デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
結局、折紙も買い物についてくることになった。
道中、十香と折紙はそれはもう険悪であったが、よく考えてみれば学校にいる時とそう変わらず、そのまま駅前のツインビルB館に入りエレベーターに乗って、目的の階に向かってエレベーターが動く。
「そういえば、シドー」
と、エレベーターが動いた所で、十香が不意に首を傾げる。
「ん? なんだ?」
「水着とは、一体何なのだ?」
「え?」
士道は目を丸くするが、まだ学校の体育でもプールは始まっていないので、十香が知らないのも仕方ないと思った。
しかし、女の子に水着の事を説明するとなると少し照れるのか、士道は微妙に目線を逸らしながら口を開く。
「ん・・・・そうだな、水着っていうのはーーーー」
「ーーーーMi-Zu-Gi。新型の対精霊用殲滅兵装の一つ。発動と同時に搭載された顕現装置<リアライザ>が臨界駆動を開始、弾頭を分子レベルに分解、放出し、霊装をも容易く通り抜け、対象の体組織を復元不可能なレベルにまでズタズタに破壊し炭化消滅させる。その際の苦しみは筆舌にし難く、あまりの非人道さの理由から、対人使用は国際法で禁じられている」
「ひっ」
と、折紙がつらつらと嘘の言葉を並べ立て、十香が息を詰まらせた。
「な・・・・ほ、本当かシドー・・・・!?」
「いや、そんなわけーーーー」
怯える十香に折紙の嘘を教えようとするが、再び折紙が言葉を士道の言葉を遮って続ける。
「本当。まさか彼らが、Mi-Zu-Giの存在を知っているとは思わなかった」
「な、なぜシドー達はそんなものを・・・・」
「それは至極明快かつ単純な理由。対精霊殲滅兵装は、精霊に向ける他ない。きっとあなた達二人が油断したところで、後ろから魔法で奇襲を仕掛ける算段」
「「・・・・っ」」
十香が顔を青くして身を固くし、折紙から隠れるように士道の陰に立っていた四糸乃が小さく息を詰まらせる。
「う、嘘を吐くな!シドーがそんなことをするはずがない!」
「・・・・っ、わ、たしも・・・・そう、思い、ます・・・・」
十香が叫び、滅多に声を上げない四糸乃もまた、そう言ってきた。
「そ、そうだろうシドー・・・・」
士道が首肯しようとしたところで、折紙が鼻をつまみ、唇を動かした。
『いや、折紙の言う通りだ。いつお前らを殺してやろうかと思っていたのだー』
「ま、まさかシドー、本当に・・・・!?」
「いや全然似てねえだろ騙されんなよ!」
士道が叫ぶと、十香がハッと肩を揺らした。どうやらようやく騙されたことに気付いたらしい。四糸乃も、折紙の挙動が見えたのか、嘘だと気付いたようだ。
十香は騙された怒りか恥ずかしさか、頬を赤く染め、歯をギリと噛みしめ折紙を睨む。
「おのれ、卑劣なり鳶一折紙! 私を謀ったな!」
「なんの事かわからない」
「・・・・二人とも、店内では静かにな」
士道を挟んでいつもの言い合いを始めた二人を何とか宥めすかし、はあと息を吐く。いくら慣れてるといっても、疲れるものは疲れるのだった。
「水着ってのはその名の通り、水に入るときに着る服の事だよ」
気を取り直した士道が説明すると、取り敢えず折紙への威勢を収めた十香が、首を傾げる。
「水に・・・・? それだけのためにわざわざ着替えるのか」
「ああ。水に濡れたら服がビショビショになって気持ち悪いだろ?」
「おお、なるほど!シドー、さてはおまえ天才だな?」
「いや俺が考えたわけじゃねえけども」
士道が頰を掻きながら苦笑すると、ちょうどエレベーターが目的の階に到着し、エレベーターから降りるとすぐに、カラフルな水着が陳列されたスペースが視界に入り込んできた。もう6月も後半である。店側としても水着を売るには丁度いい時なのかも知れない。
《さ、前置きが長くなったが、スタートだ。適当に試着して貰って見たまえ》
と、今まで沈黙を保っていた令音が、インカムから声を発する。
《・・・・選択のセンスは君に任せるが、あまり彼女らの艶姿に見とれ過ぎたり狼狽えたりしないようにしてくれ。大事なのは平常心だ》
「・・・・了解」
【≪平常心など・・・・。このすぐに狼狽したり、鼻の下を伸ばす小心者の小物に難しい事を言ってくれるな≫】
不意にドラゴンがこの場に入れば言っていただろう嫌味が脳裏に浮かんだが、士道はかぶりを小さく振ってドラゴンを消し去って、十香達と共に水着売り場に足を踏み入れると、「いらっしゃいませー」と言う店員の甲高い声が、どこからか響いた。
そしてまず駆け出したのは十香だった。不思議そうに店内を見回し、首を傾げる。
「それで、シドー。水着というのはどれのことなのだ?」
「ん、そこら中にかかってるのが全部そうだよ」
「! な、なんだと・・・・?」
士道がそう言うと、十香は目を剥いて両手をわななかせた。
恐る恐るワンピースタイプの水着を手にとって眺め回し、手触りを確かめるように生地を撫でてから、何かに気付いたようにハッと顔を上げてくる。
「なるほど、そうか。これの上に何か着るのだな?」
「いや、それだけだ」
「っっ!!?」
士道が後頭部を掻きながら言うと、十香は戦慄に染まった顔を向けてきた。
「こ、これでは身体が隠し切れないぞ! なぜこんなに面積が小さいのだ・・・・!?」
「や、まあ・・・・その方が動きやすいから、じゃないか? 水の中って結構動きにくいし・・・・」
「ぬ、ぬう・・・・確かにそうかも知れんが、これではまるで鳶一折紙のナントカスーツではないか・・・・さすがに少し恥ずかしいぞ」
「・・・・・・・・」
士道の説明を聞いた十香の言葉に、折紙がじとっとした視線を送る。何を言ったわけでもないが、とことなく憮然としている感じがした。
《・・・・まあ、兎に角どれか試しに着てみて貰いたまえ》
令音の指示に士道は了解を示すようにインカムを小突いた。
「ま、まあ・・・・とりあえずどれか気に入ったのを試着してみてくれ」
「・・・・・・・・特別だぞ」
士道が言うと、折紙が即座にコクンと頷き、四糸乃も恥ずかしそうに首肯した。二人の様子を見てか、十香も頰を染めながら唇を動かす。
そしてグッと拳を握り、四糸乃に向かってファイティングポーズを取ってみせた。
「よし・・・・では勝負だ、四糸乃!」
「え、えと・・・・お手柔らかに、お願い・・・・します」
そんな二人のやりとりを見て、士道が首を傾げた。
「勝負って・・・・何かするのか?」
「うむ。今日私と四糸乃とで、シドーをドキドキさせた方に、シドーとデェトをする権利をくれるらしいのだ」
「な・・・・!?」
士道が目を剥いて、インカムを小突くと、こちらを〈フラクシナス〉から、モニタリングしている令音の眠そうな声が、すぐに聞こえてきた。
『・・・・ん、どうせなら少し難易度を上げておこうと思ってね』
「そ、そんなーーーー」
「ところでシドー!」
と、途中で十香が声を上げてきて、士道は令音との会話を中断させた。
「な・・・・なんだ、十香」
「シドーは一体どうやったらドキドキするのだ? 走るのか? いっぱい走るのか?」
「・・・・それは、うん、ドキドキしそうだなあ」
士道が苦笑して答えると、四糸乃の左手の『よしのん』がカラカラと笑い声をあげる。
『あーはは、違うよー。男の子をドキドキさせるって言ったら、一つしかないじゃない』
「ぬ?ではどうするのだ?」
『んー、ま、四糸乃の敵に塩を送るってのは本意じゃないけどぉ? これで勝ってもつまんないしねー。ホレホレ十香ちゃん。ちょっとこっち来たんさい』
言って、『よしのん』が手招きをし、そして十香が顔を寄せると、士道に聞こえないくらいの小さな声で、何かヒソヒソと話をした。そしてーーーー。
「な・・・・ッ!?」
話が終わるのと同時に、十香の顔がボンッ! と赤くなった。
『ま、どーせ四糸乃には勝てないと思うけど、せいぜいがーんばってねー』
『よしのん』が、四糸乃を引っ張って店の奥へと歩いていく。十香は呆然とその背を見送っていた。
「お、おい十香・・・・? 一体何をーーーー」
「はふん!」
士道が肩に手を触れると、十香がへんちくりんな叫びを上げて身体を震わせた。
「と、十香?」
「ぬ・・・・いやすまん。何でもないぞ。しかし・・・・そうか、困ったな。シドーはああしないとドキドキしてくれないのか・・・・」
「いや、だから『よしのん』から何を聞いたんだよ!」
と、士道が叫んでいると、背後から音もなく折紙が現れた。
「ーーーールールは把握した。士道とのデート権は私が貰う」
「な・・・・っ! き、貴様は関係ないだろう!」
十香が顔を険しくして折紙を睨みつけるが、折紙はまるで意に介さず、水着を何種類か持って、そそくさと試着室に入っていった。
「ぐ・・・・あ、あの女にだけはデェト権を渡すわけにはいかん・・・・ッ!」
十香は拳を握ると、手近にあった水着を手にとって、折紙の隣の試着室に入っていった。
「・・・・ええと」
なんだか勝手に話がトントン拍子に進んで、置いていかれた士道はポリポリと頬をかいた。
ふと四糸乃の方を見ると、四糸乃はワンピースタイプを希望しているが、『よしのん』が熱烈に露出度の高いセクシータイプの水着を推していた。
それからは、男にとっては天国のような時間が過ぎた。
まず更衣室から出た十香が、ワンピースタイプの水着を着て士道はドキドキしてしまい、令音から、『琴里の霊力を再封印し終えた後で、夜ベッドに入った琴里の頬にチュウをして、「ぐっすりお休み、マイ・スウィート・シスター」と囁く』と言うペナルティを課せられた(ある意味琴里にとってもペナルティになる気がするが)。
次に2つ目の更衣室から出た折紙が、ホルターネックタイプのビキニにドキッとしてしまい、『おやすみのチュウは、添い寝をしながら』と追加された。
今度は十香が大胆なデザインのビキニを身に纏って出て来て堪らない気持ちとなり、『おはようのチュウ』も追加された。
すると折紙は、私服に着替え直し、敗北を認めたのかと思ったが、士道を手招きで近づかせ、ガッと士道の手を取り、自分のスカートの裾を握らせた。
「ウェーイッ!?」
「な、何をしているのだ、貴様!」
「ーーーーめくって」
「「な・・・・!?」」
素っ頓狂な声を出す士道と声を荒げる十香を気にせず、折紙は至極冷静にそう言った。
折紙は無理矢理士道にスカートの裾を持ち上がらせると、スカートの中は白い水着だった。これならばルール違反ではないと言い、十香は慌てた様子で士道の胸元に耳を当てると。
「ど、ドキドキしている・・・・」
と、愕然とした顔で呟く。
折紙は勝利を宣言するが、十香は折紙の手を払った手を取って、自分の大きく柔らかそうな胸に手を持ってこようとした。
慌てて止める士道は、「折紙よりもドキドキしている!」と告げるが、十香は士道の胸元に再び耳を当てるが。
「鳶一折紙の時の方がドキドキしている・・・・っ!」
と、まだ『ゲート』であったらファントムを産み出してしまいそうな絶望的な表情と声を上げると、恥ずかしそうに顔をフレイムスタイルのように真っ赤にしながら士道の手を自分の胸に押し付けようとした。
いよいよ収拾がつかなくなってきたところに、蚊の鳴くような小さな声が聞こえた。
「士道・・・・さーーーーん・・・・」
「え・・・・?」
十香と折紙も気付いたのか、ピタリと動きを止めて、怪訝そうに眉をひそめる。
「む・・・・今の声は」
「・・・・・・・・」
「四糸乃・・・・だよな」
再び耳を澄ますと、四糸乃の小さな声が聞こえた。
「士・・・・道さん・・・・た、たす・・・・けて・・・・ください・・・・っ」
「・・・・っ! 四糸乃、開けるぞ!? 大丈夫か!?」
三つ目の更衣室から四糸乃の助けを求める声を聞いて、士道は更衣室に駆け寄り、カーテンに手をかけ、勢い良く開けた。
と、そこにはーーーー。
「し、士道さん・・・・」
服をはだけ、半裸状態になった四糸乃が、ビキニタイプの水着に腕を通した状態で、胸元を押さえながら涙目になっていた。
「・・・・・・・・・・・・」
士道は、小さな肢体と相まって、アブノーマルかつ背徳的な禁断の性癖に目覚めそうなくらい妖しい魅力に溢れる四糸乃に唖然となる。
「か、片手だと・・・・上手く、着られません・・・・」
四糸乃が、弱々しく言って、士道のインカムから、今日1番のブザーが鳴り響く。
・・・・士道と1日デート権は、四糸乃が獲得した瞬間だった。
◇
「はぁ・・・・何か今日はどっと疲れたな・・・・。訓練も良いけど、本番までに体力使っちまうのも上手くねぇんじゃえかなあ・・・・」
あの後、三人に1着ずつ水着をプレゼントし、昼食を摂って帰宅した後、令音に呼び出されて再度プランを確認し、夕食の買い物に向かった士道だが、少し喉を潤そうと、自販機でジュースを買って、近くのベンチに腰かけていると。
「ハロ~!」
「えっ・・・・?」
緑色の羽の付いた帽子を被り、肩にストールを羽織り、左側をたくし上げたズボンをした独特のファッションの陽気な雰囲気の20代中盤位の青年が話しかけてきた。
「えっと・・・・?」
「ああゴメンね☆ 急に話しかけちゃったりしてさ。少し聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「えっ、まぁ・・・・」
どことなくチャラい雰囲気の青年は、士道の隣に腰かけて、口を開く。
「それで、聞きたい事ってなんですか?」
「うん実はね。『五年前の大火災』について何だけどね」
「っっ!?」
青年が言った言葉に、士道は息を呑む。それは、妹の琴里が精霊となり、折紙の両親を殺したと思われる日だったからだ。
「なんで、その事を、調べているんですか?」
士道は動悸を抑えながらその青年に聞くと、青年は口を開いた。
「実はこう見えてジャーナリスト志望でね♪ 昔の事件を調べているんだけど、何か知らないかな?」
「・・・・・・・・」
士道は黙ってしまう。琴里が折紙の両親を殺しただなんて信じたくないが、あの折紙が冗談を言う筈はないのも事実。
一体、『真実』は何なのか、五年前の記憶を探ろうとすると、頭の奥、決して触れられない脳の箇所がむず痒くなる。
ーーーー五年前に何が起きたか。
ーーーー士道、もしくは琴里はなぜ霊力を封印する術を知っていたのか。
士道は、まるで記憶に巧妙なフィルタリングでも仕掛けられたかのような気味の悪い感覚であった。
と、黙りになった士道に、業を煮やしたのか、フゥ、と青年がため息でも漏らしながら、チラッと士道を見て呟く。
「せめて“映像”でもあればいいんだけどね・・・・」
「映像・・・・?」
士道が眉をひそめて問うと、青年は一瞬口角を上げて続ける。
「そ。五年前の天宮市南甲町の大火災を捉えた映像なんだけど、どこかのテレビ局のヘリが撮影したんだけど、突然マスターテープが何処かに押さえられたんだよ。僕の予想では、“何かの組織”が秘密に回収したんじゃないかと思うんだ!」
青年の言葉を聞いて、士道は、おそらく〈ラタトスク〉が回収したんだと推察した。
「(もしかしたら、そのマスターテープに何か映っているかも知れない・・・・!)」
士道はベンチから立ち上がり、青年に会釈すると、夕飯があると言って帰り、青年は小さく手を振った。
帰って十香と四糸乃に夕飯をご馳走したら、すぐに〈フラクシナス〉に向かおうと決意した。
ードラゴンsideー
『・・・・・・・・・・・・』
ドラゴンは、士道と話していた青年を訝しそうに見つめると、士道の後を追って飛んでいった。
ー???sideー
「そうそう、頑張ってね。君にはこれからも頑張って貰わないと困るんだから、こんな事で足踏みしないでよ。・・・・・・・・・“士道くん”」
先ほど士道と会話していた青年は、“士道の名を呟く”。士道は名乗っていなかったのに。
青年はベンチから腰を上げると、ちょうど現れたデートの約束をした女性が現れる。
長く美しい黒髪をストレートに伸ばした見目麗しい女性だ。
青年は女性と少し談笑すると、女性と腕を絡めて繁華街を歩いていった。
「???」
そのカップルとすれ違った一人のサラリーマンが、ふと後ろを振り返ると、目を瞬かせた。
夕日に照らされ、アスファルトに映し出された青年の影が、“異形な姿”に変わっていたからだ。
しかし、目を擦って改めて見ると、青年の影は、“青年と同じ姿”であった。
仕事で疲れて幻覚を見たんだな、とサラリーマンは思い、帰路につき、先ほどの光景はほどなく忘却していったーーーー。
四糸乃って、将来『清純なサキュバス』になりそうですね(笑)。・・・・・・・・そして、『ヤツ』はまだ動きません。