デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
修学旅行2日目。天候は快晴。
士道はクラスメートの邪魔が入らないように、令音が昨日の内に手配し、レンタカーで連れてこられた或美島北端に位置する赤流海岸に来ていた。
30年前の空間震により、島が削られ格好良い三日月海岸となっている場所で、“士道の攻略”を行うためだ。
「イッテテテテ・・・・!」
士道が頭に響く鈍痛に顔を歪めた。
昨晩ドラゴンが、収拾が着かなくなってきた耶具矢と夕弦の熱烈な色仕掛けを終わらせる為に・・・・と言うよりドラゴンの日頃の士道の子守りで貯まった鬱憤を晴らす為のド突きによる物だ。
琴里の霊力はどうやら、自然治癒でなんとかなる怪我は対象外のようだ。
≪ククククッ、相も変わらず情けなく惨めで滑稽だな小僧?≫
「この野郎・・・・!!」
明らかに嘲弄なドラゴンの態度に、士道は腹を立てて怒鳴ろうとするが、右耳に装着したインカムから、令音の眠たげな声が響いた。
《・・・・シン。ドラゴンとの喧嘩は後回しにしてくれ。耶具矢と夕弦が着替えを終えたようだ。準備は良いかい?》
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
令音の言葉に、士道はドラゴンへの憤怒を静めるように、深く大きく深呼吸してから答えた。
令音曰く。二人にもインカムを渡しており、令音が指示を出すので士道はそれに合わせ、ドラゴンは出来る限りのフォローをするようにと告げると、士道との会話が混線しないように一度回線を閉じた。
と、それと同時に、背後から二人の声が聞こえる。
「くく・・・・こんなところに隠れていたか」
「発見。見つけました、士道」
特徴的な語調に士道はゆっくりと振り向くと、予想通り耶具矢と夕弦が立っていた。耶具矢は白のレースに飾られた黒のビキニ、夕弦は逆に白地に黒いレースのついたビキニを身に纏っていた。
二人とも、嫌味なほどに似合っており、ファッションモデルと言われても納得するような姿だった。
≪水着に鼻の下を伸ばしてないで、さっさと誉めろ、このムッツリスケベ≫
「(う、うるせぇ・・・・!)お、おう、二人とも。似合ってるじゃないか。スゲェ綺麗だよ」
久しぶりの毒舌アドバイスに悪態付きながら、士道が水着姿を褒めると、耶倶矢が驚いたように顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトンとして自分の装いを見下ろした。
だがすぐにハッとした様子で、耶倶矢が腕組みをしてくる。
「く、くくく・・・・そ、そうであろうそうであろう。だが勘違いするなよ。このような衣服では、我の魅力の前には霞も等しいわ」
「謝辞。ありがとうございます。とても嬉しいです」
次いで、夕弦が素直に首肯してくる。
と、そこで
「・・・・ん?」
「確認。はい」
不意に耶倶矢と夕弦が眉を動かしたかと思うと、二人が士道に背を向けると、それぞれ耳に手を当てる。
よく見ると、彼女らの耳には士道の使っているものと同じ機種のインカムが見受けられた。
「くく・・・・成る程、承知した」
「了承。理解しました」
士道は思わず苦笑してしまった。慣れない動作だから仕方ないのか・・・・二人してインカムに気を取られているのが、なんとも可笑しな光景だったのである。
程なくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、士道に向き直ってくる。
「士道よ。常闇に身を置く我には、この天よりの光<ゾンネンシャイン>は少々堪える。我が身に、聖光を阻む瘴気の加護を施す事を許すぞ」
「へ・・・・?」
≪また妙な言語を・・・・≫
「通訳。日焼け止めというのを塗ってください」
「ああ・・・・なるほど」
≪普通に言えんのか?≫
夕弦の言葉で士道とドラゴンはようやく理解したようだ。
が、大変なのは理解したあとだ。何故なら、日焼け止めを塗ると言う事はーーーー。
「ふ・・・・では頼んだぞ士道。我の背中は貴様に預ける」
≪戦いに赴くセリフだぞそれは・・・・≫
耶倶矢が、明らかに使う場面を間違っている言葉を吐きながら、日焼け止めローションを士道に手渡してくる。次いで、夕弦も同じように渡し、言ってきた。
「依頼。お願いしますね」
一体どこからこんな物を持って来たのかと思ったが、すぐに分かった。士道達のすぐ近くに、パラソルやらレジャーシートような物が置かれた休憩スペースのような場所が設営されていたからだ。多分令音が事前に用意したのだろう。
二人は視線を交じらせると、パラソルの陰にうつ伏せに寝そべった。そしてトップスのホックを外し、その白い背中を士道に晒す。
「え、ええと・・・・」
≪何をやっている。さっさと塗らんかこの根性ナシめ≫
「(いや、でもよう・・・・)」
ドラゴンに催促され、内心理解しているが、隣り合わせで寝転んだ二人の背中を見て、士道は顔中にビッシリと汗を滲ませる。
これを塗る・・・・という事は、つまり直接少女の柔肌に手を這わせねばならないという事だ。
≪早くしろ。二人が怪しんでいるぞ≫
ドラゴンがそう言うと、焦れて来たのか、耶倶矢と夕弦がインカムに触れて小さな声を発し始めた。
「おい、士道が乗って来ぬぞ。話が違うのではないか?」
「質問。何がいけないのでしょうか」
「・・・・っ、やべっ」
士道は眉をひそめた。ドラゴンは早くやれと無言の圧力を放っているような感覚があった。今日の狙いは、令音のアドバイスに信憑性を持たせる事にあるのだ。ここで二の足を踏んでいては、作戦が台無しになってしまう。
「よ、よし、じゃあ塗るぞ!」
言うと、耶具矢と夕弦は一瞬士道の方を向いてから、小さく頷く。
「ふう・・・・」
どうにか令音のアドバイスを無為にしなくて放念の息を吐くがーーーー。
「くく・・・・それで士道、訊くまでもないかもしれぬが、無論我から塗るのであろう?」
「質問。士道はどちらから日焼け止めを施すのですか?」
「え・・・・? いや、それは」
と、二人が寝そべったまま視線を交わらせると、耶具矢が夕弦に組み付いて、身体をゴロンとひっくり返す要領で夕弦の上に乗り、両手足で夕弦が動かないよう押さえ込んで、声を上げる。
「士道、今だ。我に瘴気の加護を!」
「油断。く・・・・」
耶具矢は勝ち誇り、夕弦は苦悶の声を漏らす。
しかし、水着のトップス部を外した状態でそんな体勢になると、耶具矢の適度な大きさと綺麗な形をした美乳と、夕弦の形が整い大きさが素晴らしい美巨乳が、互いの身体にギュウと押し潰され、妙にエロい。
≪・・・・さっさとやれこのムッツリスケベ!≫
「早くせんか!」
「お、おう!」
士道は気圧されるように、その場に膝を突き、手にローションを適量取り、耶倶矢の背中に触れた。瞬間ーーーー。
「っ、ふぁ・・・・っ」
なんて今までにない甘い声を出しながら、耶倶矢が全身をビクッと震わせた。
「! わ、悪い、冷たかったか?」
「だ、大丈夫だ。早く・・・・しろ・・・・」
「あ、ああ・・・・」
だが士道が手を動かすたびに、耶倶矢がくすぐったそうに身を捩りながら、「あ・・・・っ」だの「んん・・・・っ」だのと、やたら官能的な声を響かせてくる。
耶具矢に抑えつけられた夕弦も、そんな耶具矢のそんな姿を見て「おお・・・・」と感嘆の声を発していた。
が、すぐにハッとした様子で眉を動かし、耶具矢の一瞬の隙を突いて、グルリと身体を反転させた。
「反撃。隙ありです」
「ぐ・・・・っ」
今度は夕弦が仰向けの耶具矢を押さえつけるような格好となって士道の方へ目を向けた。マウントポジションを取られた耶具矢は、夕弦に抵抗する余裕がないのか、「はぁはぁ」と息を荒くしていた。
「請願。士道、早く、夕弦にも・・・・ください」
「う・・・・っ!? お、おう」
日焼け止めなのは分かっているが、夕弦の扇情的なポーズとセリフに、ドキッとしてしまうが、士道はどうにか心を落ち着け、夕弦の背中にローションを塗り始める。
「痙、攣。う・・・・ぁ、っ」
すると夕弦が、小刻みに鼻から息を吐きながら、押し殺したような声を発してくる。
そして士道がおっかなビックリした手つきで、背筋に沿うように手を動かすと、遂に耐えきれなくなった夕弦が、身体をビクンと跳ねさせた。
「え、ええと・・・・」
「驚・・・・嘆、とても、上手です・・・・士道」
「ず、ずるい! 次は私!」
呼吸をようやく整えた耶具矢は位置を逆転させるが、士道がローションを塗ると、再び嬌声を上げ身を震わせる。
「反、撃。・・・・そうはさせません」
「このっ、何をする・・・・!」
夕弦がマウントを取り返すと士道がローションを塗り、今度は耶具矢がマウントを取って士道に塗られると、幾度と続けた後、ローションで滑り、二人はそれぞれがシートに腹這いになって睨み合う格好になった。
「えっと、この場合は・・・・」
士道は両手を合わせてローションをもう片方の手にもつけ、並んでうつ伏せになった二人の背中に指を這わせた。
「「ーーーーぅ、あ、あぁぁぁぁぁっ!」」
すると、二人は同時に大声を上げて、グッタリとその場に手足を投げ出し、全力疾走したあとのように肩で息をし始めた。
「だ、大丈夫か、二人とも・・・・!」
士道が戸惑いながら言うと、二人は虚ろな目を合わせた。
「・・・・無自覚で、これとか・・・・」
「戦慄・・・・神の指です・・・・とんだ狼です」
≪・・・・良かったな小僧。家事能力以外の技能を会得したぞ≫
「は、はぁ・・・・っ?」
首を傾げる士道はピクリと眉を動かし、耶具矢と夕弦も、どこからか聞こえた声に反応した。
「ーーーーシドー!」
「っ、十香・・・・!?」
弾かれるように後方の海に振り返った士道は、凄まじい波しぶきを立てながら、沖から泳いできたような十香が、滅茶苦茶なフォームだか恐ろしい速さでこちらに近づき、十香の後方には、美しいクロールで泳いでくる折紙の姿が映った。
≪・・・・獰猛な鯱と鮫が襲い掛かってくる感じだな?≫
ドラゴンの言葉に、士道は嫌~な汗が背中に流れた。
ーエレンsideー
その頃エレンは海岸で、海に飛び込んだターゲット(と折紙)が泳いで行き、〈アルバテル〉に連絡し、〈バンダースナッチ〉を使って追跡しようとしたが、最悪な事に、またも亜衣麻衣美衣トリオ(&なぜか首だけ砂に埋められた殿町)に捕まり、亜衣麻衣美衣の『高速穴堀り術』により首から下は砂に埋められ、SMのような砂の彫刻が作られ、亜衣にシャッターを切られていた。
ー士道sideー
十香(ダークカラーの水着)と折紙(白のビキニ)は海岸に到着し、士道の方にやって来た。
士道は何故ここにいるのかと聞いてくる二人に、曖昧に誤魔化していると、呼吸を整え、水着を着け直した八舞姉妹が声を発する。
「ほう? 十香ではないか。くく・・・・主の元に参じるとは愛い奴よ。褒めて遣わす」
「驚嘆。マスター折紙、なぜこんなところに」
四人が会話をしていると、水着の上にパーカーを羽織った令音がやって来た。
「! 令音さん・・・・?」
「せっかく人数が増えたんだ。あちらにコートを設営してある。ビーチバレーでもどうかな?」
言って、浜辺の方を指差す。
耶具矢と夕弦は最初怪訝そうにしていたものの、すぐに令音の意図を読み取った。
「ふん、まあ良かろう。何をしようと我が頂点に立つことは決まっているからな」
「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です」
二人がそう言って目を合わせると、別の競技でも始めたように同時に走っていき、十香も触発されたように駆け出し、折紙も納得はしていないがとりあえず浜辺に歩いていき、士道も令音と歩き出す。
「(令音さん、どうして出てきたんだ?)」
≪察しろこのナマコ脳ミソ。イレギュラーの二人が現れたからプランBを変えたのだ。義妹の組織の機関員を使えれば何とかなるがな・・・・いざと言うときにはまるで使い物にも役にも立たんグズ共めが!≫
「(プランB・・・・。そういえば今朝も何か令音さんと話し合っていたけど、その事だったのか?)」
≪そうだ。共にチームを組ませて、姉妹と貴様との仲間意識を高めようとする作戦だ≫
「(チームを組ませるって・・・・あの二人が大人しく組むのか・・・・)」
≪貴様の浅ましい脳細胞と一緒にするな。ちゃんと考えているわ≫
ドラゴンがそう言うと、士道は令音に視線を向けると、その意図を察しているのか、令音も小さく頷いた。
士道達は浜辺に設営された見事なビーチバレーコートに着くと、令音が用意していたくじ引きで決まった。
Aチーム・・・・耶具矢、夕弦、士道。
Bチーム・・・・十香、折紙、令音。
まさに不満がある編成だが、令音が「勝ったチームにはシンの誰にも知られたくない秘密を教えよう」という一言で、試合が開始された。士道は泣きそうな顔で抗議しようとしたが、ドラゴンが≪簡単に弱みを握られた貴様のマヌケっぷりを呪え≫と、尻尾ド突き(威力中クラス)で黙らされた。
「よし! では行くぞ!」
そして十香の元気の良い声を上げると共に、試合は開始され、サーブを放った。
がーーーー。
「なッ!?」
ボヒュゥッ! という音と共にボールがネットを易々と突き破り、そのまま弾丸のごとく伸びてくる。士道は咄嗟に身体を横に移動させた。
ボールはさっきまで士道がいた場所を刺し貫くと、ギャギャギャギャギャッ! と浜辺上で独楽のように踊ってようやく停止した。
「令音! 今のは何点だ!?」
「・・・・0点だ」
「むう、技術点は追加されないのか・・・・」
「・・・・十香、恐らくだが、君はなんか別の競技と勘違いしてる」
そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を上げた。
「くく・・・・やるではないか。どうやら我も本気をーーーー」
「いや、出さなくて良い。出さなくて良いから」
こんな王子様のやるテニスや、超異次元のサッカーのような球の応酬をされていては、命がいくつあっても足りない。下手をすれば『オレ魂な幽霊』になってしまう気がして、士道は全力で首を横に振った。
「ふん、つまらん。まあいい、次は我々のサーブだな?」
言って、耶倶矢が地面を抉りボールに手を伸ばし、存外綺麗なフォームでもって、相手のコートにボールを放った。
「おお、来たぞ!」
「邪魔しないで」
十香の動きを声で制し、折紙がボールをレシーブする。
するとその後方に立っていた令音が、綺麗なトスを上げた。その際に、令音の凄まじく暴力的な胸が上下に揺れ、思わず士道の目が釘付けになる。
「警告。危険です」
「は・・・・っ!」
夕弦に言われ、ハッとなる士道。気づくと目の前には、ネットを超える勢いでジャンプした十香の姿があった。
「はぁッ!」
裂帛の気合と共に、十香がボールを手のひらに叩きつける。そこから放たれる弾丸のような一撃は凄まじい勢いだった。
≪後方に飛んでレシーブ≫
「うおぁっ!!」
ペチンッと、ドラゴンのド突き(威力かなり弱め)で正気に戻らせ指示すると、士道は脊髄反射的に素早く後方にジャンプしてレシーブで受け止め、強烈な威力にビリビリと腕が痺れて涙目になるが、耶倶矢と夕弦の方向に流すことに成功した。
ウィザードとして戦い初めた一年間は、こんな風にドラゴンの指示で戦ってきたから、反射的に行動ができるようになった事に内心複雑な心境だった。
「ふ、二人共、カバー頼む!」
「良くやった士道!」
「同意。ナイスレシーブです」
耶倶矢と夕弦が士道がレシーブしたボールを拾おうと、滑り込んだ。
だが、二人同時に同じ位置に走り込んだから、二人は頭をゴツンと盛大にぶつけて、その場に倒れ込んでしまった。その間に、ボールはコート内でバウンドし、コロコロと砂の上を転がっていった。
「くあっ! な、何をしているのだ夕弦!」
「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」
耶倶矢と夕弦が額を押さえながら睨み合う。
「・・・・十香。今のようにコートに入れれば、一点だ」
「おお! 本当か令音!」
対して、反対のコートは賑やかだった。十香と令音がパチン、とハイタッチをする。折紙は我関せずの態度で無視していたが、令音に手を取られ、強制的に参加させられた。
が、耶具矢と夕弦はそんな相手コートに構わず、言い合いを続ける。
「今のはどう考えても我の領分ぞ。出過ぎた真似をするでないわ!」
「反論。うすのろまぬけな耶倶矢では間に合わないかと思いました」
「な、なんだと貴様っ!」
「応戦。何ですか」
「お、おい、落ち着けよ二人とも・・・・」
と、士道が二人の間に入るのと同時に、向こうのコートで令音が、十香と折紙に耳打ちをした。
するとーーーー。
「ーーーーほう、そういうものなのか」
「・・・・約束のものは後で必ず貰う」
なんて言いながら、十香と折紙が踏ん反り返るように耶倶矢と夕弦を見下ろしてくる。
「ふっ、なんだ。耶倶矢と夕弦も大したことがないな!」
「期待はずれ。この程度で私に挑もうだなんて身の程知らず」
「「・・・・!」」
見え透いた挑発。しかし耶倶矢と夕弦はピクリと反応した。
と、令音がまたもヒソヒソと十香と折紙に耳打ちする。なんとなくだが・・・・「もっと口汚く。本場ではそうやるんだ」と聞こえた気がした。
≪解析女め。〈プリンセス〉の教育に悪い事を教えんで欲しいものだな・・・・≫
「耶倶矢は弱虫で夕弦はへたっぴなのだ! 二人揃ってへっぽこぴーだな!」
「この×××。◯◯◯を△△△していればいい。敗者にはそればお似合いサノバビッチ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
十香のやたら幼稚な悪口と、折紙のやたら淡々とした罵りによる煽りに、耶倶矢と夕弦は静かに目を細くした。
「・・・・ねえ夕弦」
「返答。何でしょう」
「・・・・やっちゃう?」
「同調。やっちゃいます」
二人が、ちらと視線を交じらせ合う。
次のサーバーである折紙は至極落ち着いた様子でボールを手に取ると、美しいフォームでコートの隅にボールを放ってきた。
「夕弦!」
「応答。わかっています」
だが、夕弦がすんでのところで滑り込み、その完璧に近いサーブをレシーブする。
そしてそのボールを、耶倶矢が打ち上げ、相手コートに戻した。先ほどの醜態が嘘かと思えるほどの、見事な連携プレーである。
だが相手チームも負けておらず、迫りくるボールは折紙が打ち上げる
「村雨教諭」
「・・・・ああ、分かっている」
すると次いで、令音がそのボールをトン、と軽やかにトスした。士道はまた胸に気を取られまいと、ボールを目で追うと、またも十香が高く飛び上がるのが見えた。
「おおッ!」
叫び、はるか上空から鋭いアタックを放ってくる。
「士道、止めろ!」
耶倶矢の声が響き、士道も慌てながらもレシーブの体制に入り、十香の一撃に備える。
だが、ボールは士道の手ではなく一直線に顔面に突き刺さり、そのまま激しくバウンドして天高く舞い上がった。昨夜のドラゴンのド突きには負けるが、それでも凄まじい衝撃が頭に残る鈍痛に響き、視界がチカチカと星が舞う。
「ぐへぇッ!?」
≪ぐおっ!?≫
「よしっ! ボールが当たったからシドーはこちらのチームに貰えるのだったな?」
「・・・・いや、そんなルールは聞いたことがないが」
≪〈プリンセス〉、それはバレーボールではなく、ドッチボールだ・・・・!≫
どうやら十香のボールが士道を狙っていたのはそういう理由だったようだ。
「賞賛。ナイスです」
しかし、朦朧とする意識の中で夕弦の声が聞こえた。
「設営。耶倶矢」
「おうとも!」
夕弦がその場に片膝をつき、両手を組み合わせて手のひらを上に向ける。そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を乗せると同時、夕弦が耶倶矢の体を軽々と天高く放り投げた。
「な・・・・!」
「・・・・っ?」
十香と折紙の声が、敵コートから聞こえてくる。次の瞬間ーーーー。
「ーーーーはぁぁぁぁぁぁッ!!」
天高く舞い上がった耶倶矢が、上空のボールを矢の如しスピードで叩き落としーーーー矢のような一撃が敵コートに突き刺さる。なんとも見事な一撃だった。
「よっし! 同点! 見たかこらぁぁッ! 見とけこらぁぁッ! こらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
いつもの大仰な調子を忘れ、耶具矢は空中でガッツポーズを取り、砂浜に着地すると、至極自然にパンっと、夕弦とハイタッチを交わした。
「いぃぃやっほぉう!」
「歓喜。いやっほー」
「やー! 今のは完璧だったね夕弦。ビューンといったよビューン!」
「肯定。見事な一撃でした。さすが耶具矢です」
「いやいや、あれは夕弦がーーーー」
と、そこで二人はハッと肩を揺らし、フンと目を逸らした。
「ふん・・・・調子に乗るなよ下錢。我が足に踏まれたことを光栄に思え」
「不快。手に臭いが付きました。臭いです。クサヤと納豆とシュールストレミングをレッツラまぜまぜしたような臭いがします」
「そ、そこまで臭くないわー!」
≪・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
「シドー! 大丈夫か!?」
と、思い出したように喧嘩を始めるおかしな様相に、ドラゴンは目を鋭くして二人を見据えるが、士道はそんな余裕はなく、十香の叫びを聞きながら、意識は闇に沈んだ。
ー四糸乃sideー
四糸乃は現在。士道が四糸乃の遊び相手としてお留守番しているプラモンスター達を連れて、『面影堂』に来ていた。
来る途中『はんぐり~』でドーナッツを買い、店長達からサービスで『おスペドーナッツ(スイカの果汁で作ったチョコとスイカの種のようなチョコチップを付けたドーナッツ)』を貰って、『面影堂』で相棒のよしのんとプラモンスター達と戯れていると、作業部屋から輪島のおっちゃんが出てきた。
「おぉ四糸乃ちゃん。よしのんくん。ちょうど良かった」
「???」
『何々どったのおじさん?』
「あぁ、士道の新しいリングが出来たんだ。もしもドラゴンから交信が出来たら伝えてほしい。あと、士道なら『コネクト』で受け取れるように、四糸乃ちゃんに持ってて欲しいんだよ」
輪島から『2つのリング』を手渡された四糸乃は新しいリングを見る。
『『ウォータースタイル』と良く似たリング』と、『ドラゴンが雪の結晶を放っている青いリング』だった。