デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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誘宵美九と宵待月乃

ー士道sideー

 

≪おい。そのCDを聴いてみるぞ≫

 

「ん、ああ・・・・」

 

ドラゴンの言葉に頷くと、士道はケースからCDを取り出し、手近にあったオーディオコンボでそれを再生した。アップテンポの可愛らしい曲と共に、美九の声が流れる。

 

「あらあら、可愛らしい曲ですわね」

 

言って、狂三が指先で小さくリズムも取る。

だが、士道はその声に若干の違和感を覚える。

 

「美九の声・・・・だよな?」

 

生歌とCDという違いはあるのだろうが・・・・それ以前に、この美九の声はもっと若いと言うか、今の美九のような、脳幹を揺さぶる妖しい魅力がなかった。

だがその代わり、その歌には一生懸命なひたむきさに溢れており、聴く者を元気付けてくれるような不思議な魅力がある。

 

「なぁ、ドラ≪静かにしろ≫えぇ・・・・?」

 

≪・・・・・・・・・・・・≫

 

士道はドラゴンに話しかけようとするが、ずっと美九の歌を、くだらんと吐き捨て、一蹴していたようなドラゴンが、まるでこの歌の一言一句、奏でられるメロディーまでも、この曲の全てを耳から脳に刻み付けようとするかのように聞き入っていた。

 

「うーん・・・・」

 

不審に思ったものの、何が何だかよく分からない。士道は缶の中にあったCDジャケットを順に見ていきーーーー。

 

「あれ? これは・・・・」

 

その最奥に、『ある物』を発見した。

 

「写真・・・・?」

 

それは、綺麗な飾りの施された写真立てに、1枚の写真が飾られていた。

何の変哲もないただの写真立てだ。だが・・・・。

 

「・・・・え?」 

 

士道の脳裏に奇妙な違和感が掠め、目を見開いた。

おかしい。ーーーー何かが、おかしい。

士道はもう1度写真を手に取ると、そこに写っているものをマジマジと見つめる。

別に写真の裏に重要な情報がメモされているだとか、特殊な加工がされているとか、そんなことはない。本当に何の変哲もない写真だ。

だがそれは、普通に考えれば、“存在する筈のない写真"だった。

 

「まさか・・・・これは」

 

≪どうやら、我らは『確信』に近づきつつあるようだな≫

 

と、そこで美九の歌を聞き入っていたドラゴンが、曲が終わったのと同時に、士道が持っている写真を見て、察したように呟く。

 

「でもよ、ドラゴン。琴里は・・・・」

 

≪〈イフリート〉と言うよりも、あの杜撰な組織が知らないだけだろう。何しろ奴等にとって“精霊の生の情報"など、〈イフリート〉だけだったのだからな≫

 

「もしそうなら、なんで・・・・」

 

と、士道が写真をマジマジと見つめていると、脇から白い手が伸びてきて、写真をヒョイッと摘み取った。狂三だ。

 

「面白そうなものがありましたわね。少し、お借りしますわ」

 

狂三は写真と残っていたCDを1枚重ねて持つと、空いている手をパッと掲げ、影から飛び出してきた古式短銃を持った。

 

≪時間の天使か・・・・≫

 

狂三の天使ーーーー時計の文字盤のように、時間に関する能力を12を有している時を司る天使・〈刻々帝王<ザフキエル>〉。

 

「〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーーー【十の弾<ユッド>】」

 

次いで狂三が言うと、影の一部に『X』の紋様が輝き、そこから影が漏れ出すように滲んで、短銃の銃口に吸い込まれた。

そうしてから狂三は、何故か写真とCDを側頭部に触れさせ、それに向かって短銃を構えた。

士道はその行動に首を捻って、ドラゴンは静観していると、狂三は躊躇いなく短銃の引き金を引いた。銃口から放たれた【十の弾<ユッド>】が、CDと写真を貫き、狂三の頭に突き刺さる。

 

「く、狂三!?」

 

≪一々喚くな。良く見ろ。ヤツの頭どころか貫通した写真やCDにも傷1つ付いていないだろうが≫

 

「うふふ、大丈夫ですわよ士道さん。【十の弾<ユッド>】の力は回顧。撃ち抜いた対象が有する過去の記憶を、わたくしに伝えてくれる弾ですわ」

 

「過去の・・・・記憶?」

 

≪記憶を宿すのは何も生物だけではなく、そこに置かれている器物にも宿るという訳か・・・・≫

 

「ええ」

 

狂三は頷くと、写真とCDを眺めながら唇の端を上げる。

 

「なるほどーーーーそういう事でしたの。断片的にですけれど、彼女に覚えていた違和感の正体が分かりましたわ」

 

「な、何か分かったのか!?」

 

「ええ。どうやら美九さんはーーーー」

 

と。狂三が言いかけたところで。

窓ガラスが微かに揺れたかと思うと、すぐに外から、凄まじい音が流れてきた。

 

「な、警報・・・・!?」

 

≪っ! いや違う。これは・・・・!≫

 

士道はハッと目を見開いたが、察しの良いドラゴンはすぐにその音の正体に気づき、士道すぐに気づいた。

 

ーーーー音楽である。

 

巨大なパイプオルガンで奏でたような荘厳な音と、聴く者を虜にする美声によって紡がれた音が、街に響き渡り始めたのだ。

それを耳にした瞬間、士道は覚えのある目眩に襲われるが、ドラゴンが尻尾ド突きで目眩が晴れると、頭を横に振って、こめかみ辺りを押さえた。

 

「これはーーーー美九の・・・・!」

 

≪こんな所にまで来たか≫

 

そう。精霊・〈ディーヴァ〉の誘宵美九と、その天使〈破軍歌姫<ガブリエル>〉による、至上の演奏だ。

しかし、窓から外を覗いて見たが、あの巨大で荘厳な天使の姿を見取る事は出来ない。恐らくは非常時に警報等を流す公共のスピーカーをジャックしたか・・・・もしくは街宣車か何かを走らせたのだろう。機械を通してもこの演奏の効果が有るのであれば、この辺り一帯の住民も、美九の熱狂的な信者<ファン>となって、士道達を捉える為の操り人形となるだろう。

 

「・・・・!」

 

≪安心しろ。あの女は無事だ≫

 

「あらあら、随分と派手にやってくれますわねえ」

 

狂三を見やるがーーーー士道と同じように、美九の演奏を聴いても、心を奪われてはいないようで、何処か可笑しそうに、しかし何処か気に障ると言った様子だった。

 

≪しかし、あの小娘め、小僧が未だに見つからなく焦れてのか、積極的に支配領域を広げて人海戦術で捕まえるという訳か・・・・。下手をすると今に世界中の人間を操るぞ≫

 

「仕方ありませんわね。お話は道中するといたしましょう。でも、あくまでもわたくしはお手伝いをするだけ。場所は如何様にでも整えましょう。でも、その引き金を引くのは、士道さんですわ」

 

「え・・・・?」

 

士道は目を丸くしーーーーしかしすぐに狂三の意図を察してグッと拳を握った。

 

「手を貸してくれ、狂三。ーーーーあの駄々っ子と、話をつけて、十香を取り戻しに行く!」

 

「喜んで」

 

狂三は先ほどと同じようにスカートの裾を詰まみ上げた。

 

≪・・・・小僧。あの小娘と二人だけとなったら、我を召喚しろ≫

 

「(えっ?)」

 

これまで狂三を警戒して思念体モードで外に出なかったドラゴンが、そう言ってきて士道は首を傾げた。

 

 

 

 

ー美九sideー

 

天宮市の中心に位置する、天央祭の舞台にして、天宮市大暴動の舞台、天宮スクエアーーーーの跡地。

フェニックスとの戦いで建物としての体裁を完全に失ったドームのステージで、霊装を纏った誘宵美九が巨大なパイプオルガンの天使・〈破軍歌姫<ガブリエル>〉を使い、光輝く鍵盤に指を走らせながら歌を歌っていた。

その歌を聴いているのは皆女の子ばかり、男共は外で警備に着かせていた。

今の演奏は、比較的に無事だった機材を使って、街中のスピーカーから、リアルタイムで流し、新たな尖兵を作り、憎くき魔法使いを捜索していた。

 

「・・・・うッ」

 

数時間前に起こった忌まわしい出来事と、ヴァンパイアの盾となって焼死体となった人間達の姿が頭を過り、美九は口元に手を当て、演奏を中断して舞台袖に戻ると、“メイド服を着た四糸乃と八舞耶倶矢と夕弦"が献身的に自分の世話をしてくれた。

自分だけのステージ。自分の歌を心待ちする女の子達。そして、心を込めて自分の世話をしてくれる絶世の美少女達。

ユートピア、ここに成れり。がーーーー。

 

「・・・・うぷっ」

 

再び掠めた忌まわしい記憶が、美九に嘔吐感を感じさせた。

ーーーー五河士織。その名と顔を思い起こされた。

 

「許しませんよ・・・・士織さん・・・・」

 

胸に渦巻くドロドロとして増悪を呻くように呟くと、そのあまりの迫力に、四糸乃と八舞姉妹は息を詰まらせる。

美九は正直、士織を大層気に入っていた。惹かれていたと言っても過言ではないーーーーだが、そんな渇望の果てにあったのは、最悪の裏切り。

そう・・・・五河士織は、美九がこの世で最も忌み嫌う生物ーーーー男だった。

 

「許さない・・・・許さない・・・・ッ! 私の心を弄んでェ・・・・ッ!」

 

美九は震えを抑えるように肩を抱き、二の腕をガリガリと掻きむしる。士織を女の子と思って色々してきた行為が走馬灯のように思いだし、ブワッと鳥肌が立つ。

至高の理想郷を作り上げた美九の最後の心残り。五河士織改め五河士道を目の前に引っ立て、この世に生を受けた事を後悔するような目に合わせてやらねば気が済まない。

 

「あの男は・・・・まだ見つからないんですかぁ?」

 

美九が怒気の篭った声で言うと、四糸乃がビクッと肩を震わせた。

 

「は、はい・・・・その、まだ連絡は入ってきて・・・・いません・・・・」

 

「そうですかぁ・・・・引き続き捜索を続けさせてーーーー」

 

と、美九が指示を出そうとした所で、部屋の扉がバタン! と開かれ、四糸乃達と同じようにメイドの姿をした3人の少女が走ってきた。

 

「失礼しまッす! お姉様!」

 

「緊急事態です! お姉様!」

 

「マジ引くです! お姉様!」

 

と、少女たちが身長順に叫んでくる。

 

士道と共にバンド演奏をするはずだった来禅の生徒達、亜衣麻衣美衣トリオである。

 

「どうしたんですかぁ、そんなに慌てて」

 

 美九が問うと、3人は一瞬顔を見合わせてから言葉を続けてきた。

 

「た、大変なんです! 五河くんが見つかったんですよ!」

 

「・・・・なんですってぇ?」

 

美九はその報告に一瞬視線を鋭くしーーーー。

すぐに喉の奥からくつくつという笑いを漏らし始めた。

 

「ふふ・・・・ふふふふふふふ・・・・ッ、そうですかー、ようやく見つかりましたかー」

 

言いながら、椅子からユラリと立ち上がる。

 

「思ったよりも粘りましたねぇ。ふふふ・・・・でも無駄ですよぉ。私の可愛い軍勢からは逃げられません。ーーーーそれで、一体誰が発見してくれたんですかぁ? 見つけたのが女の子なら、特別に可愛がってあげます。あとで部屋に呼んでください。男だったら・・・・まあ、金平糖一粒くらい与えても良いでしょう」

 

だが、美九がそう言うと、亜衣麻衣美衣は困惑した様子で口を開いた。

 

「? どうしたんですかぁ? はっ、もしかして発見したのがニューハーフさんだとか・・・・」

 

美九は一瞬、天央祭で見かけたドーナッツ屋の怪物を思い返してしまった。

がーーーー。

 

「い、いえ、そう言う訳じゃないんですけど・・・・」

 

「なんと言いますか、発見者が多すぎるというか・・・・」

 

「マジ引くわー、な展開なんですが・・・・」

 

「ええとその・・・・ここのすぐ近く」

 

「って言うか、天宮スクエアのど真ん中に」

 

「マジ引くわーで、ど、どうしましょうか・・・・」

 

「・・・・へ?」

 

美九は目を見開き、素っ頓狂な声を発した。

 

 

 

 

ー士道sideー

 

時は少し遡り、数分前。天宮スクエアからほど近いビルの屋上。

 

「流石にスゲェ人数だな・・・・」

 

≪一応の本拠地だからな。しかし、こんなほぼ廃墟同然の場所にまだ居たとはな≫

 

士道と狂三は天宮スクエア跡地に舞い戻ってきた。

上空には、前代未聞の大暴動の映像を録りに来たが、美九に操られている報道ヘリが飛んでいる。

 

「狂三、当てにして良いんだよな?」

 

「あら、信じてくれませんの? 悲しいですわ。泣いてしまいますわ」

 

言って、狂三はわざとらしい仕草で「えーん」と顔を手で覆う。

 

「お、おいおい・・・・」

 

≪くだらん三文芝居に付き合うな≫

 

「士道さんが眼球の片方をくれるか、ドラゴンさんが翼の片方をくれるか、お二人の生き血を啜らせてくれるか、士道さんが頭をヨシヨシして、ドラゴンさんが優しい言葉をかけてくれるかしないと涙が止まりませんわ」

 

「・・・・・・・・ヨシヨシ (ドラゴン、お前も)」

 

≪はぁ・・・・。泣くな、お前なら頼りになると一応信じている・・・・・・・・・・・・うぷッ≫

 

選択の余地が無かった士道は、血色のヘッドドレスの上から、狂三の頭を撫で、ドラゴンは(かなり嫌々で)狂三に優しい言葉を言い、士道がそれを狂三に伝えた(最後の吐きそうな声は聞かなかった事にして)。すると狂三はクスクスと愉快そうに笑う。

 

「さ、では参りましょうか。これ以上時間を無駄にしても、状況は悪くなる一方ですし」

 

「≪・・・・・・・・・・・・≫」

 

士道とドラゴンは、半眼になって、つい今しがた最大に無駄にした張本人を見つめるが、それを追及するのも時間の無駄なので何も言わずにおいた。

 

「さて、行くとするか・・・・!」

 

[ドライバーオン プリーズ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!!]

 

『仮面ライダーウィザード ハリケーンスタイル』へと変身した士道は狂三の腰を抱き、地上10階立てのビルから飛び降りてスタっと着地した。

 

「あらあら、士道さんも大胆な事をしますわねぇ?」

 

「そんな事言ってる場合じゃねぇだろ」

 

ウィザード<士道>が周りを見ると、美九からの指示を待っている男達が、ビルの壁を背にしているウィザード<士道>達を追い詰めようと、半円形の包囲網を作っていた。

と、そこで。

 

《ーーーーわざわざ私のお城に戻ってくるだなんて、随分と余裕があるんですねー。士織さん・・・・いえ、五河士道・・・・ッ》

 

「美九・・・・!」

 

スピーカーから、美九の声が響き渡った。

 

《一体なんのつもりかはりしませんけどぉ、こうなった以上はもう逃げられませんよー? さ、皆さん、捕まえちゃってください。少しくらいなら痛め付けても良いですけどぉ、できるだけ丁重に扱ってくださいねぇ?ーーーーでないと、私がやる分が減っちゃいますしぃ》

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーッ!!』

 

底冷えする美九の声がブツッと切れると、入れ替わるように、美九の信者達が轟声を上げる。

 

≪おい分かっているな。甘ちゃん思考は捨てておけよ。この脳髄にまで糖分が廻っている全身糖尿病生物!≫

 

「誰が糖尿病だ!!」

 

[バインド プリーズ]

 

ウィザード<士道>が『バインド』の魔法を使うと、緑色の風が信者達の身体に巻き付いて拘束した。

 

「あらあら、ようやく士道さんも腹を括ったようですわね?」

 

「・・・・傷つける訳じゃないからな。こんな事に無駄な時間も使えねえよ」

 

ぶっきらぼうに話すウィザード<士道>を、狂三はクスクスと笑みを浮かべる。

 

「良いではありませんの。目的の為なら荒っぽい手を使うのは当然ですわ。そんな『覚悟』もない甘ったれな殿方よりは大分マシになりましたわ」

 

「・・・・・・・・」

 

ウィザード<士道>は狂三をお姫様抱っこして、セントラルステージへと飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・っ」

 

セントラルステージの中に到着すると、異様な光景が広がっていた。観客は少女達で埋め尽くされていたがーーーー少女達は皆倒れ、苦しげに呻いていた。

辺り一帯の地面には、ステージの暗さとは違った、暗い闇が蟠っていた。

そしてこの光景には覚えがある。そう。今からおよそ3ヶ月前ーーーー狂三が高校に通っていた頃に1度だけこよ異常な体験していた。

 

「これは、〈時喰みの城〉・・・・っ!?」

 

「ーーーーきひ、ひひひッ。ご明察。よく覚えていましたわね、士道さん。一応の保険ですわ」

 

狂三がニィと唇の端を歪め、ウィザード<士道>に顔を向けてくる。金色の文字盤が描かれた左目の上を、時計の針が高速で回転していた。

〈時喰みの城〉は、天使の能力を使用する際、自分の『時間』を消費しなければならない狂三が、外部から『時間』を補充する手段である。

自らの影を踏んでいる人間を昏睡状態にし、その人間の『時間』ーーーー即ち寿命を吸い上げる能力だ。

 

≪ま、これはこれで便利ではあるな≫

 

「狂三、お前、こんな危険な・・・・!」

 

「きひひ、大丈夫ですわよ。1人あたりから頂いている時間は大したことはありませんわ。今から摂生に勤めれば十分お釣りが来るレベルですし、それに彼女との交渉を邪魔されてはたまりませんもの」

 

狂三が最奥のステージに視線を向け、ウィザード<士道>もそれを追うとステージの上。

そこに彼女がいた。

パイプオルガンの形をした巨大な天使・〈破軍歌姫<ガブリエル>〉を背に、煌めく霊装を身に纏った少女が、悠然と立っている。

誘宵美九。音と声を操る精霊、〈ディーヴァ〉でありーーーー今この場所を統べる主である。

そしてその脇に、メイド服の上に霊装を限定的に顕現させた、各々天使を携えた四糸乃と八舞姉妹の姿が見て取れた。

 

「美九!」

 

地面に降りて狂三を下ろしたウィザード<士道>が、名を呼ぶと同時、美九が大きく溜息を吐く。

 

「何ですかぁ、その声。汚らわしい音声で私や、私の精霊さんたちの鼓膜を汚さないでくれませんかー? 本当に不愉快な人ですねぇ。無価値を通り越して害悪ですねぇ。例えその身が粉になって地に還っても、新たな生命を育む事なくその地に永遠に消えない呪いを振りまくレベルの醜悪さですねぇ。ちょっと黙ってくれませんか歩く汚物さぁん」

 

「・・・・・・・・」

 

間延びするような口調で放たれる罵詈雑言のマシンガン。ドラゴンで慣れていなければ心が折れてしまう。

 

「美九! 聞いてくれ! 俺は今から十香ーーーーあの時拐われた女の子を助けに行かなきゃならない! だからーーーー」

 

「黙ってくださいって・・・・言ってるでしょぉぉぉぉぉぉぉうッ!」

 

美九が叫び声を上げ、肘を抱くようにして手をバッと広げると、その手の軌跡を辿るように、虚空に光輝く鍵盤が現れる。

 

「〈破軍歌姫<ガブリエル>〉ーーーー【行進曲<マーチ>】!!」

 

 

そして両手の指を、激しく鍵盤に走らせていく。

 

すると会場中にその名の通り、勇気を奮い立たせるかのような曲が響き渡った。

瞬間ーーーーぐったりしていた観客席の少女達が、まるで糸を引かれた人形のように、急にこの場に立ち上がる。

 

「こ、これは・・・・!」

 

「あら、あら」

 

狂三の方を見やるが、彼女の左目の時計はまだ逆回転で動いており、彼女も目を丸くした。〈時喰みの城〉を解除した訳ではない。即ちこれは、美九の力によるものだ。

 

≪どうやらヴァンパイアに操られた女達のように、身体能力をギリギリまで引き上げたようだな。ようは火事場の馬鹿力を使っているようだ≫

 

ドラゴンの説明が終わると、美九が勝ち誇ったように笑い、さらに演奏を激しくする。

 

「さあーーーーもう捕まえろなんて悠長なことは言いません。私の可愛い女の子たち! 私の目の前で! その男を殺しちゃってくださぁいっ!」

 

美九の声と共に、数千人はいようかという観客席の少女達が一斉にウィザード<士道>達の方に顔を向ける。

 

「く・・・・っ!」

 

ウィザード<士道>は身構え、『バインド』を使おうとする。

ーーーーだが、その少女達がウィザード<士道>達に襲いかかるより先に。

 

「きひひ、駄ァ目、ですわよ。そんなふうに勝ち誇ってしまっては」

 

狂三が唇を三日月型に歪めたかと思うと、影が、会場全体を真っ黒の闇に塗り潰した。

 

「だって、その少女達をいくら強化しようとーーーー『わたくし』には敵わないんですもの」

 

「な・・・・!?」

 

舞台の上から、美九が狼狽の声を響かせる。だが、それも無理からぬ事だった。

美九によって支配された領域であるステージのあらゆる場所から、突如として幾人もの狂三が現れ、観客席の少女達の手を、足を、身体を拘束していったのだから。

 

「ーーーーッ!」

 

≪本当に厄介で、面倒な能力だ・・・・≫

 

その異様な光景に、美九だけでなくウィザード<士道>、も一瞬声を失い、ドラゴンは改めて狂三の天使の厄介さに渋面を作った。

だが。すぐにウィザード<士道>はハッとして狂三の方を向いた。

 

「狂三!」

 

「わかっていますわよ。殺しはしません」

 

狂三は、ウィザード<士道>が言うよりも先に、その意図を察して、やれやれだぜ、とかぶりを振った。

 

「な、何ですかこれはっ!一体何が・・・・!」

 

美九が金切り声に応えるように、床から、壁から、座席から“生えた"幾人もの狂三達が一斉にくすくすと笑う。全方位に響く妖しい声。その光景は、さながら気の触れた画家が描き上げた絵画のような、まさしくーーーー悪夢<ナイトメア>と呼ぶに相応しい違和と不条理に溢れていた。

しかし、これで美九側の陣営を全て抑えることができたかと言えばーーーー決してそんな事はなかった。

 

≪『ディフェンド』だ!≫

 

「〈颶風騎士<ラファエル>〉ーーーー【穿つ者<エル・レエム>】!」

 

 「呼応。〈颶風騎士<ラファエル>〉ーーーー【穿つ者<エル・ナハシュ>】!」

 

ドラゴンの指示と共に、そんな声が、上空から轟音と共に突風が襲いかかってくる。

 

「くぉ・・・・っ!」

 

[ディフェンド プリーズ]

 

ウィザード<士道>は圧倒的なその風圧に、風の防御壁を展開して、どうにか踏み止まった。

そして防御壁を解除すると、ステージ上から空に飛び上がった2人の少女を見上げる。

 

「耶倶矢、夕弦・・・・!」

 

メイド服の上に拘束衣のような霊装を、背には隻翼を顕現させた双子の精霊が、それぞれ巨大な槍とペンデュラムを構えて、ウィザード<士道>を見下ろしている。

 

「また性懲りもなく来よったか、く、面妖な手を使いおって! 姉上様に危害を加えようとする者は、たとえ誰であろうと容赦せぬ! 煉獄に抱かれたくなくば疾く去ね!」

 

「警告。これが最後通牒です。今すぐ消えてください。これ以上刃向かうようであれば、士道さん、本気で貴方を排除せねばなりません」

 

耶倶矢と夕弦が空中に静止しながら、ウィザード<士道>に鋭い視線を浴びせてくる。冗談でも悪ふざけでも無い。2人の視線には、はっきりとした敵意が込められていた。

 

「お、お姉様には・・・・指一本、触れさせません・・・・!」

 

同じように、大きな兎型の天使ーーーー〈氷結傀儡<ザドキエル>〉の背に張り付いた四糸乃が冷気の結界を張り、美九に狂三の分身体が群がるのを防いでいた。

それを見てか、顔を強張らせていた美九が再び顔に余裕を取り戻し始める。

 

「ふ、ふふ・・・・そうですよぉ。私には今、可愛い可愛い精霊さんが3人も付いているんです・・・・! 負けるはずがありません!」

 

すると、会場内の狂三が、またしても至る所からくすくす、と笑った。

 

「きひひ、ひひ」 「ひひひひひひひ」

 

「ああ、ああ」 「確かに精霊さんを」

 

「相手にするのに」 「天使なしでは」 「少しばかり」

 

「分が悪いかもしれませんわねぇ」

 

木々の生い茂る森を風が吹き抜けていくかのように、そこら中から声がこだました。流石に四糸乃八舞姉妹も気味悪がってか、不快そうに顔を歪める。

狂三が悠然と片手を挙げ、謳うようにその名を呼んだ。

 

「ーーーーさあ、さあ、御出でなさい、〈刻々帝<ザフキエエエエエエル>〉。不遜で身の程を知らない精霊さんに、少しお灸を据えて差し上げましょう」

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