デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー白い魔法使いsideー
『ぐぅっ!』
士道が美九と遭遇したのと同時刻。
サハラ砂漠の上空でフェニックスの足止めをしていた白い魔法使いだが、突然苦しみだし、飛行スピードが落ちてしまい、砂の海へと降下していった。
『どうしたっ!? もう終わりかぁっ!?』
『(ここまでか・・・・) 残念だがフェニックス。お前との遊びももう終わりだ』
『ザケンナー!』
[ゲフリーレン ナウ!]
向かっていくフェニックスだが、足元に魔法陣が展開され、ソコから冷気が放たれ、フェニックスの身体が氷結した。
『さらばだ』
[テレポート ナウ!]
白い魔法使いは転移魔法でその場を去ると、高温で氷結を溶かすフェニックス。
『けっ! 逃げやがったかっ!』
フェニックスは舌打ちをすると、炎の翼を広げて、日本へと向かっていった。
ー真那sideー
「く・・・・っ」
ビースト<真那>の状況は芳しくなかった。
最強の魔術師<ウィザード>のエレンと、魔力処理を施されたメイジ<ジェシカ>。現状でDEM最強クラスの2人を同時に相手取っているのだ。如何にビーストでも苦戦を強いられる。
メイジ<ジェシカ>の放つマイクロミサイルの群れを避けると、ダイスサーベルを右腕に振り上げ、レイザーブレイドを振り下ろしていたエレンと火花を散らす。
「うぐ・・・・!」
「素晴らしい反応です。では、これはどうです?」
言って、エレンは目にも止まらぬ速さでレイザーブレイドを振るう。
「(ファルコ!)」
≪あいよっ!≫
ビースト<真那>の目がオレンジに光を帯びると、ファルコ<隼>の動体視力と視野の広さで、エレンの雨のような斬擊に対応していると、今度は〈リコリス〉からミサイルが放たれ、〈フラクシナス〉の援護で防がれるが、数が多く、数発のマイクロミサイルが、ビースト<真那>の背中に炸裂した。
「くあ・・・・!」
「きゃははハ! 大当たリィィィ! 駄目よォォウ、後ろにも注意しなくっちゃァ!」
メイジ<ジェシカ>が不快な哄笑をあげる。
体制を立て直そうと後方に逃げようとするビースト<真那>だが、その途中で見えない壁に阻まれる。
「な・・・・ッ!」
それが〈リコリス〉によって生成された限定随意領域<テリトリー>であり、術者以外の空間にも発生させる〈リコリス〉タイプだけができる事だった。
「甘いわヨォォウ! これで終わりネ、マナァァァ!」
「この・・・・舐めた真似を!」
凄絶な顔で笑みを作るメイジ<ジェシカ>。
ビースト<真那>はダイスサーベルを振って随意領域<テリトリー>を吹き飛ばすと、一瞬、決闘の邪魔をされたような不服な顔を作ったが、すぐに首を振って思い直したエレンがその刹那の隙を突いて、レイザーブレイド〈カレドヴルフ〉を振りかぶる。
「ぐーーーーっ!」
ーーーードォオンンッ!!
「くぁっ!!?」
「な・・・・っ」
が、そのエレンの右側のコメカミに突然の衝撃が襲い、体制が僅かによろけると、ビースト<真那>はダイスサーベルでレイザーブレイドの刀身を受け流し、エレンの腹部に蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ・・・・!!」
思いがけない箇所からの衝撃で頭がクラクラしてしまい、対応が遅れたエレンは蹴りを受けて後方に吹き飛び、衝撃がきた右側頭部をさすりながら、怪訝そうに眉を歪め、右方を睨むと、エレン目掛けてレイザーカノンの一撃が放たれた。
エレンはレイザーブレイドでその魔力光を打ち落とすと、ビースト<真那>はその一瞬の隙に後方へと離脱した。
「今のはーーーー」
〈フラクシナス〉からの援護かと思ったがーーーー違う。
攻撃の放たれた方向に目を向けると、ソコには、見に覚えのある少女が浮遊していた。
「とーーーー鳶一一曹!?」
「無事?」
ビースト<真那>の同僚の鳶一折紙だった。
が、その身に纏うワイヤリングスーツとCR-ユニットはASTの物とは異なった物であり、装備も無理矢理集めたような統一感の無い物だった。
「鳶一折紙・・・・? 治療中の筈では。それにその装備は、ASTの物ではーーーー」
エレンが怪訝そうに眉をひそめて小さく呟く。
「・・・・・・・・」
エレンのコメカミを襲った衝撃。それを妙と思ったビースト<真那>は、折紙が現れた方向の少し近くにあるビルの屋上をファルコの視力で見るとソコにはーーーー対戦車ライフルを片付けて屋上から去ろうとする仁藤公平の姿を捉えた。
『では真那さん、また後で』
ビースト<真那>の視線に気づいたのか、仁藤はビースト<真那>に向かってそう言っているように口を動かすと、ライフルの入ったバッグを肩に担いで、そそくさとその場から去っていった。
「まぁ、助かってでやがりますな・・・・」
顕現装置<リアライザ>を使用する魔術師<ウィザード>に、それも世界最強のエレンに通常の質量兵器ではほとんどダメージを与えられない。
しかし、魔術師<ウィザード>の死角となる所からの狙撃、それもビースト<真那>との戦闘中ならば、不意討ちの攻撃が届く事もできる。が、それで倒せるとは仁藤も思っていない、窮地だったビースト<真那>から少しでも意識を逸らせればそれでは良かった。しかも丁度折紙がすぐ近くを横切ったのでそれに便乗しての狙撃だったのだろう。
折紙がビースト<真那>の方に近づき目を向ける。
「ーーーー士道は?」
「え? 兄様・・・・ですか。はい、無事でいやがりますよ」
ビースト<真那>が言うと微かに口元を緩ませる折紙。
「今、何処にいるの?」
「第一社屋の方に」
「そう」
折紙は小さく頷くと、第一社屋に向かおうとするが、エレンが折紙に立ち塞がる。
「行かせると思いますか?」
「・・・・押し通る」
折紙とエレンの随意領域<テリトリー>がぶつかり合い、辺りに魔力の余波が散る。
「鳶一一曹!」
ビースト<真那>はまだ怪我も完治していない上に実力差のあるエレンが相手では殺されると思ったのだろう、折紙を援護しようと動こうとする。
しかし、その瞬間、高出力の魔力砲が放たれ、その進路を防いだ。ーーーーメイジ<ジェシカ>だ。
「ドコに行くノォ? あなたの相手は私でしょォォォウ?」
「この・・・・! っ!」
仮面越しに顔を歪めるビースト<真那>。だが、
ーーーービュォオオオオオオオオオ!!!
「な、なニ!?」
メイジ<ジェシカ>の真上から、とてつもない冷気が滝のように降り注ぎ、戸惑うメイジ<ジェシカ>は降り注いだ冷気が止まると、氷の柱の中に閉じ込められた。
「こ、これって・・・・?!」
ビースト<真那>が上空に視線を向けると、ウサギの耳を付けたフードを被り、左腕にウサギの手甲を装備した青い宝石の〈仮面ライダー〉がいた。
「イエイッ♪ 真那ちゃん、大丈夫?」
≪た、助けに来ました・・・・!≫
「よ、四糸乃さん・・・・?」
それは四糸乃が変身し、よしのんが戦う〈仮面ライダーハーミット〉だった。
ー折紙sideー
折紙は使いなれないユニットの為かやりづらそうだが仕方ない。今纏っているのはASTの物ではない。
SSS<スペシャル・ソーサリイ・サーヴイス>ーーーー英国の対精霊部隊の正式採用装備に在り合わせの武器を装備しているのだ。
これが美紀恵の『心当たり』。
数ヶ月前にASTを襲撃してきた元SSSの隊員達で構成されたテログループが、無人アパートの地下に隠匿していた、ID管理されていないCR-ユニット。
主だった物は全て回収されたが、どうやら美紀恵が発見したまま放置していた潜伏場所に、予備の装備が隠されていたようだ。
「・・・・っ」
折紙は優雅に空中で姿勢を整える少女が、美しい金髪をかきあげるのを捉えた。
「ーーーー鳶一折紙。まさかあなたが出てくるとは思いませんでした」
折紙も、エレンの顔に見覚えがあった。修学旅行に随伴していたカメラマンだ。今思えばあの修学旅行にも不審点が幾つもあった。
目の前の少女が真那を襲っているのを目撃した時も、驚きよりも納得の方が大きかった。
「あなたはベイリーとの戦いで〈リコリス〉を使い、活動限界を超えて戦闘不能に陥ったと聞いています。医療用顕現装置<リアライザ>で処置を施されたとしても、暫くは安静にしていなければならない状態です。老婆心で申し上げますが、あまり無理をすると、死にますよ」
「そんな事は関係ない」
「そうですか」
折紙の手持ちのカードは、正直ブタと言って良い。
だが戦える。死ぬ事になっても、運良く生き延びても、もう二度と戦えなくなるかもしれない。
しかし、そうだとしても、士道を助ける為ならば、どんな奇手も奸知も、それこそ偶然にも頼って構わない。
折紙の戦いが始まった。
ー琴里sideー
「よ、四糸乃!?」
ビースト<真那>の状況は〈フラクシナス〉の琴里達も把握していた。
しかし、美九に操られていた筈のハーミット<よしのん>が助太刀に入ったのは驚いた。
「よ、四糸乃ちゃんが相手をしていたASTの魔術師<ウィザード>ですが、現在、〈ベルセルク〉に変身した八舞姉妹が交戦しています!」
「その八舞姉妹も、間もなくASTを撃墜し終えます!」
クルーからの報告に、琴里は渋面を作る。美九から別の指示が飛ばされたのか、と疑問符を浮かべていると。
≪どうやら上手くいったようだな≫
「っ! ドラゴン?」
琴里の脳内に、ドラゴンからの念話が届いた。
≪我の魔力と精霊達の霊力を融合させた鎧を纏えば、“音の干渉を防ぎ、天使の力を除去できるのでは無いか"と思い試しにやってみたが、大成功のようだな≫
「変身した事によって、美九の天使の力を除去した?」
琴里の呟きに、令音は浮遊カメラを使って精霊達のバイタル状況を検査してみると、
「・・・・確かに、精霊達から異常が検出されない。ドラゴンの読みは見事に当たったようだ」
≪さて、どうする〈イフリート〉。今は少しでも戦力が必要だ。変身すれば貴様も影響を受けない。こんな艦長席で大人しく愚鈍な兄が戻るのを待っているつもりか?≫
「・・・・良いわ。その口車に乗ってあげる。神無月」
「はっ!」
名前を呼ばれて、神無月は敬礼する。
「私も出る。ここは任せるわ」
「お気をつけて」
「(コクン)皆、サポート頼むわよ」
『了解!』
クルー全員が琴里に敬礼すると、琴里は艦橋から出ると、『スピリッドライバー』を腰に当て、転送装置で〈フラクシナス〉の外に出た。
[シャバドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪ シャビドゥビタッチヘンシン~♪]
「変身!」
[イフリート プリーズ]
リングをドライバーに翳すと、琴里の身体を魔法陣が通過し、赤い宝石に包まれ砕けると、〈仮面ライダーイフリート〉へと変身した。
ー折紙sideー
「くっ・・・・!」
折紙は窮地に立っていた。
泥臭いやり方でどうにかエレン・メイザースに立ち向かったが、それでも倒せなかった。
「ーーーーさて、本当ならお相手をしてあげたい所ですが、生憎私も急いでいましてね」
ギリギリと左手で折紙の首を締め付けながら、エレンが静かに声を発し、右手の巨大なレイザーブレイドをユラリと持ち上げ、折紙の頬に当ててくる。
「う・・・・くーーーー」
「アイクのお気に入りですし、あまり殺したくないのですが・・・・どうやら頭も回るようですし、放置するのは望ましくありませんね」
言って、剣の刃を立て、折紙の頬にジュッと言う音がし、鋭い痛みが走る。
「くあ・・・・っ」
だが、その瞬間。
[カマエルブレイカー]
「ーーーー!?」
エレンの背後から音声が聞こえると、エレンは背後に視線を向けると、赤い宝石の〈仮面ライダー〉が赤い刃の斧を振りかぶっていた。
「く・・・・っ!」
エレンがレイザーブレイドで斧・カマエルブレイカーを防ぐと、二つの刃から火花が飛び散る。
「あ、あなた・・・・っ!?」
報告にあった〈仮面ライダー〉に変身した精霊〈イフリート〉だと察したエレンは、何故ここに? と疑問符が生まれ、折紙の随意領域<テリトリー>を疎外していた力がフッと弛んだ。
「・・・・!」
折紙はその刹那の隙をついて身体をグルンと回転させ、エレンの拘束から脱出し、右足の爪先に力を入れ、グッと伸ばすと、刃渡り10センチの刃が現れ、生成魔力を纏わせ、エレン目掛けて足を振り抜いた。
「は、ぐ・・・・ッ!?」
手応えを感じ、エレンが苦悶の声を発する。
が次の瞬間、折紙の足を目に見えない手に掴まれ、ビルの壁面目掛けて放り投げられた。
「・・・・!」
減速も間に合わず、壁に叩きつけられ、幾分かの衝撃を殺せたが激しく咳き込んだ。
「けほっ、けほ・・・・っ」
「あっ・・・・!」
イフリート<琴里>が折紙に気が逸れた僅かな隙をエレンは見逃さず、レイザーブレイドを振り抜いて、イフリート<琴里>を別のビルの窓に叩きつけた。
「かはぁっ!!」
窓をぶち破り、中のオフィスの椅子や机を巻き込んで盛大に転がっていくイフリート<琴里>を尻目に、エレンは折紙の報へと向かう。
「・・・・やってくれましたね」
忌々しげに眉をひそめ、折紙に視線を向けた。
胸元から腹部にかけてワイヤリングスーツが破れ、エレンの白い肌に痛々しい傷痕が刻まれていた。随意領域<テリトリー>で止血を済ませているが、傷を負った際に飛び散った血痕が、白金の鎧を赤く汚し、エレンは切っ先を折紙に向ける。
「余計な邪魔が入ったとはいえ、私の身体に傷を付けた人間は、生涯で“2人目"です。・・・・鳶一折紙。貴女は素晴らしい魔術師<ウィザード>だ。自信を持って誇って良い。ーーーーただし、あの世で、ですが」
「く・・・・」
折紙は痛む身体を随意領域<テリトリー>で支えながら空中を浮遊する。一矢報いたが、絶望的な戦力差がさらに開いた。
が、今度はエレンの左右から、2つの風が突っ込んできた。
「ウェェェェェイ!!」
「奇襲。せいやー!」
黄色と橙色の宝石の〈仮面ライダー〉達が、突撃槍と片手剣をエレンに向けて振りかぶった。
「っ!」
エレンはその挟撃を回避すると、その2つの風の正体が分かった。精霊〈ベルセルク〉が変身した〈仮面ライダー〉だ。
「ふん。我らの神速の攻撃を避けるとは、中々やるではないか」
「集中。油断大敵です耶倶矢。マスター折紙をここまで追い詰めた相手、おそらくラスボス級です」
背中合わせに構える〈仮面ライダーベルセルク・テンペスト〉と〈仮面ライダーベルセルク・ストーム〉。
窓から飛び出したイフリート<琴里>も、ベルセルク<八舞姉妹>と合流する。
「耶倶矢! 夕弦!」
「おお琴里か!」
「心配。無事ですか?」
「それはこっちの台詞よ。ようやく元に戻ったのね?」
「琴里よ。一体何が起こったのだ? 我らは至高の演奏により勝者の頂きに立っていた筈が、いつの間にやらそれより先が忘却の海に沈み覚醒していると、機械仕掛けの魔術師達と戦闘をしているではないか?」
「解説。耶倶矢も夕弦も四糸乃もよしのんも、ステージで優勝してからの記憶が無いのです。気がついてみると変身しており、ASTの魔術師<ウィザード>と交戦していて、ドラゴンから取り敢えず真那の援護とマスター折紙の援護をしろと指示をされたので一応来てみればこの状況です」
やれやれと肩を落とすイフリート<琴里>に、ベルセルク<八舞姉妹>は詳しく聞こうとするが、それよりもエレンがレイザーブレイドをこちらに向けて構えていた。
「状況を手短に説明するとね。十香が悪い奴等に連れ去られて、士道が助けに行っているの。そしてあの魔術師<ウィザード>は、悪い奴等の一味。分かった?」
「なんと! 十香が拐かされたっ!?」
「事件。それは大変です・・・・!」
「そ。取り敢えず私達は、この女を足止めするわよ!」
「良かろう!」
「了解。分かりました」
『カマエルブレイカー』と『ラファエルランサー』と『ラファエルロッドビュート』を構える〈仮面ライダー〉達に、エレンは舌打ちして、不快そうな声を発し、あげる。
「余計な邪魔がまた増えましたね。良いでしょう。〈ベルセルク〉には借りもありますし、〈イフリート〉共々捕獲しましょう」
白金の閃光に、烈火の焔と二つの旋風がぶつかり合った。
「耶倶矢、夕弦ーーーーまさか、精霊・・・・?」
それを見つめる折紙は〈ベルセルク〉の声から双子の少女達を思い出し、四人の後を追おうとするが。
「ーーーー折紙!」
不意に折紙名を呼ぶ声が響くと同時に、折紙の身体が何者かの随意領域<テリトリー>にくるまれて高速で空を滑ると、見慣れたワイヤリングスーツを身体に包んだ女性。AST隊長、日下部燎子だ。
「隊長・・・・?」
「ええ。て言うか、アンタ何でこんなところにいるのよ! 絶対安静だったはずでしょ! それに何よその装備。SSSのーーーー」
「・・・・、離して。私は行かないとーーーー」
燎子の言葉を遮るように声を発した折紙だが、第一社屋から、インプ達が出て来て、折紙達へと向かった。
「〈アンノウン〉!? 何でDEMからっ!?」
燎子が驚いたように声を張り上げるが、そんなのお構い無し、迫るインプ達に、折紙は焦りに渇く喉に唾液を落とし、燎子と並んでインプ達に向かった。
ー士道sideー
『フォール』を使って頑丈な扉の中を潜ると、仮面を展開するのを忘れている士道は素顔を晒したまま、美九を伴い、注意を払って部屋の奥へと歩を進めた。
そして、広くほの暗い研究区画に、緑色のファントムに身体を拘束された十香の姿があった。
「・・・・! 十香!」
≪迂闊な事をするな≫
顔をうつむかせて立っている十香の顔は前髪で見えなかったが、緑色のファントムに腕を後ろで拘束されているようだ。
ソードガンを構える士道はドラゴンに言葉で身体を止めると、緑色のファントムを睨んだ。
「おい! 十香を離せっ!」
『・・・・フフフ。それで離すと思うのかい? 士道くんって本当に面白いね♪』
「っ! 何で俺の名前を・・・・?」
ファントムは含み笑みを浮かべると、その姿を変貌させた。
中肉中背の20代半ばで、緑色の羽の付いた帽子を被り、肩にストールを羽織り、ズボンの左側をたくし上げた奇妙なファッションをした軽薄そうな青年だった。
「・・・・あの人、何処かで・・・・?」
≪忘れたのか、このナマコ以下の低級脳ミソ。〈イフリート〉が起こした5年前の『天宮大火災』の事を話した男だろう≫
「あぁっ!!」
ドラゴンに言われ、士道もようやく思い出した。
「そ。僕の名前は『グレムリン』。でも、『ソラ』って呼んで欲しいね♪」
『ソラ』と名乗った青年は姿を緑色のファントム、グレムリンへと変貌させた。
さらに研究区画の中に、男が1人、グレムリンの隣に現れた。
「くーーーー」
士道はウィザソードガンを構え、美九も警戒するように〈破軍歌姫<ガブリエル>〉の銀筒を構えた。
「ーーーーやあ、待っていたよ。『古の魔法使い』・・・・いや、〈仮面ライダー〉と呼んだ方が良いのかな? お初にお目にかかるね。DEMインダストリーのアイザック・ウェスコットだ」
静かな声で言って、その猛禽類を思わせる鋭い双眸を細め、くすんだアッシュブロンドに長身をした男である。
「アイザック・・・・ウェスコット」
士道とて人並みにテレビと新聞、ネットニュース等で1度は耳にした、DEMインダストリー業務システム執行取締役、アイザック・ウェスコットだ。
しかしそれよりもーーーー。
〈・・・・・・・・・・・・!!!〉
異常な迄にウェスコットに対して鋭い視線と強烈な敵意を向けているドラゴンに、士道は訝しそうにするが、それだけ危険な相手なのかとも思えた。
「よく来てくれたね。〈ディーヴァ〉にーーーー」
と、ウェストコットが美九に視線をやり、次いで士道に視線を向けた途端、言葉を止めた。
「君は・・・・何者だ? まさか・・・・いや、有り得ない、そんな筈は・・・・」
ウェストコットが何かを思案するように、口元に手を当てる。士道は彼の行動が分からなかったが、眉根を寄せて返した。
「俺はーーーー〈仮面ライダーウィザード〉、五河士道。ここに、十香を助けに来た! 今すぐ十香を解放しろ!」
そしてそう叫び、ソードガンの銃口をウェストコットに向ける。
瞬間、ウェストコットは大きく目を見開いた。しかしそれは、銃口を向けられた事に戦慄したわけではないようだった。そしてしばしの間呆けたように士道の顔をまじまじと見つめーーーー。
「〈カメンライダーウィザード〉、イツカーーーーシドウ。君が?」
やがて、クツクツと喉を鳴らし始める。
「・・・・くく、『古の魔法使い』にして精霊の力を扱うことができる少年・・・・話を聞いてまさかと思ったが、なるほど、そういう事か。くく、はは、はははははははは!」
その突然の変貌に、士道は警戒を高め、引き金に引く力をあげる。
しかしウェストコットは、構うことなく身を捩って狂ったように哄笑を響かせる。
「滑稽じゃあないか。結局ーーーー全て“あの女"の掌の上だったというわけだ」
すると、士道の隣に控えていた美九が、気味悪そうに声を発してきた。
「・・・・なんですかぁ、この人。どこかおかしいんじゃありません? あぁあ、だから男は嫌なんですよー」
「別に男とかは関係ないと思うが・・・・アンタのお笑いなんてどうでも良い! それより早く十香を解放しろ!」
士道が銃口を向けてそう叫ぶと、ウェストコットは心底愉快そうに肩を揺らした。
「もしもその言葉に従わなかったら、どうなるのかな?」
「・・・・悪いが無理やりにでも従ってもらう」
士道の脅しに、しかしウェスコットはクツクツと笑った。
「できるのかな、君に?」
「・・・・できるとも。十香を助けるためなら、なんだって」
言うと、ウェスコットは肩をすくめ、
「分かっているよ。ーーーー私はエレンや“ファントム"達ように強くはないんだ。こんな状況に立たされて、怖くて怖くて仕方ないさ。『Mr.ソラ』」
ウェスコットが話しかけると、グレムリンはソラと名乗る青年に呼び掛けた。
「了解♪」
グレムリンが手を離すと、十香は顔を俯かせたまま、ゆっくりと士道の元に歩く。
「十香!」
士道が十香に近づき、美九はお涙頂戴の展開にフンッ、と不機嫌そうに息を吐く。
2人の距離が僅かになると、十香は士道の胸元に抱きついた。
「おいおい十香ーーーー≪っっ!! 小僧! ソイツは〈プリンセス〉ではないっ!!!!≫ は??」
ーーーーズリュッ・・・・。
ドラゴンの言葉の意味が解らなかった士道は呆然と声を発すると、胸元から奇妙な音が聞こえ、ゆっくりと視線を向けるとーーーー十香の右腕が、士道の心臓を貫通していた。
「と、とう、か・・・・っ」
「あ、もう窓の防音システムはOFFにして良いんじゃない? Mr.ウェスコット?」
「そうだね」
その時、士道は前方のウェスコットとグレムリンの会話が聞こえ、そちらに視線を向くと、2人の背後にある強化ガラスで囲まれた空間の中にメデューサがおり、その隣の椅子には・・・・。
『シドー! シドー!!』
“椅子に手足を拘束され、愕然とした顔をした十香がいた"。
「と、とう、か? な、なんでーーーー?」
≪くっ・・・・!≫
士道は訳が分からないと言わんばかりに声を発し、ドラゴンもウェスコットに気が行ってしまい反応が遅れた。
士道の身体を貫いた『十香』が顔を上げると、その瞳には生気が宿っておらず、ゾプッ、と血塗れの腕を引き抜くと、その十香の身体から、“鱗粉が漏れていた"。
「こ、これ、って・・・・?!」
両膝から地面に崩れる士道の背後、美九を後ろから羽交い締めするファントムが現れた。
「ヴ、ヴァンパイアさんっ!?」
「素晴らしい働きだよ。・・・・“パピヨン”」
戸惑いと驚きが混ざった顔の美九、ヴァンパイアは身体を人間体に変えると、『十香』に向かってそう言った。
士道と美九が『十香』を見ると、その身体から鱗粉を撒き散らせ、身体を覆う程の外套に身を包んだパピヨンがいた。パピヨンが外套をほどくと、それは頭部に生えた羽であった。
「ふふふ。パピヨンは自分の羽で身体を覆い、鱗粉で別の人間に変わる事ができるのさ!」
「全く素晴らしい能力だよ。パピヨン」
ヴァンパイアの説明し、ウェスコットがリモコンを操作すると、拘束を解除された十香は勢い良く立ち上がり、身体に巻き付いた電極を引き抜くと、強化ガラスに両手を押し付け、今にも泣き出しそうな顔を作った。
「と、とう、か・・・・ごぶ!」
大丈夫だと、言いたいが、せり上がってきた血が口を塞ぎ、それと同時に士道は視線を保てなくなり、血の池を作りながら、床に倒れた。
『シドー! シドーぉぉぉぉぉぉッ!!』
ガラスの壁を何度も叩き、ガン、ガンと震動させる十香の悲痛な叫びを、ウェスコットとグレムリン、ヴァンパイアは素晴らしい歌声に聞き惚れるかように笑みを浮かべ、メデューサは冷めた視線で状況を見ており、美九は愕然とした貌を浮かべていた。
「十、香ーーーー」
士道はガラスの壁の向こうにいる十香に向けて手を伸ばすが、その手は空しく、床に落ちていった。
≪厄介な事になるぞ、これは・・・・っ!≫
ドラゴンは“これから起こる事態”に渋面を作った。
パピヨンの特殊能力『擬態』。
頭部の羽で全身を包み、鱗粉で別の人間に擬態する事ができる。気配までは変えられないので、本来ならばドラゴンが気づけるのですが、すぐ後ろに十香がいたので気配が誤魔化され、ウェスコットの方にドラゴンの意識の8割が割かれていたので気づけなかったのです。
次回、十香が・・・・!