デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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狂三の真の恐ろしさが今・・・・!


悪夢のショータイム

狂三の胸から手が引き抜かれ、その瞬間、狂三が纏っていた霊装が空気に溶けて消え、狂三の白い肌が露になった。

 

「わ、たく、し、は・・・・」

 

「はいはい、分かりましたわ。ですからーーーもう、お休みなさい」

 

「・・・・ぃぐッ」

 

小さな断末魔を残して、狂三の身体が人形のように崩れ落ち、ビクンと跳ね、それきり動かなくなった。

 

「な・・・・」

 

仮面を解除したウォータースタイルの士道は戦慄し、身体が動けない。

だって、今しがた消滅した狂三の後ろに立っていたのは。

 

「あら、あら。如何致しましたの、士道さん? 顔色が優れないようですけれど」

 

ーーー時崎狂三、その人だったのだから。

 

「く、るみ・・・・?・・・・は?なんで・・・・」

 

士道は、新たに現れた狂三を見やって、混乱に満ちた声を漏らした。

それは、間違いなく狂三であった。黒い髪も、肌も、左目に光る時計の瞳も、今までと同じだ。

ただその表情は、倒れた狂三が先程まで浮かべていた混乱が無く、余裕に満ちた妖しい微笑であった。

 

「まったく、あの子にも困ったものですわね。あんなに狼狽えて。ーーーまだ、“この頃のわたくし”は若すぎたのかもしれませんわね」

 

「なーーー」

 

「ああ、でも、でも。士道さんのお言葉は素敵でしたわよ?」

 

狂三は冗談めかすように身をくねらせて笑う。

士道は、言葉を失って立ち尽くす。

 

≪正気に戻れ・・・・≫

 

バシンッ!!!

 

「がぁっつ!!」

 

ドラゴンに尻尾で殴られた痛みで立ち尽くしていた士道はハッとなるが、現状に戸惑う。

“狂三が二人存在し、狂三が狂三を殺して、最初の狂三が、影に喰われた”。

 

「(何がどうなってんだよ・・・・? ドラゴン・・・・?)」

 

≪おそらくだが、今までお前が対話していた〈ナイトメア〉は、“『アバター』で構成した分身体のような存在”だったのだろう・・・・≫

 

「(なっ・・・・!?)」

 

つまり今まで相手していた狂三は、偽物だった。

士道が愕然となると、狂三は可笑しそうに笑う。

 

「さあ、さあ。もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう」

 

狂三がそう言うと、士道の足元から手が生え、両足をガッチリとホールドした。

 

「うわ・・・・っ!?」

 

「あなた方の力・・・・いただきますわよ、士道さん、ドラゴンさん」

 

言いながら狂三が士道に近づく。

 

「くっ・・・・!!」

 

≪マヌケ、『リキッド』を使え≫

 

「はっ!」

 

士道は急いで腰のチェーンから、『ドラゴンの身体が溶ける姿が刻まれたリング』を取りだし嵌めて、ドライバーに読み込ませた。

 

[リキッド プリーズ]

 

声が響くと、士道の身体は液状体に変化し、両足をホールドしていた手から逃れると、狂三から距離を取って元の姿になると、仮面を装着した。

 

「あらあら? 自分の身体を液状にする魔法まで持っていたのですわね・・・・っ」

 

狂三が少し驚いたように声を発すると、後方へ逃げる。

その時、天から目の前に、橙色の影が降ってきたかと思った瞬間、見覚えのある仮面の戦士が現れた。

 

「アイツは・・・・!」

 

「なるほど。貴方が識別名〈仮面ライダー〉でやがりますか?」

 

右肩に橙色の隼のショルダーアーマーと橙色のマントを付けた、崇宮真那が変身する『ビースト』が、ダイスサーベルを持って、チラッと士道が変身するウィザード・ウォータースタイルを見据える。

 

「貴方の相手は後でしてやがりますよ。先ずは、〈ナイトメア〉! お前でやがります!!」

 

真那はダイスサーベルを狂三に向けて構え、『ファルコマント』を広げて、飛翔する。

 

「ま、待て真・・・・!」

 

≪余計な事をくっちゃべるな! お前の正体がバレるぞ!≫

 

思わず真那の名を叫びそうになる士道に、ドラゴンの怒声が響く。

真那はダイスサーベルのサイコロを回転させて、リングを嵌め込むと、五の目が出た。

 

「5、でやがりますか、いい目でやがります!!」

 

[5<ファイブ>、ファルコ! セイバーストライク!!]

 

『ピュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』

 

ダイスサーベルから橙色の隼のエネルギー体が、5匹も飛び出て、狂三に向かって急降下するが・・・・。

 

「ぎ・・・・!」

 

狂三は踊るように5匹の隼を回避するが、同じく急降下した真那のダイスサーベルによって、右手が切断された。

痛みに耐えるように眉をひそめる狂三。

 

「ーーーく、ひひ、ひひ、いつもながら、さすがですわね。わたくしの〈神威霊装・三番<エロヒム>〉をこうもあっさり切り裂くだなんて」

 

「ふん。悪ぃーですが、そんな霊装、私の、私達の前では無意味です。大人しくーーー」

 

と、真那が言いかけたところで、狂三が大仰に手を広げて、クルリとその場で旋回する。

 

「でぇ、もォ・・・・“わたくし”だけは、“殺されて差し上げる”訳には、参りませんわねぇ」

 

狂三は、カッ、カッ、とステップを踏むように両足を地面に打ち付けると。

 

「さあ、さあ、おいでなさいーーー〈刻々帝<ザアアアアアアフキエエエエエエエル>〉」

 

その瞬間ーーー狂三の背後の影から、ゆっくりと、巨大な時計が姿を現す。

 

狂三の身の丈の倍はあるほどの巨大な文字盤。その中央にある針は、それぞれ細緻な装飾が施された古式の歩兵銃と短銃。

 

「・・・・っ、これは、天使・・・・っ!?」

 

「うふふ・・・・」

 

精霊の唯一にして絶対の力を誇る武器の登場に、士道は思わず声を上げ、狂三は笑うと、巨大な文字盤から短針に当たる銃が外れて狂三の手に収まり。

 

「〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーー【四の弾<ダレッド>】」

 

狂三がそう唱えると、時計に刻まれた『Ⅳ』の数字から、ジワリと影のようなものが漏れて、一瞬の内に、狂三の握る短銃の銃口に吸い込まれた。

 

「???」

 

≪・・・・≫

 

と、士道とドラゴンは目を細める。時計の数字から影が漏れ出た瞬間、狂三の左目の時計が、恐ろしい速さで正方向に回った気がしたからだ。

が、士道は疑問をすぐに頭から追い出される事になるが、ドラゴンは狂三の天使の能力を冷静に観察していた。

 

「な・・・・」

 

真那は怪訝そうな声を漏らすのを士道の耳に届いたが、真那の表情はビーストの仮面に隠れているが、恐らくウィザードの仮面に隠れている士道と同じ顔になっていると士道は確信していた。

狂三は、左手に持った銃の銃口を、自分の顎に押し当てていたのである。

 

「一体何を・・・・?」

 

真那の言葉の途中で、狂三はニヤリと笑って、躊躇うことなく引き金を引いた。

 

ドン!

 

と、銃声が鳴り響くと共に、狂三の頭がグワン、と揺れる。誰がどう見たって自殺にしか見えない光景だ。

 

しかし、次の瞬間ーーー。

 

「は・・・・?」

 

士道は、自分がアホ面を晒しているのを自覚していた。

 

だが無理もあるまい。何故なら狂三が銃で自らを撃った瞬間、地面に転がっていた狂三の右手が、まるで映像を巻き戻したかのように宙へ浮き上がり、狂三の元へ飛んで行ったのである。

 

そしてその右手はそのまま狂三の右腕に触れると、まるで何事もなかったかのように綺麗に接着・復元された。腕に纏う長手袋までも完璧に。

 

「うふふ、良い子ですわ、〈刻々帝<ザフキエル>〉」

 

「・・・・初めて見る手品ですね、それは。なるほど、素晴らしい回復能力です」

 

≪違うよ真那。アイツのアレは回復なんてモノじゃないよ・・・・!≫

 

「え?」

 

真那はカメレオンの言葉に怪訝そうな声を漏らし、狂三はクックッと笑いながら首を振る。

 

「きひひ、ひひ、違いますわよう。“時間を戻した”だけですわ」

 

「・・・・何ですって?」

 

≪やはり、奴の天使の能力は、“時を司る能力”か・・・・!≫

 

「・・・・時を司る??」

 

真那は眉を歪め、ドラゴンは〈刻々帝<ザフキエル〉の能力を理解し、士道は戸惑いがちに聞き返した。

しかし狂三は不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えず、右手を高く掲げる。

背後の時計〈刻々帝<ザフキエル>〉に残っていた長針の歩兵銃がその手に収まる。

 

「ーーーああ、ああ。真那さん、真那さん。今日ばかりは、勝たせていただきますわ」

 

言いながら、狂三が右手を高く掲げ、刻々帝ザフキエルに残っていた長針に当たる歩兵銃を持ち、構えた。

ーーーまるでそう、時間を示すかのように。

 

「さあ、さあ。始めましょう。貴女の獣達とわたくしの天使、どちらが勝つか」

 

「ーーーふん、上等です。またいつものように殺してやりますよ」

 

真那はダイスサーベルを改めて構えると、狂三は可笑しくて堪らないと言った様子で笑う。

 

「きひ、ひひ、ひひひひひひひひひひひひッ、まァァァァァァだ分かりませんのぉ? 貴女にわたくしを“殺しきる”事は絶ェェェェェェッ対にできませんわ」

 

「そんなの関係ねーです。倒れないなら倒れるまで、死なないなら死ぬまで、貴様を殺し続けるのが、私の使命であり存在理由です」

 

「ひひひひひッ、嗚呼、嗚呼、いいですわ。たまりませんわ。ーーーそれで、どういたしますの? 首をはねまして? 胸を貫きまして? 四肢を断ちまして?」

 

「ふん、そのいずれからも生き返った化物を1人知っていやがるもので。ーーーどうせならウチの猛獣達のご飯してやがりますよ?」

 

≪≪≪≪≪あんなの喰いたくない(食べたくないわよ)≫≫≫≫≫

 

「! へぇ? 食べる事はしてきましてが、食べられるのは初体験ですわね。素敵ですわ。最高ですわ」

 

「相変わらず、狂いやがってますね」

 

「ひひひ、それは、お互い様ではございません事? もう眉一つも動かしてくれませんのね。わたくしを初めて殺した時は、まだ可愛げがありましたのに」

 

「黙りやがってください。それとも、口と喉から消し飛ばして欲しいですか?」

 

「うふふ、ふふ。できますかしら?」

 

狂三は左手の短銃を掲げる。

 

「〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーー【一の弾<アレフ>】」

 

すると先程のように文字盤の『Ⅰ』の部分から影が染みだし、狂三の握る短銃に吸い込まれ、そしてまたその銃口を自分の顎に当てて、引き金を引く。

その瞬間。

 

≪真那っ!!≫

 

「く・・・・ッ!!」

 

その場から狂三の姿が掻き消え、それと同時に、真那が横に吹き飛ぶ。

 

「あッははははははははははははは! 見・え・ま・せんでしたかしらァ?」

 

「っーーーファルコ!!」

 

≪あいよっ!!≫

 

真那は空中で体制を整え、肩に装備した『ファルコマント』に呼び掛けると、『ファルコマント』の目の部分と、ビーストの両目が橙色に光る。

狂三の身体がまたも霞のように消えると、真那の後方に出現し、その背に踵を振り下ろす。

がーーー

 

「そこっ!」

 

真那は狂三の動きを捉えたのか、サッと踵をかわすと、狂三の腹部をダイスサーベルで突き刺そうとするが、狂三は、寸での所で身をかわし、クルクルと回りながら給水塔の上に着地する。

 

「ふふッ、流石ですわ! もう“時間を早めた”わたくしの動きに対応するだなんて!」

 

「ふん・・・・面白い能力ですが、ビーストの力を持つ私には通用しませんわ。ファルコの視力ならば、貴様の動きを捉える事ができやがるんです」

 

「ああ、ああ、そうでしたのォ。じゃあーーー」

 

狂三は再び、目にも留まらなぬスピードで真那に向かっていく。

 

「〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーー【七の弾<ザイン>】」

 

と、その途中、文字盤の『Ⅶ』から染みだした影が、狂三の歩兵銃に吸い込まれ、即座に銃口を真那に向けて放つ。

 

「無駄とーーー」

 

≪避けろ真那っ!!≫

 

「っ!」

 

体内のライオンキマイラが叫ぶと同時に、真那は思わず回避するとーーー。

 

『だぁっ! やっと出られた!! あがっ!?』

 

影の拘束から脱出したケットシーに真那の避けた弾丸が当たった。

するとなんと、ケットシーの動きが“完全に停止したように動かなくなった”。

 

「っ!? あれは・・・・!」

 

≪成る程、ヤツの文字盤の数字には、それぞれ時間を操る能力が有るようだな・・・・≫

 

士道がケットシーをみて驚く、まるでその場でケットシーの“時間が止まって”しまったかのように動かなくなり、ドラゴンは今の弾丸から、狂三の天使の能力を分析していた。

 

「あァら、まァ」

 

「・・・・どうやら、締めてかからなければヤベェでやがりますね」

 

真那はダイスサーベルを構え直す。

 

「おい!」

 

バンっ!

 

「っっ!」

 

士道は止めようと叫び真那に近づこうとするが、真那はダイスサーベルの光弾を士道の足元に放った。

 

「邪魔しねーでください〈仮面ライダー〉。精霊を守ろうとしている貴方はASTでは、殲滅もしくは捕獲を命じられてやがります。邪魔するなら容赦しねーですよ」

 

「っ・・・・!」

 

声だけでも、真那が士道に冷徹な敵意を向けているのが士道にも分かり、士道は息を呑む。

 

≪ん? 真那よ。あの〈仮面ライダー〉なる者の中からーーー≫

 

ドォオオオオオオオオオオンッッ!!

 

『うわっ!!』

 

ライオンが真那に何か言おうとしたら、屋上の一角から爆発的な熱風が吹き抜けた。

士道と真那、狂三はよろけ、熱風が吹いた箇所を見るとーーー。

 

『はァ~~! やっと出られたぜ・・・・!』

 

「っ! フェニックスっ!」

 

なんと、フェニックスが自分の身体を拘束していた影を焼き払い、解放された。

 

『おおっ! 新しい指輪の魔法使いに! 〈ナイトメア〉! 漸く本領発揮って処かぁっ!?』

 

フェニックスは真那と狂三を見て、驚嘆したように声を上げる。

 

≪真那よ。ヤツは危険じゃぞ≫

 

「分かっているでやがりますよ!」

 

ライオンの忠告を耳に入れて、真那はダイスサーベルを構える。

 

『へへへへ・・・・お!』

 

フェニックスが大剣を肩に担いで、ゆっくり士道達に向かおうとすると、屋上は扉を見ると、バン! と扉が開いた。

 

「シーーー〈仮面ライダー〉?!」

 

「・・・・〈仮面ライダー〉?」

 

「(十香? 折紙・・・・!?)」

 

振り向き、心の中で名を呼ぶ。

そこには、霊装を纏った十香と、ワイヤリングスーツを纏う折紙が現れた。

 

「「・・・・・・・・」」

 

十香と折紙がお互いを鬱陶しげに睨むが〈仮面ライダー〉に視線を戻すと、ビーストに変身した真那に気づいた。

 

「鳶一一曹・・・・十香さん。ご無事でしたか。しかし・・・・十香さん。その姿はーーー」

 

真那の声が聞こえると、十香が怪訝そうな声を上げる。

 

「その声は、シドーの妹二号? お前こそ、その姿は何だ? まるでシドーと・・・・」

 

『よぉ! 〈プリンセス〉!!』

 

「っ!!?」

 

ガキンッ!!

 

フェニックスは十香に向かって大剣を振り下ろすが、十香は〈鏖殺公<サンダルフォン>〉を顕現させて、受け止める。

 

『やっと殺し合えるなぁ? 〈プリンセス〉??』

 

「貴様は、〈ファントム〉か?!」

 

『フェニックスってんだよ!!』

 

ギギギギギギギ! と、お互いの刃がぶつかり合って、火花が散る。

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は十香から離れると、真っ直ぐ〈仮面ライダー〉を見据える。〈仮面ライダー〉の正体が士道ではと、考えているからだ。

そんな折紙の意図に気づかず、士道は十香を助けに向かおうとするがーーー。

 

「十香!!」

 

『お前の相手は俺だYO!』

 

停止からようやく動けたケットシーが、士道に襲いかかるが、士道はケットシーの爪を回避して、『ランドウィザードリング』を嵌めてドライバーに翳す。

 

[ランド プリーズ ドッドッ ド・ド・ド・ドンッドンッ ドッドッドン!]

 

士道は『ランドスタイル』にチェンジすると、襲いくるケットシーの爪をランドのパワーで掴み、投げ飛ばした。

続けて、『ドラゴンの下半身がドリルとなっているリング』を嵌めてドライバーに読み込んだ。

 

[ドリル プリーズ] 

 

「ハッ! ハァアアアアアアアッ!!」

 

士道の足元に黄色い魔法陣が展開され、魔法陣から小さい岩がいくつも出現し、士道は大きく飛び上がると、士道の下半身がドリルのように回転しながらケットシーに向かって落下した!

 

『ガァアアアアアアアアアっ!!!!』

 

ケットシーは悲鳴を上げて爆散し、士道はヒラリと着地した。

 

『やってくれたな! この雑魚がっ!!!』

 

ドカァアアアアンンッ!!

 

「うわあああああああああああああああっ!!!!」

 

フェニックスが片手で放った高熱の炎の大玉を放ち、士道は『ディフェンド』を使う間もなく、身体が炎に包まれ、床に転がって炎を消すと、変身が解けてしまった。

 

「ぐっ!・・・・あぁ!・・・・うっ!!」

 

「っ! シドー!!」

 

「っ!?・・・・やっぱり・・・・!」

 

「えっ?・・・・に、兄様・・・・!?」

 

制服の所々が焼け焦げ、ボロボロの姿を晒しているが、そこにいたのは真那の兄、五河士道だった。

真那と折紙が士道に駆け寄る。

 

「貴様ぁっ!!」

 

『うおっとぉ!!』

 

十香の身体から夜色の霊力が溢れ出て、力を込めてフェニックスを押し飛ばすと士道に駆け寄り、フェニックスは少し離れた地点に着地した。

 

「あら、あら、あら。皆さんお揃いで」

 

先程から静観をしていた狂三の笑い声が響き、士道に駆け寄った十香と折紙が、ほぼ同時に口を開く。

 

「狂三・・・・! いきなり逃げたと思ったら、こんなところにいたか!」

 

「あなたの行動は不可解。一体何の真似」

 

「えっ?」

 

士道はボロボロの身体を上げて眉をひそめた。一体二人は何を言っているのか。

 

「逃げた、って・・・・?」

 

士道が問うと、十香は狂三から視線を外さず、首肯した。

 

「狂三が邪魔をしに現れたのだが・・・・先ほどの爆発の後、どこかへ逃げていったのだ」 

 

「それはおかしい。時崎狂三は、私と交戦していた」

 

「何だと?」

 

十香の言葉に、折紙が異を唱え、一瞬訝しげな顔をするが、しかしすぐに首を振って、二人は揃って狂三に視線を向けた。

 

「・・・・残念だ、狂三。だがお前がシドー達に危害を加えようとする以上、容赦はしない」

 

「一部にだけ同意する」

 

普段はいがみ合う二人が、狂三に向き直る。真那も慌ててダイスサーベルを構え直した。

 

「・・・・っ!」

 

士道も、狂三と戦えずとも、フェニックスを何とかしようと立ち上がるが、先ほど圧倒されたフェニックスに対抗しようと、『新たなフレイムリング』を取りだし、指に嵌めてドライバーに翳そうとするがーーー。

 

【使いこなせるかどうかは士道、お前しだいだぞ】

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

≪(・・・・カスが)≫

 

士道は輪島のおっちゃんの言葉を思いだし、リングを翳すのを躊躇い、ドラゴンは内心士道に悪態をついた。

しかし狂三は敵に囲まれたこの状況を、またも楽しげに身体を回転させる。

 

「うふふ、ふふ。ああ、ああ。怖いですわ、恐ろしいですわ。こんなにもか弱いわたくしを相手に、こんな多勢で襲いかかろうだなんて」

 

微塵もそんな事は思っていない様子で、クスクス、クスクス、と笑う。

 

「でも、わたくしも今日は本気ですの。ーーーねえ、そうでしょう? “わたくし達”」

 

「はーーー?」

 

士道は奇妙な物言いに眉をひそめるが、次の瞬間。

 

「「「「な・・・・っ!?」」」」

 

『ほぉ・・・・!』

 

士道達の声が被り、戦慄する。フェニックスは愉快そうに身体を揺らす。フェニックス以外の全員の顔が、酷く歪む。

しかし、他の誰がこの光景を見ても、同じように歪んでいただろう。

 

ーーー何故なら、そこには屋上を覆い尽くしていた狂三の影から、“大量の狂三”が、広い屋上を埋め尽くさんばかりに、何人も、何人も、霊装を纏った時崎狂三が、影から這い出てきた!

 

「くすくす」       「あら、あら」     

 

「うふふ」

 

「あらあらあら」    「驚きまして?」

 

「さあ、どうしますのォ?」   「あはははははははッ」

 

「いひひひひ」     

 

「さあ、さあ」 「如何でして?」

 

「ふふっ」   「ひひひ」

 

 

無数の狂三が、思い思いと笑いを、声を発する。

 

「これは、なんだ・・・・っ」

 

「くっ、これは・・・・」

 

無数の狂三に囲まれた十香と真那が、困惑の声を発する。

 

「十香!」

 

「ッ!シドーッ!」

 

士道達がその場へと向かうが、十香達の元までの道は、無数の狂三が阻み向かえなかった。

 

「うふふ、ふふ。如何でして? 美しいでしょう? これはわたくしの過去。わたくしの履歴。様々な時間軸のわたくしの姿達ですわ」

 

「なーーー」

 

「うふふーーーとはいえ、あくまでこのわ・た・く・し・た・ち・は、わたくしの写し身、再現体に過ぎませんわ。わ・た・く・し・ほどの力は持っておりませんので、ご安心くださいまし。ねェ真那さん、分かりまして? わたくしを殺しきれない理由が」

 

「ーーーっ・・・・」

 

≪これがヤツの不死身の正体か・・・・!≫

 

≪自分の時間を加速させ、相手の時間を停止させ、過去の時間軸に存在した自分自身を、分身体として召喚する。これがヤツの天使、〈刻々帝<ザフキエル>〉の能力か・・・・! ≫ 

 

「ーーーっ」

 

士道も、十香も、折紙も、真那は息を詰まらせ、キマイラ達とドラゴンは戦慄する。

狂三が、くるりと回って笑う。

 

「さあーーー終わりに、いたしましょう」

 

その声とともに、無数の狂三が、十香に、折紙に、真那に、士道に襲いかかる。

 

『ハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

フェニックスにも襲いかかるが、フェニックスは嬉々としながら狂三と交戦した。

無数の狂三によって、交戦する十香と折紙だが、数の暴力で身体を抑えられ、真那も懸命に戦うが、徐々に押され始め、士道の元から引き剥がされる。

 

「十香! 折紙!! っクソ!!」

 

士道は意を決して、『新たなフレイムリング』を指に嵌めて、ドライバーに翳した。

がーーー。

 

[エラー]

 

「なにっ!?」

 

[エラー] [エラー] [エラー] [エラー] [エラー]・・・・。

 

何度も士道はリングをドライバーに翳すが、ドライバーからはエラーの音声が無情に響き、何も起こらなかった。

 

「な、何でだよっ!? ドラゴンっ!?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

「士道さん? 貴方はその魔獣、ドラゴンさんの意図を理解していますの?」

 

「何をーーー」

 

「わたくしが何故、反発し合う事を承知でドラゴンさんも食べようと思い立ったのか。それを考えなかったのですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

言われて士道も疑問が浮かんだ。精霊の霊力と魔獣の魔力は反発し合う、なのに何故、狂三は士道だけではなくドラゴンも食べようと思ったのか。

狂三は惑う士道にニンマリと笑みを浮かべ、淡々と声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴンさんの目的は、士道さん。“貴方の体内に内包された精霊の霊力を得る事”ですのよ」

 

「・・・・・・・・っっっ!!!???」

 

士道は一瞬、狂三の言葉の意味が分からず硬直したが、言葉を理解し、目を大きく見開く。

 

「な、何を、言ってんだよ? 精霊の霊力と、ファントムの魔力は反発し合うのに・・・・!」

 

「ソコが、わたくしがドラゴンさんに興味を引かれる要因ですわね。わたくしもファントムを“食べた事”は有りましたが、最初の頃はお恥ずかしい話ですけど、何度も身体が拒絶反応を起こして、吐き出してしまいましたわ。ですが、ドラゴンさんは“精霊の霊力を取り込める希有な魔獣”ですわ。ですから、わたくしはドラゴンさんも食べたいと思ったのですのよ」

 

「・・・・・・・・(ドラゴン、本当なのか? お前は、十香や四糸乃、精霊の霊力欲しさで、精霊攻略に協力していたのかよ・・・・?)」

 

≪・・・・・・・・≫

 

「(何とか言えよっ!)」

 

≪・・・・我が何の“見返り”も無しで、協力していたと思っていたのか?≫

 

「ーーーっっ!?」

 

ドラゴンも十香達を助けたいと思ったから、今まで協力していたと思っていた。しかし、ドラゴンは精霊の霊力を狙って協力していた事に、士道は愕然となり、その隙に無数の狂三によって取り押さえられた。

 

「しまった・・・・!!」

 

狂三は悠然と微笑みながら、銃を握って士道に近づいてきた。

 

「ああ、ああ、長かったですわ。邪魔が入りましたが、ようやく、士道さんをいただくことができますのね」

 

「や・・・・っ、やめろ狂三!シドーに近づくな!」

 

「・・・・っ、放してーーー」

 

「兄様!!」

 

十香と折紙がもがくが、拘束から逃れることは叶わず、真那も狂三達に阻まれ動けない。

狂三はクスクスと笑うと、士道の目の前で足を止める。そこで狂三はなにかを思い出したように眉をピクリと動かした。

 

「ふふ、そうですわ」

 

言って、左手に銃を預け、右手を掲げる。すると先ほどと同じように、空間震警報が街に鳴り響いた。

 

「な・・・・っ、狂三、お前何をーーー」

 

「うふふ、ふふ。先ほどできなかったことをして差し上げますわ。まだ皆さん目覚めておられないでしょうしーーーうふふ、きっとたくさん死んでしまいますわねえ」

 

「や、やめろ・・・・ッ! そんなことしやがったら俺、舌噛んでーーーふぐ・・・・ッ!?」

 

そう言いかけた瞬間、士道を押さえつけていた狂三達が、左右から士道の口にその細い指を入れ、顎と舌を押さえつけた。

 

「舌を・・・・どうするんですの?」

 

最後の抵抗も呆気なく封じられた士道を狂三が笑い、右手を握る。すると先ほどのように、耳障りな高音が響き始めた。

 

「ふふ、ひひひ、ひひひひひひひひッ!!さぁ、もう二度とわたくしを誑かせないよう、絶望を刻み込んで差し上げますわ!」

 

「やえお<やめろ>、やえへくえ<やめてくれ>ーーーーーーーーー!!」

 

≪これは、今までで一番ヤバイな・・・・≫

 

狂三はそんな士道の見苦しい懇願とドラゴンの戦慄した呟きを無視し、右手を振り下ろした。

狂三が、笑う。ケラケラと、ケタケタと、まるで悪魔のように。

 

「あーーーッはははははははははははははははははははははははーーーッ!!」

 

だが。

 

「あーーーはァ・・・・?」

 

数秒の後、その笑い声は疑問符に変わった。

狂三が、怪訝そうに辺りを見回す。

それもそうだろう。確かに、空が悲鳴を上げたような耳障りな音が響いた。近くで爆弾が爆発したかのように、空間が震えた。

だがーーーそれだけだったのだ。

 

「・・・・?」

 

「「「・・・・??」」」

 

『なんだぁ??』

 

士道も十香達も、フェニックスさえも、眉をひそめた。

来禅高校の周辺には、空間震が起きた、空間そのものをごっそりと削り取られたように消失した跡がなく、いつもと変わらぬ、街並みが広がっていた。

 

「これは・・・・どう言うことですの・・・・?」

 

狂三が不審そうに眉を歪める。すると。

 

「ーーー知らなかった? 空間震はね、発生と同時に同規模の空間の揺らぎをぶつけることで相殺できるのよ」

 

頭上から、凛とした声が響いた。

 

「ーーーっ、何者ですの?」

 

狂三が頰をピクリと動かし、右手に銃を握り直して顔を上に向ける。

そして士道達も同様に顔を見上げーーー揃って目を見開いた。

 

空が、赤い。

 

屋上の上空。士道達の頭上に、巨大な炎の塊が浮遊していた。

そしてーーーその炎の中に、一人の少女の姿があった。

 

和装のような格好をした女の子である。風になびく袂は、半ばから炎と同化しているように揺らめき、腕や腰に絡みつく炎の帯は、さながら天女の羽衣のようだった。

そしてその頭部には、無機角な角が二本、生えていた。その様はまるで、お姫様のようでありーーーそして、鬼のようでもあった。

 

だが、士道が目を奪われた理由は、それだけではなく、呆然と呟く。

 

「琴、理・・・・?」

 

そう。士道の妹にして、〈ラタトスク〉司令官。

炎を纏った少女の姿はーーー五河琴里にしか見えなかったのである。

琴里が、徐々に高度を下げ、士道の方にチラッと視線を落とす。

 

「ーーー“少しの間、返してもらうわよ、士道”」

 

「え・・・・?」

 

「・・・・っ、あ、れはーーー」

 

眉をひそめる士道の近くに来た折紙が、今まで見たことがないくらい顔を驚愕に染める。

 

「ーーー焦がせ、〈灼爛殲鬼<カマエル>〉」

 

次いで、琴里がその名を口にする。

すると再び彼女の周りに炎が生まれ、巨大な棍のような円柱形を形作る。

そして、琴里がその棍を手に取った瞬間、その側部から真っ赤な刃が出現する。

それはーーーあまりに巨大な、戦斧。

 

≪やはり、あの義妹が・・・・≫

 

士道が言葉を失い、ドラゴンの呟きにすら耳に入らなくなっていると、琴里がその戦斧を軽々と振り、狂三に向けた。

 

「さあーーー私たちの戦争<デート>を始めましょう」

 

炎の戦姫が、戦場に顕現した。

 

 

ー『狂三キラー』・FINー




『狂三キラー』はこれにて終了。『新たな姿』になれなかったのは、ぶっちゃけ士道のせいです。




次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。

「琴、理・・・・」

突如現れた新たな精霊、それは妹の琴理。

「今から五年前。ーーーー私は、精霊に“なった”」

今明かされる、五年前の出来事。

「見つけた・・・・ようやく・・・・ッ!」

復讐に駆られる折紙。

『最高の相手だぜっ! 〈イフリート〉!!』

琴理を狙うフェニックス。

「俺は、ドラゴンを信じられない・・・・!」

士道に生まれたドラゴンへの不信感 。

「四糸乃、よしのん、やるぞ!」

「は、はい・・・・!」

『やっちゃうよー!』

十香と四糸乃とよしのんが参戦する。

「相手になってやるわ・・・・!」

琴理の超常の火、折紙の復讐の火、フェニックスの闘争の火、十香と四糸乃とよしのんの覚悟の火、それぞれの魂の熱が炎を生み出し、戦場を埋め尽くす業火となる。

「俺は・・・・俺はドラゴン、お前の事が・・・・!」

士道とドラゴン、魔法使いと魔獣、二人の魂の火が1つとなり、希望の炎龍が顕現するーーー。

第四章 『五河シスター』

≪我の炎と貴様の炎。どちらが上か見せてやるわっ!≫
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