デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
士道が精霊〈プリンセス〉に、“十香”という名前をつけ、夜には琴理と令音に十香との会話ビデオを見ながら反省会をさせられた次の日。
士道はバイク<マシンウィンガー>に乗って一応学校の様子を見に来ると、ピタリと校門が閉じられ、瓦礫の山と化した校舎を見据える。
「ま、普通に考えりゃ休校だよな・・・・」
非現実ならば魔獣ファントムとの戦闘で馴れているが、それでも学校の様子が気になったので見に来た。しかし、校舎の様子を見てため息を洩らした。
「はあ・・・・あ、そう言えば卵と牛乳が切れていたな」
士道はマシンウィンガーを走らせると、立ち入り禁止の看板を見てバイクを停めて、ヘルメットを外して看板の向こう側を見た。
ここ2日の内に起きた空間震の被災現場を横目に見て、少女の姿を思い浮かべた。
ーーー十香。
昨日まで名を持たなかった精霊、災厄と呼ばれる少女と対話して、士道は確信した。
十香は確かに魔獣<ファントム>をも上回る力を持っている。国の機関が危険視するのも頷ける。目の前に広がる被災現場の惨状を見れば一目瞭然だ。
「・・・・ドー」
しかしそれと同時に彼女が、自らの力をイタズラに振り回し、思慮も慈悲もない魔獣<ファントム>とは違うと言う事を確信していた。
「・・・・い、・・・・ドー」
そんな彼女が、士道の大嫌いな鬱々とした顔を作っている。それが士道にはどうしても許容できなかった。
「おい、シドー」
まあそんな事を頭の中でぐるぐる巡らせていたものだから、何とかなく学校の様子を見に来てしまった訳だが。
≪おい、このボンクラ。いい加減気づけ≫
「・・・・無視をするなっ!」
「ーーーえ?」
さっきまで昼寝していたドラゴンと、通行止めになっているエリアの向こう側から響いてきた声に、士道は首を傾げた。
「え、ええとーーー」
士道は凛と風を裂くような美しい声と自分の記憶にある声の声音を照合させながら、視線の先にある瓦礫の山の上に、明らかに街中に似つかわしくないドレスを纏った少女が、ちょこんと屈み込んでいた。
≪〈プリンセス〉がいるぞ≫
「とーーー十香!?」
その少女は間違いなく、士道が遭遇した精霊だった。
「ようやく気づいたか、ばーかばーか」
背筋が凍るほど美しい貌を不満げな色に染めた少女は、幼稚な悪態を付きながら、トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原形を残しているアスファルトの上を辿って士道の方へと進んだ。
「とう」
通行の邪魔だったのか、立ち入り禁止の看板を蹴り倒し、士道の目の前に到着する十香。
「な、何をしてんだ、十香・・・・」
「・・・・ぬ? 何とはなんだ?」
「なんで、こんなところにいるんだよ・・・・っ!」
士道は叫びながら後方の立ち話をする奥様方、犬の散歩する近所の住人に視線を向ける。
≪安心しろ、空間震警報は鳴ってはいない。〈ラタトクス〉とASTも感知していないと言う事だ≫
ドラゴンの言葉に内心安堵する士道に構わず、当の十香自身はこの異常事態をまるで気にしていない様子で、士道が叫んでいるのかが本当にわからないと言った様子で腕組みする。
「お前から誘ったのだろうシドー。そうデェトとやらに」
「なっ?!(おいドラゴン! まさか十香は俺とデートするために来たのか?!)」
≪そのようだな・・・・(この娘、どうやら小僧に興味を抱いたようだな。この状況を上手く活かせば・・・・)≫
士道は肩を震わせ、ドラゴンも一瞬唖然となるが、直ぐに切り替えて、思考を巡らせる。
「ぬ? なんだ、その態度は?」
「や、だ大丈夫だ。気にしないでくれ」
「ーーーふん、まあいい。それよりもシドー、早くデェトだ。デェトデェトデェトデェトデェトデェト」
十香が独特のイントネーションでデートデートと連呼する。
「わ、わかった! わかったからそのワードを連呼するのはやめてくれ!」
「ぬ? なぜだ?・・・・はっ、まさかシドー、お前私が意味を知らないのをいいことに、口に出すのもおぞましい卑猥な言葉を教えたのか?」
≪おい、このアホ娘、妙な事を口走ったぞ≫
「ーーーッ! し、してねぇしてねぇ! 健全極まりない言葉だ!」
眉をひそめて、頬を赤く染めた十香に、士道は人によっては極めて不健全な事態になる、ちょっとした嘘を言った。
と、士道は居心地悪い視線に身をよじると、近所の奥様方がニヤニヤしながら微笑ましいものを見るような視線を向ける。一部、十香の奇妙な格好に、訝しむような視線が混じっていた。
「・・・・ぬ?」
十香もその視線に気づき、士道の陰に隠れるようにしながら身を隠しながら目を鋭くする。
「・・・・シドー、なんだアイツらは。敵か? 殺すか?」
「いやいやいや、なんでそうなるんだよ。ただのおばちゃん達だぞ」
物騒な事を口走る十香を士道が止める。
「シドーこそ何を言っている? あの爛々と輝く目・・・・まるで猛禽のようではないか。私を狙っているとしか思えない。・・・・放置していては後々厄介な事になりそうだ。早めに仕留めておくのが吉と思うが」
≪確かに新しい話の種を見つけて、目を輝かせてはいるがな≫
「安心しろよ。言っただろ、お前を襲う人間なんてそうそういないんだ」
「・・・・むう」
十香は未だ警戒を滲ませながらも、とりあえずは気勢を収めた。
「まあいい。それで、そのデェトとやらはーーー」
「っ、ちょっ、ちょっと場所を移そう。な?」
≪とりあえず手を握って連れていけ≫
マシンウィンガーから降りて、道の小脇に置いた士道は、恥ずかしげもなく続ける十香の手を、ドラゴンの指示通りに握って連れ出す。
「ぬ。おいシドー、どこへ行く!」
士道に手を引かれながら、十香は不満そうな声を上げるが、士道は十香を連れて人気のない路地裏に入り込む。
「まったくおかしな奴め、一体どうしたと言うんだ」
十香が半眼を作り、やれやれと言った風情で言ってくる。
「十香・・・・お前あの時何処かに転移したようだけど、何処に行っていたんだ?」
いろいろ訊きたい事はあったが、最初に口から出たのはそれだった。士道の使う魔法とも違う精霊の力を聞こうとする。精霊は現出すると、時間が来ると転移してしまう能力があると、琴理達から聞いていた。
十香は少し憮然とした様子で唇を動かした。
「この世界とは別の空間に移るだけだ」
「・・・・どんなところなんだ?」
「よくわからん」
「・・・・はあ?」
≪・・・・・・・・・・・・≫
十香の答えに士道は眉を寄せ、ドラゴンは十香の話を聞き逃さないように、耳を傾ける。
「あちらに移った瞬間、自然と休眠状態に入ってしまうからな。辛うじて覚えているのは、暗い空間をふよふよと漂っている感覚だ。ーーー私にしてみれば眠りにつくようなものだな」
「んじゃあ、目覚めたらこの世界に来るってことか?」
「少し違う。そもそもいつもは私の意思とは関係なく、不定期に存在がこちらに引き寄せられ、固着される。まあ、強制的にたたき起こされているような感覚だな」
「・・・・・・・・っ」
≪・・・・・・・・・≫
士道は息を詰まらせ、ドラゴンは十香の言った話から情報整理していた。
二人は精霊が現れようとする際、空間震が起こるものと認識していた。
しかし十香の話が本当ならーーーこの世界に現れることすら自分の意思ではないと言う事になる。
ならば空間震は事故ではない。ーーーその責任までも十香に、精霊に問おうというのは、いくらなんでも理不尽過ぎる。そして士道の頭に浮かんだもう一つの疑問が過る。
「・・・・いつもは? ってことは、今日は違うのか?」
「・・・・・・・・っ」
十香は頬をピクリと動かし、口をへの字に曲げて視線を斜め上にやり、なぜか頬をほんのり桜色に染めた。
「ふん、し、知るか」
「ちゃんと答えてくれ。もしかしたら大事なイデッ!!」
「む?」
体内のドラゴンが士道の頭を小突いたような衝撃が走り、士道が頭を押さえるように手を置き呻くと、ボソボソと何か呟くのを見て、十香は首を傾げる。
「(何すんだよドラゴン!)」
≪やかましい。今はそんなくだらん事はほうっておけ≫
「(何処がくだらないんだよ! もし十香が自分の意思でこちらの世界に来て、それが原因で空間震が起こっていないのかも知れないなら・・・・)」
≪ハアァァァァァァァァァァ・・・・≫
ドラゴンは士道の言葉に呆れ果てたように盛大なため息を吐いた。
「(な、なんだよその盛大なため息は?)」
≪貴様の鈍感さは、アホウドリやゾウガメにナマコすらも上回るな。〈プリンセス〉はそんなくだらん話をしに来たのではない。貴様とデートするために来たのだろうが?≫
「(そう、だけど、いやでもーーー)」
≪だったらこんな話をしていないで、さっさとデートに連れ出せ、あまり待たせている上に本人にとってはどうでもいい話を延々としつこく聞かれれば、また光線の雨をかまされるのが関の山だ≫
「(・・・・・・・・・・・・)」
≪優先順位を間違えるな。今は〈プリンセス〉にデートを教える事が先決だ。それに当の〈プリンセス〉が、待たされてイラつき始めているぞ≫
「えっ?」
士道はドラゴンに言われて十香を見ると、十香は視線を険しくしていた。
「おいシドー。早くデェトとやらの意味を教えろ」
十香が急かすように言ってくる。これではドラゴンの言うとおり、これ以上追及しては、昨日の光線を放たれてしまいそうだ。
仕方なく過った疑問を置いて、士道はしばしううむと唸ってから口を開く。
「・・・・男と女が、一緒に出かけたり遊んだりすること・・・・だと思う」
「それだけか?」
「あ、ああ」
十香が拍子抜けしたように目を丸くする。が、士道も困る。士道自身はデートなんてまったく経験が無い。せいぜい漫画と映画やドラマやらの知識だけの知識止まり。
しかし十香は腕組みしてむうとうなる。
「・・・・つまりなんだ、昨日シドーは、私と二人で遊びたいと言ったのか?」
「っ、ま、まあ・・・・そうなる・・・・の、かな」
「そうか」
気まずげに頬を掻きながら答える士道に、十香は少し表情を明るくして頷くと、大股で路地裏から出ていこうとした。
「お、おい十香ーーー」
「なんだシドー、遊びに行くのだろう?」
「・・・・! い、いいのか・・・・?」
「お前が行きたいと言ったのではないか」
「や、まあ、そりゃそうなんだが・・・・」
「なら早くしろ。気を変えるぞ」
言って、十香が進行を開始する。
≪あの格好で行かせるのか?≫
ドラゴンに指摘され、士道は致命的な事情に気づいた。
「と、十香! お前、その服はまずい・・・・!」
「なに?」
士道が言うと、十香はさも意外と言ったように目を丸くした。
「私の霊装のどこがいけないのだ。これは我が鎧にして領地。侮辱は許さんぞ」
≪霊装、どうやらお前のウィザードの姿のような物らしいな≫
「とにかくその格好だと目立ちすぎるんだよ・・・・! ASTにだって嗅ぎつけられるぞ! そしたら面倒だろ!」
「ぬ。ではどうしろと言うのだ」
「まあ、着替えなきゃいけないだろうけど・・・・」
近くに服屋は無いし、仕方なく『ドレスアップリング』を使おうかと士道は考えたが、十香が焦れたように唇を開いた。
「どんな服ならばいいのだ? それだけ教えろ」
「え? あー・・・・あ」
士道が少し周りを見ると、見慣れた制服を着た、見知らぬ女子生徒が歩いていた。恐らく休校情報を聞き逃した来禅高校の生徒だろう。
「十香、あれ。あんな服だったら多分大丈夫だ」
「ぬ? ふむ、なるほど。あれならばいいんだな」
言うと十香は、右手の人差し指と中指をピンと立てようとする。
≪おい、攻撃しようとしているぞ≫
「待て待て待て待て待て! 何するつもりだっ!」
士道は泡を食って、十香の手を押さえた。
「ぬ? 気絶させて服を剥ぎ取ろうとしただけだが・・・・」
それが何か? と言うように、追い剥ぎのような理屈を言う十香に、士道は腹の底から大きなため息を吐き出す。
「いいか、十香。人を攻撃するのは駄目だ。いけないことだ」
「なぜだ?」
「・・・・お前だって、ASTに攻撃されたら嫌な気分になるだろ? いいか、自分がされて嫌なことを人にしちゃいけないんだ」
「・・・・むう・・・・わかった。覚えておく」
士道がそう言うと、十香は不服そうに唇を尖らせた。
≪まるで保護者に言い聞かされる子供のようだな≫
次いで、十香は何かを思い起こすように顔を軽く上げる。
「ーーー仕方ない。では服は自前で何とかするか」
そう言って、十香は指をパチンと鳴らすと、途端に十香が身に纏っていたドレスが、端から空気に溶けて消えたと思うと、それと入れ替わるように周囲から光の粒子のようなものが十香の身体にまとわりつき、別のシルエットを形作っていた。
数秒のあと、そこには来禅高校の女子制服を着た十香が立っていた。
「は・・・・な、なんだこりゃ」
「霊装を解除して、新しく服を拵えた。視認情報だけだから細部は異なっているかもしれないが、まあ問題ないだろう」
≪精霊には『ドレスアップ』のような能力が有るようだな≫
「そんな事が出来るなら最初からそっちにしろよ!」
フフンと腕組みしてドヤ顔を浮かべる十香に、士道が叫ぶと十香はわかったわかったと言うようにヒラヒラと手を振った。
「そんな事よりどこへ行くのだ?」
「そ、それはーーー」
士道は軽い目眩を感じた。空間震が発動していないならば、琴理達〈フラクシナス〉のクルーも十香の現界に気づいていない。
ろくなアドバイスをしない琴理や令音やクルー達でも、後ろにいるといないとでは大違いだった。
≪情けない様を見せるな小僧≫
「(でもよ・・・・)」
≪後ろに誰もいない状況だなんて、いつもの事ではないか? お前はファントムとの戦いでは、誰かが後ろでアドバイスしてくれていたのか?≫
「(っ・・・・・・・・・・・)」
ドラゴンに言われ士道はハッとなった。1年前から魔獣ファントムとの文字通り、命を賭けた戦い。
『ゲート』を絶望させる為なら、ありとあらゆる、悪辣かつ非道な手段で人の心を踏みにじるファントム達との戦いは文字通り、命懸けだった。
“後ろでアドバイスする人間”なんていない状況。そんなのこの1年でとっくに経験済みだ。今さら気後れするほどではない。
「(そうだな。・・・・でもよ、“後ろでアドバイス”してくれる人間は、確かにいなかったけどよ。“隣でアドバイスしてくれるヤツ”ならいただろう?)」
≪ん?≫
「(ドラゴン。お前だよ)」
≪・・・・・・・・・・・・≫
「(お前が近くにいてくれるなら、不思議と不安が無くなっていくよ・・・・)」
≪・・・・貴様が死ぬのはいっこうに構わないが、貴様の身体に繋がれている以上、我も無関係を気取れんからな。仕方ないか≫
「(俺とお前は一蓮托生だ。頼りにしてるぜ)」
≪・・・・・・・・・・・・フン、気色悪い≫
そっぽを向いて悪態を付くドラゴン。しかし、いつだって近くにコイツ<ドラゴン>がいてくれた。そう思うだけで、士道はさっきまで感じていた目眩が消え、心が落ち着いた。
「どうした、シドー?」
「いや、なんでもない。それじゃ行くか」
≪おい、一応手は繋いでおけ≫
「・・・・・・・・十香」
「ぬ?」
士道はドキドキしながら左手を十香に差しのべる。
「手、繋がないか? ほら、はぐれないようにさ」
「フ、フン。まあ良いだろう」
十香は一瞬きょとんとしたが、自分の右手を士道の左手に繋いで歩き出した。
今までほとんど女の子と出かけたことがない士道にとっては、女の子と手を繋いで歩くだなんて新鮮過ぎる体験と感覚だ(ちなみに妹モードの琴理はぴょんぴょん跳ねて士道より先に行ってしまうので参考にならない)。
そこまで考えてーーー士道は隣で歩く十香を見た。そこにいるのは、剣の一降りで地を空を裂く怪物ではなく、どう見ても普通の女の子だった。
と、路地を抜け、様々な店が軒を連ねる大通りに出たところで、十香が眉をひそめてキョロキョロと辺りの様子を窺い始めた。
「・・・・っ、な、なんだこの人間の数は。総力戦か!?」
先ほどまでとは桁違いの人と車の量に驚いたらしい。十香が全方位に注意を払いながら忌々しげな声を発した。
ついでに士道と繋いでいない左手の指先五本に、それぞれ小さな光球を出現させるが、士道は慌てて止めにかかった。
「いや、だから違うって! 誰もいないお前の命なんか狙ってねぇから!」
「・・・・本当か?」
「本当だ」
士道がそう言うと、十香は油断なく辺りを見回しながらも、とりあえず光球を消して、左手を下ろした。とーーー不意に、警戒に染まっていた十香の顔から力が抜ける。
「ん・・・・? おいシドー。この香りはなんだ」
「・・・・香り?」
目を閉じて辺りの匂いを嗅いでみると、確かに十香の言うとおり、香ばしい香りが漂っている事がわかった。
「ああ、多分あれだ」
「ほほう」
言って士道は、右手にあったパン屋を指さすと、十香は短く言うと、その方向をジッと見つめた。
≪この小娘、パン屋に興味があるのではないか?≫
「・・・・十香?」
「ぬ、なんだ?」
「入るか?」
「・・・・・・・・・・・・」
士道が問うと、十香はウズウズと身体を揺らして、口をへの字に曲げた。ついでに絶妙なタイミングで、ぐーきゅるるる、と十香のお腹が鳴る。どうやら精霊も腹を空くらしい。
「シドーが入りたいのなら入ってやらん事もない」
「・・・・入りたい。チョー入りたい」
「そうか、なら仕方ないな!」
十香はやたら元気よくそう言うと、大手を振ってパン屋の扉を開いた。
ー折紙sideー
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
塀の陰に隠れながら、パン屋の前で会話する男女をジッと見つめていた鳶一折紙は、一ミリも表情筋を動かさないまま息を吐いた。
登校するも休校だったため仕方なく帰路に付いたが、その途中で五河士道が見知らぬ女子生徒と歩いているのを発見したのである。
それだけでも十分由々しき事態だ。“恋人らしく”、しっとりと尾行を開始した。
だがその少女の貌を、折紙は見た事があった。
「ーーー精霊」
小さく呟く折紙。怪物にして異常存在、世界を殺す災厄。
折紙達ASTが討滅すべき人ならざる者が、制服を着て士道の隣を歩いているのである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし冷静に考えればありえない事でもある。精霊が出現するときには予兆として平時では考えられないレベルの空間震の前震を観測するASTの観測班が見逃す筈はない。だが、それならば昨日のように空間震警報が鳴っている筈であるし、折紙にも伝令が走っている。一応携帯を取りだし確認するが、何の連絡も入っていない。だとしたら、やはりあの少女は精霊ではなく他人の空似なのか。
「・・・・そんな筈はない」
折紙が精霊の顔を見間違える筈がない。
「・・・・・・・・・・・・」
折紙は携帯電話のアドレス帳から、番号を選択して電話をかける。
「ーーーAST、鳶一折紙一曹、Aー0613」
自分の所属と識別コードを簡潔に述べ、本題に入る。
「観測機を1つ、回して」