デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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暴走・美九

ー真那sideー

 

≪何やら雲行きが怪しくなったのぉ?≫

 

「兄様!」

 

誘宵美九・識別名称〈ディーヴァ〉の様子が段々不穏になり始めたのをライオンが呟いた瞬間、真那は『ドライバーオンリング』を取り出すが、その手を掴んで止める手が現れた。

真那はファントムかと思ってその手を払って後ろを振り向く。周りの観客達はステージ中央の美九の不可解な行動に目を奪われ、真那の行動を気にかけなかった。

 

「真那さん。緊急事態です・・・・!」

 

「仁藤さん、その姿は?」

 

衣服が少し破れ、ソコから僅かに血を流している仁藤功平だった。

 

「少々しくじりましてね。そんな事よりも、たった今『白い魔法使い』から連絡が入り、天宮スクエア上空にて、鳶一折紙一曹がDEMの〈メイジ〉と〈バンダースナッチ〉と交戦中、しかも、現在劣勢状態になったそうです。真那さんはそちらに向かってください」

 

「折紙さんが!? しかし・・・・!」

 

「五河士道くんが気がかりなのは分かります。しかし、ファントム達がいるこの状況で、DEMが介入してしまえば一気に泥沼になってしまいます。頼みます真那さん」

 

≪真那。旦那の言うことも一理あるよ。あの高慢ちき女共がここに来たら、無関係な人達も巻き込まれる可能性大だよ!≫

 

「~~~~~!! たくっ! 分かりました! 兄様の方は頼みやがりますよ!!」

 

真那は士道の事を気になるが、折紙の事やDEMがこの場に現れた危険性をカメレオンに説かれ、急いで天宮スクエアから離脱した。

 

「(さて、『白い魔法使い』からの情報では〈ディーヴァ〉の能力は・・・・)」

 

真那が向かうのを確認した仁藤は、誘宵美九が天使を発現させ始めたのを見て、スマホと繋がったイヤホンを取り出し耳に着けて、スマホの音楽を最大音声が聞き始めた瞬間、〈天使・破軍歌姫<ガブリエル>〉から強烈な音楽が響き始めた。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

状況は一言で言うとーーーー。

 

「≪最悪だ・・・・≫」

 

士道とドラゴンの声が重なった。美九が自身の〈天使・破軍歌姫<ガブリエル>〉が凄まじい音を発した瞬間、規則的に連なった銀色の円筒から幾重にも音が反響し、周囲に撒き散り、会場の空気がビリビリと震え、身体中に震動が伝わってきた。

 

「う・・・・っ、が・・・・っ!」

 

≪何と言う、大音量だ・・・・っ!≫

 

士道は耳を押さえ、ドラゴンも堪えるような声が漏れる。ドラゴンは〈天使〉の音に苦悶しているだけだが、士道は頭の芯を侵食するようなーーーーまるで、美九の『お願い』を何倍にも強めた感覚だった。

十数秒後。嵐のように会場を駆け巡った〈破軍歌姫<ガブリエル>〉の音が徐々に小さくなり、やがて完全に消え去った。

 

「(・・・・っ、ドラゴン。どうなってるんだ?)」

 

≪・・・・最悪中の最悪だ≫

 

士道は耳を覆っていた手を退けると、軽く耳鳴りがしたが、自分の身体に変化は見られなかった。

がーーーー。

 

「な・・・・こ、これは・・・・」

 

あまりの異常な光景に、思わず息を呑んだ。

会場にいる何千という人数の観客達が、1人の例外なく一様に直立姿勢をとり、無表情のまま身動ぎ1つせず、ステージの上に視線を送っていた。

まるでマネキン人形のような異様な光景だ。

 

≪ここまでやるとはな・・・・!≫

 

 

「美九、お前、まさか・・・・!」

 

「ふ・・・・ふふ・・・・ふ、仲間・・・・でしたよねぇ? 美しいですねぇ、素晴らしいですねぇーーーーこんなに、壊れやすいなんて」

 

美九に視線をやると、壊れた人形のようにカラカラと笑い、再び光の鍵盤を弾くと、その音に呼応するように観客達がザッと休めの姿勢をとった。

 

「ふふ、うふふ、これで、あなたのお仲間さんは、ぜぇーんぶ私の物ですよぉ? ねぇ士織さん、あなたの言う絆とやらは、私の指先1つでどうにでもなってしまうんですよねぇ」

 

「く・・・・」

 

≪ふん! 〈天使〉の力で精神を歪めるなどと下劣な手段を使っているだけの下品な小娘が・・・・!≫

 

士道が苦悶の表情を浮かべ、ドラゴンは冷めた声で言うが、美九は楽しげに微笑み、鍵盤を指で叩いた。

すると、ステージ上にいた出演者たちが士道の背後に回り、士道の両腕を拘束してくる。

 

「な・・・・、この、放せっ!」

 

もがくも、出演者達はびくともしなかった。

 

≪何をしているかこの愚図、さっさと『バインド』でコイツらを拘束してしまえ!≫

 

「(なに言ってんだよ! 相手はASTみたいな武装をしていない、操られているだけの人間なんだぞ!)」

 

≪この軟弱者が! まだそんな甘い考えを持っているのか!?≫

 

人間相手になるべく魔法を使いたくない。そんな砂糖と蜂蜜をレッツラまぜまぜしたような考えの士道にドラゴンが毒づく。

動けない士道の様子を満足げに眺め、美九が光の鍵盤を割って士道の方へ悠然と足を進めてくる。

 

「もう勝敗なんて関係ないです。約束なんて関係ないです。この世に、私の思い通りにならないことなんてあっちゃいけないんですからぁ」

 

言いながら妖しげに微笑むと、美九は士道の身体に指を這わせてきた。

 

「ひ・・・・っ!」

 

「ふふっ、士織さんも、精霊さんも、みんな、みんな私のものでーーーー」

 

熱っぽく語りながら士道の身体に触れていた美九は、士道の下腹に触れたところでピタリとその動作を止めた。

 

「・・・・ん?・・・・んん?」

 

そして首を傾げるとその場から一歩後退し、何やら今まで士道に触れさせていた手を開いたり握ったりする。

 

≪不味いな・・・・≫

 

「今の感触・・・・い、いや、そんなまさか・・・・」

 

訝しげに眉をひそめる美九は、再び指を鳴らす。

 

「か、確認してください!」

 

するとステージ上に残っていた生徒(女子)が二人が士道の両サイドから、無表情のまま士道のメイド服を剥ぎ取った。

 

「うわ・・・・っ!? な、何を・・・・!」

 

顔を赤くして叫ぶ士道に構わず、新たに現れた生徒(女子)が、士道の下の服をおろし、士道の下半身を露にした。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

≪とてつもなく見苦し過ぎる汚物を見せてしまったな≫

 

絶叫を上げた士道が、ファントムとの戦闘で鍛えられた身体能力をフルに使って押さえつけていた生徒達を振り払って慌てて服を戻す。が・・・・。

 

≪おい、面倒な事になったぞ≫

 

美九を見ると、いつの間にか士道から逃げるように遠くに立ち、世界が終わったような顔を作り、

 

 

「悪いな美九・・・・俺は・・・・男だ・・・・」

 

いつの間にか士道から逃げるように遠くに立っていた美九が、世界が終わったような顔を作り、ぷるぷる震える指と戦慄に見開かれた目を士道に向けてきていたからだ。

 

「し・・・・ッ、ししし士織・・・・さん、あなた・・・・お、おおおおおおおオト、コ・・・・ッ」

 

美九の目がぐりんぐりん揺れ、顔が真っ青になっていく。

 

≪逃げるなら今だが≫

 

「み、美九! 落ち着け! 俺はーーーー」

 

≪無駄な事を≫

 

士道は錯乱しそうになる美九を落ち着かせようと声をあげるがーーーードラゴンの言うとおり、無駄だった。

 

「うっきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーッ!!」

 

美九が歌姫に相応しくない悲鳴を上げると、再び〈破軍歌姫<ガブリエル>〉を演奏し出した。

その瞬間、ステージ上に残っていた出演者や司会者、会場にいた観客達が一斉に、士道に向かって走り出してきた。

 

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「さぁ、後悔なさいっ! この私を騙した事を・・・・ッ!」

 

怒号と足音に紛れて、美九の声に響いた。

 

≪おい、この愚図。さっさと変身してこの場を離脱しろ。それなら魔法を使う必要も無いだろう≫

 

ハッとなった士道は急いでリングを嵌めてドライバーに翳した。

 

[ドライバーオン プリーズ]

 

士道がウィザードライバーへと召喚する。

 

『フレイムウィザードリング』を嵌めて、ウィザードライバーを左手向きに変える。

 

[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャバドゥビタッチヘンシン~♪]

 

「変身!」

 

士道は『フレイムウィザードリング』を翳す。

 

[フレイム プリーズ ヒーヒー ヒーヒーヒー!!]

 

『ウィザード フレイムスタイル』へと変身した士道は大ジャンプで観客達から逃げる。

 

「ん? 何処かで見覚えが・・・・ああー! あなたメデューサさん達を殺そうとしている『邪悪な魔法使い』! 女装して私を騙そうとしていたんですね!!」

 

「イヤ、騙していたのはそうだけと、お前メデューサ達がどれだけ危険か・・・・」

 

≪っ! 小僧、避けろ!!≫

 

ウィザードとなった士道を指差して捲し立てる美九にメデューサ達の危険性を言おうとしたウィザード<士道>だが、ドラゴンからの指示に思わず回避行動を取ると、立っていた地点が突然凍りついてしまった。

 

「な・・・・!? これは・・・・まさかっ!」

 

≪最悪中の最悪な事態だ・・・・!≫

 

ウィザード<士道>が驚愕に目を見開くと、後方から聞き慣れた声が聞こえた。

 

『んー、ふふー。駄目だよー?』

 

「お・・・・お姉様は、私が・・・・守り、ます」

 

≪〈ハーミット〉と〈ハーミットの相棒〉も、〈ディーヴァ〉の〈天使〉に洗脳されたか、と言うことは・・・・≫

 

四糸乃が霊装を限定解除した姿を見て、ドラゴンは苦い声をあげると、

 

『ピィ! ピィ! ピィ!』

 

『ヒヒィーン!』

 

『キュワァ!』

 

『ゴゴ! ゴゴゴ!』

 

「っ! お前達!」

 

プラモンスター達が四糸乃を止めるように四糸乃の眼前に飛んで来て、必死に呼び掛けていた。

 

「何ですかぁ、そのガラクタは? 邪魔ですから黙らせてください」

 

「はい・・・・お姉様・・・・」

 

『悪く思わないでねー皆の衆!』

 

美九の命令に従順に従った四糸乃がプラモンスター達をまとめて凍らせ、氷の塊にした。

 

「ガーゴイル! ユニコーン! クラーケン! ゴーレム!」

 

≪己ぇ!! よりにもよって〈ハーミット〉の友達の使い魔達を! 〈ハーミット〉の手で傷つけさせるとはっ!≫

 

プラモンスター達は四糸乃やよしのんにとって大切な友達だった。そのプラモンスター達を凍らせたとは言え、四糸乃の手で危害をくわえさせた美九に、ドラゴンは怒りの声を発した。

しかし次の瞬間、凄まじい風の奔流が会場内に吹き荒れ、ウィザード<士道>の身体を大きく煽る。

 

「ドラゴン! これはまさか・・・・!」

 

≪分かりきっている事を一々くっちゃべるな!≫

 

「くく・・・・愚かな。我らが姉上様に楯突こうとは、総身に知恵が回りかねておると見える」

 

「肯定。短慮かつ無謀な行動です。お姉様には指一本触れさせません」

 

上方から、限定解除した耶倶矢と夕弦が美九の上空で制止し、巨大な槍とペンデュラムを構えていた。

 

「お、お前らまで・・・・ッ!?」

 

≪どうやら〈ディーヴァ〉の『音』は封印状態の精霊達にも効力を発揮するようだな・・・・む! おお!≫

 

「ふ・・・・ふふ、あはははは・・・・っ! なぁに、これ」

 

絶望的な心地で呻くウィザード<士道>と何かに気づいたようなドラゴンの耳に、美九の調子に乗ったような声が聞こえる。

 

「人が悪いじゃないですかぁ、士織さん。会場に精霊がこんなにいるなんて! しかも皆私好みの子達ばかり! ああ・・・・いいです、最高ですー!」

 

言って、可笑しくて仕方ないと言った様子で身を捩る。

 

「さぁ・・・・こうなったら、いよいよあなたに用は無くなっちゃいました。さっさと始末して、精霊さん達と遊ぶ事にします。ーーーーさあ、やっちゃってください!」

 

美九が光の鍵盤を一層強く叩こうとした瞬間ーーーー。

 

≪両目を押さえておけ! おいノロマ! 『ライト』だっ! 最大出力でいくっ!≫

 

「っ!!」

 

ドラゴンに怒鳴られ、脊髄反射的に『ライト』のリングを取り出して、バックルに読み込ませた。

 

[ライト プリーズ]

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突然の強烈に目映い閃光をマトモに浴びた美九は悲鳴をあげながら目を押さえて転がり、他の精霊達や観客達も目を押さえて動きを止めた。

 

「シドー、一体何が起こっているのだ・・・・?」

 

「え? 十香?」

 

≪おぉ〈プリンセス〉。無事であったかk≫

 

声がする方に振り向くと、両目を押さえていた十香がいた。

 

「十香・・・・お前、何でなんともないんだ? 四糸乃達は皆、美九に操られちまっているのに・・・・」

 

「・・・・ぬ? おお!」

 

士道の言葉に、十香は不思議そうに首を傾げたが、思い出したように手をポンッと打ってから両耳に手をやり、そしてまた、ポンッ、とそこに詰まっていたイヤーモニターを取り外した。どうやら演奏の時からずっと着けていたようだ。

 

≪不幸中の幸い、と言うのか・・・・≫

 

「それで、シドー」

 

「ああ・・・・多分、美九が皆を操ってるんだ」

 

「許せない! 許せない許せない許せない許せない許せない許せないっ!! 私に! この私にこんな事をして! なにしてるんですかっ!? さっさとあの男を殺しなさいっ!!」

 

ライトで目が眩んだ美九は、まだ視力が戻っていないのか目を押さえたまま恨みがましい唸り声をあげ、ウィザード<士道>を殺せと喚き始めた。

十香を連れてその場を離脱しようとしたその時ーーーー。

 

『麗しい歌姫を騙しておいて、逃げられると思っているのかい?』

 

≪小僧、〈プリンセス〉、避けろ!!≫

 

二人の目の前にキラキラと光る鱗粉が舞うのが見え、士道と十香はドラゴンの叫びで鱗粉から離れると、鱗粉が火花を散らして爆烈した。

 

「こ、これって・・・・!」

 

『中々見目麗しいお嬢さんだと思ったら、まさか指輪の魔法使いだったとはね』

 

ヴァンパイアとパピヨンが、ステージに現れた。

 

「ヴァンパイア! パピヨン!」

 

「むっ!」

 

[ドライバーセット! プリンセス プリーズ!]

 

ファントムである二体が現れたのを確認した十香は、すかさず〈仮面ライダープリンセス〉へと変身した。

 

『へぇ~、君が〈プリンセス〉か。なるほど、確かにお姫様と呼称されるのも頷けるほどに美しいねぇ』

 

ペロリと上唇を舌で湿らせるヴァンパイアに、プリンセス<十香>はゾッと身を震わせて身構える。

 

『そんなに怯えなくても良いんだよ。私が君に教えてあげるよ。『甘美なる快楽』をね!』

 

ヴァンパイアがそう言うと、ウィザード<士道>とプリンセス<十香>を包囲するように、何人もの女性達が現れた。

 

「こ、この人達は・・・・?」

 

『ウフフ、私の素敵な『恋人』達さ。さぁ皆、私の為にそこの有害魔法使いを始末してくれ』

 

『はい。ヴァンパイア様・・・・』

 

何の感情もこもっていない声でそう返事をした女性達は、人形のように能面で、何の感情も無いような眼差しで、一斉にウィザード<士道>とプリンセス<十香>に迫る。

 

「うぐっ!」

 

「ぬぁっ!?」

 

ウィザード<士道>は殴打を受け止めると、とても女性の細腕から出るパワーとは思えない威力に退き、プリンセス<十香>もまるで折紙のような俊敏な動きに翻弄され、蹴りを受けて少し吹き飛ぶ。

 

「どうなっているのだシドー?! この女達、まるで腕力をつけた鳶一折紙のようだぞ!? それに、このゾワゾワな感じ、まるでファントムみたいだ!?」

 

「えっ? ドラゴン、分かるか?」

 

ファントムの気配を察するドラゴンなら何か分かるかと思ったウィザード<士道>が聞くと。

 

≪・・・・・・・・なんだこの女達は? 体内から、“ヴァンパイアの気配”を感じるぞ? あのファントムが女達に何かしたようだな≫

 

「っ! ヴァンパイア! お前、この女の人達に何をしたんだよっ!?」

 

『フッ、下賎な男の分際で気づくとは、少しはその容量の有り余っている脳細胞にも僅かな知恵があったか』

 

ヴァンパイアが指をクイクイッと動かすと、女性達の1人がヴァンパイアに近づくと、ヴァンパイアの怪しい手つきで女性の身体を撫で回すとーーーー。

 

ガブッ!!

 

「「なっ!?」」

 

≪・・・・・・・・≫

 

なんと、ヴァンパイアは女性の首筋に牙を突き立て、噛みついた。

 

ズリュン! ズリュン! ズリュン!・・・・

 

女性の身体に何かを流し込むような音が聞こえると、女性の身体はガクガクと痙攣を起こすとーーーー。

 

「あ、あがぁ! あぁぁああああああ!!!」

 

女性は悲鳴を上げると、ウィザード<士道>達に凄まじい速度で向かい拳を振り下ろすが、ウィザード<士道>達は寸前で回避すると、その拳はステージの床を粉砕した。

 

「な、なんだよこのパワー!?」

 

≪なるほど。どうやらヴァンパイアは自分の魔力を女達に注ぎ込む事によって、自分の手足となる人形にしているようだな。あの女達、自分の意識は無いようだしな≫

 

「何っ!? ヴァンパイア! お前この女の人達を操っているのかっ!?」

 

ウィザード<士道>がそう言うと、ヴァンパイアは小馬鹿にするような声で返す。

 

『はっ! これだから卑賤な男は下等な思考しか持ち合わせていない。言っただろう。この女達は私の『恋人』だ。ならば私の為にその身を削って戦うのは、至極当然だろう?』

 

「っ! お前ーーーー」

 

ウィザード<士道>がヴァンパイアに声を発しようとしたその時ーーーー。

 

ドゴォォォォォォォォォン!

 

『っっ!!』

 

「うきゃんっ!」

 

ステージにいきなり、炎の塊が現れ、強烈な熱風が周囲に吹き荒れる。

その場で踏ん張った一同(視力が戻っていない美九と操られた精霊達と観客達は熱風もモロに受けて吹き飛ばされ、ステージから転げ落ちて気絶した)の目の前に、紅蓮の炎を纏ったフェニックスが現れた。

 

「ふ、フェニックスっ!?」

 

『よぉ! 指輪の魔法使いっ!!』

 

『・・・・・・・・(ニヤリ)』

 

フェニックスが現れてウィザード<士道>は息を呑み、ヴァンパイアは不気味に笑みを浮かべた。

 

≪・・・・この場は離脱するしかあるまい。おい、すぐに〈イフリート〉に連絡しろ≫

 

「く・・・・」

 

ウィザード<士道>は仮面越しでインカムを叩く。ほどなくして琴里の声が聞こえた。

 

《ハイ、どうしたのかしら?》

 

≪なんだ? 状況が見えていないのか?≫

 

「琴里か・・・・? 不味い状況になった。外に出るから〈フラクシナス〉で回収してくれ!」

 

《ハァ?ーーーー何言ってんの? “お姉様”に逆らったお馬鹿は、そこでミンチにされなさいよ》

 

「こ、とり・・・・?」

 

≪・・・・本っっっ当にいざと言うときに使えない役立たず共めっ!!≫

 

呆然と妹の名を呼ぶウィザード<士道>と〈ラタトスク〉の状況を即座に理解したドラゴンが、どうやら自分の助言を聞いていなかった琴里達に憤慨した。

 

 

 

 

 

 

 

ー令音sideー

 

「・・・・これは・・・・一体」

 

〈フラクシナス〉に戻ってきていた令音は、混沌とした雰囲気の艦橋に眉を潜めた。

士道達のステージを見た美九の精神状態についての解析を詳しく行いたいという連絡を受け、四糸乃を別の機関員に預けて戻ってきたが・・・・その時には既に、艦内は異様な雰囲気と化していた。

 

「あっはははは! ブァーカ! 美九お姉様を騙したんだから死んで償うのが当然でしょう? 死ね! 早くそこで死ね! 絶望がお前のゴールだ! 美九お姉様の意思のままに!」

 

明らかに危機的状況のウィザード<士道>が映るメインモニタに向かって、艦長席・・・・ではなく、四つん這いになった神無月に腰掛けた琴里が高笑いを上げて罵詈雑言を吐く。

ステージの音声チェックで〈破軍歌姫<ガブリエル>〉の音から逃げられた椎崎を除いたクルー達も、士道に向かって中指立てたり親指を下げたりし、口々に士道を罵っていた。

唯一無事だったのは、令音と椎崎のみだ。

 

「・・・・ふむ」

 

令音は状況を見て、美九が何かをしたとすぐに判断したその瞬間。

 

「・・・・!」

 

「えーーーー?」

 

急に艦内に、けたたましいアラームが鳴り響き眉根を寄せる令音と椎崎。これは精霊の不機嫌や外敵の接近ではなくーーーー。

 

『ーーーー基礎顕現装置<ベーシック・リアライザ>並列駆動。魔力充填開始。収束魔力砲〈ミストルティン〉用意。目標ーーーー天宮スクエアセントラルステージ』

 

無機質なアナウンスがスピーカーから流れ、令音と椎崎がカラカラと笑いながらコンソールをに向かう琴里と琴里に腰かけられ恍惚とした表情の神無月に目をやり、止めるように椎崎が言うが、完全に操られている琴里は聞く耳持たず、神無月は琴里に椅子にされている状況に満足していた。

 

「実は正気なんじゃないですかアンタ!?」

 

椎崎が神無月にツッコミを入れ、令音と共に止めよう艦長席に向かう。

だがその二人も、正気を失った箕輪と川越によって組み伏せられ、身動きが取れなくなってしまった。

二人に気付いたのか、視線を向けて、ニィ、と唇の端を歪める。

 

「ーーーーセット完了。あとはこのボタンを押せばーーーードォォン!」

 

爆発を表現するように両手を広げ、琴里が叫ぶ。そのあまりにも無邪気な仕草に、椎崎の顔は青くなった。

 

「じょ、冗談・・・・ですよね?」

 

「あっはは、面白いこと言うのね椎崎。本気に決まってるじゃない。 さぁ! ありがたく思いなさい! 絶滅タイムよっ!!」

 

冗談めかすように言って、琴里がバッと腕を高く上げる。

 

「・・・・く」

 

令音は自身を組み伏せている箕輪を一瞥したのち、椎崎に目をやった。

このままでは、琴里が本当に〈フラクシナス〉の主砲を士道に向けて放ってしまう。だが、だからといってーーーー。

と。一瞬の内にそんな思考を巡らせていた

 

『何と言う体たらくだ・・・・』

 

と、一瞬の内にそんな思考を巡らせていた令音の視界の端に光が現れ、令音の耳にとある音声が聞こえてきたーーーー。

 

[スリーピング ナウ!]

 

「・・・・・・・・くぅ」

 

美九の〈破軍歌姫<ガブリエル>〉の力に操られ、暴走していた琴里と神無月達の眼前に、オレンジ色の魔法陣が現れ琴里達の身体を通過すると、琴里は糸が切れたマリオネットのように両膝をついて倒れそうになる。

令音が力を失った箕輪を振り払い、琴里を受け止め容態を見ると眠っているだけだった。

 

「っ・・・・」

 

「あ、貴方は!?」

 

琴里をソッと横たわらせた令音と、川越を退かしてようやく自由になった椎崎は、光が起こった艦橋の入口を見るとーーーー。

 

『・・・・まったく、ウィザードの補佐をする為の組織が、何と言う醜態を晒しているのだ?』

 

何と、『白い魔法使い』がソコにいた。

 




ファントム・ヴァンパイアの特殊能力。
吸血鬼らしく自分の牙で相手<女性のみ>に噛みつき、そこから自分の魔力を注入して相手を自分の下僕にしてしまう。これにより相手はヴァンパイアの魔力を得て身体能力が激増してしまうが、人格と思考能力を失い、ヴァンパイアの意のままに操られる『お人形さん』となる。
しかも、ファントムの魔力を並みの人間が制御出来る訳でなく、注入され過ぎると肉体崩壊が起きる上に、無理な身体能力の強化で肉体崩壊が起きる危険性も持つ。
ヴァンパイアはこれらの『お人形さん』を『恋人』と呼称し、肉体崩壊が起こった『恋人』はそのまま崩壊させ、新しい『恋人』を補充する。
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