デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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接触・〈プリンセス〉

ー士道sideー

 

士道は、避難する生徒達に見つからないように、琴理と令音と共に街上空に浮遊している〈フラクシナス〉に移動し、艦橋スクリーンに表示された様々な情報に視線を送る。

正直士道には何のスクリーンの表示された数値が何を示しているのかはわからない。

 

「なるほど、ね」

 

軍服に着替えた琴理と令音はお互いの席に移動し、艦長席に座った琴理がチュッパチャップスを舐めながらクルーと言葉を交わし小さく唇の端を上げる。

 

「ーーー士道」

 

「おう」

 

「早速働いてもらうわ。準備なさい」

 

「・・・・っ」

 

琴理の言葉は士道は若干身体を硬直させる。命の危険ならこの1年のファントムとの戦闘で飽きるほど経験してきたが、やはり緊張してしまう。

 

「もう彼を実戦登用するのですか、司令。相手は精霊。失敗すればすなわち死を意味しています。訓練は十分なのでしょげふッ」

 

艦長席の隣に立っていた神無月が、スクリーンに目をなりながら不意に声を発するが、言葉の途中で琴理の拳が神無月の鳩尾にめり込む。

 

「私の判断にケチをつけるなんて、偉くなったものね神無月。罰として今からいいと言うまで豚語で喋りなさい」

 

「ぶ、ブヒィッ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

≪あまり見るな目が腐れ汚れる。それにあの汚物はあれで幸せそうだし放っておけ≫

 

なんか物凄く慣れた手つきで返す神無月に士道はドン引きし、ドラゴンは完全に神無月をゴキブリか汚物でも扱うような態度だった。

しかし琴理も、神無月の疑問ももっともである事くらいは理解しているようだった。キャンディの棒をピンと上向きにし、スクリーンを示す。

 

「士道、あなたかなりラッキーよ」

 

「え・・・・?」

 

≪・・・・・・・・なるほどな≫

 

士道は解らなかったが、ドラゴンはスクリーンを見て察した。

 

「(なるほどなって、ドラゴン解ったのかよ?)」

 

≪ハアァッ。少しは頭を使ってものをしゃべれ、情けない上に嘆かわしいぞ。貴様に比べたらまだアメーバの方が全然利口だな≫

 

「(な、なんですとおう!)」

 

≪良いか。今お前の高校に表示されている“赤いアイコンが精霊〈プリンセス〉”。“黄色いアイコンがAST”だ。よく見ろ、ASTの奴等は突入しようとしない。おそらく〈プリンセス〉が出てくるのを待っているのだろう≫

 

「(何でまた?)」

 

≪お前は解析官の女<令音>のASTに関する話を聞いていなかったのか? 奴等の使うCR-ユニットと呼ばれる『インチキなんちゃって魔法』は、随意領域<テリトリー>があるとしても、あのガチャガチャした装備だ。遮蔽物が多く、通路も狭い屋内での戦闘は視界が遮られてしまう上に、あの装備の持ち味とも言える機動力が落ちる。そしてあれを見ろ≫

 

言ってドラゴンはスクリーンに小さく表示された実際の高校の映像を見せる。

空間震により、校庭に浅いすり鉢状のくぼみができており、その周りの道路に校舎の一部が綺麗に削られ、先日士道とドラゴンが〈プリンセス〉と遭遇した時の光景と同じであった。

 

≪おそらく〈プリンセス〉は、校庭に出現後に半壊した校舎に入り込んだ。ASTの奴等が邪魔してこない内に、精霊と接触する事ができると言う事だ≫

 

「(・・・・なるほどな)」

 

理屈を理解した士道は、ある疑問を琴理に聞いた。

 

「琴理。状況は分かったけど、精霊が普通に外に現れていたら、どうやって俺と精霊を接触させるつもりだったんだ?」

 

「フン。その時は貴方にASTを全滅させるか、精霊とASTがドンパチしてる最中に放り込むか、ね。ちょうど貴方には『魔法使い<ウィザード>』って力が有るんだし」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

黙りしていた士道に話しかけられるが、また体内のドラゴンと会議していたのが気に入らなかったのか、少し不機嫌そうに断言する琴理に、士道は深ぁーく、今の状況のありがたさを理解した。なるべく『魔法使い<ウィザード>』の力は人間相手に使いたくなかったからだ。

 

「ん、じゃあ早いところ行きましょうか。ーーー士道、インカムは外してないわね?」

 

「ああ」

 

右耳に付けた先ほどまで使っていたインカムを見せる士道。

 

「よろしい。カメラも一緒に送るから、困った時はサインして、インカムを二回小突いてちょうだい」

 

「ん・・・・了解した。でもなあ・・・・」

 

≪またあの女がサポートするのか?≫

 

士道とドラゴンは半眼を作りながら、艦橋下段で持ち場についている令音に視線を送る。訓練の時の助言を鑑みると、正直心細いサポートメンバーだ。

士道の表情からおおよその思考を察した琴理が不敵な笑みを浮かべる。

 

「安心なさい士道。〈フラクシナス〉クルーには頼もしい人材がいっぱいよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

神無月のような変態全開の不審者が副司令をしている時点で疑わしさも全開だが、琴理が上着をバサッと翻して立ち上がり、艦橋下段のクルーの1人をビシッと指差す。

 

「たとえば、5度の結婚を経験した恋愛マスター・〈早過ぎた倦怠期<バッドマリッジ>〉川越!」

 

「いやそれ4回は離婚してるってことだよな!?」

 

≪裏を返せば、5回は結婚まで進んできた経験者と言う事だな≫

 

「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、〈社長<シャチョサン>〉幹本!」

 

「それ完全に金の魅力だろ!?」

 

≪完全にカモられているな≫

 

「恋のライバルに次々と不幸が。午前二時の女・〈藁人形<ネイルノッカー>〉椎崎!」

 

「絶対呪いかけてるだろそれ!」

 

≪丑三つ時の呪いか≫

 

「100人の嫁を持つ男・〈次元を越える者<ディメンション・ブレイカー>〉中津川!」

 

「ちゃんとz軸のある嫁だろうな!?」

 

≪オタクと言うヤツか≫

 

「その愛の深さゆえに、今や法律で愛する彼の半径500メートル以内に近づけなくなった女・〈保護観察処分<ディープラヴ>〉箕輪!」

 

≪よく逮捕されなかったな≫

 

「なんでそんな奴らばっかなんだよ!」

 

「・・・・皆、クルーとしての腕は確かなんだ」

 

艦橋下段から、令音がぼそぼそっとした声が聞こえてくる。

 

「(ふ、不安だ・・・・)」

 

≪マトモな人間が居ないな≫

 

「いいから早いとこ行ってきなさい。精霊が外に出たらASTが群がってくるわ」

 

苦情になる士道の尻を琴理がボンっと勢い良く蹴る。

 

「・・・・ってッ、こ、このやろ・・・・」

 

「心配しなくても大丈夫よ。士道なら“一回くらい死んでも”すぐニューゲームできるわ」

 

「っ・・・・!?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

琴理の言葉に士道とドラゴンが無言になった。

 

「(ドラゴン、もしかして琴理は“知っているのか”?)」

 

≪・・・・さぁな。お前の妹が“アレ”を知っているのかどうか問いただすのは後にしておけ。今は〈プリンセス〉を優先しろ≫

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

魔獣ファントムと戦うようになってからの1年間の間に、士道とドラゴンが“知ったある事”を知っている琴理に、士道は渋面を作る。

 

「ちょっと何また黙りしているのよ。妹の言葉を無視する兄は不幸になるわよ」

 

「兄に隠し事している妹に言われたかねえよ」

 

士道はため息混じりに言うと、艦橋のドアに足を向けた。

 

「グッドラック」

 

「おう」

 

ビッと親指を立ててくる琴理に軽く手を上げて返す士道は、精霊を倒すとか、恋をさせるとか、世界を救うとか、そんな大それた事は考えていない。ただーーーあの少女と、〈プリンセス〉ともう一度話をしてみたかった。

 

 

 

 

〈フラクシナス〉下部に設えられている顕現装置<リアライザ>を用いた転送装置で、一瞬で〈フラクシナス〉から学校の裏手に転送された士道は、〈フラクシナス〉にいる琴理からのナビゲーションに従い、そのまま校舎に入り、精霊がいる三階の四番目の教室に向かった。

 

「(あ~ぁ、校舎がめちゃくちゃだぜ)」

 

≪これは明日は休校だな≫

 

半壊状態になった校舎を尻目に教室に付いた士道(&ドラゴン)、その教室は・・・・。

 

「てーーーここ、二年四組。俺の教室じゃねえか」

 

《あらそうなの。好都合じゃない。地の利とまでは言わないけど、まったく知らない場所より良かったでしょ》

 

琴理がそう言ってくるが、まだ進級して日が浅いからそこまで知っているわけではない。

 

≪とりあえずあの精霊が気まぐれ起こす前に接触せねばならん。とっとと入れ≫

 

「あぁ」

 

士道は一度深呼吸して気持ちを落ち着かせ、気を引き締める。伊達に1年間ファントムと戦ってきたわけではない。緊張や恐怖を沈める方法はある程度会得している。

意を決した士道が教室の扉を開くと、夕日で赤く染まった教室に、件の精霊がいた。

 

「(やっぱりあの子か・・・・)」

 

前から四番目、窓際から二列目ーーーちょうど士道の机の上に、不思議なドレスを身に纏った夜のように黒い色の長髪、幻想的な輝きを放つ目を物憂げな半眼にし、ぼうっと黒板を眺めていた。

半身を夕日に照らされた少女は、見る者の思考能力を一瞬で奪ってしまうほどに神秘的な美しさを放ち、映画のワンシーンのようにすぐに崩れることはなかった。

 

「ーーーぬ?」

 

少女、〈プリンセス〉が士道に気づき、目を完全に開いてこちらを見る。

 

「・・・・ッ! や、やあーーー」

 

≪ッ! 避けろ!≫

 

「っ!!」

 

緊張しながら挨拶しようとした士道だが、ドラゴンの言葉ですぐさま我に帰り、〈プリンセス〉が無造作に手を振るい、士道がバッ!と横に飛び退くと、一瞬前まで士道の顔が有った場所に1条の黒い光線が通り抜け、教室の扉とその後ろにある廊下の窓ガラスが盛大に音を立てて砕け散った。

 

「あ、あっぶねぇ・・・・!(サンキュードラゴン!)」

 

≪このたわけが! 貴様だけが死ぬならまだしも、貴様が死ぬと体内にいる我まで巻き沿いになるのだ! 一瞬たりとも気を抜くな!!≫

 

「(おう!)」

 

《士道! 聞こえる?!》

 

琴理の声が鼓膜を痛いほど震わせるが、〈プリンセス〉が鬱々とした表情を作りながら腕を大きく振り上げると、手のひらの上には、丸く形作られた光の塊のようなものが黒い輝きを放っている。

 

「やっべッ!!」

 

ファントムとの戦闘経験で培ってきた危機察知能力が警鐘を鳴らし、士道はウィザードリングを付けたチェーンから『穴に落ちるドラゴン』が描かれた水色のリングを付けてベルトに翳す。

 

[フォール プリーズ]

 

『フォール』。床や壁に魔法陣により作られた穴を開けることができる魔法(穴は士道の意思で消える)。

士道は壁に穴を開けて身を隠すと、士道がいた位置に光の奔流が通り抜け、校舎の外壁を容易く突き破り外へ伸び、その後も連続して黒い光が放たれる。

 

「ま、待ってくれ! 俺は敵じゃない!」

 

士道が呼び掛けるが、黒い光の攻撃は止まなかった。

 

≪チィッ! このままでは埒が明かん! 『フォール』であの娘の近くに移動しろ!≫

「分かった!」

 

[フォール プリーズ]

 

士道は『フォール』で床に穴を開き、そのまま下の階の教室に逃げると、そのまま下の教室を移動して、ちょうど〈プリンセス〉がいる位置の近くに再び穴を開けて、穴に跳んで這い上がる。

 

「っ!」

 

〈プリンセス〉はさっきまで扉に逃げた士道が近くに現れたのに驚き、再び攻撃しようとするが。

 

「待て待て待て!! 昨日面倒事を受け持った相手を殺すなよな!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

士道の言葉に〈プリンセス〉は一瞬眉を寄せて、思い出すように顎に手を付けると、直ぐにポンッ!と手を叩く。

 

「おぉ。あの時の『マホー使い』と名乗っていた奴か?」

 

「そうそうあの時の『魔法使い』だよ!」

 

≪何か言葉のアクセントが違くなかったか?≫

 

《どうやら昨日の戦闘で会ったのを思い出したようね》

 

しかし、〈プリンセス〉は士道をじとーっとした目を向けて、一応攻撃はしてこないものの、その視線には猜疑と警戒が満ちていた。

 

「あのよ、とりあえず落ち着いーーー」

 

「ーーー止まれ」

 

士道は敵意が無い事を示すように両手を上げるが、〈プリンセス〉が凛とした声色を響かせると同時に、ばじゅッと士道の足元の床を光線が灼く。

 

「・・・・っ」

 

士道は相手を刺激しないように姿勢を正すと、〈プリンセス〉が士道の頭頂から爪先までを舐めるように睨め回し、口を開く。

 

「『マホー使い』、お前は何者だ」

 

「あぁ、そう言えば名乗ってなかったな。俺はーーー」

 

《待ちなさい》

 

と、士道が答えようとすると、なぜか琴理がストップしてきた。

 

 

ー琴理sideー

 

士道が〈プリンセス〉と接触したと同時に、〈フラクシナス〉の艦橋スクリーンに、〈プリンセス〉の『好感度』をはじめ、各種パラメーターが配置されており、令音が顕現装置<リアライザ>で解析・数値化した精霊の精神状態を表示させた。

〈フラクシナス〉に搭載されているAIが二人の会話をタイムラグ無しで画面下部にゲームのテキストのように表示された。

 

《お前は何者だ》

 

〈プリンセス〉が士道に向かってそう言葉を発した瞬間、画面が明滅し、艦橋のサイレンが鳴り響き、画面中央にウィンドウが現れる。

 

①【俺は五河士道。君を救いにきた!】

 

②【通りすがりの一般人ですやめて殺さないで】

 

③【人に名を訪ねるときは自分から名乗れ】

 

「選択肢ーーーっ」

 

琴理はキャンディの棒をピンと立てた。

令音が操作する解析用顕現装置<リアライザ>と連動した〈フラクシナス〉のAIが、精霊の心拍・微弱な脳波の変化を観測し、瞬時に対応パターンを画面に表示した。

これが表示されるのは、精霊の精神状態が不安定であるときに限られる。つまり、正しい対応をすれば精霊に取り入ることができるが、だが間違えば士道の命だけではない、世界に甚大な災害が巻き起こるのだ。

琴理はすぐさまマイクを近づけ、返事をしかけた士道に静止をかけた。

しかしいつまでも精霊を待たせておく訳にはいかない。琴理はクルー達に向かって指示を飛ばす。

 

「これだと思う選択肢を選びなさい! 五秒以内!」

 

クルー達が一斉にコンソールを操作し、その結果が琴理の手元のディスプレイに表示された。

 

最も多いのはーーー③番。

 

「みんな私と同意見みたいね」

 

琴理の言葉に、クルー達は一斉に頷いた。①は一見王道だが胡散臭く、②は論外。上手くすれば会話の主導権を握れる可能性がある③が選ばれた。

 

 

ー士道sideー

 

「(おい、なんだってんだよ?)」

 

≪これではサポートではなく妨害だな≫

 

「もう一度聞く。お前は何者だ」

 

会話を静止された〈プリンセス〉は苛立たしげにし目を尖らせる。士道も言葉を静止されて焦り、ドラゴンは呆れ混じりにため息を漏らす。

 

《士道聞こえる? 私の言うとおりに答えなさい》

 

「お、おう」

 

ようやく右耳に琴理の声が届いた。

 

《ーーー人に名を訪ねるときは自分から名乗れ》

 

「ーーー人に名を訪ねるときは自分から名乗れ。・・・・って」

 

≪バカかお前は! 避けろっっ!!≫

 

士道が顔を青くし、ドラゴンが叫び声を上げると同時に士道は右方へと転がると、士道の立っていた場所に黒い光球が投げつけられ床に二階から一階まで貫通するように大穴が開く。ついでに士道は衝撃波をなんとか踏ん張って堪える。こういう時ほど、ファントムとの戦闘で培った体力が役に立ったと実感した。

だが、〈プリンセス〉は不機嫌そうに顔を歪めているのを見て渋面を作る。

 

《あれ、おかしいな》

 

「殺す気か・・・・っ」

 

≪おかしいのは貴様の頭だ!役立たずがっ!!≫

 

心底不思議そうに言ってくる琴理に士道とドラゴンは毒づき、頭を押さえながら身を起こし、努めて冷静に〈プリンセス〉に話しかける。

 

「悪い。今のは(琴理の言葉を鵜呑みにした)俺がバカだった。俺は五河士道。ここの生徒で、『魔法使い』。あの時現れた『魔獣 ファントム』を狩り取っているんだ」

 

〈プリンセス〉は士道に近づくと士道の前髪を掴んで士道の目を除き込む。

 

「・・・・確か、私を殺すつもりはないと言っていたか? ふんーーー見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させておいてあの異形達と一緒に私を襲うつもりか?」

 

「・・・・・・・・っ」

 

≪・・・・・・・・・≫

 

その時、士道とドラゴンは理解した。〈プリンセス〉が士道の言葉を微塵も信じる事ができないのが。

信じる事ができないような環境に晒されていた、と言うのが。

気持ち悪くて、たまらなかった。

 

「ーーー人間は・・・・ッ、お前を殺そうとする奴らばかりじゃ・・・・ないんだッ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道は思わず発した声に、〈プリンセス〉が目を丸くして、士道の髪から手を離す。

そしてしばしの間、もの問いたげな視線で士道を見つめると、唇を小さく開く。

 

「・・・・そうなのか?」

 

「ああ、そうだとも」

 

「私が会った人間達は、皆私は死なねばならないと言っていたぞ」

 

≪ASTの奴らか・・・・≫

 

「そんなわけ・・・・ないだろうッ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

〈プリンセス〉は何も答えず、手を後ろに回し、半眼を作って口を結びーーーまだ士道の言うことが信じきれないという顔を作る。

 

「・・・・では聞くが。私を殺すつもりが無いなら、お前は一体何をし現れたのだ?」

 

「っ・・・・≪小僧、我の言うとおりに話せ≫(ドラゴン? 分かった)」

 

ドラゴンが指示を出す事に抵抗があるが、ドラゴンが〈プリンセス〉に興味が有るのが気になったし、さっきの今で琴理達よりはマシかなと思い、頷く士道。

 

「≪お前に会って、話がしたいと思ったからだ≫」

 

《ちょっと士道!》

 

琴理が静止をかけようとするが、士道は無視する。

 

「・・・・? 私に? 一体何のために」

 

「≪お前と、友達になりたいからだ!≫」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

士道が言った瞬間、少女は一瞬パチクリさせるが、直ぐに手を抜きにし、横凪ぎに振り抜いた。

瞬間、士道の頭の上のすぐ上を風の刃が通り抜け、教室の壁を切り裂いて外へと抜けていき、士道の髪が数本、中程で切られて風に舞う。

 

「ぬわ・・・・っ!?」

 

≪落ち着け、ただの威嚇行動だ≫

 

「・・・・冗談はいらない」

 

「・・・・・・・・っ」

 

〈プリンセス〉がひどく憂鬱そうな顔をして呟くを聞き、士道は唾液を飲み下し、恐怖が薄れ心臓が高鳴る。

 

「(ーーーああ、そうだ、この顔だ)」

 

≪(ほぉ・・・・。この小娘、小僧が一番嫌いな顔になったな)≫

 

自分が愛されるなんて微塵も思っていないような、世界に絶望した表情。それを見て、ドラゴンは笑みを浮かべる。

 

≪小僧。そのままその胸の内を、この世間知らずのガキに教えてやれ≫

 

ドラゴンの言葉が拍車になり、士道は喉を震わせた。

 

「俺は・・・・ッ、お前と話をするために・・・・ここにきたッ」

 

〈プリンセス〉は士道の言っている意味がわからないと言った様子で眉をひそめる。

 

「・・・・どういう意味だ?」

 

「そのままだ。俺は、お前と、話がしたいんだ。内容なんかなんだっていい。気に入らないなら無視してもいい。でも、一つだけわかってくれ。俺はーーー」

 

《士道、落ち着きなさい》

 

琴理の諫める声を聞かず、士道は続ける。だって、今までこの少女には手を差し伸べる人間がいなかったのだ。たった一言でもあれば違った状況になったかもしれないのに、その一言をかけてやる人間が、一人もいなかった。

自分には両親が、琴理が、そして一年前からのファントムとの命懸けの戦いでは、ドラゴンがいてくれた。

でも彼女には、誰もいなかったのだ。だったら士道が言うしかない。

 

「俺はーーーお前を、否定しない」

 

「・・・・・・・・っ」

 

士道の言葉に、〈プリンセス〉は眉根を寄せると、士道から目を逸らした。そしてしばしの間黙ったあと、小さく唇を開く。

 

「・・・・“シドー”。“シドー”といったな」

 

「ーーーああ」

 

≪妙にアクセントが違くないか?≫

 

「本当に、おまえは私を否定しないのか?」

 

「本当だ」

 

「本当の本当か?」

 

「本当の本当だ」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「本当の本当の本当だ」

 

≪何だこのバカな会話は?≫

 

ドラゴンは呆れるが、士道が間髪入れず答えると、〈プリンセス〉は髪をくしゃくしゃとかき、ずずっと鼻をすするかのような音を立ててから、顔の向きを戻した。

 

「ーーーふん」

 

眉根を寄せ口をへの字に結んだままの表情で、腕組みをする。

 

「誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 

≪何だこのガキは?≫

 

「っ、だから、俺はーーー」

 

「だがまあ、あれだ」

 

〈プリンセス〉は複雑そうな表情を作ったまま続けた。

 

「どんな腹があるかは知らんが、まともに会話をしようと言う人間は初めてだからな。・・・・この世界の情報を得るために少しだけ利用してやる」

 

言って、もう一度ふんと息を吐く。

 

「・・・・は、はあ?」

 

≪・・・・・・・・・≫

 

「話しくらいしてやらんこともないと言っているのだ。そう、情報を得るためだからな。うむ、大事。情報超大事」

 

言いながらもーーーほんの少しだけ、〈プリンセス〉の表情が和らいだ気がする。

 

「そ、そうか・・・・」

 

士道は頬をポリポリかきながらそう返した。

 

≪コイツ、めんどくさいな≫

 

ドラゴンの呆れ果てた言葉に、士道は思わず頷きそうになった。

 




次回、〈プリンセス〉の名とデート回です。
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