デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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天央祭・美九

ー真那sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・まさかここまでやるとは」

 

≪≪≪≪≪ワァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!≫≫≫≫≫

 

服装はボーイッシュにし、ポニーテールの髪を帽子に隠し、伊達メガネをかけた変装をした真那は、天央祭の人混みに紛れて、メイド姿となった兄・士道を見て、見るに耐えないと言わんばかりに片手で顔を覆い俯く。

地味なスーツ姿にこれまた伊達メガネをかけた仁藤も半眼で呆れており、真那の体内のキマイラズに至っては、大爆笑していた。

 

「兄様・・・・。まさかそんな趣味があったとは・・・・真那はこれから、兄様とどんな顔をして接すればいいのでやがりますか・・・・?」

 

「まぁ天央祭は文化祭のようなモノですからね。クラスの出し物故に、って事でしょう?」

 

「そうでやがりますかね・・・・」

 

「そうです・・・・っ!」

 

突如仁藤は、人混みの中にいる腕を組んでいる女性カップルに目を向ける。

薄く化粧を施し、茶色の長髪を1つにまとめて前に垂らし、レザースーツを着用し、成熟した女性のプロポーションをし、蠱惑的で、嗜虐的な雰囲気漂う仁藤と同い年の二十代中盤の女性。

もう1人の女性は、紫色の長髪をストレートに伸ばし、レザーワンピースに身を包んだこれまたスタイル抜群の無表情な二十代前半の女性だった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

仁藤はその女性カップルの内、茶髪の女性を驚愕したような目を向ける。

 

「仁藤さん?」

 

「っ!」

 

仁藤は真那に声をかけられ、正気に戻った仁藤。

 

「真那さん、あの二人の女性の1人を見てください。紫色の髪の方です・・・・」

 

「・・・・はっ、あの女の人は」

 

「ええ。追いましょう」

 

二人は人混みの中を進む女性カップルの後をつける。

 

「(みんな、あの二人は?)」

 

≪うむ。匂いがする≫

 

≪ファントムだぜ≫

 

≪しかも、二人ともよ≫

 

≪やっぱりあの女の人は・・・・≫

 

≪んも・・・・≫

 

「・・・・仁藤さん」

 

「やはりそうですか・・・・」

 

真那と仁藤は険しい瞳で眼前を歩く女性カップルを睨んだ。

 

 

 

ー士道sideー

 

四糸乃と令音がカフェ内に入ってから数分後。

突如として集団が現れたのと同時に、人混みがモーセの海割りのように左右に割れ、その中心を、竜胆寺女学院の制服に身を包んだ1人の少女が、周囲に同じ制服を着た女子高生です一団が悠然と歩いてきた。

よく見ると、テレビカメラを抱えた撮影クルーまでその少女を追っていた。

 

「誘宵・・・・美九」

 

見間違いようのないその名を、小さな声で発する。

士道の声が届いたのか、美九が士道に気づいたように眉の端を動かし、ゆったりとした足取りで、メイドカフェに近づき、士道の前に立ち、ニィッと唇の端を上げる。

 

「おはようございます、士織さん。随分ご盛況のようですねー」

 

「・・・・それはどうも。そっちには及ばないけどな」

 

人混みに囲まれた士道は、落ち着かない心地を何とか押さえてそう返す。

 

「ふふ、似合ってますよー、その格好。良いですねぇり士織さんが私の『モノ』になったら、ずっとそのお洋服でいてもらうのも面白いかもしれませんねー」

 

美九の発言に、周囲の人はざわめき、テレビカメラも美九と士道を交互に撮り始めたのが鬱陶しかった、美九は周囲のテレビクルーに向けて『声』を発した。

 

【ーーーー“邪魔です。何処かへ行って下さい”】

 

「・・・・!」

 

≪む・・・・!≫

 

その瞬間、人だかりが辺りに散らばり、テレビクルーだけでなく、取り巻きの生徒まで立ち去り、美九1人になる。

精霊の力であろう『声』だった。ドラゴンは散らばった人達の中にいた“三人”を見るが、士道はそれに気づかう余裕なく九を見据える。

 

「ふう、ようやくスッキリしました。もっと早くこうしておけば良かったです」

 

「・・・・それはそれは・・・・それで? 一体何の用だってんだ? 敵情視察にしては目立ち過ぎじゃないか?」

 

「そんなんじゃないですよー。ちょっと、お誘いにきたんです」

 

「お誘い・・・・?」

 

「はいー。ちょっと士織さんと、デートしようかと思いましてぇ」

 

「・・・・は?」

 

美九の発言に、士道は意味が分からず、目を見開いた。

 

「デー・・・・ト? っ!」

 

≪〈プリンセス〉達は気づいていないから安心しろ。〈ディーヴァ〉の姿が見えた時に、客引きに行って貰っている≫

 

ドラゴンは十香と耶倶矢と夕弦が美九にロックオンされないように、美九から遠ざけたようだ。士道はホッとしてから、美九に視線を戻す。

 

「ええ。駄目ですかー?」

 

「いや、それは・・・・」

 

士道はしばし悩んだ後に、口を開く。

 

 

 

ー折紙sideー

 

陸上自衛隊天央駐屯地第二格納庫では、不自然な沈黙に満ちていた。

深夜でもないのに、AST隊員も整備士の姿もなく、まるで、誰かの意図によって人払いされたかのようだ。

そして、鍵がかかっていない裏口から庫内に侵入しと折紙は、目的の場所に目を向け歩を進める。

 

「・・・・・・・・」 

 

乾いた足音が辺りに反響すると同時に、折紙の動悸が高まり、深呼吸で静める。

その服装は来禅の制服でも、今日の天央祭のステージで着る予定だった衣装でもない。ASTの基本装備で、折紙の意識を最大に研ぎ澄ませる戦闘装束、黒の着用型接続装置<ワイヤリングスーツ>だ。

空間震が起こった訳でも、訓練でもないのに折紙がそれを身に纏っているのは、別の理由からだ。

 

「・・・・・・・・」

 

無言のまま、格納庫のとある区画に向かうと、セキュリティが全て切られていた。これでは何者かが格納庫に侵入し、CR-ユニットを持ち出しても、誰も気付かない。何ともおあつらえ向きな状況である。

 

「・・・・士道」

 

折紙は眼前に聳えるユニットを見上げて、喉を湿らせながら愛しい人の名を呟く。

燎子の『独り言』を聞いて後、折紙はジェシカ達の行動を探ろうとすると、他の隊員達がみんな、燎子と同じように『独り言』を呟き、あの時言葉を濁したミリィも、後で電話をかけたら愚痴交じりにペラペラと事情を話してくれた。どうやら燎子達も今回のジェシカ達のやり方に不平不満を持っていたようだ。

ーーーーそして、その作戦要項を聞くと、折紙は戦慄した。

精霊の十香は兎も角、士道が狙われている。〈アンノウン〉である魔獣ファントムと戦い、十香達精霊を守る存在、識別名称〈仮面ライダー〉である疑いがかけられている。

この事がDEMインダストリーに伝わってしまったのなら、捕獲対象になるのも頷けた。

そして彼がDEMインダストリーに捕獲されてしまったら、一体どんな目に合うか容易に想像できる。

 

「・・・・させない」

 

折紙は低い声で呟き、目の前に安置された人間の英知の結晶ーーーー戦術顕現装置搭載<コンバット・リアライザ>ユニットに向けて、足を一歩踏み出そうとするが僅かに逡巡する。

恐らくCR-ユニットを無断使用すれば、今度こそ懲戒は間違いない。記憶処理を施されたのち隊から除名処分され、一生顕現装置<リアライザ>に触れられなくなるだろう。

それは即ち、折紙の両親を殺した精霊への復讐の手段を失う事だ。

士道は〈仮面ライダー〉として強くなっている。ジェシカ達が相手でも対処できるのだから、こんなリスキーな事をする必要はないと、頭を掠める。

 

「・・・・っ」

 

一瞬足を止めた折紙だが、ギリっと奥歯を噛みしめそんな自分の理性を黙らせ歩を進める。

修学旅行の際、どんどん強くなっていく士道に対して、何もできなかった自分自身への無力感が意識を満たした。

あの時、顕現装置<リアライザ>も、CR-ユニットを持たない折紙は何もできなかった。

だがーーーー今は、違う。

 

「今度こそ・・・・守ってみせる」

 

たとえこの行為によってASTを追われる事になろうとも、士道に危害を加えさせる訳にはいかない。

両親を失った折紙の、“最後の心の拠り所を”、失うわけにはいかない。

ユニットの端子に手のひらを触れさせ、認証を開始させると、低い駆動音とともに、その金属塊は最強の兵器へと変貌する。

 

 

 

ー士道sideー

 

メイドカフェを十香達に任せた士道は、美九との文化祭デートに繰り出した。

その際、ドラゴンは十香の接客をフォローする事と、“色々と準備”をすると言って、不参加するとの事。そしてその際、

 

≪また感情に流されて迂闊な事を言って面倒な状況をさらにややこしくするんじゃないぞ。ま、言ったところで貴様には、『寝耳に水』に『馬耳東風』と『糠に釘』、さらに『暖簾に腕押し』を地で行く低能脳ミソには無駄な行為だろうがな≫

 

「(はぐぅ! ぬぅ・・・・!!)」

 

などと、ある意味職人芸の域に入る毒舌を忘れていなかったが。

美九とのデートは、最初はクレープを食べ合いをし(途中で『はんぐり~』の店長と店員さんを見かけたが、美九はおぞましいモノを見る目で近づくのもイヤなのか避け、女装姿を見られたくない士道も正直に安堵した)。

次に射的や簡易お化け屋敷などが並んでいるエリアにつく。

 

「なんでまた、こんな時に俺を誘ったんだ?」

 

「だって、今日の結果が出たら、士織さんは“私のモノ”になる訳じゃないですかー。だから今の内に、“私のじゃないレアな士織さん”を味わっておこうと思いましてー」

 

「・・・・・・・・」

 

美九の中では既に、自分の勝利を確信しているようだ。士道はギリと奥歯を噛み、鋭い視線を美九に向ける。

 

「お言葉だけどな、俺達は今日、本気でお前に勝つつもりだ。そっちこそ、覚悟は決めておいた方が良いんじゃないのか?」

 

「ふふふー、できますかねぇ?」

 

「約束は守って貰うぞ」

 

「わかってますよー。士織さんこそお忘れなく」

 

士道の言葉などプレッシャーにならない余裕の態度の美九に、士道は調子が乱される。

と、その後輪投げで士道の要望のぬいぐるみを取ろうとしたが失敗し、またも『お願い』を使ってぬいぐるみを貰い、士道に渡すが、士道はそんなズルで貰えないと断る。

しかし美九は「自分が貰えるなら、あの子も嬉しい」と言った。

目の前の少女は、自分の行いを悪いと思っていない。士道にぬいぐるみをプレゼントしたい欲求に従って、自分にできて当然の手段を使った。

 

【『〈プリンセス<十香>〉達がそうであるように、ヤツも何かしらの理由があって、あのような価値観を持ち、かつ男嫌いになったのではないか?』】

 

ドラゴンの言うように美九は、この『声』によって人間を自由に操れてしまう事が問題だった。

 

「大丈夫ですよー。どうせ人間なんて、私の駒兼玩具なんですから。士織さんが気にする事なんてないんです。だって士織さんは私が直接認めてあげた“特別な存在”なんですよ? 有象無象の人間なんて、好きにすれば良いんです」

 

「・・・・・・・・」

 

屈託のない瞳で言う美九に、士道は苦々しく拳をグッと握った。

この少女、誘宵美九は、決して悪い子ではない。ただその能力ゆえ、価値観がネジ曲がってしまっているだけだ。

時間はかかるだろう。労力もかかるだろう。だがそれでも・・・・十香達と同じように、皆と共存できる可能性は十分にあった。

その為にはーーーー何としても彼女の霊力を封印しなければならない。

彼女を普通の人間と同じ場所に立たせなければ、彼女はずっとこのまま、人間が『駒』か『玩具』くらいしか見れないままなのである。そんなのは・・・・哀しすぎた。

 

「やっぱり、俺はお前に勝つよ。・・・・お前に、『人間』と話をさせるために」

 

「人間と・・・・って。もういっぱい話してますよー? 可笑しな事を言うんですねー」

 

「今は分からなくていい。だけど、覚えておきな。人間ってのは、お前の『駒』や『玩具』に収まってくれるほど、従順で都合のいい奴らじゃないって事を。『希望』にだってなれるんだってな」

 

『ウィザードリング』を着けてないが、拳を美九に突き出した。

 

「・・・・何言ってるんです?」

 

士道の言葉に、美九は嘲笑を浮かべる。

 

「人間なんて簡単なものですよ。どうにだって操れるんです。士織さんも、あまり気をかけ過ぎない方がいいですよー? あれは愛玩するくらいしか使い道がないんですから」

 

「はん、人間を舐めるなよ。何でも思うように行くと思ってたら足をすくわれるぞ」

 

「へぇー・・・・」

 

美九は興味深そうに目を細める。

 

「じゃあ、試してあげましょうかー」

 

「・・・・? どういう事だ」

 

不審そうに問うが、美九はそれ以上答えず、

 

「うふふー、じゃあ、ちょっと名残惜しいですけど、今日のデートはここまでにしましょうか。ステージで待ってますよー。・・・・士織さんがステージに立てたらの話ですけど」

 

そして踵を返して去っていく美九に、士道は怪訝そうにその背を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・・っ、アイツ・・・・!!」

 

が、その数時間後。今度はステージに向かう美九の背をステージ裏の控え室で、悔しげに歯噛みして睨み付ける。

理由は簡単、バンドメンバーの亜衣麻衣美衣トリオの3人が、先ほどの美九の『お願い』によって、ステージを出るのをやめると電話で言ってきたのだ。

折紙も美九の毒牙にやられたのかと、電話を掛けるが出なかった。

 

≪貴様な。あの女はどう見ても“目的の為なら手段を選ばない人種”だろうが。正々堂々と勝負してくれると思っていたのか? だから貴様は『善意優先で相手を判断するお花畑な脳ミソ』なのだ≫

 

「ぐぅっ・・・・!!」

 

ドラゴンの毒舌に士道は苦しげに歯噛みする。まさか美九がこんな手段を用いてくるとは思わなかった。

ドラゴンにそれを言ったところで『人を見る目が無いからな』と吐き捨てられるだろうが。

 

≪だが安心しろ。低能な貴様がどれだけ頭を悩ませても、その低いシナプスでは良案が浮かぶわけではないのだからな。既に我が手は打ってある≫

 

「えっ? それって・・・・?」

 

≪丁度いい。〈ディーヴァ〉の実力でも見てこい。どうせ貴様ごときがこんな所でウンウン唸っていても、出てくるのは精々尻から出てくる排泄物くらいだろうからな≫

 

「・・・・分かったよ・・・・!」

 

本当に士道にまるで容赦しないドラゴンに怒鳴りたい気持ちを押さえて、十香と共にキャットウォークのような通路から美九のステージを眺める。

そしてーーーー。

 

「・・・・すげえ」

 

「うむ! 凄いな!!」

 

圧倒的だった。

衣装も、ダンスも、バックダンサーも、演出も、果てはサイリウムを振る観客までも、全てが完全調和しているような完璧な空間だった。

途中、士道から通信で美九の妨害をやり返そうと、琴里達〈ラタトスク〉が妨害工作として証明と曲をプツリと途絶えさせた。

がーーーー。

 

「ーーーー〈神威霊装・九番<シャダイ・エル・カイ>〉!」

 

その声と同時に、淡い光が美九の身体に纏わり付きーーーー光のドレスを形作っていった。

光が死んだこの空間で、彼女だけが輝きを放っていった。

 

《まさか・・・・霊装を顕現・・・・ッ!? こんな所で!?》

 

≪〈イフリート〉の姑息な妨害も難なく攻略したか≫

 

霊装という精霊の盾と城の鎧も、彼女という存在を引き立てるためのドレスであった。顕現された霊装は、観客達には大掛かりな演出と受け取られ、会場を包む歓声がより一層大きくなる。

 

「ーーーー上げていきますよー。ここからが本番です!!」

 

美九はマイクも無しに、会場中にその澄み切った声を響き渡らせた。

それに応えるように、再び会場中が熱狂の渦に沈む。

そこからはもう、誘宵美九の世界だった。

スピーカーは死に、照明も消え、マイクもアンプもない。

それなのに、美九の演奏は、声は、その姿は、会場の隅々にまで染み渡った。

先ほどのアクシデントの騒動は消え、全てはーーーー演出。美九を一層際立たせ、その声を一層響かせる。

全てが美九の存在感に呑まれる。

彼女は、完璧に、圧倒的なまでにーーーー『アイドル』だった。

 

≪・・・・・・・・・・・・ふん≫

 

が、ドラゴンだけは、この誘宵美九が支配する空間の中で、冷めた目で美九を見据えて、くだらんと謂わんばかりに鼻で息を吐く。

 

 

 

 

 

美九が両手を広げると同時、曲が終わる。

今までよりも一層凄まじい大歓声が、会場を包み込んだ。

 

「ーーーーふふ、ありがとうございます」

 

額に浮かんだ汗を拭いながら、美九がぺこりとお辞儀をする。すると今度は割れんばかりの拍手が、ステージから去っていく美九を祝福した。

 

「・・・・・・・・」

 

「うむ、凄かったな!」

 

士道が無言で額に手を置き、十香が屈託のない感想を述べる。

琴里達の妨害も利用し、逆に自分の存在感を盛大に証明した。〈ラタトスク〉の完全敗北だ。

控え室に戻った士道は、圧倒的な美九のステージを見て、放心状態となった

 

「どうしたのだ、シドー。元気がないと勝てるものも勝てなくなってしまうぞ?」

 

「・・・・そうだな」

 

力無い笑みを浮かべる。十香は今ひとつその意味が分からない様子で首を傾げた。

いや、十香の言う事は全く正しいのだ。相手がどんなに素晴らしきパフォーマンスをしたからといって、それに呑まれてしまっては、勝負以前の問題である。

だが、どんなに振り切ろうとしても嫌な予感が晴れないのだった。歌の方は口パク案という代案があったが、バンドメンバーがいないのだ。

と、その時、控え室の扉が開かれたかと思うと、俯く士道の頭上に、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「くく、天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、悪を倒せと我を呼ぶ! 我は颶風の御子! 八舞耶倶矢!」

 

「参上。花道、オンステージです」

 

「耶倶矢!夕弦!」

 

十香が驚いたように目を丸くし、2人の名を呼び、士道もバッと顔をあげると、メイド服に身を包んだ八舞姉妹がいた。

 

「2人とも・・・・なんでこんなところに」

 

士が聞くと、2人はぐっと腕を組んで見せた。

 

「くく、ドラゴンから聞かせて貰ったぞ。どうやらメンバーが足りなくて困っているようではないか」

 

「応援。もしよろしければその役、我々に任せてはいただけませんか?」

 

「え・・・・? じ、じゃあ、ドラゴンが言ってた事って・・・・」

 

≪ああ。以前から〈ベルセルク〉達がこれまでやってきた勝負事の中に、『第72試合 嵐を呼ぶドラマー対決』と『第84試合 ベストベーシスト賞対決』って言うのをやってたらしくな≫

 

「肯定。ちなみに前者は耶倶矢が、後者は夕弦が勝利しました」

 

そういえば八舞姉妹の2人は、士道と出会う遥か前から、二人で何度も対決を繰り返していた。それもただ殴り合うだけの戦闘に飽きたので、様々な勝負を行っていたと聞いてはいたが・・・・。

 

「で、でもな「バシンッ!」いてぇ!」

 

それでも不安を口走る士道に、ドラゴンの尻尾ド突きが炸裂する。

 

≪脳足りんの分際でグチグチと煩い。・・・・しかたない、論より証拠だ。〈テンペスト〉、〈ストーム〉、見せてやれ≫

 

ドラゴンからの念話を受け取り、耶倶矢がドラムスの前に座り、夕弦がベースを握る。

すると次の瞬間、2人が演奏を始めた。

 

「え・・・・!?」

 

思わず、そんな声を出してしまう。

一言で言うのならーーーー2人の演奏は、とんでもなく上手かったのである。

情熱的かつパワフルでありながら調和を失わず、皆を導くようにリズムを刻むドラムスに、流れるような指使いによって流麗に奏でられるベースの旋律。

素人の耳にも、凄まじさが容易に理解できるセッションだった。

 

「ま・・・・こんなものか」

 

「吐息。ふう」

 

演奏を終えた2人は歩み寄ると、パチンとハイタッチをした。

 

≪これで文句はあるまい≫

 

「す、凄いな・・・・!」

 

驚嘆する士道に、耶倶矢と夕弦が言ってくる。

 

「・・・・なあ、士道よ。我らは御主のお陰で2人一緒にいることができる」

 

「誓願。今度は是非、夕弦達に助けさせて下さい」

 

強敵の美九、そして会場は彼女のファンで埋め尽くされ、完璧なパフォーマンスをしても易々と勝利を勝ち取れるとは思えない。

だがーーーー士道はゴクリと唾液を飲み下し、耶倶矢と夕弦の手を取ると、バッと顔を上げる。

 

「・・・・おう・・・・ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーヴァンパイアsideー

 

「良いねぇ、〈ディーヴァ〉の歌声は」

 

「・・・・・・・・」

 

士ステージから離れた座席で、美九の歌を聞いていた女性カップルは、美九のステージを見ていた。

が、茶髪の女性は自分で向けられている『殺気』を感知し、紫の長髪の女性に向けて口を開く。

 

「少しゴミを掃除してくる。ここは任せるよ、『パピヨン』」

 

「(コクン)」

 

そう、彼女達は『ヴァンパイア』と『パピヨン』の人間体だった。

ヴァンパイアの人間体はステージから出ると、人気の無い通路に到着し、背後にスーツ姿の男性、仁藤功平に向けて吐き捨てるように声を発する。

 

「何のようだ? 穢らわしいゴキブリめが」

 

ヴァンパイアは侮蔑の視線を仁藤に送るが、伊達メガネを外した仁藤はゆっくりと口を開く。

 

「・・・・『ルミ子』」

 

「ん?」

 

「そこにいるのか・・・・『ルミ子』?」

 

「・・・・あぁ、“私の『ゲート』の事か?” 知り合いだったのか?」

 

「・・・・もう、いないんだな」

 

仁藤は一瞬悲しそうに目を伏せるが、すぐに懐からサイレンサー付きの銃を取り出し、ヴァンパイアに向ける。

 

「ヴァンパイアファントム・・・・! これ以上、“俺の親友を汚すな”!!」

 

仁藤がそう叫ぶと、ヴァンパイアは歪んだ笑みを浮かべ、その姿を変貌させ・・・・。

 

パシュンッ!!

 

仁藤は引き金を引いた。




仁藤と『ヴァンパイアのゲート』の関係とは?
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