デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
注意:この話は前半シリアス。中盤ギャグ。後半グロです。
祭の下準備
ー士道sideー
「ここ、だよな・・・・?」
≪ああ。ここだな≫
士道とドラゴンは現在、マシンウィンガーで天宮市にあるいつも買い物に来ているスーパーの近くにある、“一件の花屋”へとやって来た。
別に精霊達へ送る花を買いに来た訳ではない。その理由は・・・・。
ーーーー“フェニックスのゲートとなった人間が、かつてこの花屋で働いていたからだ”。
* * *
時は琴里が〈ラタトスク機関〉の本部から戻り、八舞姉妹の耶具矢と夕弦が精密検査を終え、精霊のマンションに住み始めて数日が経ち、夏休みを満喫していた士道は〈フラクシナス〉に呼び出され、琴里から“あるリスト”を渡された。
【琴里、これは?】
【一年前の集団行方不明事件。『儀式<サバト>の日』に『ゲート』となった人達のリストよ・・・・】
【っ!!?】
士道が、〈仮面ライダーウィザード〉が、〈ラタトスク機関〉に協力する見返りとして、琴里が取り寄せた物だ。
士道はリストを見てみると、メデューサとミノタウロス、そしてフェニックスの人間体での顔をした人達の顔写真と名前と住所が記されていた。
【随分待たせてすまなかったわね。ようやくリストが手に入ったのよ】
【何で何ヵ月も手に入らなかったんだ?】
【・・・・・・・・・・・・】
【琴里?】
難しい顔をしている琴里に、士道は何事かと首を傾げるが、琴里は口を開いた。
【・・・・普通の警察のサーバーなら、〈ラタトスク〉の調査で簡単に見つけられたけど、今回はちょっと“特殊な所にあったのよ”】
【・・・・“特殊な、所”?】
【『警視庁国家安全局0課』、通称『国安0課』。分かりやすくに言うと、『警視庁公安警察』よ】
* * *
「(『公安警察』って、日本のスパイ組織のような組織なんだよな? 何でそんな組織があの『儀式<サバト>の日』の行方不明者のリストを持っていたんだろう?)」
≪・・・・・・・・リストを見た限り、貴様を含んで数十人の人間が集団失踪したからな。公安も動いた所だろう。それよりも、フェニックスのゲートの働いた場所に来てどうするつもりだ?≫
「(・・・・フェニックスのゲートが、どんな人だったのか聞いてみたいんだ)」
「あら? いらっしゃいませ!」
バイクからおりながら会話をしていると、店の中から一人の女性店長が声をかけてきて、ドラゴンとの会話を中断させると、フェニックスのゲート・・・・。
ーーーー『藤田雄吾』について聞いた。
働き者で大人しく真面目な青年で、子供の頃から花が好きで自分の店を持つのが夢だったが、1年前の『金環日食の日(儀式<サバト>の日)』の前日から急に出勤しなくなり連絡も取れなくなったと聞いた。
その話を聞いて、やるせない気持ちになり沈んだ顔となった士道を気づかったのか、『藤田雄吾』の写真を見せて貰った。
写真の中に映るのは、確かにフェニックスの人間体だが、白く清潔な服装に薄く髭を生やしながらも、その顔には好印象を受ける晴れやかな笑みを浮かべた『藤田雄吾』がいた。
士道は店長にお礼を言って花瓶に入った花を買うと、マシンに乗って帰路に着くが、途中の路肩にバイクを停止させると、重いため息を漏らした。
「(なあ、ドラゴン・・・・)」
≪なんだ?≫
「(もしも、もしもだぞ。フェニックスに、『藤田雄吾』さんの人格が残っていたら・・・・≪何を頭の蕩けた戯れ言をほざこうとしているのだ?≫・・・・えっ?)」
≪ファントムとなった時点で、ゲートの記憶の一部があるだけのまったくの別の存在になった。フェニックスには『藤田雄吾』の人格などもはや残ってはいない≫
「(そんな事、断言できるのかよ!? もしかしたら、『藤田雄吾』さんの人格がフェニックスの奥に眠っている可能性だってあるだろう!? 俺がお前を押さえつけたみたいに・・・・!!)」
≪馬鹿馬鹿しい。そんなくだらん“タラレバの妄想”に浸っておらんで、さっさと精霊達の元に戻れ≫
ドラゴンは徹底とした現実主義の思考だ。「ファントムにもゲートの意識が残っているのでは?」、と考える士道の思考を一蹴するのは当たり前だ。
士道は煮えきれない感情を抑えて、再びバイクを走らせた。
◇
そして夏休みが明けた、9月8日。まだ残暑が抜け切らない日の午後の事。
来禅高校の体育館は今、異様な雰囲気に包まれていた。
『今から丁度1年前・・・・我らは多くのことを学ぶこととなった』
壇上に立ったクラスメイトの山吹亜衣が、拳を握りながらマイク越しに厳かな声を絞り出す。
その両脇には彼女の親友である葉桜麻衣と藤袴美衣が、どこぞの親衛隊かボディガードよろしく『休め』の姿勢で立っており、ついでに左右に来禅高校の校旗まで立てかけてある。亜衣の異様な雰囲気もあって、さながら開戦を宣言する一国の元首にようにすら見える。
『苦汁の味を、敗北の屈辱を・・・・這いつくばらされた地の冷たさを』
拳を震わせながら憎々しげに言っていた亜衣が、バッと顔を上げる。
『さあ諸君。見るも哀れなる敗残兵諸君。私は君達に問いたい。我らは苦汁を舐めたままなのか? 這いつくばったままなのか? 敗北に屈し沈んだままなのか・・・・!?』
ダン!と亜衣が拳を演台に叩き付けると、マイクのハウリング音が辺りに響き渡った。
『否! 断じて否だ! 貴奴等は重大な失敗を犯した! それは我らに復讐の牙を研ぐ時間を与えてしまった事である! 悲願成就の時は来た! 来禅に栄えあれ! 来禅に誉れあれ! 我らが渾身の一撃を以て、貴奴らの喉を噛み千切らんっ!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
『さぁ! 誇り高き来禅の勇士達よ! 復讐の時は来たれり!! 来禅に栄光あれ!! いざ出陣っ!!』
『エイ・エイ・オオオオオォォォォォッ!!』
亜衣がまるで公国の総帥のような演説をして拳を上げると同時に、それに呼応するように、体育館にひしめいていた生徒達が一斉に声を上げる。体育館の窓ガラスが微かに揺れ、幾重にも反響した凄まじい音量が鼓膜を痛いほどに震わせてくる。
≪なんだこの茶番劇・・・・≫
「はは・・・・気合い入ってんな」
ドラゴンは心底呆れ、士道は苦笑しながら、壇上で演説ぶるクラスメートを眺めていた。
とは言え、皆の熱狂する理由も分からないでもない。何故ならーーーー。
「シドー、ドラゴン、亜衣は一体何を言っているのだ? どこかと戦争でも始めるのか・・・・?」
と、十香が右方から怪訝そうな声を響かせる。その絶世に美しい表情は今、なんとも難しげな困惑の色に染まっていた。
まあ、それはそうだろう。何も知らない者が今の演説を目にしたなら、さぞ混乱するに違いない。今の亜衣はどう見てもどっかの独立戦争の英雄か、自己啓発セミナーの講師である。
「今月はあれだ、『天央祭』があるんだよ」
「『天央祭』? なんだそれは」
≪簡単に言うとな。この天宮市にある来禅を含めた10の高校でやる、とても大きな文化祭、このあいだテレビで見た祭りの事だ≫
ドラゴンが言うと、十香が目をキラキラと輝かせた。
「文化祭・・・・おお、テレビで見たことがあるぞ。学校に食べ物屋が並ぶ夢のような祭りだ!」
「ん、まあ間違っちゃいないが・・・・」
≪食べ物だけでなく、他にも面白い見せ物が見られるぞ≫
「おお・・・・そうか、文化祭をやるのか! それはあれだ、うん、いいと思うぞ!」
十香が言って恍惚とした表情を浮かべた後、再び首を捻った。
「ぬ・・・・? それで、なぜその文化祭をやるのに、このような決起集会が必要なのだ?」
「ああ、『天央祭』ってのはちょっと他の文化祭とは違ってな。ーーーー天宮市内の高校10校が合同でやる文化祭なんだよ」
「10校で、合同?」
十香が目を丸くする。士道は「ああ」と頷いた。
士道達の住む天宮市は、30年前の空間震で壊滅的な被害を受け、東京都南部から神奈川県北部の一帯が再開発された地域である。
再開発から始まった当時は、地域面積や施設の充実度に比べて住民数が非常に少ないというアンバランスな時期があったり
そしてその時に行われていたのが、『天央祭』と呼ばれる合同文化祭なのだ。
「まあ要するに、当時は学校も生徒も少なかったから、一緒にやって盛り上がろうって企画だったらしい。それが、住民数が増えた今でも続いてんだよ」
士道が苦笑しながら肩をすくめた。
当初は過疎地域の高校が肩を寄せ合って開催していたささやかな祭典が、今や天宮スクエア大展示場を借り切って3日に亘って行われる一大イベントだ。
何しろ毎年テレビ局の取材などが入り、市外からの観光客も多い上、天央祭を見て志望校を決める中学生も少なからず存在し、経済効果を生み出している。
天宮市としても、大きなイベントとなった『天央祭』を終わらせる事ができない現状だ。
だが、最初は各校が手を取り合って文化祭を盛り上げましょうという理念の元始まったイベントは、参加校が増えるにつれて別の意味を持つようになった。
要するにーーーー。
『今年こそ! 今年こそは、我が来禅が王者の栄冠を手にするのだ!』
『うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!』
壇上の亜衣が高らかに叫び、生徒達が呼応する。
そう。天央祭では模擬店部門、展示部門、ステージ部門などの優秀校を投票により決し、最優秀賞に選ばれた学校は、以後1年間王者として君臨することになるのである。
そのような各校対抗システムがある以上、普段眠る皆の闘争心と愛校心が煽られるのは必然と言えよう。日頃サッカーに微塵も興味を示さない人が、ワールドカップになったら夢中で日の丸の旗を振るのと同じようなものかもしれない。
と、士道が十香に説明をしていると、背後から何やら声が聞こえてきた。
「くく・・・・なるほど、亜衣達が奮起している理由がようやく知れたわ」
「納得。そういう事であれば負けるわけにはいきません」
見やると、そこにはいつの間にか瓜二つの少女二人ーーーー八舞耶倶矢と、八舞夕弦がいた。
「耶倶矢、夕弦・・・・何でこんなところに?」
≪クラス別に並んでるはずだろう?≫
そう。八舞姉妹は士道達と違い、隣の“2年3組”に転入したのだから。
当初は彼女らも同じクラスに転入する予定だったらしいが、士道と一緒にいなければ不安がる十香と違い、二人揃っていれば多少の下降はあれど十分に精神状態が安定するため、隣のクラスへの編入が決められたのだという。
しかし今は集会中。クラスごとに別れて整列しているため、八舞姉妹も3組の方にいるはずだった。
だが、理由はすぐに知れた。興奮状態の生徒達はーーーー。
『勝つのは来禅! 勝者は来禅! 勝つのは来禅! 勝者は来禅! 勝つのは来禅! 勝者は来禅! 勝つのは来禅! 勝者は来禅! 勝つのは来禅! 勝者は来禅! 勝つのは来禅! 勝者は来禅!』
などと、どこかの中学テニス部部長のキングに送るコールを叫んでおり、クラスの列などとうに意味をなしていなかったのである。
「ふ、とはいえまあ、我ら八舞姉妹がいる以上、来禅の勝ちは揺らぐまいて」
「同意。夕弦と耶倶矢のコンビは最強です。士道とドラゴンにも負けません。どんな相手が来ようとハイパームテキです」
「くく、そういう事だ。何しろ夕弦と来たら何をしても完璧にこなしてしまうからな」
「肯定。しかもその夕弦以上にパーフェクトな耶倶矢もいるのです。負ける道理がありません」
「いゃふふ・・・・このー、なんだー、むず痒いぞ夕弦ー。つんつん」
「微笑。耶倶矢こそ。つんつん」
なんて、楽しげに微笑みながらお互いの二の腕を突き合う。
≪ツッコミ処はかなりあるが、このカマドウマと我をコンビ扱いするな≫
「・・・・ははは、誰がカマドウマだ、この根暗トカゲ」
そんな二人を見て、ドラゴンは呆れ、士道は力無い笑みを浮かべながらドラゴンに文句を言う。。
少し前まで、辺り一帯を巻き込む大喧嘩をしていた二人が、今では付き合って1週間目くらいであろう甘カップルみたいな仲睦まじさを披露しているのが、二人はようやく分かり合えたのだと思い、嬉しくもあった。
ちなみにドラゴンの存在も二人は知っている。初めてドラゴンの思念体を見せた時ーーーー。
【ずるい! ずるい! 士道がそんなカッコいい龍を体内に宿しているだなんて!】
【同意。士道が魔法が使えるのが絶望から生まれた魔獣だったなんて、凄いカッコ良くて羨ましいです・・・・!】
と、妙な羨望の眼差しで向けられていた。
ちなみにドラゴンは耶具矢を『テンペスト』、夕弦を『ストーム』と呼んでいる。
と、そこで殿町が十香に天央祭に参加する模擬店の情報を教えようとして、おねだりするように言おうとしたが、ドラゴンがーーーー。
≪あの猿を〈プリンセス〉から退けろ・・・・!≫
と、命令されたので拳を振り下ろして黙らせ、一応十香に、「殿町宏人と呼んでやれ」と言うと、「教えてくれ。お願いだ。殿町宏人」と呼ぶと模擬店の情報を細かく教え、さらに特別ゲストとしてーーーー。
殿町曰く、『国民的アイドル 誘宵美九』が来ると聞かされた。
十香にそのアイドルの事を知っているかと聞くが、当の十香は模擬店の事で頭がいっぱいでそれどころではなかった。
士道と一緒に祭を楽しもうと約束の指切りをしようとするが、そんな事させまいと、鳶一折紙が割り込んできて、いつものワチャワチャと喧嘩を始め、士道の小指と手首を取って引っ張り合いを始めた。
と、そこで体育館を包んでいた熱狂に微かな変化が起こった。
『静粛に、諸君。諸君らの思いはしかと受け取った。ーーーーそこで、一つ願いがある』
言って亜衣がマイクを手に取り、続ける。
『親愛なる同胞、桐崎生徒会長以下数名が、志半ばで英霊となられた。そこで、会長らの理念を継いでくれる同志を募りたい。我こそはという者があらば名乗りを上げてくれ!』
生徒達がざわつき出す。多分みんな、言っている意味がよく分からなかったのだろう。
程なくして、前の方に立っていた生徒が手を挙げる。
「えーと、つまりどういう事ですか?」
亜衣はぽりぽりと頭をかくと、今までの芝居がかった調子を忘れたように続けた。
『うーん・・・・まあぶっちゃけると、会長達がみんなストレスと過労でぶっ倒れちゃったから、代役を決めないといけないのよ。誰か天央祭の実行委員やってくんない?』
瞬間ーーーー。
つい数瞬前まで地鳴りのような声を響かせていた生徒達が、一斉に静まり返った。
これはまずいと思ったのか、亜衣が身振りしながらフォローを入れてくる。
『いや、って言ってももう大体の仕事は終わってるのよ? ホントホント。会議の時座ってくれるだけでいいからさ! マジもう超アットホームな委員会だから! スキルアップに繋がるから!』
なんだか後半はブラック企業のアルバイト募集の誘い文句みたいになっていた。
先ほどまであれほど熱狂していた生徒達の熱が、急激に冷めていくのが分かる。皆壇上の亜衣たちと目を合わせないよう、視線を逸らし始めた。
そんな中ーーーー。
「どうだ! これであいこだ!」
「左手で行う指切りは絶縁を意味し、もう二度とその人に関わらないことを示す」
「な、何・・・・ッ!? し、シドー! ち、違うのだ、私はそんなつもりでは・・・・!」
「・・・・いや、聞いた事ないぞ。そんなの」
場の空気を読まない二人に巻き込まれ、何やら士道の両手の指をかけて、十香と折紙が争っている
すると二人が士道の両手の小指をそれぞれ引っ張ってきた。
「あたたたたたたッ! やめろ、やめろって!」
すると今度は八舞姉妹までも参戦し、さらにギリギリと、士道の両手が引っ張られる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「この・・・・っ! シドーが痛がっているではないか! 離さんか!」
「それはこちらの台詞。一刻も早く彼を解放すべき」
「くく、ぬしらは不毛な争いを続けているがいい」
「同意。その間に夕弦と耶具矢がいただいていきます」
そして最悪な事に、先ほどと異なり周囲が静かになったものだから、やたらと生徒達から注目を集めてしまっていた。
男子生徒がギリギリと歯ぎしりしながら鋭い視線を寄越し、女子生徒たちがヒソヒソと話し始める。
殿町も他の男子と同じ目と憤怒の形相になりながら、どこから出したのか、『金色の文字が書かれた緑色のスリッパ』を両手に持って交差させて士道を睨む。左右のスリッパには。
『お前の罪を数えろ!』。
『振り切るぜ!』。
と、書かれていた。
そして殿町は、クルリと身体の向きを変えて、大声を発しながら手を高く上げた。
「議長!」
『はい、殿町くん』
「天央祭の実行委員に、五河士道くんを推薦しますッ!」
「な・・・・っ!」
急な友人の裏切りに目を見開く。
「て、てめぇ殿町っ! 何言ってあだだだだだッ!?」
抗議の声は、左右からの強烈なウィンチによって遮られた。
そうこうしている間にも、殿町に賛同した男子達が次々と声をあげる。
「賛成! 頼んだよ五河くん!」
「賛成! 俺たちの意志を託せるのは五河しかいない!」
「賛成!精々こき使われて病院送りになりやがれドチクショウ!」
「おい最後本音出やがったな!?」
叫ぶも、男子に乗っかるように女子も一緒に五河コールを送ってきた。
『静粛に!』
と、それを制すように亜衣が壇上から声を響かせた。
一瞬、亜衣が宥めてくれるのかと思ったが・・・・。
≪甘い考えを持つなよボクちゃん≫
そう、士道の考えは甘すぎた。亜衣麻衣美衣も殿町と同じスリッパを片手に持って掲げた。
それぞれのスリッパには。
『地獄を楽しみな!』。
『半熟に死を!』。
『絶望がお前のゴールだ!』。
と、書かれていた。
『諸君らの声、しかと受け取ったぁッ! 二年四組五河士道くんを、他薦・賛成多数により、天央祭実行委員に任命しまッす!』
「ちょ・・・・ッ!」
『おおおおおおおおおおおおおおッ!!』
士道の声は、体育館を揺るがす大歓声に呑み込まれた。
ー???sideー
そこは、天宮市から遠く離れた東京都の郊外にある潰れた病院の一室。
もうすでに日は沈み、日付も変わった深夜。1人の女性が病室のベッドに縄で縛れていた。
「・・・・・・・・・・・・」
女性は虚ろな瞳と表情で、部屋の天井を眺めながら身体を上下に揺する。女性が身体を揺すっているのではない。
裸体を晒した自分を覆うように、“怪物が変貌した女に、辱しめを受けているからだ”。
「ああ、良い・・・・! 良いよぉ、君の身体・・・・!!」
“女”は恍惚とした貌で動きを激しくするが、当の女性はまったく感慨が湧き上がらず、その“女”に良いように弄ばれながら、何でこんな事になったのかと自問していた。
女性は幸せだった。数年前の高校時代に『天央祭』で告白した初恋の人と過ごし、東京の大学でその恋人と同じアパートに住みながら幸せな生活をしていた。客観的に見ても充実した日々を送っていた筈なのに。
今年で大学を卒業し、結婚の約束もして、試しにウェディングドレスに着て、恋人もタキシードを着て、結婚するのをお互いに楽しみに笑いあっていた。
その時ーーーー“黒い影”が自分達を包み、気がつけば女性はウェディングドレスのまま、暗い病室のベッドに縛られていた。
辺りを見回ると、小さな電池式の電気スタンドが暗い病室を申し訳無い程度に照らし、光が届かない闇の中から、“蝙蝠のような姿をした怪物が現れた”。
女性は悲鳴を上げるが、誰も助けに来てくれない。怪物は変貌すると“女”の姿となり、ウェディングドレスを引き裂き、舌舐めずりした“怪物女”は、女性の身体を辱しめた。
もう何時間も“怪物女”に弄ばれ、精神がボロボロになってしまった女性。女性は婚約者の男性はどうしたのかとふと思った。
“怪物女”は動きを止め、女性の胸の内を見抜いているように鼻で息を吐いた。
「まったく、私がこんなにも愛しているのに、君はあの穢らわしい男の事が気になるのかい?」
「っっ!!!?」
“怪物女”の言葉に、女性の瞳に生気が戻り、どういう事なのかと聞くと、“怪物女”はつまらない事を話ように口を開いた。
「あの男はね。私が君だけを連れていこうとしたら君を庇って一緒に付いてきてしまったんだよ。そのまま惨めに這いつくばって消えれば何もしなかったのに、彼女に手を出すな! って、私と君の逢瀬を邪魔するから、あんな姿になってしまったんだよ」
“怪物女”が指差した方向を見るが、暗い闇で何も見えなかったが、微かに鉄臭い匂いがし、よく目を凝らすとそこにはーーーーーーーーーーーー首と胴体が別たれた恋人の遺体が、ゴミのように捨てられていた。
「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
愛する人が、夢描いた未来が音を立てて砕け散ったのを感じた女性は、心の底から悲鳴を張り上げると、女性の身体に“紫色の亀裂”がとてつもない勢いで走っていき、女性の心は“絶望の底”に叩き落とされた。
「ふぅ、もう少し楽しみたかったな・・・・」
“怪物女”は“壊れてしまった玩具<ゲート>”から離れると、その姿を変貌させた、蝙蝠のような翼を頭と胴体に生やした吸血鬼のような異形の怪物、『ヴァンパイアファントム』へと。
『ヴァンパイア。ゲートの絶望に成功したようだな?』
『っ! メデューサ!』
その部屋にメデューサが入ってくると、ヴァンパイアは“ゲートだった女性”に目もくれず、メデューサに近づく。
『どうだいメデューサ? 私なら“野蛮なフェニックス”や“軽薄なグレムリン”ごときと違って、ちゃんとゲートを絶望させられるよ?』
馴れ馴れしく近づくヴァンパイアに、メデューサは不快そうに口元を歪ませながら声を発する。
『ヴァンパイア。貴様はゲートではない普通の人間の女もなぶっているが、何の意味があるのだ? 下手な事をすれば指輪の魔法使いに協力する組織<ラタトスク>に感ずかれるぞ』
『な~に、ちょっとした遊びだよ。あ・そ・び♪ こうでもしないと退屈で死んでしまいそうだからねぇ』
悪びれずにそう言いながらメデューサにしなだれようとするヴァンパイアを払うメデューサは、ゲートである女性に目を向けた。
ーーーービキビキ・・・・! グワシャァンッ!!
砕け散った女性から、虫のような顔に口元はメデューサのように女性のようで、頭に蝶の羽を生やした魔獣ファントム。
『『パピヨン』か』
『歓迎するよパピヨン。今日から私とコンビを組もう』
『・・・・・・・・・・・・(コクン)』
『無口な女性も大好きだよ♪ どんな悲鳴を上げるのか、楽しみだからね』
唇を舌で舐めるヴァンパイアを、バイザー越しで侮蔑の視線を向けるメデューサが、ワイズマンからの指示を出した。
『ヴァンパイア。次の精霊が天宮市で動き始めた。その精霊を絶望させてこい。邪魔となれば他の精霊達も排除しろ』
『おおっ! 新しい精霊かい?! 他の精霊達も見目麗しいからねぇ、楽しみだよ。どんな風に鳴いてくれるのかなぁ?』
メデューサは不快そうに舌打ちすると、その場から消え、ヴァンパイアはパピヨンを連れて夜の空へと飛んでいった。
明朝。その病室に“二人の男女”がやって来て、ベッドの近くに無惨に首を切られ、野晒しにされたタキシード姿の青年と、引き裂かれたウェディングドレスの残骸が残る血の付いたベッドを見て、悲痛な表情を浮かべた。
次回。ようか・・・・新たな精霊が登場!