デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「シドー!」
士道が〈フラクシナス〉にマシンウィンガーごと回収され、転送装置の部屋にマシンウィンガーを置いて館内を移動していると、令音と、着替えなかった為か、令音と揃いの軍服に身を包んだ十香が待ち構えていた。
「お、十香じゃないか。目が覚めーーーーうわっ!」
士道の言葉を最後まで聞かず、十香がバッと飛びかかってくる。
咄嗟の事に驚き、一瞬硬直した。しかし十香は構わず士道の首に手を回すと、ギュー、と腕に力を入れてきた。
「うむ! シドー! 無事だったか! 良かったぞ!」
「ん・・・・お陰様でな」
苦笑しながらポンポン、と肩を叩き、そろそろ離れるように促すと、十香は士道の意を察して、頷き身を剥がそうとしがーーーー。
「・・・・ぬ?」
くんかくんかくんかくんか・・・・。
怪訝そうに眉をひそめた十香は再び士道の首元に顔を近づけ、そのまま匂いを嗅ぐように鼻を動かした。
「な、なんだ? どうかしたのか十香」
「いや・・・・なんだか嫌な匂いがする気がしてな。なんと言うのだろうか・・・・良い匂いの筈なのだが、嗅いでいるだけでムカムカしてくると言うか、腹が立って来ると言うか・・・・ああ、そうだ、“鳶一折紙みたいな匂い”がするのだ」
十香が渋い顔を作ってそう言った。凄まじい嗅覚だ。士道の心臓が跳ねる。
「ーーーーっ! き、ききき気のせいじゃあないか・・・・?」
「む・・・・そうか。そうだな。シドーから鳶一折紙の匂いがするだなんて、私はどうなってしまったのだろうか。シドーがあの女をおぶったりでもしない限り、匂いが付くだなんてあり得ないと言うのに」
「・・・・! そ、そうだよ。そんな筈ないじゃないか」
「・・・・そろそろ良いかな、シン」
と、そんな士道と十香の様子を横で見ていた令音が、ユラリと頭を揺らしながら、相変わらず眠そうと言うか、今にも倒れてしまいそうな調子で声を上げる。
「あ・・・・はい、すいません」
「・・・・ん、では付いてきてくれ。十香は少し、四糸乃と遊んでいてくれるかな? 面影堂にいるよ」
「ぬ? シドーと一緒ではいけないのか?」
眉を八の字にしながら士道の顔を見て言う十香に、胸がチクリと痛んだが・・・・琴里をデレさせる為の会議に十香を出席させるわけにもいかないだろう。
「ごめんな、十香。俺はちょっと用事があるんだ」
「むう・・・・わかった」
唇を尖らせながらも、素直にそう言う十香はゆっくりと歩こうとしたが、士道に振り向き。
「シドー。そう言えばドラゴンはどうしたのだ? こっちから呼び掛けても答えてくれんのだが?」
「っ・・・・・・・・」
今は聞きたくなかったドラゴンの名前を言われ、士道は一瞬渋面を作るが、すぐに気まずそうに声を上げる。
「今はちょっと、あのフェニックスってファントムとの戦いでかなり疲れてしまってさ、少し休んでいるんだ。大丈夫だよ」
「??・・・・ウム。シドーがそう言うならばそうなのだな。ではオモカゲドーに行ってくるぞ!」
そう言って、十香は今度こそ去っていった。
「・・・・・・・・」
「・・・・さ、では行こうか」
士道は十香に嘘をつくことになり、気まずい顔になるが、令音がフラフラと歩き出し、士道はその背について足を進めると、通ったことのないルートを通り、大きな扉へとたどり着き、令音が扉のパネルを操作すると、ピピッという音がして、扉が自動でスライドした。
「・・・・さ、入ってくれ」
令音が扉の横に立ち、士道を促してくる。
中は広い空間になっており、中央には円卓状の机が設えられ、作戦会議室のような場所には、すでに何人ものクルー達が席に着いていた。
「・・・・空いている席に座ってくれたまえ」
令音はユラユラと幽霊の挙動で空いている席に腰を落ち着ける。それに倣って士道はその隣に座る。
と、奥の席に腰かけていた男が、コホンと咳払いをしてからすっくと立ち上がった。
琴里が隔離エリアに収容されている現在、この空中艦〈フラクシナス〉の最高責任者、副艦長であり、実戦部隊副司令官でもあるが、人間性は救いようがまったく無い変質者にしてド変態、神無月恭平である。
「良く集まってくれました、諸君。緊急事態につき、司令に代わってこの私、神無月がこの場を仕切らせていただきます。ーーーー士道くん、しばらくお付き合い頂けると幸いです」
「はい、もちろんです」
士道が頷くと、神無月は満足げに首肯して言葉を続ける。
「では、早速本題に入りましょう。以前から司令の身体について知っていた者、今回の件で初めて知った者・・・・様々いるでしょうが、どうか協力をお願いします。
ーーーー今日の主な議題は、二日後に迫った五河司令と士道のデートプラン作成です。各々持ち寄った情報を紹介しあい、司令が心から楽しいと思える1日を演出するのです」
そう言って神無月が部屋に並んだクルー達を見回し、スゥッと大きく息を吸う。
「・・・・シン。少し耳を塞いでおきたまえ」
「え?」
不意に令音がそう言って、士道は首を傾げた。とーーーー
「ーーーーさあ諸君。親愛なる〈ラタトスク〉機関員諸君。我らが愛しい女神の一大事だ。日頃の御恩に報いる時だ。司令が! 五河琴里司令が! 我らの助けを必要としている! それに答える気概はあるか!?」
『応っ!』
神無月が叫ぶと、円卓に着いていたクルー達が一斉に大声を上げて、凄まじい豪声が空気をビリビリと震わせ、部屋の壁に反響して士道の鼓膜を乱暴に叩いた。
「な、なんだ!?」
狼狽する士道など気にせず、神無月は続ける。
「司令に誉められたいか!?」
『応っ!』
「司令の笑顔が見たいか!?」
『応っ!』
「司令に四つん這いにさせられたのち、ブーツの踵で尻を重点的に蹴られたいか!?」
『お・・・・ぅ?』
どうしてこれに賛同されると思ったのか分からないが、神無月はコホンと咳払いをする。
「今こそ! 我らが愛を示すとき! 謳え、高きその御名を!」
『KO・TO・RI!
KO・TO・RI!
LO・V・E・KO・TO・RI!』
まるでアイドルのライブのような熱狂がブリーフィングルームを沈める。
「よろしい! では報告を開始せよ! 司令の希望、司令の願望、それらすべてを成就させ、我らが司令をデレさせん!」
『了解<ヤー>!』
「・・・・な、なんですか・・・・これ」
「・・・・まあ、なんだ。みんな琴里が大好きなのさ」
「はあ・・・・」
士道が頬に一筋の汗を垂らすと、会議は勝手に進行した。
が、それからはあまり順調とはまったく言えなかった。各々のクルーが自分の(少し偏った)知識で最高のデートプラン(本人達曰く)を、と言うよりも、各々の願望を勝手にくっちゃべったものばかりで、まったくと言って良いほど良案が出なかった。
「くーーーーならばどうすれば・・・・」
神無月が苦しげにうなり、見かねた令音が小さく息を吐いた。
「・・・・まあ、そこまで難しく考える必要もないと思うけれどね」
「と、言いますと?」
「・・・・そうだな。シン、どこか琴里が行きたいと言っていた場所などはないかい?」
「行きたがってる場所・・・・ですか」
「・・・・ああ。できるだけ伝聞や盗み聞きではなく、琴里がシンに聞こえていることを自覚している場面で言っていた事の方が望ましい。シンに直接、連れていってくれ、だなんて言っていたら最高だね」
「は、はあ・・・・ええと・・・・あ、そうだ。そう言えばいつだったか、CMでやってるのを見て栄部のオーシャンパークに連れてって、とか言われた気が・・・・」
「・・・・ん、そうか。ならそこでいいんじゃあないかな?」
士道が顎に手を当ててそう言うと、令音が軽い調子で頷いた。
「い、いいんですか? 琴里が言ったっていっても、司令官モードの琴里じゃなくて妹モードの時ですよ?」
「・・・・構わないさ。別に、四糸乃のように別人格になっていると言う訳じゃあないんだ。むしろ感情を発露している状態であるし、好都合なのではないかな」
「はあ・・・・」
「オーシャンパーク・・・・ですか。まあデートスポットとしては王道ではありますが、明確なプランも示さずに、はい決定と言う訳には・・・・」
だが、神無月は難しげに眉を歪ませ、他のクルーも同意見なのか、承諾しかねるといった様子だ。
自分達の願望優先の身勝手なプランしか立てられないのに、良く偉そうに文句を言えたものである。
「・・・・オーシャンパークなら琴里の可愛い水着姿が見られるのだがね」
『・・・・・・・・っ』
令音の一言に、神無月達が息を詰まらせる音が聞こえる。
・・・・琴里と〈ラタトスク〉の命運を賭けたデートプランは、なんだか存外、簡単に決定してしまいそうだ。
士道もよくよく思い返してみれば、変態的な選択肢しか選ばない神無月。偏った指示しか出さないクルーのメンツ。しかも今回は相手は、こちらの手の内を知っているも同然の琴里を攻略するのだ。
どんなに考えても不安材料しかないと思える。
「・・・・・・・・っっ!」
士道は一瞬、「ドラゴンがいてくれれば、知恵を出してくれるんだけどな」とドラゴンを頼っている自分に気付いた。
「(あんなヤツなんかいなくたって! 俺が琴里を攻略して、琴里を救ってやるっ!!)」
士道はドラゴンなんて必要無いと自分に言い聞かせ、ドラゴンの存在を振り払うようにかぶりを振った。
◇
翌日の六月二十一日の水曜日。
平日なのだが、士道達の通う来禅高校は今日、臨時休校となっていた。
しかしそれも無理からぬことである。何しろ学校にいる生徒と職員全員は狂三によって倒れ、一時意識不明状態に陥っていたからだ。
幸い症状の重い生徒はいなかったが、学校側はガス管などを徹底検査のために、今週いっぱいは臨時休校が決定されたかららしい。
「・・・・ま、ありがたいと言えばありがたい・・・・か」
と、そこで右耳に付けたインカムから令音の声が響いた。
《・・・・さ、そろそろ10時だ。こちらからも先ほど四糸乃をマンションの屋上に転送した。もうすぐそちらに着くだろう》
そう。今日士道は、琴里とのデートに向けた訓練も兼ねて、十香と四糸乃の水着を買うた為に街へと向かうのであった。
「・・・・一体なんでまた水着なんて」
《・・・・シン。君は明日、琴里と共にオーシャンパークへ行くんだろう? ならば当日緊張しないために、今から水着姿の女の子に目を慣らしておく必要がある》
令音が至極当然ののようにそう言って、士道は半眼となって頬をピクつかせる。
「・・・・や、令音さん? さすがに俺でも、妹の水着姿に緊張なんてしませんってば・・・・」
《・・・・そうかな。まあ、仮にそうだとしても、やはり、いやーーーーだからこそ訓練がピッタリだろう。オーシャンパークにいる少女は琴里だけではないんだ。折角のデートで他の女の子に目移りしているようでは困るんだよ》
「・・・・・・・・・・・・」
即座に「そんなことは無い」と返そうとした士道だったが、十香と四糸乃の水着姿を想像すると頬が熱くなり、あまり偉そうに言えなかった。
ここにドラゴンがいればーーーー
【≪お前ごときヘタレ童貞の僕ちゃんが、水着姿の〈プリンセス〉と〈ハーミット〉に鼻の下を伸ばさないと本気で思っているのか? 自分をそんな自制心の強い生命体だと思っていたのか? 相変わらず自己評価が呆れるほどに高いな? 少しは身の程を弁えた発言と行動をしたらどうだ? この自意識過剰の身の程知らずのむっつりスケベ坊や風情が≫】
と、罵倒が飛んでくると考えて、さらに頬をピクピクさせて。うぐぅ・・・・と唇を噛んでから、ため息混じりに頷く。
「はあ・・・・分かりましたよ」
と、そんな会話をしていると、後方から靴音が聞こえ、十香か四糸乃かな、と思って小さく手を上げて振り向くと。
「おう、おはよーーーー」
が、そこにいたのはカットソーにスカートと言う動きやすそうな格好をした折紙だった。
「お、折紙?」
「・・・・・・・・」
折紙が無言で頷き、士道は折紙に勘づかれないように自然な調子で口元を隠して、小声でインカムに問いかける。
「令音さん? これってそっちの仕込みですか?」
《・・・・いや、少なくとも私は何も知らないな》
「そ、そうですか・・・・」
恐ろしい偶然である。士道は手を口元から離して、折紙に視線を戻す。
「そう言えば身体は大丈夫なのか? 昨日まで入院してたのに・・・・」
「怪我自体は大したことがなかった。あの後検査をしてすぐ退院の許可が出た」
「そうか・・・・そりゃ何よりだ。で、えっと・・・・真那は?」
士道が問うと、折紙が微かに眉を動かした気がした。
「まだ検査が終わっていない。・・・・もし真那も退院していれば、ここに来る必要も無かったかもしれないのに。ーーーーでも、いい。士道に逢えたのはとても僥倖」
「え、それって」
「シドー!」
『やっはー、おっまたせー』
士道が問い返そうとすると、五河家の隣のマンションから、淡い色のキャミソールとスカートを纏った十香と、サスペンダースカート姿の四糸乃が立っていた。
「む?」
だが、満面の笑みを作っていた十香が、折紙の姿を捉えると、その顔に警戒色が帯びた。
「鳶一折紙・・・・! 貴様、なぜこんなところにいる!」
言いながらダッと駆け寄り、士道と折紙の間に割って入り、折紙に向かってガルル・・・・と青い狼男のようなオーラを放って、威嚇するように唸り声を発する。
しかし折紙は威嚇に怯むでもなく、チラッと四糸乃に視線をやる。
「〈ハーミット〉・・・・? なぜこんなところに」
「・・・・っ!」
ASTに追い回された経験か、単純に折紙の冷淡な眼差しに怯えたのか、四糸乃が肩を揺らす。
が、すぐに四糸乃を守るように、よしのんが間に入る。
『はーいはいお嬢ちゃぁん。四糸乃をいじめないでもらえるかなぁ? あんまり顰めっ面ばかりしてると、年取ったとき小皺が増えるよー?』
「どういうこと?」
「え、いや、あの」
折紙はよしのんの挑発にも眉一つ動かさず、士道に視線を戻し、士道はしどろもどろに視線を逸らす。
封印後の四糸乃と折紙が顔を合わせるのは初めてだった。
十香の事にも納得していない折紙にどう説明すれば良いか。
《・・・・面倒だな。何とか誤魔化してくれ》
「な、何とかって・・・・」
令音はアバウトな指令しかなかった。
一瞬、ドラゴンが入れば、と考えた士道だが、かぶりを振って、どうすれば良いか困っていると、十香が両手をバタバタと動かす。
「む、無視するな! 貴様、一体何の用かと訊いているのだ!」
折紙は四糸乃を一瞥してから、視線を十香に移す。
「ーーーー夜刀神十香。貴女に訊きたい事がある」
「なんだと? なんだ、訊きたい事とは」
「一昨日。空から炎を纏った精霊が現れたのを覚えている?」
「・・・・っ! れ、令音さん・・・・っ」
士道は息を詰まらせ、インカムに呼び掛ける。
《・・・・落ち着きたまえ、シン。そう簡単にはいかないだろう》
「で、でもーーーー」
士道は、ここにドラゴンがいたらーーーー。
【≪一々狼狽えるなこの小心の単細胞生物。そんなに狼狽していたらあっさりこちらの思考を察せられてしまうぞ≫】
と、いつものしっぽでのド突きと暴言で士道を修正しようとしてくれるが、今はいないので思考をグルグル巡らせていると、十香が腕組みしながら。折紙と犬猿の仲の十香は教えないと言い、二人の仲の悪さが役に立った。
しかし、折紙が頭を下げて頼むと、仕方なく話すが、赤かったとか、ブワー! と言う感じと、まるで説明になっていない説明をした。
「・・・・・・・・・・・・役立たず」
折紙は再び、無言になってからボソッと呟いた。
「な、なんだとっ!? せっかく答えてやったと言うのに、なんだその態度は!」
「爪の先程度でも貴女に期待した私が愚かだった。まだ定点カメラやボイスレコーダーの方が存在価値がある」
「この、言わせておけば・・・・!」
「ま、まあまあ、落ち着けって」
士道は内心ホッとしながら、十香の肩を叩き、怒りが収まらないが素直に唇を尖らせながら静かになる十香。
それから折紙は士道達が水着を買いに行くことを知り、自分も一緒に行くと言い出した。
令音は、「サンプルが増えるのは、悪くない」と言って、士道はため息を溢して一緒に行こうと提案し、折紙は了承するが、勿論十香は大反対した。
折紙は平然とした調子で深く頷く。
「そこまで嫌ならば仕方ない。私は一緒に行くのをやめる」
「! な、なんだと?」
いつにない素直さに驚き、十香は訝し気な色に染める。
しかし、折紙は軽やかなステップで士道に近づき、手を取るとスタスタと歩いていって、一拍遅れて十香がハッとした顔になる。
「ま、待て! 何をしている!」
「私と士道で水着を買いに行く。貴女は〈ハーミット〉と行くといい」
「な、なぜそうなるのだ!」
「貴女が、私と一緒は嫌だと言った。だからこれは仕方ないこと」
「な・・・・それはあれだ! そういう意味ではなくーーーー」
十香の言葉の途中で、折紙がさらに強く手を引き、士道は引っ張られるままに足を動かしてしまう。
「シドー! このーーーー手を離さんか!」
「しかし、それでは私と貴女が一緒に買い物に行くことになってしまう」
「そ、そうなのか・・・・!?」
困惑したような十香の声に、折紙は自信満々に頷く。
「ぐぐ・・・・」
十香は暫しの間うなった後、悔しげに口を開く。
「わ、わかった、もう貴様も一緒でいいからシドーを離せ!」
「そう。私はイヤ」
「ーーーーっ!?」
顔を驚愕に染める十香。
「一緒に行きたいなら、お願いは」
「な・・・・な・・・・」
十香は自分の状況が分からず、士道と折紙の顔を交互に見てきた。
四糸乃は状況についていけずオロオロし、よしのんは「アチャー」と言わんばかり、士道も状況に唖然としている。こういった状況になればドラゴンがテレパシーで助け船を出してくれるが、今はいない。
折紙は、惑う十香を尻目に話を続ける。
「できないなら構わない。私と士道だけで行く」
「ちょ、ちょっと待て! た、頼む! お願いだから私も連れていってくれ!」
折紙に手を引かれる士道を見て、十香が叫ぶ。折紙はフッと手の力を緩めると、ゆっくりと十香に視線を定め、優しく唇を開く。
「いや」
「な・・・・っ!」
十香が愕然と目を見開き、今にも泣いてしまいそうな顔を作る。
「・・・・おい」
ついに見かねた士道が、半眼を作りながらため息を吐いた。
ードラゴンsideー
『まったく、もっと早く〈プリンセス〉をフォローせんか、それか無表情女<折紙>を追い返さんか。あの役立たずのゾウリムシめが・・・・』
士道達の真上、電柱の上で思念体のドラゴンが呆れながら見ていた。思念体だと身体の大きさを自由に変えられるようで、現在はカラス位の大きさになっていた。
キマイラ達から聞くと、思念体の状態だと本体から半径2㎞は離れる事ができ、それを過ぎれば本体の方に思念体が引っ張られるようである。
現在ドラゴンは自分がいなくても義妹の精霊攻略をやるつもりのようだから、お手並み拝見と、高みの見物をしていた。
しかし、〈フラクシナス〉はまるで頼りにならない(元々ドラゴンは欠片も充てにしていない)。
泣きそうな十香と、オロオロしている四糸乃を見て、何度も戻ろうかと思った事か。
士道の精霊達へのフォローができていない事に半眼で呆れていた。
『ふぅ、好みから性格まで知っている義妹、イヤ、〈イフリート〉ならば楽勝と思っているのか? 鼻垂れ小僧の性格や思考、役立たず組織の行動も熟知している相手だと言うのに・・・・』
ドラゴンは攻略対象が、幼い頃から士道を熟知している義妹の琴里が、〈フラクシナス〉の司令官である五河琴里である事が、どれほど困難かをまるで理解していない士道と令音達の能天気さに、ハフゥ、と呆れ果てたため息を吐いた。
〈フラクシナス〉のクルー(主に神無月)って、偏った恋愛経験者(ほぼ犯罪者未満)しかいないと思うのは作者だけ?