デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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お久しぶりです!
後、第75話の一部を修正しました。


ステージ上空の開戦

ージェシカsideー

 

天宮スクエア上空をライドスクエイパーに乗って浮遊している赤いメイジ・『ヴォルケーノメイジ<ジェシカ>』は、14:55ーーーー後5分で作戦開始するのを心待ちにし、ペロリと唇を舐めた。

 

「さて・・・・そろそろ時間ネ。皆、準備はいイ?」

 

《『了解<イエス・マム>』》

 

仮面の中の素顔に着けたヘッドセットから一斉に部下の声を聞き、メイジ<ジェシカ>は満足そうに頷く。

今天宮スクエア上空に展開しているのは、随意領域<テリトリー>も展開できるメイジ<ジェシカ>を含んだ第3戦闘分隊10名が変身した〈メイジ〉部隊に、遠隔操作型の戦闘人形〈バンダースナッチ〉が20機という、豪華絢爛なラインナップだ。

ジェシカ達がこの〈アンノウン(魔獣ファントム)〉と渡り合える力を手に入れる事ができたのは、〈DEMインダストリー〉のトップであるアイザック・ウェスコットのお陰である。

“忌々しい東洋人の小娘”が行方不明となって気分良くなっていたが、〈アンノウン〉や精霊と渡り合える力を持つ魔術師<ウィザード>がエレン・M・メイザースのみとなり、戦力ダウンが否めなくなっていた時、ウェスコットが自分達にも小娘の『ビースト』と同じ力が使えるように、注射銃で『ある薬物』を投与され、その後に〈メイジ〉へと変身する事が可能となった。メイジ<ジェシカ>は自分達にこれほどの力を与えてくれたウェスコットに信奉の念を抱いた。

これならば如何に相手がAAAランク精霊〈プリンセス〉と言えど、これ程の戦力を持てばひとたまりもあるまい。

仮面越しにメイジ<ジェシカ>はニィと破顔し、セントラルステージにターゲットである夜刀神十香が立つのを楽しみにしていた。ターゲットが現れたら、魔法で天井を破壊し、〈バンダースナッチ〉を突入させ捕捉し、攻撃を重ね、ダメージを負って弱った所を捕獲する作戦だ。

死傷者は出るだろうが、『精霊を捕らえる大義名分』と『ウェスコットの命令』の前にはステージの観客達など足元に転がる路傍の小石に等しい。

15:00となり、作戦開始のブザーがヘッドセットから鳴り響いた。

 

「ーーーーさあ、時間ヨ。アデプタス4から12は所定の位置に移動。砲撃開始。〈バンダースナッチ〉も用意ヲ。アウター1以下20機、突入に備えテ」

 

《『了解<イエス・マム>』》

 

先ほどと同じように応答が響き、メイジ<ジェシカ>の指示に従って他のメイジ達と〈バンダースナッチ〉が展開していく。

 

「さあ・・・・パーティータイムヨ」

 

言ってメイジ<ジェシカ>は、『エクスプロージョンリング』をバックルに翳そうとした。

 

 

ー琴里sideー

 

その頃、天宮スクエアから数千メートル上空に浮遊する〈フラクシナス〉の司令官である琴里は。

 

「(まさか、すでに耶俱矢と夕弦に援軍を求めていただなんてね)」

 

≪ふん。貴様らのチャチな妨害工作などあてにしていなかったからな。〈ベルセルク〉達に救援を要請していたのだ。まさか〈イフリート〉。貴様もあの〈ディーヴァ〉が正々堂々と勝負に挑むなどと、浅はかな考えをしていたのか?≫

 

耶俱矢と夕弦に助っ人を頼んだドラゴンの念話(嫌味特盛)が来て、憮然とした顔で応対していた。

隣にいる神無月が、【司令は現在ドラゴンと更新中】とプラカードを持ってクルー達に知らせ、琴里の座る司令席の周りをクルクルと回っていた。

 

「(ふん。悪かったわね。私は貴方のような陰湿陰険思考の脳細胞を持ち合わせていないのよ)」

 

≪クックックッ。“一応”、小僧のバックアップを担う組織の実働部隊の司令官なのだから、あらゆる可能性を考えておくべきではないか? “いざと言うときに役に立たない組織”にならぬようにな≫

 

「(煩いわね。わざわざそんな事を言う為に念話を送るだなんて、よっぽど暇なのかしら?)」

 

≪まぁ我は小僧の体内で〈プリンセス〉達を応援するくらいしかできんからな。とりあえず貴様らは“耳栓”でも準備しておけ≫

 

「(は? “耳栓”??)」

 

ドラゴンに言われた言葉に、琴里は訝しそうに目を細める。

 

≪これまでで分かったが、〈ディーヴァ〉の能力。おそらく『天使』の能力はーーーー『音』だ≫

 

「(『音』、ね・・・・)」

 

言われて琴里も合点がいった。

『声で相手を操る能力』と『声で相手を攻撃する能力』。これらは『音』に関連した能力である。

ドラゴンの言葉に従うのは、か~な~り! 癪だが、一応用意しておこうと指示を出す前に、目障り過ぎる神無月に蹴りを入れたその瞬間ーーーー。

〈フラクシナス〉の艦橋に、けたたましいアラームが鳴り響いた。

 

「一体何事よ!」

 

「レっ、レーダーに反応! 天宮スクエア上空に、ASTと思しき反応が20・・・・30!」

 

「何ですって・・・・!?」

 

メインモニタが空中の映像に切り替わると、美九と摂取した時に現れた士道や真那と同じ〈仮面ライダー〉に変身した魔術師<ウィザード>達が10名と奇妙な機械人形が20体が、天宮スクエアのセントラルステージを見下ろすように浮遊していた。

 

「コイツらは・・・・」

 

≪或美島に現れた鉄人形、確か無人兵器〈バンダースナッチ〉と、前回現れた魔法使い擬き共か。一応秘匿であるのに大胆に現れるとは、あのなんちゃって魔法使い達もなりふり構わないと言った所か?≫

 

「おそらく魔法使い擬きはDEMの手の者・・・・? それにしたって、一体なぜこのタイミングで・・・・」

 

≪もしや、最悪の可能性が出たのかもな≫

 

「まさか・・・・」

 

ドラゴンの言葉に、琴里は喉を鳴らす。

 

≪今あの場には〈仮面ライダー〉、〈プリンセス〉、〈ハーミット〉、〈ベルセルク〉、そして〈ディーヴァ〉。これだけのメンツが揃っている情報がDEMに漏れていたら・・・・≫

 

「普通に考えたら馬鹿げた可能性ね。あんな場所でドンパチなんて始めたら、夥しい死体の山が出るわよ」

 

≪DEMが貴様の言うとおり非人道的な組織ならば、そんなの事はお構いなしだろう。ASTも所詮DEMの配下組織だ。ご主人様からの命令に従っているのだろうな≫

 

「最悪だわ」

 

「司令、いかがなさいますか」

 

「・・・・放っておく訳にもいかないでしょ」

 

とは言ったものの、講ずる手段は限られている。眼下の天宮スクエアがある以上主砲も〈世界樹の葉<ユグド・フオリウム>〉を飛ばした程度では、あれほどの数を掃討するのは難しい。

そんな琴里の思案を感じ取ったのか、蹴り飛ばされた神無月が起き上がり静かに声を発する。

 

「よろしければ、私が出ましょうか」

 

「・・・・仕方ないわね。頼んーーーー」

 

と、言いかけた瞬間。再び艦橋内にアラームが鳴り響いた。

 

「!? 今度は何事よ!」

 

「天宮スクエア上空にもう一つの反応が現れました! こ、これはーーーー」

 

クルーの狼狽と同時に、モニタが切り替わり、新たな反応の主の姿を見て、琴里はゴクリと唾液を飲み下す。

 

「な・・・・まさか、あれは・・・・」

 

≪・・・・“あの娘か”≫

 

ドラゴンは視線を鋭くする。

 

 

 

 

 

ージェシカsideー

 

「なッ!?」

 

『エクスプロージョンリング』を翳そうとした瞬間。前方の空がカッと輝くと同時に、仮面の中に付けたヘッドセットから熱源反応を示すアラームが鳴り響き、メイジ<ジェシカ>は緊急回避を取ると、メイジ<ジェシカ>がいた場所を、凄まじい魔力の奔流が通り抜け、〈バンダースナッチ〉の1機が巻き込まれ、上半身が吹き飛ばされ、その馬鹿げた威力に、思わず顔を青くした。

〈バンダースナッチ〉が張り巡らせている随意領域<テリトリー>は魔術師のよりも精度は低いが、その不可視の壁をまるで紙のように撃ち抜くなど、常識的にあり得ない話だ。

 

「な、何事ダ!」

 

《ぜ、前方に高エネルギー反応あり!》

 

《精霊・・・・ではありません。生成魔力の反応です! こ、これは・・・・まさかーーーー》

 

前方に広がっていた雲の合間から、戦車か城とでも形容すべき“ソレ”は現れた。

そしてその異形の兵器を装備した、1人の魔術師の姿が見て取れた。

 

ーーーー陸上自衛隊ASTの魔術師・鳶一折紙1等陸曹である。

 

「ァ・・・・」

 

しかし、見覚えのある顔を見ても、メイジ<ジェシカ>は身体の震えが収まらず、呆然と声を発する。

 

「馬鹿ーーーーな、まさか・・・・〈ホワイト・リコリス〉・・・・?」

 

その『怪物』の姿を、メイジ<ジェシカ>は母国で1度だけ目にした事がある。

【精霊を単独で殲滅する為には、一体どれほどの戦力が必要か】

そんな頭でっかちの情報部が机上の計算だけで算出した数値を元に、愚直な開発部が作り上げてしまった『最強の欠陥機』。テストユーザーをわずか30分の駆動で廃人にしてから、DEMの力とユーモアの象徴として展示される事になったオブジェのような代物。

陸自に配備されたソレを勝手に持ち出した挙げ句、精霊を仕留める事もできずに拘束された間抜け極まる魔術師<ウィザード>がいると報告は受けた。

その報告を聞いて、ジェシカは当然と嗤った。優れたDEMの魔術師ですらマトモに運用できない装備を、たかがASTの跳ねっ返り者が調子に乗って動かしてみたは良いが、何をする事も出来ずにすぐ活動限界を迎えて気絶した・・・・と言った所だろうと思っていたがーーーーそれならば、メイジ<ジェシカ>の目の前に浮遊しているそれはーーーー

 

「何故・・・・貴様は〈リコリス〉を動かしていル・・・・ッ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

折紙は何も答えず、無言のままクイと顎を上げた。

同時に、左右の二門備えられていた巨大な砲門が、ジェシカ達の方を向く。

 

「くーーーー目標変更! 迎撃用意!」

 

ジェシカが金切り声を上げ、〈ホワイト・リコリス〉に魔法陣を向けたが、次の瞬間折紙が両手のブレイドユニットをブンと振り抜き、そこから光の刃が射出され、ジェシカの構えた魔法陣に直撃した。

 

「な・・・・」

 

衝撃が無い。だがメイジ<ジェシカ>はすぐに違和感に眉をひそめる。

“右手がーーーー動かない”。

見ると、右手に光の帯が絡み付いて、動きを阻害されていた。

 

「こんな・・・・ものッ!」

 

脳に指令し、随意領域<テリトリー>を局所強化して振り払おうとするが、折紙は再度魔力砲をメイジ<ジェシカ>に向けているのを見て、慌ててを『ライドスクレイパー』を操作して逃れる。一拍遅れて、魔力の光がメイジ<ジェシカ>の随意領域<テリトリー>を掠めた。

 

「な・・・・何をしているノ! 墜とすのヨ! 早ク!」

 

ジェシカがヒステリックに叫ぶと、固まっていた部下のメイジ達がようやく我に返り、〈バンダースナッチ〉を連れて折紙を囲むように展開し、部下のメイジ達が次々と『コモンリング』でそれぞれのエレメントの玉を、〈バンダースナッチ〉はミサイルやレイザーカノンを放っていく。

“内1発の小型ミサイルが下方に逸れ、天宮スクエアの方で小さな爆発音が響いた”。

ありったけの魔法で目の前の『怪物』を打ち倒すように撃ち込んでいく。折紙を中心に抱えた巨大な〈ホワイト・リコリス〉が、爆煙に包まれた。

 

「撃ち方、止メ!」

 

120秒にも亘る集中攻撃の後、メイジ<ジェシカ>が声を上げると、部下の〈メイジ〉と〈バンダースナッチ〉が攻撃を止める。

ありったけの対精霊兵装の全方位一斉攻撃である。如何に相手が〈ホワイト・リコリス〉とは言え、ただで済む筈は無いがーーーー。

 

《な・・・・っ!》

 

《こ、これは・・・・》

 

部下の狼狽が響き、メイジ<ジェシカ>は眉をひそめてヘッドセットに手をやる。

 

「一体どうしたノ!?」

 

《身体の周囲に私のモノでない随意領域<テリトリー>が形成されてーーーーみ、身動きが取れませんっ!》

 

「何ですっテ・・・・?」

 

言った瞬間、目の前に蟠っていた白煙が、渦を巻くように周囲に散らばるとその中から、後部のウェポンコンテナを全展開し、幾百もの対精霊弾道を覗かせた折紙が姿を現した。

 

「・・・・ッ! 退避!!」

 

叫ぶが遅い。コンテナから一斉に、夥しい数のミサイルが放たれ、動きを止められたメイジ達や〈バンダースナッチ〉達に向かっていく。

白煙を噴きながら何発もの弾頭を放つその姿は。

ーーーーまるでそれは、白い彼岸花<リコリス>の花弁のように見えた。

 

《くあ・・・・ッ!?》

 

《た、隊長ォォッ!!》

 

ヘッドセットに搭載されている通信機から、部下達の悲鳴が響く。今の攻撃で撃墜されたのだろう。数名のメイジと〈バンダースナッチ〉が装備から煙を噴いて地面に落下していく。

網膜に表示されたセンサーを一瞥すると、どうやら生体反応は消えていないようだが、戦闘復帰は不可能だろう。

 

今の砲撃で、全メンバーの半数近くが撃墜されたようだ。メイジ<ジェシカ>は仮面越しに大きく舌打ちをすると、新たな通信回線を開いた。

 

「ーーーー非常事態ダ! 増援を求ム!」

 

だが、しばらく経って返ってきた通信はーーーー。

 

《・・・・あー、この回線は、現在使われておりません。日下部燎子は上官の命令によって現場にすら出向けませんので、もう一度お確かめの上発信してください》

 

なんて、明らかに燎子の声でそう返してきた。

 

「何をこんな時にふざけているノ! 貴女の処の部下が暴走しているのヨ!?」

 

しかし、燎子は同じ言葉を繰り返すばかりで取り合おうとしない態度から、メイジ<ジェシカ>は察した。

 

「・・・・貴女の差し金カ。覚えてなさいヨ。この件は問題にさせてもらうからネ」

 

メイジ<ジェシカ>が恨みがましく言うと、燎子との回線を閉じ、また別のチャンネルを開いた。

あまり使いたくない手段だがーーーー仕方ない。作戦失敗よりはマシだ。

 

「こちらアデプタス3! エマージェンシーでス! 至急増援をお願いしまス!」

 

メイジ<ジェシカ>は迫り来るミサイルをかわしながら、金切り声を上げた。

DEMインダストリー日本支社。恐らく今、“アイザック・ウェスコットがいるであろう場所に向かって”。

 

 

 

 

 

ー真那sideー

 

仁藤がヴァンパイアを追い、真那は1人となったパピヨンを監視していた。

相手がファントムならば自分が行くと言ったが、ステージを見に来た観客に危害が及ぶと仁藤に言われ、渋々こちらに残っていた。

 

≪なぁ真那、あの、2時の方角にいる女の人だけど・・・・≫

 

「ん?」

 

カメレオンに言われた方向にいる女性を見ると、横顔だけだが、何処か見覚えのあった。

 

「(誰でやがりますかね?)」

 

≪ほら! 行方不明になっていた女性だよ!≫

 

「っ!」

 

カメレオンに言われ、ハッとなった真那はスマホを操作し、『女性失踪事件』の行方不明者のリストに目を走らせると、確かに視線の先にいたのはリストに入っていた女性だった。

 

≪ちょい待ちちょい待ち! 真那! 視界をオイラに貸してくれ!!≫

 

「(ファルコ? 分かったでやがります)」

 

真那は目を閉じてまた開くと、その目は橙色になる。体内のキマイラズに感覚を貸していると、目はそのキマイラズのカラーとなる。

ファルコに視覚を貸すと、上から周囲の状況を立体的に見下ろすような視界になり、ファルコは視線を真那の周囲、それこそステージ周辺を見ていた。

 

≪おいよいよいよい、なんだこりゃ!?≫

 

「(どうしたでやがりますか?)」

 

≪行方不明の女の人達が、ステージ周辺に全員いやがるぜ!!≫

 

「(っ!)」

 

ファントムが関わっている可能性がある失踪事件の女性達がステージ周辺にいる。真那は嫌な胸騒ぎが巻き起こった。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

「(おい、ドラゴン。どうしたんだよ?)」

 

≪・・・・いや、何でもない≫

 

「(あのなぁ、こっちは本番なんだから、ボーッとしないでくれよ?)」

 

≪ふん。低能の分際で余計な事に気がそれて、すぐに精神が乱れて動揺するチキンハートの貴様の方が、〈プリンセス〉達の足を引っ張らないか気が気でないわ。この歓声を聞いて鼓動の音がうざったくて堪らんわ≫

 

ドラゴンの言う通り、士道は緊張で喉が渇き、心臓が早鐘のように鼓動している。しかしそれは仕方無い。何しろ士道は今、ステージ袖で出番を待っている状態だ。

ちなみにバンドメンバーの衣装は先ほどと同じメイド服だ。

本当のステージ衣装は亜衣麻衣美衣トリオが持ったまま戦線離脱してしまったからだ。ーーーーだがそこで、全員が同じ格好をしている事に気付いたのだ。

 

「まあ・・・・衣装と言えば、衣装・・・・か?」

 

≪かなりの色物だがな≫

 

何て言っていると、前の学校がジャズバンドの演奏を終え、一斉に礼をする。すると再度、パチパチと言う拍手の音が響いた。

 

「(あぁ~緊張する・・・・)」

 

≪まったく細っこい貧弱で軟弱な精神をしおって、〈プリンセス〉達を見ろ≫

 

ドラゴンに言われてチラッと後方を見ると、ソコにはまるで緊張の色をしていない十香と耶倶矢と夕弦がいた。

 

「見てくれ耶倶矢、夕弦。私はこれを任されたのだ!」

 

「ほほう、十香の楽器は『清廉なる音色を打ち鳴らす鈴輪<タンバリン>』か」

 

「納得。とてもお似合いだと思います。皮肉ではなく」

 

「(コイツらの鋼のメンタルが羨ましいよ・・・・)」

 

≪だったら少しは見習え、この細い針金のメンタルの脆弱生命体≫

 

等と駄弁っていると、琴里が不自然な沈黙をしているのを訝しそうにしていた。

ちなみに今士道の右耳に〈ラタトスク〉のインカム、左耳に音取り用のイヤーモニターを装着していた。歓声に紛れて音がとれなくなってしまうのを防ぐ為の必須装備であるが、両耳を塞いでしまうので少し耳が遠くなった感じだ。

 

「(なぁドラゴン。琴里に何かあったのか?)」

 

≪余計な事に気を取られるな。貴様は目の前のステージにそのすぐ横にそれる集中力を全力全開にしておけ≫

 

「(なんだよ・・・・)」

 

今士道が“上空の状況”を知れば、ステージをそっちのけにして折紙の元に行くか、集中力不足で大ポカをやらかす可能性があるから、ドラゴンと琴里も黙っているのだ。

と、そこで舞台袖のスタッフが士道達に合図を発し、ステージのスピーカーから、アナウンスが流れた。

 

《ーーーー次は、都立来禅高校有志による、バンド演奏です》

 

それに呼応して、会場から拍手が聞こえる。

 

「よ、よし、行くぞ」

 

言って、士道は足を踏み出すと、十香と耶倶矢と夕弦もそれに続く。

そして、薄暗い舞台袖からスポットライトの当たったステージを出ーーーー。

 

「・・・・・・・・っ」

 

士道は思わず、息を呑んだ。

先ほど美九のステージを見た時。

今まで、舞台袖で観客席を見ていた時。

ーーーーそのどちらとも異なる感覚が、士道の全身に覆い被さった。




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