デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚 作:BREAKERZ
ー美九sideー
「ーーーーーーーー」
美九は、絶望に目を見開いた。
十香?を抑える為に発していた声が、不意に、出なくなってしまったのだ。
「ーーーー、ーーーー」
なんで、と呟こうとするが、それすらも声に出ない。ただヒュウヒュウと、喉から息が漏れるだけである。
「ふん」
「な、何で・・・・!」
≪霊力の使いすぎだ。『声』と天使の連続使用と、目の前の格上の精霊を相手に無理をしたのだろう。一時的に霊力が途切れて、声が出なくなったのだ≫
十香?の鬱陶しげな声と、ウィザード<士道>の狼狽の声が同時に響き、ドラゴンが解説した。
昨日の夕方から深夜となる今まで、霊力を使い続けた為に限界が来たのだろう。
「ふん、小賢しい真似を」
十香?が鼻を鳴らし、〈暴虐公<ナヘマー>〉を振り上げる。
ーーーーウィザード<士道>ではなく、美九に向かって。
「な・・・・っ!」
≪脅威にならない小僧よりも、〈ディーヴァ〉を狙ったか!≫
ウィザード<士道>は、十香?に飛び掛かれるような位置に達していなかった。
「私の身を縛ろうとは。身の程を知れ」
言ってーーーー十香?は、剣を振り下ろした。
「ーーーー」
悲鳴をあげようとも、声はやはり出ない。美九は力無く笑うと、その攻撃を避けようとせず空中でへたり込んだ。否、正しくは、避けるような力も残っていない。
きっと一瞬後に、自分は天使の斬撃に沈む。幸い霊装は残っているが、あの一撃に、自分の霊装が耐えられると思えない。
しかしそれは、仕方ない事だ。
自分には、最初から歌しかなかった。他に、何も持っていなかった。
だから、歌を、声を、音を失った今の自分には、何の価値もない。
『歌』がなければ、もう誰も自分を愛してくれない。『声』がなければ、もう誰も自分を守ってくれない。『音』がなければ、もう誰も自分を信じてくれない。
そんな事、ずっと前から分かりきっている事だった。
思えばこうなる可能性は十分にあった。魔獣<ファントム>や魔導師<ウィザード>達が跋扈するビルの中に乗り込もうと言うのだ。きっと、わざわざこんな危険地帯に出向いた事自体が間違いだった。
せっかく念願の精霊を3人も配下に置いて、最高の時間を楽しめていたと言うのに、なぜ自分はこんな所に来てしまったのだろう。
美九は自問しーーーーすぐに力無く笑った。
そうだ。あの男と魔獣だ。五河士道とドラゴンだ。
自分の『歌』を『空っぽ』だと否定した魔獣に、自分の『声』の力を見せてやりたかった。
美九の1番嫌いな戯れ言を吐くあの男の覚悟を。或いは哀れな末路を。
あの2人がDEMインダストリー日本支社に現れたと聞いた時は驚いた。まさか本当に、自らの命と身を危険に晒してまで十香を助けに行くなどとは思っていなかったのだ。
ーーーー白状すれば。
自分の歌が『空っぽ』である事は、美九自身もある程度の自覚はしていた。これでも、腐ってもプロだ。自分の歌が流れる映像を見て聞いて、自分の『歌』には何の『感情』も入っていない事は分かっていた。初めて歌を歌った楽しさも、ファンの皆への感謝も、歌にかける情熱も高揚感も、“何も入っていない”。ただ自分の演技力と技術で誤魔化した陳腐な歌であると、本当は分かっていた。だが、それを認める訳にはいかなかった。それを認めれば、この『歌』を捨てる事になるからだ。
そしてもう1つ、1度で良いから見たかったのだ。
人間に、男と言う生き物に失望しきった美九だからこそ。
本当にーーーー心から、誰かを愛している人間と言うものを。
士道は、最後まで諦めなかった。
大切な人を取り戻す為に、文字通り血を吐き、死にかけながらも、歩みを止める事は無かった。
もし。もしも、もっと早くこんな男に出会っていたならば。
十香に向ける愛情のほんの1部だけでも、自分に向けられていたならば。
ーーーー私は、もっと違う道をーーーー。
声にならない声を発し、美九はフッと目を伏せた。
だが。
「美九ーーーーーーーーッ!」
怒号のような士道の声が響き、奇妙な暖かさを感じたのと同時に、前方から凄まじい音がして、美九は閉じていた目をハッと見開いた。
ー士道sideー
ウィザード<士道>は、大声で美九の名を叫びながら、半ば無意識の内に進路を変えた。冷静な思考から来たのではない。
ただ単純に。美九の事を助けなければと、身体が動いていた。
美九を死なせてはならないと。
そしてーーーー十香に、美九を殺させてはならないと。
≪小僧。生半可な力ではあの斬撃は防げん。“今の状態で出せる力”を全て絞り出せっ!≫
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ウィザード<士道>は全身に魔力を迸らせると、身体が赤く発光し、炎を纏った。
そしてーーーー。
ー琴里sideー
「はぁぁぁぁぁ・・・・! はぁっ!!」
カマエルブレイカー・バズーカモードから発射される焔の奔流で、パピヨンの放つ鱗粉ごと燃やすイフリート<琴里>。
パピヨンも寸前で羽で身体を包みガードしたが、焔によって頭の羽を燃やされ、鱗粉が出せなくなった。
「たぁあっ!!」
バズーカモードからアックスモードに切り替えたイフリート<琴里>は、直ぐにパピヨンに肉薄すると、カマエルブレイカーの刃を切り上げるように叩きつけた。
ー八舞姉妹sideー
『う~ん良いねぇ、双子の精霊か・・・・どちらも、私好みで、とっても美味しそうだよ!』
ヴァンパイアを相手取っていた八舞姉妹は、自分達の身体をなぶるように見て、舌舐めずりするヴァンパイアに怖気が走り、身震いした。
「何コイツ、スッッッゴい気持ち悪いし!」
「不快。どうやら女性のようですが、まるで下品な変態オヤジのような雰囲気です・・・・!」
『この私を下等で下劣で下衆な男と一緒にして欲しくはないなぁ?』
「断言。いいえ、あなたはその見下している男性と同レベルか、それ以下の最低で最悪な存在です。・・・・それに、耶倶矢を美味しく頂いて良いのは、夕弦だけです・・・・!」
「その通・・・・って、夕弦! なんか今、スッゴく不穏な事言わなかった?!」
「冗談。場を和ませる為の小粋なジョークです。耶倶矢の“前の初めて”は士道に譲りますが、“後ろの初めて”は夕弦が頂きます。ついでに耶倶矢だけでなく、士道の“後ろの初めて”も夕弦が美味しく頂くとして・・・・」
「全然ジョークじゃないし! って言うか、“後ろの初めて”って何なんだしっ!?」
ストーム<夕弦>の言葉に得たいの知れない危機感を抱いたテンペスト<耶倶矢>は、お尻を両手で抑えながら腰を引かした。
『いけないなぁ。私ではなく、汚ならしい男に身体を委ねようだなんて!』
ヴァンパイアが身体を蝙蝠に変化して、波状攻撃を仕掛けようとした。
「はっ! 夕弦!」
「了解。耶倶矢!」
2人は武器に風を纏わせ、力強く振り下ろすと、2つの竜巻が蝙蝠達を巻き添えにして吹き飛ばした。
「かかかか! 軽い! 軽いわ! 吹けば飛ぶとはこの事よの。蝙蝠ごときに、我らの颶風の旋風に抗う事などできぬわっ!」
「当然。蝙蝠の翼では竜巻に呑まれるだけです・・・・ん?」
ふとソコで、ストーム<夕弦>が蝙蝠の群生の中で、“赤く発光する1匹の蝙蝠”を視界に捉えたが、その発光はすぐに消え、他の蝙蝠に混ざって分からなくなっていた。
「(疑問。今のは何でしょう? 見間違いでしょうか・・・・?」
ー真那sideー
「真那ちゃん! 今だよっ!」
「・・・・・・・・」
ビースト<真那>は、ハーミット<よしのん>によって巨体の大半を氷付けにされたジェシカだった怪物を見据えると、何処かやりきれない気持ちで、『クラッシュビーストリング』をビーストバックルに押し込もうとしたーーーー。
ーーーーマァァァァァナァァァァァっ!!
「っ!」
雄叫びをあげる怪物に、一瞬躊躇いが生まれ、動きが止まった。その瞬間、
ーーーーガァアアアアアアッ!!
何と、怪物の口から炎の奔流を放つ。
「なっ!! あぁああああっ!!」
ビースト<真那>は防御が間に合わず、炎を浴びてしまった。
「真那ちゃん!」
≪よしのん!!≫
ハーミット<よしのん>が慌ててザドキエルファングの冷気でビースト<真那>の身体を消火すると、鎧が所々が熱量で溶けたビースト<真那>の姿があった。
「真那ちゃん大丈夫っ!?」
「え、ええ・・・・! ギリギリでやがりますが・・・・!」
ヨロヨロと立ち上がるビースト<真那>に駆け寄るハーミット<よしのん>だが、怪物が氷を砕いて動き出した
ーーーーマァァナァァっ!!
2人を踏み潰そうと二本足で立ち上がりとてつもない勢いで前足を下ろし、2人も目を瞑りそうになったがーーーー。
ーーーーギャァアアアアアアアアアッ!!!
突然怪物が雄叫びを上げ、目を開けて見ると、角の付け根に融合していたメイジ<ジェシカ>の亡骸の胴体に、レイザーブレイドを突き刺した、折紙がいた。
「鳶一一曹っ!」
「くっ・・・・!」
ーーーードォオンッ!!
ーーーーガァアアアアアアアアアッ!!!
折紙が首を振って暴れる怪物から離れまいと、スラスターを全開にさせるのと同時にーーーーメイジ<ジェシカ>の頭を横から弾丸が貫通し、怪物はさらに悲鳴をあげる。
「(っ! 仁藤さんっ!)」
今度は離れた別のビルの屋上から、またもや対戦車ライフルで狙撃した仁藤がいた。
『っっ!!』
『ぐはっ!』
パピヨンとヴァンパイアが吹き飛んできて、怪物の頭部にぶつかると、その衝撃で折紙が手を離し、宙を舞った。
力無く地面に落ちていこうとする折紙の身体を、ストーム<夕弦>が空中で受け止める。
「救助。マスター折紙。大丈夫ですか・・・・?」
「士、道・・・・」
もはや限界だったのだろう、折紙は問いに答えず、そうとだけ言い残して完全に気を失った。
「鳶一一曹・・・・! くぅっ!!」
ビースト<真那>な改めて、リングをドライバーに押し込んだけど
[キマイラ! ビーストクラッシュ! ゴー! ゴー!!]
「ジェシカ・・・・。これで、終わらせてやりやがりますよ・・・・!」
ビースト<真那>の右足に金色の魔力が集まり、金色の魔法陣を通過すると、ライオンキマイラの幻影が現れた。
「はぁああああああっ!!」
『くっ! 死ねるかっ!!』
『っ!』
ヴァンパイアは野獣の牙が自分に突き立てられる寸前、隣いたパピヨンを盾にした。そして。
『ライオン・ファング<牙>クラッシュ』
野獣の牙が、怪物と成り果てた魔術師を粉砕した。
ーーーーギャァアアアアアアアアアッ!!!
『ぐぅあああ!!』
炎の中で崩壊していく怪物を見上げながら、ビースト<真那>はその光景をやるせない気持ちで見つめると、ボソリっと呟いた。
「ーーーーアイザック・・・・ウェスコット・・・・!」
ビースト<真那>は、何処かへと逃げた首謀者のウェスコットへの怒りで、拳をきつく握った。
だが、炎の中から、ヴァンパイアだけが逃れ、地面を転がった。
『ハ、ハハハハ! 私はまだ死にたくないんでね!』
そう言ったヴァンパイアは身体を蝙蝠に変えて逃げ出した。イフリート<琴里>達は追いかけたいが、今はヤツよりも優先しなければならない事があるので、追跡は断念した。
そして、怪物とパピヨンが爆発した場所から、2つのビーストの魔法陣が出現すると、ビースト<真那>のドライバーに吸収された。
「ふぅ・・・・」
≪ん?≫
「どうしたでやがりますか?」
≪いやのぅ、あのパピヨンと言う奴の魔力じゃが、何か薄いのじゃ。“まるで養殖を食ったような感覚みたいでのぅ”≫
「? それって・・・・」
首を傾げるビースト<真那>。
ストーム<夕弦>は漸くインプ達を片付け、こちらにやって来るAST隊員の元に飛んでいき、折紙を丁重に渡してから、皆の元へと戻る。
「あ、あんた達・・・・一体」
折紙を受け取った隊長が訝しげに問うてきたその時。
建物上空で轟音と魔力光が辺りに散らばる戦場の中。一際巨大な爆発音と、凄まじい霊力の波動が起きた。
「「「「「っ!!」」」」」
〈仮面ライダー〉達はそれを見上げて、一斉に飛んでいった。
ーフェニックスsideー
「はぁっ!」
「せやっ!」
「おりゃっ!」
『ぐぉおおああああっ!!』
その頃、フェニックスはウォータードラゴンとハリケーンドラゴンとランドドラゴンと交戦しており、3人の攻撃に押されていく。
[エクテンド プリーズ]
「たぁっ!」
ウォータードラゴンが『エクテンド』で2つのウィザーソードガンの刀身を鞭のようにしならせ、フェニックスの身体を切りつける。
『ぐぁっ!』
「ふっ、はぁああああ!」
ハリケーンドラゴンが二刀の柄を合わせて双刃刀にすると回転して、フェニックスの連続で切り裂く。
『ぬぅあっ!!』
[ビッグ プリーズ]
「おおおおおおおおおっ!!!」
今度はランドドラゴンが『ビッグ』で刀身を巨大にさせると、それをフェニックスに叩き込み、フェニックスの身体を粉砕した。
『ぐぁあああああああああっ!!』
爆発するフェニックス。
しかし、すぐに時間が巻き戻ったかのように、フェニックスの身体が再生した。
『ははははははははははは!!! 俺は死なねぇんだよっ!』
「「「くっ!!」」」
瞬時に再生したフェニックスに、3人は仮面越しに渋面を作った。
≪・・・・・・・・なるほど。そう言う事か≫
「(っ! ドラゴン、何か分かったのか?)」
≪こちらも佳境だ。お前達もすぐに手伝いに来てもらう。我の指示に従え≫
本体のフレイムドラゴンの中にいるドラゴンが、念話で指示を出した。
『まだまだ楽しもうぜぇえっ!!!』
炎を纏って迫り来るフェニックスにウォータードラゴンは青い魔力と冷気を纏いーーーー。
「はぁぁぁぁっ! はぁあっ!!」
[チョーイイネ! ブリザード! サイコー!!]
ドラゴンテイルを召喚すると、『ブリザード』を起こしてフェニックスの炎を鎮火させた。
『ちぃっ!』
[チョーイイネ! サンダー! サイコー!!]
「せやぁああ!!」
すかさずハリケーンドラゴンが緑色の魔力と風を纏うとドラゴンウイングを出現させ、緑の雷を放つ。
『がぁああああああああっ!!』
「どりゃぁあああああああああっ!!!」
『ぐがはあっ!!』
最後はランドドラゴンが、黄色の魔力と土石を纏いながら、出現させたドラゴンクローでフェニックスの身体を全力で殴り付けると、フェニックスの身体が遠くのビルの外壁にのめり込んだ。
『くそっ「ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!」がぁああああああああっ!!』
すぐに飛ぼうとするフェニックスの両腕と両足と胸元に、3人の6本のウィザーソードガンが突き刺さり、外壁に張り付けにされた。
『テ、テメェラッ!!』
「悪いな・・・・!」
「こっちも忙しいんだよ!」
「お前の相手はまた後だ・・・・!」
3人はフェニックスを張り付けにしたまま、本体の方に向かった。
『クソッが・・・・ぐぅ!!』
すぐに動きたくても、『サンダー』による身体の痺れが抜けず動けなくなっていた。
ー美九sideー
「ぁーーーー」
少しの間休ませた事で、喉が少し回復したのか、美九から微かな声が漏れる。
しかし、美九は1番大切なそれよりも先に、目の前の出来事に意識を奪われた。
ウィザード<士道>が十香?と美九の間に立ちはだかり、〈暴虐公<ナヘマー>〉の1撃を防いでいたのだ。
ーーーー胸元に、ウィザードラゴンの頭部が、その顎で、文字通りの、真剣白“刃”取りならぬ、真剣白“歯”取りをしたのだ。
『残念だったな、〈プリンセス〉擬きが・・・・!』
「よう・・・・美九、無事か?」
言って、ウィザード<士道>がチラっと、美九を一瞥してくる。
「ぁにを、やっぇーーーー」
まだ上手く発せない声で言う。
『少し待て・・・・はぁあああああッ!!』
ドラゴンの頭部から火炎が放たれ、十香?が引いた。
それを確認したウィザード<士道>は、声を発した。
「約束ーーーーしたからな」
「ぇ・・・・?」
美九はウィザード<士道>の言葉に、ハッと肩を揺らし、先ほどのビルの中での会話を思い出した。
【ーーーーじゃあなんですか、私がもし十香さんと同じようにピンチになったら、あなた、命を懸けて助けてくれるとでもいうんですかぁ!? それでもなってくれるって言うんですか!? 私の希望にっ!?】
【当然だろうがッ!!】
確かに、士道はそう答えてくれた。
美九は口元に手を当て、全身を小刻みに震わせた。
見開かれた瞳から、ポロポロと涙が零れていく。
「ぁ、ぁ・・・・」
守ってくれた。この人は。士道は。
守ってくれた。美九を。『声』のない美九を。無価値になってしまった筈の美九を。
守ってくれた。あんな、小さな約束をーーーー!
喉の奥が痺れるような感覚。美九は小さく嗚咽しながら、無意識のうちに士道に手を伸ばしていた。
士道の手に指が触れる。なぜだろうか。指先を触れるだけで嘔吐感を催していた男の身体だと言うのに、士道に触れても何の不快感も湧いてこなかった。
と。美九はソコで異常に気づいた。
ドラゴンの炎から逃れた十香?が、左手で額を押さえ、苦しげに呻いていた。
「う、ぅ・・・・シドー・・・・シドー・・・・」
「・・・・?」
十香?が呻くように言うのを聞いて、美九は微かに眉をひそめた。
今十香?は確かに「シドー」と言った。まさか、記憶が戻っているのでは・・・・?
しかし。
「う、あ、ああああああああああああああッ!」
十香?は叫ぶと、右手に握った〈暴虐公<ナヘマー>〉の刃で、自分の左手を傷つけた。
「あぐ・・・・っ!」
フェニックスとエレンとの戦闘によって、霊装が剥げ落ちていた左手に、大きな傷が刻まれ、盛大に血が流れ落ち、それで漸く、十香?は落ち着きを取り戻したようだ。
否、それは語弊があった。十香?は血走った目でウィザード<士道>を睨み付けながら、自分の血で濡れた〈暴虐公<ナヘマー>〉をウィザード<士道>に向けた。
「面妖な手を・・・・! 私を惑わすか、人間!」
それを見て、ウィザード<士道>とドラゴンが十香?には聞こえない声で話す。
「ドラゴン、今のって・・・・?」
『我の知る〈プリンセス〉の人格が、目覚めそうになったのだろう。もう一押しだ!』
ドラゴンが言うと、十香?は高度をあげ、巨大な剣を天高く振り上げる。
「よかろうーーーーならば一撃にて塵も残さず粉砕してくれる!」
すると虚空に不思議な波紋が現れ、そこから、十香?の身の丈の倍はあろうかという巨大な玉座が現れた。
そしてその玉座が空中でバラバラに分解し、十香?の掲げた剣にまとわりつき、玉座の破片と同化する度に、黒い粒子を撒き散らせながら、巨大な剣は、さらに長大で、禍々しい形へと変貌していく。
そして、最後の破片が剣と同化しーーーーその切っ先が、月を裂くように天を衝く。
「ーーーー我が【終焉の剣<ペイヴアーシュヘレヴ>】で・・・・ッ!!」
十香?の吠えるような前言と共に、〈暴虐公<ナヘマー>〉は、その真の姿を現した。
「あれは・・・・!」
『〈プリンセス〉の天使<〈鏖殺公<サンダルフォン>〉>の最大技である、【最後の剣<ハルヴァンヘレヴ>】と同じような技だろう』
ウィザード<士道>が驚き、ドラゴンが解説する。
十香?が、剣の柄をさらに強く握りしめる。するとその巨大な刀身に、辺りの空間から黒い粒子が収束していく。
「・・・・!」
美九は息を詰まらせ、声の結界を張ろうとしたが、まだ天使を扱えるまでの霊力は回復していないし、仮にできても、あの1撃を防げるとは思えない。
「・・・・っ」
それでも、何もしないでウィザード<士道>を死なせる訳にはいかない。美九はウィザード<士道>の身体とドラゴンの頭部を庇うように抱き締め、自らの背を十香?に向けた。
「美九・・・・!?」
『フヌォ・・・・?』
「・・・・、・・・・」
ウィザード<士道>が叫び、ドラゴンが美九の豊満な胸元に瞼を塞がれる。
美九も、自分自身の行動が理解できない。
でも、ただ漠然と。この男に約束を破らせたくないと。
十香を救ってほしいとーーーーそう、思ってしまったのである。
とは言え、あの剣に込められた霊力は、視界に入るもの一切合切を切り裂く強力無比な破壊の1撃だと、一目見ただけで理解できた。
美九の小さな身体で防げる筈がない。一瞬後には、美九の身体はウィザード<士道>とドラゴンと共に蒸発してしまうだろう。
「去ね、人間・・・・ッ!」
叫び、十香?が“暗く輝いた”剣をウィザード<士道>に向けて振り下ろしてくる。ただそれだけの動作で、辺りの空間が軋むような音が響き渡る。
だがーーーー。
「・・・・!?」
『プハッ! 間に合ったか・・・・!』
十香?が剣を振り抜くよりも先に、美九の胸元から漸く顔が離れたドラゴンが呟くと同時に。
美九は、唯でさえ低下していた周囲の気温が、更に下がるのを感じた。
[チョーイイネ! ブリザード! サイコー!]
≪よしのん・・・・っ!≫
「よっしゃおっけーいっくよーっ! チョーイイネ! ザドキエルファング! サイコー!」
そして、声が響くと同時に、十香?に2つの冷気の奔流が襲いかかる。
「く・・・・?」
十香?は顔をしかめ、周囲に霊力の壁を張り、その攻撃を相殺した。
見やると、魔法陣を展開したウォータードラゴンとザドキエルファングを構えたハーミット<よしのん>が浮遊していた。
「何とか間に合ったな・・・・!」
「ちょっとちょっとどーしちゃったのよ十香ちゃん? イメチェンにしては物騒だよ?」
と。
美九はソコで、ウィザード<士道>から身体を離した。
ウィザード<士道>の身体から、ゆっくりと、しかし、膨大な魔力が立ち上がってきたからだ
ー士道sideー
「おのれーーーー小癪な・・・・ッ!」
十香?が【終焉の剣<ペイヴアーシュヘレヴ>】を構えながら、顔をしかめる。
そんな光景を見ながら、ウィザード<士道>は自分を庇うように前に出ていた美九の身体を優しく引き離した。
「・・・・ドラゴン、行けるか?」
『ああ、漸く全開で力を放てるようだ・・・・!』
不思議と、自分とドラゴンの身体から、力がふつふつと沸き上がって来るのを感じた。
「ぁ・・・・、う・・・・!」
美九がウィザード<士道>の腕を掴んでくる。どうやら心配してくれているらしい。
だが、2人は行かなければならない。ウィザード<士道>は仮面を解除すると、美九に微笑みかけ、ドラゴンも今まで聞いた事もないようなーーーーそれこそ、十香や四糸乃に語りかけるような優しい声をかける。
「・・・・ちょっと、行ってくる。お姫様を助けに。ーーーー約束を、守りに」
『〈ディーヴァ〉。この騒動が終わったら、今度こそお前の、本当の『声』を聞かせてくれ。今のお前なら、素晴らしい『歌』を歌えるはずだ』
「ぁ・・・・・・・・」
言うと、美九は大人しく手を離し、2人にコクンと頷いた。
士道は十香?に向かう。不思議と妙に落ち着いた心地だ。
目の前の十香?。いつ戻ってくるか分からないフェニックスとエレン。ここまでたどり着くまでの戦いで疲労困憊で体力は既に限界ギリギリ。沸き上がってくる魔力。
奇妙な感覚に戸惑いそうになるが、心はとてつもなく平静だった。それでも、ゆっくりと、だが確実に、十香に近づいていく。
「ーーーー十香」
「・・・・ッ!」
士道が名を呼ぶと、十香?が怯えたように肩を揺らした。だが、十香?はそれを振り払うように頭を振ると、絶叫じみた声をあげて巨大な剣を振り下ろす。
「〈暴虐公<ナヘマー>〉ーーーー【終焉の剣<ペイヴアーシュヘレヴ>】!!」
瞬時。士道の視界が、闇に染まったーーーー。
次回、全龍合体!