デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ーフェニックスsideー
『フェニックス』
「んだよ?」
ワイズマンがユウゴを呼び出すと、ユウゴは苛立ちを隠さず声を発し、ミサが険しい目で睨むがお構い無しだ。
『もう間もなくヴァンパイアが動く。が、彼女達だけでは指輪の魔法使いの相手が務まるとは思えん』
「あ?」
『指輪の魔法使いは徐々に力を増していき、精霊達も我らと対抗できる力を得た。さらに、白い魔法使いとアーキタイプ<ビースト>の存在もある。彼女達だけでは些か手が足りん』
「・・・・って事は?」
ワイズマンの言わんとしている事を察し、ユウゴの顔に喜色が浮かぶ。
『お前も明日の人間達の祭に参加し、事態が動いたら指輪の魔法使いとの戦闘に参加しろ』
『・・・・ははは、』
ユウゴがフェニックスに変貌すると、立ち上がって炎の魔力を放出し、
『はははははははははははははははは!!! 了解だワイズマン! 精々楽しんで来てやるよ!!』
『だが、グレムリンも同行させ、タイミングは彼の指示に従え、できるな?』
ワイズマンがそう言うと、グレムリンが現れ、ヒラヒラと手を振る。
『良いぜ! ウィザードと戦らせてくれなら! この際なんだってなっ!』
『ウム。任せる』
フェニックスは意気揚々とグレムリンを連れてアジトから去っていった。
「・・・・よろしいので?」
ミサがワイズマンに問うと、ワイズマンは頷きながら声を発する。
『構わん。これ以上フェニックスに大人しくさせようとすると暴走する。・・・・それに、メデューサ。お前も分かっていよう?』
『はっ!』
ミサはメデューサに変貌すると、別の洞窟の穴から出てきたファントムを見据える。
『さて、貴様の話は本当なのだろうな?』
視線の先にいるファントムは、笑みを浮かべたように口角を上げた。
ー美九sideー
その頃の竜胆寺女学院。
「ねぇ、皆さん聞いてください。私、1日目のステージに出ることになりたしたー」
美九の言葉に、会議室の中が騒然とする。
「ほ、本当ですか! お姉様!?」
「あんなに人前に出る事を嫌がっておられたのに・・・・」
「でも、これで初戦の勝利は間違いありません! お姉様が歌を披露するんですもの!」
居並んだ女子生徒達が色めき立ち、黄色い声を上げる。美九はそんな彼女達をウフフと微笑みながら眺めた。
「早速準備をお願いしますねー。どうせなら新しい衣装も欲しいですし、機材も良いものを使いたいですしねー。あ、バックダンサーも生徒の中から選ばないと」
美九が言うと、皆そのステージを思い浮かべ、うっとりとした様子で胸元に指を組み合わせる。ーーーーだが、
「ま、待ってください! そうなると、元々エントリーしていた吹奏楽部の演奏はどうなるんでしょうか?」
美九の左方の席に座ってた眼鏡の生徒が、手を付いて立ち上がり、美九の視線に怯みながらも声を発する。
「ん・・・・残念ですけど、吹奏楽部の皆さんには今回はご遠慮して頂く事になっちゃいますねぇ。まあ、でも良いじゃないですか。私が出れば確実に優勝できるんですからー」
「そ、そんなっ! 天央祭の為にみんな必死に練習してたんですよ!? 幾らなんでもあんまりです!」
顔を歪める眼鏡の生徒の訴えに、会議室の他の生徒に動揺が広がる。美九のステージは皆見たい。だが、彼女の言い分も尤もだと思った。
次いで、美衣の向かい側に座るショートヘアーの生徒もおずおずと手を挙げ、さらにその隣の生徒も立ち上がる。
「あ、あの、お姉様がステージの準備に入ってしまうとなると、他の部門の方が・・・・」
「そ、それに、非常に申し上げにくいのですが・・・・お姉様の新しい衣装とステージ用の機材を用意するだけの予算はもう・・・・」
彼女らの人員的、金銭的な問題を示唆され、会議室はにわかにざわめきが広がっていく。
が、美九はやれやれと息を吐くと、目を細めながら喉を震わせた。
【“いいから、私の言う通りにしてください”】
ーーーーすると。どよめいていた会議室が、一瞬にしてシンと静まった。
「では、お願いしますねぇ? 大丈夫、私が全て何とかしますよー」
会議室に美九の間延びした声と他の生徒の事など一切考えていない感情で言うとーーーー。
『はい、お姉様』
と、その場にいた生徒達はひどく感情の無い声で答えた。
ー折紙sideー
亜衣麻衣美衣トリオが快く士道達のバンド入りを認め、士道こと士織ちゃんがギター、折紙も士道と同じギターを、経験0の十香はタンバリン(かなり適当な役割)を決め、ボーカルも折紙に決まり、バンドの練習を初め、翌日に天央祭を明日に控えた日。
ストイックな折紙はAST隊員としての日頃の仕事を怠らない。機体整備と動作確認を終えると、スーツから作業服に着替え、格納庫に並ぶCR-ユニットを確認し、手にした端末に表示された項目もチェックする。
「・・・・・・・・」
作業の最中。折紙は妙な違和感を覚え、微かに眉をひそめる。
他の実戦要員や整備士の女性達の雰囲気が、いつもと違う気がする。緊迫感・・・・とでも言うのか。格納庫全体が、イヤに張り詰めた空気が流れている感じがあった。
「・・・・・・・・」
無言で思案し、端末の情報で近々大きな作戦でもあるのか、と確認したがそのような情報は無い。
と、パタパタと足音が聞こえ、視線をやると。
資材を持って折紙の前を通り過ぎようとする。ASTの整備主任、ミルドレット・F・藤村二等陸曹、通称ミリィの首根っこを掴んだ。ナイスタイミングである。
「ふぎゃっ!?」
ミリィは猫のような悲鳴を上げ、資材を落とし、折紙よりも小柄な体躯で、折紙よりも豊満なバストが揺れる。
「な、何をするかー! ミリィの頸椎に何かあったら責任とれるですかーっ!」
プンプンとミリィが怒って、犯人である折紙を半眼を作ってプスー、と頬を膨らませるが、折紙はそんな事気にしない。
「オリガミのミリィに対する対応には常々不満があります! 改善を要求する所存!」
「善処する」
短く答えた折紙に、ミリィはハフゥと諦めの混じった息を吐き出す。
折紙が何が起こっているのかと聞くと、ミリィが口を開こうとした瞬間ーーーー。
[チェイン ナウ!]
ミリィの周りに小さな魔法陣が展開されると、そこから鎖が現れ、ミリィの口元を塞ぎ、身体をガンジガラメに拘束され、発言を中止させられる。
ミリィの背後に、ジェシカが指輪をバックルに翳していた。
「ストップ。整備主任さン。そこから先は秘匿事項ヨ」
「むぅ? む、むんむぐむー?(ふぇ? な、なんですとー?)」
ミリィは驚いたように声を上げるが、口元を拘束され、モゴモゴとしか声を発せず、そのままジェシカが手を動かすと、鎖が動き、拘束されたミリィはジェシカの後ろにぞんざいに投げ飛ばされる。
「みぎゃっ!!?」
ミリィは痛そうにお尻をさする。折紙はミリィではなく、ジェシカの方を睨む。
「・・・・・・・・」
「フフ、そんなに怖い顔をしないデ。貴女の権限でハ知る事ができないノ。文句を言うなら上層部へどうゾ」
ジェシカはそう言って歩み去り、ミリィも立ち上がると、すまなさそうな顔をしながら、資材を抱えて走っていく。
色々腑に落ちない折紙だが、明日の為に自宅に戻ろうとロックルームで着替えようとすると、燎子が入ってきて話しかけるも、燎子はそれに答えず、わざとらしく独り言を言うと。
「ーーーー明日9月23日、1500時、天宮スクエアに第三戦闘分隊が突入するわ。目的は精霊〈プリンセス〉の疑いのある少女・夜刀神十香の捕獲。ーーーー及び、識別名称〈仮面ライダー〉の疑いのある来禅高校2年生・五河士道の捕獲」
「・・・・な」
折紙は小さく声を発する。第三戦闘分隊とは、DEM社出向社員達のみ構成された部隊。それが明日、天央祭の真っ只中で行われる。
それも意味が分からないが、士道を捕獲する。折紙は燎子の肩を掴んだ。
「一体どういう事? 夜刀神十香はまだしも、士道がーーーー」
「・・・・・・・・」
燎子の肩をグラグラと揺する折紙だが、夜刀神十香の方は捕獲されようが抹殺されようが構わない(むしろ後者が望ましい)が、士道についての理由は心当たりがある。
識別名称〈仮面ライダー〉である疑いがかけられた以上、こんな指令が下されるのは当然だ。それでも折紙は肩を揺するのを止めない。
燎子はそのまま小さく息を吐いて折紙の手をどけると、入ってきた扉へ歩いていく。
「ああ、面倒臭いわねえ、明日の作戦。怠すぎて“第二格納庫の裏口に鍵を掛けるのを忘れちゃいそうだわ”。ま、想定外のトラブルなんて起こるとは思えないし、別にいいわよねえーーーー頼んだわよ、折紙」
そんな台詞を残してロッカールームを去っていく。
「・・・・・・・・」
そこに1人残された折紙は、しばしの間呆然と燎子が消えた扉を見つめた後ーーーー。
「ーーーーっ・・・・」
折紙はグッと拳を握り締めた。
ー士道sideー
その頃、士道は輪島に呼び出され、面影堂に入ると、『ランドに似たリング』と『新たなリング』を貰った。
「おっちゃん。これが、『ランドドラゴン』のリングなのか?」
「ああ。ゴーレムもスピリッドライバーを完成させたから、これで天央祭でファントムが現れても大丈夫だぞ!」
「おっちゃんも来るの?」
「おう。行けるようにするよ。楽しみにしてるからな!」
「ああ! 楽しみしててくれよ!」
胸をドンっと叩いた士道だが。翌日、悪夢を見ることになった。
◇
『ーーーーこれより、第25回、天宮市高等学校合同文化祭、天央祭を開催いたします!』
天井付近に設えられたスピーカーから実行委員長の宣言が響くと同時、各展示場が拍手と歓声に包まれた。
9月23日の土曜日。天宮市内の高校生が待ちに待った、天央祭の始まりである。
今士道がいるのは、主に飲食関係の模擬店が立ち並ぶ二号館。来禅高校の勝敗をも握る最重要拠点だ。
だが、そんな最重要拠点に居るはずの士道は今、地面に手をついて全身から暗い空気を発していた。
「おっ、おぉぉ・・・・」
理由は至極単純なものである。
士道はゆらりと顔を上げ、辺りを見回した。周囲には様々な模擬店が展開されている。たこ焼きやクレープなどの定番系に始まり、その種類は多岐にわたる。
だが、士道達来禅高校の必勝策はそんな生易しい物では無かったのだ。
士道は頭をぐりんと回し、自分の背後に聳えている看板に目を向けた。
『メイドカフェ☆RAIZEN』
その無慈悲な名称を頭の中で反芻してから、視線を下にやる。そこには、
「おお! ひらひらだな!」
フリルのいっぱい付いたエプロンの裾をつまんでヒラヒラさせながら笑う十香や、
「ぷ、くく・・・・し、士道、御主、おなごの格好もなかなか似合うではないか」
「不覚。失笑を禁じ得ません」
士道の姿を見て含み笑いを漏らす、十香と同じ装いの耶倶矢、夕弦の姿が見受けられた。そこまで再確認し、士道はさらに視線を下へ。自分の装いを見直した。
ーーーーその、十香や八舞姉妹たちと全く同じデザインの衣服を。
濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のエプロン。ついでに頭部には、これまた可愛いフリルで飾られたヘッドドレスが着せられていた。
それを一言で言い表すなら、これ以上ないメイドさんスタイルだった。
「なんで・・・・こんな事に・・・・」
女子制服着せられるのも大概ではあったが、流石に士道も、人生においてメイドさんのコスプレをさせられる日まで来るとは思わなかった。なんだか男の子の心の大事な部分を汚された気がする上に、
≪・・・・・・・・・・・・・・・・≫
ドラゴンの、「遂にソコまで堕ちたか、この恥さらしのド底辺生命体めが」と、無言の圧力と絶対零度の視線で伝えてきて、再びガックリと肩を落とす。
と、そんな士道の肩に、ポン、と優しく手が置かれる。ーーーー亜衣(メイドさんスタイル)だ。背後には、同じ格好をした麻衣と美衣も見受けられる。
「どーしたのよ看板娘ぇ。ほら、そろそろお客さん来るんだからしゃんとして」
言ってビッと親指を立ててサムズアップしてくる。士道はゆらゆらとその場に立ち上がった。
「・・・・あの、これ、メイドカフェって」
「ああ。いいっしょ? 竜胆寺に勝つにはコレしか無いって決めてたのよ」
「いや、ていうか・・・・よく許可でましたね、こんなの」
天央祭はその規模こそ大きいものの、あくまでも高校の文化祭である。自由そうに見えて意外と縛りは多い。「学生に相応しくない」と判断されると、そもそも許可自体が下りないのだ。その点こういった接客メインの店舗は微妙なラインに位置付けられ筈だ。そういった点は重々承知しているのだろう、悪い顔をしながら肩をすくめてくる。
「だから印象操作に苦労したのよー。最初はキャバクラで提出したからねえ」
「ぶッ!?」
士道は思わず吹き出した。亜衣麻衣美衣トリオがカラカラと笑う。
「いやー、あんときはドメタリックに、ドハデニックに、ドハクリョクに、すなわち、ド強く怒られたよねー」
「うんうん。でもそのおかげで本命のメイドカフェが通りやすくなったし」
「まあ本当は、もっとスカートの丈短くしたかったけどねー。マジ引くわー」
言いながら、美衣がスカート越しに士道の太腿に線を引いてくる。士道は顔を青くしてスカートを押さえた。そんな様子を見て亜衣麻衣美衣は再び笑い、ドラゴンは士道の女のような態度にますます視線が冷たくなり、もはや永久凍土寸前だった。
「まあ、士織ちゃんたちステージメンバーは入り口に立って客寄せパンダしててよ。ホールスタッフにはガチで接客教え込んであるから安心して呼び込んじゃって。宣伝よろしく!」
「そそ。出来るだけドハデニックにお願いねー。もう行列作っちゃう勢いで!」
「うんうん。天真爛漫絶世美少女に、タイプ別双子、さらに長身気弱系と来た日にゃあ、もう、僕に釣られてみる?ってモンよ。マジ引くわー」
「・・・・・・・・・・・・」
いつの間にか、気弱系にカテゴライズされていた事に複雑な心境で苦笑する。
と、そこで士道は「ん?」と首を傾げた。
「そういえば・・・・折紙さんはどうしたんですか?」
そう。他のステージメンバーはみんな揃ってメイドさんをしているのに、折紙の姿だけそこになかったのである。
「んー? 鳶一さん? そういや朝から見てないわねー」
「一応担当場所はメイドカフェのはずだけど・・・・」
「マジ引くわー。あの日なんじゃないのー?」
美衣が言うと、3人はアハハと笑った。士道はどうリアクションしていいか分からず、ぎこちない笑みを浮かべるしかなかった。
「ま、そのうち来るでしょ。ステージに間に合えば別に文句ないわよ」
「そ、そうですね・・・・」
士道が頰を掻きながら答えると同時、正面入り口の方から夥しい数の足音が響いてきた。どうやら、お客様・・・・もとい『ご主人様』と『お嬢様』がやってきたらしい。
「さ、じゃあここはよろしくねー!」
「時間になったら呼ぶからさー」
「あーみんな、ここは士織ちゃんに任せていくから、ちゃんと指示に従ってねー。マジ引くわー」
言って、亜衣麻衣美衣トリオが店の中に引っ込んでいく。すると。
「え・・・・っ、ちょーーーー」
店の中に残されたのは、士道、十香、八舞姉妹、そしてその他の、各クラスから選りすぐられた客引きメイドさんが10名程である。それら皆が、今し方客引き隊長ち任命された士道に目を向けてきていた。
「え、ええと・・・・」
士道は困り顔で頰に汗を垂らすと、コホンと咳払いをした。
「その、取り敢えず、皆さん、頑張ってください」
『はいっ!』
士道の声に応え、メイドさん達が一斉に礼をする。きちんとメイドは手を前に合わせた綺麗なお辞儀である。なんだかんだでちゃんと教育されているらしい。・・・・まあ、中には「おー!」と手を振り上げた十香、八舞姉妹のような者もいたのだが。
ともあれ、ここに決戦が始まった。
客層は様々だったが、背に『誘宵美九親衛隊』と刺繍が施された法被を着たファンが特に目に入った。
展示場内は開始前とは打って変わって、熾烈な客引き合戦が開始され、あちこちで威勢の良い声が響き渡り、非常に活気に満ち溢れている。
「さあ、入っていくのだ、楽しいぞ! 美味しいぞ!」
≪ウム。元気一杯で善いぞ〈プリンセス〉≫
「くく・・・・ここより先は地獄の釜ぞ。常人たるぬしらに耐えられるかな?」
≪〈テンペスト〉。中々個性的で善いが、もう少し客引きらしい台詞を言わなければ・・・・≫
「掲示。こちらがメニューおよびシステムです」
≪〈ストーム〉。もう少し愛想よくすれば善いぞ。元々見目麗しいのだからな≫
カフェ入り口の右側で十香が元気よく(あまりメイドさんぽくはなかったが)声を上げ、左側で耶倶矢が客引きなのか客除けなのかよく分からないことを言い、夕弦がメニューの書かれたプラカードを掲げ、ドラゴンが3人を好評していた。そんな十香達の呼び込みもあってか、メイドカフェには男女問わず、次々と多くの人が入っていった。
「おお・・・・盛況じゃないか」
≪貴様は何もしていないな。この役立たずの愚図メイド≫
「(何で俺には辛口毒舌なんだよっ!「バシンっ!」アギャンッ!!)」
相変わらずドラゴンの精霊達への態度と、自分への態度の温度差に文句を言うが、尻尾ド突きで黙らされ、痛み悶えながら、改めて周囲の店と比べてみても、なかなかに好調な滑り出しだった。少なくとも士道の位置から窺い知れる店の中で、この店ほど人の集まっている場所は見受けられない。
と。
「・・・・なかなか調子がいいみたいじゃないか、シン」
会場からどれくらい経った頃だろうか、前方から、眠たげな声が聞こえてきた。
「ああ、令音さん来てくれたんーーーー」
と、士道は自然な調子で振り向きーーーーそのまま固まった。
その場にいたのは予想通り令音だった。そこまでは良い。・・・・だが、その令音が麦わら帽子を被った少女とプラモンスター達を連れている状況が加わったなら、話は変わってくる。
「あ、あの・・・・」
麦わら帽子の少女ーーーー四糸乃が頬を染め、何か見てはいけないものを見てしまったような様子で視線を逸らす。
次いで彼女の左手のパペット『よしのん』が、カラカラと頭を揺らしながら甲高い笑い声を発し、プラモンスター達は笑っているように身体を震わせた。
『やっははは、もしかして士道くん?似合うじゃなーいのー。もういっそ下取って上つけちゃいなよー。需要あるよー? 皆もそう思うー?』
『ピィ! ピィ! ピィ!』
『ブルルルル』
『キュァ! キュァ!』
『ゴゴゴ・・・・』
「よ、四糸乃・・・・」
「・・・・き、来ちゃいました」
士道が掠れた声で名を呼ぶと、四糸乃がそう答えてくる。
確かに、四糸乃は先日士道自身が誘っていた。何もおかしなことではない。
だが、どうやら女装の件は聞かされていなかったらしい。四糸乃は気まずそうに視線を戻し、士道の全身を上から順に眺めてくる。
≪・・・・すまんな〈ハーミット〉、とんでもなく見苦しい物体を見せてしまって≫
「い、いえ・・・・えっと・・・・そ、その・・・・可愛い、ですね」
言って、ぎこちない笑みを浮かべてくる。士道は後ろを向いてしゃがみ込み、メニュー表で後頭部を覆った。
「ああっ! やめて見ないで! 優しい言葉をかけないで! 汚れた私を見ないでぇぇぇッ!!」
女言葉を止めるわけにもいかず、士道は悲鳴じみた声でそう叫んだ。
何故だろうか、ドラゴンの絶対零度の視線や、十香や折紙、八舞姉妹に女装姿を見られた時にはそこまででもなかったのだが、四糸乃の爽やかな青空か美しい海のように澄み切った清らかな双眸に見つめられると、何だか自分がとてもいけないことをしているような、汚れた存在であるような錯覚に襲われるのだった。
≪本当に申し訳ない〈ハーミット〉。こんなのを見せるために祭に連れてきた訳ではないのにな・・・・≫
「あ、あのっ、私はそんな・・・・」
誠心誠意に謝意をのべるドラゴンに、四糸乃はオロオロとしだす。
「・・・・いいかい四糸乃。勘違いしてはいけない。シンはとても崇高且つ誇り高い重要な任務に従事しているんだ。決して彼の趣味ではないんだよ」
すかさず令音がフォローを入れてくる。四糸乃がキョトンと目を丸くした。
「そ、そうなんですか・・・・?」
「・・・・ああ。ここ最近は女装にも慣れて、グロス塗る時の仕草が女性にしか見えなくなってきたが、決して彼が好きでやっている訳ではないんだ」
「令音さん! フォローになってませんよ!?」
「・・・・そうかい?」
不思議そうに首を傾げる令音に、ガックリと肩を落とす。
・・・・と言うか、いつの間に手慣れてしまったのか、『〈仮面ライダー〉は女装趣味』だなんて、不名誉極まりない称号を得ないように注意しようと心に決め、四糸乃に改めて向き直る。その際、プラモンスター達が笑っているような挙動を見え、泣きそうになった。
「入っていくんだよな? ちょっと混んでるけど、今なら並ばず入れると思うぞ?」
「あ・・・・は、はい」
「・・・・では、邪魔させてもらおうかな」
言って、令音が四糸乃達を連れて、メイドカフェに入っていこうとする。
と、そこで四糸乃がクルリと振り返ったかと思うと、
「あの・・・・ステージも、楽しみにして、ます」
そう言って、ぐっと右手を握ってみせた。
「おう、見ててくれ。頑張るよ」
言って、麦わら帽子越しに頭を撫でると、四糸乃はくすぐったそうに、そして恥ずかしそうに身を捩るが、帽子のつばで表情が見とれなかった、
四糸乃がペコリとお辞儀をし、カフェに入っていく。士道達はその背を見送りながら小さく笑った。
思わぬところで勇気をもらってしまった。これは何が何でも勝たなくてはなるまい。
≪その格好が全てを台無しにしているがな≫
「(ドラゴンさん、情緒って知ってます・・・・?)」
新たに決意しようとするが、ドラゴンの一言で泣きそうになる士道だった。