デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

49 / 278
今回、士道とドラゴンが・・・・!


本当の気持ち

ー十香sideー

 

「な、何だ・・・・?」

 

ジャングルクルーズツアーを楽しんでいた十香達一同は、突然プール中に鳴り響くサイレンと、避難を促すアナウンスが流れ、十香は息を詰まらせた。

明確に説明できない、しかし確かな予感がした。

近くに・・・・自分と同じような存在がいる、と。

「四糸乃ーーーー」

 

四糸乃に顔を向けると、十香と同じような顔を作っていた。

精霊のーーーー霊力の匂いとも言うべき微かな波動。

加えて、姿が見えない士道。

十香の胸に、嫌な感覚が広がる。

 

「シドー・・・・っ!」

 

十香は喉を震わせ、ボートからプールに飛び込んだ。

 

 

ードラゴンsideー

 

『ーーーーチッ・・・・』

 

十香が飛び込むと同時に、ドラゴンは瞑目し、士道の状態を探知すると、小さく舌打ちすると、プラモンスター達を集めて、命令する。

 

『良いかお前達。今から“アレ”を持ってこい。置いてある場所はーーーー』

 

プラモンスター達に指示を飛ばしたドラゴンは四糸乃の方を向く。

 

『〈ハーミット〉!』

 

「だ、大丈夫、です・・・・! 士道さんの、所に、行って下さい。ドラゴンさん・・・・!」

 

『士道くんにはドラゴンくんが必要だよ!』

 

『・・・・恩に着る!』

 

そう言って、ドラゴンは飛んでいった。

 

 

 

 

ーフェニックスsideー

 

「お~お~。あの小蠅、中々やるじゃねぇか。まさか精霊をあそこまで追い詰めるとはよ」

 

ユウゴは琴里と折紙の戦いを見て、楽しそうに呟く。

 

 

「しっかし・・・・はぁ。お前雑魚過ぎだろう、指輪の魔法使い?」

 

「ぐっ・・・・うぅっ・・・・!」

 

ユウゴは心底失望したような声色で、現在ミノタウロスに胸ぐらを捕まれ宙ぶらりんになった、ボロボロの士道を見て吐き捨てるように呟く。

琴里と折紙の戦闘に向かおうとしていたユウゴ達を止めようとした士道だが、再生ファントム達の中で一番弱いゴブリンの平手打ちであっさりと倒され、それから再生ファントム達にわざと手加減された攻撃でジワジワと叩きのめされていた。

 

「おい・・・・」

 

「がはっ!」

 

ユウゴは宙ぶらりんになった士道を蹴る。

 

「くぅ・・・・!」

 

「なんで変身しねぇんだよ。さっさと変身しやがれよ」

 

「・・・・い、いやだぁ・・・・! だ、誰が、あんなヤツに・・・・!」

 

ドラゴンの力を借りたくないと意固地になる士道。ユウゴは変身しようとしない士道に、ガッカリと言わんばかりに、肩を落とすと、ミノタウロス達に向けて口を開く。

 

「おい。もう良いぜ、こんな雑魚さっさとボロ雑巾にして、〈イフリート〉の前につきだして殺せば、簡単に絶望するだろうよ。適当に痛め付けとけ」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ミノタウロスは士道を投げ飛ばすと、地面を転がった士道は「ゲホッ! ゲホッ!」と咳き込む。

が、そんな士道に構うことなく、再生ファントム達が士道に迫りくる。

 

「ーーーー!!」

 

士道はヨロヨロと立ち上がり、再生ファントム達を見るが、その目は弱々しいが、今にも倒れそうになる身体を無理矢理奮い立たせる。

 

『ーーーー!!』

 

「っ!!」

 

 

ケットシーが爪を振り下ろそうとした瞬間、士道は目を瞑ったその刹那・・・・。

 

[4<フォー> ファルコ! セイバーストライク!!]

 

『ピュィィィィッ!!』

 

再生ファントム達の頭上から、橙色の隼のエネルギー体が急降下し、再生ファントム達にぶつかる。

 

『グォアアアアアアアッ!!』

 

突然の攻撃に、再生ファントム達は地面に倒れた。

 

「な、なんだ?!」

 

「あ??」

 

戸惑う士道の前に、真那が変身する指輪の魔法使い、ビースト(ファルコマント)が降り立った。

 

「兄様、ご無事ですか?」

 

「真那!」

 

「おお! もう一人の指輪の魔法使い!!」

 

[ファルコ! ビーストストライク! ゴー! ゴー!!]

 

真那は『クラッシュビーストリング』を発動させると飛び上がり、橙色の魔法陣を飛びながら通過して、ファルコのオーラを纏い、片翼だけ大きくなった翼で再生ファントム達に切りつける。

 

『ファルコ・フライング<飛翔>クラッシュ』

 

『グォアアアアアアア!!』

 

再生ファントム達はユウゴの近くにこぞって倒れ、ユウゴもニヤリとビーストを見て笑っていた。

 

「やるねぇ・・・・!」

 

真那はヒラリと、士道の近くに着地し、ユウゴから少し視線を外すと、爆発している地点にいる人物と、爆発を起こしている人物を見て驚く。

 

「あれは・・・・琴里さん?・・・・それにあれは、鳶一一曹?! しかも装備しているのは〈ホワイト・リコリス〉!? あんな兵装をこんな所で使ってやがるんですか!?」

 

「おい真那。あれって、そんなにヤバい装備なのかよ?」

 

士道がそう聞くと、真那は仮面越しでも、慌てた様子が分かりそうに声を上げる。

 

「ヤバいなんてモンじゃあないでやがりますよ! いや鳶一一曹なら使いこなせるかなぁ? とは思ってやがりましたが・・・・」

 

まさかこんな公共施設で、兄様がいる場所で、あんな危険な兵装を使用するとは、流石に真那も思わなかったようだ。

 

「真那! この見えない壁、何とかならないか!? このままじゃ琴里が!」

 

士道の言葉に、真那は仮面越しで渋面を作りながら口を開く。

 

「兄様。琴里さんは、いえ、五河琴里は精霊、〈イフリート〉でやがります。それでも助けるのでやがりますか?」

 

「っ!・・・・それでも、精霊であっても、目の前で妹が殺されそうになってるのに、何もしないんじゃ、俺はそれこそ『お兄ちゃん失格』だ!」

 

自分は琴里が苦しんでいた事にまるで気付かなかった。士道にとっては、それだけでも『お兄ちゃん失格』と言っても言いが、ここで琴里を救えなかったら、本当に自分は、『琴里のおにーちゃん失格』だ。

士道の言葉に、真那は肩を落とす素振りをして、士道に向き直る。

 

「・・・・兄様。1つ聞いておきたいでやがりますが? 何で〈仮面ライダー〉に変身しやがらないのですか?」

 

「ーーーー!」

 

「・・・・ドラゴンと、喧嘩でもしたんでやがりますか?」

 

「・・・・俺は、アイツを、ドラゴンを信用できないんだよ」

 

「そうでやがりますか・・・・。兄様、実はですね。私とキマイラ達の間には、“ちょっとした契約”が有るのでやがりますよ」

 

「“契約”?」

 

「ええ。その“契約”とは、『魔法を使わせる代償として、魔力をキマイラ達に提供する事』、でやがるんですよ」

 

「魔力の、提供?」

 

良く意味が分からない士道に、真那は詳しく話す。

 

「キマイラ達は、ファントムを倒すとその魔力を吸収する事で、お腹を満たすのでやがります。もしそれが出来ないときは、“真那の命すらも喰らうんでやがりますよ”」

 

「なっ!?」

 

士道は驚愕した。つまり、ビーストキマイラに魔力を提供が出来ないときは、真那の命が・・・・。

 

「なんで・・・・なんでそんな奴らと一緒にいるんだよ!?」

 

「・・・・まぁ確かに最初の頃は険悪でしたよ私達も。でも、今はお互いに信頼してやがるんですよ。ライオンはおじいちゃんっぽいし、ファルコは陽気で楽しいし、ドルフィンはお洒落とかしなさいと言いやがりますし、カメレオンはよく周りを観察してやがりますし、バッファはのんびり屋でやがります。・・・・記憶が無かった真那にとっては、『家族』がいたら、こんな感じかなって、思うようになりましたよ」

 

≪≪≪≪≪真那(ちゃん)・・・・!!≫≫≫≫≫

 

真那の内部ではキマイラ達が感極まった様子になっていた。

 

「信頼・・・・」

 

「兄様。兄様もドラゴンに何か気にくわない事があったかもしれないでやがりますが。それでも、今兄様には、彼が必要なんじゃないですか?」

 

「っ・・・・!」

 

真那の言葉に息を詰まらせる士道。真那はダイスサーベルで壁を切り裂くと、士道から視線を外し、改めてユウゴに向き直る。

 

「兄様。ここは真那が引き受けやがります! 相手になってもらいますよ。『フェニックス』!」

 

『良いぜ! 相手になってくれよぉ!』

 

ユウゴはフェニックスに変貌し、大剣をもって真那に迫る。真那は『カメレオンビーストリング』をバックルに押し込んだ。

 

「カメレオン!」

 

[カメレオン ゴー! カ、カカカ、カメレオン!!]

 

『ファルコマント』が消えて、緑色の『カメレオンマント』を装備した真那は、マントを翻すと、その姿を消した。

 

『なにっ!? グォッ!』

 

突然消えた真那に驚くフェニックスが、“何か”に引っ張られるようにその場を離され、再生ファントム達もヨロヨロと立ち上がり、フェニックスの後を追った。

 

「・・・・・・・・ドラゴン」

 

『・・・・・・・・何だ?』

 

士道は真那の言葉を考えながら、ボソッとドラゴンの名を呼ぶと、頭上からドラゴンが現れた。

 

「聞いていたのかよ?」

 

『まぁな』

 

素っ気なく答えるドラゴンに、士道は意を決して、口を開く。

 

「ドラゴン・・・・。はっきり言うぞ」

 

『さっさと言え』

 

「俺は・・・・俺はドラゴン、お前の事が・・・・!」

 

『・・・・・・・・』

 

「俺は、お前の事が・・・・・・・・“大っっ嫌い”だぁっ!!」

 

『・・・・・・・・』

 

「お前は! お前達ファントムは! 絶望は! いつも皆を苦しめる! 十香も! 四糸乃も! 折紙も! 真那も! そして琴里も! 皆が絶望に苦しめられている! なんでお前達は皆を苦しめるんだ! 琴里達は何も悪い事をしていないのに! なんで皆の心を蝕むんだ! なんであんなにいい奴らを苛むんだ!!」

 

【我は人間ではなく、ファントムだ。人間なんかと同列扱いしないでほしいな】

 

以前ドラゴンは自分をそう言った時、ドラゴンが絶望の魔獣、ファントムだと、改めて自覚した時、士道は何で『新たな力』を引き出せなかったのか理解した。

 

ドラゴンを信頼していた、それに偽りは無い。ドラゴンがいなくなってから、自分はドラゴンに頼っていた事を認めたくはないが、間違いなく頼っていた。

それでも、腹の奥底では、心の奥底では、士道はドラゴンを嫌悪し、恐れていたからだ。

“信頼”と“嫌悪”。2つの感情が入り交じり、新たな力を引き出す事を出来なかった事を自覚した。

士道の目には、徐々に涙が浮かぶ。

 

「なんでお前の方が、俺より琴里の事を理解してんだよ・・・・! なんでお前が、そんなに凄い力を持ってんだよ・・・・! なんでお前なんかを、十香と四糸乃は信頼してんだよ・・・・! なんで俺は、お前がいないと、何にも出来ないんだよぉ・・・・!!」 

 

士道の頬には、涙が流れていた。それは無力な自分自身に対する不甲斐なさ、情けなさ、悔しさ。

琴里の苦しみをまるで理解していなかった自分自身への悔恨、慚愧、羞恥。

力を持つドラゴンへの嫌悪と嫉妬の感情がグルグルと渦巻き、涙として流れたのだ。

 

「何で・・・・何で俺は・・・・ッ!!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

顔を俯かせる士道を、ドラゴンは何も言わずに静かに見据え、ゆっくりと口を開く。

 

『・・・・それで? どうしたいのだ貴様?』

 

「・・・・・・・・ドラゴン。お前は、十香達の精霊の霊力を求めているんだよな?」

 

『そうだ』

 

「だけど、本体が俺の体内にある以上、お前は自分で精霊の霊力を得る事はできない・・・・」

 

『そうだ』

 

「つまり、俺が精霊の霊力を封印しないと、お前は霊力を得られないんだな?」

 

『忌々しい事にな』

 

俯いたまま淡々と呟く士道の問いに、ドラゴンは肯定した。顔を上げた士道のその目には、明らかな決意があった。

 

「ドラゴン。お前が俺を利用して、精霊の霊力を得るんなら、俺に協力しろ!」

 

『・・・・・・・・』

 

「俺は! 皆を守るためにお前が必要だ! お前も霊力を得るために俺が必要なら! 俺に力を貸せ、ドラゴン!!」

 

『・・・・つまり、“ギブアンドテイク”。我が貴様に魔力を貸してやる代わりに、貴様は我に霊力を提供する。と言う事か?』

 

「ああそうだ! お前は俺を利用するなら! 俺もお前を利用する! 皆を守るためにな!!」

 

『・・・・・・・・』

 

「ドラゴン! 返事は!?」

 

ドラゴンは、静かに口を開きーーーー。

 

 

ー琴里sideー

 

「そうやって・・・・殺したの? 五年前・・・・私のお父さんと、お母さんをーーーーッ!」

 

「えーーーー」

 

士道がユウゴ達と戦っている間に、優勢に立っていた琴里は、折紙の言葉に呆然と声を発していた。

 

「何、をーーーー」

 

言いながら、頭痛を堪えるように左手で頭を押さえる琴里の心に、暗い影が蠢き、一時は闘争に呑まれそうだったその声は、その顔は、士道の知る琴里のものだった。

 

「五年前。今から五年前。天宮市南甲町に住んでいた私の両親は、炎の精霊ーーーーあなたの手で殺された。あなたは、私の眼の前で、二人を灼いた・・・・ッ! 忘れるものか。絶対に、忘れるものか。だから殺す・・・・私が殺す! あなたを殺すッ! 〈イフリート〉ッ!」

 

裂帛の気合いと共に、琴里の身体が吹き飛ばされる。

それは折紙の力が増したというよりは、琴里の身体から力が抜けているような様子だった。霊装を纏った精霊とは思えないほどあっさりと、小さな身体が宙を舞う。

地面に叩きつけられた琴里は、ただ呆然と目を見開き、カタカタと歯を鳴らしたその瞬間ーーーー。

琴里の身体に異変が起きた。

 

「そん、な・・・・私、はーーーー」

 

琴里の身体に紫の亀裂が走り、徐々に琴里の小さな身体に広がる。ファントムが生まれる症状が起こったーーーー。

動かない琴里を見据えて、折紙は即座に随意領域<テリトリー>を再展開し、体勢を立て直すと、琴里に向けて大型レイザーブレードを振るった。光の刃が射出され、琴里をガッシリと拘束する。

 

「今度は、外さない。ーーーー指向性随意領域<テリトリー>・展開!」

 

折紙の言葉と共に、琴里の周りを結界が取り囲む。

守る為の物でなく、閉じ込め、必殺の攻撃を与えるための殺意の檻。

 

「ーーーー!」

 

琴里は脱出ができず、亀裂の苦痛により、額に脂汗を浮かべて、苦しげに身を捩る。

 

「随意領域<テリトリー>凝縮・・・・〈ホワイト・リコリス〉、臨界駆動・・・・!」

 

折紙が、巨砲を琴里へと向ける。

 

「折紙! 止めろ! 止めてくれ!」

 

だが、その瞬間、折紙と琴里の間に身を躍らせた士道が、バッと両手を開いて琴里を守るように仁王立ちになった。 琴里の力を失った士道では、致命傷を負えば再生できず、琴里と共に撃ち抜かれるのが落ちだ。

しかし、可愛い妹が危機に瀕している。たったそれだけでお兄ちゃんが駆けつけるには、十分すぎる理由となった。

 

「ーーーーっ、士道。邪魔をしないで」

 

「そんな訳にいくかッ!」

 

士道が叫ぶと、折紙がギリと奥歯を噛み、鋭く見据える。

 

「あなたには、言ったはず。私は両親の仇を討つために、今まで生きてきた。五年前、あの炎の街を抜けてから、私の人生はそのためだけにあった。私の命はそのためだけにあった。〈イフリート〉をーーーー五河琴里を殺す事こそが、私の存在理由」

 

「・・・・ッ」

 

そう言う折紙の声を聞いて。士道の脳裏に、真那の台詞がグルグルと渦巻いた。

 

【慣れていやがりますから】

 

崇宮真那。自称、士道の実の妹。

 

【倒れないなら倒れるまで、死なないなら死ぬまで、貴様を殺し続けるのが、私の使命であり存在理由です】

 

幾度も幾度も狂三をーーーー精霊を殺し、もう元に戻らないほどに、心も擦り減らしてしまった少女。彼女が一瞬見せた、疲れ切った表情と暗く淀んだ瞳を思い出して、士道はゴクリと唾液を飲み込んだ。

何故今、あの時の真那の顔を思い出したのか・・・・それは単純な理由だった。

目の前の巨砲を構える少女の顔が、それと被って見えたからだ。

 

「駄目、だ・・・・」

 

士道がポツリと言うと、折紙は微かに眉をひそめる。

 

「駄目なんだ・・・・お前は、殺しちゃあ・・・・! その引き金を引いたらーーーーお前はきっともう、戻れなくなる・・・・!」

 

そのたった一度の攻撃で、折紙は、真那になってしまう。

心が摩滅し、もう元には戻らなくなる。

人の“絶望の感情”に敏感な士道だからこそ、分かる。今折紙が指をかけた引き金が、最後の鍵になってしまうと。

 

「俺はーーーーそんなお前を、見たくない・・・・!」

 

しかし折紙は砲を下さず、士道と背後の琴里に鋭い視線を向ける。

 

「・・・・っ、それでも、構わない。私の手で〈イフリート〉を討てるなら・・・・!」

 

「くーーーー」

 

士道は爪が食い込まんばかりに拳を握りしめた。

だが、それと同時に、士道の脳裏に一つの引っかかりが生まれた。

炎の精霊、〈イフリート〉。折紙が言った、その呼称に。

 

「ーーーー、ぁ・・・・」

 

詭弁にも近い言動。くだらない言葉遊びと、子供騙しな屁理屈と言われても反論できない。だが、それは小さくても、一つの可能性だった。どんなに細く脆く儚くても、士道の目の前に垂らされた一本の細い糸だった。

 

「折紙・・・・一つ聞かせてくれ」

 

「・・・・・・・・」

 

折紙は応えない。だがその沈黙を肯定と受け取り、士道は続けた。

 

「お前が仇と狙うのはーーーー〈イフリート〉・・・・なんだよな?」

 

「そう」

 

「焔を操り、全てを焼き尽くし、死の淵からさえ蘇る・・・・炎の精霊なんだな!?」

 

「そう」

 

「俺の妹ーーーー五河琴里じゃあなく、炎の精霊〈イフリート〉なんだな!?」

 

「・・・・何を言っているの?」

 

折紙が微かに眉を歪める。

 

「〈イフリート〉と五河琴里は同一の存在のはず。貴方は一体何をーーーー」

 

「いいから答えろ!お前の仇は炎の精霊で、人間である俺の妹じゃないんだな!?」

 

士道が叫ぶと、折紙はしばし押し黙ってから声を返してきた。

 

「ーーーーあなたの言うことは不可解。確かに私の仇は炎の精霊。〈イフリート〉。人間ではない。でも、五河琴里は精霊。その条件は成立し得ない」

 

折紙が静かに言う。士道は、ゴクリと唾液を飲み込んだ。

 

「そこを退いて、士道」

 

「駄目だ・・・・それはできない。今のお前の言葉を聞いたら、余計な・・・・!」

 

「・・・・どういうこと?」

 

士道の言葉に、折紙は言っている事が分からないと言うような様子で返す。

 

「頼む。少しでいい。俺と琴里に時間をくれ。そうしたらーーーー」

 

「認められない。今が、〈イフリート〉を討つ最大の好機・・・・! 退かないのならーーーー」

 

折紙が、砲門を構え直す。士道を貫き、琴里を消し尽くすように。

 

「くーーーー」

 

折紙の言葉が、全く分からないわけではない。きっと、間違っているのは、道理に合わない事を言っているのは士道の方だろう。

大切な人が誰かに殺されたのなら、その相手を恨むのは至極当然の事だ。

それこそーーーー自分の手で殺したいと思うくらい。

きっと折紙が今ここで琴里を殺したなら、士道は折紙が琴里に抱いたのと同じ感情を心の裡に抱き続けることになるだろう。

どれだけ口先で許すと言おうが、どれほど上辺を取り繕うが、自分の意思とは関係なく、きっと心の一番奥で、冷たい怨嗟の澱がこびりついてしまう。

それは士道が、ドラゴンに心の奥底で抱いていた嫌悪と畏怖と同じように。

だからこれは、綺麗事だ。ただの我が儘だ。身勝手なエゴだ。

でもーーーー偽善と言われようが、自分勝手と言われようが、道理に合わぬと言われようが、それでも士道には、口をつぐむことが出来なかった。

 

「両親を殺されたお前にこんなこと言っても、綺麗事と取られるかもしれない。きっと俺だって、父さんや母さんや琴里が殺されたなら、きっと相手を死ぬほど憎むと思う。矛盾してるって事は分かってる! でも俺は・・・・! 可愛い妹が目の前で殺されようとしてるのを無視なんてできないし、友達が絶望に浸ってしまうのを、黙って見ることもできねえんだよ・・・・ッ!」

 

「・・・・っ」

 

折紙が、どこか苦しげに顔を歪めるが、一瞬目を伏せ小さくかぶりを降ったかと思うと、再び顔を上げ、視線を琴里に向けてきた。

 

「それでも・・・・私はーーーー!」

 

折紙が言うと同時、士道の周囲に、見えない壁が生成された。

 

「! こ、れはーーーー」

 

士道が顔を歪めて声を上げた。先程士道の周りに展開されたものと同じ、つまりは衝撃から対象を守る防御の結界である。

折紙の意図を理解して、士道は喉を潰れんばかりに震わせた。

 

「止めろ、折紙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーッ!!!」

 

「う、あ、ああああああああああああああああああああーーーーーーーー!!!」

 

折紙が、士道の声を搔き消すように叫びを上げ、構えた砲の照準を琴里に合わせた。

 

だが、その時。

 

「ーーーーさせるかッ!」

 

上空から響いた声がーーーー折紙の構えた二門の砲のうち、右側の砲門が綺麗に切断された。

 

「・・・・!?」

 

折紙の顔が驚愕に染まる。だが、その襲撃者の姿にすぐに見当を付いたのか、忌々しげに唇を歪ませた。

 

「っ、夜刀神十香・・・・!」

 

「十香!」

 

「うむ、無事か。シドー、琴里」

 

水着の上に淡く光る光のドレスを半霊装に纏い、大きな一振りの剣を握った十香だった。




今回で士道とドラゴンの関係性は、『ギブアンドテイクな関係』になりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。