デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
修学旅行準備
ードラゴンsideー
その日の深夜。ドラゴンは奇妙な夢を見た。
自分は“人間の姿”で、町を歩いていると、突如目映い光に見慣れた街並みが包まれたーーーー。
その瞬間、凄まじい轟音と衝撃波が吹き荒れ、“人間の身体”は軽々と吹き飛ばされた。
意識が戻ると、“何も無くなって”いた。
ビルも、家々も、車も、電信柱も、信号機も、街路樹も、道路も、そしてーーーー人の姿も、全てが無くなっていた。
『(これは、『空間震』だな・・・・)』
そして、遥か前方の、まっさらとなってしまった大地の上に、小さな人影がーーーー。
『(あれは・・・・??)』
ドラゴンは人間よりも遥かに優れた視力でそれを見ようとするがーーーー。
ジリリリリリリリリリ・・・・!
「ふぁあ~、よく寝たな・・・・」
突然のアラーム音に、夢の世界が消えると、いつもの士道の部屋と、士道の寝起きの間抜け面と緊張感の無い能天気な声が聴こえた。
≪・・・・・・・・・・・・≫
士道は窓に映ったドラゴンに挨拶をしようとする。
「ん? ドラゴンおはよーーーー」
バシィンッッ!!!!
「痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
≪少しは空気を読め。このド低能の木偶の坊めが・・・・!!≫
“何か”を知り得そうだったのに、それを中断されたドラゴンの理不尽な尻尾のド突き(威力かなり強め)による激痛で、士道は床にのたうち回っていた。
ー士道sideー
そして、時間は過ぎーーーー。
「終わったー・・・・」
聞き慣れたチャイムが校内に鳴り響くと同時に、五河士道は精根使い果たしたように机に突っ伏した。自分では分からないが、おそらく頭から煙が立っててもおかしくないだろう。だが、それも仕方ない事だ。何しろ士道たちは今、学校生活における難敵の一つ、期末試験を終えたばかりなのだから。
≪日頃から勉学をやっていればそんなだらしのない姿を晒さずに済むのだがな≫
「(うるせぇ、だったらお前がやってみろよ・・・・!)」
今朝の理不尽の事もあり、体内のドラゴンに悪態を付く士道。
後日、令音に期末試験(全教科)と同じ問題用紙を持ってきてもらい、ドラゴンが士道に指示を出して解かせると、90点台を余裕の態度で叩き出して、士道が敗北感に打ちのめされたのは割愛する。
タマちゃんが後ろの座席から答案用紙を集めるよう指示を出すと、生徒達はゾンビのような挙動で身を起こし、順にテストを前の席へと送っていった。
いつもよりクラスメートのゾンビ率が高い気がしたが、それも当然だろう。
ただでさえ範囲の広い期末考査だというのに、つい数日前まで生徒達は、集団で病院送りになっていたのである。
先月末、来禅高校にいた生徒・教員が皆意識不明に陥った事件が発生した。
徹底的なガス管や建材、ガスを発する異物等の検査の末、休校は解除されたのだが・・・・無慈悲な事に、期末試験の日程は一日も動かなかったのである。
≪ふん。元凶の〈ナイトメア〉は未だ何処かで誰かを意識不明にさせているかもなぁ? どうなのだ? この救いようもどうしようもない綺麗事大好きボウヤ?≫
「っっ・・・・(うるせぇよ・・・・)」
ドラゴンの言葉に士道は渋面を作った。その集団意識不明事件は、精霊〈ナイトメア〉こと、時崎狂三が引き起こしたからだ。
ドラゴンは狂三を徹底的に危険視し、信用していないが、士道はそれでも狂三を助けたいと思っていた。
「・・・・ん?」
ドラゴンの嫌味に苦い顔をしていた士道が、答案用紙を前に送る際、右隣の席に座る十香が、机にびたー、と突っ伏していた。
「大丈夫か、十香?」
「う、うむ・・・・」
十香が疲れ果てた様子で、ヒラヒラと手を振ってくる。
前の中間試験では、答案用紙に落書きしていただけ(点数は令音が赤点にならないよう手を回していた)の彼女だったが、士道とドラゴンにテストの意味を聞いてからは、自分も勉強を頑張って見ようと始めていたのだった。
十香の自発的な行動は〈ラタトスク〉としても望むところらしく、テスト前に五河家で勉強会を開いたのだが・・・・やはり慣れない勉強は十香の体力を相当削ったらしい。実際、勉強会を始めて僅か一時間で熱を出してしまった。勉強で知恵熱を出すとは、ギャグ漫画のような事が起こるとは思わなかった。
ドラゴンが優しく十香に勉強を教えた事を伝えられた士道は、理不尽だと思って文句を言ったらーーーー。
【≪貴様のようなネズミのような生命体が、精霊達と同列扱いされると思っているのか? 本当に思い上がりの強いな。少しは身の程を弁えろ。いや本気で≫】
と、呆れ果てた口調で言われ、そこまで言うのかと軽く落ち込んだくらいだ。
「はい、ではこれで、一学期末テストは全教科終了です。皆さんお疲れ様でした」
タマちゃんが声を上げると、教室中から歓声と放念の息が漏れた。
「でも、今日はまだ決めることが残ってますから、帰っちゃだめですよぉ?」
タマちゃんが念押しするように言うと、答案の束を整え、教室を出て行った。
と、それに合わせるように、カッサカサになった十香がゆらゆらと椅子から立ち上がる。
「シドー、ドラゴン・・・・少し、水を飲んでくる」
「お、おう。大丈夫か?」
≪あまり無理をするんじゃないぞ≫
「うむ・・・・心配するな。少し疲れただけだ」
言うと、十香はフラフラした足取りで教室を横切り、扉を開けて廊下へと出て行った。
「はは・・・・まあ、頑張ったもんな」
≪〈プリンセス〉も慣れない勉強に苦労していたからな≫
士道は椅子の背もたれに身を預けーーーーぴくりと眉を動かした。
理由は単純。視界の端に、左隣に座った女子生徒の姿が映り込んだからだ。
鳶一折紙。士道のクラスメートにして、精霊を狩るASTの隊員である。
「・・・・ぅ」
何もしていないが、心臓が軋むように痛み、思わず顔を歪めた。先月の一件以来、士道は折紙と一度も会話を交わしていなかったのだ。
なんとなく、この機会を逃すと、また話すチャンスを逸してしまう気がした。士道は意を決して唇を開く。
「お・・・・折紙」
士道が名を呼ぶと、折紙は一瞬肩をピクリと動かしてから振り向いた。
「ーーーーなに」
いつものように抑揚のない声音で言ってきた。
「え、ええと・・・・」
士道は、あの一件について話を訊こうと思った。だが、クラスメートの耳がある教室内でそんな話をするわけにもいくまい。
幸いなことに、帰りのホームルームまでには少し時間があるし、十香も席を外している。士道はゴクリと唾液を飲み下した後、再び口を開いた。
「折紙、ちょっと、二人きりになれる場所に行かないか?」
「・・・・・・・・っ」
士道がそう言ったところで、折紙が眉を動かした。
「“二人きり に”ーーーー“なれる”、“場所”?」
そして何故か、一言ずつ区切るように言ってくる。
「ああ。ほら、前話をした階段の上とかでもーーーー」
「ーーーー来て」
折紙はすっくと立ち上がると、そのまま士道の手をむんずと掴んで歩いて行った。
「お、おい、折紙?」
士道は折紙に連行されて廊下へと出て行った。
そしてそのまま折紙は、校舎端にある女子トイレへ向かっていった。
「いや、ちょっと待てよ!」
「なに」
士道がすんでで手を振るが、折紙は不思議そうに首を傾げる。
「ここは教室から離れているから、テスト期間中はまず誰も来ない」
「いや、そうかもしれねぇけど!」
「大丈夫」
≪・・・・この女、実はあの排泄物<神無月>と同じくらいの変質者なのではないのか?≫
ドラゴンがそう呟くのを、士道は聞かなかったことにして、折紙の手を何とか引っ張って、屋上の方に駆け寄った。こういう時ほど、ファントムとの戦闘で鍛えられていて良かったと心から思った。
「何でこんなところに?」
「トイレ何かで会話なんてできるかよ! 俺は・・・・ただ、先月の事について話をしようと」
「・・・・ああ」
どことなく残念そうな顔で、折紙は納得した。
「・・・・何をすると思ってたんだ?」
「それは」
「やっぱ言わなくて良いですごめんなさい」
「そう」
≪やはりあの排泄物<神無月>と同レベルだな・・・・≫
ドラゴンの呟きに、士道は黙秘をすることにし、折紙は静かに唇を開く。
「ーーーー査問の結果、2ヶ月間の謹慎処分が言い渡された」
「謹慎・・・・ってことは、ASTを辞めずに済んだのか!?」
「(コクン)」
「そっか・・・・クビにはならなかったのか」
「なぜそんな反応をするの?」
「あ、いや・・・・確かに、そうだな。何でだろうな」
折紙が微かに眉を揺らしてそう言うと、士道も困ったような顔になる。
折紙に十香達精霊と戦ってほしくない。しかし、折紙がASTを抜けなくなって、少しだけホッとしている自分がいた。
≪貴様はとことんまで面倒臭い性格をしているな≫
「(うるせぇよ・・・・!)」
それから、折紙は未だに炎の精霊〈イフリート〉、つまり士道の義妹の琴里が両親の仇かどうか半信半疑である事と、それでも士道の義妹を殺したくない事を伝えられた。
士道が〈イフリート〉の『再生能力』を有している事に関しての疑問を聞かれ、「自分は人間だ」と伝えた。
それから折紙を先に教室に戻らせると、ふと窓を見ると、そこには自分の姿ではなく、ドラゴンの姿が映っており、ドラゴンが口を開いた。
≪折紙<無表情娘>の両親の仇の事だが、以前も言ったが、もし『本当の仇』が現れた時、貴様はどうするのだ? また一生の頼みとかほざいて止めるか?≫
「っ!・・・・そ、それは・・・・」
≪そしてもう一つ。〈イフリート〉を仇と狙うヤツが他にも現れるかもしれんぞ?≫
「なっ!? どういう事だよ!?」
≪とことん愚鈍だな貴様は? あの大火災は広範囲で起こったのだぞ? 火災で被災し、“死傷者が出なかった”と思うのか?≫
「っっ!!?」
ドラゴンに言われ、士道もハッとなる。
あの大火災で被災したのは鳶一家の人達だけではない。ヘタをすると何人か、何十人と言った被災者がいても可笑しくない。
≪もしもその被災者達か、その遺族が〈イフリート〉の正体を知れば、間違い無く〈イフリート〉を狙ってくる。・・・・そんな時、貴様はどうする? 無表情娘の時のようにはいかんかもしれんぞ? それともその被災者達全員にその低レベルで無価値な頭を地べたに叩きつけて謝罪しまくるのか?≫
「・・・・そんな事になっても、俺は・・・・俺は琴里を守る。そして、被災者達にも分かって貰う。あの大火災は琴里の意思じゃないって・・・・!」
≪ふん。まぁ良い。とりあえず、精霊を狙ってくる人間達とも戦う覚悟をしておけ。貴様はいきなりそんな場面に遭遇すると、すぐに精神がヘタレるからな≫
ドラゴンの言葉を内心五月蝿いと呟いた士道が教室に戻ると、折紙が十香に、士道と折紙の内緒話をしていた事を教えられ、その事を問い詰められているとクラスメート達がーーーー。
「五河君サイテー」「十香ちゃんと言う者がありながら・・・・」「マジ引くわー。プレイボーイ気取りの下衆野郎め・・・・!」「ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・!」「なあ毒出すのって酸性と塩素系だっけ?」「ちょっと遠出の学校に行って星座のスイッチでも探してくる」「じゃ俺はバイト代を使って果物の錠前でも買ってくるわ」「では俺は貯金を全て使って、風の都に売っているって聞くUSBメモリでも買ってくるぜ」
「後半! 何しようとしてんだよ! あと殿町! お前変なメモリを買おうとするなよ!!」
と、弁解しようとするが、まるで聞き入れてもらえなかった。
≪小僧。貴様は本っっっ当に、クラスメート達から人徳や人望が無いのだな・・・・くくく・・・・!≫
と、ドラゴンに嘲笑されて、泣きそうになった。
* * *
そして放課後。士道は『面影堂』の輪島から連絡を受けてやって来ると、輪島に教室での事を愚痴ると、相変わらず客がいない店内の作業部屋で聞いていた輪島が声を発する。
「で、十香ちゃんが修学旅行の話し合いで士道と同じ部屋が良いってゴネて男装みたいなのやって、さらにそれに便乗して折紙って娘さんが、十香ちゃんが男子のグループに入るなら士道が代わりに女子のグループに入れようと士道に女装をさせようとしたと? ・・・・その鳶一折紙って娘さん、結構いや、かなり強烈に個性的な性格しているみたいだな・・・・」
流石の輪島も、折紙の奇天烈さには苦笑いを禁じ得なかったようだ。
「まったくだよ。部屋は一緒になれなかったけど、今度は飛行機の席順で揉めたりしてさ。折紙が十香の男装の提案を支持するって言った時、二人が歩み寄るのかなぁって、少し期待したんだけどな・・・・」
店内の応接用ソファーに横になった士道が、『はんぐり~』で買ってきたプレーンシュガーのドーナッツを食べながら愚痴る(十香と四糸乃と琴里の分は別の袋に入れている)。
「十香ちゃんは精霊。その鳶一折紙さんはAST。そう簡単に和解できる訳無いと思うがな。ま、今のところは成り行きに任せるしかないな・・・・」
輪島の言うとおり、あの二人が、と言うか折紙が精霊に心を開かない限り、十香との和解は不可能とも言える。
「そう言えば、修学旅行の行き先は確か、沖縄だったな?」
「あ、いや、急に変更になったんだ。クロストラベルって旅行会社が観光PRの為にランダムにウチの高校が選ばれてさ、沖縄じゃなくて、『或美島』って島になったんだよ」
「『或美島』? 南の島には変わり無いけど、土壇場で旅行先を変えて、宿泊先はどうしたんだ?」
「なんでもその宿泊先が突然崩落して利用できなくなってさ。修学旅行の費用も全部その旅行会社が持ってくれるって言うから学校側も了承したんだよ。崩落するだなんて、宿泊先もついてないよなぁ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・≫
士道は呑気にそう言うが、輪島とドラゴンはあまりにタイミングが良すぎる変更を訝しそうに眉をひそめていた。
「琴里ちゃんはお留守番か? それとも〈フラクシナス〉でついてくるのか?」
「あぁ何でも、修学旅行の期間中は〈ラタトスク〉の本部に出向するから、不在なんだってさ」
「えっ? それじゃ〈フラクシナス〉の指揮は誰がするんだ? 副司令がいるならその人がするのか?」
「そう、かもね・・・・」
≪・・・・・・・・ハァ≫
士道もドラゴンも、神無月の変態性と空気も状況もまったく読まない変態指示を十分知っているので、士道もこの間の琴里攻略の神無月の変態指示を受けていたので渋面を作り、ドラゴンは神無月が何かやらかして、精霊達の精神状態を滅茶苦茶するような変態指示を出さないか不安のようだった。
余談だが、実は琴里もドラゴンと同じ不安感を持ったのか、深いため息を吐いていた。
士道も、ドラゴンのため息の意味を理解し、苦笑いを浮かべながら、話を変えようと声を発する。
「そ、それでさ、おっちゃん! 新しいリングでもできたの?」
士道がそう言うと、輪島は作業部屋から出て来て、『ハリケーンスタイルに良く似たリング』と『ドラゴンが落雷を落としている緑色のリング』を持って出てきた。
「ほい。おそらくハリケーンスタイルの強化形態に変身するリングと、そのスタイル専用のリングだろうな。今他の魔力石で新しいリングを生成しているぞ」
「ハリケーンスタイルの強化形態か・・・・」
士道は、手にした新たなリングを見つめる。
「あ、後ゴーレムが十香ちゃんの『予備のドライバー』を作っているからな」
「・・・・あぁそう」
まだ十香達が〈仮面ライダー〉になって戦う事に気が進まない士道は、歯切れ悪く答えた。
輪島は作業部屋に戻ろうとすると、士道に背を向けたまま声を発する。
「・・・・士道」
「えっ?」
「良いか。十香ちゃん達だって軽い気持ちや短絡的な考えで〈仮面ライダー〉になった訳じゃない。お前が十香ちゃん達やゲートの人達を守りたく戦っているのと同じように、十香ちゃん達も、お前の手助けになりたくて戦っているんだ。その気持ちだけは理解しといてやれ」
「・・・・・・・・分かったよ」
輪島にそう言われ、士道もまだ少し納得仕切れないが、とりあえずは割りきろうと考えた。
それから士道は『面影堂』を出ていきマシンウィンガーで帰路についた。
「・・・・・・・・そろそろ、“奴ら”も動くかな」
作業部屋にいるゴーレムに聞こえないように、輪島がボソリと呟いて、まだカッティングの最中である『新たなリング』の製作に戻った。
ーメデューサsideー
魔獣ファントムのアジトの洞窟がある山中の森にてーーーー。
「おいメデューサ! 俺にもう一度指輪の魔法使いと戦わせろ!」
「ダメだ」
「んだとぉっ!?」
先日、ウィザード<士道>に敗北したユウゴは、リベンジをミサに言うが、ミサが冷酷な声で却下し声を荒げた。
「しばらくは指輪の魔法使いとの戦闘を禁じる。ヤツともう一人の魔法使い(ビースト)のせいで多くのファントムが倒され、さらに精霊達も我々と戦える能力を得たのだ。こちらも戦力の増強をしなければならん。・・・・・・・・『ガーゴイル』」
『はっ!』
竜か悪魔のような風貌に背中に翼を持ち、胸から頭が前に突き出ている異様な風貌のファントム。『ガーゴイルファントム』だった。
「『ワイズマン』から指示が出た。お前は海の向こうの島に現れる“精霊達”の元へ向かえ」
『承知しました』
そう言って、『ガーゴイル』は背中の翼をはためかせ、飛んでいった。
「クソっ! クソっ! クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!」
ユウゴはフェニックスに変貌すると、“以前より強い熱波”を放った。
次回、『颶風の巫女』と遭遇! そしてーーーー。