袴紋太郎の中編・短編集   作:袴紋太郎

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注意:残虐表現、グロ表現などがあるので苦手な方はご注意ください


預言者は己の瞳を押潰す

 

・ビフォー

 

この者を至急指名手配しなさい。

 

ええ、預言書にこの者の記述がありました。

 

放っておけば許されざる大罪人となり、大勢の命が失われる。

 

さぁ早く、時間がありません。

 

罪には罰を。

 

大罪人に粛清を。

 

裁きなさい。

 

裁きなさい。

 

裁きなさい。

 

全ては次元世界の平和のために

 

・アフター

 

違う、違うの、こんなの違う!

 

はやく取り下げて、このままでは彼が…ああ、聖王よ私はなんてことを。

 

シャッハ、信頼できるシスターを連れて警護に当たってちょうだい。

 

全ての責任は私にあります。

 

だからどうか…ロッサにも連絡を、クロノにも。

 

え、エイミィが…!?

 

何が、何が起きているの…?

 

――――病室から、消えた?

 

◆◆◆

 

カツン、カツンと無機質な音だけが教会の廊下で響き渡る。

 

本来ならば忙しなくシスターや教会関係者が歩き回る筈だが、今はまるで無人のようだ。

 

新調した右の義手で杖をつき、簡易式の義足を引きずりながら廊下を進んでいく。

 

先導するヴェロッサからは車椅子を勧められたが、誰かに背中を預けるのは無理だった。

 

「それで、特に表沙汰になったわけじゃないんだな」

 

「ああ、状況が状況だったからね。テロリストに全て被ってもらったよ」

 

そいつはいいと、苦笑気味に自嘲した。

 

未だに他人を心配する自分が、間抜けに思えたから。

 

案内されたのは礼拝堂。

 

ただ一人、厳かに祈りを捧げる女がいた。

 

カリム・グラシア、彼女の一手が無ければ逃げるのももう少しは楽に…なったかなぁ?

 

声をかけるべきか、それとも去るべきか。

 

脳裏に浮かぶ二択の行動。

 

どうしたもんかと天井を見上げると、ふと視界に奇妙な物が映りこんだ事に気づく。

 

白い何か、はて何処で見たのかと視線を彷徨わせ。

 

それがカリムの両目を塞ぐようにして巻かれた包帯であることが、ようやく理解できた。

 

「私は罪を犯しました」

 

そして彼女の懺悔が始まる。

 

「彼へ謂れ無い虚偽の罪を被せ、大衆に晒したのです」

 

罪の告白が、始まる。

 

「罪深きこの身は、それが揺らぎのない正義であると信じました」

 

「全てを知った時には既に遅く、彼は生きているかどうかすら分かりません」

 

「私は罪を犯しました」

 

「私は罰を受けねばなりません」

 

「私を裁いてください」

 

「私を裁いてください」

 

「私を裁いてください」

 

「どうか彼の手で、私を裁いてください」

 

懺悔は誰へと捧ぐのか、罪を誰に伝えるのか。

 

「どうか、この潰れた両の眼のように罰をお与えください」

 

包帯から滲む涙は赤かった

 

喉が引きつる、出かけた悲鳴を必死に堪え礼拝堂から逃げ出した。

 

顔を背けたヴェロッサが見えた。

 

こちらに縋るようなシャッハが見えた。

 

何もかも振り切って、教会の外へと逃げ出した。

 

階段を転げ落ちながら。

 

恐ろしい何かから、一歩でも離れるために。

 

彼は逃げ出した。

 

 




逃げろ
逃げろ
逃げろ
何もかも夢であることを祈って
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