袴紋太郎の中編・短編集   作:袴紋太郎

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注意:残虐表現、グロ表現などがあるので苦手な方はご注意ください

ひらがなだけのぶぶんがありますが、よみにくければもうしわけない


その運命は避けられない

 

・ビフォー

 

あははははははははははは!

 

なにそれ、イモムシみたい!

 

うじうじうじうじ藻掻くだけ!

 

でもまだ三つ…あ、二つだっけ、右手はもう無いんだっけ。

 

じゃあすぐに残りも切り捨ててあげる!

 

無様にのたうちまわって死んじゃえ!

 

あは♪

 

どうして今まで我慢してたんだろ

 

こんなに―――いい気味なのに。

 

 

・あふたー

 

なんでここにいるんだろう?

 

かあさんは?

 

りにすは?

 

おいしゃさんは、こころがつかれてるんだって。

 

わたし、つかれてるの?

 

あ、おじさん。

 

えっとね、あいたいひとがいるの

 

おとこのこで、なまえはわかんなくて。

 

みぎてが…

 

右手が…

 

あ。

 

ああ。

 

あああああああっぁああぁぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!!

 

ダメェ!

 

赤いの、赤いの出ちゃだめぇ!

 

 

 

 

なんでここにいるんだろう?

 

◆◆◆

 

聖王教会へと続く道を逆走し、気が付けば近場の街へとたどり着いていた。

 

義足で無理をしたツケか、滝のような汗をそのままに地面へと座り込む。

 

いや、疲労だけではない。

 

あんな事になっているとは思わなかった。

 

最初から、以前のような関係であることは不可能だと分かっていた。

 

きっと壁が出来るし、溝を埋めるのに長い時間が必要だろうと。

 

だが、だがそれでも。

 

いつか、以前のようにいられると淡い期待をしていた。

 

馬鹿だった。

 

そんな事、もう夢ですらないのだ。

 

「きゅっくる~」

 

不意に日差しが遮られる。

 

銀色の、小さなドラゴンが頭の上に乗っていたのだ。

 

「ふ、、フリード!? わ、ばか、やめろって!」

 

「きゅっくー!」

 

「―――あ、見つけた!」

 

喜色を感じさせる声音で近づいてくるのは二人の男女。

 

左足を切り落とした彼女が引き取った、幼かった二人組。

 

「エリオ、キャロ…」

 

どうやら、何もかも投げ出して寝るには早いようだ。

 

エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエの二人から貰った缶ジュースを片手に、なんとか一息を吐いた。

 

「二人は、無事だったんだな」

 

「はい、僕らは管理内世界の自然保護でミッドにいませんでしたから」

 

「アコース捜査官から見つかったと聞いて、急いでこっちへ戻ってきたんです」

 

「そうか…よかった」

 

本当に、無事で良かった。

 

もしこの二人がああなったら、想像するだけで怖気が走る。

 

「二人共、見つけたか」

 

顔に絆創膏を貼り付けた友人、クロノは安堵するかのように片手を上げた。

 

なるほど、次はアイツか。

 

義足の付け根が、疼いた。

 

◆◆◆

 

クロノが運転する車に乗り込み、ミッド南部にあるという目的地へと向かう。

 

流れていく景色に緑が多い、相当田舎のようだ。

 

陽気な鳥の囀りと裏腹に、車内の空気は重い。

 

なんとか明るいムードを作ろうとエリキャロが努力してくれたが、運転席と助手席に座る野郎二人は何も語らない。

 

結局、目的地の病院にたどり着くまでこの重苦しい空気は続いていくのだ。

 

大きすぎず、かと言って広すぎず。

 

そんな印象を受ける建物には、「精神科」の文字があった。

 

「エリオとキャロはここで待っていてくれ」

 

ロビーに二人を残し、クロノと共に奥の病室へと歩いていく。

 

聖王教会とは別のタイプの静寂、というべきか。

 

人の気配はあるが、それでもなお異様なまでに静かすぎる。

 

「―――本音を言うと、見つかるとは思わなかった」

 

長い付き合いとなるが、ここまで感情を押し殺した所を見たのは初めてだ。

 

「…子供たちは、無事なんだな」

 

あえて、彼の妻の名は出さなかった…出せなかったというのが、正しい。

 

「事件当時、母さんと一緒に海鳴へ行っていた」

 

「―――エイミィに一発やられた後、自宅で彼女が二人の夕食に劇物を仕込んでいたんだ」

 

「僕が戻った頃には半狂乱になりながら処分していたよ、両手を真っ赤にしてね」

 

「今は落ち着いたけど、いつ自殺するか分からない程だった」

 

ぽつり、ぽつりと、搾り出すように紡ぐ事実。

 

能面の如く固められた表情を憤怒に歪ませ、握り締めた拳から血が滴る。

 

「時間が要るな」

 

時間があれば癒えるのだと、言い切れぬ己が腹立たしい。

 

「俺は、やった奴を殺してやりたいよ」

 

「…僕もだ」

 

やり切れない思いを抱えながら、オクにある病室へと行き着く。

 

看護師の許可と、注意事項を聞き流しながら病室へと踏み込んだ。

 

内装はシンプルだ、ベッドと椅子、離れたところに花瓶が一つ。

 

それ以外は何もない、【患者が何もできないようにするため】の処置だ。

 

身を起こし、外の景色を見続ける彼女は、青年に気づかない。

 

「―――――フェイト」

 

名を呼ばれて初めて患者…フェイトはこちらへと向き直った。

 

「おじさん、だれ?」

 

フェイトの記憶は、プレシア・テスタロッサと過ごしていた時期にまで逆行している。

 

エリオとキャロ、クロノの事も忘れているのだ。

 

使い魔たるアルフの事も、あやふやらしい。

 

「ねぇ、おじさん。わたし、あいたいひとがいるんだ」

 

「…誰だい?」

 

「なまえ、しらないの。おとこのこで、かあさんみたいにかみがくろいの」

 

「あ、おじさんもくろなんだ」

 

「その子は、今はちょっと会えないかな」

 

「なんで?」

 

「恥ずかしがりやなんだ、君が元気になったら会いに行ってほしいな」

 

椅子を引き寄せ、腰を下ろすとフェイトの頬に触れる。

 

もう何も感じる物はないけれど。

 

もう、熱を与える手はないけれど。

 

「おじさんのて、つめたいね」

 

「ひえしょう、なんだ」

 

「でも、かあさんがいってた。つめたいてのひとは、こころがあったかいんだって」

 

どうすればいいんだろうな。

 

どうしていれば、よかったんだろうな。

 

「おじさん、どこかいたいの? ないてるよ」

 

「ああ、ちょっとだけ…ちょっとだけ、怪我しちゃったから」

 

流れ落ちるものが、後悔を忘れさせたくれればいいのに




誰かが悪いといえばいい
だれかの罪を問えばいい
問たところで時間は戻らない
砂時計を戻す手は無いのだから
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