デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚   作:BREAKERZ

97 / 278
遂に『七章』完結です!


BAD-END&RE-START

ーヴァンパイアsideー

 

「ふぅ、やれやれ、漸くたどり着いたよ・・・・」

 

士道達が戦いを終えて、本来なら天央祭二日目となる日の正午。

人間態となったヴァンパイアは、東京都の高級ホテルにあるスイートルームに向けて歩を進めていた。士道達が追跡するのを警戒し、蝙蝠の状態から人間態に戻り、なるべく一目に触れないように行動し、どうにかこのホテルに到着したのだ。

今回の戦いでパピヨンと手駒の女達を全て失ったが、まあ問題は無い。手駒はまた増やせば良いだけだ。フェニックスといった目障りな男を始末できただけでも上々と思おう。メデューサも内心ワイズマンを失って悲しんでいるだろうし、穢らわしい男に敗北したエレンも慰めてあげれば、2人は自分に身体を委ねるだろうと考え、どんな艶姿を見せてくれるのかと舌舐めずりをするヴァンパイアが、スイートルームの扉を開ける。

 

『・・・・・・・・』

 

「誰だ?・・・・っ! な、なにっ!!!??」

 

ヴァンパイアがスイートルームの中心で豪奢な椅子に座り、自分に背を向けている人物を、訝しそうに見ていたが、椅子から立ち上がったその人物を見た瞬間ーーーー驚愕した。

 

『ご機嫌だな、ヴァンパイア?』

 

「お、お前は、『ワイズマン』っ!!?」

 

そう。ファントムの頭目『ワイズマン』だった。フェニックスの暴走により、アジトごと殺されたとメデューサに報告したヴァンパイアが青ざめ、ワイズマンは可笑しそうに少し身体を震わせる。

 

「バカな・・・・! おぉ、お前はあの時っ!!」

 

『驚いたかね? 何しろ私はーーーー“君に殺された筈なのにな”?』

 

「っっ!!!」

 

ヴァンパイアの脳裏に、あの時の記憶が浮き上がった。

 

 

 

* * *

 

 

ワイズマンがフェニックスに襲撃された時、実はフェニックスの後をコッソリ付けていたヴァンパイアは丁度、フェニックスとワイズマンが戦おうとしているのを隠れて見ていた。

ワイズマンの魔力とフェニックスの炎がぶつかり合い爆発が起き、全身を蝙蝠にしてその場を離脱した。アジトが崩壊し、フェニックスが飛び去ったのを確認すると、炎の中から、無傷で現れたワイズマンを発見した。

 

【イヒッ!】

 

ヴァンパイアは笑みを浮かべると、後ろから、ワイズマンの背中を自分の腕で貫いた。

 

【うぐぅっ!・・・・ヴ、ヴァンパイア・・・・! き、貴様・・・・!!】

 

【この時を待っていたよ! 穢らわしい男ごときが、この私を上から目線で偉そうに! お前は不必要なのさ! ワイズマン!!】

 

【ぐあぁっ!!!】

 

ヴァンパイアはもう片方の手でワイズマンの首をはね飛ばす、首は炎の中に消え、身体は別方向にある炎の中に放り込んだ。

ワイズマンの身体が燃えていくのを満足気に頷いたヴァンパイアは、

 

【ワイズマン!!】

 

【メデューサ!】

 

メデューサに、ワイズマンがフェニックスに殺されたと嘯いて、そのまま行動していたのであった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「そ、そうだ・・・・! お、お前は確かに、私が殺した筈だぞっ!?」

 

「あっははははは! ヴァンパイアちゃん。君って結構、馬鹿だったんだね!」

 

「っ!!」

 

ヴァンパイアが部屋に響く声に身体を強ばらせ、振り向くと、ヴァンパイアの入ってきた扉の両脇に、メデューサ<ミサ>とグレムリン<ソラ>が控えていた。

 

「メ、メデューサ!? まさか、今の話を・・・・!」

 

「聞いていたぞ」

 

「!!!」

 

ヴァンパイアは如何にして言い訳を並べようかと視線を泳がせるが、ミサは冷めた視線でヴァンパイアを見据え、ワイズマンの隣に行こうと、ヴァンパイアの横を通りすぎながら口を開く。

 

「漸く馬脚を出したかと思ったが、ここまで愚かだとは思わなかったぞ」

 

「えっ・・・・?」

 

「フフフフ、ヴァンパイアちゃん。僕達が君のワイズマンに向ける殺意に気付いてなかったと思った?」

 

「なにっ!?」

 

「我々は以前から、貴様がワイズマンへの裏切りを疑っていたのだ。そして、あの状況を利用して、“影武者”を用意していたのだ」

 

「か、“影武者”だとっ!? そんな事・・・・っ! ま、まさか・・・・!」

 

ヴァンパイアはある事に気づき、身体を震わせる。別の人物に成り済ます能力を持った存在が、“たった1人”いた事に。

 

「パ、パピヨン・・・・?」

 

「その通り! 実はヴァンパイアちゃんが殺したと思っていたワイズマンは! “パピヨンちゃんが擬態した影武者だったんだ”!」

 

 

 

* * *

 

 

ワイズマンがフェニックスの裏切りによる攻撃で、崩壊し、炎に呑まれたアジトを見渡すと、後方に隠れていたパピヨンに視線を向けた。

 

【パピヨン。それでは任せるぞ】

 

【承知しました。ワイズマン様】

 

パピヨンは頭の羽で全身を包み込むと、羽から放たれる鱗粉で自分の身体をワイズマンへと擬態した。

 

【ワイズマン様。あなた様はどちらへ?】

 

【Mr.ウェスコットの好意でね。東京の高級ホテルのスイートルームで、事の顛末を見物させてもらう】

 

【はっ!】

 

魔法陣を展開したワイズマンは、そのまま魔法陣を通過して消えて、パピヨンが変身したワイズマンは、ヴァンパイアの気配がする方向に歩いていった。

 

 

* * *

 

 

 

「バ、バカな・・・・!!! それじゃ、私が始末したと思っていたワイズマンはっ!?」

 

「そ♪ パピヨンちゃんが擬態した偽者だったて訳♪ 次いでに言うと、パピヨンちゃんが僕達に教えてくれたんだ。ヴァンパイアちゃんが、ワイズマンを裏切るって♪」

 

「な、何だとっ!?」

 

「パピヨンちゃん、ヴァンパイアちゃんの前では無口キャラをしていたようだけど、僕達の前では結構喋ってたよ」

 

「っ!?」

 

軽薄に言うソラの言葉に、さらに驚愕する。

実はフェニックスに天央祭での出撃を命じた時に現れたファントムこそがパピヨンで、その時に以前ヴァンパイアがベッドの上で、「いずれワイズマンを抹殺して、その時にメデューサを手込めにしたい」と言っていたのを、ワイズマンとメデューサに報告していたのだ。

 

「ま、まてっ! それなら! さっきの戦いで私と一緒に戦った、あのパピヨンは一体なんだ!?」

 

「ふん。分からんのか? あれはパピヨンの細胞で作られた、『再生ファントム』だったのだ」

 

「なっ!!?」

 

『再生ファントム』。

ワイズマンがファントムの細胞から生み出す量産型のファントムの事だ。

 

「ヴァンパイアちゃん。『恋人』だとか言ってたわりに、それに気づいてなかったの? 所詮、身体目的の『恋人ごっこ』だったからかなぁ~?」

 

「~~~~!! あぁぁクソッっ! クソクソクソッ! あの裏切り者めがぁああああっ!!!」

 

「最初からパピヨンはワイズマン側だったのだ。それにお前は、パピヨンを盾にして自分だけ逃げて来たのだろう? 裏切り者はお互い様だ」

 

「煩い!! 煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い、うるさーーーーーーいっ!!!」

 

ヴァンパイアはミサの言葉に全身は震わせ、ヒステリックに喚き散らす。そんな醜態を晒すのを、ミサはさらに冷めた視線を向けながら、ワイズマンに向けて声を発する。

 

「ではワイズマン。この裏切り者の処遇はどうしましょう?」

 

ミサの言葉に、ヴァンパイアは身体をビクンっと震わせる。

ワイズマンは平淡な態度で声を発する。

 

『残念だよヴァンパイア。君はメデューサやフェニックスに並ぶ幹部級だったのだがね。最早“急所”を知られた以上、戦力的価値は完全に無くなったーーーー君はもうここまでだ』

 

「!」

 

『グレムリン。彼女を処分しろ』

 

『・・・・了解』

 

ソラはグレムリンに変貌すると、二刀流を構える。

 

「ーーーー死んでたまるか!」

 

ヴァンパイアも変貌し、身体を無数の蝙蝠に変化して、グレムリンに襲いかかる。

 

『ぐぁ! うぁ! がぁあっ!!』

 

蝙蝠達の波状攻撃にグレムリンは為す術もなくやられてそうになる。蝙蝠達の群生からヴァンパイアの声が響いてくる。

 

『あっははははは!! 下衆で下劣な男風情が! この私に勝てると思っていたのかっ!』

 

『そ、そんな事・・・・・・・・思ってるよ♪』

 

窮地に立っているような態度から、一変して明るい口調になったグレムリンは、一瞬で、その姿を消した。

 

『えっ?ーーーーぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!』

 

呆気にとられたヴァンパイアだが、蝙蝠の群生一匹一匹に、斬られたような切り傷が走ると、耳障りなまでの悲鳴をあげ、元の姿に戻ると、全身が切り傷だらけとなっていた。

 

『なんだ! どういう事だっ!?』

 

『僕にも特技があってね』

 

『っ!!』

 

グレムリンの声がした背後に振り向くが、そこにグレムリンはいなかった。次は横から声がした。

 

『こんな風に・・・・ 』

 

『っ!!』

 

また振り向く。別の所から声が。

 

『誰よりも速く移動する事がーーーー』

 

『っ!!』

 

『出きるんだよ』

 

『こ、高速移動だとっ!?』

 

『後ヴァンパイアちゃん。気づいている? 君の蝙蝠となった中に一匹、詳しく言えばお腹の辺りの蝙蝠ね。赤く光る時があるんだ』

 

『なに?』

 

『つまり、其処が君の『弱点』って訳。気づいてなかったんだ』

 

『っっ!!!』

 

言われてヴァンパイアは心当たりがあった。天央祭のステージで現れたゴミ虫<仁藤>の戦った際、奴の放った弾丸が腹部に当たった際、強烈な激痛に苛まれた。

 

『まさか、この私に、そんな弱点が・・・・!』

 

『〈ベルセルク〉ちゃん達も気づいたようだよ。指輪の魔法使いの相棒のファントムも、遅かれ早かれ気づくだろうね。・・・・弱点のバレた奴なんて、怖くもなんともないよ』

 

『~~~~~!! 己ぇぇええええええええええええええええええええええっっ!!!!』

 

ヴァンパイアは再び蝙蝠の群生となると、スイートルームの窓をぶち破って、外へと逃げ出した。

 

 

 

ーワイズマンsideー

 

『あぁ~ぁ、逃げちゃった。追った方が良いかなワイズマン?』

 

『イヤ、もう良いだろう。彼女はもう脅威ではない。グールやインプに任せよう』

 

そう言うと、ワイズマンはメデューサとグレムリンを連れて、空港でDEMのプライベートジェット機に乗るウェスコットと、不機嫌全開のエレンの元へと向かおうと魔法陣を展開した。

 

『メデューサ。ヴァンパイアに対して何か言うことある?』

 

『は? 最早アレには、何の価値も無いだろう』

 

冷淡に言って、グールとインプに追撃を命じ、魔法陣を潜るワイズマンに続いていくメデューサ。

 

『(あ~らら、ヴァンパイアちゃんもお気の毒ぅ♪)』

 

全然気の毒と思っていない調子で、グレムリンも魔法陣を潜った。

 

 

 

 

ーヴァンパイアsideー

 

『はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・!!』

 

その日の夕方。

ヴァンパイアは追っ手のグールやインプを片付け、閉鎖された教会にたどり着いた。教会の奥には台座と、その上に大きな十字架が鎮座し、その後ろには、鮮やかで美しいステンドグラスが飾られていた。

グレムリンに負わされた傷で力を発揮しきれず、グールやインプにさえ苦戦してしまったヴァンパイアは、痛みに耐えながら、奥へと進む。

 

「(クソッ! クソクソクソクソクソクソ! こんな所で死んでたまるかっ! まだメデューサの身体も! エレンの身体も! 精霊達の身体もしゃぶり尽くしていないんだっ!! しばらくはここを拠点に力を蓄えて・・・・いや、どうせなら〈ディーヴァ〉に近づいて彼女を私の『恋人』にすれば良い! 彼女の『声』を利用すれば、他の精霊達を私の『恋人』にできる。精霊達を使って魔法使いを始末し、私が第三勢力として君臨し、精霊達を使って軍団を構築していけば、いずれワイズマン始末し、メデューサすらも・・・・!)」

 

「ここは、お前のゲートとなった女性と、私の親友が結婚する場所であった。お前が親友を殺した事で閉鎖された場所に来る事になるとはな」

 

「っっ!!」

 

そこで、教会の扉から男の声が響き、ヴァンパイアはビクッと肩を震わせ振り向くと、天宮スクエアで会った男、仁藤攻平が立っていた。

 

「お前は、あの時の塵か・・・・! なぜここが・・・・?」

 

「公安警察を嘗めるな。お前がいたホテルはDEMインダストリーが良く使用しているホテルだからな。公安が目を付けていた。そこから貴様が逃げ出し、追っ手と戦闘している貴様を追い、逃走経路を予測した。お前はもう終わりだ。ヴァンパイア!」

 

「フフフフ、はははははははははははははははははははははははははは!!!・・・・ふざけるなよ。男風情がぁあああああああああああああ!!!!』

 

ヴァンパイアは身体を蝙蝠にせず襲いかかるが、仁藤は冷静に懐から『S&W M500』を取り出すと、ヴァンパイアの弱点『下腹部』に、銀の弾丸を全弾撃ち込む。

 

「・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・』

 

ヴァンパイアは飛びかかった状態で爪を仁藤の顔に僅かに触れさせて硬直した。

 

『アギャァガァアッ!!!』

 

ヴァンパイアは痛みに悶え苦しみながら、後方の十字架にまで引いていく。仁藤は冷静に新しい弾丸を装填し、後ろでは、真那がビーストドライバーを展開させ、いつでも変身できるように待機していた。

 

『い、イヤだぁ・・・・! イヤだイヤだイヤだぁあ・・・・!こんな、こんな所で・・・・! 人間何かに・・・・! 男なんかにぃぃぃぃぃぃっ!!!』

 

人間の、それも男ごときに殺されるだなんて、ヴァンパイアにとって屈辱の極みだった。

ヴァンパイアは台座の前に倒れると、十字架がまるで墓標のように見えた。

そして、身体が燃え始め、火が床の絨毯にも燃え移り始めた。

 

「仁藤さん。よく分かったでやがりますね。『下腹部』が奴の弱点だって・・・・」

 

「奴の下腹部に位置する蝙蝠が、赤く発光していたのを確認していたので・・・・。それに、瞬助が、伝えてくれたんです。【ルミ子は、自分との子供を妊娠している】って・・・・」

 

「っ! それって・・・・!」

 

「ヴァンパイアの弱点は下腹部。ソコは、女性が新たな命を宿す場所でした。もしかしたら、生まれる筈だった瞬助とルミ子の子供が、【パパとママを殺したコイツをやっつけて!】って、教えてくれたのかも知れませんね・・・・」

 

「そうだと、いいですね・・・・」

 

生まれてくる筈だった幼い命は、母親が怪物となる時に死なず、父と母を殺した悪魔の弱点となった。何ともやりきれない話である。

仁藤と真那が去ろうとした瞬間、沈む夕陽がステンドグラスを照らし、目映い光を放つ。

 

「「っ!」」

 

二人は片手で顔を覆ったその時ーーーー。

 

「っ・・・・瞬助・・・・? ルミ子・・・・?」

 

指の隙間から、優しそうで純朴そうな顔をした青年と、ヴァンパイアの人間態だが、嗜虐さと蠱惑さが全くなく、穏やかで清純そうな女性が、幼い女の子と手を繋いで笑い合いながら、夕陽が照らすステンドグラスへと歩いていき、消えていった。

そしてそれに続くように、ヴァンパイアの玩具にされた女性達と殺された男性達が恋人繋ぎをし、パピヨンの人間態の女性が、殺害された男性と恋人繋ぎをして、光に照らされたステンドグラスに向かっていき消えていく。

まるで、天国へと歩いていくようにーーーー。

 

「・・・・仁藤さん」

 

「・・・・・・・・」

 

「きっと皆さん、天国へ行ったと思いますよ・・・・」

 

「そう、ですね・・・・!」

 

ステンドグラスの光が収まると、そこには人影などなかった。真那もどうやら見えたらしく、瞼に少し涙を浮かべていた(キマイラズも見えていたのか号泣していた)。仁藤も頬に一筋の涙を流しながらステンドグラスを見つめ、二人はその場を去っていった。

1つの復讐を終えた仁藤は、新たな出発を果たした。教会を包み込む炎は、亡くなった親友2人とその子供、そして殺された人々への弔いの炎にもなった。

 

 

 

 

二人が去って数分後、通報で教会の火災を消火しに来た消防隊が駆けつけると、教会を包む程に炎が燃え上がる。

教会が崩れだすと、黒く大きな煙が立ち上って、一瞬それが、悪魔のような姿となり、

 

ーーーーガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

建物の崩れる音が悲鳴のように響き、炎の勢いはさらに増した。ーーーーまるで、地獄の業火に焼かれる悪魔のような光景である。

が、すぐに煙は風で飛び、教会の炎は消火され、その光景は消防隊にも、野次馬にも、すぐに忘れ去られてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー士道sideー

 

『五河士道さま、ウィザードラゴンさま

天央祭3日目、午後2時50分に、セントラルステージの楽屋に来て下さい。3人でしたいお話があります。来なかったら怒っちゃいますからね!

あなた達の美九より』

 

・・・・そんな明らかに今までと性格の違う手紙(しかもキスマーク付き)が士道とドラゴンの元に届けられたのは、士道達の前からいつの間にか姿を消した真那が、仁藤と共にシリアスやっている頃だった。

 

「何なんだ・・・・一体」

 

≪さぁな≫

 

便箋をもう一度読み直す士道。

9月25日の月曜日。あの激戦から1日経った、天央祭開催3日目。

丸1日〈フラクシナス〉で入念な精密検査を受けた士道は、〈ラタトスク〉の顕現装置<リアライザ>で修復された天宮スクエアにやって来た。ちなみに十香はまだ検査中のようだ。

1日目に比べ、3日目は参加校10校の生徒達だけが楽しむ後夜祭のようなモノだ。

 

≪結局、あの大暴動は特殊な幻覚剤が散布されたテロとして片付けられたな。〈ディーヴァ〉に操られた人間達が記憶が無いのが幸いか、辻褄合わせができたようだがな≫

 

「(死者が出なかったのもな。DEMの惨状も、フェニックスの炎も、特殊な空間震の被害で始末したようだぜ)」

 

≪しかし、〈ナイトメア〉の行動が気掛かりだ。ヤツはあのまま現れず姿を消した。お前の実妹もまた姿をくらませ、代わりに〈プリンセス〉のリングとドライバーが置かれていた≫

 

そんな騒動があり、2日目の天央祭は中止となり、一時は文化祭自体が中止になりそうだったが、生徒達の熱意と〈ラタトスク〉の暗躍によって、無事開催された。

2日目の祭は3日目の後夜祭の後に行われる変なスケジュールとなったようだが、生徒達は気にしていないようだ。

メイドカフェを通り、メイド服の八舞姉妹と軽く談笑(士織にならないのかと聞かれた)を終え、ブースを抜け、セントラルステージの扉を開けると、賑やかな曲と空気を揺るがす大歓声が響き渡る。

ステージに立っているのは、霊装を纏い、『声』を響かせているのだから、この熱狂も当然だ。

演奏が終わり、微かに肩を上下させる美九は礼をする。すると割れんばかりの拍手が会場を包む。

 

『ありがとうございます、皆さん。本当にーーーー』

 

そう言ってから、美九はステージを去り、再び拍手と美九の名を呼ぶ声が響いた。

一旦ステージを出て裏手に回り、関係者用入口から建物の中に入り、控え室の前に立つと、扉をコンコン、と叩く。

 

『はい、どうぞー』

 

中から声が聞こえ、士道は呼吸を整え、扉を押し開けた。

控え室には美九が、スポーツドリンクが入ったペットボトルが手元に置かれ、首にはタオルがかけられていた。

あの戦いの後。美九は『声』が戻っても、抵抗の色を見せず、事後処理にやって来た〈ラタトスク〉機関員の指示に従って至極大人しかった。

士道が検査の為動けず封印もできないから、監視が精々であったが、不穏な動きをせず、それどころか、手紙をしたためて士道に届けてくれと頼んできたのだ。一体どんな心境の変化があったのか、まるで憑き物が落ちたかのような変貌ぶりだ。

実際ーーーー。

 

「! 来てくれたんですね、『だーりん』っ!」

 

「だ、だーりん・・・・!?」

 

弾んだ声でそう言った美九が椅子から立ち上がり、いきなり士道に抱きついた。

 

「あれ? ドラゴンさんは何処に?」

 

「えっ?」

 

「私、ドラゴンさんにも言いたい事があるんですー」

 

「(どうするドラゴン・・・・?)」

 

≪・・・・仕方ない。とりあえず我を出せ≫

 

了解と言った士道は『ドラゴライズリング』をドライバーに翳した。

 

[ドラゴライズ プリーズ!]

 

士道の身体に魔法陣が展開され、士道の頭位の大きさで思念体のドラゴンが顕現した。するとーーーー。

 

「! あぁ『ハニー』! 何て可愛らしい姿に!」

 

『(ガクッ)は、ハニー・・・・?』

 

空中で器用にこけたドラゴンに、美九は抱きつこうとするが、思念体故に触れなかった。

面食らった士道&ドラゴンは、子供のように屈託の無い笑みを見せる美九に、思わずマジマジと見つめる。

 

「お前・・・・一体どうしたんだよ。あんだけ男を嫌っていたのに・・・・」

 

『宗旨変えでもしたか?』

 

「うふふ、だーりんとハニーは特別ですぅ。私の命の恩人ですしー」

 

言って士道に抱きつき、その豊満なバストがムギュウと押しつけられる。

 

「ちょ・・・・っ」

 

『(フム。どうやらこの前の日の戦いで、小僧に対する好感度が劇的に上昇していたと聞いたが、ここまでとはな。嫌い嫌いと思っていたモノが、少しのきっかけで大好きなったと言うわけか。この娘の価値観は子供のソレに近いな)・・・・それで、話したい事とは何なのだ?』

 

「ああ、そうでしたー」

 

ドラゴンが言うと、美九は思い出したように小さく頷き、そして何でもない動作でフッと士道に目を向けーーーー。

 

そのままつま先立ちをし、士道にチュッと口づけをした。

 

「・・・・っ!?」

 

『・・・・・・・・』

 

 

突然の事で士道は目を白黒させ、美九はガッシリと士道の身体を抱いたまま、唇を離そうとしない。

とりあえずドラゴンがリングチェーンから『ドレスアップリング』を取り外し、美九の指に嵌めた。

 

「んく・・・・」

 

「・・・・んっ」

 

そうしている内に、士道の身体に温かいモノが流れ込んできてーーーー同時に、美九の霊装が光の粒子となって空気に溶け消えた。

 

「わ・・・・きゃっ!」

 

それに気づき、美九は士道から漸く唇を離した。

 

「何て早技・・・・だ、ダーリンたらエッチですぅー・・・・!」

 

「いや、違う! 俺じゃ・・・・」

 

「うふふ、冗談ですよぉ。ーーーー四糸乃ちゃん達から聞いて、全部、知ってましたからー」

 

言って、美九は士道にピッタリと寄り添って微笑んだ。

 

「え・・・・?」

 

『〈ハーミット〉達から? あれほど『声』を失う事を恐れていたお前が、自分から封印をしたと言う事か?』

 

ドラゴンの疑問に士道も同意するように頷くと、美九は小さく唇を開いた。

 

「あの時・・・・約束してくれましたから」

 

「あの時?」

 

『あぁ・・・・』

 

ドラゴンは察した。

 

「はいー・・・・もし私が今の『声』を無くして、他の皆さんにソッポを向かれても、貴方だけはファンでいてくれるって。あれはーーーー本当ですよね?」

 

「ああ・・・・勿論だ」

 

『・・・・本当の『声』で歌うのであれば、我もファンになってやる』

 

思い出した士道は、美九の目をジッと見つめ、コクリと首肯して断言する。ドラゴンも素っ気ない態度を取りながらそう言った。

それは、アイドルに興味を示さない士道や、ドラゴンですら美九の本当の歌声には、美九の本当の歌には感じ入るものがあったからだ。

すると美九は、士道とドラゴンの2人を見つめながら屈託のない笑みを浮かべる。

 

「・・・・あなたは、約束を守ってくれましたー。あなたなら、大丈夫です。あなた達だけは・・・・信じられます」

 

士道を抱く手に力を込めながら、美九は続ける。

 

「例えこの『声』を失っても、皆が私の歌を聴いてくれなくなっても。ーーーーあなた達がいるなら、それで、いい。もしその時は・・・・あなた達だけの為に、歌ってあげます」

 

「美九ーーーー」

 

『良い雰囲気の時に悪いが、〈ディーヴァ〉をさっさとドレスアップさせろ。風邪をひくぞ』

 

「あっ・・・・!」

 

思わず美九の身体を抱き返そうとする士道だが、ドラゴンに言われて思い出した。今の美九は、その高校生離れした肢体も豊満なバストも惜しげなく晒した状態だ。こんな場面を誰かに見られたら一大事だ。

士道から慌てて、リングを嵌めた美九の手を、バックルに当てた。

 

[ドレスアップ プリーズ]

 

魔法陣が展開され美九の身体を通過すると、薄紫色と白を基調としフリルもつき、ミニスカートで動きやすさも取り入れ、足には白いハイソックスで包みまるで本当のお姫様のような美しさと可愛らしさを入れた煌びやかなアイドルドレスだった。

 

「ドラゴン、これって・・・・」

 

『歌姫殿に合わせたのだ』

 

「わぁ、ありがとうございますハニー!」

 

大喜びでドラゴンに抱きつこうする美九だが、ドラゴンはサッと士道を身代わりにして回避した。変わり身の術である。

 

「ああぁんハニーのいけずぅー! でも、だーりんの感触も良いですぅー!」

 

「おい、ちょっ・・・・!」

 

等と騒いでいる間に、控え室の扉が開いて、竜胆寺学院の女子生徒が入ってきた。

 

「美九さん! アンコールが凄すぎて、次に進めません! もう一曲ーーーーて、え・・・・っ!?」

 

女子生徒が扉を開けたまま固まる。

だがそれも仕方ない。煌びやかな衣装に身を包んだ大人気アイドルが、見知らぬ男に抱きついているのである。

ちなみにドラゴンは士道の後ろに隠れた。

 

「え、あ、あの、その・・・・し、失礼いたしましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「おいちょっと!!」

 

士道が泡を食って女子生徒の方を向くと、少女は混乱した様子でグルグルと目を回し、その場から走り去っていった。

それをポカンとした様子で見ていた美九は、やがて堪えきれないといったようにクスクスと笑いだした。

 

「あはは、早く逃げた方が良いんじゃないです? このままだと大変ですよー?」

 

「お前、笑い事じゃねぇっての・・・・」

 

『ヤレヤレだな』

 

美九はもう一度笑ってから、顔をあげてきた。

 

「・・・・でも、今の子、アンコールって言いましたよね」

 

「え? ああ・・・・そうだな」

 

「じゃあ・・・・行かないと。衣装は・・・・ハニー、この衣装を使っても良いですか?」

 

『それはお前の為の衣装だ。好きに使うと良い。後3時間で解ける事を忘れるなよ?』

 

「じゃ、使わせてもらいますね。ーーーー見ててくれますか? だーりん、ハニー」

 

そう言ってくる美九の目には、途方もない不安と、それを越えるくらいの、強い意志の光が宿っていた。

 

「ああ!」

 

「見ててやる」

 

2人は力強く頷いた。

 

 

 

 

ーーーーステージにスポットライトが照射される。

すると、アンコールの声に埋め尽くされていた会場が、一瞬どよめくと共に静まり・・・・。

 

『はーい、皆さん。また会いましたねー』

 

ーーーーワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

煌びやかなアイドルドレス姿の美九に、再び大歓声が巻き起こる。

士道はそんな様子を、観客席から見上げ、ドラゴンはとりあえずぬいぐるみのフリをしながら、士道の肩に乗っていた。

あの後、人目を避けて楽屋を抜け、ステージの入口から会場に入り、美九の登場を待っていた。

 

『アンコール、ありがとうございますー。でも駄目ですよー、運営の人をこまらせちゃ』

 

ーーーーごめーーーーーん!!!

 

美九が少し怒ったように言うと、会場中から声が響く。

 

『でも、嬉しいですよー。ーーーーなので、今日は特別に、私の大事な歌を歌おうと思います』

 

言って、美九がパチンと指を鳴らすと、ステージにアップテンポの曲が流れ始める。

無論会場は歓声が沸くが、同時にどよめきの声も聞こえる。

それもその筈。その曲はーーーー『宵待月乃』の曲だったのだ。

 

「これは・・・・」

 

『ほぉ・・・・』

 

士道とドラゴンは、美九の姿を見つめながら声を発する。

美九の話で聞いた曲。

かつて失声症を患った美九が、ステージで歌う筈だった、曲。

 

『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』

 

美九は、もう長らく歌っていないであろうその曲を、軽やかなに歌い始めた。

もうその声に、人を惑わす霊力は無い。観客達も、いつもの美九の『声』との違いに、微かな戸惑いを見せているようだ。

だがーーーー曲が進むにつれて観客達は、1日目のライブに負けない、いや、寧ろそれ以上に熱狂していた。

それこそ、アンコール前の曲をも越える程だ。

 

『♪♪♪』

 

そしてドラゴンも、これまで美九の歌をくだらんと鼻で笑っていたのに、今では美九の歌を目を閉じて聞きながら、踊るように身体を揺すっていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーやがて曲が終わり、ステージに割れんばかりの拍手と大歓声に包まれた。

 

『・・・・っ』

 

歓声に溢れる会場を見た美九が、マイクを握りながら、涙をポロポロとながしてしまう。

怖いのではない。悲しいのではない。辛いのではない。霊力の『歌』が無くても、自分の本当の歌を聞いて、大歓声をあげてくれる観客達が、嬉しかったのだ

 

『皆さん・・・・ありがとう、ございまひゅ・・・・っ』

 

客席からざわめきと、美九を元気づける声が幾つも響き渡る。だがーーーー。

 

『ありがとう・・・・ございます・・・・だーりん、ハニー・・・・2人とも、大好き・・・・っ!』

 

突如として大人気アイドルが発した意味深な言葉に、会場がにわかにどよめきだし・・・・士道は顔中に脂汗を浮かべながらソロソロと退散する。

 

『ふんっ・・・・』

 

ドラゴンは退散する士道の肩の上から、美九を振り向いて見ると、偶然にも美九と目が合った

 

『(素晴らしい歌だったぞ。“美九”)』

 

再出発を果たした歌姫に、優しく暖かな声と言葉を、念話を使って伝える魔龍は、ニヒルな笑みを浮かべるように口元を動かす。

美九はそれを見て、屈託のない、純粋で、まるでーーーー天使のように可愛らしい笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

天宮スクエアの入口。

多くの生徒達の人混みの中で、来禅でも、竜胆寺でもない制服に身を包んだ金髪の長髪の一部を、白いヘアバンドでサイドテールにした、士道達と同い年の少女が見上げていた。

 

「・・・・・・・・」

 

少女は通学鞄を肩にかけ直すと、その場を去り、人混みの中に消えていく。

その時、少女の耳に付けた透明な玉のイヤリングが、キラリっと輝いた。

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

そしてここは廃れた遊園地の跡地に、1人の女性が現れた。

歳の頃は20を少し過ぎ、完璧なプロポーションをした、この世の者とは思えない美女であり、その身を包む衣装はまるでーーーーお伽噺の『魔女』のようだった。

 

「♪~♪~♪~」

 

上機嫌に歌うその美女は、割れたガラスに映る自分に、満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ー『美九トゥルース』・FINー




終演を迎えたヴァンパイア。
1つの復讐を終えた仁藤。
再出発を果たした美九。
今回はこの三人にスポットライトを当てました。
再出発を果たし、“妖怪の道”を歩みだした美九の今後の奇行も見所ですね。

そして次回は幕間の後で、『ある作品とのコラボ』を経て、劇場版を経て、『八章』に行ったストーリーです。
劇場版は余裕が出たら書きますので、今回は書きません。



次回、デート・ア・ライブ 指輪の魔法使いと精霊の恋愛譚。

『平行世界の仮面ライダー達との共闘』、『システムケルブとの激戦』で、魔力を大量に消費してしまい『休眠状態』となったドラゴン。

≪暫く眠る・・・・≫

そんな状態の士道に、新たな精霊が現れる。

「ねぇ、ねぇ士道くん。お姉さんのどんな所が綺麗?」

歳上の女性である『七罪』と名乗る精霊。ドラゴンがいなくても順調に攻略できそうだったがーーーー。

「あんたの人生、おしまいにしてやるんだから・・・・!」

とあるきっかけで態度が豹変した七罪が、十香達や士道の友人達を人質に、士道と勝負をする事になってしまった。

「誰か私か当てられる? 誰も、いなくなる前に」

今までいなかった頭脳戦を繰り出す精霊を、士道は攻略出きるのか?

「俺は、一体、どうしたら・・・・!」

頭脳戦を得意とするドラゴンの不在が、士道に思わぬ危機を招く。

「状況は絶望的だけど。絶対に、七罪を見つけて助け出す!」

第八章 『七罪サーチ』

≪・・・・これは、かなり切れ者な精霊が現れたな≫
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。