デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
令音に案内されて資料館奥の事務室に入った士道は、十香をソファに横たえてから令音に頭を下げた。
「すいません、助かりました」
「・・・・いや、構わないよ。それよりーーーー」
令音は士道の両腕に絡みついた〈ベルセルク〉の2人の精霊に視線を向けてきた。士道が十香を下ろす際は離れたが、再び引っ付いた。
そして自分達を取り巻く環境の変化など気にしない調子で、士道に甘い言葉を囁き始める。
「さあ士道。貴様はただ選べばよい。この八舞耶具矢に忠誠を誓い、その身、その心までも捧げると言えばそれでよいのだ。そしてあの魔法使いの秘密をすべて晒すが良い」
「否定。耶具矢を選んでも何も良いことはありません。是非夕弦に清き1票と魔法使いの秘密を」
令音や十香など眼中にないように、2人して士道の耳元に息を吹き掛ける。その度に士道は顔に脂汗を垂らして身を捩った。
「・・・・厄介なことになったようだね」
「・・・・・・・・・・・・はい」
重苦しい声でそう答えると、令音がポリポリと頬をかいた。
「くく・・・・むしろ役得であろう? 僅かな間とはいえこの我の寵愛を受けられるのだ。幸運に噎せび泣きこそすれ、嘆く必要などあるまい」
≪まあこのゴミ虫には役得ではあるな≫
「懐疑。夕弦ならまだしも、耶具矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」
「ふ、ふん・・・・いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ての決闘の決着を見れば明らかになる。さあ士道よ、言うが良い。私と夕弦、どちらが女として魅力的だ?」
「質問。夕弦と『へちょ耶具矢』。どちらが可愛いですか」
「待て、なんだその微妙に貶した感じは!」
「無視。『べちょ耶具矢』より夕弦の方が」
「何悪化させてんの!?」
ギャイギャイ言い合いをしながら、耶具矢と夕弦が迫る。士道は2人を宥めるように、まあまあと手を降りながら声を発する。
「ちょ、ちょっと待てって。さっきから決闘決闘って・・・・そもそもなんでお前らは戦ってるんだよ」
「・・・・ん? ああーーーー」
士道が問うと、耶具矢が大仰に顎を上にやる。
「言ってなかったか。ーーーー我らは、“もともと『八舞』と言う1人の存在だったのだ”」
「首肯。ですが、幾度目の現界のときか、『八舞』は2つに別れてしまったのです」
「2つに・・・・って、そんな事が・・・・」
≪確かに髪型と表情と目付きと体格以外は良く似ているな≫
ドラゴンの言うとおり、双子どころかクローンと言われても信じてしまいそうだ。
「な、なんでそんな事になったんだ?」
「それを知るのは天に座する運命の女神のみよ。ふん、性悪な彼の女神は随分とーーーー」
「へ・・・・?」
≪分かりづらいわ≫
「要約。よく分からない、と耶具矢は言ってます」
「ああ・・・・なるほど」
「情緒がないぞ」
耶具矢の説明に首を傾げ、ドラゴンが呆れた声を漏らすと、夕弦が説明してくれてようやく理解した士道。
耶具矢は不満げに声を上げるが、調子を戻すようにコホンと咳払いをし、後を続ける。
「そして2つに別たれた我らは、互いの顔を見るなり、その身に、血に刻まれた運命と使命に気づいたのだ。そうーーーー真なる精霊・八舞は、この世に1人のみであると!」
「説明。2つに別たれた夕弦達ですが、やがて1つに戻る事が分かったのです」
「分かった、って・・・・」
「補足。『知っていた』と言う方が正しいでしょうか。夕弦達は、存在が別たれた瞬間から、自分たちの身体がどうなるかを理解していたのです」
夕弦は頭を指して続ける。
「解説。しかしもう、本来の八舞の人格は失われてしまっています。つまりその際、八舞の主人格となれるのはどちらか片方のみなのです」
「っ、それで・・・・決闘なのか?」
頬に汗を滲ませながら言う士道に、2人が同時に首肯する。
「つまり、あの嵐はお前ら2人の喧嘩・・・・?」
そう問うと、耶具矢は得意気に腕組みした。
「そうなるな。ーーーー我らの闘争は永きに渡る。そう、現段階で99戦を終えている」
「99戦って・・・・そんなに戦ってるのか!?」
「訂正。戦っていると言っても、『殴り合い』ばかりをしているわけではありません。『かけっこ』、『けん玉』、『大食い』、『ババ抜き』、『スキー』等、勝負の方法は多岐にわたります」
「・・・・・・・・(なんと言うか、平和な勝負だな)」
≪阿呆が。台風を引き起こす精霊2人の競走など、周囲にどれほどの被害が出ると思っているのだ?≫
ドラゴンに言われ、士道は想像すると、深刻な顔となる。
「ちなみに現段階の戦績は99戦をむかえ、25勝25敗49分け。ちょうど100戦目にあたるこの決闘が真の八舞となるはずだったのだが、あの物の怪達のせいでこうなったのだ。しかし、思いがけない物も見えたがな!」
「同意。確かに凄い物を見ました・・・・!」
『ハリケーンドラゴンスタイル』がよほど2人の好奇心の心火を燃やしたのか、興奮気味に士道を見据えた。
士道も困り顔でいると、再度耶具矢と夕弦は士道の腕に絡みついた。
「さぁ士道! あの緑の風龍の魔法使い<グリューン・ヴィントドラッヘ・マギア>の事を全て我に教えるのだ!」
「聴取。最後の決着が、今まで何度も引き分けた『殴り合い』と言うのもどうかと思っていましたので異存ありません。士道、夕弦に教えて下さい」
言って、2人は士道を誘惑するように腕に絡みつき、ウィザードの事を聞き出そうとしていた。
「い、いや、そんな事言われても・・・・」
士道は顔を赤くしながら、令音に助け船を求めようと視線を送るが、当の令音は椅子に腰かけ、小型端末を弄りながら、難しげにフゥムとうなっていた。
「・・・・やはり、駄目か」
「な、何が駄目なんですか?」
士道が訊ねると、令音は小さく頷いてから顔を向けてきた。
「・・・・ああ、〈フラクシナス〉との通信が途絶えているんだ」
「え? な、なんでまた・・・・」
「・・・・現状では不明だ。少し調べてみるよ」
言ってから令音は端末を閉じ、椅子から立ち上がる。
そして士道に迫る耶具矢と夕弦をジッと見つめて、静かに唇を開く。
「・・・・耶具矢と夕弦、と言ったね。君たちは、シンの変身した魔法使いの事と、己が真の精霊・八舞となるため、シンを取り合って勝負している。・・・・間違いないね?」
令音がそう聞くと、二人は初めて令音に目を向ける。
「ああ、その通りだ。見物は構わぬが、邪魔立てをしようと言うのなら容赦せぬぞ?」
「質問。あなたは?」
「・・・・学校の先生さ」
令音は適当に誤魔化すように言って、クルリと踵を返す。
「・・・・シン、君は十香を。ーーーー耶具矢、夕弦。君達に少し話がある。ついてきてくれ」
「っ、令音さ(バシィンッ!!)いっでぇっ!!」
危険です、と意思を込めて視線を送ろうとした士道に、ドラゴンが、黙っていろ、と言いたげなド突きをお見舞いされて悶える。突然悶えた士道に面食らう耶具矢と夕弦に構わず令音に目を向けると、令音は、心配いらない、と言うように手を上げてきた。
そして2人はーーーー。
「くく・・・・何を言うかと思えば。なぜ我が、人間風情の言葉に従わねばならぬのだ?」
「拒否。夕弦は士道と一緒にいます」
頑として動こうとしなかった。しかし令音は予想の内と言うように肩をすくめると、思わせぶりに言う。
「・・・・シンは見かけによらず難物だ。話は聞いておいて損はないと思うけれどね」
「何・・・・?」
「・・・・彼の反応を見れば一目瞭然だろう? 私から見ても、君達は非常に可愛らしく、魅力的な少女だ。だと言うのに彼は、未だどちらも選ぼうとしない」
「「・・・・・・・・・・・・」」
2人が目を丸くして顔を見合わせる。
「・・・・どうするかね? 私としては、どちらか片方でも構わないのだが」
令音はそう言って、事務室の扉を開ける。
2人は再び顔を見合わせると、名残惜しそうに士道から手を離れ、令音の後をついていった。
「はぁ・・・・なんだってまたこんなことを・・・・」
≪諦めろ。貴様が精霊達の力を封印し、その霊力を我に献上することが、貴様ごときが厄災呼ばわりされている精霊の問題でできる唯一の存在意義なのだからな≫
「・・・・ドラゴン。お前のその口調、中二病扱いしている耶具矢とそんなに変わらないな?」
≪・・・・・・・・・・・・・・・・≫
バシィィイイイイイイイイイイイイインンッッ!!!!
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」
ちょっとした反発心でそう言った士道の脳天に、かなり威力強めの尻尾でのド突きが炸裂し、床をゴロゴロと転がって痛みに悶絶したのであった。
ーメデューサsideー
天宮市の郊外にある洞窟のアジトでは、メデューサ<ミサ>とフェニックス<ユウゴ>が、ワイズマンからの指示を受けていた。
「なっ! 〈ベルセルク〉を追ったガーゴイルが向かった島に、『指輪の魔法使い』と精霊が・・・・!」
「(ニヤリ)」
ミサは驚愕するが、ユウゴは口角を上げた。すると、ワイズマンが声を発する。
『ガーゴイルだけでは荷が重い事態だ。・・・・フェニックス。向かってくれるか?』
「了解だぜ。ワイズマン!!」
ユウゴがその姿をフェニックスに変貌させた。
『メデューサ、『ヴォジャノーイ』を呼べ』
「・・・・『ヴォジャノーイ』を、ですか?」
『今回は〈ベルセルク〉の絶望が最優先だ。『ヴォジャノーイ』の能力が役に立つ。フェニックス。お前は指輪の魔法使いと他の精霊が邪魔をしないように見張っておけ』
『はっ! 邪魔にならなくても戦ってやるよっ!!』
そう言ってフェニックスは高笑いをしながら退室した。
フェニックスの無礼な態度が気に入らないのか、メデューサは目を鋭くして睨むと、ワイズマンに向き直る。
「よろしいのですかワイズマン? フェニックスの素行には目に余る所がありますが」
『ヤツの戦闘力は必要だ。今は好きにさせておけ。それよりもメデューサ、すぐに『ヴォジャノーイ』を呼んでこい。今のフェニックスならば明日の夜明けくらいには現地に着くだろう』
「・・・・はっ!」
ミサはワイズマンにお辞儀すると退室した。
そして、誰もいなくなった場所でワイズマンが呟く。
『さて、そろそろ隠れていないで出てきたまえ・・・・』
そう言うと洞窟の暗がりから、“身体の色が緑色で肩当には爬虫類の頭部を付けた顔には目や口のようなパーツがないファントム”が現れた。
『さすがはワイズマン。お見通しだね?』
『何か用かな? 『グレムリン』??』
『グレムリンなんて呼び方は止めてよ』
『グレムリン』と呼ばれたファントムがその姿を変貌させるとーーーー。
「僕の事は、『ソラ』って呼んでよ」
そこにいたのは、以前士道に接触した、『ジャーナリスト志望の青年』がいた。
ー士道sideー
時は過ぎて18時50分。さすがに日が落ちた時間。
十香が目を覚ますのを待ってから旅館に戻った一行は部屋に荷物を運び込み、夕食を終えて自由時間を満喫していたーーーー士道以外は。
「・・・・どうにかしねえとな」
≪〈ベルセルク〉も、解析官<令音>に何を吹き込まれたのか、“今のところ”は、随分大人しくしているがな≫
渋面を作りながら、今後の方針を話し合おうと資料館から出る際に、後で部屋に来るように言われたので令音の部屋に向かって足を進めていた。
≪・・・・おい、件の双子が左右の通路にいるぞ≫
「えっ・・・・な、何してんだ、耶具矢、夕弦」
ドラゴンの言葉で立ち止まった士道は、丁字路に差し掛かったところで足を止め、少し目を向けた。
・・・・左右の通路の両側から、頭がちょこんと飛び出、士道にジーッと視線が注がれている事に気づいたのである。
士道が言うと、耶具矢と夕弦が通路の奥から歩み出てきた。
「くく・・・・我が気配に気付くとはやりおるわ。流石は風龍の魔法使いと言うべきか」
「指摘。隠れ方がお粗末だっただけでは」
「・・・・っ! ゆ、夕弦に言われたくないし! あんたよりは上手く隠れてたし!」
「反論。耶倶矢が夕弦よりも上手く隠れられる道理がありません」
≪どちらもお粗末過ぎる隠れ方だったがな≫
・・・・ドラゴンの言うとおり、士道から言わせれば、どっちも等しくバレバレだったのだが、それは口に出さずに置く。
「それで二人とも、何してたんだよ」
士道が問うと、2人は一瞬目を合わせてから視線を士道に戻してきた。
「ふ・・・・教えてやろう。来るがいい」
「確保。どうぞこちらへ」
そして全く同じタイミングで、それぞれ士道の両腕を引っ張ってくる。
「な、なんだってんだよ、一体・・・・?」
困惑気味に左右を見ながらも、士道はズルズルと引きずられーーーーほどなくして、とある場所に辿り着いた。
二つの隣り合った入り口に青と赤の暖簾がかけられており、それぞれ大きな字で『男』『女』と書かれていた。学校で支給された『旅のしおり』に記されていた、この宿の名物である露天風呂の入り口だ。
「・・・・風呂?」
≪・・・・風呂だな≫
士道が首を傾げると、耶具矢が大仰に頷いた。
「くく・・・・貴様の身体は現世の汚れによって常闇の穢れを蓄積し過ぎた。その身を浄化することを許す」
「は?」
「通訳。お風呂に入って汗でも流してください、と言っています」
「あ、ああ・・・・そういう事か。でも、入浴時間はまだ少し先だろ。タオルも着替えも用意してねえし、それに俺、行かなきゃいけないところが・・・・」
言って踵を返そうとすると、2人が両腕をさらにがっしと掴まれた。
「ってて・・・・な、なにするんだよ?」
「貴様に選択肢などあると思うてか? 四の五の言わずにその穢れを祓うが良い」
「請願。お願いします。入浴の準備はこちらで整えておきました」
夕弦が視線を下に落とす。そこにはきっちりとバスタオルとタオル、そして浴衣が折り畳まれていた。
「な、なんでそこまで・・・・一体何を企んでやがる」
「ふ・・・・我が崇高にして玄妙なる思考は、常人には到底理解し得ないものなのだ」
「提言。誰もいない大浴場というのもいいものです」
「・・・・・・・・(おい、どうするドラゴン?)」
≪まぁこのままでは帰してくれそうに無いしな。それに時間は指定されてない。あの解析官女なら多少遅い時間でも大丈夫だろう。ここで断ればこのお猿のような小娘コンビが暴れだすかもしれんな≫
士道は訝しげに2人を交互に見たのち、ハァと大きなため息を吐いた。
「・・・・分かった。じゃあ先に入らせてもらうよ」
「くく・・・・解れば良いのだ」
「賞賛。士道の決断に敬意を表します」
今ひとつ2人の意図が分からないが、さっきの戦闘でいろいろ疲れたので、一風呂浴びて汗と疲れを流したいのも事実であった。用意されていたタオルなどを手に持ち、男湯の方へと入っていく。
その際、チラッと後方を振り返ると、なぜか耶具矢が少し照れたように頬を赤くし、夕弦が口元に手を当てニマニマとしていた。
2人の様子に不審なものを感じながらも、士道は脱衣所で服やドライバーを脱ぐと、タオルを携えて湯気で曇った引き戸を開けた。
「おお・・・・凄えなこりゃ」
そして、目の前に広がった景色に思わず感嘆の声を漏らす。
岩で形作った浴槽に、微かに褐色がかった湯が満たされ、濃密な湯気が立ち上っている。そして、浴槽のすぐ先には海が広がり、静かな細波が響いていた。
まだ入浴時間ではないため、士道以外に人はいない。なるほど、これは夕弦の言う通りに最高のロケーションかもしれない。
士道は手早く身体と頭を洗うと、タオルを頭に載せて、身体を湯に沈み込ませた。
「あぁー・・・・」
なんて、なんとも年寄り臭い声が喉から漏れ出る。両手両足を伸ばすと、少し熱いくらいの湯が全身の細胞に染み渡ってきた。ファントム達と戦い、精霊を攻略する激務の日々を送ってきた士道には、身体の疲労が癒されていく感覚に酔いしれる。
すると、その時だった。ガラリと音が鳴り、浴場の引き戸が開いたのである。
殿町か他の生徒が入ってきたのだろうかと入り口に目をやりーーーー士道は湯の中で硬直し、絶句した。
「な・・・・」
それもそうだろう。何しろ、先程廊下で別れたはずの耶倶矢と夕弦が、身体にバスタオル一枚を巻き付けた状態でそこに立っていたのだから。
≪・・・・・・・・こう来たか≫
「お、お前ら何してんだぁぁぁっ! ここ男湯だぞッ!?」
たまらず士道が叫ぶが、2人はそのまま湯船に足を浸し、士道の隣まで歩いてきた。
薄いバスタオルが湯気で身体に張り付き、肢体のシルエットがくっきりと浮かび上がっている。二人とも慌てて目を逸らし、身体を深く湯に沈ませた。
そんな士道の様子を見てか、耶倶矢が頬を赤く染めながら腕組みする。
「く、くくく・・・・ど、どうだ。流石の貴様も我が色香の前にはひれ伏さざるを得まい」
その言葉に、対面するような格好で立っていた夕弦がフスー、と息を漏らす。
「嘲笑。色香(笑)。耶倶矢にそんなものが備わっていたとは初耳です」
「・・・・ふん、すぐに吠え面かかせてくれるわ。そこの士道を我が魅力の虜にしてな!」
「応戦。望むところです」
言って、2人はそのままゆっくりと足を折り、士道を挟むように湯船に入ってきた。
「・・・・っ!」
≪気をしっかり保てよ。僕ちゃん≫
バスタオルを巻いたまま入浴するのはマナー違反だが、それを指摘する余裕もなく、士道は緊張に硬直し、思わず目を瞑った。
「くく・・・・覚悟するがいいぞ士道。もう我無しでは生きられぬ身体にしてくれよう」
「否定。士道には夕弦の肉体の虜になってもらいます」
「何を・・・・!」
二人の言葉に士道はさらに身を固くした。『嗚呼、一体どんな凄い事をされてしまうんだ』と、未知への恐怖と男の悲しいサガによる期待が、グルグルと頭の中で渦巻く。
だが。
「・・・・ん?」
しばらく経っても、何も起こらない。士道はゆっくりと目を開けた。
士道を挟むように左右に陣取った二人は、挑発し合うように視線を交じらせているだけだった。
「ふ・・・・っ、せめてもの温情だ、夕弦よ。貴様から先にやる事を許す」
「否定。不要です。むしろハンデが必要なのは耶倶矢の方です。先制権くらい譲ります」
「かか、分からぬ奴よの。我が手を下した瞬間に士道の目は我に釘付けぞ。貴様の出る幕を一瞬でもやろうという我の配慮を解さぬか」
「懐疑。本当は何をすれば良いのか分からないのではないですか?」
夕弦が言うと、耶倶矢がビクッと肩を揺らした。
「そ、そんな訳ないし! 超エロッエロだし! な、なーに言ってんのかねこいつは! あんたなんか考えもしないようなオトナのテクニックをいーっぱい持ってるんだから!」
「疑念。では、見せてください」
「な・・・・っ、ふ、ふん! いいわ、見てなさい!」
耶倶矢がその場に立ち上がると、士道の方を見ながら右手を頭に、左手を腰に当てーーーー。
「・・・・う、うふーん」
なんて、旬が過ぎ去ったグラビアアイドルでもしないようなポーズをとった。
瞬間、夕弦がその様子を見て、プークスクス、の口に手を当てながら息を漏らす。
「ええと・・・・」
≪・・・・・・・・≫
士道は何をしてるか分からないような様子で頬をポリポリ掻いた。
ドラゴンは我関せずの様子で顔を背けた気がした。
・・・・いや、色っぽくない、と言うわけではないのだ。耶倶矢はモデルのようにスタイルは良いし、水分が含んだバスタオルが肌に張り付いた様は確かにセクシーである。
しかし・・・・それよりも先に、何かいたたまれなさが、士道の心を満たしたのだった。2人(+1体)の様子に、耶倶矢は顔を真っ赤に染めて湯船に再ダイブした。
「な、何よ2人して!」
「嘲笑。流石耶倶矢の色香(笑)は違います」
「な、何ですって!? っ、ていうかあれなんじゃないの? あんたの方こそ、実は何していいのかわかんないんでしょ!」
耶倶矢がビシッ!と指を突き付けながら言うと、夕弦がピクリと眉の端を動かした。
「・・・・否定。そんな訳ありません」
「はっ、どーだか! じゃあやって見せなさいよ!」
「了承。・・・・いいでしょう」
≪・・・・オチが見えて来たな≫
夕弦はそう言うと、士道の方へと向き直りーーーー。
「悩殺。ちゅっ」
と、こちらも一昔前のアイドルのような仕草で投げキッスを放ってきた。
「・・・・あ、うん」
またもどうリアクションして良いか困り、士道も真顔になったドラゴンの言うとおり、オチが見えたので苦笑した。
≪これならまだ、水着選びの時の〈ハーミット〉の方が色気があった気がするな・・・・≫
「・・・・・・・・・・・・」
士道はドラゴンの言葉にさらにいたたまれない気持ちになる。
明らかに自分と同い歳の耶具矢と夕弦より、年下の四糸乃の、水着選びの時に見せた背徳的感のある色気の方が勝っている事に何故か悲しくなったからだ。
オリジナルファントム・『ヴォジャノーイ』。次回辺りで登場します。