デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
士道は令音の部屋で、裸で海にダイブしたせいで、風邪気味になった身体を布団で暖めていた。
他の生徒への感染を防ぐ名目で、教員の部屋を1つ空けて、士道が1人寝込みながら、先程の令音との話を思い返していた。
ーーーー〈ベルセルク〉こと、八舞耶具矢と八舞夕弦。二人を封印するために、“士道をデレさせる二人を、士道が二人をデレさせて、同時にキスをしなければならない”。
あまりに困難極まるミッションだがーーーーやらねば突発性の2つのハリケーンが世界のどこかで発生する。
ーーーーそれに。二人の関係性を聞いてから、士道は堪らない気持ち悪さを覚えた。
主人格の座をかけた争いーーーー敗者は勝者に取り込まれて消えてしまう。生き残る為に、相手を殺さねばならない最悪の筋書き。生まれた瞬間に定められた理不尽極まる運命を背負わされた二人の霊力を、士道が封印できれば覆す事ができるかもしれない。
「・・・・やるっきゃ、ないよな」
≪はっ! またいつもの独善と偽善と自己満足の使命感か?≫
と、決意しようとする士道に、ドラゴンの皮肉が聞こえてきた。
「なんだよ・・・・二人を助けたい事が悪い事なのかよ」
≪ふん。奴らが本当に“相手を倒したいと思っている”としたら、貴様のやろうとしている事は、“ただの無駄な行為”になるかもしれんと言っているのだ≫
「俺は、二人のどちらかが消えてしまうなんて、認めたくないだけだ・・・・」
≪ふん。また綺麗事にまみれたエゴイズムか? まぁ、貴様のような僕ちゃんが、あの二人を相手にしてどんな醜態を晒すか、たっぷり見物させてもらおうか≫
「言ってろ。そういえば部屋を出ようとした“令音さんと何か話し合っていた”けど、何話していたんだ?」
≪・・・・貴様のような思考の浅いお子様には、少し早い事を話し合っていたのだ≫
「なんだソレ? と言うか令音さん、まだ戻らないのか?」
≪すぐに分かる。・・・・そうすぐにな≫
何か笑いを堪えるようなドラゴンの物言いに首を傾げながら、士道は布団にくるまった。
◇
そしておよそ20分後。
士道はドラゴンと令音の意図を完全に理解した。
「くく・・・・令音から聞いたぞ士道よ。どうやら風邪らしいではないか。かか、人間と言うのは斯くも脆弱なものか。あの程度で身体を病むとはな」
≪まったくだ。普段からの貧弱さがこういう形で出たのだ≫
「宣言。安心してください。夕弦の看病に掛かれば、明日までに全快です」
そう言いながら、浴衣姿の耶具矢と夕弦が部屋にやって来た。
「・・・・ああ、悪いな」
内心「誰のせいだ、誰の」とボヤキながら、布団を被り額に濡れタオルを載せた士道が、乾いた笑みを浮かべてそう言う。
事前に令音から聞いていた。要は看病で二人との親密度を上げるのと同時に、二人の行動パターンを把握しておくと言うことだ。
ちなみに物陰には隠しカメラを設置し、二人の行動を逐一記録している。
耶具矢と夕弦も、ここでどうにかポイントを稼ぎ、士道に選んでもらう為に張り切っているのか、妙に気合が入っている。
「くく・・・・では邪魔するぞ」
「失礼。上がらせていただきます」
二人は部屋に上がると、士道を挟むように左右に正座し、ジッと士道の顔を見下ろす。
「・・・・ええと、なんだ?」
士道が言うと、耶具矢と夕弦はふっと顔を上げて視線を交じらせた。
「くく・・・・夕弦よ。先に言っておくが、我を今までの八舞耶具矢と思うていては怪我をするぞ。我は『優秀なる眷属』を得、新たなる我へと生まれ変わったのだ」
「溜息。また耶具矢のハッタリが始まりました」
耶具矢の言葉に、夕弦が「やれやれだぜ」と言わんばかりに、帽子を目元に下げるような仕草をしながら肩をすくめる。しかし耶具矢は夕弦のあからさまな挑発に乗らず、口元を歪めて不敵な笑みを漏らしていた。
夕弦も、耶具矢の余裕を感じたのか、微かに目を細める。
「驚嘆。どうやらあながち嘘でも無いようですね。ーーーーですが、夕弦も同じです。夕弦は『素晴らしい師』を得ました。今の夕弦に敵はありません」
「ほう・・・・? 面白い。では尋常に勝負!」
言って、耶具矢は再び士道に視線を落とした。
≪さて、何が起こるのやら≫
あきらかに何かを知っているような口ぶりのドラゴンの笑いを押し殺した声が響き、士道はヒッと息を漏らした。ドラゴンがこんな声を発する時は、きっと綠でもない事が起こると直感したからだ。
耶具矢は軽く顔を紅く染めてから、意を決するように頬を張り、そのままイソイソと士道の布団に入り込もうとした。
「ちょッ、ちょっと待った! 一体何をーーーー!」
「くく・・・・風邪の時はとにかく温かくするものだろう。そして士道、御主聞くところによると、オナゴと同衾するのが大好きだそうではないか」
「は・・・・はぁっ!? 何だよそれ? そんな事言われる覚えなんてーーーー」
「違うのか? 我が『眷属』は、ある朝起きたら御主がいつの間にか布団にいたと・・・・」
「・・・・すまん、あった。(つーか、“『眷属』って十香の事”かよっ!?)」
≪〈プリンセス〉とあの喧しい三人娘<亜衣麻衣美衣トリオ>と、この『〈ベルセルク〉のうるさい方』が同室になってな、純粋無垢な〈プリンセス〉がうるさい方が難しい言葉を知っている事に感心し、うるさい方がそれに感動して仲良くなったようなのだ≫
経路<パス>と通して精霊達と更新できるドラゴンが解説した。
「(ドラゴン! 何で十香にあれは誤解だって教えなかったんだよ!?)」
≪愚鈍な馬鹿め。・・・・・・・・・・・・その方が面白いからに決まっているだろうが≫
「(お前なぁッ!!)」
≪それにな、〈プリンセス〉達のコンディションに悪影響を及ぼさないならば、貴様が無様に惨めに慌てふためく滑稽な醜態を高みの見物で眺めるのも悪くない。日頃の溜飲が少しは下がると言うものだ≫
「(あきらかにそれが真の目的だろうっ!!!)」
ドラゴンの内心で喧嘩する士道に構わず、耶具矢はフフンと勝ち誇った笑みを夕弦に向けると、満足気に頷きそのまま、またも布団に押し入ろうとする。
「うわ! うわ!!」
と、耶具矢の行動に気づいた士道が布団を押さえつけようとするとーーーー。
「うぐ・・・・わ、私じゃ・・・・駄目?」
≪最低だな小僧。知ってはいたが≫
「・・・・ッ! そ、そう言うと訳じゃ・・・・ああもうッ!」
耶具矢が眉を八の字にし、捨て犬のような眼差しを向け、ドラゴンが軽蔑しきったたような声を発すると、士道は困りはてた顔を作って額に手を置いた。
すると今度は夕弦が、ゆったりとした動作で士道に一歩近づきそして、バサッと布団を剥ぎ取った。
「うわッ?! な、何するんだよ夕弦」
「っ! そうだぞ貴様、我の添い寝の邪魔をするとは卑怯なり!」
士道に同調するように、布団に入り込もうとした耶具矢が非難の声を上げるが、夕弦は「さして興味はない」と言った様子で、ヒクヒクと小さく鼻を動かす。
「確認。発汗が見られます」
「え? ああ・・・・そりゃ、少しはな」
「指摘。汗を放っておくと気化熱で体温を奪います。すぐに拭わねばなりません」
「や・・・・まあ、そりゃそうかもしれないけど・・・・」
と、士道が目を丸くしていると、夕弦は突然士道の浴衣の合わせを掴み、がばっと胸元をはだけさせた。
≪ほぉ、こう来たか≫
「はーーーー」
そして夕弦は士道に覆い被さり、舌を伸ばして士道の胸元をペロペロと舐めてきた。
突然の柔らかく温かく、濡れた感触が胸をくすぐるように這い回り、士道は思わず「きゃんっ!」と、女の子のような声を上げ、ドラゴンが≪気持ち悪い声を出すな≫と言った。
「ゆ、夕弦ッ!? ちょ・・・・ッ!」
「な、なななななななにしてんのよ夕弦ぅぅッ!」
士道に合わせて耶具矢が叫び、夕弦の頭をガッシと掴んで士道から引き剥がした。
すると夕弦はペロリと唇を舐めてから、不思議そうな顔を作った。
「疑問。なぜ止めるのですか?」
「なッ、なぜってあんた、一体何してんのよ!?」
「解説。汗を拭うにはこの方法が一番と、師に教わりました」
「(ま、まさか夕弦の言う『師』って・・・・)」
≪間違いなく『〈ベルセルク〉の静かな方』は、あの鳶一折紙<無表情娘>だな。あの娘は病院で貴様に背負われながら、“あんな事”をするような『肉食獣系』だからな≫
「(何されたの?! なあドラゴン! あの時俺、何されてたのっっ?!)」
士道ははだけられた胸元を直して、奪われた布団を被り直しながら、ドラゴンに問い詰めたが、結局答えて貰えなかった。
ーーーーついでにその頃。
士道の看病に向かおうとしていた十香と折紙は鉢合わせし、「看病は自分がやる」と言い合い、視線を交わらせて、バチバチと火花を散らせていた。
士道が布団を被り直すと、それを待ってましたと言うように、耶具矢は四つん這いになりながら士道の布団を捲り上げた。
「くく・・・・どうやら士道は我の添い寝の方が良いようだな」
「否定。添い寝テクでも夕弦は耶具矢を凌駕します。暖を取るのなら是非夕弦で」
「いや、おかしい! 何かがおかしい!」
士道が必死になって制止するが、耶具矢と夕弦はキョトンと目を丸くする。
「何だ・・・・? 温かくするときは人肌が一番ではないのか?」
「同調。そのように聞きましたが」
「ゆ、雪山じゃねえんだから、1人で大丈夫だって・・・・」
≪まるで暴漢に襲われるか弱いヒロインのようだな? 軟弱・貧弱・虚弱・惰弱な僕ちゃん?≫
内心、ニヤニヤと笑みを浮かべるドラゴンに「うるせぇ!」と毒づく士道の様子に気づかず、夕弦が何やら得心をいったようにポンと手を打ち、小さく頷いておもむろに立ち上がると、浴衣を留めていた帯をスルリと解いた。
「「な・・・・ッ!?」」
≪ほお、そう来るか・・・・≫
士道と耶具矢の狼狽がみごとに重なり、ドラゴンは半ば呆れ気味に呟いた。
だが、夕弦はまたも、「さして興味はない」といった様子で悠然と士道を見下ろし、縛めを解かれた浴衣の僅かなスリットから艶かしい肌と、上下揃いの下着が覗き、士道の動悸が異様に加速する。
「な、なな、何を・・・・」
「理解。そういえば師が、温めるなら直接触れ合わねば意味がないと仰っていました」
「何その超理論!?」
≪あの無表情娘の頭の中はもしや、あの神無月<排泄物>と同レベルなのではないのか?≫
悲鳴じみた声を上げ、ドラゴンの言葉を聞き流す士道に構わず、夕弦は布団に入り込み、士道の震える左腕を取って、自分の浴衣の中に滑り込ませていく。
「ウェイッ!?」
士道が顔を真っ赤にしてすっとんきょうな叫びを上げる。自分からは見えないが、きっと頭や耳から煙を吹き出しているだろう。
「ちょッ、な、なにモゾモゾしてんのよ!」
「無視。耶具矢は知らない方が良いのです。布団の中は大人の空間なのです」
余裕な夕弦の言葉に、耶具矢は悔しそうに歯を擦り合わせた。
「な、舐めんなぁぁぁぁ!!」
そして勢い良く自分の帯に手を掛け、バサッとそれを取り去る。
「な・・・・っ!?」
≪フム。ある意味間違ってはいないな≫
士道は本日何度目か分からないが、また目を丸くさせた。夕弦よりも勢いをつけて帯をパージしたものだから、一瞬浴衣が捲れ上がり、そしてーーーー。
「な、何で裸なんだよ耶具矢ッ!?」
そう。夕弦でさえ、浴衣の下には下着を着用しているのに、今の耶具矢は、何も着けていなかったのである。慌てて目を瞑る。
「・・・・! 驚愕。まさかそこまで」
夕弦もまた、驚いたように目を丸くした。
そんな二人の反応を見てか、耶具矢が戸惑いながら声を発する。
「えっ? こういうものじゃないの、浴衣って。だって十香が言ってーーーー」
≪フムフム。〈プリンセス〉も中々良く勉強しているな≫
「いや、正しくはそうかもしれないけど!」
「え、ええい! もうどうにでもなれ・・・・ッ!」
興奮状態の耶具矢はヤケクソ気味に叫ぶと、そのまま、士道の布団にダイブし、夕弦と同じように士道の手を取り、スラリとした両足を士道の身体に絡めてくる。
「さ、さぁ・・・・士道よ。我が癒しの力を感じるが良い・・・・! 夕弦なんぞより温かろう。ほら、夕弦は若干冷え性気味だし!」
「否定。耶具矢の方が胸元が寂しい分、発熱量は少ないはずです」
「くは・・・・ッ!?」
二人の不毛な口論を聞きながら、士道は全身を緊張させながら息を吐いた。
何しろ布団に閉じ込められ、両側から身体を押し付けられ、しっとりとした肌の感触、耳元に感じる吐息、微かに漂う汗の匂いとかを鮮明に感じられて、もうヤベーイ! もう耐えられそうにない。
「制止。耶具矢、士道の顔が赤くなっています」
「なんだと? 我ら二人で暖めていると言うのに、体調が悪化していると言うのか?」
「仮説。もしかしたら、『耶具矢アレルギー』なのかもしれません。離れてみてください」
「ひっ、人をハウスダストみたいに言うなッ!」
「進言。冗談はさておき、どうにかせねばなりません」
「どうにかって・・・・どうするというのだ」
「提案。そういえば、直接と言っていながら、肌の接触領域が限定的だとは思いませんか?」
と、夕弦が言ったかと思うと、不意に士道の左腕に絡みついていた手が解かれた。
「(ほう・・・・)」と放念の息を吐いた次の瞬間、士道は再度身体を強ばらせた。
理由は単純、夕弦の手が士道の浴衣を留める帯を解き始めた。
「ちょッ、やっ、な、何っ!?」
士道が涙目になって叫ぶが、夕弦は手を止めない。それどころか、途中で夕弦の行動に気づいた耶具矢までも、顔を赤くしながら負けじと士道の浴衣を脱がしにかかってきた。
「きっ、きゃぁぁぁ! きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
≪何だその生娘のような悲鳴は? 気色悪い≫
「うるさい、黙らぬか! 脱がせづらいわ!」
「同調。ウブなねんねじゃあるまいし」
≪残念ながら、コヤツはウブでヘタレで腰抜けで経験皆無な童貞僕ちゃんなのだ≫
「(なんか言ってないでどうにかしてくれよドラゴンッ!!!)」
恥も体裁もかなぐり捨てた士道が、ほくそ笑みを浮かべているドラゴンに向けてそう言うと、ドラゴンは『フスー!』と、鼻から息を吐いた。
≪まぁ、それなりに楽しめたし、〈プリンセス〉の方も面白い事が起きそうだからもう良いな。小僧。一応助けてやる≫
「(何でも良いから早くたすーーーー)」
バッシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンンンッッ!!!!
「アベシッ!!!??」
助けて、と言おうとした士道の脳天に、ドラゴンの『尻尾ド突き(威力超強め)』が炸裂し、奇妙な悲鳴を上げた士道は、意識が薄まっていくのを感じながら、ドラゴンの声が耳に入る。
≪令音<解析女>と打ち合わせして、収拾がつかなくなったら、貴様が二人の色気にノックアウトした事にしておいたから、とっとと気絶していろ。・・・・あぁ~とても爽やかな気分だ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のようにスッキリした気分とは、こういうものなのだな。かなり溜飲が下がったわ≫
「(お、おぼえ、て、ろよ・・・・ドラ、ゴン・・・・!)」
薄れ行く意識の中、士道はドラゴンへの怨み言を呟きながら、意識を手放した。
ー十香sideー
「な、なんだ・・・・?」
その頃、士道の看病にむかおうとしていた十香は、不倶戴天の天敵、鳶一折紙嬢と出くわし、士道の看病は自分がやるとお互いに口論を続けていると、背後から3つの影が素早く走りより、姿勢を低くして二人の周りをサササッと取り囲んだ。
3つの影の正体は、十香と同室の、亜衣麻衣美衣トリオであった。
「へいへーいお二人さーん、今日も精が出るねーぃ」
「でもこんな往来じゃ、皆の迷惑になっちゃうよー」
「マジ引くわー。よければその勝負、私達に預けてみなーい?」
亜衣麻衣美衣が、盗塁を狙う走者のような姿勢で、小刻みに左右に動きながら順にそんな事を言った。
「ぬ・・・・?」
「・・・・・・」
3人に囲まれた十香と折紙は、不思議そうに目を見合わせた。
ーエレンsideー
旅館の壁を張り付くようにして、十香の様子を窺っていたエレンは、インカムで〈アルバテル〉のオペレーターに指示を発し、更なる指示をしようとしたところでーーーー。
「ーーーーへぶっ!?」
いきなり部屋の中から飛んできた“何か”を顔面に受けて、ひっくり返った。
「つーーーー今のは、まさか気付かれた・・・・?」
さしたるダメージは無かったが、鼻を押さえて身体を起こし、瞬時に身を固くしたエレンは、その場を退去しようとーーーー。
「あ、カメラマンさんはっけーん」
「お、ホントだホントだ。エレンさんだっけ?」
「逃がすな、確保! マジ引くわぁぁぁぁぁ!!」
などと叫びながら、部屋から亜衣麻衣美衣トリオが走ってきて、エレンを取り囲むようにグルグル回ると、エレンの両手両足を押さえ、部屋の中へと担ぎ込まれた。
「な・・・・くーーーー何を・・・・!」
「おーい! カメラマンさんも参戦するってさー!」
亜衣がそんな事を言った瞬間、部屋の奥から十香の声が響く。
「おお! 良かろう! 纏めて葬ってくれる!」
「いい度胸」
部屋の奥で睨み合っていた十香と折紙が叫ぶと、大きく振りかぶり、“何を”を投擲した。
「させるか! カメラマンバリアー!」
と、その瞬間、エレンの足を担ぎ上げていた亜衣が急に手を離し、エレンの背後に隠れるように身を縮めた。
同時にエレンの顔面に、布を固めたような物体が連続で直撃する。
「かは・・・・っ!」
喀血するように息を吐き、エレンはその場でくずおれた。
「エ、エレェェェェェェェェェン!!」
「大丈夫か、傷は浅いぞ!」
「マジ引くわー! しっかりしろ、故郷に家族が待ってるんだろう!?」
などと、たった今エレンを盾にした張本人3人が、わざとらしく涙を拭うような仕草を見せ、エレンは混乱する意識の中で、自分の顔に直撃した物体の正体を確かめた。
「・・・・枕<ピロー>?」
≪よし〈プリンセス〉。カメラマンの女を重点的に狙うのだ≫
「ウム!」
そんなエレンの呟きを無視して、ドラゴンの指示に従った十香が、エレンに向けて枕を次々と投擲しーーーー戦争が、再開した。
ーフェニックスsideー
そして士道が気絶し、興が冷めた八舞姉妹がそれぞれの部屋に戻って眠り、十香達も楽しく遊び、疲れて眠ってしまった。
それから時が過ぎ、深夜を越えて間もなく太陽が昇り初め、夜の闇が一層深くなる時間帯。
ワイズマンからの指示により、炎の翼で空を飛んでフェニックスは或美島に到着すると、出迎えに来ていた。
『フェニックス様! お疲れ様ッス!』
なんと出迎えたのは、昼間、ウィザード<士道>と交戦し、倒されたはずの『ガーゴイルファントム』だった。
フェニックスは翼を納めると、ガーゴイルに近づく。
『おおガーゴイル! お前が魔法使いがいることを告げてくれたおかげで、ここに来られたぜ!』
『へへへ、俺の『能力』で魔法使いの攻撃をなんとか防げたッス。それよりも、『ヴォジャノーイ』のヤツはどこッスか?』
『俺ならここだよ』
ガーゴイルが声がするほうに身体を向けると、海の中から、『カエルのような姿をしたファントム』が水飛沫を上げて飛び出してきた。
『ヴォジャノーイ!』
『ケケケ・・・・』
ガーゴイルが名を呼ぶと、ヴォジャノーイは身体を震わせて笑った。
『ヴォジャノーイ。テメエの役目は、ガーゴイルと協力して〈ベルセルク〉を絶望させる手助けだ。指輪の魔法使いが邪魔しやがったら俺が始末する。ぬかるんじゃねぇぞ?』
フェニックスがヴォジャノーイの胸板を軽く小突くと、ヴォジャノーイはまた、身体を震わせて笑った。
『ケケケケケケ、任せておいてくださいよ。俺の『能力』で、〈ベルセルク〉を絶望させるヒントを見つけてやりますからね♪』
ヴォジャノーイがそう言うのを聞くと、フェニックスは、フッ、と鼻で笑うと、ガーゴイルとヴォジャノーイを連れて、太陽が昇り初め、夜の世界を照らす前に、或美島の森の奥の闇の中を進んでいった。
『ヴォジャノーイファントム』。
外見は『仮面ライダーファイズ』の『フロッグオルフェノク』にカエルの部分はダークグリーンで、首の部分は黒になっている。『特殊能力』有り。