デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

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悪魔と魔獣が潜む街

ー真那sideー

 

「うわ~。分かってはいやがりましたが、やはり警備が厳重でやがりますね」

 

「そうですね」

 

真那と仁藤の二人は、既にDEMインダストリー日本支社・第一社屋から少し離れたビルの内部から、双眼鏡で様子を窺っていたが、厳重な警備に渋面を作っていた。

 

「さて、どう行きますか真那さん?」

 

「勿論。正面突破で行きやがりはぐぅっ!?」

 

意気揚々と飛び出そうとする真那のポニーテールを掴んで引き止める。その際、真那の首からグギッと音が響いた。

 

「な、何しやがりますか仁藤さん・・・・!」

 

首をさすりながら恨みがましい視線を送る真那だが、仁藤は冷静に対応する。

 

「今我々が騒ぎを起こすのは得策ではありません。ここに夜刀神十香さんが捕らえられているのは、既に〈仮面ライダー〉にも伝わっているでしょう。彼がここに来てから動くべきです。勝手に騒動を起こせば、逆に彼の邪魔になりかねません」

 

「ですが・・・・!」

 

真那が口を開こうとすると、仁藤のスマホが震え、仁藤が電話に出て、数度の相打ちをすると通話を切り、真那に視線を向ける。

 

「真那さん」

 

「なんでやがりますか?」

 

「課長から連絡です。天宮スクエアを見張っていた仲間が〈仮面ライダー〉を発見。彼は間もなくこちらにやって来るそうです」

 

「兄様がっ!?」

 

「ええ。それで、真那さんにお願いがあります」

 

「お願い??」

 

真那は仁藤から話を聞くと、『グリーングリフォン』を召喚し、“上空にいる組織とコンタクトするように要請した"。

 

「(〈仮面ライダー〉が〈ナイトメア〉と行動を共にしているだなんて、真那さんに知られる訳にはいきませんね)」

 

天敵の〈ナイトメア〉・時崎狂三が兄の五河士道と一緒にいる事を知った時の真那の行動が容易に想像できた仁藤はその事を伏せ、真那を連れてビルの“とある場所"に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー十香sideー

 

「ーーーーでは、次の質問です。〈ラタトスク〉と言う言葉に聞き覚えは?」

 

「ふん! 誰が答えるものか!」

 

その頃、十香はDEMの隔離室で、自分の隣に腰掛けたエレンが、膝に載せた書類束を捲りながら淡々と質問をしてくるが、フンと鼻を鳴らし目を伏せて顔を逸らした。

 

「そうですか。では、次です。“五河士道"、〈仮面ライダー〉が何故天使を扱えるのかご存じですか?」

 

エレンは意に介さず質問を続けようとした瞬間、後ろに控えていたヴァンパイアが前に出る。

 

「エレン・メイザース殿。あまり無理強いな質問をしてもこのお姫様は口を割ってはくれないよ」

 

「ファントム。今は私が彼女に質問をしているのです。しゃしゃり出ないで欲しいですね」

 

「そんな連れない事を言わないでくれ。彼女だって質問ばかりされて疲れているだろうからね」

 

そう言って、ヴァンパイアは拘束された十香の夜色の髪を撫で、肩や手に自分の手を這わせる。

 

「~~っっ! 触るなっ!!」

 

まるで蛇が這いずったような気持ち悪い感覚に、十香は嫌悪感を隠そうとせず、ヴァンパイアを睨んだ。

 

「おやおや、連れないなぁ~」

 

「ヴァンパイア。ふざけているんじゃない」

 

メデューサの人間体・ミサが冷酷な視線でヴァンパイア・ルミ子を止めた。

 

「はいはい」

 

と、ソコで突然、隔離室の扉が開き、エレンとファントム達が振り向く。

ーーーーそしてそこから、2人の男が入ってきた。

1人は背の高い痩身の男。くすんだ銀髪に、顔面にはナイフで切り込みを入れたかのように鋭い双眸が特徴的の、30代半ばの年頃のようなだが、全身に纏う剣呑な雰囲気が、その男を年相応に見せなかった。

もう1人は、中肉中背の軽薄そうな雰囲気をした20代半ばの青年で、緑色の羽の付いた帽子を被り、肩にストールを羽織り、ズボンの左側をたくし上げた奇妙なファッションをしていた。

 

「・・・・っ」

 

軽薄そうな青年はファントムであると察したが、痩身の男が入ってきた瞬間、十香は顕現装置<リアライザ>を展開された訳でも無いのに、途方も無い気持ち悪さに襲われた。

 

「な、なんだ、貴様は・・・・!」

 

十香は戦慄した調子で痩身の男を睨むが、男は十香の思考を見透かしているように唇の端を小さく上げる。

 

「お初にお目にかかれて光栄だ、〈プリンセス〉。いや・・・・ヤトガミトオカだったかな? DEMインダストリーのアイザック・ウェスコットだ。以後お見知りおきを」

 

言いながら、男ーーーーウェスコットがゆっくり十香の元に歩き、友人と話すような気安さで言ってくる。

十香はその度に自分を苛む不快感が徐々に大きくなる。ヴァンパイアは不快感を隠そうとせず、嫌悪感にまみれた視線をウェスコットに向けながら、十香から離れ、隔離室を出ていった。

十香はヴァンパイアに見向きもせず、ウェスコットに精一杯の敵意を視線に乗せて、ウェスコットを睨み返した。

ウェスコットは隔離室を出たヴァンパイアを一瞥した。

 

「・・・・嫌われてしまったかな?」

 

「まぁまぁ気にしなくて良いんじゃないミスターウェスコット。ヴァンパイアは男がいる空間に1秒だって居たくない性分だからね。それに精霊ちゃんとは、これから好かれるようにすれば良いんじゃない♪」

 

「それもそうだねミスターソラ」

 

「あ、はじめまして夜刀神十香ちゃん♪ 僕はファントム・グレムリン。でもソラって呼んでね♪」

 

ウェスコットと友人のように親しく会話している男はファントム、グレムリンが馴れ馴れしく話しかけてくるが、十香は胃からせり上がってくる嘔吐感をどうにか喉で抑え込み、ウェスコットに鋭い視線を向ける。

 

「貴様が首謀者かッ! 一体ーーーー一体何が目的だ・・・・!」

 

するとウェスコットは、十香に視線を向け直し、静かに口を開く。

 

「目的・・・・か。まあ、それ自体は至極シンプルな話だ。君の、精霊の力が欲しいのさ」

 

唇をの端を歪め、続ける。

 

 

「ーーーー世界の理を、ひっくり返す為にね」

 

 

「何だと・・・・?」

 

その言葉の意味が分からず、十香は眉をひそめた。

 

「貴様、何か勘違いしているのではないか? 私にはそんな力などない!」

 

「ああ、そうだろうね。“今の君には"」

 

「今の・・・・私?」

 

十香が訝しげに言うと、ウェスコットは芝居がかった調子で両手を広げてきた。

 

「こちらの世界の君は、存在が安定し過ぎている。だからまず君には、眠りについてもらわねばならない。そうーーーー隣界の海を漂っている時のようにね。いや・・・・正しく言うのなら、“隣界での君に覚醒してもらわねばならない"と言った方がいいかな?」

 

「何を・・・・言って・・・・」

 

「君は」

 

ウェスコットがスッと目を細める。

 

「一体どうすれば、絶望してくれるのかな?」

 

「な、に・・・・?」

 

「世界を憎み、人を恨み、最強の天使でさえその心の間隙を埋められない。それ以外の力に縋らねばならない。そんな状態に、どうすればなってくれる? ASTの記録を見た処、君は以前、理想に近い状態になっているようだが・・・・一体何があったのかな?」

 

「ミスターウェスコット。それなら僕達に心当たりがあるよ。ねぇ~メデューサ♪」

 

「・・・・ちっ」

 

ソラがミサに話しかけるが、ミサは舌打ち混じりに話を始めた。

 

「指輪の魔法使い、〈仮面ライダーウィザード〉が、“ASTの魔術師<ウィザード>の誤射で死にかけた時"だ」

 

「・・・・ッ」

 

ミサの言葉に、十香は思わず頬をピクリと動かした。それはーーーー士道が折紙に殺されかけた時の事を思い出してしまったからだ。

そんな十香の反応を見てか、ウェスコットが悠然と頷いた。

 

「ーーーーエレン」

 

「は。間違いないでしょう。件の五河士道の名が出た時の反応だけ、他のそれとは異なっています」

 

「なるほど。良いだろう、続きは彼を待ってからにしよう」

 

「了解しました」

 

ウェスコットは頷き、踵を返して部屋を出ていこうとする。

 

「待て! 貴様、シドーに何をするつもりだ!」

 

十香がたまらずその背に向かって叫び、椅子から立ち上がろうとする。手を拘束している錠が、微かにミシッと音を立てる。

がーーーーすぐに手足が何かに噛まれたような痛みが走り、視線を向けると、メデューサの頭から伸ばされた髪の先端が蛇となり、自分に噛みついて、全身が動けなくなっていく。

 

「あ、が・・・・!」

 

「黙っているがいい」

 

メデューサの冷酷な声が、鼓膜を揺らす。

 

「シーーーードー・・・・」

 

掠れた声で士道の名を呼びーーーー十香の意識は、闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

ーヴァンパイアsideー

 

「うっ・・・・うウッ・・・・!」

 

「ん?」

 

麗しい美少女達が集まった空間に、穢らわしい汚れが入ってきた不快感から隔離室を出たヴァンパイアが少し通路を歩くと、1つの部屋から女性のうめき声が、人間よりもはるかに優れた聴覚に聞こえ、透視能力で中を見ると、白い患者衣を纏った女性が、うめき声を挙げながらベッドの上で蹲っていた。

赤毛の女性。歳はおよそ20代半ば頃。釣り目の双眸が、どことなく狐のようで、その肢体は成熟した女性の色香がある曲線を描いていた。

 

「マナァ・・・・! よくも、よくモォ・・・・!!」

 

「(マナ? もう1人の指輪の魔法使いの、泣きボクロが特徴的な健康的な肢体のレディだったな・・・・。新しい『恋人』が欲しいし、それに、せっかくの麗しいレディ達を味わえなくて、欲求不満だったしね)」

 

ヴァンパイアは部屋に入ると、女性・ジェシカ・ベイリーが、ベッドの上で横になり、シーツを掻き毟るようにしていた。

ジェシカはバッと起き上がると、ヴァンパイアを睨む。

 

「だ、だレッ!?」

 

「・・・・・・・・」

 

「っっ・・・・い、いィ、いヤーーーー」

 

ヴァンパイアは舌嘗めずりしながら凄絶な笑みを浮かべてジェシカに近づき、ジェシカは全身から恐怖が這い上がってきて、悲鳴を挙げるが、完全防音の部屋の扉が閉まり、その悲鳴は途切れる事となった。

 

 

 

 

 

ー美九sideー

 

天宮スクエアからほど近い場所にある高級ホテル内のレストランで、士道達の襲撃と士道に宿るドラゴンの『歌』に敗北感で、悪い意味で興奮が収まらなかったを案じた亜衣麻衣美衣トリオが取り敢えず夕食を摂って落ち着きましょうと提案したのでソコの従業員から宿泊客まで支配下に置いて、所狭しと豪華な料理が置かれているが、美九は苛立たしげにテーブルを叩いた。

 

「あぁっ、もう・・・・ッ! ムカつきますムカつきますムカつきます・・・・っ! 人間風情が、化け物の風情が私を馬鹿にしてぇぇぇっ!」

 

どれだけの美味しい料理も、可愛い女の子を愛でても、一向に気分が良くならない。

四糸乃と『よしのん』、八舞姉妹に宥められて気持ちを落ち着かせようとするが、その瞬間。

 

【ーーーー十香が、大切だからだ】

 

【貴様の『歌』はな・・・・“空っぽなのだ"】

 

士道とドラゴンの声が脳裏に甦り、美九はまたテーブルを叩くと、皿が跳ねて、グラスから飲み物がテーブルクロスに零れる。

大切と言う言葉を発した士道と、自分の『歌』を空っぽだなんてほざいた化け物の戯言が何度も何度もリフレインしてきて、美九は手に握っていたナイフとフォークをテーブルの上に放ると、ワシワシと髪を掻き毟りながら、頭の中で自分に言い聞かせる。

 

「(人間の発する美辞麗句なんて、全て薄っぺらな物です! 心から信頼なんてしはいけません! 人間なんて、取るに足らない存在です! そうに決まってます! そうでなくてはならないんです!!)ーーーーそうじゃなければ、私はーーーー」

 

「お姉様・・・・?」

 

四糸乃の不安そうな声にハッと我に返ると、誤魔化すように軽く手を振り、後ろに居並んだ亜衣麻衣美衣トリオと八舞姉妹、美九は座っていた椅子を後ろに向け、士道が十香を大切に思っている事が本当なのかと聞く。

最初は亜衣麻衣美衣トリオが、あからさまに目を泳がせながら士道に対して罵詈雑言を言うが、美九が表情を歪めて本当の事を喋りなさいと言うと、3人は諦めたように息を吐いた。

 

「五河くんと十香ちゃんの関係・・・・ですよね。ううん、正直よく分からないんですよね。恋人って訳じゃないみたいですけど、ただの友達って感じでも無いですし・・・・」

 

「そうそう。あ、でも常に一緒にいるのは本当です。十香ちゃんは五河くんといるとホントウルトラハッピーで、なんか微笑ましくなっちゃうんですよねー」

 

「うんうん。五河くんは五河くんで、十香ちゃんのこと大好きよねー。何をするにも気をかけてるし、マジ引くわーって感じで仲良いわよね」

 

「ふぅん・・・・そうですか」

 

美九は半眼を作りながら、精霊達の方に目を向ける。

 

「じゃあ、もし十香さんを助ける為に自分の命を懸けなきゃならない事態に陥ったとしたなら・・・・士道さんはどうすると思いますぅ?」

 

問うと、四糸乃と八舞姉妹は、先ほどまで士道に対してぞんざいな事を言っていた精霊達も、口をモゴモゴさせたり、顎に手を当て考えを巡らしてから応える。

 

「・・・・はい。士道さんなら、そうすると思います。・・・・一瞬の躊躇いもなく、十香さんを助けると思います。例え・ ・・・それで、自分が・・・・死んでしまうとしても」

 

「かか、まあ、士道であればそうするであろうな。賭けても良いぞ。あの馬鹿は、己が身を顧みず死地に足を踏み入れる。それは我の夕弦の為であってもだ」

 

「肯定。悪い言い方をすれば、彼はどうかしています。きっと十香さんの為とあらば、何を捨ててでもそれを為そうとするでしょう」

 

『うんうん。士道くんはそんな無鉄砲な少年だからねぇ! だって彼は・・・・』

 

『よしのん』がそう言うと、精霊達は同時に口を開いた。

 

「「「私達の、希望になってくれたから」」」

 

「・・・・・・・・」

 

美九はさらに渋面を歪める。

 

【ーーーーそれくらい、十香が大切だからだ。それに、約束したからだ。十香に、『俺がお前の最後の希望』だって。それ以上の戦う理由なんかいらねえよ】

 

【ーーーー貴様の『歌』には“何にも入っていない"。『空っぽの歌』をどれだけ歌おうとも、我にはただの『雑音』と同レベルかそれ以下だ】

 

「く・・・・」

 

士道とドラゴンの言葉が、再び頭の中に反響し、美九は苛立たしげに拳を握ると、乱暴に椅子から立ち上がった。そのまま頭をクシャクシャと掻き、息を吐く。

 

「・・・・今日は疲れましたぁ。シャワーを浴びたいですぅ。部屋を用意してくださいー」

 

「は、はいっ!」

 

「お姉様の!」

 

「仰せのままに! マジ引くわー!」

 

亜衣麻衣美衣トリオがシャ~キ~ンと姿勢を正し、美九を先導するようにレストランの扉を開ける。美九はゆっくりとした足取りでそちらに歩いて行きーーーー扉をくぐる寸前で、首だけを後ろに向けた。

 

「・・・・住民の皆さん達に、士道さんの居場所を捜索させてください。もし見つかったら、就寝中でも構いません。すぐに知らせてください」

 

「え・・・・? それって・・・・」

 

亜衣麻衣美衣トリオが目を丸くしてくる。美九はキッと視線を鋭くする。

 

「仕返しする為に決まっているでしょう! 良いから、言う通りにしてくださいっ!」

 

ヒステリックにそう叫んだ美九は、ノシノシと廊下を歩いて行った。

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

時間は既に深夜2時頃。月とまばらな星の下、士道と狂三は目の前に聳え立つビル群を睨め付けていた。

 

「ここに・・・・十香が」

 

士道達がいるのは、天宮市東方に位置する鏡山市のオフィス街の一角だった。時間が時間なだけに人通りの少ない道に、まばらに明かりがついた高層ビルによって、奇妙な雰囲気を放っている。

上方を見上げれば、士道達が立っている通りから先は、特に大きなビルが固まっていた。

 

「ここから先一帯は、DEMの関連施設ばかりですわ。見えるビル群は、全て系列会社の社屋や事務所、研究施設などですわ」

 

「全て・・・・」

 

改めて、自分はとんでもない組織を相手にしていると、今さらながら自覚し、ゴクリと喉を鳴らした。そして、地図に記された中央に見える一際大きい建物、第一社屋を見据える。

 

「あそこに、十香が・・・・!」

 

「士道さん。逸る気持ちは分かりますが、あの建物の何処に十香さんがいるのか分かりませんのよ。焦りは禁物ですわ。なるべく見つからないように気をつけましょう。ーーーーさて」

 

ソコから狂三が作戦を説明した。

目的のビルに到着し次第、狂三の『分身体』が他の施設を襲撃しDEMを撹乱すると言う、単純だが効果的な作戦だ。

しかしここで不安要素がある。魔獣ファントムの存在だ。『狂三達』の情報では、メデューサとヴァンパイアとパピヨンがこの第一社屋におり、さらに騒ぎが起こればフェニックスもいずれ現れる事だ。

 

「ソコで士道さんには、ファントムと戦う以外では極力魔力を無駄に消費しないで頂きたいのですわ。おそらくヴァンパイアさんの力は、メデューサさんにフェニックスさんと同じ幹部級ですので、なるべく魔力を蓄えていてください」

 

「分かった。それで行こう」

 

≪・・・・・・・・≫

 

「(? どうしたドラゴン?)」

 

≪気にするな。しつこい猫が五月蝿いと思っただけだ≫

 

「ーーーーさ、では参りましょうか」

 

「おう・・・・!」

 

ドラゴンの言葉に首を傾げそうになるが、狂三の言葉で、士道は拳を固め、視線を鋭くし、狂三と共にDEMのビル群に向かって足を踏み出し、DEMの敷地内に入った瞬間ーーーー。

 

≪・・・・随意領域<テリトリー>だな≫

 

そう、随意領域<テリトリー>に入った感覚と士道が自覚すると。

 

 

ーーーーウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーー。

 

 

辺りに甲高い音が鳴り響く。

 

「空間震警報・・・・っ!?」

 

士道が顔をしかめながら叫ぶ。そう。精霊が出現する際の災害ーーーー空間震の発生を感知して発される広域警報だ。

辺りの残業中のサラリーマンやコンビニ店員達が泡食って、地下シェルターへと避難する。

 

「精霊が現れるって言うのか!? この辺りに!?」

 

≪愚鈍。そうではない≫

 

「いえ、そういう訳では無さそうですわねぇ。空間震が発生する際の空間の揺らぎは全く感じませんわ」

 

だが。狂三が小さく目を細めながら呟くように言う。

 

≪DEMが鳴らしたのだろう。〈イフリート〉から聞いた話では、奴らは政府にも顔が利く。警報を発令させるなど造作もない。目的はーーーー回避しろ!!≫

 

「っ!!」

 

ドラゴンの言われ、士道は反射的に、狂三は気づいていたように後方に動くと、今まで2人がいた場所に光の奔流が突き刺さり、爆発を起こして地面に大穴を開けた。

 

「くっ、まさか!」

 

「ーーーー目撃者を減らして、大暴れするつもりかもしれませんわね」

 

言いながら狂三と士道が、空を仰ぐように顔を上げ、士道の頬に汗を垂らした。

空には、月と高層ビルをバックにして、全身にCR-ユニットを纏った、銀色の人形の軍団が浮遊していたのである。

 

「あれはーーーー〈バンダースナッチ〉・・・・!?」

 

士道が言うと同時、〈バンダースナッチ〉達が、手にしたレーザーカノンの銃口を一斉に士道達に向け、躊躇いなく引き金を引いてきた

 

≪逃げろ愚図!≫

 

「うわっ!」

 

「ちーーーー」

 

狂三が士道を小脇に抱えて跳躍する。〈バンダースナッチ〉の放った魔力光が地面に炸裂し、小さな爆発が起こり、避難中のサラリーマン達が信じられない物を見たような顔となり、慌ててシェルターに逃げる。

 

「『わたくしたち』!」

 

と、士道を抱えたまま着地した狂三が叫ぶと、瞬時に足元の影が広がり、その中から100人近い狂三が現れ、上空に浮遊する〈バンダースナッチ〉目掛けて一斉に跳躍した。

 

『きひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひッ!』




次回。DEMに突撃します。

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