デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーメデューサsideー
『やあメデューサ!』
天宮市郊外にある『魔獣・ファントム』の洞窟のアジト。
天蓋付きベッドで横になるワイズマンと、その近くにまるで付き人のように控えるメデューサに気さくな態度で近づくのはヴァンパイアと、その後ろに控えるパピヨン。
メデューサはヴァンパイアの姿を見ると、不愉快そうに口元を歪め、不快な気持ちを隠そうとせず口を開く。
『ヴァンパイア。ここにはワイズマンもいるのだ。挨拶はどうした?』
『・・・・そうだったね。どうもワイズマン』
メデューサへの挨拶とはまるっきり違う温度差でワイズマンに挨拶するヴァンパイア。メデューサが声を発しようとするが、ワイズマンが制した。
『ご苦労ヴァンパイア。それで、〈ディーヴァ〉の方はどうだった?』
『ああ、順調だよ。彼女はどうやら私と波長が合うようだ。少しの間、“友達ごっこ”をするのも一興かと』
『貴様と波長が合う? どうやら〈ディーヴァ〉は貴様と同類のようだな。それなら指輪の魔法使いも封印はできまい』
『〈ディーヴァ〉は君に会いたがっていたよメデューサ?』
『・・・・・・・・』
メデューサの脳裏に、「きゃぁあっ! 誰ですか貴女!? 危ない雰囲気漂うお姉様! 仲良くしましょう!」と言って、自分に近づき、“キスを迫ってきた〈ディーヴァ〉の姿”に、おぞましさを感じて少し身を震わせた。
『フフフ。警戒されるよりは都合が良い。ヴァンパイア。〈ディーヴァ〉への対処は任せる。必ず彼女を絶望させよ』
『アンタに言われなくても分かっているよ。やり方は私が決める。余計な事は止めて貰おうか』
『ヴァンパイア!』
ワイズマンに対して無礼な態度を欠片も改めないヴァンパイアに怒鳴るメデューサは、頭の蛇をウネウネと動かしてヴァンパイアを睨むが、ヴァンパイアは両手を上げて降参を表明する。
『そんなに怒らないでよメデューサ。ちょっとした冗談だよ。さ、パピヨン。天央祭に行動を開始しよう。きっと他の精霊達もやって来る。楽しみだね』
『・・・・派手な動きをして、指輪の魔法使い達に気取られるようなヘマをするなよ』
『分かっているよ。私を野蛮で下品なフェニックスと一緒にしないでくれ』
パピヨンの肩を掴んでその場を離れるヴァンパイアの後ろ姿を睨むメデューサは、ワイズマンに向けて声を発した。
『宜しいのですかワイズマン。ヴァンパイアの行動には目に余るものがあります』
『良い。“ヴァンパイアの能力”はメデューサやフェニックスに勝るとも劣らない。指輪の魔法使いによってこちらも数が減らされた。“貴重な戦力”を失うのは惜しい』
ワイズマンの言葉に、メデューサは深く息を吐くと、「出すぎた真似をしました」と言わんばかりに頭を垂れた。
ーヴァンパイアsideー
「ふん。男のファントムが頭目だなんて、身の毛がよだつよ」
「・・・・・・・・」
人間体に変貌したヴァンパイアとパピヨンは、天央祭の準備で盛り上がる街並みを歩きながら、先ほどのワイズマンとの会談を思い出して、ヴァンパイアは口元に手を置いて、吐き気を堪えるような素振りを見せた。パピヨンは何も言わずにヴァンパイアに付いていく。
「おや・・・・?」
ヴァンパイアはふと立ち止まると、買い出しに来ていた男女の学生カップルが目に入った。
「いけないなぁ。男なんて穢らわしい存在に現を抜かしていちゃ・・・・」
ヴァンパイアは制服越しでも、スタイルの良さが分かる女生徒の身体をねぶるように見据えると、唇の上をペロリと舌で湿らせ、その男女の後を着けようとするが、パピヨンがヴァンパイアの腕を掴んで止めた。
「(フルフル・・・・)」
パピヨンは派手な動きをしてはいけないと言わんばかりに首を横に振ると、ヴァンパイアは肩を落として従った。
「やれやれ。せっかく誤った道を行こうとしている少女を救おうとしているのに。パピヨンがそう言うなら仕方ないな。で・も、それならパピヨン。分かっているね?」
情欲に満ちた瞳と歪んだ笑みを浮かべ、パピヨンの腰に手を回したヴァンパイアに、パピヨンは無言で頷くと、ヴァンパイアは満足そうに頷き、二体はそのまま路地裏の闇の中に消えた。
ー士織sideー
天央祭の会場となる天宮スクエアは、天宮市のちょうど中心辺りに位置する大型コンベンションセンター。
中央にセントラルステージがあり、周囲に大型展示場が広がっており、天央祭に使われるのは主に東ブロックの1号館から4号館だ。
士織に変身した士道も3人組に「ちょっとお手洗いに・・・・」と言って抜け出そうとしたが、目を光らせた折紙が付いてきたものだから、撒くのに時間と体力を浪費した。
そして、美九がいる1号館にたどり着いた士道は、美九が竜胆寺の生徒の一団から抜け、スクエアの中央に位置するセントラルステージに向かったと琴里から聞いて、ステージ裏から美九の様子を伺うと。
「あ・・・・」
ステージ中央に立った美九のその姿は、アイドルのオーラと呼ぶべきなのか、士道は気圧されそうになる。
普段ならこんな緊張した自分をドラゴンの尻尾ド突きが炸裂して正気に戻るが、残念ながら今回沈黙しているドラゴンに変わって琴里の声で正気に戻り、大きく深呼吸してから頬を張り、ステージに踏み込むと足音で気づいたのか、美九がクルリと振り向いてきた。
「あらー? あなたは・・・・?」
驚いた様子で目を見開き、士道を観察するように睨め付ける美九。男とバレたか、と緊張感に締め付けられる。
「え!? お、俺は・・・・」
《馬鹿、士道!》
「俺・・・・?」
「あっ、その、それは・・・・」
思わず『俺』と言ってしまった士道は、「しまった!」と思いながら何とか誤魔化そうとするが、美九は士道の焦りに反して優しげに微笑む。
「変わった言葉遣いをしますねー。うふふー・・・・でも個性的で素敵ですよぉ」
《・・・・! 好感度、機嫌、ともに数値をキープ! 低下していません!》
《どうやら、士道の男言葉をボーイッシュな個性として認識してくれたみたいね。・・・・運がいいじゃない。いいわ、口調はそのままでいきましょう》
《シン。分かっていると思うが、今回はドラゴンが不在だからね。迂闊な真似は極力しないように》
「は、はい・・・・」
ホウと安堵すると同時に、今回はドラゴンがいない事を改めて実感する。ドラゴン無しでの攻略は琴里の時以来だ。下手な事を言いそうになったり、精霊の魅力で気を抜きそうになる自分を叱咤する存在がいないのだ。
そして、美九に話しかけようとしたら、また〈フラクシナス〉の選択肢(この瞬間にイヤな予感をする)が発動し、
【すいません、今穿いてるパンツ三万円で売ってくれませんか?】
と言えと指示が出て、士道は心の底から、「ドラゴンがいてくれたらなぁ・・・・!!」と思った。
ー真那sideー
「天央祭・・・・。つまり天宮市で大々的に行われる文化祭でやがりますか?」
「ええ。どうやら天宮スクエアで行われるようです。それと、精霊名称〈ディーヴァ〉が現れ、現在五河士道くんが攻略に当たっているようです」
天宮市にあるビジネスホテルの一室。現在真那は国安0課の仁藤とともに宿泊している。ちなみに仁藤は真那の部屋と隣の部屋だ。
二人は0課の情報網で手に入った、士道と〈ラタトスク〉の現在の状況を確認していた。
「兄様も大変でやがりますね。調べたところ、〈ディーヴァ〉って同姓愛者でやがるのでしょう? 男の兄様がどうやって攻略するのでやがりますかね?」
「まぁそちらは〈ラタトスク〉の領分ですからなんとも・・・・。それよりも、我々は我々の仕事をしましょう」
仁藤はタブレットを操作すると、『男性の連続殺人事件』と『女性の連続失踪事件』の被害者達の写真と名前、その他の経歴が記されたデータを表示させた。
その中にいる。“自分と真那が発見した、首が切断された男性の生前の顔写真”を見て、真那は表情を曇らせる。
「この人の恋人さんは・・・・」
「今だ、行方不明ですね・・・・」
事件を捜査していた二人が発見した時には、男性は首を斬られ塵のように捨てられ、恋人の女性の血痕と引き裂かれたウェディングドレスが残るベッドを思い出し。
“犯人が人間だったら必ず捕まえ、そうではなかったら法ではない裁きを与える”
と、二人は誓ったーーーー。
ー士道sideー
美九の接触した翌日。竜胆寺女学院の校門前で、士織モードの士道が、美九を待っていた。
結局あの後、指示された台詞を言ったら美九も冗談めかした事を言って、それを『お互いの秘密』として事なきを得て、さらに階段を転げ落ち、手を怪我した事を心配された美九からハンカチを受け取り、次に会う約束を得た。
どうやら美九は主導権を握りたがる性格のようだ。
まあその後に折紙と遭遇し、美九と一緒にいた事を追及されそうになった(美九は折紙に挨拶して去り、折紙も美九が精霊であると察してしまった)。
「て言うか、美九は天央祭実行委員なんだから、放課後も仕事があるんじゃ・・・・」
《余計な心配してんじゃないの。ちゃんと調査済みよ。確かに美九は実行委員だけど、週1回は必ず、お気に入りの女の子を自宅に呼んでティータイムを楽しむことがわかってるわ》
「はあ、優雅な事で」
《で、今回もあの陰険トカゲは不参加?》
「ああ。昨日は四糸乃とよしのんに英単語を教えてたようでな。今日は耶倶矢と夕弦の勝負の審判役をやってんだと」
ちなみに今日も竜胆寺女学院に来る前にーーーー。
【良いか小僧。まだ〈ディーヴァ〉と言う精霊がどんな人間性なのか把握出来ていないのだ。迂闊な行動は控えろ。貴様の欠点には、『善意優先で相手を判断するお花畑な脳ミソ』と『自分で自分を抑えられないお子様の性質』がある事を記憶しておけ。我が助言など滅多にしないのだから、“ちゃんと聞いて記憶し、己を律するのだぞ”】
「(たくっ、人を欠点まみれのダメ人間扱いしやがって! あの高慢ちきの陰険陰湿クソトカゲ・・・・!)」
何てドラゴンに悪態を吐いている間に、校舎から女子生徒の集団が来た。美九とその取り巻き達である。
美九に近づこうとするが取り巻き達に邪魔されるが、美九が出て来て事なきを得て、ハンカチを渡すと、受け取った美九は大層嬉しそうにクスクスと笑った。
「では、受け取っておきます。ふふ、でも少し残念ですねー」
「え・・・・? な、何か駄目だったか?」
「いいえ、そうではなくてですねー」
首を傾げる士道に、美九は悪戯っぽい笑みを浮かべ。
「士織さんが私にお茶にでも誘ってくれるのかと、少しだけ期待しちゃいましたよー」
「・・・・っ!」
計算なのか天然なのか、男でも女でもドキッとしてしまうような事をやってしまう美九に、士道は顔を真っ赤にして黙ってしまう。
ここにドラゴンがいれば。
【≪〈ナイトメア(狂三)〉の時もそうだったが、貴様は本当にこういう手合いに弱いな。主導権を握られまくりではないかチョロい童貞ボクちゃん?】
等と嫌味が飛んで来そうになるのを想像して、正気に戻った士道が、お礼としてお茶に誘うと、美九は一番チャーミングな笑顔で応じた。
◇
士道はそのまま美九の自宅にの屋敷に案内され、誘われるまま上がっていき、応接室のソファに座る。
美九が紅茶を淹れてくれている間に琴里と話す。
「なんか・・・・トントン拍子過ぎて怖いような・・・・」
《良いじゃないの、話が早くって。数値も順調に上昇しているわ。士織ちゃんのアポ無し訪問が予想以上に効果的に働いているわね。いい感じよ》
「・・・・なあ、今更なんだが。美九って、男が嫌いなんだよな? もし士織モードで封印できたとして、俺が元の格好に戻ったらどうなるんだ?」
《・・・・・・・・》
ある意味最終的な結末を話すと、琴里は数瞬黙った後、言葉を継いだ。
《その制服と化粧道具は士道にあげるわ》
「おいっ!」
「どうかしましたかー?」
無責任極まりない琴里の返答に士道が叫ぶと、美九が聞いてくると、曖昧な笑みで誤魔化せた。
それから他愛ない会話を弾ませ、好感度も上昇しているようだ。士道も楽しくなってきたのか、そのまま話を続けた。
気づいたときには夜の8時を回っていて、士道が帰ろうかと思うと、美九はしばし士道を凝視すると、今まで自分にいなかったタイプだから気に入ったと言ってーーーー。
「明日から竜胆寺に通ってください」
「・・・・へ?」
なんて言ってきた。上手く断るように指示を受けるが、美九は学費も学力も自分が何とかすると言うが、士道は断るが、美九は唇の端を上げて席を立ち、士道の隣に腰掛け、そして優しく士道の手を握ると、スッと左耳に口元を寄せてきて、そしてーーーー。
【ーーーー“お願い”】
「・・・・っ!?」
甘えるような小さな声が鼓膜を震わせ、士道は強烈な目眩に襲われる。
まるで言葉が耳から体内に侵入し、脳を直接揺さぶるような錯覚。酩酊に似た感覚が意識を満たし、忘我の内に美九の言葉に頷きそうになったその時ーーーー。
ーーーーバシィィィィィンンッ!!!
「いっでぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ふぇ?」
士道は脳天に、先ほどの甘える声の魔力を吹き飛ばす程の激烈な痛みで正気を取り戻すと、頭を押さえて痛みに悶える。
「(~~~~~~!! ど、ドラゴンか・・・・!?)」
あまりの痛みに若干涙目になる士道は、未だに沈黙しているドラゴンの名を呼ぶが、美九は士道の様子に大層以外そうに目を丸くすると、しばし考え込むように口をつぐみ、士道をアルアルマジマジと見つめ。
「士織さんー?」
「っ! な、なんだ・・・・?」
【ーーーー“服を、脱いでください”】
また先ほどと同じく、脳に響く『声』で美九が言ってきた。
「え、ええ・・・・っ!?」
ズッキンズッキンと痛む頭を押さえながら、美九の発した言葉に、顔はさらに真っ赤に染まった。
「こ、困るよ、流石に・・・・」
女装を解くわけにもいかないので断ると、その様子に美九は得心がいったような姿勢を正す。
「やっぱり、言うことを聞いてくれないんですねー・・・・あなた、もしかしてーーーー“精霊さんか、ファントムさんですか?”」
「えーーーー」
先ほどの『声』以上に、士道の意識を揺さぶり、身体を硬直させた。
士道は何とか誤魔化そうとするが。
「いいですよー、無理にとぼけなくても。私の『お願い』を聞いてくれないだなんて、普通の人である筈が無いんですからー。いえ、むしろ、精霊さんだったら嬉しいですねぇ。私、自分以外の精霊さんに会って見たかっんですよぉ。何人かいるんですよねぇ?」
「な・・・・」
「ねえ、士織さん。あなたは一体何者なんですかぁ? もしかしてファントムさん? それともあの魔術師<ウィザード>とかって人達の仲間です? 私とあなたが知り合ったのは単なる偶然? それとも何か目的があるんです?」
「そ、それは・・・・」
美九の質問に言葉を詰まらせている士道に、賭けになるが直接交渉に移るよう、琴里が言ってきたので声を発する。
「・・・・美九。俺は精霊じゃあない。魔術師でもない。普通の人間で、“精霊の霊力を封印する力”を、持っている」
〈仮面ライダー〉の事は伏せておいてそう言うと、美九は目を見開き、再び士道を凝視した。
「霊力を・・・・封印? どう言う事ですかー?」
「それはーーーー」
士道はゆっくりと話した。
理由は分からないが、自分にはそういう能力があること。
その能力を使って霊力を封印すれば、精霊はASTに狙われる事なく平穏な生活が送れる事を説明した。
士道は説明を終えたら、美九の目を真っ直ぐ見返しながら口を開く。
「もし・・・・もし俺の言う事を信じて貰えるなら、美九、お前をーーーー助けさせて欲しい」
「・・・・・・・・」
暫しの間考え込むように目を細めて、口元に手をやった美九は、息を吐いた。
「ーーーー分かりましたぁ。信じます。嘘をついているような声にも聞こえませんしー」
「・・・・! ほ、本当か!?」
こんな荒唐無稽を話を簡単に信じて貰えないと思っていたので、声を裏返した。
そんな士道の反応を見て、美九は苦笑する。
「何ですその反応。まるで私が士織さんを信じないと思っていたみたいですー?」
「いや、それは」
「うふふ。ごめんなさい。ちょっと意地悪でしたねー」
言いながら美九は窓際に歩き。
「確かに驚きましたけど、見た処、士織さんが嘘を吐いているとは思えないですー。ーーーーそれに、私達の出会いに作為があったとはいえ、その理由が救おうとしてくれていただなんて、嬉しいじゃないですかー」
「あ、あはは・・・・」
何だか照れくさくなって後頭部をかいた。
≪・・・・・・・・おい、気を抜くな≫
が、突然ドラゴンがボソッと、美九を警戒するような声が聞こえたが、士道は気にせず、美九との会話を楽しんで封印の方法を伝えようとしたがーーーー。
「ああ、いいですよー、それ以上は。霊力を封印して貰わなくて結構ですよー」
「え・・・・?」
《ち・・・・そうきたか》
美九は士道の様子を気にかけず続ける。
「だってぇ、そうでしょう? 私は霊力を有している今の状態でも、十分に満足した生活を送れているんですものー。あえて力を差し出す理由は無い筈です。あなたとはこれからも“良い友達”でいたいと思いますけど、それとこれとは話が別ですよー」
「そ、それは・・・・」
《馬鹿言ってんじゃないわよ。つい数日前に空間震を起こした精霊が何言ってるの》
「あ・・・・」
口ごもり、丸め込まれそうになった士道に琴里の一喝が入った。
折紙に正体が割れた以上、ASTが動き出すのも時間の問題であり、美九の思想なんて関係無しに襲われる事を伝えられ、士道は拳を握った。
ここで士道が折れたら、美九を、美九を取り巻く様々な世界に不幸を呼ぶことになる。
「美九、お前は4日前に、空間震を起こしているよな・・・・? それって、お前が自分の力を制御しきれていないって事なんじゃないのか?」
士道がそう言うと、美九は驚いたように聞くと、折紙に聞いたと適当に誤魔化した。
「やっぱり、危険だ。霊力をそのままにしておいたら、いつかは友達やファンの人を傷つける事にだってなるかもしれない。頼む、俺に美九の力を封印させてくれ・・・・!」
美九の目を見つめ、訴えかけるが、美九は小さく息を吐くと、ゆっくりと首を横に振った。
「心配してくれるのは嬉しいですけど、無用ですよー」
「っ、な、なんでだよ」
士道の問いに、美九は何を気負う様子もなく、言ってきた。
「だってーーーーあの空間震は、“私が自分の意思で起こしたものですからー”」
「ーーーーえ?」
一瞬、美九の言っている意味が分からず、呆然と目を見開く。
狂三のように空間震を引き起こす精霊がいるのだから、美九が使えてもおかしくない。
が、理解しても士道の頭から疑問符が消えない。
「い、一体・・・・なんでそんな事を」
士道の問いに、美九は髪の先を弄りながら語る。
「士織さんに初めて会った時、言いましたよねー。私、ステージが好きなんですよー」
「・・・・ああ」
「偶然天宮アリーナで何処かのバンドさんがライブをやっていたんですよー。ーーーーそれでですねー、その時フッと気づいたんですけど、そう言えば私、“天宮アリーナでは歌った事が無かったんですよー”」
「・・・・え?」
「それで、急に歌いたくなっちゃったんです。だから、えいやーっ、と」
「・・・・っ、そんな、理由ーーーーで」
美九が可愛らしい仕草で微笑みながら言うが、士道は信じられないモノを見るように表情を歪め、喉を震わせた。
「そんな理由、だなんてひどいじゃないですかー」
「だって・・・・辺りには沢山の人がいたんだぞ・・・・? もし逃げ遅れたりしたらーーーー」
「仕方無いじゃないですかー。だって、“私が歌いたかったんですよー?”」
言う美九の顔には、一切の罪悪感が見られない。それどころか、その行為を悪事と認識すらしていないようだ。
「・・・・っ、何とも思わないのか? 空間震を起こすなんて、そんな・・・・」
「何とも・・・・って言われましてもぉ」
「もしお前の友達ーーーーそう、今日お前と一緒に下校していた女の子がそこにいたら、死んでしまっていたかもしれないんだぞ!? そうなったら、一体どうするんだよ!」
士道がそう訴えると、美九は暫しの間思案するように視線を巡らせ、再び士道に目を向ける。
「それは・・・・困りますねー」
「! そうだろ!? だからーーーー」
「“また私好みの女の子を探す手間がかかっちゃいますしー”」
「ーーーー、え・・・・?」
士道は自分の耳を疑って、間の抜けた声を漏らした。
この頃の美九って、ヴァンパイアと同じ考えだったかもしれないですね。