デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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遂に邂逅。妖怪登場。


遭遇・〈ディーヴァ〉

ー士道sideー

 

すっかり日も落ちた19時30分。士道は“通学鞄を縮めポケットに仕舞い”、マシンウィンガーに乗り自宅まで帰っていた。

 

「つ、疲れた・・・・」

 

≪まったく・・・・≫

 

結局あの後、数の暴力に抗うこともできず、正式に『天央祭実行委員』に任命されてしまった士道は、半ば強制的に仕事の引き継ぎに付き合わされていたのである。

ブース設営の決まりごとから始まり、予算配分に各種伝達事項その他諸々の情報を一気に詰め込まれた為、士道は身体の疲労よりも頭と精神の疲弊が深刻だった。

 

[スモール プリーズ]

 

「これじゃ他のメンバーがストレスで倒れるのも納得だぜ・・・・」

 

≪だが、なぜあの三馬鹿娘<亜衣麻衣美衣トリオ>はピンピンしているのだ?≫

 

途中、近所の商店街で買い物をし、『天央祭』が間近になり、活気づいた顔馴染みの商店の面々から、色々とおまけをもらい。五河家の家計が助かったとも思う。

『ドラゴンが縮む姿のリング』、物体を小さくする魔法が使える指輪、『スモールリング』で買い物袋を縮めて通学鞄と反対側のポケットに仕舞った。

 

≪・・・・おい。バイクを止めろ≫

 

「・・・・ん?」

 

バイクを止めると士道の前方ーーーー街頭に照らされた道の上に、小さな人影が見受けられた。

つばの広い麦わら帽子に、淡い色のワンピースを纏った、青髪と左手のパペットが印象的な小柄で可愛らしい少女である。

 

「四糸乃?」

 

「・・・・!」

 

ヘルメットを外して名を呼ぶと、少女ーーーー四糸乃はピクリと肩を揺らして、士道の方に視線を向けてきた。

 

「あ・・・・士道、さん。ドラゴン、さん」

 

『おー、見ぃーつーけたー』

 

四糸乃が小さな声を発し、次いで左手に着けた相棒のパペット・『よしのん』が甲高い声を上げる。

 

「どうしたんだ? こんな所で。もう暗いのに・・・・」

 

「あ、あの・・・・私、士道さんのおうちに、お邪魔してたんです、けど・・・・士道さん達の帰りが遅くて、琴里さんが心配してたから・・・・それで・・・・」

 

どうやら様子を見に来てくれたらしい。士道はポリポリと後頭部を掻いた。。

 

「そっか。でも、もう暗いぞ。二人だけで出て来たのは感心しな(バシンッ!!!) ギャッ!? な、何すんだよドラゴン!!」

 

士道が言おうとするが、ドラゴンの威力強めの尻尾ド突きが炸裂した。

士道が文句を言うと、ドラゴンは四糸乃を見ろと顎でしゃくっており、目を向けると四糸乃が申し訳なさそうに肩をすぼませた。

 

「あ、あぅぅ・・・・」

 

『怒らないであげてよー。四糸乃にも悪気はないのよー。士道くんが心配だったんだからー』

 

「わ、分かっているよ。ありがとな、四糸乃」

 

「は、はい・・・・!」

 

「(分かっていたから、注意しただけだから、だからそんなマジもんの殺気を飛ばすなよドラゴン!!)」

 

ドラゴンが無言の殺意を士道に放つので、士道は内心冷や汗をかきながらドラゴンに弁明する。

士道の言葉で四糸乃が大きく頷く。大きい麦わら帽子のせいか、二人の位置からだと顔が見えなくなってしまっていた。

 

「夕飯まだだろ? ちょっと遅くなっちまうけど、食べてけよ」

 

「はい・・・・ありがとうございます。それと、えっと、一つ訊きたいんですけど・・・・」

 

と、四糸乃がそろそろと右手の人差し指を、今し方見ていたポスターの方に向けた。

 

「これって・・・・一体・・・・」

 

「ん? 『天央祭』だよ」

 

士道が小さく頷くと、十香に言ったように簡単に説明をしてやった。

すると、四糸乃が何やら興味深げになる。

 

「そんなのが・・・・あるんですか・・・・」

 

『はー、楽しそうだねー』

 

「ああ、きっと楽しいぞ。良かったら四糸乃たちも来いよ」

 

言うと、四糸乃が驚いたように目を丸くした。

 

「! い、いいん・・・・ですか・・・・?」

 

「もちろんだ。うちも色々出展するそうだから、遊んで行ってくれよ」

 

『あっらー、よかったねー、四ー糸乃』

 

「う、うん・・・・!」

 

『よしのん』がぷにぷにと四糸乃の頬をつっつき、四糸乃が嬉しそうに首肯する。

そんなに喜んで貰えると悪い気はぜず、なんとなく明るい気持ちになり、マシンウィンガーは後で『コネクト』で回収しようと、人目に触れない近くの路地裏に隠すと、四糸乃を伴って帰路に付いた。

 

『う~ん。お祭りでは何をやるかなぁ?』

 

≪まぁ、この間の『夏祭り』のよりも派手な祭にはなるな≫

 

「そ、そうなん、ですか・・・・?」

 

『水着選び』で勝利した四糸乃が、勝利者権限で士道と『夏祭りデート』を行った。

ついでにそのデートの最後に士道が四糸乃に『やった事』に、ドラゴンは殺意の波動を放ちながら睨んでいたのを思い出し、士道は胃がキリキリとした。

 

『そういえばさぁ! この間ニュースでチラッと見たんだけど、『殺人事件や失踪事件』が頻発しているようだねぇ?』

 

よしのんが言った事件に、士道も思いあたったように頷いた。

 

「ああ、最近東京辺りで起こっている『男性の惨殺事件と女性の失踪事件』だな?」

 

士道は最近、東京都方面で次々と起こっている事件に渋面を作るが、東京都から離れた天宮市には関わりのない事だろうと思っていた。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「遅ぉぉぉぉぉぉいッ!」

 

「ギャンッ!?」

 

帰宅した士道と四糸乃。士道はポケットから鞄と袋を全部出すと、荷物を全て元の大きさに戻し玄関に置き、廊下の奥に向けて声を張り上げる。

それから靴を脱いでいると、バターン! とリビングの扉が開け放たれ、黒いリボンで2つに括った司令官モードの琴里が飛び出し、『インフェルノエンド』のような回転踵落としを士道の能天に叩きつけた。

ビターン! と、うつ伏せに倒れた士道が頭をさすりながら顔を上げると、そこには不機嫌そうな顔で仁王立ちした妹様がいた。

 

「ふん・・・・ギャンだって。サーベルと盾でも持って、善い壺でもプレゼントするつもり?」

 

「な、なんだよ、いきなり・・・・」

 

「・・・・それはこっちの台詞よ。何でこんなに遅いのかしら? 一本の電話もなしに」

 

「悪かったよ。突然文化祭実行委員にされちまったんだ」

 

「実行委員・・・・」

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

琴里はそれを聞くと、何故だろうか、ほうと息を吐き、ドラゴンは体内で琴里を訝しそうに見据えている感覚があった。

 

「・・・・体調が悪くなったりだとか、そういう事は無いのね?」

 

「え?」

 

「・・・・何でもないわ。ーーーーそれより、四糸乃を迎えに呼ぶなんて≪うるさいぞ〈イフリート〉。〈ハーミット〉がこのダボハゼを心配して、“自主的に”! 行動したのだ。一々噛みつくな≫・・・・ふん!」

 

ドラゴンの暴言に反論しようとせず、フンと鼻を鳴らしてリビングの方へと歩いて行った。

その後ろ姿が見えなくなってから、四糸乃がオズオズと口を開く。

 

「・・・・あ、あの、琴里さん。どうしたんでしょうか?」

 

『なぁんか、情緒不安定って感じだねぇ?』

 

「さぁな」

 

≪はっ。あの年頃は物事の色々な事柄に鬱積を感じてしまうからなぁ。このカメムシも、かつてその病気に患ってしまったからなぁ≫

 

「う、うるせぇよ! ドラゴン!(バシンッ!) イッテェッ!」

 

≪良いから貴様は、我をこの狭っ苦しい陳腐な身体からさっさと出せ≫

 

「たくっ・・・・」

 

[ドラゴライズ プリーズ]

 

士道は威力中のド突かれに頭をさすりながら、『ドラゴライズリング』で。よしのん位の大きさのドラゴンの思念体を召喚し、ドラゴンはそのまま四糸乃の肩に乗る。

思念体になれるようになってから、時々出て来て十香や四糸乃の肩に乗っている姿を良く見る。

そして荷物を持った士道が四糸乃を連れて後を追いながら、ふうむと唸った。

何故だろうか、修学旅行から帰ってきた辺りから、なにやら琴里の様子がおかしい気がする。別に普段はあまり変わらないのだが、士道が少し気怠そうにしていると、何故か妙に落ち着かない様子になるのである。

士道はぽりぽりと頭を掻いてその場から歩きだし、リビングのドアを開けた。

と、そこで、リビングの扉が微かに開いており、その隙間から、先ほど扉の奥に消えた琴里が、ジトッとした視線を放っていた。

 

『何だ? ヤンデレストーカー属性でも始めたか?』

 

「まだ何かあるのか?」

 

ドラゴンが呆れた声を発し、士道が聞くと、扉の奥からコロコロコロ・・・・と言う可愛らしいお腹の音が聞こえた。

 

「・・・・・・・・」

 

頬を赤く染める琴里を見て、士道は鞄を下ろし、ほうと息を吐きながら表情を緩める。

 

「何か食べたいものはあるか?」

 

「・・・・ハンバーグ」

 

「今からかあ・・・・? しゃぁない。ちょっと時間がかかるけどいいか?」

 

「・・・・ん」

 

[アバター プリーズ]

 

それなりに時間のかかるメニュー故に、『アバター』で分身2体を作り出し、肩を回しながらリビングの方に歩くと、手洗いうがいを済ませた分身体達は調理を始め、琴里もムスッとした顔のままリビングの方に走り、ソファにダイブした。

そちらを見ると、士道の委員会が終わるのを待つと言って聞かなく、ドラゴンが説得して先に帰らせた十香が、既に隣のマンションで着替えを終えて、テレビゲームのコントローラーを握っていた。

 

「おおシドー、おかえりだ! と言うか琴里! 早く手伝ってくれ!」

 

画面に合わせて身体を左右に動かす十香が叫ぶが、琴里はクッションに顔を埋めたまま動かなかった。

 

「むぅ~! ドラゴン助けてくれ!」

 

『まぁ良いぞ』

 

ドラゴンは十香の横に置かれたコントローラーを器用に操作してゲームに参戦し、四糸乃は琴里の隣に座って二人の様子をにこやかに微笑み、ゴーレムを除いたプラモンスター達はピョンピョンと跳ねながらゲームを見ていた。

ゲームはコンバットフライトゲームで、『ジェットコンバット』と言うゲーム。

ちなみに八舞姉妹はマンションの自分達の部屋で、レースゲームの『爆走バイク』で白熱勝負を展開していた。

本体士道も手洗いうがいを済ませ、椅子の背もたれに掛けたエプロンに手を伸ばし調理を始めようとすが、ソファに突っ伏していた琴里が不意に顔を上げ、声をかけてきた。

 

「・・・・ねえ、士道。本当に何にもないのよね?」

 

「んー? なんだよー、心配してくれてんのかー?」

 

「ち、違うわよ! そう・・・・十香よ、十香! 士道に何かあったら十香の精神状態が崩れて大変になるの! だからちゃんと体調管理しなさいよねって言ってるのよ!」

 

「へえへえ」

 

笑いながら言う士道に、身体を起こした琴里がブスッとした様子で視線を送る。

能天気な士道と心配性の琴里に、小さいが重いため息を吐くドラゴン。名前を呼ばれた気づいた十香が「何だ!?」と声を上げるが、ドラゴンが『ラスボスが出たぞ』と言うと、すぐにゲームに戻った。

琴里が、ハアと息を吐き出すとソファの背もたれに身体を預け、十香達に聞こえない音量で言葉を続ける。

 

「・・・・でも、本当に気を付けて。色々と厄介な状況になってきたし」

 

「厄介な状況?」

 

「ええ。いくつかあるけど・・・・まあさしあたっては〈ファントム〉ね」

 

「ファントム? メデューサ達のアジトが分かったのか?」

 

琴里の言葉に、本体士道は調理を止めて耳を傾け、ドラゴンもゲームをしながら、人間よりもはるかに優れた聴覚で聞き耳を立てた。

 

「そっちの『ファントム』じゃないわよ。五年前、私達の前に現れた『何か』の事よ。いつまでも『何か』のままじゃ不便だしね。この前の会議で便宜的に識別名が付けられたの。まあ『ファントム』の方は『魔獣』って呼称になったけど」

 

「ああ・・・・あの」

 

五年前に琴里に精霊の力を与え、士道と琴里の記憶を封印した、精霊であるかどうかさえも分からない、正体不明の存在。

確かにあの存在は懸案事項だった。未だその実像や目的など、一切が謎に包まれていると言うのだから、尚更に。

 

「そしてもう一つはーーーー例の会社ね」

 

「『DEM社』・・・・か?」

 

士道が呟くと、琴里が首を前に倒すのが見えた。

先月の修学旅行での襲撃事件ーーーーあの事件の犯人が、『DEM』ーーーーデウス・エクス・マキナ・インダストリーであると言うのだ。

様々な分野に進出している会社ではあるが、元を辿れば軍需産業で急成長したという話である。公開はされていないが、ASTが用いている顕現装置<リアライザ>も製造しているらしい。

 

「しっかし・・・・何か未だに現実感がないな。あの『DEM社』があんなことを・・・・」

 

『(どこまでも現実を見ようとしない脳ミソにカビが生えた廃棄物めが)』

 

「眠たい事を言ってんじゃないわよ。連中にそんな倫理観があれば真那だってーーーー」

 

≪馬鹿者! 〈イフリート〉!≫

 

「え?」

 

琴里は脳内にドラゴンからの念話が届き「しまった」と言う顔になるが、既に遅く、士道はピクリと眉を動かした。

『真那』ーーーー士道の実妹と名乗り、士道と同じ指輪の魔法使い〈ビースト〉に変身する少女。

現在は士道に魔法の事を教えた『白い魔法使い』と行動を共にしている(士道達はそう思っている)少女だった。

 

「お、おい、どういう事だよ。真那に何か・・・・」

 

流石に無視できない士道は、調理をアバター達に任せ、リビングに向けて歩く。

だが、士道が琴里の前に立ったその瞬間。

 

ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー。

 

「・・・・! なーーーー」

 

リビングの窓ガラスを微かに震わせ、街中に空間震警報が鳴り響く。

刹那、琴里が立ち上がり、スカートを翻して走り去っていく。

 

「あ、お、おい! 話はまだ(バシンッ!)いでぇっ!?」

 

『良いから貴様は準備しろ』

 

「後にしてちょうだい。 士道も支度して。ーーーー仕事よ」

 

追及しようとする士道にフライング尻尾ド突きをお見舞いするドラゴン。

そして琴里は、レッグホルダーのようにスカートの中に装着していたキャンディホルダーからチュッパチャップスを1本取り出し、一瞬で包装を解いて口に放り込んだ。

 

『助かったな、迂闊でドジな〈イフリート〉?』

 

「煩いわよロクデナシの蜥蜴・・・・!」

 

士道達に聞こえないように、口喧嘩を繰り広げるドラゴンと琴里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、二日酔いの気分ってこんな感じなのかなぁ・・・・」

 

≪ふぅ・・・・≫

 

フラクシナスの転送装置によって、マシンウィンガーごと、半ば瞬間移動のような転送をした士道とドラゴン。

酩酊する意識をどうにか保ちながら、仄暗い艦内から夜の道へと変貌した周囲の景色を見回す。

士道が降り立ったのは、天宮市の西部の立浪駅前広場だった。

ライブやイベントがある日などは、人で埋め尽くされる場所であるが、今は人の姿が全く見受けられなかった。

それもその筈である。士道の視界に広がる景色は、その大部分がすり鉢状に抉られ、クレーターと化していたのである。

 

『空間震』。世界を、人類を蝕む突発性災害である。

 

《無事現場に着いたみたいね》

 

通信インカムから、フラクシナスでモニタリングしている琴里の声が聞こえる。

 

《精霊の反応は空間震発生地点から南の方に移動しているわ。急いで向かってちょうだい》

 

「了解・・・・!」

 

マシンウィンガーを走らせる士道は地面をチラッと見てみると、街灯に照らされた道には、カラフルなチラシやら団扇やらが散乱していた。一瞬マナーの悪い客かと思ったが、急に空間震警報が鳴れば、手にしたチラシなんか放って逃げざるを得ないだろう。

 

「琴里、精霊の反応はどこだ!?」

 

《ちょっと待って、今正確に位置をーーーー》

 

≪おいバイクを止めろ≫

 

「おっと」

 

と、琴里が言いかけた瞬間、マシンウィンガーを止めると。

前方ーーーー天宮アリーナの方から、何かが聞こえてきたのだ。

 

「これは・・・・歌・・・・?」

 

≪・・・・歌・・・・いや、この気配は・・・・≫

 

微かに聞こえたのは『歌』だった。

士道はマシンから降りると、大きな扉を押し開け、アリーナの中に足を踏み入れ、ステージが一望できる位置まで歩く。

恐らく出演者やスタッフが舞台装置を放置したまま避難したのだろう、暗い会場の中、櫓のようにせり上がった舞台だけが、下方から幾つものスポットライトに照らされ、光溢れている。

その、真ん中にーーーー。

光の粒子で縫製されたかと見まごうような煌びやかな衣を纏った少女が立ち、会場中に声を響かせていた。聞きなれない言語で構成された、まるで子守唄のような静かな曲調が、四人の鼓膜を震わせる。

 

「ぁーーーー」

 

≪・・・・・・・・≫

 

意図せず、士道の口から感嘆の声が漏れ、ドラゴンは何も言わずに黙っていた。

楽器の演奏も、マイクや拡張器を使っているわけではない。完全な無伴奏の独唱。

だがその声のみで形作られた曲調は、まるで耳を通って脳幹に染み渡るかのような錯覚を覚えるように、圧倒的な力を有していた。

 

《あれはまさかーーーー〈ディーヴァ〉・・・・!?》

 

「・・・・!」

 

不意に右耳に響いた琴里の声に、意識を取り戻させられる。

 

ーーーーバシンッ!

 

「イッテェ・・・・!」

 

ドラゴンのド突き(威力少し弱め)がちょうど気合いを入れ直せた。

 

「(歌に聞き惚れている場合じゃねぇよな)」

 

何しろこれから、非常に困難を極める大仕事が待っているのである。

 

「〈ディーヴァ〉・・・・それがあの子の識別名なのか?」

 

《ええ・・・・半年前に一度だけ出現が確認された精霊よ。一応データベースに存在は登録されているけど、性格や気性を始め、能力や天使の詳しい情報もほぼ無いに等しいわ。十分注意しながら接触を試みてちょうだい》

 

「わ、分かった」

 

≪(・・・・“半年前に1度だけ”?)≫

 

士道はコクリと頷き、顔を再び少女に向け、足を踏み出した。

と、そこで会場内にカーン、という乾いた音が響き渡る。

 

「あ・・・・」

 

士道は一歩足を前に出した状態のまま、再びそこに固まった。

床に放置されていた空き缶を蹴飛ばしてしまったらしい。

少女もその音に気づいたのか、不意に歌声を止める。

 

「ーーーーあらー?」

 

そして、今まで響かせていた歌声とはまた違う、間延びしたような声音をこぼす。

 

≪足元を注意しておけ。在り来たりな凡ミスをしおってからに≫

 

《馬鹿、何やってんの》

 

「すまん・・・・足元が暗くてよく・・・・」

 

だが士道の弁明の言葉は最後まで発する事なく、舞台上の少女が会場を見回すように視線を巡らせながら、言葉を継いできた。

 

「お客さんがいたんですかぁ。誰もいないと思ってましたよー」

 

優しげな、のんびりした声を響かせてくる。どうやら客席は暗い為、士道の姿を見つけられていないらしい。

 

「どこにいるんですかー? 私も一人で少し退屈をしていたところなんですよぉ。もしよろしければ少しお話をしませんか?」

 

「琴里ーーーー」

 

《ん・・・・どうやら、問答無用で攻撃を仕掛けてくるような精霊ではないみたいね。会話はこっちでサポートするから、直接会話が交わせるくらいの位置に行ってみてくれる?》

 

「了解、行ってみる」

 

士道はグッと拳を握り頷くと、舞台上に上がるための階段を上っていった。が、舞台に上がる寸前で、右耳に琴里の制止の声が聞こえてくる。

 

『ストップ。選択肢が出たわ。ーーーーふむ、登場と同時に声をかけるパターンみたいね』

 

「≪・・・・・・・・・・・・≫」

 

士道は渋面を作り、ドラゴンは半眼となってジトーとした眼になっている感覚がある。

何しろ〈フラクシナス〉の選択肢にはリスキーな選択肢、それも明らかに女性を口説くのに適してない、むしろ嫌悪感すら抱かれるような物が出てくる上に、琴里達はそんな選択肢を言うように指示するから、いまいち信用できないのである。

現に今も、何やら神無月が『テンションフォルテッシモ!』とワーギャー騒いでいるし。

選択肢を聞き、ドラゴンも許可したので、深呼吸をしてから階段を上がり、大量のスポットライトが照らす舞台の上に躍り出て舞台の上に立つ少女の背を見つめ、少女も、背後からの音に気づいて、ゆっくりと振り向く。

 

「ああ。わざわざあがってくれたんですかぁ? こんばんは。私はーーーー」

 

と。にこやかな笑みを浮かべて振り向いた精霊は、士道の姿を目にした瞬間、ピタリと言葉と身体の動作を止めた。

 

「え・・・・?」

 

≪ぬ?≫

 

《士道。何してんのよ》

 

士道は一瞬面食らい、ドラゴンは訝しく見るが、コホンと咳払いして声を発する。

 

「やぁ、こんばんは。盗み聞きするつもりは無かったんだが、綺麗な歌声でーーーー」

 

が、士道の言葉の途中で。

インカムの先からけたたましい警告音が、ビーッ! ビーッ! と響いた。

 

《こ、これは・・・・好感度、機嫌、精神状態ーーーーあらゆるパラメーターが急降下してるわ! 一体どういう事・・・・!? 仕方ないわ、別の選択肢を試してみましょう!》

 

「や、やあ君、凄い綺麗だね、驚いたよ!」

 

ビーッ! ビーッ!

 

《好感度、さらに低下しました!》

 

《もう士道くんに嫌悪感すら感じている領域です!》

 

《な、なんですってぇ!?》

 

《こ、こんな低い数値見たことありませんッ!》

 

《ゴキブリ以下の好感度です!》

 

≪こやつがゴキブリ以下の糞まみれの肥溜めだと一瞬で見抜いたのか?≫

 

「(な訳ねぇだろっ! つか俺の事そう思ってたのかよっ!?)」 

 

と、馬鹿をやっている内に、すぅ・・・・と身体を反らして息を吸い始めた精霊の少女はギロリと士道を睨みつけた。

 

≪っ! 『ディフェンド』だっ!≫

 

[ディフェンド プリーズ]

 

何かを察したドラゴンの声で反射的に『ディフェンド』を起動したのと同時にーーーー。

 

『わッ!!』

 

少女の凄まじい大声を発し、『音の壁』と形容するべき不可視の衝撃波が襲い掛かってきた。

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