主人公、別作品へのアンチ、グロ表現、別作品キャラへの登場・転生?などが存在します
そういった表現が嫌いな方はご注意ください
そして世はこともなし/ありふれた職業で異世界最強
「元の世界に帰るのなら、こんな力は置いていかないか?」
異世界に召喚された少年少女たち。
元凶は倒れ、ようやく家に帰れると安堵した子供たち。
無能と蔑まれ、魔王と恐れられ、神殺しを果たした少年は。
「知ったことか」
いつものように切り捨て、同時に意識を失った。
◆◆◆
色素の抜け切った白髪頭の少年が意識を取り戻したのは、ベッド以外に何もない簡素過ぎるテントの中だった。
南雲ハジメ、異世界に召喚された挙句いじめられていたクラスメイト達に見捨てられた少年。
全ての元凶たるエヒト神を打倒し、元の世界への帰還を果たそうとしていた。
だというのに、此処は何処なのだろうか…?
「ッ、武器が…」
自らが作り出したアーティファクトは何処にもなく、左腕に装着していた義手すら外されていた。
この時ハジメの脳裏に浮かんだのは、いったい誰が…ではなく、どうやってこんな真似を許してしまったのか。
いくら格下しかいないとはいえ、警戒を解いてなどいなかった。
不穏な動きを見せればすかさず銃口を向けていたし、なにより相棒たる彼女が見逃すはずなどない。
「やぁ、起きたようだね」
思考の海に漂うハジメを現実に戻したのは、あの時聞いた声と同じもの。
眼鏡をかけた、一見して地味な印象を受ける男。
クラス内で目立つこともなく、かといって足でまといになることもなく。
その他大勢に埋没していたクラスメイト。
「藍染惣右介…!」
藍染と呼ばれた男は、見るものを落ち着かせる微笑を浮かべながら気さくに話しかけてきた。
「落ち着いたほうがいい、今の君は本調子ではないだろう」
宥めるような声音で、ハジメの右腕を手に取り勢いを殺さず地面へと放り投げる藍染。
頭を打たないよう、掴んだ手とは反対の手を首元に添えることも忘れない。
一瞬の空白、そして衝撃がハジメの全身を駆け巡った。
藍染の実力にではない、自分の中に流れる力をまるで感じないのだ。
魔物を喰らい続け、強敵を滅ぼしてきたはずの肉体が。
この
「縛道の六十、六杖光牢」
こちらへと向けられた指が輝いたかと思えば6つの光の柱がハジメに突き刺さる。
痛みはない、だが身じろぎ一つ出来ない。
「こちらも強引な手段であったが、こうも抵抗されては話もできないからね」
まずは落ち着いてくれと、地面に横たわるハジメを見下ろす目は。
身が凍りつくほど、冷たいものであった。
「何の真似だ…」
「説明と、要求の確認だね」
腰を下ろし、地べたに座る「敵」に対して今にも噛み付きそうだ。
生殺与奪の権利は、既にこの男の手中にあるにも関わらずに。
これでは何も聞かないだろうなと、微笑を消し――――
空間が死んだ
「――――――――――――ッ」
息ができない、呼吸することすら命懸けに思える重圧。
神と呼ばれた怨敵を相手にしても、ここまで追い込まれてなどいなかった。
肺が酸素を取り込もうとするも、まるで空気が毒にように体が冷たくなっていく。
汗が滝のように流れる、震えが止まらない、死の気配が明確なイメージとなって叩きつけられた。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!
何だ。
何だこれは。
こいつは何なんだ!!!
「おめでとう、ようやく君は恐怖を取り戻した」
一声で重圧は霧散され、脂汗を垂れ流すハジメ。
対する藍染は、再び微笑を浮かべると持参した魔法瓶の中身をカップに注いだ。
「まずはこれでも飲んではどうかな、時間は少ないがその程度は許されるだろう」
ほうじ茶の香りが、自分が生きているのだと確かめさせてくれた。
「お前、ハァ…なんだ…?」
「ただの公務員だよ、非公式のね」
体を縛る光の柱が消え、改めて向き直る両者。
今度は襲いかかることはしない、眼前の存在が規格外だというのが嫌でも理解させられた。
同時に、今すぐにはこちらを殺さないということも。
最初に流れで一度、体を縛られた時に二度、そして先ほどの重圧で三度。
ハジメは、既に3回死んでいる。
それが歯がゆく、腹の奥が煮えたぎるように熱くなっていた。
「肌で感じてくれた通り、私と君では戦力的に大きな差が存在する」
武器もないのだからねと、言外に何もするなという忠告か。
恐らく、次はない。
先の重圧は、文字通り最後通牒なのだ。
「私は君のクラスメイトであり日本国政府直属霊的災害対策課に所属する藍染惣右介というものだ」
「霊的…」
「元の世界にこちらと同じく摩訶不思議な存在がいないとでも思うのかい?」
「高々数千年程度の、単一の宗教概念しか持ち合わせない
背中に刃物を添えられたような錯覚。
まさか今まで生きていた世界が、異世界よりも恐ろしいものだというのか。
「異世界からの拉致、というのは最近増えていてね」
「以前は神隠しと称されていた現象が、異世界の神格によって引き起こされるとはたまったものじゃない」
「お前は、コレを予測していたのか」
「いいや、この通り未成年だからね。真面目に学業に勤しんでいたら巻き込まれたというわけさ」
なにがこの通りだ、老け顔め。
お前は中二病全開だけどなと返されそうな本音を嚥下し、続きを促す。
「単刀直入に、こちらの要求を伝えよう。君がこの異世界で得た能力、知識、技術、道具一切を破棄し、記憶改竄を受け元の世界に戻ってもらう」
「ふざけるなぁ!!!」
腹の底から拒絶の怒声をぶちまける。
何の権利があって、再び俺から奪うというのか。
目がチカチカするような、泥の如くこびりつく怒気。
「君が受けた仕打ちと、そこまで至った努力からしても受け入れがたい案件だろうということは百も承知だとも」
「そもそも元の世界に戻るには俺の力がなければ…」
「可能だ、既に我々は世界移動の技術を保有している」
その一言で切り捨てられた。
「南雲くん、ハッキリ言って君は危険だ。君のような人間が法治国家たる現代日本に適応できるとでも?」
「やられたらやり返す、敵対者に容赦はなし、この世界ならばともかく元の世界では即刻刑務所行きだ」
力があれば何をしてもいいと、君は言い切れるのかね?
そうだと開き直ることは出来なかった、何故なら…
「暴力は、暴力によって駆逐される。君程度の戦力は幾らでも転がっているのだよ」
ありふれた、という程でもないだろうが。
こちらを押しつぶせる程度の数はあると、想像するのは難しくなかった。
「君は弱い」
否定される。
「君自身の戦力は脅威とはいえない、この程度の世界を滅ぼすなど片手間でやってのける存在があちらには山ほどいる」
自分を繋ぎ止めていくための鎖が。
「しかし君の能力は有益だ、それを狙うもの達の手に渡るのは非常に危険なのだよ」
一つ一つ。
「君には弱点が多い、君を慕う彼女たち、ご両親を人質に取られればどうする?」
言葉の刃で。
「敵を殲滅するのか、だが正体は容易く掴ませてはくれまい。例えば都市部にいたとして住民全員を殺害するかね?そんなことは許されない」
切り捨てられる。
「後ろ盾も、抑止力たりえる力もない、ポッと出での君はあまりに脆い」
何もかもが。
「だから捨てていくといい、君のこれからには不要なものだ」
滴る汗が、カップに注がれたほうじ茶の水面に波紋を作る。
いつもならば知ったことかと切り捨てるだろう。
だが実際それを成せるだけの存在が、今目の前にいるのだから。
この男の言った言葉が、真実ではないとどうして否定できる。
「これは一例なのだが、神格の戯れによって死亡した少年が異世界にて再び生を得たケースが存在する」
「雷に打たれて黒焦げになった少年は、神格から得た力を己のものだとして扱い随分と「勝手」をやったそうだよ」
「そして何をトチ狂ったのか、見目麗しいご婦人達と共に「地球」に帰還した後も「同様」の振る舞いを行った…どうなると思う?」
聞くまでもない、この口ぶりからして結果は最悪だ。
「神格より与えられたアーティファクト、そして異世界の人間を狙い幾つもの犯罪組織が少年を狙った」
当然、少年はそれらに対して反撃する。
関係ない周囲の人間を巻き込み、「奇跡的」にも被害者は数百人程度で済んだ。
ご婦人たちは脳髄に至るまで腑分けされ、当人は嬲られてから死んだという。
「元々倫理観や道徳心の欠如した人物だったそうだが、重要なのはそこではない」
多少の差異はあれど、ハジメにも当てはまる要素が存在する。
下手をすれば、自分と彼女らも同じ末路を辿るかもしれない。
「―――何故、そこまでの力があって何もしなかった」
苦し紛れの糾弾、だが藍染はハジメに対して頭を下げた。
床に額を押し付け、すまないと。
「私が積極的に動くわけにはいかなかった、エヒト神に私の存在を感知されれば何らかの行動を起こすことは明白」
最悪、対抗策として地球から別の人材を拉致されるかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。
たとえ召喚されたクラスの人間が、全員死亡したとしても。
犠牲者は、30人にも満たないのだから。
「トータスの情勢、黒幕の正体を掴むまで動くわけにはいかなかった。だがそこで想定外が発生したのだ」
南雲ハジメ、教会から異端を受けた神の敵。
「私は計画を変更した、表の動きは君に任せ裏から帰還とエヒト神の動きを制限させるように」
「制限? 何をした」
「人から神に至るというのは、けしてありえないことではない」
例えば徳川家康は死後に東照大権現という神号を与えられた。
三国志で有名な関羽も関帝聖君として讃えられもした。
「だが神格には違いない、神はそう簡単に「死ぬ」ことはありえない」
「エヒトは生きてるのか!?」
「いいや、君が殺した」
藍染がやったことは難しいことではない、復活に要する条件を虱潰しに処理したのだ。
ハジメが盛大にドンパチをかましてくれたお陰で、エヒトは再臨することもなく消滅。
同時に、もう一つの問題が浮上した。
「先も言った通り、君の人間性は酷く攻撃的だ。こちらからアクションを起こさねば無害かもしれないが、そんなもの何の保証にもなりはしない」
異世界で何十、何百、何千と死体が出来上がったとしても知ったことではない。
しかし、地球でそれを成されるわけにはいかないのだ。
首輪のない肉食動物がそこらを好き勝手歩かれては、おちおち眠れもしないのだから。
「君の精神性は変質したとも言えるが、実際はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の兆候が見られる」
「君は病気だ、本来なら長期間の入院と医師のケアが必要なほどに」
だからこそ―――
「力を放棄して欲しい、どうか平和な世界で辛い記憶を忘れ日常に戻ってくれないだろうか」
断れば殺す。
口調こそ優しいが、目は恐ろしく冷たいもので真実を語っていた。
「…ユエは、みんなは何処に」
「ふむ…よし、付いてきてくれ」
テントの外へと向かう藍染の背を追うように、ハジメもそれに続いた。
◆◆◆
テントの外では幾つもの機材が並び、同じ制服を着込んだ人間が忙しく作業を続けていた。
人気のない森の中、無機質な駆動音が余計に不気味だ。
「本当に異世界に来れるんだな」
「地球から向かうには、正確な座標が必要だがね」
促されるまま一際大きなテントへと入ると、SFで見られるような人間がすっぽり入れるほど巨大なケースが並んでいる。
中には下着姿のクラスメイトたち、白崎香織や八重樫雫、姿を消した天之河光輝もいた。
「今彼らは強化、変異した肉体と魂魄を正常に戻す処置を受けている」
日常を生きる上で、過度な力など必要ない。
力は暴力となり、そして周囲から拒絶を受けるのだ。
「ユエは…」
こっちだと手招きされた先には、愛する吸血鬼がケースに入れられ眠っていた。
ユエだけではない、獣人のシア、竜族のティオ、皆が同じく眠りについていた。
気になった点はひとつ、シアの特徴とも言える兎の耳がない。
「今のまま地球へ移住させるわけにはいかないのでね、「義骸」と呼ばれる人間としての肉体に魂魄を移し替え記憶改竄を受けている」
勿論、同意を取ったうえでねと。
ガラスケースに阻まれた、愛しい彼女。
今のハジメでは、この程度の障害すら超えられなかった。
「記憶改竄といっても、君への恋慕を消すわけではない。あくまでそこに至った流れを地球への出来事としてすり替えるだけだ」
人外である彼女らを連れて行くことはできない。
彼と共にいたいなら全てを捨てろ。
故郷も、家族も、力も、記憶すらも。
全てを失ったとしても、彼女らは願ったのだ。
南雲ハジメと共に生きたいと。
「これから彼女たちは偽の記憶、経歴を与えられ日常を過ごす事になる」
ひとクラス分の消失、関係者への記憶操作、マスコミへの対応、異世界人の国籍取得。
幾つもの問題はあるが、全て処理する責任が我々にはあるのだ。
改めて藍染とハジメは向き合い、ハジメの右手に慣れしたんだ感触が戻る。
一丁の銃が、藍染から手渡された。
ドンナー・シュラーク、ハジメが生み出した困難を打ち破る牙。
「選べ、南雲ハジメ」
恐怖のまま、全てを失うか。
勇気を出して、捨て去るのか。
ドンナーを、藍染へ向け―――放り投げた。
「さっさとしろ、俺の体も戻すんだろ」
「無論だ、協力に感謝する」
ありふれた最強の物語は、ここで終わる。
ありふれた日常が、ここから始まる。
「さようなら南雲ハジメ―――おかえり、南雲ハジメくん」
“砕けろ、鏡花水月”
◆◆◆
校庭で仲良く帰路に就こうとする少年たち。
イジメを受けていた彼はいつしか認められ、こうして多くの出会いを生むことになった。
それを教室から見下ろす、眼鏡をかけた男子生徒。
「ありふれた幸福など、努力すれば簡単に手に入るものだ」
あの少年はそれをしなかった。
だから得られなかった、ただそれだけ。
記憶を書き換えられ、力を失ってこれからどうなるのか。
そこから先は、彼にとって関わるべき事ではない。
「私も偉くなったものだ、いつかこのしっぺ返しを受けて地獄行きかもしれん」
そう言って男子生徒は校舎から姿を消した。
ありふれた日常が、これからも続くことを信じて。
そして世はこともなし。
お前頭やべーし、すぐ攻撃すっから地球に戻ってくんな!
帰りたければ全部捨てて忘れろ!
じゃなきゃ○ね!
三行で済む話が長くなってしまいました。
何で藍染様?便利だからだよ。
たぶんこの世界は転生者はチート共が転がってて、ハジメくんじゃ無理かなぁと。
私は最強ってあまり使いたくないんですよね。
だって言葉が強すぎて、ハードル高くなりすぎてしまいますから