デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー十香sideー
「ぁーーーー」
十香は目の前で起こった光景に呆然となる。
自分を助けに来てくれた士道が、自分の偽者に胸を貫かれ、倒れ伏している。
ガラスの向こうで、士道が夥しい血の池を広げて、動かなくなっていた。
「ぁ、ぁ、ぁ・・・・」
≪〈プリンセス〉! 落ち着け! 小僧は大丈夫だ! 落ち着くんだっ!!≫
ドラゴンが必死に自分に呼び掛けているが、十香は5ヶ月前に、折紙の放った凶弾で士道が倒れた時と同じ、視界が真っ暗に塗りつぶれる感覚。感情が消えて、暗く深い沼の中に落ちていく、あの感覚だ。
「シドー・・・・シドー・・・・シドー・・・・!」
十香はガラスをガンガンと叩きながら、士道の名を呼び続ける。
≪〈プリンセス〉! 小僧には〈イフリート〉の回復能力がある! 意識を強く持て!≫
ドラゴンの呼び掛けが十香の意識を持たせた。ドラゴンの言葉なら信頼できる。きっと士道は大丈夫だ。また自分に微笑んでくれるはずだ。
だが、十香の希望を蹂躙するように、窓の向こうでウェスコットが十香に目を向ける。
『さあ、精霊。〈プリンセス〉。ヤトガミトオカ。漸く役者が揃った。ーーーーこれから君の大切なイツカシドウを殺そうと思う』
「なーーーー!」
『止めるのならばご自由に、私はそれを邪魔しない。君の持ちうる全てを使って、ファントムを止めて見たまえ。霊装を、天使をーーーーそれでも足りぬのなら、その先にすら手を伸ばして』
「何を・・・・言っている・・・・」
≪〈プリンセス〉! 奴の戯れ言に耳を傾けてはいけないっ!!≫
ドラゴンが叫ぶが、それを聞こえないウェスコットはグレムリンに顔を向ける。
『じきに分かるさ。ーーーーMr.ソラ』
『良いのかい? Mr.ウェスコット』
『優先すべきは〈プリンセス〉だ。『古の魔法使い』にも興味はあるがね。最悪、本当に死んだとしても、“ 霊結晶<セフィラ>”が砕ける事は無いだろう。それならそれで構わないさ』
『あらそう』
グレムリンは両手に持った太刀のような武器を合わせると、それはまるで巨大なハサミのような形状の武器となった。
『ーーーーーーーーーーーーッ!』
瞬間、ヴァンパイアに拘束された美九が美しい声を発したが、グレムリンにはまるで効果が無く、ヴァンパイアが美九の豊満な胸や太ももに妖しい手つきで揉みしだいた。
『そんな事しなくて良いよ〈ディーヴァ〉。君の“歌ごとき”では、私達ファントムには通じないから』
『っ!!』
美九が狼狽の声をあげる。
が、ヴァンパイアはそんな美九の様子に笑みを浮かべながら口を開く。
『そんなにショックを受けなくても良いよ。何せ君には、この素晴らしい美貌とプロポーションがあるじゃあないか、“歌なんかどうでも良い”が、その声と身体があれば、私が存分に愛し、可愛がってあげるよぉ』
『ひぃっ!』
美九は自分の首筋から頬を舌でベロンッ、と舐めるヴァンパイアに、虫酸と恐怖が走ったような悲鳴をあげる。
グレムリンはそれに構わず、ハサミを士道の首に当てる。
「な、何をしているのだ・・・・?」
十香は、理解できず、喉を震わせた。
否、分かっているのだ本当は。しかし、頭がそれを理解しようとするのを拒んでいるのだ。
だって、あの巨大なハサミで挟まれたら、士道は本当に死んでしまう。
士道が・・・・。
楽しい日々をくれた士道が・・・・。
絶望の淵に沈みかけていた自分に、世界の美しさを教えてくれた士道が・・・・。
もう、動かなくなってしまう。
もう、喋りかけてくれなくなってしまう。
もう、微笑みかけてくれなくなる。
≪ま、まずい・・・・!!≫
「あ、あああああああああああああーーーー」
それを認識した瞬間、十香は無意識に地面を踏みつけていた。
「〈鏖殺公<サンダルフォン>〉ーーーー〈鏖殺公<サンダルフォン>〉・・・・ッ!」
叫び、血が出んばかりにガラスを叩きながら、床を蹴りつける。
すると、十香の身体が淡く輝きーーーー限定解除された霊装と右手に天使〈鏖殺公<サンダルフォン>〉が顕現した。
だが、なぜかいつもよりも輝きが足らず、何度も斬りつけても、士道との間を隔てる見えない壁を切り裂けない。
「なぜだ・・・・なぜだーーーーなぜだ・・・・ッ!」
≪(いかん。〈プリンセス〉が冷静さを欠いてしまっている! ちぃっ! 流石に心臓の回復には時間が掛かるかっ!)≫
何度も何度も剣を壁に叩きつけるがーーーー無駄である。
グレムリンがハサミを握る両手に力を込める。
「やめろ! やめろ! やめてくれ・・・・ッ! それだけは・・・・シドーだけは・・・・! 私はどうなっても構わない! 何だってする! 何でも言う事を聞く! だから・・・・だから、シドーを私から奪わないでくれ・・・・っ!!」
『♪~♪~♪~』
しかし、グレムリンは聞く耳を持たず、それ処か、鼻歌交じりに士道の首を切り落とそうとする。
十香は天使を振り上げ、腕が折れんばかりの勢いで壁を斬りつける。だがーーーービクともしない。明らかに、力が足りない。
ーーーー“天使ではーーーー足りない”。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
十香は涙で顔をグシャグシャに汚しながら獣のような絶叫を上げた。最早天使でなくとも構わない。何でもいい。士道さえ救ってくれるのであれば、どんな物でも構わない。この壁を、魔獣達を葬る事ができるのであれば、例えこの身がどうなろうとも構わない・・・・!
ーーーー凶器が、士道の首の皮を切りつけ、血が滴り落ちる。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーッ!」
≪いけない! やめろっ! プリンセ、十香ーーーーーーーーーーーーッ!!!≫
その、瞬間。
意識がふっと途切れるのと同時に、十香は、右手に、天使以外の何を握る感覚を覚える。
否。もしかしたら、それはーーーー。
何かに、“握られる”感覚だったのかも、しれない。
ー琴里sideー
「こんのぉっ!!」
イフリート<琴里>は、カマエルブレイカー・バズーカモードでエレンに焔の砲弾を連射するが、ヒラリヒラリと避けられるか、レイザーブレイドで切り裂かれるで防がれる。
「はぁああああっ!!」
「攻撃。ふっ!」
テンペスト<耶倶矢>とストーム<夕弦>が突撃槍と片手剣でエレンを攻めるが、2対1であるにも関わらず、エレンは2人と渡り合っていた。
「神無月っ!」
《了解しました!》
イフリート<琴里>が神無月に指示を飛ばすと、〈フラクシナス〉の援護の攻撃が放たれるが、エレンはそれをレイザーブレイドで防いだ。
「耶倶矢! 夕弦!」
「応さ!」
「了解」
ベルセルク<八舞>に指示を飛ばすと、ストーム<夕弦>が『ラファエルロッドビュート』を鞭のようにしならせると、〈フラクシナス〉の攻撃を防ぎきったエレンのレイザーブレイドを持った手に鎖が巻き付いた。
「くっ!」
「拘束。琴里、耶倶矢・・・・!」
ストーム<夕弦>がラファエルロッドビュートの刀身を伸ばして拘束したのだ。
それに合わせて、イフリート<琴里>とテンペスト<耶倶矢>がそれぞれの武器を赤と黄色に発光させ振り下ろすと、
「「ハァアッ!!」」
炎と風が合わさり、焔の竜巻がエレンを襲う。
「くっ!・・・・つぁああああっ!!」
が、エレンがレイザーブレイドを拘束されていない手で掴み、竜巻を切り裂く。
「なっ!」
「うそっ!」
「驚愕。なんと・・・・! あぁっ!」
「ぬぅあああっ!!」
エレンが拘束された腕を振るうと、ストーム<夕弦>を振り回し、ビルの外壁に叩きつけ、拘束を解けた。
「夕弦!」
「無事。大丈夫です・・・・」
「厄介ね・・・・!」
ストーム<夕弦>の元に来たテンペスト<耶倶矢>とイフリート<琴里>だが、イフリート<琴里>は仮面越しで渋面を作った。
〈仮面ライダー〉になった精霊を3人。しかも〈フラクシナス〉の援護もあると言うのに、目の前の少女に勝てる気がしない。精々この場に足止めしているのが精一杯だ。真那と四糸乃(よしのん)も来てくれればどうにかなりそうだがーーーー。
「あッはははははははははハ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェッ!」
「くぅっ!」
「うわ! うわ!」
氷の柱を中から砕き、狂気に染まった笑い声と共に、幾百の弾薬を放つメイジ<ジェシカ>の相手をしていてその余裕もない。〈フラクシナス〉もそっちの援護にも回っている。
だが、ここでこの女を士道達の元へ行かせる訳にも行かない。まさにジリ貧状態だ。
その時、〈フラクシナス〉からけたたましいアラームが聴こえ、ピクリと眉を動かす。
それは、通常は使用されない、最厳重レベルの緊急事態通告だからだ。
「何事?!」
エレンに聞かれないように小さな声で言うと、椎崎が震える声で報告する。
《し、司令・・・・〈フラクシナス〉の観測機って、まだ本調子じゃない・・・・とか、ないですよね?》
「はぁ? おかしくなったのは通信関係がメインよ。一体何が起こったの?」
《か、カテゴリー・E・・・・霊力値ぎマイナスを示しています・・・・!?》
「なーーーー」
その言葉に、琴里は目を見開いた。
そしてそれに合わさるように、士道達がいるビルの上部が黒く輝きーーーーその光が、放射状に天に向けて広がった。
「・・・・まさか、霊結晶<セフィラ>の・・・・反転・・・・ッ!」
最悪の事態が、恐れていた事が、現実となってしまった。
さらに、自分の視界の端に、紅蓮の炎を纏った鳥が、第一社屋に向かっているのを捉えたーーーー。
ーウェスコットsideー
「ははははははははは! ははははははははははははははははは!」
目の前で起こった光景を見て、ウェスコットは哄笑を上げた。
突然〈プリンセス〉夜刀神十香の身体が黒く、闇に塗り潰されるように輝き、彼女から溢れた闇とも光ともつかない粒子が、強化ガラスを泥ように溶かし、隔壁もビルの窓も抜けて、全方位へと撒き散らせた。
『へえ! Mr.ウェスコット! これがそうなのかい?!』
面白そうに問いかけるグレムリンに、ウェスコットは胸の裡を埋める万感の思いを乗せた言葉を、呟くように言った。
「そうーーーー〈王国〉が、反転した。さあ、控えろ人間」
両手を広げる。
「ーーーー魔王の、凱旋だ」
ー真那sideー
第一社屋でとてつもない事態が起こっている間に、メイジ<ジェシカ>がビースト<真那>に目掛けて、巨大な魔力砲門〈ブラスターク〉を放つ。
「よしのんさん! 援護を頼むでやがります!」
「ロジャー!」
ハーミット<よしのん>が氷の障壁を作り上げ、魔力の奔流を防いでいると、ビースト<真那>がファルコマントの最大速度でメイジ<ジェシカ>に肉薄し、ダイスサーベルを振りかぶり、メイジ<ジェシカ>に斬りつける。
しかし、メイジ<ジェシカ>も随意領域<テリトリー>を防壁に変化させ、剣撃を防ぐと、凄まじい火花が散る。
が、そこでメイジ<ジェシカ>に異変が現れた。
「ぃ・・・・ッ!?」
不意に随意領域<テリトリー>が弱まったのだ。
弱体化した壁はダイスサーベルに耐えられず、その刃が〈リコリス〉の赤い機体を切り裂き、武器を破壊した。
ビースト<真那>は仮面越しで渋面を作ると、メイジ<ジェシカ>から飛び退き、ハーミット<よしのん>と合流する。
「なになに、どったの?」
「・・・・活動限界です。ジェシカ! 勝負は着きました! 大人しくーーーー」
だが。メイジ<ジェシカ>は残った砲門を向けて来たので、
「おっとぉ!!」
砲撃を放つ前に、ハーミット<よしのん>がメイジの部分以外の〈リコリス〉の機体を凍てつかせた。
しかし、メイジ<ジェシカ>はマスクの下から血を滴り落としながら、狂ったように笑う。
「ーーーーマナ。マナ。タカミヤ・マナ。もう、ももも、もう、負け、けけけけけけけ、けなイ。今度は、負けなイ。もう負けなイ。〈リコリス〉と、この力がががががが、あれば、私は、私は、私はははははははハ」
「ジェシカ・・・・」
ビースト<真那>は仮面の中で唇を噛むと、拳を握りしめた。
詳しい事は分からないが、やはり彼女は、脳に何らかの魔力処理を施され、数十年分の寿命をこの1日に凝縮して強さを得たのだ。
苦悩と憐憫に満ちた眼差しで、メイジ<ジェシカ>を見つめ、自分の胸に手を置く。
ーーーー自分の身体にも似たような処理が施されていた事は、琴里や令音から聞いている。
が、自分にはビーストの力があったから、メイジ<ジェシカ>ほどの処理をされなかったが、一歩間違えば、自分もジェシカになっていた。
「・・・・・・・・」
ビースト<真那>は無言で、ギリと歯を噛み締める。
「マナァ! マママ、マナ。タカミヤ・マナ。アデプタス2ゥゥゥ。前から気に入らなカったのヨ。なんで、なななななんでウェスコット様や、め、メイザース執行部長は、あなたみたいナ東洋人の小娘を重用するノノノノヨォ? なななななんで、あなたが、ビビビビビーストの力ををを、えええ得タのヨ。ワタシが。わ、わたしの方が・・・・絶対に、相応しイ、ノニ。あ、アアアアアデプタス、ナンバー2、二!」
叫びながら、メイジを遮二無二に暴れる。
「・・・・あなたは昔からそればっかりでしたね。嫉妬深くて、功名心が強くて、そのくせ嫌味ばかり言って。そんなんだから、キマイラ達から『三下の噛ませ犬扱い』されるんですよ」
静かに呟きながら距離を詰めていく。ハーミット<よしのん>は静かにビースト<真那>を見つめる。
「でも、貴女の忠誠心は、尊敬に値しましたよ。私は貴女が大嫌いでしたけど、こんな事されなければならないような人間じゃーーーー」
≪っっ!! 真那! 離れよっ!!≫
「っ!」
ビースト<真那>はライオンの叫びで後方に離脱すると、メイジ<ジェシカ>の身体、いや、〈リコリス〉に異変が生じた。
「あは、ははははは、は、ま、ままままぁぁなぁぁぁァ?」
ーーーーグワシャァァァァンッ!!
なんと、〈リコリス〉の機体が、内部から破裂したカのように砕け、メイジ<ジェシカ>の身体が、まるで空気を入れた風船のように膨張しながら、地面へと落下し、土煙をあげる。
「ジェシカっ!?」
ビースト<真那>が名を叫ぶが、土煙が晴れたソコから現れたのは、
ーーーーマァアアアアナァアアアアア!!
身体は巨大な四足獣、登頂部に巨大な角を生やし、どこか『犀』を彷彿させる怪物だった。角の付け根にはメイジ<ジェシカ>の首と胴体が引っ付いた状態になり、口には鋭い牙が幾つも生え、ジェシカの声のような雄叫びを上げた。
「ど、どうなって、やがりますか・・・・?」
ビースト<真那>もハーミット<よしのん>も、突然起こった事態に唖然となり、ライオンが声をあげる。
≪真那! あの女からファントムの臭いが濃くなっておるぞ!≫
「それって・・・・?」
≪あの女が魔法を使える理由が分かったよ! アイツ、“ファントムの因子を身体に入れていたんだ”! そして、それがどういう訳か暴走して、“身体を変貌させたんだよ”!≫
ーーーーマァァァァナァァアアアっ!!
カメレオンからの説明が終わるのと同時に、“ジェシカだった怪物”が、ビルの外壁をよじ登りながら、空中にいるビーストに向かって跳躍し、その大口を開けた。
ー士道sideー
≪いつまで寝ているっ! とっとと起きろ! このゴミ屑紙屑切り屑!!≫
「・・・・!」
士道は、自分の血だまりに横たわり、傷を炎に焼かれながら、その光景を見た。
グレムリンの刃が士道の首を切断しようとした瞬間、十香が喉を潰さんばかりの絶叫を上げると、その身を、黒い粒子が埋め尽くした。
「なん・・・・だ、一体・・・・」
漸く傷が塞がり、鉄の味がする口をどうにか動かす。
明らかに、何かがおかしい。
近くでウェスコットが興奮した様子で騒いでいるが、士道の耳はそれを捉えてはいるが、言葉の意味を脳が理解できない。それほど、十香の身に起こっている異常に、目が釘付けにされていた。
十香の霊装と天使を限定顕現とは明らかに異なっていた。
十香の姿を塗り潰した禍々しい黒光が、放射状に晴れると同時に、漸く十香の全貌が見とれるようになった。
「な・・・・」
≪ぬぅ・・・・!≫
だが。士道とドラゴンはその姿を目にして、息を詰まらせた。
黒い光から現れた十香は、その身に霊装を纏っていたそれは、限定顕現された物ではなかった。
肩と腰に輝く漆黒の鎧。胸元と下半身を覆うように広がる実体の無い闇色のベール。
それは、濃密な霊力によって編まれた、完全顕現の霊装だった。がーーーー。
「霊、装・・・・なのか、あれは・・・・?」
≪・・・・あれは、〈プリンセス〉のと全く別の霊装だ・・・・!≫
十香が纏っている霊装と異なった形と色をしていたのだ。
加え、それよりも気になるのはーーーー十香の、表情だ。
数瞬前まで士道の名を叫び泣きじゃくっていた十香の姿はそこにはなくーーーーただただ超然とした威圧感が滲む、王の如き貌となっていた。
顔の作りも体格も十香であるのに、士道は今目の前にいる少女が、“十香とは別の生き物のような気がしてならなかった”。
そしてーーーー。
「あれ・・・・は・・・・〈鏖殺ーーーー公<サンダルフォン>〉・・・・なのか?」
≪違う・・・・あの女も、あの天使も、〈プリンセス〉の物ではない・・・・!!≫
黒い霊装を纏った十香の右手に握られた巨大な剣は、〈鏖殺公<サンダルフォン〉と異なっていた。
霊装と同じ闇色に彩られた柄と鍔をした片刃の巨大な剣。そしてその刀身は、ボンヤリと黒い輝きの軌跡を空間に残していた。
「ーーーーっ」
士道は背筋を走るゾクリとした悪寒に息を呑んだ。あの剣には、刃物や武器としの剣呑さと、精霊持つ力の強大さ以外に、思わず身震いするしてしまう恐ろしさがある何かがあった。
「・・・・・・・・」
十香は悠然とした調子で、辺りを眺め回すと、小さく息を吐いた。
「ーーーーなんだ、ここは」
「え・・・・?」
士道は眉をひそめた。一体、十香?は何を言っているのだろうか。
十香?はそんな士道の疑問にまるで気付かない様子で、適当に視線を巡らせると、ヴァンパイアに拘束された美九を指差した。
「貴様。答えろ。ここはどこだ?」
「えっ? ええと、DEMインダストリーの日本支社・・・・じゃないんですかー?」
「聞き覚えのない場所だな。ーーーーそれで、私はなぜこんな所にいるのだ?」
「いや、DEMの魔術師<ウィザード>さんに拐われてきたからじゃ・・・・」
美九が困惑した様子でウェスコットの方に視線を向けると、それを追うように、十香?も目をやった。
するとウェスコットが、凄絶な笑みを浮かべる。
「素晴らしい。こうも見事な『反転体』を見たのは初めてだ。ーーーーエレンにも見せてあげたかった。“これが我らの夢”。“我らの悲願だ”」
ウェスコットが喜びの声をあげた次の瞬間。
ーーーードォオオオオオオンンッ!
『っ!!』
第一社屋の壁をぶち破り、炎を纏って現れたソレに全員が目を向けた。
『ははははははは! 面白くなってんなぁ? 〈プリンセス〉よぉっ!』
「フェニックス!!」
フェニックスは士道に目を向けず、十香?の方に目を向けた。
『いよぉ! 〈プリンセス〉っ! 随分と俺好みの様になったじゃねぇ・・・・かっ!』
フェニックスが大剣を振るうが、十香?は顔の向きを変えないまま、剣でその一撃を防ぐと、凄まじい熱風と衝撃波が生じ、士道と美九、ヴァンパイアとパピヨンの身体は軽々と壁に叩きつけられた。
ウェスコットとグレムリンは、二人の前に現れたメデューサが張った障壁で吹き飛ばずにすんだが。
「ぐ・・・・っ」
まだ治りきっていない傷に衝撃が走り、士道は顔を歪め、呻き声を上げた。壁から出た美九が駆け寄る。
「ちょっと・・・・、大丈夫ですかー!」
男の心配をするとは、美九らしくない言葉と行動だが、彼女も気が動転しているのだろう。
士道もまた、目の前の現実を理解できず、幻影でも見ているのではと、軽い現実逃避になりそうだ。
「・・・・何だ、貴様は。 何故私に剣を振るう」
『はっ! 殺り概のある獲物が目の前にいるのに、寝惚けた事ほざくなよっ!!』
「小癪」
フェニックスが業火の大剣を連続で振るうが、十香?は剣を両手に持ち変えて、その剣撃に応戦した。
「・・・・ドラゴン、十香は一体、どうしちまったんだよ?」
≪・・・・我の推測が正しければ、あの〈プリンセス〉は、我らの知る〈プリンセス〉ではない“別の人格だ”。分かり易く言えば、〈ハーミット〉のような多重人格に近い状態となったのだ≫
「なん、だって・・・・!」
≪貴様のバクテリアにも劣る下等な脳ミソと、要領が呆れるほどに有り余っている記憶力で覚えているか分からんが、我らが精霊達のアンダーワールドでファントムを倒した後、精霊達の“核”、『霊結晶<セフィラ>』を見た事があるだろう≫
「あ、あぁ・・・・」
≪その『霊結晶<セフィラ>』の中に、精霊達と全く同じ容姿をした少女が眠っているのも気づいているか?≫
「ああ、あれって、『霊結晶<セフィラ>』ってのに捕らわれた十香達自身じゃなかったのか?」
≪そうではない。おそらくあの『霊結晶<セフィラ>』の中で眠っていた少女が、主人格である〈プリンセス〉を眠らせて現れたのだろう。主人格ともう1つの人格が、『反転』したのだ≫
「『反転』・・・・!」
士道は今まさにフェニックスと剣撃を繰り広げる十香?を、驚愕した眼差しで見つめた。
反転してしまった十香。後にこの十香が、あんな風になるとは思いませんでした。
ジェシカの暴走体は、劇場版仮面ライダー555<ファイズ>の『エラスモテリウムオルフェノク』がモデルです。あれも元々は女性オルフェノクの激情態でしたので。私の中では仮面ライダーの中でもトラウマ級の怪物です。海堂を食らった姿が今でもトラウマです(良くクレームが来なかったな)。
まぁその海堂が、テレビシリーズでは最後まで生き残ってくれたのが幸いでした。数年後の劇場版仮面ライダー000<オーズ>でチョンマゲになりましたが(大笑)。