デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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戦場に集いし焔

ー琴里sideー

 

琴里は漸く頭痛が治まったので、フードコートに戻ると、首を傾げた。

士道が突然、アミューズメントパークに集合と言って、〈フラクシナス〉の指示と思ったが、インカムを外した士道が、プールより遊園地に行きたいと言いだし、十香と四糸乃にはジャングルクルーズに行って貰っていることを告げられる。

 

「・・・・何の真似?」

 

琴里が渋面を作って問うと、士道は琴里の手を取る。

 

「遊ぶんだよ。ーーーー久々の遊園地だ。楽しみで仕方ない。疲れて眠っちまうまで遊びまくってやる。覚悟しとけよ、琴里」

 

「は、はあ・・・・?」

 

琴里は何が何だか分からないまま、士道に手を引かれていった。

 

 

ー燎子sideー

 

「ちょっと、何があったの?」

 

陸上自衛隊天宮駐屯地のCR-ユニット格納庫に作業服姿で足を踏み入れた燎子は、庫内の騒然とした様子に怪訝そうな声を発し、近くにいた整備士に話しかけた。

 

「何だよ、後にしてくれ!今はそれどころじゃーーーーて、隊長!」

 

鬱陶しげに眉をひそめた後、それが燎子だと確認した整備士は敬礼を示した。

 

「敬礼はいいから。何があったか教えてちょうだい」

 

「その・・・・〈ホワイト・リコリス〉が、ありったけの弾薬と一緒に丸ごと無くなってるんです」

 

「なんですって!?」

 

燎子は目を見開くと、顔を右方に向けた。

整備士の言っていた通り、大型討滅兵装〈ホワイト・リコリス〉が安置されていた箇所にポッカリと穴が空いていた。

 

「誰かが持ち出したっていうの・・・・?」

 

「さ、さあ・・・・詳しいことは私も」

 

燎子は庫内の様子を見回した。ーーーー詳しく調べなければ分からないが、他に変わった様子は見受けられない。扉を破った後も、搬入車を動かした形跡もなかった。

要は犯人は、あの巨大な兵装を、魔術師<ウィザード>でなければ動かさせない兵装を、搬入車無しで動かしたということである。

燎子はしばし黙ると、再度整備士に話しかけた。

 

「ーーーー今、緊急着装デバイスの保管状況はどうなってる?」

 

「緊急着装デバイス・・・・ですか?ちょっとお待ちください」

 

言って、整備士が手に持っていた小型端末を弄り始める。

緊急着装デバイスは、一時的に随意領域テリトリーを展開させ、一瞬でワイヤリングスーツを装着するための装置である。AST隊員が使えば、正規の着装許可無しに、魔術師ウィザードの力を得ることができる。故にその管理はパーソナルコードによって行われ、誰がいつ持ち出し、いつどこで着装を行ったかが、自動的に記録されるようになっているのである。

これは一つの可能性であり、疑念に過ぎなかった。

心の中で、該当コードが出ないよう祈りながら、整備士の言葉を待つ。

ーーーーだが。端末からピーと、音が発されると同時に整備士が声を詰まらせた。

 

「隊長、ひ、一人、デバイスを携行している隊員がいます」

 

「・・・・っ、誰?」

 

燎子が問うと、整備士は震える声を発してきた。

 

「と、鳶一折紙一曹です・・・・」

 

最悪な形の予想が当たってしまい、燎子の顔が渋面となった。 

 

 

ー真那sideー

 

「あぁ、退屈でやがりますね・・・・」

 

ほとんど病院で軟禁状態になっていた真那は、病室で軽く筋トレをしながら退屈をまぎらわせていた。

 

「ふぅ、そろそろキマイラ達も“空腹”を訴えそうでやがりますし・・・・ん?」

 

ベッドの上で横になっているビーストキマイラ(思念体)を見て真那は首を傾げる。

いつもなら『腹減った』と騒ぎ出す五匹が、そんな素振りを見せずに、ただジッと自分を見ていたからだ。

 

「どうしたでやがりますか皆?」

 

『『『『『別に・・・・』』』』』

 

妙だと思った真那は筋トレに戻ると、キマイラは(分かりにくいが)渋面な顔で真那をジッと見ていた。

 

『(んでどうするよ? あのトカゲ<ドラゴン>から聞かされた話?)』

 

『(このままじゃ真那ちゃんが危険よ)』

 

『(何とか理由を付けて病室を出ないとな)』

 

『(その後どうする?)』

 

『(上手く真那を誘導して、〈義妹の組織〉に保護してもらうしかあるまいて・・・・ん?)』

 

キマイラ達が相談していると、グリーングリフォンが窓を突っついていた。

 

『キュイッ! キュイッ!』

 

「ん? どうしたでやがりますかグリフォン? そんなに慌てて?」

 

真那もグリフォンが来たことに気づいて、窓を開けると、グリフォンが窓の外を見るようにジェスチャーしていた。

 

「どうしたですか?」

 

『っ! 真那、強い魔力の反応が複数。離れた場所に感じるぞ』

 

「何ですって!?」

 

『近くにお前の兄貴の魔力も感じる!』

 

「兄様が! キマイラ! 行くでやがりますよ!!」

 

『『『『『了解! (ナイスタイミング!)』』』』』

 

キマイラ達は、渡りに船と言わんばかりに、内心喜びながら真那の体内に戻り、真那は『ビーストリング』を取り出した。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「よっしゃぁぁッ!琴里!次は何に乗る!?」

 

士道は琴里を連れ回し、アミューズエリアの絶叫アトラクションを堪能していた。

 

「ちょ・・・・ちょっと待ちなさいよ!」

 

「ん、どうした琴里」

 

「どうしたじゃないわよ・・・・っ! ちゃんと説明しなさい、説明を!」

 

琴里が興奮した調子で叫びを上げてくる。

まあ当然だ。何しろ士道は着替え終わった琴里をアミューズエリアに連れて来るなり、有無を言わさずに絶叫系アトラクションへと吶喊したのだ。

 

「説明? さっきしただろ。実はお兄ちゃん遊園地大好きなのです」

 

「説明になってないわよっ! そんな理由で私連れ回してるっての!?」

 

「ばっ、お前、そんな理由とか言うんじゃねえよ。男は高校生にもなるとな、遊園地なんてそうそう行けるもんじゃないんだぞ? 家族連れってのも気恥ずかしいし、男友達だけってのも悲しい。結局遊園地に行けるのなんて、彼女持ちくらいなんだよ! 遊園地に来たくても来られない男子高校生が、一体何万人いると思ってんだ!」

 

「知るかッ! だいいちーーーー」

 

が、琴里が文句の途中で何かに気づいたように、声を窄ませた。

 

「か、かのじょ・・・・」

 

何やら小声でボソボソ呟きながら、顔を赤くする。

 

「ん?どうした琴里。ーーーーあ、もしかしてお前」

 

「!な、なんでもないわよ! 気にーーーー」

 

「フリーフォールが怖かったのか?何だよ、先に言ってくれればいいのに」

 

口元を押さえてプー、クスクスと、ドラゴンが居たら無条件で尻尾でド突きたくなるように笑うと、琴里が顔を真っ赤にして手を振り回してきた。

 

「いたたたたたたっ、や、やめろって」

 

「るさいッ! くぬっ、くぬっ!」

 

士道が何とか攻勢から逃れると、今度はジェットコースターの方を指差した。

 

「よし、琴里。今度はあれ乗ろうぜ」

 

「だから、人の話聞きなさいよ!」

 

「あ、そうか。琴里の身長じゃ乗せてもらえないかー」

 

士道がニヤニヤしながら言うと、琴里はカチンと来たのか、再び顔を真っ赤にする。

 

「馬鹿にすんじゃないわよ!ジェットコースターの制限って110センチとかじゃない! 流石にそんな小さくないっての!」

 

「ええー? でも怖いんだろー?」

 

「舐めるんじゃないわよ! むしろ士道の方がオシッコ漏らさないか心配ね!」

 

「ほっほぉ、じゃあどっちが怖がるか勝負しようじゃねえか」

 

「望むところよ!」

 

琴里が鼻息荒く頷くと、士道と共に搭乗口に上っていった。

 

「は・・・・っ」

 

そして、士道の口車に乗せられたことに気づいたのは、ジェットコースターの安全バーが下がってきた時だった。

 

 

 

 

「はふぅ・・・・っ」

 

そんな息を吐いて、琴里が中央広場のベンチの上に身体を投げ出す。時刻は既に5時を回っていた。

あれからジェットコースターを終えた士道と琴里は、お化け屋敷やゴーカート、その他アミューズエリアのアトラクション全てを制覇する勢いで、とにかく遊んで遊んで遊びまくった。士道と琴里が疲れるのも無理はない。

ちなみにそれを〈フラクシナス〉で見ていた神無月が、また懲りずに自分の趣味嗜好や性癖全開の変態的行動を士道にしろと喚き捲り、クルー達は、『インカムを捨てて正解だった』と思い、神無月に汚物を見るような湿った視線を注いでいた。

 

「あー・・・・ちょっとやべえわ。遊園地舐めてた。超楽しかったわ」

 

「ふん、子供なんだから。高校卒業までにはおしめが取れるといいわね」

 

「スプラッシュコースターではしゃいでたお前に言われたかねえ」

 

「な、なんですって!?」

 

琴里は不満気に声を上げたが、すぐにハアと吐息をして姿勢を元に戻した。

 

「ふん・・・・いいわ、疲れたし。それに・・・・まあ、つまらなくはなかったし」

 

「ん、そか」

 

士道は目を伏せると、もう一度大きく身体を伸ばした。

 

「しっかし・・・・遊園地なんて来たのどれくらいぶりだったっけか。父さんも母さんも殆ど家にいないから、随分・・・・」

 

「『五年前』よ」

 

「え?」

 

即座に琴里が答えてきて、素っ頓狂な声を発する士道。琴里は一瞬ハッとした顔になったが・・・・言ったしまったものはしょうがないといった様子で言葉を続けた。

 

「家族みんなで遊園地に行ったのは、『五年前』が最後。それからは一度も行ってないわ」

 

「よく覚えてるな。そっか・・・・もう、五年も前になるのか」

 

士道はその言葉を口にしながら、頰を掻いた。

『五年前』。ここ最近の間に、随分とその単語を耳にした気がする。

五河家が最後に遊園地に行った年。琴里が精霊になった年。士道によってそれが封印された年。そしてーーーー折紙の両親が、死んだ年。

士道は無言でベンチを立つと、隣に座った琴里と向かい合う位置に足を落ち着けた。

一昨日、士道は思い出した。五年前に天宮市南甲町で起こった火災の日の出来事を。

その顔を覚えている。霊装を纏った琴里が、泣きながら自分を呼んでいる姿を。霊装を纏った琴里が泣いている光景を。

だからこそ、その疑問は士道の胸の底に澱のように蟠っている。

それはーーーー折紙の両親を殺したのは、本当に琴里なのだろうか、と。

 

「・・・・何?」

 

琴里が小首を傾げてくるが、数秒の後に、何か気付いたように肩を小さく揺らし、一体何を考えているのか、頰を赤く染め、目をキョロキョロと動かした。

 

「え、あの、その・・・・もしかして」

 

「琴里」

 

「ふぁ、ふぁい・・・・っ!」

 

士道が静かに名前を呼ぶと、琴里が間の抜けた声で返答する。

 

「し、士道・・・・? その、うん、まあ確かにそろそろ頃合いだとは思うんだけど・・・・その、せ、せめてもう少し、ひとけの無い場所に行かない?」

 

「・・・・? なんでだ?」

 

「な、なんでって・・・・」

 

琴里が、辺りを見回すように首を動かす。確かに辺りには数名の人が見受けられたが、話が聞こえるような距離ではない。そこまで気にすることではないと思うのだが。

 

「別にいいだろ、ここで」

 

「・・・・っ!」

 

士道が言うと、琴里は顔をさらに赤くして、声にならない叫びをあげた。

そんな琴里を不思議そうに眺めながら、小さく口を開く。

 

「その、だな、琴里」

 

「・・・・! な、なに・・・・?」

 

「訊きたいことが・・・・あるんだ」

 

「! き、キスしたいとかそんなはっきり・・・・て、え?」

 

「え?」

 

五河兄妹は、キョトンと目を見合わせた。

 

「え、えっと?悪い、琴里は今ーーーー」

 

「う、うるしゃい! 気にするな! 何よ、訊きたいことって。早く言いなさいよ!」

 

「あ、ああ・・・・」

 

琴里の勢いに圧され、士道は一歩後ずさった。琴里の用件も気になったが、まあそこまで言うのならこちらから訊かせてもらう。

士道はコホンと咳払いをしてから、琴里の目をジッと見つめ直した。

 

「あのだな、琴里。お前は、五年前ーーーー」

 

ーーーーと、言いかけた瞬間、士道は違和感を感じた。周りの音が、どこか遠くなるのを感じた。

そして気付く。士道の周りには今、目に見えない壁か膜のような物が張られていた。まるで、ASTが使う随意領域<テリトリー>のようなーーーー。

 

「えーーーー?」

 

次いで、上方から前方ーーーー琴里のいる場所に、何かが落ちてくるのが見えた。

そして次の瞬間、凄まじい爆発音とともに、周囲に展開した景色が炎に包まれる。

 

「な・・・・!」

 

一瞬、目の前で起こったことが理解できず、しばしの間身体が硬直する。

士道には傷一つ付いていなかった。周囲に展開された壁が爆風を完全に遮断していた。

しかし、琴里がいた外側の景色は今、一瞬前とは全くの別物になっていた。

煙に包まれた外に出ようと足を踏み出そうとするが、見えない壁は変身していない士道の力ではビクともしなかった。

 

「琴里!」

 

叫びーーーー士道は上方からの視線に気付いた。

士道はバッと顔を上げーーーーそこにいたモノを見て、またも息を詰まらせた。

 

「っ、折紙・・・・」

 

「ーーーー士道。ここは危険。離れていて」

 

士道と琴里がいた場所を睥睨するように、空にはワイヤリングスーツにCR-ユニットを纏った折紙が浮遊していた。

いつもの無表情に見えるが、その瞳には、悪意と敵意と殺意を持っているように見えた。

そしてその身体を包み込むような形をした、巨大なユニット。背には幾つものミサイルポッドとコンテナらしきパーツがずらりと備え付けられ、そこから延びた両腕パーツから、巨大な光刃を顕現させた大型レイザーブレードが、そしてさらにその外側に、戦艦の主砲のような巨大な砲門が二門、見受けられた。

まるで武器庫を背負って出てきたかのような異形な姿。

ーーーー間違いない。今琴里を撃ったのは、折紙だった。

 

『うーーーーわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

周囲の客達も、遊園地のアトラクションではない異常事態だと気づき、甲高い悲鳴を上げながらバタバタと逃げ去る。

だが、士道は血が出んばかりに拳を握りしめながら、折紙を睨み付ける。

 

「折紙ーーーー! おま、え、今、何をしたのか分かっているのか・・・・ッ!?」

 

掠れた声で叫ぶ士道に、折紙は静かに首を前に倒す。

 

「ーーーー五河琴里を殺した」

 

あまりに簡素な物言いに、士道は全身を恐怖で震わせるがーーーー。

 

「・・・・殺した、ね。随分とまあ、お手軽に言ってくれるじゃあないの」

 

琴里のいた方向から不敵な声が聞こえると同時に、そこに蟠っていた煙が、風に巻かれるように霧散した。

ーーーーそしてその中心には、焔の壁に守られた琴里の姿があった。

 

「ふう」

 

琴里が小さく息を吐き、パチンと指を鳴らすと、琴里を覆うように広がっていた焔の壁が空気に溶け消える。そして折紙に目を向け、嘲るように顎を上にやる。

 

「鳶一折紙。貴女はもう少し賢明な人かと思っていたのだけれど」

 

「・・・・私の事を知っているの?」

 

「警報も鳴っていない、避難もできていない中でミサイルぶっ放すようなグレイジーな女なんて知らないわ」

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は無言で、キッと視線を鋭くし、背後のウェポンコンテナの一部を展開し、無数の銃口が現れ、随意領域<テリトリー>によって完璧に制御された弾道が、琴里に向かって鉄の礫の雨を降らせた。

 

「・・・・! 琴里!」

 

折紙によって張られた見えない壁に守られていた士道が、けたたましい銃声の中で、思わず腕で顔を覆って叫んだ。

琴里は悠然と手をかざすと、足元から紅蓮の焔が立ち上がり、折紙から放たれた銃弾を飲み込んだ。

 

「〈神威霊装・五番<エロヒム・ギボール>〉!」

 

琴里が言うと、焔が身体にまとわりつき、琴里の服を燃やす。

次の瞬間、焔が琴里の服に替わるように、幻想的な和装の形となった。

 

「相手になってやるわ・・・・!」

 

揺らめく羽衣。燃える袖。そして、純白の角。精霊を守る絶対の城であり鎧である霊装。

 

「〈灼爛殲鬼<カマエル〉!」

 

次いで琴里が言うと、その手に炎が集結し、巨大な戦斧を形作った。

 

「ーーーー!!」

 

「(折紙・・・・)」

 

その姿を見て、折紙が忌々しげに表情を歪めるのを見て士道は、絶対無敵の優等生。常に沈着冷静な折紙がこんな風に表情を乱す事が信じられなかった。

そんな折紙が、憤怒に顔を染め、琴里を睨み付けた。

 

「見つけた・・・・ようやく・・・・ッ!」

 

折紙がそう言った瞬間、士道の身体は音もなくスッと浮き上がり、柔らかな芝生の上に転がされるように軽々と吹き飛ばされた。

 

「うわっ!?」

 

「危険。士道、貴方は離れていて」

 

折紙はそう言って、コンテナから先ほどとは比べ物にならない量のミサイルが、琴里に向けて放たれた。

 

「琴里ーーーー折紙・・・・ッ!」

 

最愛の妹と、友人。二人とも士道の大切な人達が、相手の命を刈り取る武器を向け合って対峙している。士道が考えたくもなかった最悪の光景が、そこにあった。

 

「ーーーー! 止めないと、二人を・・・・!」

 

士道は『ドライバーオンリング』を取り出し、『ウィザードライバー』を起動させようと、リングを翳すがーーーー。

 

「えっ!」

 

ドライバーは何の反応もしなかった。[エラー]と言う音声すら流れない。

何で、と焦りそうになる士道だが、理由は分かりきっていた、“ドラゴンが居ないから”、だ。

 

「っっ!」

 

ドラゴンの“本体”は士道の体内にいる。だが、ドラゴンの“精神”は今、士道の身体から離れている。言うなればエンジンの本体はあるが、その核が無い状態だから、魔法が起動しないのだ。

 

「何でっ・・・・何でだよ・・・・!」

 

士道はあまりの悔しさで、指輪の付けてない方の手で地面を殴った。

 

「オイオイ、何か面白い事になってんなぁ?」

 

「っ? お、お前はっ!?」

 

士道の近くから声が聞こえて目を向けると、『フェニックスファントム』こと、『ユウゴ』が立っていた。

 

「フェニックスっ!?」

 

「よぉ指輪の魔法使い。お前何してんだ? こんな所でボーッとつっ立ってよ?」

 

「っ!・・・・」

 

士道自身。自分は何をやっているんだと歯噛みしそうになるが、ユウゴはそんな事を気にせず、後ろに目を向けた。

 

「おい、お前ら! コイツの相手をしてやれ!」

 

「・・・・なっ!?」

 

ユウゴの視線の先を見て、士道は驚愕した。

なぜならーーーー。

 

「『ミノタウロス』!? 『ヘルハウンド』!? 『ゴブリン』!? 『ケットシー』!?」

 

そう。士道がかつて倒したファントム達だっ。

 

「な、何で・・・・! コイツらは!?」

 

「お前が倒したって言いたいんだろう?」

 

「っ!?」

 

「コイツらは、『ワイズマン』がお前との戦いで、飛び散った角やら肉片やらから再生されたんだよ。ま、ただ命令を聞いて戦うしかない。純粋な闘争本能しかない俺好みのヤツらだがな!」

 

「何が、何が目的だ!」

 

「分かってんだろう? お前の妹、〈イフリート〉を絶望させるんだよ!」

 

ある意味予想通りの回答に、士道は驚愕し、折紙が作った見えない壁の前に立つ。

 

「そんな事させない! 俺が琴里と折紙を!」

 

「・・・・はぁ? 魔法を使えないお前に、何ができんだ?」

 

「っっ!」

 

ユウゴの言葉に、士道は悔しそうに顔を歪めるが、それでもと言わんばかりに、両手を伸ばす。

 

「・・・・・・・・魔法を使えないお前なんざ、欠片も興味ねぇよ。お前ら! コイツと遊んでやれ!」

 

『『『『・・・・・・・・』』』』

 

ユウゴに命じられて、ミノタウロス達が士道に迫ってきた。

 

「・・・・・・・!!」

 

士道は迫りくる再生ファントム達に息を呑んだ。




再生怪人って、特撮ではお約束だと思うんですが、古臭いですか?

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