デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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オーシャンパーク・琴里

『オーシャンパーク』。

駅から五駅先の駅の近くにあるテーマパークである。

屋内アトラクションのウォーターエリアと、屋外遊園地のアミューズエリアの二つで構成されており、夏休みでは遠方からも沢山の家族連れやカップルが訪れる人気スポットだった。

とはいえ、今は六月半ば。ピーク時のそれよりも明らかに客の入りは少なかった。

まあ、琴里とデートを行うにはその方がこちらとしては好都合である。

そんな事を考えながら、士道は着替えを終え、プラモンスター達を連れて屋内プールへと移動した。

まだ女性陣は着替え中のようで、士道は辺りの様子を、グルリと一望した。

 

「おお・・・・なんか結構スゴいな」

 

士道は広大なプールや岩山のようなウォータースライダーなどが見え、男の子の冒険心をくすぐられるデザインをしていた。プラモンスター達もはしゃぐようにピョンピョンと跳ねている。

 

《はしゃぐのも結構ですが、司令のことを忘れないでくださいよ?》

 

と、窘めるように神無月の声が響いてくる。

 

「わ、分かってますって。・・・・ていうかこのインカム、水は大丈夫なんですか?」

 

《・・・・ああ。完全防水仕様だ。耳から外れないようにだけ気をつけてくれたまえ》

 

と、令音の声が答え終えると同時に、士道の背に元気な声がかけられた。

 

「シドー! 待たせたな!」

 

士道が振り返るとそこには、着替えを終えた十香と四糸乃、そして琴里の姿があった。

十香は藤色のビキニ。

四糸乃は腰部分にスカートのようなヒラヒラを付けた淡いピンクのワンピースタイプ。

琴里は白いセパレートタイプに、ブラ部分がホルターネックチューブトップになり、何やら妙に色っぽかった。腕組みをして、口にチュッパチャップスをくわえていた。

 

「・・・・お、おう」

 

十香も四糸乃も、それぞれ頭に『絶世』とか『傾国』とかついてもおかしくない美少女なので、訓練をしていなかったら危うく琴里そっちのけで見惚れていたかもしれない。

 

《・・・・しておいて良かったろう、訓練》

 

【≪・・・・自分が如何にチョロい雑魚だったか少しは理解したか、僕ちゃん≫】

 

士道の心中を察したような令音の声と、居たら確実に言っていただろうドラゴンの罵倒が過り、士道を小さく眉を歪めた。

もしかしたら訓練の時から十香達を同行させるつもりだったのだろうかと、士道は思わずハアとため息を吐いた。

と、そんな士道の鬱々とした様子に気づかず、十香が大きく声を上げた。

 

「おおお! 凄いなこれは! 建物の中に湖と山があるぞ!」

 

それに次いで四糸乃が、珍しく興奮気味にフンフンと鼻息を荒くし、頰を紅潮させる。左手の『よしのん』も、パタパタと手を動かしている。

 

「み、水がいっぱいです・・・・!」

 

『はー! テンション上がるねこりゃー!』

 

「シドー、あの湖には入っていいのか!?」

 

「ああ、勿論だよ。て言うか、それがメインの楽しみ方だしな」

 

十香の問いに答えると、十香がひらめきスパークリングさせていた目を更に燦然と、キ・ラ・メーイ!と輝かせ、声を上げた。

 

「良し! 行くぞ四糸乃っ! 皆っ!!」

 

「は、はい・・・・っ!」

 

『ーーーー!!』

 

元気よくキラメイGO!と、二人とプラモンスター達は駆け出していった。

 

「元気ね、二人とも」

 

「お、おう、琴里」

 

背後から琴里の声が聞こえ、士道は小さく肩を揺らし、ゆっくりと振り返ると、琴里の水着姿に、ボウッと視線を送っていると、琴里が怪訝そうに眉を歪めた。

 

「何よ、ジッと見て。生物学的には近親相姦にならないからって、妹に欲情するようになったら人として末期よ?」

 

「・・・・っ! そ、そんなわけあるか!」

 

「・・・・ああ、そう」

 

士道がハッとして返すと、琴里は随分冷めた調子で肩をすくめた。

 

《・・・・何をしているんだね、シン》

 

「え?」

 

令音の声に、士道はマヌケな声を上げた。

 

《・・・・さっきも言われたろう? 女の子がお洒落をしているんだ。何も声をかけてあげないのかい?》

 

「あーーーー」

 

そういえばそうであった。

 

《いつもなら君がこういう事を言いそうになったら、強制的に黙らせる存在(ドラゴン)がいた筈だが、どうしたんだい?》

 

「っっーーーー!」

 

痛い所を突かれた。

確かにこの場にドラゴンが要れば、士道が下手を言う前に強制的に黙らせ、罵倒・暴言・毒舌付きの正論の暴力で強制的に修正させていた。

士道は下唇の端を少し噛んでから、軽く咳払いをし、琴里に改めて向き直る。

 

「こ、琴里」

 

「? 何よ」

 

半眼を作って琴里が見返し、士道は褒め言葉を言うのが恥ずかしく、言葉に詰まる。関係が近すぎるのも考えものだ。

 

《・・・・ふぁいと》

 

令音に後押しされ、微妙に視線を逸らしながら、士道は震える唇を動かす。

 

「そ、その・・・・なんだ、に、似合ってるぞ、その水着。か・・・・可愛い、と・・・・思う」

 

「・・・・っ」

 

四糸乃よりも辿々しく言うと、琴里は目を見開いて、頬をほんのり赤くしたーーーーが、すぐに首を振り、不敵な笑みを浮かべ、口にくわえたチュッパチャップスをピンと立てる。

 

「あら、ありがとう。ーーーー令音か体内の魔獣<ドラゴン>あたりから褒めるように指示が出たのかしら?」

 

「っっ、誰があんなヤツにっ!!」

 

「っ!」

 

ドラゴンの名前が出た瞬間、士道の頭にカァッと血が昇り、思わず声を荒げてしまい、琴里が少し肩を揺らしたのを見て、また軽く咳払いをして言葉を継いだ。

 

「わ、悪い、そんな事ねえよ。本心さ」

 

実際に琴里の水着姿を可愛いと本心で思った。

すると琴里は鼻を鳴らすと、半眼になって唇を動かす。

 

「へえ、光栄ね。それにしてもドラゴンの名前が出て激昂するなんて、ようやくあの魔獣の“危険性”を理解したのかしら?」

 

「琴里・・・・」

 

「狂三との会話は、こっちも聴いていたわ。あの魔獣が、精霊達の霊力目的で協力していたこともね」

 

「・・・・・・・・」

 

狂三がドラゴンの目的を話した時、インカムも付けていたのを思い出し、その時に琴里達にも聞こえていたんだなと、士道も理解した。

 

「それで、あの魔獣はどうしたの?」

 

「・・・・・・・・今は、真那のキマイラのように思念体として俺の身体から出ている」

 

「そう。と言うことは、今この時をノンビリと高みの見物でもしているのかしらね」

 

「多分な」

 

「士道。あの魔獣との関係もはっきりさせた方が良いわね」

 

「えっ?」

 

首を傾げる士道に、琴里は神妙な顔で声を発する。

 

「元々あの魔獣は、士道、貴方を絶望させてそのひ弱な身体を奪って世界に顕現しようとしている『絶望の化身』よ。精霊攻略への協力も、何か裏があると考えて当然でしょう?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「かと言って、魔獣ファントムの驚異もあるし、精霊攻略の手助けにもなるからこれまで何も言わなかったけど、これからヤツとどう付き合っていくか、本格的に考えるべきよ」

 

「そう、だよな・・・・」

 

琴里の言葉に、士道も頷くしかなかった。それを見て琴里は改めて、意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。

 

「・・・・それで、私の水着姿の具体的にどこがどう可愛いと思ったのかしら?」

 

「な・・・・っ、え、ええと・・・・」

 

士道は突然の琴里の問いかけにしどろもどろになるが、令音の声が響いた。

 

 

 

 

ードラゴンsideー

 

そして琴里の言った通り、高みの見物をしていたドラゴンは、半眼になって士道を見ていた。思念体として離れていても、本体は士道の体内にいるから、士道の見聞きした物は自分にも共有する事ができる。

 

『はぁ~。なんで【膨らみかけの胸がたまらない】などと、あのカラスの糞、蝉の小便みたいな排泄物の指示に従うのだ? アイツには考える知能がないのか?・・・・イヤ、無かったな』

 

ドラゴンの言う排泄物、神無月の選択肢に従った士道に間抜けぶりに呆れ。

『よしのん』が流れるプールに流されて、泣き出してしまった四糸乃がプールの一部を凍らせてしまった事態になり、十香や四糸乃への気配りを怠った士道に頭を抱えた。

しかし、琴里もどうやら胸に関しての指示には思うところが有ったようで、士道の鳩尾に裏拳を叩き込んだ時は、ドラゴンも拍手した。士道はそれが“照れ隠し”であることを欠片も理解していないようだ。

今度は〈フラクシナス〉の機関員が小賢しい手段で二人を接近させようとしたが、琴里司令は機関員全員の顔と名前を知っており、一瞬で見破られてしまった。これにはドラゴンも感嘆した程だ

 

『あのゴミ屑の兄と違って、妹の方が本当に優秀だな』

 

さらに士道は分かりやすい通信態度を琴里に指摘されていた。琴里だから良いが他の精霊に指摘されたらどうするのか、士道のあまりにも間抜けな迂闊さに苛立ってしまう。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ドラゴンは士道に呆れながらも、琴里をまっすぐ見据えていた。公園でまた再会した時から琴里の様子をジッと見ていたのだ。

 

『・・・・何も気づいていないのか、あの愚物めが』

 

 

 

ー士道sideー

 

あれからウォータースライダーに十香と琴里に挟まれながら滑った士道は、着水の時に『黒リボン』が外れて『妹モードの琴里』に戻り、アワアワとなった琴里に戸惑い、十香のブラが外れてそれに狼狽えながら見とれているのをリボンをつけ直した琴里(司令官モード)による、世界の覇権すらもを狙える右拳が光って唸り、愚兄を倒せと輝き叫んだ必殺の拳が、士道の鳩尾に炸裂し、士道は無様に水面をプカプカと浮かんだ。

それから十香の水着を直すために離れた琴里達を見送った士道の目の前に、プラモンスターくらいに身体を縮めたドラゴンは現れた。

 

『相変わらず滑稽極まりない道化だな?』

 

「(っ!!!! ドラゴン・・・・!!)」

 

ドラゴンの声が聞き、士道は顔をしかめ、インカムを外してドラゴンを睨んだ。

 

「なんの用だよ? わざわざ嫌味を言うために戻ってきたのか?」

 

するとドラゴンは、はん! と、言わんばかりに士道を見下すように見る。

 

『図に乗るな。貴様が滑稽な程に惨めで無様で情けなく、かつ思い込みの強い無知蒙昧な単細胞だと言うのはとっくに知っているわ』

 

「っっ!」

 

ドラゴンの言葉に、士道を歯をギリッと鳴らす。

 

「だったら何の用なんだよ。こっちは琴里の攻略で大変なんだ。お前なんかに構っていられない!」

 

『・・・・・・・・相変わらず、『人を見る目がまったく無い、無知で軟弱貧弱ボンクラのヘタレ小僧なゴミ屑僕ちゃん』だと思ってな』

 

「なんだとっ!?」

 

『お前は何も分かっていない。妹の事を何一つな』

 

ドラゴンはそれだけ言うと、士道の目の前から飛んで行った。士道はドラゴンの後ろ姿を睨む。

 

「“琴里の事を何一つ理解していない”、だと? 分かった風に言うな・・・・! お前なんかより俺の方が、琴里の事は理解している・・・・!」

 

それから琴里達が戻るまで、士道は憤る気持ちを抑えていた。

 

 

 

 

フードコートに赴いた一同は驚いた。

なぜなら、『はんぐり~』の店長と店員さんがそこにいたからだ。聞くとオーシャンパークに出張出店したとの事だ。

琴里(黒リボン)の様子を見て、店員さんが目をパチクリさせたが。

 

「もう分からないかなぁ? コト(琴里)ちゃんも“お年頃の反抗期”なのよ! だからちょっといつもと違う感じになっているのよ!」

 

店長がそう言うと店員さんは、成る程! と頷き、士道と琴里は苦笑し、十香と四糸乃は“お年頃の反抗期”に首を傾げていた。

店員さんが琴里達にオスペドーナッツを進めている間に、店長が士道に近づく。

 

「ちょっとシドくん」

 

「何ですか店長?」

 

「コトちゃん大丈夫?」

 

「え? 大丈夫って??」

 

「・・・・何となくだけどね。コトちゃん何か様子がちょっとおかしいと思うのよ」

 

「琴里が?」

 

「気のせいだと思いたいけど、気になってね。シドくん、こんな事他人のアタシが言うのも筋違いだけど、お兄ちゃんなんだから、ちゃんとコトちゃんの事を見てなきゃダメよ」

 

そう言って、店長はいつもの陽気な態度で琴里達に近づき、士道は店長の言った言葉が気になるが、琴里の様子を見ると、きっと店長の気のせいだな、と思う事にした。

 

 

 

 

 

それからしばらく経って、時刻は2時10分。オスペドーナッツを頬張っていると、琴里がトイレで席を立った。

その後、十香と四糸乃&よしのんから自分が緊張していると指摘され、2人+1匹+4体の視線に射竦められ、その場から立ち去ってしまった。

 

「・・・・そっか、俺、そんなに緊張してたのか」

 

言いながら、ワシワシと頭をかく。なんとも情けなかった。

 

「令音さん・・・・精神状態のモニタリングって、俺の方もやってるんですか? もしやってたら、数値教えて欲しいんですけど・・・・」

 

インカムに向かって問うが、何故か言葉は返ってこなく、代わりに(士道は知らないが)ウォータースライダーで懲りずに変態的な選択肢を選んでクルーに拘束されていた神無月の声が聞こえてきた。

 

《ああ、士道くん。申し訳ありませんが、村雨解析官は少し席を外しています》

 

「あ、そうなんですか」

 

どこに行くかと聞こうとしたが、先ほどその事で琴里に咎められたばかりなので言葉を止めた。

仕方なく、一応トイレに向かった。

するとーーーーその道中で、士道は足を止めた。

 

「ん・・・・?」

 

トイレの手前に並ぶ自動販売機。その後ろから、何やら話す声のようなものが聞こえてきた。なにやら聞き慣れたものが混じっている気がした。

 

「なんだ・・・・?」

 

不審に思い、足を向けてみる。するとまるで士道の行動を止めるように、神無月の声が響いてきた。

 

《士道くん、そこはーーーー》

 

だが、遅い。士道はそこを覗き込んでしまった。

 

「ーーーー」

 

そして、言葉を失う。

並んだ自販機の裏にできた、ポケットのような空間。そこにーーーー二人の人間がいた。

一人は、ビキニに白衣というプールに似つかわしくない格好でその場に膝をつき、傍に黒い鞄を携えた、令音。

そしてもう一人はーーーー壁にもたれかかるようにして地面にへたり込み、苦しげに頭を押さえる琴里だった。

 

「・・・・大丈夫かい、琴里」

 

「ええ・・・・なんとかね。でも、危なかったわ。ーーーーお願い」

 

琴里が片腕を令音に差し出す。しかし令音は、躊躇うように唇を噛んだ。

 

「・・・・今朝の時点でもう既に、通常の50倍もの量を投与しているんだ。これ以上は命に関わる恐れがある」

 

「ふふ・・・・精霊化した今の私なら、薬程度で死にはしないわよ」

 

令音が渋面を作る。しかし琴里は、荒い呼吸の合間を縫うように口を開いた。

 

「・・・・お願い。士道との・・・・おにーちゃんとのデート、なの」

 

「・・・・っ」

 

それを耳にした瞬間、士道は、息を詰まらせた。

今までの緊張なんか一笑に付されるくらい、心臓が早鐘のように、ドク、ドク、ドク、と鼓動がペースを速める。痛いほどに。軋むように。

口内の唾液を飲み下すと、いつのまにか渇ききっていた喉がパリパリと悲鳴を上げる。指先が震える。足が震える。全身が凍えるかのように微細に震えていく。

知っていたはずだ。聞いてもいた。覚悟だってしていた。

霊力を取り戻した琴里が、押し寄せる破壊衝動と戦っていること。

司令官の琴里が、艦内の厳重な隔離エリアに一人軟禁されていることを。

琴里が耐え切れるのが、今日の夜までであるという事実を。

ーーーー士道は、教えられていたはずだった。

 

「ぁ・・・・」

 

思わず、声が漏れた。それは極々小さなものだったけれどーーーー内部から自身の脳を叩くには十分な声だった。

知っていた。聞いていた。覚悟だってしていた。その筈なのに。

士道の心の内には、確実に油断が、甘さがあった事を漸く自覚した。

いつものように悠然と、傲岸に、そして不敵に。

士道を翻弄してみせる黒いリボンの妹に、心のどこかで安心していたのだ。

 

「お、俺、はーーーー」

 

こんなに強い琴里が、精霊の力に呑まれる筈がないと。

デレさせる事ができなくとも、きっとなんとかなるだろうと。

士道に言っていないだけで、何か手を隠しているのだろうと。

何の根拠もなく思ってしまっていたのだ・・・・!

 

【・・・・・・・・相変わらず、『人を見る目がまったく無い、無知で軟弱貧弱ボンクラのヘタレ小僧なゴミ屑僕ちゃん』だと思ってな。お前は何も分かっていない。妹の事を何一つな】

 

【お兄ちゃんなんだから、ちゃんとコトちゃんの事を見てなきゃダメよ】

 

ドラゴンと店長の言葉が頭を過った。

ドラゴンはもしかしたら、いや、間違いなく初めから見抜いていた、琴里がギリギリだって事を・・・・!

事情も何も知らない筈の店長ですら違和感を感じていた、琴里の不調を・・・・!

『魔獣』や『他人』ですら見抜いていたのに、『家族』なのに、『お兄ちゃん』なのに、自分は何も分かっていなかった。琴里が苦しんでいることを・・・・!

 

「ぁ、ぁあ・・・・・・・・っ!!」

 

悔恨が、羞恥が、自分を悔い、自分を恥じる感情が、絶望とはまた違った感覚で士道の心を侵食していく。 

 

「ーーーーね、お願い。もしかしたら、これが最後かもしれないの。もし失敗したなら、今日で、私は私で無くなる。ーーーーその前に、おにーちゃんとのデートを、最後まで」

 

そんな悔恨と慚愧の感情に呑まれそうになる士道の思考は、琴里の悲痛な声で中断された。

琴里は両手で頭を押さえ、頭痛に耐えるように歯を食いしばり、全身が細かく震える。

数瞬後、うっすらと目を開けた琴里は、令音に視線を向け直す。

 

「・・・・・・・・」

 

令音はしばしの間、逡巡のようなものを見せたが・・・・小さく息を吐くと同時に、傍の鞄の口を開け、中から注射器を取り出した。

 

「・・・・ありがとう。恩にきるわ」

 

「・・・・いや。しかし、これが最後だよ」

 

言いながら、令音が琴里の左腕を取り、注射針を刺す。すると数瞬後、琴里が大きく息を吐き、だんだんと呼吸が落ち着いていき、顔色も良くなっていった。

 

「悪いわね。・・・・助かったわ」

 

言って琴里が立ち上がろうとしーーーー再びその場に尻餅を突いてしまう。

 

「・・・・無理はいけない。少し休むべきだ」

 

「大丈夫よ。早く戻らないと、デリカシーのない士道に変な詮索をされちゃうわ」

 

「・・・・駄目だ。少し待っていたまえ。水を買ってくる」

 

「はいはい・・・・わかったわよ」

 

令音が立ち上がり、こちらに歩いてくる。士道は慌ててその場から立ち去ろうとしたが・・・・そこで令音と目が合ってしまった。

 

「・・・・ぁーーーー」

 

令音がピクリと眉を動かすと、そのまま自然な動作で士道の肩を掴み、自販機の表側に引っ張っていった。

そして士道に顔を近づけ、琴里に聞こえないくらい声を落として話しかけた。

 

「・・・・どの辺りから聞いていたんだい?」

 

「や・・・・えと。多分、最初から」

 

令音が無言になる。士道はゴクリと唾液を飲んでから、水着に白衣を着用した事を追及しようとしたが、もっと気になる事を聞くため口を開いた。

 

「令音さん琴里は・・・・いつからあんな状態だったんですか?」

 

士道が問うと、令音は数秒の間逡巡してから返してきた。

 

「・・・・霊力を取り戻した瞬間からだ」

 

令音の言葉に、士道は下唇を噛んだ。

予想できていなかった訳ではない。だが、それがはっきりと明示されると、やはり動機は一層強く、速くなっていった。

 

「じゃあ、なんで」

 

「・・・・琴里の希望だ。シンには話さないで欲しいと」

 

「ーーーーっ」

 

士道は息を詰まらせるが、令音は構わず続ける。

 

「本来なら、今日がタイムリミットだという事も明かさないで欲しいと言われたのだがね」

 

「なんで・・・・そんな」

 

士道が震える声で問うと、令音は息を吐いてから言ってきた。

 

「・・・・君に、同情や憐憫でデートをして欲しくなかったんだろう」

 

「ーーーー」

 

歯を噛みしめる。歯茎から出血したのか、僅かに血の味がした。

 

「・・・・だから、頼む。今のは見なかったことにしておいてくれ。ーーーー琴里のためにも」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・シン」

 

「・・・・分かりました」

 

士道が大きく深呼吸をし、踵を返して十香たちの方へと舞い戻った。

 

「おお、シドー遅かったな」

 

十香は自分の分のドーナッツとジュースを平らげて声を上げ、士道は2人に流れるプールのジャングルクルーズツアーがある事を教えると、十香は目をキラキラと輝かせ、士道も一緒に行こうと誘うが、士道は琴里と用があると言うと、十香も一緒に行くと言うが、四糸乃が十香の手を取る。

 

「十香さん・・・・私、クルーズに・・・・行きたいです。一緒に行ってくれませんか・・・・?」

 

「む?」

 

「お願いします・・・・十香さんしかいないんです」

 

四糸乃にそう言われ、十香は満更でもない顔で頬を掻いた。

 

「む、仕方ないな・・・・ではシドー、私と四糸乃はそのジャングル何とかに行ってくるぞ」

 

「おう、気を付けてな」

 

士道が手を振ると、十香と四糸乃&よしのんも応えるように手を振り返し、プラモンスター達もピョンピョンと跳ねた。

一同は士道の示した方向へ歩き、士道も琴里の元へ向かった。

 

 

ー四糸乃sideー

 

「・・・・がんばって、ください」

 

四糸乃はふっと首を回してそう言った。

 

『面白そうだな』

 

「「っ!?」」

 

突然十香の頭から聞こえた声に、一同が視線を向けると、プラモンスターくらいの大きさの『メカニカルな西洋竜』がいた。

 

「・・・・その声、ドラゴンかっ!?」

 

十香が声からドラゴンであると気づき、ドラゴンは首を縦に振ると十香と四糸乃の間に降りた。

 

『暫しぶりだなお前達。小僧の身体から少し出てこれてな。我も共にクルーズに参加させて貰えんか?』

 

「おお! 構わんぞ!」

 

「は、はい・・・・」

 

『良いよ良いよドラゴンちゃん!』

 

十香と四糸乃&よしのん、プラモンスター達も了承すると満足げに頷き、四糸乃の眼前まで飛び、前足で四糸乃の頭を撫でた。

 

「あ、あの・・・・ドラゴンさん?」

 

戸惑う四糸乃にドラゴンはソッと呟いた。

 

『〈ハーミット〉、お前の方が小僧などよりも大人だな』

 

「え?」

 

四糸乃は首を傾げるに構わず、ドラゴンは十香の肩の上に乗る。

 

『では行くぞ。楽しいクルージングだ!』

 

「おおーーー!」

 

『おおーーー!』

 

『ーーーー!!』

 

「お、おーーー・・・・」

 

ドラゴンの号令に十香とよしのんは元気よく応え、プラモンスター達もピョンピョンと跳ねて応え、四糸乃もオズオズと応えた。




四糸乃って、この頃からもう女神でしたね。
そして士道は人を、妹を見る目が無かった。『仮面ライダーファイズ』の『アルマジロオルフェノク』みたいですね。
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