デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「痛たた・・・・」
≪まったく。普段からファントムとの戦いの時のような緊張感と集中力を持っていろ。この平和ボケのヌケサク底辺生命体≫
「うるせえっての・・・・!!」
士道は頭にできたたんこぶをさすり、ドラゴンの毒舌に文句を言いながら、海辺に設営されたトイレへとノロノロと歩いていた。
ちなみに、さっきまで気絶していた士道が一人でトイレなんて危ないので私がついていって色々と手伝う言った者が一名いたが、丁重に土下座する勢いで断った。
《・・・・大丈夫かい、シン?》
と、右耳に令音の声が聞こえてくる。士道は疲れたように苦笑しながら口を開いた。
「まあ・・・・なんとか。そっちはどうなんですか?」
『・・・・正直、まだ何とも言えないな。あとは二人の対抗心をどれだけ煽れるかがーーーー』
と、令音が不意に言葉を切った。
「令音さん? どうかしーーーー(ペチンッ)あたっ。ドラゴン。どうした??」
トイレの手洗い場についた士道は、眉をひそめてインカムを小突こうとするが、ドラゴンの尻尾ド突き(威力かなり弱め)が炸裂したが、理由が分かった。
令音が声を止めたのは、トイレの脇から耶倶矢が顔を出したからだ。
「耶倶矢・・・・? なんでこんな所に。皆のとこで待ってるはずじゃ」
「くく・・・・颶風の加護を持つ我に、あの程度の隔たりは意味をなさん」
「・・・・まあそりゃそうだろうけど。いやそうじゃなくて、理由の方をーーーー」
そう言ったところで、士道はハッとなり、前屈みになって叫んだ。
「だ、だから手伝いはいらないって言っただろ!」
「は・・・・?」
≪・・・・とことん愚かだな貴様は≫
ドラゴンは心底呆れ、耶倶矢は一瞬キョトンとした後、顔を真っ赤に染めた。
「な、あ、あんなのその場の流れで言っただけに決まってんじゃん! 本気にすんじゃねーし!!」
「そ、そうなのか・・・・?」
「当たり前でしょ!? な、なんで私があんたの・・・・その・・・・」
耶倶矢がそこで顔を俯かせ、言葉を詰まらせる。
「とッ! とにかく、用件は別にあるの!」
「お、おう・・・・!」
思わず頷く士道は声をひそめて、インカムで令音に「そちらの指示か?」と聞くと、「何も言ってない」と言い、耶具矢が焦れたように声をかけてきたので、士道は慌てて姿勢を戻すと、一つ気になる事があり、耶倶矢を見据えながら訊く。
「ところで・・・・その口調のままでいいのか?」
「あ」
耶倶矢はしまった、という顔を作り、すぐに気まずそうにコホンと咳払いをして、格好いいポーズを取ってみせた。
「くく・・・・我が道化芝居に謀られたな。魔法の使い手が我が手の上で踊る姿は大層滑稽であったぞ」
「・・・・・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・≫
「・・・・なによその目は」
耶倶矢がぶー、と唇を尖らせてくる。士道は力無く苦笑しながら頭を掻いた。
「いや・・・・なんでわざわざ無理してそんな口調にしてんのかなあと思って・・・・」
「む、無理してないし! これが普通だし!」
≪あっさり馬脚が出たな≫
「戻ってる戻ってる」
「は・・・・っ!」
耶倶矢は愕然とした表情になると、はあと息を吐き、小声で呟いてきた。
「・・・・だって、あれじゃん。私、精霊だし。こう、超凄いじゃん? だったらやっぱそれなりの威厳というかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」
「・・・・そう、なのかなあ」
士道は眉根を寄せてウウムと唸った。十香と四糸乃(&よしのん)、狂三に琴里、他の精霊達は別にそう言う感じは無かった気がする。
≪まあ、〈プリンセス〉は古風口調。〈ハーミット〉は二重人格。〈ナイトメア〉は狂人。〈イフリート〉は公私の切り替えが激しいと。かなり個性的な軍団だがな≫
「(ハハハハハ・・・・)」
ドラゴンの言葉に内心乾いた笑みを浮かべていた。
「そりゃそうでしょ。せっかくこんな格好いい出自と、悲劇的な環境が用意されてるのよ? やっぱそれなりの人物像じゃないと」
「まあ・・・・耶具矢が良いならそれで良いけどさ。それで? 用件って何なんだよ」
士道が言うと、耶倶矢は「ああ」と首肯してから続けてきた。
「なんかめんどくさいからこのまま続けるけどさ、今私と夕弦は、アンタを巡ってバトルしてるわけじゃん? それで、明日までにはその決着も着く」
「ああ・・・・そうだな。て、お前、まさか、さすがにそれはズルいんあたっ」
≪黙って聞け≫
耶倶矢が自分に根回しをしに来たのかと思ったが、ドラゴンが黙らせた。
ーーーーすると耶倶矢は、全く予想外の台詞を吐いた。
「ーーーー士道。あんた明日ーーーー“夕弦を選んでよ”」
「・・・・へ?」
全く想像してなかった言葉に、ギョッと目を見開く。
「へ、じゃなくてさ」
耶倶矢が肩を竦めながら続ける。
「悩むポイントなくない? だって夕弦、超可愛いじゃん。ちょっと愛想は無いかもしれないけどさ、従順だし、胸大きいし、もう男の理想がリミットブレイクしたような超絶萌えキャラじゃん? しかも、多分アイツ選べば、色々サービスしてくれんじゃないの? 選べばない手は無いでしょ。だからーーーー」
「ちょ、ちょっと待て!」
士道は混乱する頭を整理しながら、耶倶矢の言葉を制止した。彼女の言っていることが分からない。否、言葉の内容は理解できるのだ。だが、明日夕弦を選ぶという事はーーーー。
「耶具矢、お前・・・・この勝負に勝った方が八舞の主人格になるって言ってたよな」
「うん。言ったわね」
「だったら、なんでーーーー」
士道が喉を絞るように言うと、耶倶矢は頭を掻きながら困ったように笑った。
「んー・・・・そりゃ、私だって消えたかないけどさ。でも、それ以上にーーーー“私は、夕弦に生きて欲しいの”。もぅともっと色んなものを見て、思いっきりこの世を楽しんで欲しいの」
「・・・・っ、お前」
士道が苦しげに呻くも、耶倶矢は構わずに言葉を続ける。
「っていうか、あんたが乱入してこなきゃあの時全部済んでたんだからね。あそこで派手にバトルして、『やーらーれーたー』って私がダウンして終わりっていう流れだったのに」
耶倶矢がビッ、と士道に指を突きつけながら言ってくる。
「っ、だったら、俺の魔法使いの秘密を暴くって言うのは・・・・」
「あ、それはマジで知りたかったから。て言うか、今でもスッゴく教えてほしいし!」
と、耶具矢は目を星のようにキラキラとさせるが、士道は胸元に渦巻く、心臓が引き絞られるような嫌な痛みに顔を歪める。
「それじゃあ、俺を先に惚れさせた方がが勝ちってのはーーーー」
そう言うと、耶具矢も目を元に戻して声を発する。
「ああ、あれ? そりゃ、夕弦の方が可愛いからに決まってるじゃない。この勝負だったら、まず間違いなく夕弦が勝てるでしょ?」
「でも、それじゃ・・・・」
士道が言葉を継ごうとするが、耶倶矢が一瞬で士道の目の前まで移動し、士道の唇を塞ぐように人差し指を立てた。
「別に士道の意見は求めてないし。あんたはただ明日、夕弦の方が可愛いですチュッチュッ、ラブリーラブリー夕弦たんハァハァって言えばいいのよ。・・・・でないと、この島ごとあんたの友達全員吹き飛ばしてやるんだから」
言葉の途中で耶倶矢が目を細くし、声を低くして喉を鳴らしてくる。
士道はゴクリと息を飲む。精霊の脅威を思い出し、緊張でその場に動けなくなる。耶倶矢がふっと表情を緩め、足を引いた。
そしてクルリと身体の向きを変え、やたらと格好いいポーズをとる。
「くく………ではさらばだ、『緑の風龍の魔法使い<グリューン・ヴィントドラッヘ・マギア>』よ。此度交わせしは血の盟約ぞ。違えれば其の身の髄まで煉獄の焔<フェーゲフォイア・メレン>に灼かれると知れ!」
言って、耶倶矢が去っていく。
士道はその場に立ち尽くす事しかできなかった。
≪いつまで腑抜けている。この木偶の坊≫
ーーーーバシンッ!
「いってぇ・・・・!」
ドラゴンのド突きで正気に戻った士道は、令音にも今の会話の事を聞くと、令音は「今のは耶具矢の本心」だと伝えられ、耶具矢は明日、“夕弦を生かすためにキスには応じない”事を伝えられ、士道は拳を握った。
だが、それよりも、夕弦を生かすために己を殺す耶具矢の決意が、覚悟がーーーー重く、士道の心にのし掛かった。
士道は他の皆、取り分け夕弦に不審がられないために、重い足を引きずるように歩こうとしーーーー。
「制止。士道、止まってください」
「・・・・っ!?」
いきなり背後から話しかけられ、士道はビクッと肩を揺らし、後方にいつの間にか夕弦が立っていた。
「ゆ、夕弦・・・・?」
「応答。はい、と答えます」
≪・・・・落ち着いて対応しろ≫
「ど、どうかしたのか?」
額に汗を流した士道に、夕弦はふっと耶具矢の消えていった方向に顔を向け、静かに口を開く。
「質問。ーーーー耶具矢と、何を話していたのですか?」
「・・・・ッ! 何、をって・・・・その」
息を詰まらせ、収まりかけた動悸が再び激しくなりながら思考を巡らせるが、夕弦が小さく肩を竦めながら息を吐いた。
「撤回。やはりいいです。大体の予想はついています。大方ーーーー“明日の選定の際、自分を選ぶよう言ってきたのでしょう?”」
「や・・・・それは」
士道が言葉を発そうとするが、夕弦が手を広げて制止してきた。
「質問。それは構わないのですが、その際耶具矢は何かしましたか?」
「何か・・・・って言うと」
「例題。例えば士道に抱き着き首筋に舌を這わせたり、形の整った胸に士道の顔を挟んだり、士道の水着に手を突っ込んで股間の魔剣をまさぐったりしましたか、と訊きます」
「し、してねえよそんなこと!」
≪まあそんな事態に遭遇すれば、コイツは直ぐに逃げるだろう。何故かって、ボウヤだからさ≫
「(五月蝿いってのっ!!)」
予想外の言葉に思わず叫ぶが、夕弦は、「やれやれだぜ」と首を振る。
「落胆。耶具矢はそこが駄目です。詰めが甘いです。はっぷっぷ~です。めちょっくです。耶具矢がキチンと誘惑すれば、士道なんて発情期のお猿くらい簡単に落とせるというのに」
「(・・・・酷い言われようだ)」
≪何を言う。見事な見解だろうが。しかし、ヤツの口振りに違和感があるな≫
「請願。夕弦は士道にお願いがあります」
「・・・・お願い?」
士道は嫌な予感が全身に駆け巡ったーーーーつい数分前に聞いた言葉が、鮮明に脳裏に浮かんだ。
「肯定。その通りです」
夕弦は深く首肯すると、何も気負う事もなく言葉を続けた。
「請願。士道、この勝負、是非“耶具矢を選んでください”」
「ーーーーーーーー痛っっ!!」
言葉を失った士道だが、ドラゴンのド突きで正気に戻る。そんな士道の反応に、夕弦は怪訝そうに首を傾げた。
「質問。どうしましたか?」
「っ、あ、や、さっきの、ビーチバレーでの痛みがな・・・・」
「納得。確かにかなりのダメージを受けたようでしたね」
士道の言い分(ドラゴンの助言付き)に、納得した夕弦は、話を続ける。
「要求。それよりも、お願いします。明日、絶対に耶倶矢を選んで下さい。約束です」
「ななんで・・・・そんな事」
「説明。耶具矢の方が夕弦よりも優れているからです。悩む余地はありません。士道も、耶倶矢の可愛らしさはよく知っているはずです。多少強がりなところはありますが、一途ですし、面倒見は良いですし、触れれば折れそうな華奢な肢体をギュッと抱きしめた時の快感はもう天国としか形容できません。きっと耶倶矢を選べば、色々とやらせてくれる筈です。是非、耶具矢を」
「ま、待てよ、だって、耶具矢が勝ったら、夕弦はーーーー」
士道が言うと、夕弦は目を伏せて頷いた。士道が考えている事は、すでに何度も熟考したと言わんばかりに。
「耶倶矢こそ、『真の八舞』に相応しい精霊です。士道だってこの1日でよく分かったでしょう? 耶倶矢はとても魅力的です。選ばない道理はない筈です」
「だ、だって、二人は、あんなに競って・・・・」
「解説。耶倶矢はああ見えて恥ずかしがり屋です。焚き付けてあげないと、自分からああ言ったアピールはできません」
「それじゃ、魔法使いの事も、耶具矢を焚き付ける為ーーーー」
「否定。それは本気で教えてほしいです。と言うよりも、今でもメチャクチャ知りたいです・・・・!」
「・・・・・・・・」
と、夕弦も目を星のようにキラキラとさせるが、士道が無言になると、夕弦は顔を戻して、士道に歩みを寄せ、耳元に囁くようにして言ってきた。
「念押。明日、耶具矢を選ぶと言ってください。さもなくば、士道の友人たちに不幸が訪れることになります」
脅し文句まで耶具矢と同じ事を残して、夕弦は去っていき、士道は今度こそ、その場で立ち尽くすしかなかった。
≪(まさか、こうなっているとはな・・・・っ!!)≫
ドラゴンも予想外の展開に少し惑うと、一瞬、『ファントムの気配』を察して、周囲を見渡した。
≪・・・・・・・・・・・・・・・・≫
しかし、ファントムの姿も気配も、まるで無くなり、訝しそうにしていたが、士道を正気に戻そうとした。
ーーーーピチョン・・・・。
手洗い場の蛇口から、水が一滴落ちる音が、虚しく響いた。
ーエレンsideー
そしてエレンは集合時間でようやく掘り出され、海岸沿いで体育座りで夕日が沈む海を眺めていた。
戻ってきたターゲット<十香>に砂に埋められた姿を笑われ、一足先に掘り出された殿町をエレンが埋められていた穴に放り込み、再度砂をかけて腹いせを済ました。
《・・・・執行部長殿、その》
「・・・・大丈夫です。気にしていません。別にあれです。本命は夜でしたし。何も問題ないですし。ちゃんと旅行中に捕まえますし」
《そ、そうですね・・・・》
気持ちを[ネバーギーブアッープ!]させる執行部長殿に、優しいオペレーターの声が耳に響き、それが何だか逆に辛く、エレンは夕日が染みたと思いながら、目から熱い雫が溢れた。
ー士道sideー
その日の夕食は、味がしなかった。他の事に気がいってしまって、味を楽しむ余裕が無かった。
誰とも会話を交わさずに食事を済ませた後、ぼんやりと考えていたら、旅館の廊下をノロノロと歩いていた。
日中、耶倶矢と夕弦に言われた言葉が、未だに頭の中を渦巻いていた。
ーーーーもう一人の自分を生かすために、自分の死を選ぶ。
それを聞いて、士道は二人の考えが理解できなかった。
だが、例えば。
士道が命を投げ出さねば、妹の琴里が死んでしまうとしたら。
きっと自分はーーーー躊躇い無く応と首を振るだろう。
自己犠牲だとか、そんな自己陶酔的な事は頭にない。
ただ単純に、それしかないと、そんな事は選択肢ですらないと、ドラゴン曰くの単細胞で底辺な頭が判断してしまうだけだ。
「ーーーードー」
だから、夕弦に生きてほしいと、耶具矢に生きてほしいと願う二人の気持ちも、痛いほど理解できる。
「シドー」
いやそれどころかむしろーーーー耶具矢と夕弦が互いをそんなにも思い合っていることが分かって嬉しかった。
自分にはできるだろうか、そう例えばーーーードラゴンを犠牲にしなければならないとき、自分はドラゴンを・・・・。、
ーーーーバシンッ!!
「いってぇっ!! 何すんだよドラゴン!!」
≪気づけこの愚鈍生命体。〈プリンセス〉が呼んでるぞ≫
「えっ?」
ドラゴンに言われ、隣を見ると、浴衣姿の十香がプクー、と頬を膨らませていた。
「ようやく気づいたかシドー」
「と、十香・・・・いつの間にそこに?」
「随分前から隣を歩いていたぞ」
十香はジッと士道の顔を見つめてきた。
「ん・・・・何だ?」
「いや、シドー、良かったら、少し外へ行かないか?」
十香はふっと視線を逸らすと、小さく唇の端を上げて、士道の手をキュッと握った。
「え・・・・?」
「夜の海をなーーーー見てみたいのだ」
言って、士道の手を引いてくる。
「あ、ちょ、ちょっと(バシンッ)痛ぇっ!」
≪〈プリンセス〉の気持ちが分からんのかこの水虫脳ミソめが。この島に来てから二人っきりになれなかったから寂しがっているのだ≫
「あっ・・・・!」
ド突き+毒舌のアドバイスでようやく士道も気づいた。
「駄目・・・・だろうか」
≪・・・・・・・・・・≫
言って、十香は上目遣いになりながら士道を見て、ドラゴンが≪(なに〈プリンセス〉を悲しませているのだ? 死にたいのか? だったら昨夜以上の一撃をお見舞いしてやろうか?)≫と、無言の殺意の圧力を放ってくる。
「・・・・いや、そんな、事は」
これで首を横に振れる男などいない。次の瞬間、士道は満面の笑みを浮かべた十香に引っ張られていった。
ーエレンsideー
「ーーーーはぁっ、はぁっ」
旅館の外で壁に張り付くようにして、エレンは荒い息を整えようと深呼吸し、そして旅館の中を除き込んで、誰もいない事を確認した。
「・・・・危ない所でした」
独り言を呟き、汗を拭う。ターゲットである二人が外に出ていくのを見て、チャンスと思い後を追おうとした瞬間、背後から「エーレーンさぁぁぁん! あっそびっましょぉぉぉ! 答えは聞ぃいてなぁぁぁい!」と“天敵”の声が[デーンジャラース!!]、[バーイオンレーンス!!]と響いてきて、慌ててその場から離脱したものの、正直心臓は徹底的にクライマックスな感じにバクバクといっていた。
ちなみに“天敵”達は三人でトランプ(七並べ)をしていた。
「ま、まあ、ともあれ、チャンスです」
エレンはもう一度だけ旅館の様子(と言うより“天敵”達の動き)を窺ってから、〈アルバテル〉に連絡し、旅館にいる折紙が不審な動きをした時に備え、〈バンダースナッチ〉を一機待機させるように指示を出すと、夜闇に足を踏み入れていった。
ー士道sideー
人影の無い静まり返った夜の浜辺を、士道と十香はゆっくりとした歩調で海岸沿いの防波堤付近を歩きながら、他愛ない会話を交わしていると、少しばかり歩みを進めた所で、不意に十香が振り返ってくる。
「それでーーーーシドー。一体何があったのだ?」
言われて士道はドキンと心臓が跳ねた。
「・・・・っ、何っ、て」
「いや、具体的には分からんのだが・・・・何か、あったのだろう?」
「な、何でそう思うんだ・・・・?」
「んー・・・・何となく、シドーが悩んでいる感じがしてな」
≪流石は〈プリンセス〉だ。“本質を見る目”がある。表面でしか物事を捉えられない無知蒙昧な貴様とは格が違うな≫
「(うるさいっ!)・・・・もしかして、十香。そのために俺を連れ出してくれたのか?」
「む・・・・まあ、その、なんだ。いや、私がシドーと話をしたかったのも本当だぞ?」
ほんのりと頬を染めてそう言う十香の仕草が、堪らなく可愛らしくーーーーそして、ありがたくて、思わず頬を緩める士道は、口を開こうとする・・・・が。
≪待てこの危機感ゼロのアホウドリ≫
ーーーーペチンっ。
「(な、なんだよドラゴン・・・・!)」
ド突き(威力弱め)に頭を叩かれて士道は渋面を作るが、ドラゴンは盛大に呆れ果てたため息を漏らした。
≪気づいておらんのか、〈ベルセルク〉達が近くにいるぞ。こちらの声が聞こえている位置にな≫
「(なっ!!)」
≪周りを見るな。不自然に見られる行動を取るな。そんな事にも気を使えないのか。この迂闊と言う言葉が人形になった恥さらし生命体≫
「(そこまで言うのか・・・・)」
確かにどこで耶具矢と夕弦がいるのか分からない状況なのに、迂闊だったと思う。が、ドラゴンは言い分が正論なのだが、言い方が酷すぎる。
≪〈プリンセス〉。こちらと話を合わせてくれ。なるべく小さな声でな≫
「む。ドラゴン? 分かったのだ。お口にチャックマンだな」
≪うむ、その通りだ。〈プリンセス〉は物分かり良くて助かる。何処かの下等生物も見習って欲しいものだ。無理だろうが≫
十香に対する優しさの1%でも自分に向けてくれないかな、と士道は泣きそうになる。
それからドラゴンがテレパシーで十香に事情を説明した。
途中十香が声を上げそうになるが、ドラゴンはフォローして事なきを得た。
「なあ・・・・シドー。私は思うのだかーーーー」
≪っっ!! 〈プリンセス〉! 愚鈍! 上からファントムだっ!!≫
「「っっ!!?」」
ドラゴンの叫び声を聞いてすぐに後ろに飛び退いた二人。二人がいた地点の前方に、火の玉が落下した。
ーーーードゴォォォォォォォォォォンン!!
隕石でも落下したような衝撃と熱波が周囲に広がった。
「くっ!」
「ぬぅっ!」
[ドライバーオン!]
士道はドライバーを起動させ、リングを翳そうとするが、火の中から現れたファントムを見て、愕然となる。
なぜならーーーー。
「フェニックスっ!!」
『よぉ。指輪の魔法使い! 地獄から戻ってきたぜぇっ! あ、後聞いたぜ、〈ベルセルク〉の事!』
「なっ! や、やめーーーー」
士道が止めようとする前に、フェニックスは声高く言った。
『〈ベルセルク〉は言ったそうだなぁ! 自分は消えても良いから、お前に相手の方を生かしてくれって言ったそうだなぁっ!!!』
とーーーーその瞬間。士道達がいる所の右側の地点から、八舞耶具矢が。左側の地点から、八舞夕弦が現れた。
「今の・・・・何?」
「復唱ーーーー要求。耶倶矢が・・・・夕弦を生かすと、そう言ったのですか?」
「ふ、二人とも・・・・!」
『クククククク・・・・!』
士道にもフェニックスにも目を向けず、二人は静かにーーーーしかし激しい憤怒に彩られた、声音を発してきた。
そして・・・・。
「「“ふざけるな”・・・・ッ!」」
二つの嵐が、吹き荒れ、そして、二人の身体に“紫 色の皹が走った”ーーーー。
今日のセイバーで鎧武のブラーボとグリドンの二人が現れて、何故に? と思ったけど、外伝が出てたんですね。
セイバー本編は、『力を手にして調子に乗っている』のも腹が立ちますが、『力を手にしてウジウジと悩む』のも見ていて、「イライラするんだよ(浅倉<仮面ライダー王蛇>の口調で)」、って気持ちになります。