デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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第七章スタートです。


美九トゥルース
白の試練と再会の悪夢


ー士道sideー

 

窮地に追いやられた士道とドラゴンの元に現れたのは、士道に〈仮面ライダーウィザード〉の力を教えた謎の魔法使い、『白い魔法使い』だった。

 

「白い、魔法使い。俺とドラゴンが完全に1つになるって・・・・?」

 

『お前は今までのドラゴンスタイルで、体内のドラゴンの身体の一部を召喚していたな?』

 

「あ、あぁ・・・・」

 

フレイムドラゴンで頭部。ハリケーンドラゴンで両翼。ウォータードラゴンで尻尾。そしてランドドラゴンで両腕。『スペシャルリング』を使って召喚し、それを必殺技として扱ってきた。

 

『だが、今回の試練でそれら全ての力を1つにする事で、お前の体内のドラゴンの力を最大限に引き出す事ができる。そうすれば、エレン・メイザースと暴走するフェニックスと対等以上に渡り合えるだろう』

 

「本当かっ!?」

 

≪おいちょっと待て。我の力を最大限に引き出すと言う事は我としては構わない。それで〈プリンセス〉を救えるならばな。が、その方法がその籠手なのか?≫

 

「っ、白い魔法使い。その籠手がドラゴンの力を引き出してくれるのか?」

 

『いや。これはあくまで道具に過ぎん。ドラゴンの力を引き出すのは・・・・五河士道、お前自身が引き出さなければならん』

 

「お、俺自身が・・・・?」

 

『その前に1つ聞いておきたい。五河士道、いや、仮面ライダーウィザードよ』

 

白い魔法使いが声だけでも圧が出ている雰囲気に士道は息を呑むが、それに構わず白い魔法使いが声を発する。

 

『先ほどのセントラルステージでの戦いの一部始終を見ていたが、お前はまだーーーーフェニックスに、ファントムに、“ゲートだった人間の意思が残っている”などと考えてはいるまいな?』

 

「っっ!!!??」

 

白い魔法使いの言葉に、士道はさらに息を呑んだ。

確かに士道は、フェニックスにゲートだった人間、藤田雄吾の意思が残っていると思い、フェニックスと対話しようとした。

がーーーー結果は、士道にとっては惨澹たる結果に。ドラゴンにとっては分かりきっていた結果になった。

 

『ファントムとなった時点でゲートの記憶が有るだけ。ゲート本人の意思が残っている事はあり得ない。現にフェニックスだけでなく、ヴァンパイアと名乗るファントム。そしてお前が今まで遭遇してきたファントム達に、人間性があるような者達がいたか?』

 

「・・・・・・・・」

 

白い魔法使いにそう言われ、士道は思考するが、確かに人間性を持ったファントム達は、今までいなかった。

 

『お前が抱いていたのは“優しさ”ではなく、“甘さ”だ。それが通じる相手はファントム側にもDEMインダストリー側にもいない。その甘さが最悪の事態を招く事もある。お前が〈仮面ライダー〉として立っている場所は、『命続く限り戦う地獄』か、『戦う罪を背負う地獄』か、『見て見ぬフリをし続ける地獄』か、どちらかの地獄を選べーーーー甘い考えを捨てろ』

 

「うっ・・・・!」

 

白い魔法使いのその言葉に、士道は小さく呻く。

十香達精霊を、ゲートの人達を守りたい。だが、DEMインダストリーにいる魔術師<ウィザード>と、“人間”を相手に戦うだなんてしたくない。もしかしたら、ゲートの意思が残っているファントムがいるかもしれない。

いくら甘いと分かっていても、それだけはーーーー。

 

バシンッ!!!

 

「はがっ! 何すんだよドラゴン!」

 

苦悩する士道に、ドラゴンの容赦ない尻尾ド突きが炸裂した。

 

≪何をいつまでも、要領不足の脳ミソで無い知恵を無理して絞り出そうとしているのだ? 貴様は〈プリンセス〉を助けたくないのか?≫

 

「助けたいに、決まっているだろう!」

 

≪ならば悩む事は無い。貴様には守りたい奴等がいる。そして、その娘達の命をつけ狙う者共がいる。だったら、例えなんちゃって魔術師共やファントム共が立ち塞がっても蹴散らせ。守りたい奴等がいて守る力が有るならば、それを振るう事を躊躇うな。迷うな。立ち止まるな。【希望になる】と大言壮語したならば、迷わず貫いて見せろ!≫

 

「(っ! 俺には、守りたい皆がいるんだ)・・・・あぁ! やってやろうじゃねぇかっ! 白い魔法使い!!」

 

『(ふっ。良いコンビだな) 良かろう。では・・・・』

 

[サイコロジー ナウ!]

 

『ハートが刻まれたリング』を指に嵌め、ドライバーに読み込ませた白い魔法使いは、自分と士道の足元に魔法陣を展開させると、魔法陣が光輝き、

 

『新たな力をつけるために、ウィザードよ。お前に試練を与える』

 

白い魔法使いの言葉を聞きながら士道は目をつむる。

 

 

 

 

 

『早く起きろ、ヌケサク・ボケナス・オタンコナス』

 

ーーーーバシンッ!!!

 

「はぶぉっ! なんだぁっ!? って、ドラゴンっ!!?」

 

いきなり身体全体を襲った衝撃に飛び起きた士道の目の前に、真っ暗な空間で自分を見下ろすウィザードラゴンと白い魔法使いがいた。

 

「こ、ここって、俺のアンダーワールドか?!」

 

『少しは状況判断ができるようになったか、いきなりここに来て呑気にバカ面晒して寝ておって』

 

「うるさいっての! 白い魔法使い! これって一体?」

 

『言った筈だ。お前にはドラゴンの魔力を引き出して貰うとな。その為には、お前にはドラゴンの力の全てを引き出す為に、ドラゴンの力の全てをその身で受けてもらう』

 

「えっ・・・・っ!?」

 

『安心しろ。ここはお前のアンダーワールドだ。ここならどんなに目に合わされても、お前自身の心が折れない限り死ぬことは無い』

 

『つまり、地獄の攻め苦を何度でも体験ができると言う事だな』

 

ドラゴンの口元に、ニィッと笑みを浮かべたのは、おそらく士道の気のせいではない。

 

「あの、やっぱり俺に拒否権は・・・・?」

 

『『無い』』

 

 

 

~ここからは、士道とドラゴンの修行光景だけを公開します~

 

炎で燃やされ。

 

『黒焦げになれぇぇぇぇぇぇ!!』

 

「あぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

水責めに合わされ。

 

『いつまで息が持つかな?』

 

「ガボッ! ゴボボボボボボボボ!!」

 

風で切り刻まれ。

 

『細切れになるがいいっ!!』

 

「ぐあああああああああ!!」

 

岩に潰され。

 

『潰れたガマガエルになれっ!!』

 

「お前本気で俺を殺すギャンッ!」

 

また炎で燃やされ。

 

『焼きつくしてくれるっ!!』

 

「またかよぉおおおおっ!!」

 

氷で凍てつくされ。

 

『良しすぐに氷ごと砕くか』

 

「・・・・・・・・」(凍っていてコメントできない)

 

雷を落とされ。

 

『天誅!!』

 

「ビビビビビビビビッッ!!」

 

重力に押し潰され。

 

『中々潰れんな?』

 

「簡単、に、潰れて、たまぐえっ!」

 

と、まさにドラゴン(殺気100%)の力のフルコースを何度もお腹一杯に受けた士道はーーーー。

 

「い、いっそ、殺せ・・・・!」

 

文字通り心身ともに痛め付けられた士道は呻くように呟いた。

 

『何度も殺しているわ。それにしてもここまで殺ってまだ折れんとは。しぶといのを通り越して尊敬したくなってきたぞ』

 

「お前なぁ・・・・!!」

 

『五河士道。お前はこれで試練を終えた。この『籠手』に触れると良い』

 

「・・・・・・・・」

 

ドラゴンに文句を言おうとした士道は、白い魔法使いに渡された『籠手』に触れると、それは赤、青、緑、黄色の光に包まれ光が収まるとーーーー。

 

[ドラゴタイマー]

 

なんと、真っ白な籠手が、アナログ式タイマー腕時計のようなツールへと変貌した。

 

「コレが・・・・」

 

『それがお前の新たな力、『ドラゴタイマー』だ』

 

「『ドラゴタイマー』・・・・!」

 

『使い方は、お前達の脳に直接伝える』

 

そう言うと白い魔法使いの人差し指の先が、ポゥっと光り、士道とドラゴンの額にそれを押すと、二人は『ドラゴタイマー』の使い方を理解すると、真っ暗なアンダーワールドが光りーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉっ!」

 

廃ビルの一室に戻ってきた。

 

『これでフェニックスとエレン・メイザースへの対抗手段はできた』

 

「・・・・エレン・メイザースって、十香を拐っていった魔術師<ウィザード>だよな、そんなに強いのか?」

 

『お前が今まで相手にしてきた魔術師<ウィザード>とは桁違いだ。鳶一折紙、だったか、彼女もかなりの潜在能力を持っているが、それでもエレン・メイザースには届かないだろう。“人外の力を有する精霊と対等以上に渡り合える人類だからな"』

 

「十香達精霊と対等以上に戦える、か・・・・」

 

そう聞くと、或美島で十香の天使を砕き、先ほどセントラルステージで見たときの威圧感。確かに精霊と対等以上に渡り合えると言うのも頷ける。

 

『試練はここまでだ。後は、“彼ら"を渡しておこう』

 

そう言って白い魔法使いが懐から、プラモンスターのリングを取り出した。

 

「っ! ガルーダ! ユニコーン! クラーケン! ゴーレム!」

 

≪〈ハーミット〉に凍らされていた筈だが・・・・≫

 

美九に操られた四糸乃の天使に凍らされ、そのまま操られた観客達の波に呑み込まれたままになったプラモンスター達であった。

 

『フェニックスがセントラルステージを破壊した際に私の近くに転がってきてな。拾って氷を砕いたらリングに戻ってしまっていたのだ』

 

白い魔法使いはプラモンスターリングを士道に渡した。

 

『これで多少の偵察役を得ることができた。後はお前次第だ五河士道』

 

「アンタは一緒に来てくれないのか?」

 

『・・・・残念ながら、私は『彼女』と接触する訳にはいかないのだ』

 

「『彼女』?」

 

『今私がこの廃ビルに張った結界を外から砕こうとしている『少女』だ。彼女には気を付けろ。付き合い方によっては“救いの女神"にも“破滅の悪魔"にもなる、文字通りの『ジョーカー』だからな』

 

白い魔法使いは懐から、一枚の折り畳まれた紙を士道に渡した。

 

「これは?」

 

紙を開くと、パソコンでプリントされた地図が記されていた。

 

『〈プリンセス〉は其所にいる』

 

「なにっ!?」

 

『DEMインダストリーの日本支部だ。心しておけ』

 

[テレポート ナウ!]

 

それだけ言うと、白い魔法使いは転移魔法を使ってその場から消えると、外からガラスが割れるような音が響いた。

 

「な、なんだ!?」

 

≪白い魔法使いが結界を消したのだろ・・・・っ!! こ、この気配は! 小僧! すぐに変身しろ!!≫

 

「ど、どうしたんだよドラゴン?」

 

≪あの女が来ているのだ!≫

 

珍しく慌てたドラゴンの様子に戸惑う士道だが、その訳がすぐに分かった。

 

ーーーーくす、くす、と。

 

誰かが、笑った。

 

「・・・・っ!?」

 

士道が肩を揺らし、バッと顔をあげる。

 

ーーーー影が。

 

暗い部屋の中を充満した影が蠢動したかと思うと、ソコから、一人の少女が這い出てきた。

血のような紅と闇のような黒で構成されたドレス。左右不均等に結われた黒髪。時計の文字盤が左目に浮かび、1秒ごとに針が刻む。そして、作り物としか思えないくらいの端正な貌には、愉悦と嘲笑とも取れる生々しい笑顔に彩られていた。

 

「うふふ、残念でしたわ。白い魔法使いさんと是非お会いしたかったのに」

 

「時崎、狂三・・・・ッ!?」

 

驚愕に目を見開いた士道は、その名を呼んだ。

 

「きひひ、ひひ、お久しぶりですわね。士道さん。ドラゴンさん」

 

かつて士道の前に現れた、識別名称〈ナイトメア〉と呼ばれる『最悪の精霊』。

士道は思わず『ドライバーオンリング』と『ハリケーンウィザードリング』を嵌めて、油断なく狂三を睨み付ける。だが、それが戦う為ではなく、逃げる為の行動である事は一目瞭然だ。

士道は狂三に、精霊に危害を与える性分で無い事を理解していない狂三ではない。妖しく笑みを浮かべた狂三は、静かに唇を開いた。

 

「ーーーーねえ、士道さん。少し、お話をしません事?」

 

「な・・・・」

 

≪・・・・・・・・≫

 

士道は驚愕と狼狽に目を見開き、ドラゴンは臨戦態勢で狂三を睨み付ける。もし実体化していれば、狂三の姿が見えた瞬間、炎を吐き出していただろう。

 

「ほんの僅かな時間の内に、白い魔法使いさんと何かをしたようですわね? うふふ、分かりますわよ。士道さんの身体から相当な力が高まっている事を・・・・」

 

「“僅かな時間"?」

 

「あら? 白い魔法使いさんが張った結界に阻まれてどうしたものかと考えて、約5分ほどしか経っておりませんでしたわよ?」

 

「(どういう事だドラゴン?)」

 

≪・・・・どうやらアンダーワールドでの試練からほんの数分しか時間が経っていなかったようだ。スマホの時計を見て確認もとれた。それはまぁどうでも良いとしても、この女から逃げる算段を考えるぞ≫

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ドラゴンにそう言われ、士道は改めて狂三を見据えると、士道の視線の意味を見透かしているように、狂三は口を開く。

 

「まぁ今はそれは良いですわーーーーそれよりも、四糸乃さんと八舞姉妹を精霊に奪われ、十香さんをDEMに拐かされ・・・・為す術もなく途方に暮れていたように見えましたのですが、どうやらまだ諦めていないようですわね?」

 

「なーーーー」

 

≪ふん。〈刻久帝<ザフキエル>〉の能力で幾つもの『目』と『耳』を使って情報収集でもしていたのだろう≫

 

狂三がこちらの状況を知っている事に、士道は息を詰まらせたが、ドラゴンの言葉で得心した。

狂三の天使〈刻々帝<ザフキエル>〉の能力の一つ、『過去の時間の自分を分身体として召喚する』。これにより狂三は人海戦術による情報収集をしていたと理解すると、ますます身体に緊張が走る。ーーーー今なら精霊とマトモに戦えない士道だけ、“食事"をするには絶好のチャンスだと。

 

「く・・・・」

 

身を固くした士道はいつでも距離を取ろうとするが、狂三は愉快そうに唇を歪める。

 

「ふふ、落ち着いてくださいまし。ーーーー少なくとも今わたくしに、士道さんとドラゴンさんをどうこうしようと言うつもりはございませんわ」

 

「なに・・・・?」

 

≪・・・・・・・・≫

 

狂三の言葉に眉根を寄せる士道と、警戒心を解かないドラゴン。

 

「どういう事だ? お前は、俺達を『食べる』のが目的何じゃないのか?」

 

「ええ、それは否定しませんわ。ーーーーでも、先ほど申し上げたではありませんの。今は士道さんとお話がしたいと

 

「(・・・・どう思うドラゴン?)」

 

≪信じる保証など欠片もないが、この状況で嘘を吐く理由もないのも事実だ。話だけでも聞いてやろう。それを聞いていつでも動けるように心構えだけはしておけ≫

 

「(ああ)」

 

ドラゴンとの内部会議を終えて、狂三に話す。

 

「何の話だ?」

 

「きひひ、ーーーーこれからのお話ですわ」

 

「これから?」

 

士道が怪訝そうに言うと、狂三はトントンとリズミカルに靴底で床を叩き、士道の方に近寄り、寄り添うような格好になりながら耳元に唇を寄せーーーー囁くように言う。

 

「ねえ、士道さん。十香さんを助けたくありませんこと?」

 

「っ、ああ。精霊を殺そうとしている組織の奴等に、十香を置いておける筈がない。居場所も白い魔法使いから教えられている」

 

「あらそうですの。きひひ、そうですわよね。そうですわよね。それでこそ士道さんですわ」

 

狂三が今までで一番楽しげに笑い、士道は得体の知れない不快感に顔をしかめる。

 

「でも、なんで・・・・お前がそんな事を訊くんだよ」

 

「きひひ、ひひ」

 

狂三は妖しい笑みを顔に張り付けたまま、ペロリと士道の耳を舐めてきた。

 

「・・・・っ」

 

「十香さんを助けたい・・・・でも、いくらそう願った所で、士道さんとドラゴンさんの二人では実現するには少し厳しいですわ。白い魔法使いさんと何をしていたかは存じませんが、念願の精霊を手に入れたDEM社が何の備えもしていないとは考えられませんわねぇ。士道さんがその気になれば、十把一絡げの魔術師<ウィザード>など相手になりませんが、“『魔獣ファントム』がDEM社と手を結んだのはご存じですの“?」

 

「っ! ファントムが、DEMと手を結んだ?!」

 

≪人間と手を組むなど、奴等も形振り構わないと言った所か・・・・!≫

 

「十香さんを拐った“アレ"も厄介ですわ。どんな力を手にしたかは分かりませんが、暴走したフェニックスさんも、必ずこちらの邪魔をします。士道さん達だけで挑むのはかなり危険ですわ」

 

「・・・・何が言いたい?」

 

「うふふ・・・・分かりません事? だからーーーーわたくしが手伝って差し上げると言っているのですわ」

 

「な・・・・!?」

 

≪・・・・≫

 

士道は目を見開くが、ドラゴンが落ち着かせるように尻尾で頭をペシペシと叩いた。

士道達が知る中で、特に強力な天使を持つ精霊の狂三が協力してくれるなら心強いがーーーー。

 

「・・・・何が目的だ?」

 

「目的だなんてな。わたくしはただ、士道さん達のお役に立ちたいだけですわー」

 

「『その下らない三文芝居に付き合うつもりはないぞ』って、ドラゴンが言っているが?」

 

「あらあらあら。悲しいですわ。わたくしは士道さん達の事を思っているだけなのにぃ~」

 

「・・・・・・・・」

 

[ドライバーオン]

 

ドラゴンの言葉を半眼で伝えた士道に、わざとらしい動作で目元に手をやり、さめざめと泣く仕草をする狂三に、遂に士道はドライバーを召喚し、変身できるような姿勢を取った。

 

「あらあら信用がありませんわねぇ。まあ、仕方ないかもしれませんけれど」

 

士道が変身しようと動作をすると、狂三は芝居がかった動作に飽きたように肩をすくめる。

 

「白状すれば、わたくしも別口でDEMインダストリーに用事がございますの。手を貸す代わりに、わたくしも士道さん達を囮として利用させていただきますわ。ギブアンドテイクでしてよ」

 

「用事・・・・?」

 

「ええ、“とある方"を探しておりますの」

 

「一体誰だ?」

 

「それは、秘密ですわ」

 

鼻の前に人差し指を立てながらウインクするが、士道もドラゴンも訝しげな視線を向ける。

 

「ご安心くださいまし。虚言を吐いておりませんわ。ーーーーまあもちろん、それでも信じていただけないのであれば、無理にとは言いませんけれど」

 

「うーーーー」

 

士道は苦々しげに喉を絞る。

確かに白い魔法使いの言うとおり、“救いの女神"にも“破滅の悪魔"にもなる『ジョーカー』のようだと、士道は思った。

 

≪・・・・『毒を食らわば皿まで』と言う言葉がある。〈プリンセス〉の救出の可能性が僅かでも高くなるならば、仕方あるまい≫

 

「・・・・分かった。信じるよ。頼む、俺に力を貸してくれ、狂三・・・・!」

 

「ええーーーー喜んで」

 

名家の令嬢のような、あどけた道化師のような動作でお辞儀をし、クスクスと笑い、スカートの裾を翻すようにクルリと身体を回転させ、トン、トンと踊るようにステップを踏んでから、狂三は士道に向き直る。

 

「さあ、さあ、では早速動きましょう。悠長に構えている暇はありませんわ。急かねば事は、仕損じる前に終わってしまいましてよ」

 

「ああ・・・・十香の捕まっている場所は分かっている。後はどうやって救いだすかだ。十香を助けるためなら何でもやってやる」

 

士道が言うと、狂三はさらに笑みを濃くした。

 

「ああ、ああ、良いですわね、十香さんは。こんなにも士道さんに想っていただけて。うふふ、嫉妬してしまいますわ」

 

「か、からかうんじゃねえよ。ほら、これなんてどうだ?」

 

士道は白い魔法使いから貰った紙を狂三に渡し、狂三はそれを見ると、ほぉ、と息を漏らした。

 

「やりますわねぇ白い魔法使いさん。ですが、この情報は本当に信用できますの?」

 

「白い魔法使いは信用できる」

 

≪貴様よりかは信用できる≫

 

士道とドラゴンが間髪いれずにそう答えると、狂三は肩をすくめる。

 

「まあ良いですわ。十香さんを助けに向かう前に、前に、手を打っておかねばならない方々がいるではありませんの」

 

「美九・・・・か」

 

「ええ、確かそんなお名前でしたわね、あのお歌の上手な方は」

 

今の美九は音と声で人間を操り、恐ろしい勢いで軍勢を増やし、自分を裏切った士道士道に報いを受けさせるために草の根を分けて探しているのだ。

士道が深刻な顔を作っていると、狂三は何かを思い出したように含み笑いを漏らした。

 

「・・・・なんだよ」

 

「いえ、今日のステージを思い出してしまいまして。うふふ、似合っていましたわよ、士道さん。いえ、士織さん、でしたかしら?」

 

「ぐぅぉっ!」

 

≪あのおぞましい姿をコイツにも見られていたか≫

 

仕方なく女装したあの姿を狂三にもバッチリ見られていたとは。

 

「まあ、理由はどうあれ、美九さんは士道さんを血眼になって追いかけている。しかも何万という人間と、精霊3人までもその軍門に従えて。・・・・間違いありませんわね?」

 

「・・・・ああ、間違いない」

 

「ふむ・・・・それではやはり、そちらから片付けてしまいましょう。彼女は着々と支配領域を広げていますわ。このままでは、十香さんを助けに行くのを邪魔される可能性すらありましてよ。士道さんが操られている人間にも〈仮面ライダー〉の魔法を使えれば問題無いのですけどね」

 

「・・・・悪かったな」

 

「見た所、あの方は実戦向きとは言え無さそうですし」

 

「そうは言っても、美九には人を操るあの『声』と天使があるじゃないか」

 

「問題ありませんわ。わたくし、あのような演奏に心揺らせるほど純真ではございませんし。ドラゴンさんのような魔獣の方々にも通じないようですし。わたくしに任せていただければ華麗に殺って見せますわよ?」

 

狂三は人差し指と親指を立てて、「バン」と銃を撃つ仕草をした。

 




さて、狂三と(一応)協力する事になった士道とドラゴン。どうなるでしょうか?

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