デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
「令音さん、琴里の様子は?」
軽い検査を終えた十香と四糸乃を五河家に待機させた士道とドラゴン(思念体)は〈フラクシナス〉に行き、艦橋に付くと、医務室から艦橋に戻ってきた令音に声をかけると、令音は小さく首肯する。
「・・・・ああ、心配ないよ。すぐに目覚めるだろう」
「そうですか・・・・あと、折紙は・・・・どうなるんですかね」
安堵の息を吐き出すが、すぐに難しげに呟いた。
「・・・・ん、まあ、あれだけの事をしでかしたんだ。命までとは行かなくても・・・・退役させられ、二度と顕現装置<リアライザ>に触れる事が出来なくなるかもしれないな」
「・・・・っ」
士道は息を詰まらせるが、仕方ないとも思うと同時に、これで折紙が十香達精霊と戦うことが無くなるかも知れないと、都合の良い考えが少し過った。
とにかく、折紙の処分が決まるのを待つしかないので、ハアと息を吐いた。
「ーーーーと、そうだ、シン」
と、そこで令音が声をかけてきて、そのまま深々と頭を下げてくる。
「・・・・すまなかった」
「え・・・・?」
突然の事態に、士道は素っ頓狂な声を発する。
「な、ど、どうしたんですか令音さん、急に」
「・・・・今回の件に関しては、完全に私の判断ミスだ。要らぬ気を回し、結果君たちを危険に晒してしまった。・・・・本当にすまない」
「や、そんな・・・・あ」
令音の判断ミスとは一体、と、そこまで考えて、短く声を発した。
「もしかして、十香と四糸乃達をデートに同行させたアレですか? まあ・・・・確かに最初は焦りましたし、精霊の皆が〈仮面ライダー〉になって戦う事になりましたけど、結果的に俺も助けられました訳ですし・・・・」
士道が苦笑しながら言うと、令音はふっと首を横に振った。
「・・・・確かにそれもある。ーーーーが、私が致命的に読み違えたのは、もっと前のことだ」
「え? もっと前??」
予想外の言葉に、目を丸くする士道は怪訝そうに訊くと、令音はゆっくりと自分の席に座り、コンソールを操作し始めた。
「・・・・本来なら、そもそも今日のデート自体するべきでなかったんだ。一昨日ーーーーシンが目覚めた段階でキスをしてしまった方が、安全に琴里の力を封印できた。・・・・ただ、あまりにも琴里が今日のデートを楽しみにしていたものだから、言い出すことができなかったんだ。・・・・本当に、すまない」
「は・・・・?い、いや、そんなの無理でしょ?まずは好感度を上げないとーーーー」
『(あぁ、そう言う事か)』
士道が困惑したように言い、ドラゴンが察したように理解した。
と、そこでモニタに、奇妙な画面が映し出される。見覚えのある画面ではある。精霊の好感度の推移を時間ごとに表した折れ線グラフだ。
だが、今そこには、好感度を示す線が描かれていなかった。
否、そこで士道は間違いに気づく。線は、描かれている。
ーーーー画面の一番上に沿うように、真っ直ぐに伸びていた。
「これは・・・・」
「・・・・琴里のモニタリングを初めて二日間。その間、好感度数値はまったく変化していてなかったんだ。“最初からクライマックスの状態”で・・・・一度もね」
「え、そ、それって・・・・つまり」
『いい加減に気づけこのノミと同類脳ミソ』
「・・・・最後に言っていたじゃあないか」
『貴様の義妹は・・・・』
「琴里は・・・・」
ドラゴンと琴里の声が重なった。
『「おにーちゃんが大好きなのさ(だとな)」』
「え・・・・」
ドラゴン(思念体)が士道から離れ、士道本人が、ポカンと口を開けて目を見開ーーーー
「う・・・・ッ、うがああああああああああああああああああああああああああああッ!」
「ギャンッ!!」
こうとしたところで、艦橋にやって来た琴里が奇声を上げて士道の背後に『キックストライク』のような見事な蹴りを入れ、士道はつんのめり、そのまま令音の豊満な胸元に頭からダイブした。
「・・・・ん?」
令音が視線を下に落として不思議そうに言い、士道は慌てて姿勢を直し、頭を下げた。
「おッ、お邪魔しました・・・・!」
「・・・・ん、また来たまえ」
士道が後方を振り向くとそこには、病衣の上に軍服のジャケットを羽織った琴里が、顔をフレイムスタイルや〈仮面ライダーイフリート〉のように、真っ赤にしながら立っていた。
「琴里!? 目が覚めーーーー」
「そんなの良いから今のを忘れなさい! そんなの数値ミスに決まってるんだから!!」
「・・・・そんな事は無いぞ。装置にも問題はーーーー」
「『ラ・ピュセル』の限定ミルクシュークリーム10個!」
「・・・・すまないシン、計器の故障だったのかもしれない」
「・・・・はあ、そうですか」
琴里が叫ぶと、令音が一瞬で前言を翻した。随分と堂々とした買収に士道は頬を掻いた。
琴里が、はぁはぁ、と肩で息をして呼吸を整え、士道に向いた。
「・・・・それで士道。十香と四糸乃に“ドラゴンが二人の霊力を得ていた事”を話したの? 二人の精神状態が不安定になった報告は受けてないのだけれど?」
ウィザードラゴンが精霊の霊力を吸収していた事を、十香達に伝えたかと琴里が聞くと、士道は渋面を作りながら口を開いた。
「いや、それがーーーー」
* * *
士道は、五河家のリビングのソファに腰かける十香と四糸乃(&よしのん)に、“ドラゴンが二人の霊力を士道の体内から得ていた事”を伝えた。
二人がショックを受けるかもしれない。あれだけ信頼していたドラゴンの本性を知って傷付くかもしれない。しかし、二人に何も教えないと言う事は、士道にはできなかった。
【【・・・・・・・・】】
十香と四糸乃はキョトンとした表情をして、よしのんも首を傾げるような挙動をしている。
きっと意味が分からず戸惑っていると思い込んだ士道は、意を決して口を開こうとするが、その前に十香が声を発する。
【何を言ってるのだシドー?】
【そうそう。今さらそんな事言い出したりして?】
【えっ???】
十香とよしのんが、まるで空の色は青色、ポストの色は赤いと、当たり前の事を、さも驚く事実と言わんばかりの士道の様子に首を傾げ、士道も予想外の返答に困惑して、間の抜けた声を発する。
【あ、あの・・・・ドラゴンさんが、私や十香さんから霊力を貰っている事、ですよね?】
【あ、ああ・・・・】
四糸乃がオズオズとそう言うと、士道は唖然となりながらも首肯した。
【それならとっくに知っているぞ。私がマンションに越した時にドラゴンが話してくれたのだ】
【わ、私も、お話の練習相手になってくれた時に・・・・】
【ウンウン】
【え、ええぇぇっ!!?】
* * *
「・・・・・・・・つまり、なに? 十香も四糸乃も最初っから知ってたってこと?」
「ああ。それで、どういう事だドラゴン・・・・!」
士道は頭上にいるドラゴンに問うと、ドラゴンはフンッと、鼻で息を吐いて口を開く。
『我がいつ、精霊達から霊力を掠め取っているだなんて言ったのだ?』
「えっ???」
『貴様が勝手に盗んでいると思い込んでいただけだろうが』
「なっ・・・・!」
『流石の我でも精霊達に断りもなく霊力を得ようなどと思わん。本人達にもちゃんと断っておいたわ。精霊達も【世話になっている恩返しになるなら構わない】と了承してくれたのだ』
「だ、だったらなんで俺に教えなかったんだよっ!!?」
十香達には教えて、自分には教えなかった。
それを士道が聞こうとすると、ドラゴンは、『はぁあ~』と、盛大なため息を吐いて口を開いた。
『“状況”と“貴様の性格”を考慮して、話さなかったのだ』
「はぁ?!」
「「・・・・・・・・・・・・・・あぁ~~」」
士道は意味が分からないと訝しそうに言うが、琴里と令音は、顎に手を置いて少し考えると、納得したように頷いた。
「なるほど。確かに士道には言わないわね。私でも言うのは少し時間を置いてからにしていたわ」
「・・・・そうだね」
「どういう事だよ琴里?」
「簡単よ。例え十香と四糸乃が納得したとは言え、ドラゴンは精霊の霊力欲しさに協力している。こんな事を聞かされて、士道は、【十香達が納得しているなら、俺も納得しよう】って、割り切れる?」
「うっ・・・・!」
「大方【十香達が了承しても、俺は納得できないし、したくない!】って言い出して、ドラゴンと不仲になるでしょうね?」
「うぅっ・・・・!」
琴里が指摘した事が図星だったのか、士道は息を詰まらせる。
「・・・・いつ次の精霊が現れるか分からない上に、ファントムの脅威もある。そんな状況下で、シンが魔法を使えない状態になるのは危険<リスク>が高過ぎる」
「さらに現れたのが“あの狂三”よ。しかもあれほどとんでもない強さのフェニックスも出現した状況で、士道がドラゴンとの確執を頭から切り離して、思考を切り替えるだなんて、できないでしょう?」
「う、うぅっ・・・・!」
図星の流星群に士道はただ息を詰まらせる。
「・・・・つまり今回のドラゴンとの問題は・・・・」
「士道が“割り切る理性”と“切り替える知性”があれば、ややこしくならなかったでしょうね」
「いや、でもよ・・・・!」
『言い訳するな。このすぐ感情的かつ短絡的な行動する思い込みの強い鼻垂れの馬鹿ガキが』
バシンっ!!
「んがっ!」
見苦しく言い訳しようとする士道の頭を、ドラゴンがしっぽで殴ったような衝撃が走り、久しぶりの痛みに悶える士道を無視して、ドラゴンは琴里に目をやる。
『まぁこのガキの事はそこら辺のクズ籠にでも放り込んで、〈イフリート〉よ。今回の騒動も、貴様が最初っから素直に行動していれば、あんな茶番劇をせずに済んだのではないか?』
「んなっ!!?」
ドラゴンが放った一言で、琴里は顔を赤くして愕然となる。
が、すぐにキッとドラゴンを睨んで、念話で会話する。
《一応言っておくわよドラゴン。士道とギブ&テイクな関係になったからって、貴方への警戒を解くつもりはないわよ?》
《構わん。口では何のかんの言っても、貴様の愚兄は少し優しくすれば誰彼構わず舌を出してしっぽを振り回す愚かな犬、愚犬のような愚兄だからな。貴様くらいは警戒して良いだろう》
ドラゴンの『愚犬のような愚兄』と言う一言で、琴里は思わずプッと吹き出しそうになるのを堪えて、話を続ける。
《まぁ確かに士道は少し、イエ、か~な~り! お人好しだから、貴方の事を警戒するって言っても直ぐに解いてしまうわね》
《この愚犬は“他人の綺麗な所だけを見て、汚い所には目を向けようとすらしない”からな。貴様のような切れ者が一緒にいてちょうど良いかもしれんな》
《フン》
ドラゴンがいるのもちょうど良いかもね、と言いそうになったが、琴里はソッポを向いて、艦長席まで歩き、ジャケットからチュッパチャプスを放り込んで『五年前の出来事』の資料作成に取り組んだ。
「あんまり無理するなよ、琴里」
「善処するわ」
『(守る気無いな)』
そこで琴里は、士道からはギリギリ表情が窺えない位置まで首を回すと、小さく声を発する。
「ねえ、士道。・・・・私の霊力を封印する前の事・・・・本当?」
「封印する前・・・・て言うと、ああ。もちろん本当さ。大好きだぞ、琴里」
「・・・・っ!!」
琴里は肩を震わせ、落ち着かない様子で指をワキワキと動かす。
「え、あ、そ、その・・・・わ、私ーーーー」
「妹としてな!」
「ーーーーそっちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!」
「ジム・・・・ッ!?」
士道が言った瞬間、琴里はそれはもう見事なドロップキックを放った。
奇妙な悲鳴を上げた士道は吹き飛ばされ、再び令音の豊満な胸元にダイブした。
「・・・・ん、早かったね」
「すッ、すみません!」
『・・・・・・・・』
士道は慌てて身を起こし、ドラゴンの凄まじく愚かな者を見る目を見なかった事にして、琴里に向けて声を発する。
「琴里!」
「・・・・何よ!」
えらく不機嫌でこちらに顔を向けず、とても傲慢で、強い口調で、昔の泣き虫だった琴里からは考えられない様子で。
士道は頭を掻いて息を吐くと、その背に言葉を投げる。
「・・・・そのリボン、最高に似合っているぞ!」
「・・・・!」
琴里が、驚いた様子で振り向き、そして数瞬の間士道と目を合わせーーーー。
「・・・・ん。ありがと、おにーちゃん」
琴里の声を聞いて、士道は艦橋を出ていった。
◇
それは五年前、士道が琴里の霊力を封印した際に、二人が見た『過去の情景』。
眼前にはーーーー炎が、広がっていた。
【あ、あ、あぁ・・・・】
琴里の大好きな家が、公園が、街が、燃えていく。
訳が分からなかった。9歳の幼子の琴里の思考が追い付かないのも無理はない。
自分はただ、『強くなりたかった』。泣き虫な自分ではおにーちゃんに嫌われると思っていた。
すると、自分の目の前に『何か』が現れ、自分の手のひらに小さな赤い宝石が現れ、『何か』に言われるままそれに触れた瞬間、全身が焼かれるような熱さと苦痛で顔を歪めると同時に、自分の衣服が奇妙な和服となり、琴里の周囲に真っ赤な焔が生まれ、痛みが和らぎ、気がつくと、目の前のこの惨状だった。
【や、めて・・・・やめて・・・・っ!】
懇願しても、焔の勢いは衰えてくれず、それどころか琴里の意思を無視するように、その体積をどんどんと増やしていく。琴里は顔を歪め、目から大粒の涙を零した。
【お・・・・にーちゃん・・・・!おにーちゃん・・・・ッ!】
【琴里!】
ーーーーと。
そんな琴里の鼓膜を、聞き慣れた声が震わせた。
琴里が今、一番聞きたかった声。ーーーー大好きな、おにーちゃんの声。
顔を向けると、そこには士道の姿があった。手にした荷物をその場に放り、琴里の名を叫びながら、こちらに走ってくる。
【ぅ、ぁ、ぁ、お、おにぃちゃん・・・・っ、おにーちゃん、おにーちゃん・・・・ッ!】
涙でぐしゃぐしゃの顔を両手で拭いながら、士道の名を呼び返す。
だが、士道が琴里の近くに寄ろうとしたその瞬間、琴里の身体に纏わりついていた焔が、急に大きく膨れ上がった。
【・・・・っ!】
琴里は身を固くした。
これはーーーー駄目だ。このままではーーーー。
【おにーぢゃん! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇっ!!】
【えっ?】
士道が、呆然と声を発する。
しかしその時にはもう、士道の身体は、琴里と焔によって吹き飛ばされていた。
【おにーちゃん・・・・っ!】
琴里は痛む足をどうにか動かし、士道の元へと駆け寄った。
倒れた士道の状態は、酷いものだった。肩から腹部にかけて肉を抉られたような大きな傷跡が這っており、周囲は無惨に焼け爛れていた。素人目にも、助かるような状態にはとても思えない。
【おにーちゃん・・・・おにーちゃん! おにーちゃん・・・・ッ!】
何度も呼びかけるが、返事は無い。やがて、士道はうっすらと開けていた瞼を閉じーーーー。
【ーーーーねえ、彼を助けたい?】
その瞬間。さっき聞いた声が、琴里の頭上から聞こえてきた。
【・・・・ッ!?】
弾かれるように顔を上げると、そこには『何か』が。
ーーーー琴里にこの力を与えた、『何か』が立っていた。
【あなた、はーーーー】
琴里はわなわなと身体を震わせながら、『何か』を見上げた。
【わ、私の身体に・・・・何をしたの!? 私・・・・要らないっ、こんな力・・・・要らないっ!】
琴里が言うと、『何か』は静かに返した。
【そう。でもそれじゃあ、彼はこのまま死んでしまうけれど、それでもいい?】
【・・・・っ!】
『何か』が言った悪魔の一言に、ひっ、と喉を痙攣させるように息を途切れさせ、琴里は士道の方へと視線を戻した。
【おにーちゃんを、助ける方法が・・・・あるの?】
【ええ】
そして『何か』は、その『方法』とやらを、静かに語り始めた。こんな状況で言うには、あまりに馬鹿馬鹿しい、方法。だけど琴里には、他に選択肢など無かった。
この『何か』が信用に値しない事は百も承知している。けど、このままでは士道が死んでしまうのも、また事実であった。
琴里は小さく深呼吸をすると、『何か』の言った『方法』を実行した。
ゆっくりと士道に顔を近づけーーーーその唇に、自分の唇を押し当てる。すると、
【ーーーーーーーー!!】
琴里の身体に纏わりついていた白い和装が一瞬淡く輝き、徐々に空気に消える。
そしてそれと同時に、士道の身体に炎が這っていく。
だがそれは、士道の身体を灼くものではなかった。
炎が這った跡から、凄惨な傷跡が消えていったのである。
【お・・・・にーちゃ・・・・】
そして、程なくして。
【あーーーー、・・・・】
士道が、ゆっくりと目を開けた。
【お、にーちゃん・・・・おにーちゃん、おにーちゃん・・・・っ!】
琴里は自分が半裸姿になっているのにも構わず、士道に抱きついた。
【・・・・琴里。まだ、泣いて、るのか・・・・】
【だって・・・・だっで・・・・】
言いながら、琴里はずずっと鼻を啜った。
すると士道は困ったように苦笑して、ゆっくりと身を起こした。
【ーーーーああ、そうだ・・・・】
士道はよろめきながらも身体を引きずり、先ほど自分がいた位置まで這っていく。
そして琴里に駆け寄る前に放った鞄を拾い、再び琴里のもとに戻ってくる。
士道は鞄を開け、中から綺麗にラッピングされた小さい紙袋を取り出した。
【お誕生日・・・・おめでとう、琴里】
【えーーーー?】
琴里は目を丸くしてぽかんと口を開けた。今の今までそんなことすっかり忘れていたしーーーーそれに何より、琴里の誕生日なんて、士道は気にしてないと思っていたから。
士道はそんな琴里のリアクションに苦笑しながら、それを手渡してくる。
琴里はキョトンと、士道の顔と紙袋を交互に見てから、それを開けーーーー中から、琴里の趣味よりも少しだけ大人びた、黒のリボンを取り出した。
【リボンーーーー】
士道はああ、と頷くと、そのリボンを手に取り、琴里の髪を二つに括った。
慣れない作業の上に、今しがた死の際を彷徨っていた状況である。琴里の頭はなんとも不格好な様相になってしまう。
だけど琴里は、そこで初めて、弱々しくではあるが、唇を笑みの形にした。
それを見て、士道も微笑む。
【ん・・・・やっぱ俺、笑ってる琴里の方が好きだぞ】
【ほんとう・・・・?】
【ああ。ーーーーだから、兄ちゃんと約束できるか? 最初は・・・・それを着けてる間だけでいい。それを着けてるときは、琴里は・・・・“強い子”だ】
【“強い・・・・子”】
琴里は、二つに結われた髪を撫でながら呟いた。
士道が深く頷くと、琴里は手で目をゴシゴシと擦り、鼻を真っ赤にしながら、先ほどよりも強い笑顔を作って見せた。
【・・・・うん、分かった。おにーちゃんが・・・・言ってくれるなら、私は、強い子になる】
あの『何か』がくれた宝石でさえ、琴里は強くなれなかった。
でもーーーー士道がくれたこのリボンでなら、少しだけ、強くなれる気がした。
【よし・・・・良い子だ。じゃあ、早くここからーーーー】
すると、士道が琴里の手を取って立ち上がろうとした所で。
【ーーーー治ったんだね。何よりよ】
『何か』が、三たび琴里の目の前に現れた。
【な・・・・・・・・!】
士道が琴里を自分の身体の陰に隠す。そんな様子を見て、『何か』は小さく笑った気がした。
【安心していいよ。私は君たちに危害を加えるつもりはない。ーーーーむしろ最高の結果を残してくれた君達に感謝をしたいくらいなんだから】
【何を・・・・言って】
しかし『何か』は琴里の問いに答えずに、ユラリ、と二人の頭に手を伸ばしてきた。
【・・・・・・・・!!】
本能的な恐怖を感じ、今すぐここから逃げ出そうと士道の身体を引っ張るもーーーーまるで射竦められたように、琴里はその場から動くことができなかった。
ゆっくりと、『何か』の手が近づいてくる。
【ーーーーでも、君たちはまだ、私のことを知らなくていい。少し、忘れていてもらうよ】
そして、『何か』の右手が琴里の額に触れたその瞬間。
ーーーー世界が、暗転した。
◇
『それから貴様も〈イフリート〉も、その『何か』の事を忘れていた、と言う事か?』
〈フラクシナス〉から戻り、十香達と夕食を終え、十香達を送った士道はドラゴンに『五年前の出来事』を話した。
「ああ。琴里の霊力を封印する時に甦ったんだ」
『・・・・話から推察するに、おそらくその『何か』が、“精霊の存在についての真実”を知っている可能性が高いな』
士道もそう思う。五年前琴里と士道の元に現れた謎の精霊のような『何か』。ーーーー恐らく、折紙の両親を殺した精霊。存在を思い出しても、その正体は闇の中だった。
『それで、もしその精霊が現れれば、無表情(折紙)はまた今回のような行動をするだろう。その時貴様はどうする?』
「っ!!?」
そうだ。もし両親を殺した精霊が現れれば、折紙は今回のような行動を起こす。
今回は僅かな可能性のお陰で折紙を止めることが出来たが、本物の仇を目の当たりにして、折紙が冷静になるとは思えない。
『・・・・まぁ、今考えてもどうにもならんが、一応その拙すぎる脳ミソの片隅に置いておけよ』
「あぁ・・・・」
『それと小僧。1つ言っておく』
「ん?」
『貴様は言ったな?【助けられるんなら、なんだってやってやる!!】ってな?」
「あ、ああ・・・・」
それは、琴里の霊力を封印する際に言った言葉だ。
『“覚悟”はしておけよ』
「え?」
『【なんだってやってやる】。この言葉を使う事で生じる“事態”と、その“事態”を引き起こした“責任”と“覚悟”を持っておけと言っているのだ』
「“責任”と、“覚悟”・・・・??」
士道はドラゴンの言葉の意味が分からず首を傾げる。ドラゴンは息を吐くように無責任な事を言う士道に対する苦言として言ったのだ。
しかし、この数ヶ月後。士道はその意味を身を持って実感する事を、今はまだ誰も知らないーーーー。
ーメデューサsideー
現在一時閉鎖となった夜の『オーシャンパーク』の一角で、メデューサファントムことミサが現れた。
「・・・・・・・・・・・・」
ミサは、フェニックスが倒された場所を鋭く見据えると、その場所に異変が起こった。
なんと燃えカスのような物が集まり、業火のように燃え上がると、燃えカスが形を作り、驚くべき事に、フェニックスが復活した。
『あぁーーーー!! やっと復活したぜぇ!!』
フェニックスは起き上がって、身体を伸ばし、ユウゴに戻った。
「フェニックス。不覚を取ったな」
「へへへ、そう言うなよ。しっかし、魔法使いは雑魚だったが、ヤツの中のファントムはスゴかったぜ!」
「・・・・・・・・そうなのか?」
「ああ! あんな雑魚に封印されるなんてとんだマヌケだと思っていたが、ありゃぁとんでもねぇぜ。見た瞬間凄まじい魔力を内包しているのが分かった! ハハハハハハハ! 楽しみが増えたぜっ!!」
「・・・・っ!」
高笑いをするユウゴを静かに見据えていたミサは、突如背後を見ると驚愕する。何故ならソコにはーーーー。
左右非対称の白と黒のマーブル模様の身体、目のバイザーは上に伸びた頭に嵌められた紫の宝石を囲うようにあり、胸にも紫の宝石を嵌め込んだ魔獣ファントム。
「『ワイズマン』・・・・・・・!!」
「っ!」
ミサとユウゴは、片膝を付いて頭を垂らす。このファントムこそが、メデューサ達ファントムの首魁、『ワイズマン』だった。
『フフフフフ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・』
『ワイズマン』は夜空に浮かぶ月を見上げながら、静かに笑い声を上げた。
ー???sideー
「ふぅ~ん。あれが『ワイズマン』か。今回の事で、ファントム側も本腰を入れるかもねぇ。頑張ってよ、士道くん・・・・」
『ワイズマン』達からかなり離れた位置にいる青年が、含み笑みを浮かべていた。その青年は、以前士道に、『天宮大火災』の事を聞いた青年だった。
しかし、その青年の腕には、“髪の長い女性の頭部”が抱かれていたーーーー。
ー???sideー
「「・・・・・・・・・・・・」」
そこは日本から遠く離れた太平洋の海上。
陸地など無いその場所の上空で、二人の少女がいた。
「ーーーーー!!」
「ーーーーーーー」
拘束衣のような服装を着用し、瓜二つの姿をした二人は、言い争うような素振りをしているとーーーー。
突如、空の上で競争するかのように翔んでいった。
そして二人が飛ぶ周囲には、台風のような積乱雲が起こっていた。
ー『五河シスター』・FINー
次回は幕間の後に始まります。
次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。
修学旅行で南の島にやって来た士道達来禅高校の生徒達、そこで嵐と共に現れた新たな二人の精霊。
「最後の決闘だ! この男ーーーー士道を、“先に落とした”方の勝ちだ!」
「承諾。ーーーーその勝負、受けて立ちます」
どちらが真の精霊かを決める二人の精霊の裁定役となった士道。
謎の通信障害で〈フラクシナス〉からもサポートが受けられない状況の士道の前に、遂に〈ラタトスク〉の宿敵、〈DEM〉が動き出す。
「『イレギュラー』である〈仮面ライダー〉がどれ程の者か、少し試させていただきます」
士道とドラゴンは、二人の精霊の過酷な運命を覆すため、更なる力を解放するーーーー。
「二人を、助けて見せるぜ!」
第五章 『八舞テンペスト』
≪我の力に恐れ戦くが良い!!≫