デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
それぞれの動き
ー真那sideー
「どうですか、真那さん?」
「まるでゾンビ映画のような光景でやがりますね」
『もはや一種のパンデミックじゃな』
戦闘中に起きた閃光と爆発に気をとられ、グレムリンは『これは面倒な事になったね・・・・』、と言って逃げ出し、折紙をASTに預けた真那は、天宮スクエアから脱出した仁藤と合流し、コッソリ車に乗り込み、ビーストキマイラを思念体で呼び出し、士道を探して行進する一団と、その一団を止めようとする警官隊の様子を見ていた。
誘宵美九、〈ディーヴァ〉の『声』に操られ一団に交ざる警察組織を離れた位置に止めた車から真那は双眼鏡で見て渋面を作り、仁藤はヴァンパイアとの戦闘での負傷を救急箱の薬や包帯で応急措置をしていた。
「兄様は今どこにいやがるのでしょうか?」
「彼が迂闊な性格でなければ、今は大人しくするしかないでしょう。それよりも、我々はDEMインダストリーに連れていかれた〈プリンセス〉、夜刀神十香さんを救出しなければ」
そう。真那と仁藤は現在、DEMインダストリーの日本支部に向かっていたのだ。
「それにしても仁藤さん。なんであのファントムに単身で挑んだんでやがりますか?」
『うむ。いかに純銀の弾丸を持っていても、無謀極まるぞ』
「・・・・・・・・親友の恋人だったんです。あのファントム、ヴァンパイアのゲートだった女性は・・・・」
「え?」
『『『『『なんと・・・・』』』』』
それから、仁藤功平はポツポツと自分の身の上話を真那達に聞かせた。
* * *
中学の頃に両親を亡くした自分と『歳の離れた妹』がおり、親戚の家庭に引き取られ育った。
新聞記者だった親戚の叔父と叔母、そしてその息子である『奈良瞬助』とは兄弟のように家族として育った。
そして、その親友の『恋人』こそ、現在ヴァンパイアファントムのゲートとなってしまった女性ーーーー名を『小森ルミ子』。
とても明るく、優しく、頭も良く、朗らかで家庭的な性格をし、何よりも男女恋愛小説が大好きな女性だった。
そんな彼女は瞬助と恋仲であり、仁藤や妹にもとても優しく親切に接してくれて、そんな二人が幸せになって欲しいと、仁藤も妹も心から願っていた。
大学を卒業し、瞬助は魔法使いを題材にした児童文学で賞を取り、ルミ子は大手結婚相談所に勤め、仁藤は警察学校に入り、高校を卒業した妹は美容師を目指し専門学科へと入学した。
お互いに夢を叶えようとしていた中、いつまでもこの四人と睦まじく過ごせると仁藤は信じて疑わなかった。
だが、世界はそんなに、優しく甘くは無かったーーーー。
仁藤の妹が、“殺害されたのだ”。
瞬助とルミ子が結婚する事を決まった頃。
警察学校を卒業し、『警視庁』に配属となった仁藤は、帰りの遅い妹を探していると、“血塗れになった妹を発見した”。
すぐに警察に連絡を取り、それが公安警察も動いている、“女性を狙った連続殺人事件”である事を知った。
勿論仁藤も妹の仇を討つために捜査に加わったが、一向に犯人の目星がつかなかった。結婚を取り止めようとする瞬助とルミ子だが、仁藤はーーーー。
【二人が幸せに結婚する事が、妹の、『鈴』へのせめてもの手向けになる。鈴の為にも、結婚式を挙げてくれ】
二人はこれを快諾し、結婚式を挙げようと思い立った。
それから半月後、1年前に起こったあの“忌まわしい日蝕の日の前日”に、瞬助から連絡が入り思いがけない事が起こった。
【大変なんだ功平! ルミ子が、ルミ子がいなくなったんだっ!!】
瞬助からの連絡で詳しく聞くと、結婚式の衣装合わせの時、ウェディングドレスを試着し終えたルミ子が着替えようと離れた。一時間以上も掛かったので様子を見に行くと、試着室でスタッフが倒れており、起こして聞いてみるとーーーー“何者”かがルミ子を誘拐したと聞いた。
仁藤と瞬助は、ルミ子を探して方々に持てる手を尽くして探したが、ルミ子は見つからなかった。
そして漸く、二人の結婚式会場の予定だった教会の周辺に、ルミ子らしき女性を目撃したと言う情報を得た二人は、夜にその教会に行くとーーーー『ルミ子』がいた。
【ルミ子!】
瞬助と仁藤は薄暗い教会の中に佇む『ルミ子』に駆け寄る。
しかし仁藤はその時、自分達を見る『ルミ子』の眼差しが、“『ルミ子』のモノじゃない”と直感し、立ち止まり瞬助を止めようとしたその瞬間ーーーー。
ザシュッ! ズバッ!
【え・・・・?】
【る、ルミ、子・・・・?】
首の頸動脈を斬られ、血を噴き出して倒れる瞬助。肩を斬られ、血を流して倒れる仁藤。
何が起こったか分からない。だがもし自分が立ち止まらなかったら、間違いなく瞬助と同じように頸動脈を斬られていただろう。
仁藤が『ルミ子』を見ると、“人間を見る目”ではなかった。
【気安くこの私に触れるな。下衆な男風情が】
ルミ子なら絶対に言わない冷酷な声で言葉を吐くと、突如『ルミ子』の身体が無数の蝙蝠に変化し、その場から立ち去った。
後に残った仁藤は、肩の痛みに耐えながら、瞬助を抱き抱える。
【瞬助! 瞬助!! おい目を開けてくれっ!!】
【はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・・こ、功平・・・・】
荒い息を吐く瞬助。頸動脈の出血を押さえるが、止めどなく流れる血の流れに、功平は必死に携帯で救急車と警察を呼ぼうとすが、瞬助がそれを止めて声を発する。
【こ、功平・・・・あ、『アレ』は・・・・ルミ子、じゃない・・・・! ルミ子が、あんな・・・・冷たい目を・・・・するわけ、ない・・・・!】
瞬助は、自分の命が風前の灯火であるにも関わらず、『ルミ子』の尊厳を守ろうとした。
【あぁ分かっている! 分かっているから!】
【ね、ねえ、功平・・・・ひ、一つだけ、き、君に、伝えたい、事が、あるんだ・・・・!】
仁藤が瞬助の『伝えたい事』を聞くと、目を見開く。
【な、なに!?】
【功、平・・・・も、もう僕は、駄目、みたいだ・・・・!】
【なに言ってるんだよっ!?】
【ご、ゴメン、お、お前を1人に、しちゃって・・・・】
【瞬助!】
【はぁっはぁっはぁっ・・・・し、幸せに、なって、こう、へい・・・・】
そして、奈良瞬助はその命の火が消えたーーーー。
【し、瞬、助? 瞬助ーーーーーーーー!!!】
慟哭が教会に響き、気を失った仁藤が目を覚ますと、病院のベッドの上だった。教会に住む牧師が二人を発見し警察と救急車を呼んだと医者から聞いた。
しかし、目を覚ました功平を待っていたのは、更なる悲劇だった。
ーーーーなんと、記者だった叔父と叔母が、交通事故で亡くなったのだ。
瞬助と功平が病院に搬送された連絡を受けた叔父夫婦は、急いで病院に向かっていたその矢先、大型トラックと交通事故が起きて二人とも他界してしまった。
妹を失い、二人の親友を失い、さらには我が子のように愛情を注いでくれた叔父夫婦も失い、仁藤は半ば廃人同然の状態だった。
そんな時、『白い魔法使い』と『国安0課の課長』が自分の前に現れ、『ルミ子』が『魔獣・ファントム』にその身体を奪われたと聞かされた仁藤は、『二人の親友の仇を討つ』為に、『国安0課』に転属した。
* * *
「と、それで今に至る訳です」
「・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
あまりの大悲劇な仁藤の話に、真那とキマイラズは黙ってしまった。
「な、なんと言ったら良いのか・・・・」
「あまり気にしないでください。それに、漸く“仇の1人”を見つけたので」
「それが、あのファントムだったでやがりますか。しかし何故、単身で向かったでやがりますか?」
「・・・・自分なりのケジメと叱咤ですね。あの化け物の中にルミ子がいるのではないかと、甘い妄想に捕らわれている自分への」
「そう、でやがりますか・・・・」
真那とキマイラズも思わず黙ってしまう。
「それに、改めてヴァンパイアに対して怒りが沸いてきました」
「と言うと?」
「ヤツが『恋人』と称して自分の下僕にしていた女性達を詳しく調べてみたら、“彼女達は、連続殺人の被害者の男性達の恋人や婚約者達でした”」
「で、やがりましたね」
東京都で起きている“連続誘拐事件の女性達と連続殺人事件の男性達は恋人関係や婚約していた間柄だった”。
実際、パピヨンのゲートだった女性の婚約者が惨殺された現場に駆けつけた真那と仁藤は、その事に確信を持っていた。
「ヤツは、ヴァンパイアは、ルミ子の姿で、愛し合っている恋人達の仲を引き裂き、男性は塵のように殺し、女性は下僕か玩具にして弄んでいる。このようなやり方、あの心優しかったルミ子の尊厳を土足で踏みにじっているも同然です! そんな怪物を許しておけるほど、私は心の広い人間ではありません・・・・!」
仁藤のその目には、必ずヴァンパイアを殺すと言う確固たる決意が込められていた。
「分かりました。私も力になりやがりますよ」
『ワシらもな』
「・・・・ありがとうございます、真那さん。キマイラの皆さん」
仁藤はそう言うと、車を走らせ、DEMインダストリーへと向かった。
「ん・・・・?」
そこで不意に、真那が眉をひそめる。
「どうしました真那さん?」
「・・・・いえ、何でもありません。ーーーー少し、嫌ーな感じがしただけです」
『ワシらも何か不快な匂いを感じたのじゃが・・・・どうやら気のせいのようじゃ』
言うも真那とキマイラズのその顔はーーーー仇敵である『最悪の精霊』の気配を感じ取った時のそれと、良く似ていた。
ーワイズマンsideー
『・・・・・・・・フェニックスか?』
『よぉワイズマン!』
フェニックスがアジトに戻ってくると、天蓋付きベッドで横になっているワイズマンに火の玉て攻撃した。
が、ワイズマンが展開した魔法陣の障壁が防いだ。
『何のつもりだ?』
『メデューサはもう問題じゃねえ。だが、ワイズマン、テメエ生きているとまた俺の邪魔をされかねねぇ! だから、テメエを始末しに来たんだよっ!』
フェニックスが巨大な炎の塊を、ワイズマンに向けて放ったーーーー。
チュドォオオオオオオオオオオオンン!!
アジトがあった洞窟から巨大な火の柱が起きると、フェニックスはソコから飛び立った。
『はははははははははは! これで邪魔者は消え去った! 後はヤツだけだ! 指輪の魔法使いとその体内のファントム!!』
そう言って、フェニックスは空高く飛び去った。
ーメデューサsideー
『ワイズマン!!』
『メデューサ!』
フェニックスが飛び去って数分後、アジトの異変に気づいたメデューサがインプを使って空から降りてくると、ソコにはヴァンパイアがいた。
『ヴァンパイア! ワイズマンはどうした?!』
『フェニックスが、ワイズマンを殺した』
『なにっ!?』
『私はフェニックスを追ってアジトに来たのだが、突然アジトが炎に包まれ、逃げ出した時に見たんだ! フェニックスがワイズマンを殺す所を!』
『ワイズマンが・・・・!』
『ワイズマンは爆散してしまい、フェニックスはそのまま飛び去った』
『くっ!』
ヴァンパイアの話を聞いて、メデューサは苦々しく舌打ちをすると、ヴァンパイアに背を向ける。
『どこに行くんだい?』
『DEMだ。一応奴らとは同盟を結んでいる。フェニックスの次の目的がウィザードならば、〈プリンセス〉を捕らえたDEMに向かうだろう。それを知ればフェニックスも必ず現れる』
『成る程、ソコを待ち伏せして始末しようって事だね?』
『グレムリンとパピヨンにも連絡をしろ。総力でフェニックスとウィザードを潰す!』
そう言ってメデューサが歩き出し、ヴァンパイアはメデューサの後に続きながら、その背後を舐めるように見つめると、ニヤリと笑みを浮かべ舌で唇を湿らせた。
ー琴里sideー
「復旧を急がせて! 士道をすぐに見つけるのよ!」
「はっ!」
その頃〈フラクシナス〉では、まんまと美九の天使〈破軍歌姫<ガブリエル>〉に操られ、危うく士道処か、天宮市を壊滅しそうになったのを『白い魔法使い』に止められ、漸く目を覚ました琴里がまだ寝ていた神無月のこめかみに爪先蹴りで起こし、眠っていた他のクルー達も目が覚め、令音と椎崎から状況を聞くと、美九に操られ滅茶苦茶暴れた際に通信機器等を破壊してしまっていた。
琴里は直ぐ様指示を飛ばし、神無月達クルーが慌ただしく動いて復旧作業をしていた。
「令音。白い魔法使いは私達を眠らせた後どうしたの?」
「・・・・【余計な手間をかけさせないでくれ】、と言って『ピュリフィケイション』、『浄化』の魔法で皆の身体に魔法をかけた後、転移魔法で消えてしまったよ。どうやら天使の毒素を浄化したようだね。追跡もできなかった」
言われて琴里はチュッパチャプスをガリッと噛み砕き棒を乱雑に足元に捨て、神無月が上着から新しいチュッパチャプスを取り出すと、奪うように取り口に咥える。
目を覚ましてからもう二桁近くのチュッパチャプスを舐めている。血糖値なんてお構い無しだ。少しでも頭に糖分を廻さないと、怒りで頭が沸騰しそうだからだ。
「司令! お怒りならば先ほどのように私を馬のように乗り回しぐぎゃんっ!!」
そんな琴里の神経をさらに逆撫でしそうになった変態を、男性クルー達が踏みつけて止めたが、琴里はそれに目もくれず、必死に怒りを押さえていた。
白い魔法使いの言葉に腹が立てているのではない。自分自身の失態に腹を立てているのだ。
ドラゴンから、美九の『音』に気を付けろと助言を受けていた。油断しているつもりもなかったが、思いがけない状況の動きに失念していた。
スクエア上空で突如起こった折紙とメイジ達の戦闘。
その戦闘により音響システムの低下。
十香と士道のデュエット。
無事に演奏を終えた安心感。
士道達が優勝した安堵による気の緩み。
それからの美九の暴走を見て、急いで士道に指示を出そうとしたらこの有り様だ。
「(情けない・・・・! 散々精霊には気を付けなさいと、士道に言っておいてこの体たらく・・・・! 自分自身に腹が立つわ・・・・!)「琴里」っ! 令音?」
苛立たしげな琴里の前に、いつの間にか令音が立っていた。ここまで近づかれるまで気配や動きを察知出来なかった。
令音はソッと琴里の両肩に手を置いて、琴里を諭す。
「深呼吸するんだ」
「令音、こんな時に「深呼吸するんだ」・・・・すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~・・・・」
いつもの無表情だが、有無を言わせない圧力を出す令音に根負けして、静かに深呼吸をする。
「少しは落ち着いたかい?」
「・・・・ええ」
聡明な琴里は令音の意図を理解した。
自分は焦っていたのだ。失態をし、士道を見失い、ニュース等の情報で街は混乱状態。
しかし、これで焦ってしまっていてはいけない。自分は〈フラクシナス〉の司令官なのだから。
「ありがとう令音。冷静になれたわ」
「うん・・・・」
そう言うと、令音は再び自分の席に戻った。
「司令! どうしても怒りが収まらないならこの私に「ズギュン!」ありがとうございます!!」
男性クルー達の足元で喚き出した変態に、琴里はチュッパチャプスの棒を投げて、変態の両目に突き刺した。
『・・・・・・・・・・・・』
それを見た令音を除いたクルー達は、痛みに悶えながら呼吸を荒くして興奮している変態を、美九とヴァンパイアが士道に向けたような眼差しで見下ろしながらーーーー。
『(何で村雨解析官じゃなくて、“コレ”が副司令官なのだろうか)』
と、心の底から思ったのだった。
それを気にせず、令音が琴里に呼び掛ける。
「琴里。ドラゴンと交信できないのかい?」
「・・・・嫌みと暴言と毒舌を覚悟して交信しているんだけど、まるで“何か”に阻まれているような感覚だわ。交信が届かない」
「ふむ・・・・ドラゴンが交信を拒絶しているのか、それとも“別の要素”が介入したのか・・・・」
令音は顎に手を置きながら思考しながらも、復旧作業をしていた。
ー???sideー
「あら?」
その人影は、士道が隠れている廃ビルにたどり着くが、廃ビルの周りを『見えない壁』がグルッと囲んでおり、入れずにいた。
「わたくしの、精霊の力を持ってしても入れない障壁、こんな物を作れるのは・・・・ワイズマンさんか、それともーーーー」
人影の少女、時崎狂三は廃ビルを見上げながら呟く。
「あなたなのですの? 『白い魔法使い』さん」