ではねーです。DEMインダストリー社から出向してくるに当たって、必要だったから適当な階級を得たに過ぎねーです。しかし、DEMが悪徳企業と言うのは聞き捨てならねーですね。彼処は記憶喪失の私を受け入れてくれて、存在理由と魔法の力を与えてくれやがりました。感謝してもしきれねーです」

 

「・・・・本気? 狂ってるとしか言いようがないわ」

 

「失礼な。何を言ってやがるのですか」

 

琴理はそこで真那の口ぶりに違和感を覚える。

 

「貴女、もしかして、知らないの・・・・? 自分の身体の事を」

 

「身体・・・・? それって、“キマイラ達の事”でやがりますか?」

 

キョトンとした様子で首を傾げる真那に、琴理は戦慄に唾液を飲み込む。

 

「・・・・っ、なんてこと」

 

まったく予想していなかった訳ではないが・・・・まさか令音の懸念通りであったことに、琴理は渋面を作って、真那に近づき、その肩を掴んだ。

 

「な、何をしやがるのですか?」

 

「・・・・悪い事は言わないわ。貴女こそDEMを抜けなさい。〈ラタトスク〉が面倒を見たっていいわ。だからーーー」

 

「はぁ・・・・? いきなり何を・・・・」

 

と、真那が眉をひそめて言いかけた瞬間、二人の携帯電話が同時に着信音を鳴った。

苛立たしげに顔をしかめてから、通話ボタンを押す。

 

「ーーー私よ。何?」

 

《し、司令! 来禅高校に凄まじい霊波反応が!》

 

「何ですって・・・・?」

 

チラッと真那を見ると、表情から真那も、同じ報告を受けているようだった。が、真那はすぐに廃ビルの上空を見上げた。

 

「ーーー琴理さん。すぐにこの場を離れた方が良いでやがりますよ」

 

「っ!」

 

琴理も上空を見上げると、『インプファントム』が廃ビルの空に群がっていた。

 

「コイツらは・・・・!」

 

「どうやらこの所、アンノウン、いえファントム退治をしていた私を抹殺に来たようです、ね! 変~身!!」

 

[セット! オープン! L! I! O! N! ライオーン!!]

 

ガァオオオオオオオオオオンンッ!!

 

真那は即座にビーストに変身すると、右手に『橙色の鳥が刻まれたリング』をドライバーの窪みに押し込んだ。

 

[ファルコ! ゴー! ファ、ファ、ファ! ファルコ!!]

 

右肩にファルコビーストの頭部と橙色のマントを靡かせて、ビーストは上空を飛翔し、ダイスサーベルでインプを数体切り裂く!

 

「琴理さん! 早く逃げやがってくださいっ!」

 

「(っ・・・・?)」

 

爆散したインプから、『ビーストの魔法陣』が現れると、“ビーストドライバーに吸収された”。

 

「・・・・あれは一体?」

 

気になる所だが、インプ達がビーストに狙いを集中している間に、琴理は急いで屋上から離れ、〈フラクシナス〉に連絡した。

 

 

ーメデューサsideー

 

これまで不明だったもう一人の魔法使いにインプ達を差し向けたミサは、ユウゴと黒人男性に指示を飛ばす。

 

「そろそろ始めるか。私はグールとインプを引き連れて学舎を囲みヤツが逃げられないようにする。フェニックス、ケットシー、お前達は〈ナイトメア〉を仕留めろ」

 

「あん? ヤツを絶望させないのか?」

 

『精霊の絶望から生まれるファントム』を狙う〈ワイズマン〉の指示に背くような事を言うメデューサに、フェニックスは訝し気に問うた。

 

「〈ナイトメア〉は危険性が高い。ヤツを絶望させるよりも、抹殺する方が得策と、〈ワイズマン〉に進言し、許しも得ている。フェニックス、〈ナイトメア〉を戦いたくないのか? それも、殺し合いで・・・・」

 

ミサがそう言うと、ユウゴは笑いを堪えるように身体を震わせ、フェニックスファントムへと変貌した。

 

『確かにな、ヤツとはマジで殺し合いをしてみてぇなぁっ! よぉ! 指輪の魔法使いも殺して良いよなぁっ!?』

 

「構わん。あの程度の雑魚など、ケットシーで十分だが。出来るか? ケットシー」

 

『ウィッス』

 

黒人男性はケットシーファントムに変貌し、フェニックスと共に、来禅高校に向かった。

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「・・・・よし」

 

時刻は16時30分。部活や下校する生徒達の声が響く中、士道は肺の中の空気を全て入れ替えるように、深く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

結局今日はあれきり、狂三と会話を交わせず、帰りのホームルームが終わると、狂三は士道に視線を送らず、スッと教室から出ていった。

 

《・・・・大丈夫かね、シン》

 

と、右耳に装着したインカムから、令音のやたら眠たげな声が聞こえた。

 

「はい、意外と・・・・落ち着いてます」

 

《・・・・それは何よりだ。しかし、十分に気をつけたまえ》

 

「ーーーはい」

 

ゴクリと唾液を飲み込む士道は疑問を覚えた。

 

「令音さん? そういえば琴理の声がしませんけど・・・・」

 

「・・・・ああ、琴理は少し席を外している」

 

「いや、席を外しているって、こんな大事な時に・・・・」

 

《・・・・それは琴理も重々承知している。だがそれを考慮した上で、こちらの方が作戦の成功率と判断したのさ。・・・・今は邪魔者の横槍が一番厄介だからね》

 

「は・・・・? ど、どういうイデェッ!!!」

 

令音にさらに聞こうとする士道の頭に、ドラゴンの尻尾がド突いた衝撃が走った。

 

≪しつこいぞ貴様は、ダンゴムシにも劣る脳ミソでいないヤツの事をグダグタガタガタと難癖つけていないで、〈ナイトメア〉に集中しろ。気を抜いてまた情けなくて惨めで無様な醜態をさらすつもりか?≫

 

「だからお前はな・・・・!!」

 

《シン。ドラゴンと喧嘩しているようだが、今は狂三の籠絡を優先してくれ》

 

「・・・・っ、そ、そうですね」

 

琴理の事は気になったが、確かに今は狂三以外の事を考えている余裕など無いはずだった。もう狂三は屋上で待っているだろう。

 

≪ぬぅっ?! 小僧!≫

 

「なっ!?」

 

ドラゴンに呼ばれ、士道も一瞬で辺りに襲った異変に、眉をひそめた。

具体的に何が起こったのか分からない。だが周囲がフッと暗くなったかと思った刹那、全身に途方もない倦怠感と虚脱感が襲った。

まるで空気が粘性を持ったかのように、重くドロッと手足に絡み付いた。

 

「こ、れ、は・・・・」

 

士道はその場に膝を突きそうになるのを何とか堪え、姿勢を保った。

周囲に残っていた生徒達が、次々と苦しげなうめき声を発し、その場に崩れ落ちていく、異様な光景だった。

士道は慌てて近くに倒れた女子生徒の肩を揺すると、気を失っていた。

 

「令音・・・・さん、これは・・・・!?」

 

《・・・・高校を中心とした一帯に、強力な霊波反応が確認された。この反応はーーー間違いない、狂三の仕業だ。広域結界・・・・範囲内にいる人間を衰弱させるもののようだ》

 

「な、何でそんな事を・・・・」

 

≪ヤツに直接聞くしかあるまい≫

 

《・・・・それは、本人に訊いた方が早いだろう》

 

ドラゴンと令音が正論を言う。士道はその場から立ち上がる。少し動きづらい気はするが、倒れてしまうほどではない。

 

「あれ・・・・そう言えば、俺は何で・・・・」

 

《・・・・忘れたのかね、シン。君には十香や四糸乃の霊力と、霊力と反発する魔力の塊であるドラゴンをその身に封印している。自覚症状は無いかもしれないが、君の身体は精霊の霊力の加護と魔獣の魔力の恩恵を受けているに等しい状態なんだ》

 

「霊力と魔力・・・・っ!」

 

士道が呟くように言うと、先ほど出てきたばかりの教室に戻り、扉を開くと、士道を待っていた十香が、まだ残っていた他の10名の生徒が気を失っており、そんな中、十香は軽く頭を押さえながら立っていた。

 

「十香っ!」

 

「おお、シドー・・・・」

 

力の大部分を封印されているとはいえ、やはり精霊。人間よりも耐性があるようだ。

 

「大丈夫か、十香!」

 

「うむ・・・・。だが、どうも身体が重い・・・・どうしたのだ、これは・・・・」

 

高熱にうなされているかのような調子でうめき、気だるそうに頭をゆらす。

 

《・・・・シン》

 

インカムから、令音の声が響いた。

 

「っ、十香、ここで休んでいろ。すぐに何とかしてやるからな・・・・!」

 

「シ、ドー・・・・?」

 

「大丈夫だ。俺が、助ける」

 

十香の頭を優しく撫でて、意を決して廊下を出て、屋上に向かい、すでに狂三によって破壊された屋上の扉を開けた。

 

「く・・・・」

 

屋上に出ても、ドロリとした空気は少しも晴れず、それどころか身体を襲う虚脱感が強くなった気になり、顔をしかめる。

左右に目をやり、フェンスに囲まれた殺風景な空間。

その中心に、彼女はいた。

 

「ーーーようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

フリルに飾られた霊装の裾をくっと摘まみ上げ、微かに足を縮めて見せた。

 

 

 

ー折紙sideー

 

「・・・・っ、くーーー」

 

折紙もまた、東校舎一階を歩いていると、この異常に意識を失わないように、ポケットから手に収まるデバイスを取り出し、表面センサーに指を当てて、唇を動かすと、一瞬で指紋、声紋照合が完了し、デバイスが展開された。

 

「識別・AST・鳶一折紙。基礎顕現装置<ベーシックリアライザ>ーーー起動承認」

 

瞬間、折紙の周囲に辛うじて身体を覆う随意領域<テリトリー>が形成される。

それと同時に、脳の中心が爆発したかのような凄まじい頭痛に襲われる。

折紙はそれに耐え、唇を動かす。

 

「ワイヤリングスーツーーー展開」

 

すると折紙の服装は制服から、ワイヤリングスーツに変貌した。

 

「・・・・っ、・・・・っ」

 

頭痛は消えたが、その場で膝を突いた。

基礎顕現装置<ベーシックリアライザ>でワイヤリングスーツを展開させると、脳にかかる負担は半端なものではない。が、真那はこれを何のことなくやってしまうが。

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は呼吸を整え、この事態が時崎狂三が元凶であると察すると同時にヘッドセットの通話機から、燎子と連絡を取りながら移動しようとするが止まった。

 

「・・・・っ」

 

「うふふ、折紙さん。そんなに急いでどちらへ行かれますの?」

 

理由は単純。折紙の進行先に、影を凝縮したような少女、来禅高校の制服ではなく、赤と黒で構成されたゴシック調のドレスを着た少女が、口元に手を当てて、クスクスと笑っていた。

 

「時崎ーーー狂三」

 

折紙は視線を鋭くし、燎子に精霊と接触したので交戦を伝えると、止めようとする燎子との通信を切って、レイザーブレイドの柄を握る。

 

「ふふ、今は邪魔をして欲しくありませんの。ここから先へは行かせませんわ」

 

「・・・・?」

 

狂三の言っている意味が分からず、小さく眉をひそめるが、戦場で敵の妄言に耳を貸さず、折紙はレイザーブレイド〈ノーペイン〉の柄を強く握った。

 

 

 

ー十香sideー

 

「シ、ドー・・・・シドー!!」

 

十香は重い足を引きずりながら、士道の元へ行こうとした。

 

【大丈夫だ。俺が、助ける】

 

士道の言葉が頭に渦巻く。そのなんとも頼もしくて、心強い言葉に、十香の心に蟠っていた寂しさと不安は吹き飛んだ。

しかしそれと同時に、士道が危険な場所に行ってしまう不安が浮かんだ。

きっと士道は、皆を助けてくれる。だが、その為に自分を身を危険に晒してしまう。士道は躊躇わずそうする。

十香を救ってくれたのは、そう言う男だ。

 

「うぁ・・・・っ」

 

十香はバランスを崩し、机と椅子を巻き込んでその場に倒れた。

 

「ぐ、ぬ・・・・っ」

 

≪・・・・プリンセス、プリンセス≫

 

「ぬっ、ドラゴン、か?」

 

こんな所で這っつくばっている暇はないのに。と、焦る十香の頭に聞き慣れた頼もしい声、ドラゴンの声が響いた。

 

≪やはり大人しくしておらんかったか、まったくあのフナムシのためにそこまでやるとはな・・・・≫

 

「ドラゴン、私はどうすれば良いのだ?」

 

ドラゴンと交信できるようになってから、ドラゴンは良く部屋で一人で過ごす十香の話し相手になってくれた。

宿題に苦戦している時は丁寧に優しく教えてくれた。

以前に、マンションが出来てから士道と登校できない事を相談したら、翌日士道と登校できるようにしてくれた。

十香にとって、ドラゴンは士道とは別に頼りになる存在だった。

 

≪ふむ。プリンセス、『サンダルフォンリング』を使え≫

 

「ぬ? う、うむ・・・・」

 

十香はヨロヨロと首に巻き付けておいた『サンダルフォンリング』を取りだし、指に嵌めて力を入れる。

するとーーー。

 

「・・・・これは・・・・っ!」

 

十香の装いが、完全ではないが、霊装を纏っていたのだ。

 

≪霊装を纏えばこの異様な空間でも動けると思ったが、どうだ?≫

 

「よし・・・・いけるぞ!」

 

身体が一瞬前よりも軽くなり、十香は勢い良く跳び上がり、二本足でその場に直立し、グッと拳を握って、教室を出る。

 

「ドラゴン! シドーはどこにいるのだ!?」

 

≪屋上だ。急げ、どうやら鬱陶しい奴等も来そうだ≫

 

「うむ!ーーーっ!?」

 

十香は屋上に向かおうと駆け出しそうになるが、息を詰まらせ、その場から飛び退く。

理由は単純。廊下の先から十香目掛けて、銃弾のようなものが、黒い軌跡を描いて迫ってきたからだ。

 

「な・・・・っ、誰だ!」

 

十香が叫ぶと、影になっていた廊下の先から、ゆっくりと足音が響き、その音の主が姿を現した。

 

「・・・・っ、お前はーーー」

 

「うふふ、ごきげんよう、十香さん。少しわたくしとお付き合いいただけませんこと?」

 

ドレスを纏い銃を握った時崎狂三が、にぃ、と唇の端を上げてそう言った。




次回、今度こそ不死鳥と激突! そして、士道の新たな姿が・・・・!
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