デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
「うわっ!!」
ウィザード<士道>は襲いくる箒のような槍、『ライドスクレイパー』を突き出してくるメイジ達の攻撃を回避するが、メイジ達の攻撃は止めずに攻撃してきた。
「なっ! なんだお前らはっ!?」
ソードガンでいなしたり防いだりするウィザード<士道>に、唯一右肩から赤いマントを靡かせている、リーダー格のようなメイジ、ジェシカが変身した赤いメイジが声を発する。
「コードネーム〈仮面ライダー〉。精霊ヲ守ろうとすルあなたはジャマなのヨ」
[コモン ナウ!]
ジェシカが変身するメイジがリングを翳すと、炎の玉が出現し、ウィザード<士道>に向けて放った。
「っ!」
ウィザード<士道>はそれを回避するが、次々とメイジ達が襲いかかる。
≪何をしている? さっさと反撃しろ≫
「(何言ってんだよ! 相手は人間なんだぞっ!)」
反撃しようとしないウィザード<士道>に、ドラゴンが呆れたような声を発するが、人間相手に魔法を使いたくない士道は戦えず、回避や防御に専念していたがーーーー。
≪『ディフェンド』だっ!≫
[エクスプロージョン ナウ!]
「はぁアッ!!」
「っ!」
[ディフェンド プリーズ]
赤いメイジ<ジェシカ>がリングを読み込ませ、ウィザード<士道>の近くに魔法陣が出現して爆発が起こりウィザード<士道>の身体を包もうとした瞬間、ウィザード<士道>はステージから岩の壁を召喚して防ごうとするがーーーー。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
あまりの威力に壁は粉砕され、ウィザード<士道>は大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がった。
「フン!」
メイジ<ジェシカ>はライドスクレイパーの矛先をウィザード<士道>に向けて、突き刺そうと迫った。
《士道!!》
「っ!」
琴里の声で顔を上げたウィザード<士道>の眼前に、槍の切っ先が近づいたその瞬間ーーーー。
ーーーーガキンッ!!
「ハぁ?」
「・・・・・・・・」
「(っ! 折紙・・・・!)」
なんと、先ほどまで〈ディーヴァ〉と交戦していた折紙が、レイザーブレイドでライドスクレイパーを振り払った。
「なにヲしていルの?」
「貴女達こそ何をしているの? 精霊や〈アンノウン〉を無視して〈仮面ライダー〉だけを狙って・・・・!」
折紙の言葉にウィザード<士道>は辺りを見ると、他のAST隊員は〈ディーヴァ〉とヴァンパイアとパピヨンを相手に交戦していた。
最も〈ディーヴァ〉とヴァンパイアはASTと真面目に戦っておらず、避けながら隊員達の身体を触り、隊員達はおぞましそうに迎撃しており、パピヨンだけが積極的に戦っている状況だが、こんな時に補充要員(一応)である筈の隊員達が〈仮面ライダー〉だけを狙って攻撃しているのは明らかにおかしいと、折紙は思ったのだ。
まあウィザードの正体が士道だからと言うのが大半の理由だが・・・・。
「・・・・・・・・」
[チェイン ナウ!]
「っ!!」
メイジ<ジェシカ>が新たなリングを読み込むと、折紙の周囲に小さな魔法陣が展開され、そこから『バインド』のような鎖が飛び出して、折紙を拘束した。
「おり(バシンッ)っ痛っ!!?」
≪バカ者。あの小娘の名前をこんなところで呼んだらあの小娘の立場が危ういだろう≫
ASTの折紙の名前をウィザードの姿で呼ぶのは確かに危ない。
[[[[[[[[[チェイン ナウ!]]]]]]]]]
「うわぁっ!」
他の9人も『チェイン』を発動させると、ウィザード<士道>の身体を拘束する。
「し、しまった・・・・!」
「フフフフ・・・・大した事ないわネ? 〈仮面ライダー〉」
メイジ<ジェシカ>の言葉に同意するように、他のメイジ達もクスクスと嘲笑うように肩を震わせた。
「くっ・・・・くそっ・・・・!」
いくら人間相手に魔法を使いたくないと言っても、こんなにあっさり捕まってしまう自分の不甲斐なさに、ウィザード<士道>は毒づいた。
メイジ達はそんなウィザード<士道>の心情などまるで意に返さないと言わんばかりに、リングを翳した。
[[[[[[[[[[コモン ナウ!]]]]]]]]]]
10人のメイジ達の眼前に魔法陣が展開された。
青い3人とメイジからは、氷、水、雪と言った水に属するエレメントが球体となって現れ。
緑の3人のメイジからは、雷、風、空気圧、風に属するエレメントが球体となり。
黄色のメイジの3人からは、砂、土、岩、土に属するエレメントが球体となる。
そして最後に赤いメイジ<ジェシカ>の魔法陣からは、他の9人の倍はある巨大な炎の球体を生み出した。
「これで、THE ENDヨ!」
メイジ<ジェシカ>が叫ぶと、他のメイジ達もそれぞれの魔法をウィザード<士道>に向けて放った。
「ぐぅっ!!」
「・・・・(士道!!)」
ウィザード<士道>は衝撃に備えて身体を強ばらせ、折紙は内心士道の名前を叫び、四大属性の攻撃が届きそうになった次の瞬間ーーーー。
≪・・・・間に合ったか≫
[カマエルブレイカー]
ドラゴンが呟くと同時に、迫っていた四属性の攻撃が、ウィザード<士道>の後方から放たれた紅蓮の炎の奔流に呑み込まれ消滅した。
「なニッ!?」
「な、んがっ!?」
メイジ<ジェシカ>が驚き、他のメイジ達も驚愕したように身体を動かし、ウィザード<士道>も何があったんだと思うと、自分の後ろから現れた何者かが、自分の頭を踏みつけて眼前に降り立った。
「まったく、手間かけさせんじゃないわよ・・・・!」
そこに現れたのは、義妹の琴里が変身する〈仮面ライダーイフリート〉がバズーカモードの『カマエルブレイカー』を構えて登場した。
「こ、こと「バキッ!」 痛でぇ!?」
思わず琴里の名前を叫びそうになるウィザード<士道>の顔を殴って黙らせたイフリート<琴里>は、〈カマエルブレイカー〉をバズーカモードからアックスモードへと変形させ、真っ赤な刃の斧でウィザード<士道>を絡め取っていた鎖を粉砕した。
絡め取られた身体を振るウィザード<士道>にイフリート<琴里>が小さく声を発する。
「ここは引くわよ」
「で、でも・・・・!」
「状況を見なさい。精霊の好感度だって最悪なのにいつまでもこんな所に長居は無用よ」
「・・・・わかった」
[ライト プリーズ]
「フンッ!!」
ウィザード<士道>が『ライト』で光を放ち、突然の閃光にその場にいた全員が目を瞑ると同時に、イフリート<琴里>が〈カマエルブレイカー〉でステージを叩くと、ステージの床が畳返しのようにせりあがり、メイジ達の視界を防いだ瞬間、〈フラクシナス〉の転送装置で離脱した。
ー折紙sideー
ウィザード<士道>がイフリート<琴里>と共に姿を消してからおよそ1時間後。
結局いつも通り精霊も〈アンノウン〉も倒せず、捕獲もできず逃げられ、ASTの面々は駐屯地に帰投した。
「・・・・・・・・」
だが、折紙は奇妙な違和感を感じた。
通常隣界に消失<ロスト>するはずの精霊が今日に限って、精霊〈ディーヴァ〉の姿が虚空に消えるのを誰も目撃しておらず、〈ディーヴァ〉が凄まじい大声を発し、全員が一瞬怯んだ隙に、姿を眩ませた。まるで隙を作って自分の意思で身を隠したように思ってしまう。
だが。折紙はそんな思考を振り払うと、視線を鋭くした。
今はそれよりも、もっと重要な事があるのである。
随意領域<テリトリー>解除後の倦怠感が薄れ、ゆっくりと歩を進めた折紙は、士道のウィザードとも、真那のビーストとも違う別の魔法使いへと変身したーーーージェシカ達の元へと向かった。
「一体どういうつもり?」
何やら部下と話していたジェシカが片眉を上げ、折紙に視線を返してくる。
「どういうつもりって言うト?」
「とぼけないで。何故あの時、〈仮面ライダー〉を攻撃したの?」
「あラ。お知り合いだったのかしラ?」
「答えて」
折紙が詰問すると、ジェシカは大仰に肩をすくめた。
「どうもこうモ、識別名称〈仮面ライダー〉と言う“ふざけた手品師”は、ASTでも危険視されているでしょう? だから攻撃しようと思っただけヨ。何か問題でモ?」
「精霊が出現した場合、優先すべき対象は精霊。けどあなた達は〈ディーヴァ〉へ向かおうともせず、〈仮面ライダー〉のみを攻撃していた」
「その精霊を守っているんでしょウ? だから不安要素を排除してあげようとしただけヨ」
「・・・・・・・・」
折紙は射貫くような視線でジェシカを睨み付けた。それが嘘である事は明白だった。
実際、ジェシカも折紙に自分の言葉を信じて貰えるだなんて最初から思っていないのだろう。だが、そう言いさえすれば、折紙はそれ以上にジェシカを追求できないことを分かっている様子だった。
実際、〈仮面ライダー〉はAST内では危険対象である事に変わりはなく、後から交戦動機などいくらでもでっち上げられる。
「話は終わりヨ。消えなさイ。私たちは忙しいノ」
ジェシカが鼻を鳴らしながら言ってくる。しかし折紙はそのまま言葉を続けた。
「あなた達が帯びている『特殊な任務』に関係があるの?」
「・・・・・・・・チッ」
折紙が言うと、ジェシカとその部下達がピクリと表情を動かした。
そして鬱陶しげに舌打ちをし、グイ、と折紙の前髪を掴んでくる。
「く・・・・」
「ーーーー小娘ガ。今の私は気分が悪いノ。小賢しい知恵を回そうとすると、長生きできないわヨ?」
吐き捨てるように言って、折紙を突き飛ばす。
疲労が抜け切っていない折紙は、その場に尻餅を付いてしまった。ジェシカの部下達がクスクスと笑う。
「・・・・真那のビーストの方が、貴女達の変身した魔法使いよりも、強かった・・・・!」
せめてもの反撃に、以前〈ナイトメア<狂三>〉との戦いで見たビースト<真那>の事を発した。
実際、たった1人で最悪の精霊である〈ナイトメア〉と互角に渡り合ったビースト<真那>に比べ、反撃出来なかったウィザード<士道>を10人がかりで仕留めきれなったメイジが、優れているとは折紙にはとても思えなかった。
「・・・・今、なんテ言ったノ?」
それまで嘲ったような笑みを浮かべていたジェシカの顔が不快そうに歪んだのを、折紙は見逃さなかった。
「あなた達の魔法使いよりも、真那の方が・・・・っ!!」
折紙がそれ以上の言葉を発せられなかった。何故なら、ジェシカが憤怒の形相となって、折紙の腹部をつま先で蹴ってきたからだ。
「あんたら! 何してんのよ!」
そこで騒ぎに気づいた燎子が、泡を食って駆けつけてくる。
ジェシカはと不機嫌そうに顔を逸らすと、部下を伴って歩き去って行った。
「ちょっと、大丈夫?折紙」
「ケホッ・・・・問題ない」
少し咳き込んだ折紙は、差し出された燎子の手を取って立ち上がると、小さくなるジェシカの背中を憎々しげに睨み付けた。
ージェシカsideー
一方のジェシカ達も、不機嫌そうな表情を隠そうともせず、ジェシカが苛立たしげに吐き捨てた。
「・・・・あんな“旧式の『アーキタイプ』”に・・・・! 私達ノ『メイジ』が劣ル訳なイ・・・・!」
脳裏に浮かぶ“忌々しい東洋人の小娘”の顔を振り払うように、ジェシカは同感と言わんばかりに頷く部下を連れて通路を歩いていった。
ー士道sideー
「なんで土曜に・・・・こんな・・・・」
≪ウザいぞ小僧≫
両脇を十香と折紙に挟まれ、士道は連行されるように歩みを進めながらあくびをこぼす。
先日の精霊〈ディーヴァ〉との遭遇し、ASTの魔法使い達との戦いで、士道は全身を激しい疲労感に襲われていたが、あの後、そんな士道の状態などお構い無しにフラクシナスでは、不可解な好感度低下についての会議が行われ、どうせ明日は学校休みだからと、深夜まで続いた会議に参加させられた。
そして朝になって急に亜衣から電話があり、
《今日は天央祭の各校合同会議があるからよーろしーくねー! 答えは聞いてなーい!》
と死刑宣告を告げられたのである。
「おい貴様、シドーに寄りすぎだぞ、少し離れろ」
「あなたこそ離れるべき。あなたの体臭は耐え難いレベルと士道は言っている」
「な、なんだと!?」
≪出鱈目を信じるな〈プリンセス〉≫
「う、うむ!」
いつものように喧嘩を始める2人の声が士道の寝不足の頭にギュインギュインのズドドドドドド・・・・と震わせる。
「二人とも、ちょっと静かにしてくれ・・・・頭に響く」
≪こんな女の挑発に一々反応するな〈プリンセス〉、無視しろ≫
「うむ。士道に迷惑をかけたくないからな!」
「・・・・・・・・・・・・」
十香の言葉に折紙も静かになった。これで何か言えば自分の墓穴を掘りかねないと思ったのだ。
ちなみに今、合同会議会場に向かっているのは士道、十香、折紙の3人(+ドラゴン)のみであり、実行委員である亜衣麻衣美衣トリオの姿はない。なんでも1日目のステージ部門でバンド演奏をする予定らしく、その練習で来られないのだという。
そのトリオの代役として十香と折紙が来たというわけだが、人選ミスだろうと愚痴りそうになると、合同会議の会場である学校が見えてきた。
赤煉瓦の荘厳な校門から、鉄製の飾り格子が左右に広がり、その合間から青々とした生垣を覗かせている。
そしてそこから、これまた赤煉瓦が敷き詰められた道が一直線に伸び、その先にまるで城と見まごうかのような立派な校舎が見て取れた。天央祭準備や部活動のためか、生徒の姿も見受けられる。
『私立竜胆寺女学院』。名家の子女達も数多く通う、天宮市屈指の名門校である。
≪流石は、金持ちの親の脛を噛っているお嬢様が通う学院だな≫
「(毒を吐くなよ・・・・)」
「おお・・・・凄いなシドー。これも学校なのか?」
と、静かになっていた十香が校舎を見上げる。
「ああ、そうらしいな。とりあえず入ってみようぜ」
「うむ!」
「・・・・・・・・」
十香は元気よく返し、折紙は無言で頷いた。
3人で守衛さんに生徒手帳を見せてから、敷地内に入った。来賓用の昇降口から校舎内へと入り、事務局で入校許可証を受け取り、目的の会場へと向かう。
「第二会議室。ここだな」
言って、扉を開ける。部屋の中には既に様々な制服の生徒達が何人も揃っていた。会議までまだ時間があるからか、席に着かずに談笑している生徒も多い。
とはいえ、昨日就任したばかりの士道の顔見知りがいるはずもなく、手早く自分たちの席を探して椅子に腰掛ける。
と、それからすぐに、コンコン、と会議室の扉がノックされた。
「ん?」
士道が首をひねっていると、部屋にいた生徒達が一斉に顔を上げた。
「な、なんだ、一体」
士道は思わず身構える。だ
が、扉の向こうから聞こえてきたのは、拍子抜けするような優しげな声だった。
『失礼しまぁす』
≪ん?≫
そんな一言が聞こえてから、ゆっくりと扉が開いていく。
静々と入ってきたのは、濃紺のセーラー服に身を包んだ少女達の一団だった。そして、まるで大名行列を出迎えるように、二列に並んで頭を垂れていく。
呆気に取られる士道と視線を鋭くするドラゴンは、その少女達が作った道の真ん中を、一人の生徒が女帝の如く悠然と歩いて来たのが見えた。
紫紺に輝く髪を纏め、銀色の瞳を持った少女である。少女達と同じセーラー服を着ていたが、その身から放つ圧倒的な存在感が、彼女の輪郭をくっきりと浮かび上がらせていた。
「な・・・・」
≪むぅ・・・・≫
「・・・・・・・・っ!」
その姿を見て、十香を除く2人+1体は息を詰まらせた。
確かに美しい少女だった。町中でこんな美人とすれ違ったなら、誰でも思わず振り向いてしまうだろう。
だが、問題はそこじゃない。
「ーーーーこんにちわー。よく来てくれましたねー、皆さん」
少女がのんびりとした口調でそう言って、ぺこりとお辞儀をする。
その声を聞いて、士道とドラゴンは確信した。
その、少女は。
「竜胆寺女学院、天央祭実行委員長、『誘宵美九<イザヨイ ミク>』ですぅ」
以前殿町が言っていたアイドルであり、昨日彼らが遭遇した精霊ーーーー〈ディーヴァ〉だった。
◇
『さー、いきますよぉー。皆さん付いてきてくださーい』
〈フラクシナス〉艦橋のスピーカーからそんな間延びした声が聞こえると同時に、軽快な伴奏と甲高い歓声が鳴り響いた。
艦橋正面のメインモニタには今、フリルに飾られた衣装を纏ってステージで歌い踊る少女と、その前方に広がった紫色のサイリウムの絨毯が映し出されている。
映像は粗く、公式販売されているDVDなどではなかった。どうやら中津川があらゆるツテを駆使して手に入れた盗撮映像らしい。
「・・・・・・・・」
士道はその映像を呆然と見つめていた。
それは間違いなく今日顔を合わせた竜胆寺の女子生徒でありーーーー昨日遭遇した精霊〈ディーヴァ〉の美しい声色だった。
「『誘宵美九』・・・・ね。まさか彼女が精霊だったなんて」
士道の隣の艦長席に座りながら映像を眺めていた琴里が、ポツリと呟く。
「彼女のこと知ってたのか?」
「まあ、名前くらいはね。CMとかドラマの主題歌で曲もいくつか」
「そ、そうか・・・・(ドラゴン知ってた?)」
『〈プリンセス〉達とドラマを見ている時にな。と言うよりも貴様は知らんのか? 家事ばっかり現を抜かして流行りに疎いヤツだな。本当に現役高校生か??』
士道が思念体となって頭の横を飛んでいるドラゴンに聞くと、ドラゴンは尻尾で士道の頭をペシッ、ペシッと叩きながら毒舌を飛ばす。
思念体でも物とかに触れる事ができるようである。そのお陰でよく精霊達とゲームとかで遊んでいるようだが。
「うるせぇなっ!!」
何て喧嘩している凸凹コンビの様子を気にする事もなく、琴里は手元に置かれていたプロファイルシートに視線を落とし、難しげに眉を歪めた。
「・・・・デビューは今からおよそ“半年前”。『聞く麻薬』とさえ言われる美声と圧倒的な歌唱力で驚異的なヒットを連発するも・・・・テレビや雑誌には一切姿現さない謎のアイドル・・・・って、こういうのも偶像<アイドル>っていうのかしらね?」
そこまでプロフィールを読み上げた琴里は額に手を置いてため息をもらす。
「精霊がアイドル・・・・しかも最低半年以上前からこっちの世界に溶け込んで生活してたっての? こんな活動しながら? はっ、狂三なんて目じゃないわね」
琴里が発した狂三の名に、士道は頰がピクリと動き、士道は琴里に視線を移し、問いを投げかける。
「なぁ、琴里みたいに〈精霊のファントム〉に霊力を与えられた元人間って事なのか?」
士道の言葉に、琴里がピクリと眉を動かした。
「・・・・ふむ。可能性は否定できないわね。確かにそれなら、こちらの世界にとどまっていても不思議じゃないし。ーーーーただそうなると、昨日の空間震の理由が分からなくなってくるわね」
「あ・・・・」
『『空間震』は、隣界から精霊が出現するときの余波だ。誘宵美九が最初からこの世界で生活しているならば、そんな事をする理由がない。〈ナイトメア<狂三>〉のように、自分の意思でやっているなら話は違うがな』
士道は後頭部を掻きながらむうと唸った。が、最大の問題は他にあった。
「結局まだ、好感度が急降下した理由も分かってないんだもんな・・・・」
夜通しの会議でも原因は掴めなかったが、そんな士道の懸念に、琴里は小さく首を振ってみせた。
「実はそっちについては、確実とはいかなくとも、一つの仮説が立ったの」
「え? そうなのか?」
「ええ。順を追って説明するわ。ーーーー令音」
「・・・・ああ。これを見てくれ」
と、琴里の後方に座っていた令音が答えたかと思うと、メインモニタで上映されていた美九のライブ映像の上にグラフのようなものが表示された。曲に乗っていた中津川が悲鳴じみた声を発するが、琴里に睨まれ黙った。
「これは?」
「・・・・ああ、昨日の美九の精神状態を表したものだよ。真ん中くらいまでの位置が、君たちと会話していた際のものだ」
言われた箇所を見やる。・・・・ジェットコースターもかくやというような急降下っぷりだった。最後の方など最早目盛りが見えなくなっている。
「・・・・想像以上に嫌われてますね、俺」
「・・・・まあ、取り敢えず今それは置いておこう。その続きを見てくれ」
令音の指示に従いグラフの続きを見ると、一度はストップ安状態を思わせるまでに落ち込んだ機嫌が、急に上昇し始めていた。
「これは・・・・」
「・・・・ヴァンパイアとパピヨンと話している時や、鳶一折紙に触れた瞬間だね。最高値に達している」
「ええと、それって・・・・」
『・・・・やはり、そう言う事か』
士道が考えを巡らせ、ドラゴンは察しがついていたように溜息を吐いてると、琴里が口からチュッパチャプスを取り出し、ビッと艦橋下段に向けた。
「中津川」
「はっ!」
名を呼ばれた中津川が、ビシッと直立し説明をする。
誘宵美九は屈指の有名人だが、人前に姿を現さないのだという。活動といえば定期的にリリースされるCDと一部のファンだけを集めたシークレットライブのみだと言うのだ。
それこそ、“実在が疑われるほどに”。
「でも、アイドルですよね? 何でそんな・・・・」
士道の疑問に、中津川が変わるように答える。
「ネット界隈の情報になりますが・・・・なんでも、美九たんは凄まじいほどの『男嫌い』であり、握手なんて耐えられないレベルらしいのですよ。例のシークレットライブは女性ファンしか入れないという話でございます」
「“女性ファンしか”・・・・?」
「しかも噂によると、ライブ後、“お気に入りの女性ファンをお持ち帰りしていたこともある”そうなのですよ」
「そ、それって・・・・」
「そう。つまり」
琴里かチュッパチャプスを口に戻し、ピンと指を立てる。
「誘宵美九はーーーー女の子が大好きな、いわゆる『百合っ子』である可能性があるわ」
『詰んだな・・・・』
「・・・・なーーーー」
ドラゴンは予想通りと言わんばかりに息を吐き早々に諦め、士道は絶望的な心地で喉を絞った。
次回! 士道が新たな姿(大笑)となる!!