デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー士道sideー
狂三が自身の天使の名を呼んだその瞬間。ステージの入り口を遮るように、地面から金色の時計が姿を現す。狂三の身の丈の倍はあろうかという巨大な文字盤の上で、古式の歩兵銃と短銃がそれぞれ時計の針のように時を指し示していた。
時間を司る強力無比な天使・〈刻々帝<ザフキエル>〉である。
狂三が唇を歪めると、バッと両手を広げてみせ、その動作と同時に時計から2丁の銃が外れ、狂三の手に収まる。
そして狂三が囁くように、ウィザード<士道>に言葉を向けてきた。
「さあ、士道さん。準備はよろしいですの?」
「え? 準備って・・・・」
「今から美九さんと2人きりにして差し上げますわ。何とか説得を試みてくださいまし。改心させられるのであれば良し。それが不可能ならば、『十香さんの救出を邪魔しない事』だけでも約束させてきてくださいまし」
狂三はそう言って、ウインクをしながら短銃の銃身に口づけをした。
「〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーーー【一の弾<アレフ>】」
狂三が言うと同時、時計の文字盤の『Ⅰ』の部分から影が滲み出て、狂三の短銃に吸い込まれていく。
それと同時に、会場内に銃を握った新たな狂三達が姿を現し、上空の八舞姉妹に影の銃弾を何発も放つが、八舞姉妹は鬱陶しいと言わんばかりにお互いの手を取り合い、その手を軸に空中で身体を回転させ、彼女達を中心に凄まじい風を巻き起こし、狂三達の放った漆黒の弾丸を容易く弾き飛ばした。
≪はぁ、明らかに〈ベルセルク〉達の足止め目的の攻撃に気づかんとは、2人でもまだまだ半人前だな≫
ドラゴンが溜息混じりにそう呟くと同時に、本物の狂三が【一の弾丸<アレフ>】を込めた銃を、ウィザード<士道>に向け、漆黒の銃弾が仮面を解除したウィザード<士道>の眉間に突き刺さり、すぐに自分の眉間にも突き刺す。
「ぐぅっ!」
それが殺傷目的の弾丸ではないと分かっているが、それでも眉間に刺さる激痛に歯を食いしばって耐えると、ウィザード<士道>は美九のいるステージの方を睨むと仮面を展開し、地面を踏みつけて狂三と共に駆け出すと、一瞬で八舞姉妹の下をくぐり抜け、美九のいるステージの方へと疾走した。
『撃ち込んだ対象の時間を加速させる能力・【一の弾丸<アレフ>】』。
スピード特化のハリケーンスタイルと組み合わせればまるで『アクセルフォーム』か『クロックアップ』にも匹敵する超加速となる。
「なーーーー!」
「戦慄。今のはーーーー」
上空から耶倶矢と夕弦が、戸惑いがちにウィザード<士道>の姿を追って狼狽の声を上げた。
全方位からの銃弾が足止め目的であると気づき、慌てて滑空を始めた時にはもう、既にウィザード<士道>はステージ上に辿り着いていた。
「・・・・!」
『わっ! わわっ!』
ステージ上に控えていた四糸乃と〈氷結傀儡<ザドキエル>(よしのん)〉も、突然の事態に慌てたようだ。いきなり目の前に現れた敵から美九を守ろうとしてか、ステージ上に氷の壁を形作っていく。
しかしその瞬間、周囲から幾人もの狂三がミサイルの如く〈氷結傀儡<ザドキエル>〉に飛びかかった。
「きひひひひひひひひッ!」
「き、きゃ・・・・っ!」
『のわー! なんなのよさ君達はー!』
四糸乃がぐいと両手を引き、〈氷結傀儡<ザドキエル>〉が身を反らす。それと同時に、彼女らの周囲に空気中の水分が凝結した、氷柱のような形をした氷塊が生まれた。それらが四方八方に弾け、迫り来る狂三達を迎撃する。
だが、それによって結界の生成に数秒のタイムラグが発生した。氷壁が完成する寸前に、ウィザード<士道>が目にも止まらぬ高速の動きで美九に肉薄する。
「ひ・・・・っ」
「やっと会えたな、美九!!」
漸くここまで近くで対話できるようになったウィザード<士道>がそう言うと、それがかなり気に障ったのか、美九は怯えたように見えた顔を怒りで赤く染めて、すぅっと息を吸った。質量のある音圧を放とうとした。
がーーーー。
「あはァ」
その瞬間、美九の足元に漆黒の影が広がりーーーー中から飛び出した狂三の分身体が、背後から美九の口を塞いだ。
「む、むぐっ!?」
美九が目を白黒させ、拘束から逃れようと手足をジタバタと動かす。
しかしすぐに、影から狂三たちが這い出、美九の手足を絡め取った。そしてそのまま、ゆっくりと美九を影の中に引きずり込んでいく。
「んぐーっ! むんんんんんんんーーーーっ!?」
必死に抵抗するも、美九に何人もの狂三に抗うほどの膂力はないらしく。徐々にその身体が、闇に飲み込まれていく。
「く、狂三! 何してるんだ! 話が違うじゃーーーー」
ウィザード<士道>は言葉の途中で息を詰まらせた。
狂三の前に近くに立っていたウィザード<士道>の身体もまた、ゆっくりと足元の影に沈み始めたのである。
「な・・・・! 狂三!?」
仮面越しに驚愕に目を見開き、なんとか逃れようともがくが、狂三の手はウィザード<士道>を離そうとしなかった。変身していても、数の暴力には敵わず、エレベーターのように視界が段々と下がっていく。
「くーーーーあ・・・・っ」
「きひひ、ひひひひひひひ」
狂三の甲高い笑い声を聞きながらーーーーウィザード<士道>の視界は、真っ黒に染められた。
◇
「・・・・あれ?」
闇の中で、士道はぱちくりと目を瞬かせた。
今、確かに士道は狂三の影に飲まれたのだがーーーー少なくとも士道には未だ、意識も身体の感覚も残っている。
士道は眉をひそめながら身体を見ると、変身が解除されていた。
「ドラゴン、変身が・・・・」
≪これから対話をしようと言うのに、変身した状態では無骨だろう≫
ドラゴンの言葉に士道は辺りを見回すと、そこにはただ茫洋とした闇が広がるのみで、他にも何も見当たらなかった。
「ここは・・・・狂三の影の中なのか?」
≪それよりも、後ろで騒がしくなりそうなお子ちゃまをどうにかしろ≫
「ああっ、何なんですかもうーっ! ここはどこですかー」
と、背後から聞き覚えのある声が響いてくる。士道は振り向き、そちらに目をやった。
「美九!?」
「・・・・むっ」
美九も士道の姿を認めたようだ。一瞬驚いたように目を丸くしてから、すぐに忌々しげな顔を作り、大声を発そうとして大きく身体を反らす。
が、その動作は寸前で止められた。辺りに溢れていた影が美九に絡みついたのである。
「ひ・・・・っ!?」
美九が身を竦ませる。すると何処からともなく、くぐもった声が聞こえてきた。
『きひひ、おいたはいけませんわよ、美九さん』
そしてそれと同時、小さな、しかし何人もの笑い声が辺りから響き渡る。
『ーーーーさぁ、一つ目の約束は果たしましたわ。あとは士道さん、あなたにお任せします。とはいえ、あまり時間はありません。お急ぎになってくださいまし』
「は、はは・・・・」
士道は力無く頰をぴくつかせた。『士道と美九を二人きりにする』・・・・確かにその約束は果たされているのだが、少々強引なやり方な気がしないでも無かった。ていうか、事前にの説明くらいしてくれても良かったのではないのだろうか。
だが、あの夥しい軍勢に四糸乃と八舞姉妹といった精霊達に守られた美九と1対1で対話するには、確かにこれくらいしか方法はなかっただろう。士道は気を取り直して美九に向き直った。
ーーーー対話を、する為に。
≪ま、上手くやれ。また感情に流されて大失敗するでないぞ≫
「(分かってる)・・・・美九」
「・・・・ふん」
呼び掛けるが、美九はプイッと顔を背ける。
流石にこの状況で士道を攻撃しないが、何も話す事などないと、腕組みしながら不快そうに顔を歪める。士道の言葉に耳を傾ける気は毛頭無いようだ。
士道は美九の目の前まで歩みを進めると、深々と頭を下げた。
「先ずはお前を騙していた事を謝らせてくれ。本当にすまない・・・・!」
すると、美九がチラと士道を一瞥してからフンと鼻を鳴らす。
「・・・・最悪です。最悪の方程式が決まった! ですー。男である事を隠して私に色々した挙げ句、あんな汚らわしいモノを見せつけるなんてぇ・・・・!」
言って、ワナワナと両手を震わせる。色々したのも無理矢理見たのも美九なのだが、時間も無いので士道は話を進める。
「騙していたのは俺が悪かった! でも・・・・それに皆を巻き込まないでくれ! 操っている人達や、四糸乃に耶倶矢、夕弦を解放してーーーー」
「う・る・さぁぁぁいっ! 黙ってください喋らないでくださぁいっ! わ、私をあれだけ辱しめておいて、何を都合の良い事を! あなたの話なんて聞きたくありませんっ!」
「み、美九・・・・」
「気安く呼ばないでくださぁいっ!」
「お、おい」
叫んでソッポを向く美九。
≪・・・・はぁ、まぁ想定内だろう。これ以上は時間の無駄だ。さっさと本題に入れ≫
ドラゴンの言葉に士道は美九に聞こえないように、「了解」と告げる。元から士道に対する好感度が最悪レベルの美九を今すぐ説得できる訳ない。
ただーーーー『十香の救出を試みる士道達の邪魔をしない事』。
この約束さえできれば良いだけである。士道はスウッと深呼吸すると、美九の背中に向かって声をかける。
「ーーーー美九。そのままでいい。聞いてくれ」
「・・・・・・・・」
美九は何も答えないが、士道は言葉を続ける。
「十香ーーーー俺達のステージでタンバリンを叩いていた女の子。もう気づいていると思うが、四糸乃達と同じ精霊だ。そして美九、お前も見ている筈だ。十香が、DEMの魔術師<ウィザード>に拐われるのを」
「・・・・っ」
思い当たったのか、『精霊』と言う単語に反応したのか、全く無反応の美九が、微かに肩を揺らす。
「それに、メデューサやヴァンパイア達、魔獣ファントムもDEMと手を組んでいるんだ。お前だって、ヴァンパイアを見て分かっているだろう? 奴らファントムは危険過ぎるって・・・・」
「っっ・・・・!」
美九はソッと自分の口元を抑える。思い出したのだろう、ヴァンパイアの盾にされて、見るも無惨で、むごたらしく死んでしまった女の人達を。
そこから十香を助けに行く事を美九に告げるが、吐き気を抑え込んだ美九は極めて不機嫌な顔で、十香を助けに行くのは性欲処理の相手がいなくなるからと言うが、士道は十香が大切だからと返す。その際、ドラゴンからブワッと強烈な圧力が放たれる。
美九は自分の命より十香が大切なのかと聞くと、一瞬の逡巡なく、当たり前だと告げる士道に見た事も無いくらい顔を歪ませる。
十香を助けたら、今度は狂三を連れずにここに戻るからこれ以上の被害を広げないで待っていてくれと言うが、そんな約束成立しないと美九が言うと、士道は、天央祭の1日目の約束を持ち出すと、美九は駄々をこね始め、ドラゴンはイライラし出し、士道は美九に落ち着けるように片手を広げる。
「分かった。美九、一つ取引をしよう。お前の霊力を封印するって約束を、別のものに変更してもいい」
「別のもの・・・・?」
「ああ。ーーーー1つ、俺の言う事を聞いてくれればそれでいい」
士道が人差し指を立てながら言うと、美九は嫌悪感を隠さず、渋面を作った。
「何言ってるんですかぁ・・・・?そんなの、結局何も変わらないじゃーーーー」
「ーーーー“十香を助けるのを、手伝ってくれ"」
「・・・・・・・・へ?」
士道の言葉に、美九は目を丸くした。今まで浮かべていた拒絶と警戒に溢れた表情から、一気に力が抜ける。
「そ、それが条件だって言うんですかぁ?」
「ああ、そうだ。・・・・恥ずかしながら、狂三が手伝ってくれても、戦力の差が有るし、フェニックスもいつまた現れるか分からない。十香を確実に救えるか分からない。でも、お前さえいてくれれば、何とかなるかもしれない・・・・!」
「でもぉ・・・・あなたの目的は私の霊力を封印することだったんでしょう? 何でそこまでするんですかぁ?」
「ーーーーそれくらい、十香が大切だからだ。それに、約束したからだ。十香に、『俺がお前の最後の希望』だって。それ以上の戦う理由なんかいらねえよ」
「・・・・っ」
士道が『ドライバーオンリング』を付けた拳を出して簡潔に答えると、美九が再び顔を歪めた。まるで、士道の言葉が信じられないとでもいうように。
「ふん・・・・っ!お断りですぅ! 第一、なんで私がそんな事をしてあげなくちゃならないんですかぁっ!」
「み、美九・・・・」
「もう嫌です! あなたの話なんて聞きたくありません! 何が『最後の希望に』ですかぁ! 全部嘘です! 裏があるんです! 人間みたいな利己的な生き物が、誰かをそんなに大切にする筈が無いんです!」
「美九、お前、まだそんな事を・・・・!」
士道はグッと拳を握ると、苦々しげに顔を歪めた。
そう。狂三に美九の秘密を聞いて尚、分からないのはそれだったのだ。
「何でそんなに人間を拒絶するんだ!お前だってーーーー≪小僧。我をここから出せ≫っ、ドラゴン?」
≪早く出せ≫
有無を言わせない圧力を出すドラゴンの迫力に、士道は困惑しながらも、『ドラゴライズリング』をバックルに翳した。
[ドラゴライズ プリーズ]
士道の真上に魔法陣が展開されると、その魔法陣から本来の大きさのドラゴンが姿を現した。
「きゃぁああ! なんですかぁ! なんで龍が現れるんですかぁ!?」
美九は突然現れた巨大な龍に驚いた声を挙げる。が、ドラゴンはそんな美九にお構い無しに話をする。
『おいそこのお嬢ちゃん。よく聞け、我はコイツの体内にいる魔獣ファントムだ』
「え、あ、あなたもファントム?!」
『そうだ。そしてコイツが魔法使いの力を使える源と言っても良い』
「え?」
『分からんか? つまりだ。ここで我を貴様の『歌』で操れば、コイツは魔法使いの力を失う。始末する事が容易になると言う事だ』
「お、おいドラゴン!」
『黙っていろ』
「っ・・・・」
美九がピクッと反応し、訝しそうにドラゴンを見据える。
「なんでそんな自分達に不利な事を言ってるんですかあ? それに、ファントムに私の『歌』が通じないのはとっくに知っているんですよお?」
精霊の力は魔獣ファントムに通じない。霊力と魔力が、まるで水と油のように反発し合うからだ。
それを聞いてドラゴンは、ハッ、っと鼻で笑いながら美九を見下したような目と態度で美九に向けて声を発する。
『なんだぁ? 散々自分の『歌』を使って好き放題やりたい放題してきた歌姫様は、『歌』の通じない相手とはマトモに相手をしないと? “大した事ないな"』
「(ピクッ)」
声からして男性と思えるドラゴンの挑発に、美九は肩をプルプル揺らしてーーーー。
「良いですよぉ・・・・聴きなさいっ!!」
「お、おいちょっと!」
士道の制止を聞かず、美九はドラゴンに自分の『歌』を聞かせた。士道は脳幹を刺激する強烈な音の波に耳を塞ぐがーーーードラゴンはそんな素振りを全く見せず、美九を見下ろしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
『・・・・フン』
美九が肩で息しながら歌い終わるも、ドラゴンはまたも鼻で笑う。
『やはりな。大した事の無いな。貴様の『歌』は』
「な、何ですってぇ・・・・!」
『もっとはっきり言ってやろうか? 貴様の『歌』はな・・・・“空っぽなのだ"』
「か、空っぽ・・・・?」
『そうだ確かに貴様の歌唱力と表現力、技術はかなり高い。だが・・・・“それだけ"だ。貴様の『歌』には“何にも入っていない"。『空っぽの歌』をどれだけ歌おうとも、我にはただの『雑音』と同レベルかそれ以下だ』
「『雑音』・・・・? 私の『歌』が、『雑音』以下ですってえええええええええ!!!!」
「ま、待ってくれ美九」
『はっ! 貴様のような駄々をこねるしか能が無い小娘に聞かせてやろうか? 我の『歌』をな!』
「えっ?」
そう言って、士道はドラゴンの言葉に首を傾げた瞬間、ドラゴンが『歌』を謳った・・・・。
◇
『ーーーーーーーーーーーー!!!』
「・・・・・・・・」
「ぁ・・・・ぁぁ・・・・」
士道と怒り狂いそうだった美九は愕然とした。
ドラゴンの『歌』に圧倒された。
口から紡がれる言葉。それに宿る・・・・時に情熱的で、時に冷静で、時に激しく、時に優しい歌。美九のような脳幹を揺さぶるような妖しい魅力はなく、聴く者を殴り飛ばすような衝撃に満ちた歌声。
言葉が出なかった。士道も美九も、ドラゴンの『歌』に圧巻されたのだ。
≪ふん≫
ドラゴンは、こんなもんだな、と云わんばかりに歌を終えると、美九は身体が震えながら声を発した。
「み、みと、認めな、認めないもん・・・・! こ、こんな、こんな歌が、わ、私より、私よりぃぃ・・・・!!」
「美九・・・・」
誰がどう見ても敗北感に打ちのめされ、涙目になり茫然自失の状態の美九に士道を声をかけようとした瞬間、深い黒に閉ざされた世界に、一筋の光が射し込んできた。
次第にその光は大きくなり、空間に亀裂が走る。すると何処からともなく、狂三の声が聞こえてきた。
『ーーーーご歓談中悪いのですけれど・・・・そろそろ時間切れですわ』
「え・・・・? う、うわっ!?」
≪・・・・・・・・≫
「きゃっ!?」
ドラゴンの思念体がすぐに士道の体内に戻ると、影に引きずり込まれた時と逆に、全身をいきなり引っ張り上げられるかのような浮遊感に包まれ、頭を激しくシェイクされた感覚と共に、視界に黒以外の色が凄まじい勢いで入り込んでき、一瞬後には、士道と美九は、天宮スクエアのステージの上に投げ出されていた。
「う、うぇ・・・・っ」
急に暗い影の中から引き上げられたせいか、少し目がチカチカする。
だがすぐに目が明るさに慣れーーーーステージ内の様子が見て取れるようになる。
士道を守るように幾人もの狂三が陣を成し、天使を展開した四糸乃や耶倶矢と夕弦がそれを向き合うようにしており、その瞳には明確な敵意が見てとれる。
精霊達が士道と一緒に出てきた美九(茫然自失状態)に声をかけていた。
その隙に狂三が士道に寄り添うように膝を折る。
「立てまして? 士道さん」
「狂三・・・・、一体・・・・」
「言ったではありませんの。タイムリミットですわ。影の中の人々をそのままにするには、影の中に引き込んだ方々をそのまましておくためには、影をその場に開いたままにしておかねばなりませんの。その影が傷つけられれば、その空間は崩れてしまいますわ。ーーーーできる限り時間を稼いでいたのですけど、やはり精霊3人が相手だとそう簡単ではありませんわね」
言いながら、狂三が周囲に目をやる。
その視線を追うように周囲を見回すと、夥しい数の狂三の死体が転がっていた。随分と激しい戦いが繰り広げられていたらしい。
「わたくしの『時間』も無尽蔵ではありませんし、そろそろ退散致しますわよ」
≪この状況ではもう不可能だぞ≫
「ちぃっ!」
士道とて伊達にウィザードとして戦ってきてはいない。美九ともっと対話したいが、状況が理解できないほど(一応)馬鹿では無い。
「分かった。変身!!」
[ハリケーン プリーズ フー! フー! フーフー、フーフー!! バインド プリーズ]
「「「っ!?」」」
再びハリケーンスタイルに変身したウィザード<士道>は美九に気が逸れていた精霊達を風の鎖で拘束した。
「ダメ出しですわ。〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーーー【二の弾<ベート>】」
狂三は握っていた短銃で精霊達を引き金を引き、その弾丸が撃ち抜くと、精霊達の動きがピタリと止まった。
否ーーーー正確に言うと少し違う。その場に停止しているのではなく、非常にゆっくりと動いていた。
「あれは・・・・」
「きひひ、【二の弾<ベート>】。『撃たれたものの時間の進み方を遅くする弾』ですわ。本当なら【七の弾<ザイン>】(停止の弾丸)の方が確実なのですけれど、あれは燃費が悪いですから。今は『時間』を残しておかねばなりませんし、ただ逃げる分にはこれで十分ですわ。〈刻々帝<ザフキエル>〉ーーーー【一の弾<アレフ>】」
そして狂三が高速化の弾をウィザード<士道>に撃ち込むと、ウィザード<士道>は狂三をお姫様抱っこして、その場から飛び去った。
ステージの上では、茫然と自分達を、おそらく正確には、士道の体内に戻ったドラゴンを見据える美九の姿が見て取れた。
◇
「ここまで来ればーーーー」
「士道さん。もう少しあちらへ」
狂三を抱えて夜道を舞い、街中に紛れたウィザード<士道>は、狂三が指差した路地裏に入った。
次の瞬間、ゴウっ、と言う音ともに、上空を凄まじい風が吹き荒れた。確認するまでも無い、八舞姉妹だ。どうやら士道達を探しているらしい。
「あらあら。【二の弾丸】<ベート>では意識までは奪えないとはいえ、あの速度差でわたくしたちを捉えていただなんて。恐るべき動体視力ですわね」
「・・・・・・・・」
ウィザード<士道>は上空を見上げると、八舞姉妹はウィザード<士道>達の追跡を諦めたか、別の方向に飛んでいったのを確認すると、変身を解除した。
「それでーーーー士道さん、美九さんの方はどう思いまして?」
「・・・・ん、思ったより会話できたが・・・・はっきりとした答えは貰えてないからな。すまない狂三。せっかく頑張ってくれたのに」
士道の言葉に、狂三は目を丸くした。
「あらあらあら。士道さんから労いの言葉をいただけるなんて。うふふ、嬉しいですわねぇ。頭を撫でてくださいませんの?」
「あのな・・・・」
調子を崩され、ハアと溜息を吐く士道を狂三が面白そうに笑いを漏らす。
「まあ、大丈夫でしょう。聞いていた限りでは、危険を冒してまでこちらの邪魔をする様子はありませんでしたし・・・・何より、わたくしを警戒させる事もできましたし。でェ、もォ・・・・」
と、狂三が半眼になって、ペロリと舌で唇を舐めながら士道にしながれかかる。
「! な、なんだよ?」
「美九さんを仲間に引き入れようとしましたわよね・・・・? ねェ、士道さん? わたくしの助力では不安だと仰りたいんですの?」
「そ、そういうわけじゃ・・・・」
言い淀む士道の耳元でフフッと小さな笑いが響くと同時に、耳たぶをペロッと舐められた。
「いぃっ!?」
「ふふ・・・・冗談ですわよ。ーーーー確かに敵の戦力は未知数な上に、メデューサさん達と暴走して何をして来るか分からないフェニックスさんがいれば、あの場で戦力を増強しようした士道さんの判断力は賞賛に値します。別にそれについて恨み言を言うつもりはありませんわ・・・・にしても」
狂三が人差し指で士道の唇をなぞる。その淫靡な仕草に、士道は身体を硬直させた。
「士道さんたら・・・・本当に嘘を吐くのがお下手ですわね」
「う、うるせ・・・・」
「あらあら、これでも褒めたのですわよ。まぁ、そう言った頭脳戦や腹芸はドラゴンさんの担当と言うのは分かりますが。そらにしても、ドラゴンさん。貴方があんなに歌が上手いとは思いませんでしたわ。わたくしも聞き惚れてしまいました」
「・・・・俺がバンドの練習をしている間、四糸乃とプラモンスター達と音楽の練習をしていたんだってさ。去年の歌番組で『閣下』の歌が気に入ったからそれを歌ったんだと」
「あらー。それではこれから『ドラゴン閣下』とお呼びしましょうか?」
「やめろって・・・・(それにしてもドラゴン。美九の歌が『空っぽ』って、どう言う意味だ?)」
≪・・・・はぁ、そんな事にも気づかないとは、貴様は本当に『表面だけしか見ていない、本質を理解できない愚か者』だな≫
ドラゴンの毒舌に、何だよ・・・・と、愚痴りそうだった士道は、『白い魔法使い』に渡された『十香の居場所』が記された地図を取り出した。
「・・・・ここに十香が」
「あらあら。士道さんったら、本当に十香さんが大好きですのね。妬けてしまいますわ。・・・・十香さんの救出に協力するのに、条件を増やしてしまいそうですわ」
「条件・・・・?」
「十香さんの前で『俺は十香より狂三が好きだ』と言っていただくとか」
「あのな・・・・」
「うふふ、冗談ですわよ」
舌を出しておどける狂三にペースを乱される士道は、調子を戻すように軽く咳払いしてから、再び地図目を向ける。
「デウス・エクス・マキナ・インダストリー日本支社、第一社屋。そこに十香が・・・・!」
士道と狂三は、地図を頼りに歩き出した。
さて、ドラゴンに歌ってもらった歌ですが、『閣下』が歌う『劇場版ウィザード&フォーゼ』の主題歌である、『FOREST OF ROCKS』です。
仮面ライダーシリーズの中でも結構好きな歌なんです。