王になれなかった女の話   作:石上三年

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王の義兄の懐古

ああ?

モルガンの話を聞くために何で俺のところに。

は? マーリン?

 

はあ……。分かったよ。

といっても、俺に話せることなんてあまり無いぞ。

とりあえず記録に残ってるはずがない話からいくか。

 

アーサーが俺の家にきて2年ぐらいのことだった。

 

俺は親父に頼まれて近くの村や町に書状を届けてきて帰りだった。

 

それなりに整った身なりで馬に乗った女が街道で盗賊らしき男たちに剣を突きつけられていた。

俺は街道近くの林にできるだけ素早く移動して 馬を隠して、横から賊の不意をつける位置を狙って移動した。

 

移動して女の顔が見えた時、俺は少しだけ教会の神様に感謝したな。

賊に絡まれた女は美人だった。うねる雨雲のような灰色の髪に柘榴の実を思わせる赤い瞳の女だよ。しかも女一人で賊に囲まれてるってのに、女の態度は小揺るぎもしなかった。

美人の聞き心地のいい声で賊を相手に「そこをどきなさい」の一点張りだ。

 

業を煮やした賊が剣を振り上げた瞬間、俺も走り出そうとしたが、俺もあの時の賊もとんだ無駄をした。

 

いつの間にか女の手には白い槍があって、馬上から槍の穂先で敵の剣をからめとって弾き飛ばしていた。

賊が呆気に取られたのは一瞬だ。次の瞬間には、女の槍が賊の喉首を捕らえていた。

 

美女が冷ややかな鋭い声で脅せば、賊はどいつもあっという間に震え上がってその場からへっぴり腰で逃げ出したのさ。

 

で、その美女はすぐに俺の方を見てにっこり笑った。

「助けようとしてくれて、ありがとう」ってな。

 

今度は俺が間抜けな面をさらしてただろうよ。

無言の俺に対して女はクスクス笑いだしたんだから。

 

聞けば女は魔術師で、賊と対峙しながらも周囲を魔術で警戒していたらしい。

で、街道を後からやってきた俺がわざわざ馬を隠して賊の死角を選んで徒歩で動いたことにも気づいてたんだと。

 

なんで、それだけでその女は俺を味方だと判断したのか?

ああ。それな。俺も最初訳が分からなかった。

 

女は馬に乗ってただろ?

賊の仲間で女が逃走するのを防ぐためだったら、わざわざ馬から降りるのも危険だろ? 歩兵じゃ簡単に騎兵には勝てやしない。

女が包囲を抜け出して馬に乗ったまま逃走しようとする可能性を踏まえれば、賊の仲間が馬を降りてしまうとは考えづらい。むしろ背後から馬で近づいた方が、女への脅しになるはずだ、と。

 

俺は女の言うことに一理あると思いながらも、反論が思い浮かんで言ってしまった。

 

「もし俺がさっきの連中の仲間でただの馬鹿だったとか、さっきの連中の敵で別の賊とかって可能性は考えないのか?」

 

今度は女が呆気に取られたよ。そしてすぐにけらけらと童女のように笑いだした。

 

「考えてもみなかった!」

 

笑いだした女を前に、色々と考えてた俺もなんか馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。

 

話を聞けば、女は数年前に養子に出された腹違いの妹の様子をお忍びで確認にやってきたと言う。向かう先は俺の家がある街だ。

もしかしたら、と俺は思ったがその場ではその疑問を飲み込んで、ひとまず女の名前を聞くことにした。

 

「モル……」

「モル? それがあんたの名前か?」

「ち、違うわ! モルゴース、私の名前はモルゴースよ!」

 

露骨な態度だったよ。

 

ん? 変な顔するんだな。確かに今の魔女と呼ばれるあいつからは想像できないかもしれんが。

 

当時の俺が、モルゴースの名前の意味に気づかなかったのか、って?

ああ、そもそもモルゴースって名前自体知らなかったのさ。

その名前が誰のものなのか知ってたら、俺は親切心と下心でもってあいつを俺の家に案内したりしなかった。

 

あいつの父親に身内を殺された女かもしれないやつを、あいつの前に連れていくような判断はしなかったさ。

 

俺はモルゴースと名乗ったそいつに言った。

「俺の父親は街で顔が利くから、あんたを紹介してやる。そうすれば目的もちゃんと果たせるだろ」と。

女は安心したように笑って、俺の案内に従った。

 

案内ついでに口説いてみたが、すごい幸せそうな顔で素敵な夫と二人の息子が居るとのろけられた。

一刀両断だったな。でも、あいつが幸せそうな顔をしてるから悔しくはなかった。

 

 

それで街まで一緒に向かって、まず俺の家に案内した。

家に帰った矢先、出迎えたのは俺の腰ぐらいしか身長のなかった金の髪の子供だ。そう、アルだ。

女は面食らっていたよ。

 

ガキだったアルは女の表情に気づかず、「お客さまですね、こちらに」とか言って、女の手をひいて家の奥に案内しようとした。

女はアルにされるがままだ。

 

そうこうしている内に俺の親父であるエクターも出てきて、俺がそいつを連れてきた理由を説明した。

親父はモルゴースという名を聞いて、アルとそいつの繋いでる手を見て、笑ったよ。

 

親父はすぐにモルゴースと名乗ったあいつをうちに泊めると言って、準備をするように俺とアルに言いつけた。

俺はアルに引きずられるようにその場を後にしたが、親父とあいつは何かを話していたよ。

 

客間の準備を終えた俺とアルが夕食に必要な食材を買いに出ようとすると、あいつがやって来て俺たちについてきた。

妹の住んでいる街の様子を見たいと言ってな。

 

アルは不思議がって、あいつに尋ねた。

 

「モルゴース、妹さんを探さなくていいのですか?」

 

あいつはアルにこう返した。

妹の様子を確認して、元気にやっているのであれば、それでいいと。むしろ相手はこちらの顔を覚えてもいないだろうに、今さら姉と名乗るつもりはないのだと。

 

その言葉があいつの嘘か本当か俺には分からなかった。

アルは納得できていなかったようだが、あいつに街の様子をあれこれ聞かれて頼られているとでも感じたのか、すぐに満更でもないような顔をしてあいつの案内を始めた。

モルガンはそんなあいつの背中を眩しいものを見るような目で見ていた。

 

 

1日かけて、買い物をしてアルはあいつに自分が住んでいる街や周辺を紹介した。

 

その日の晩にはアルはあいつにすっかり懐いていた。むしろあいつの方が、それに困惑していたほどだった。

 

 

翌朝に目覚めると、あいつの姿はどこにもなかった。

それどころかアルも親父もあいつのことを覚えていやしなかった。

 

覚えていたのは俺だけで、あいつをもてなすのに使った金子と同じ額が入った袋が俺の部屋に残されていた。

 

後からマーリンに聞いてみたときには、記憶の消失はやっぱりあいつの仕業だったそうだ。

 

まあ、俺がこのことを話した時にアルにかけられた魔術もマーリンが解除したんだが。

 

 

俺たちが再びあいつと関わったのはアルが選定の剣を引き抜いて旅に出た後だ。

 

 

ペリノアとアルが鉢合わせて戦いになるように状況を整えて、モルガンはその隙に聖剣の鞘を自分がさらした騎士に盗ませた。

モルガンはアルの不老の理由が選定の剣の鞘にあると誤解させられていた。

情報戦ではマーリンが勝っていたってことだな。

 

マーリンが遠見の魔術で悔しがってるところを覗き見したそうだから間違いない。見られていることに気づいたモルガンのはすぐにあの野郎に不運になる呪いをかけてたがな。

しばらく口説いた女にことごとくふられているあいつを見るのは愉快だったよ。

 

まだガキだったアルはこの一件でそれなりにショックを受けていたようだった。

あの優しかった人が何故、ってな。

この件で選定の剣を折ってしまったから余計にそう感じていたんだろう。

 

この件でモルガンと直接顔を合わせることはなかった。

 

そういやこの件の後、エクスカリバーを手に入れるために湖の乙女ヴィヴィアンに会いに行ったんだが……。

ヴィヴィアンとモルガンは面差しがよく似ていた。正直薄気味悪いと俺は思った。

そういや、あの時は珍しくマーリンが真顔だったんだよな。それだけあの湖の乙女がヤバイやつってことだったのかもな。

ただ、あの顔で真面目に対応したのが悪かったのかマーリンはヴィヴィアンに気に入られちまった。

 

 

 

あとはお前も知ってる、諸王の反乱の際の騒ぎだ。

反乱の裏で糸を引いていたのがモルガンとその夫、オークニーの王ロットだった。

 

モルガンの密偵行為による騒ぎ、諸王の反乱、ロット王の戦死。

 

この辺の詳しいことは当事者たちに聞いてくれ。俺は精々密偵騒ぎの最後の方でモルガンと顔を合わせたぐらいで、それもすぐにあいつは俺たちの拠点から脱出してしまった。

 

反乱に失敗した後モルガンは姿を消したものの、各地で騒ぎの種をばらまいていた。

緑の騎士のように呪いをかけられた者。各地の騎士に与えられた祝福と呪いが紙一重に合わさったような武具や秘薬が起こした騒動。不審な諸侯の死。

 

 

アーサー王に仕える騎士たちがどうにかしてなければ、さぞ巷は悲劇にあふれていただろうよ。

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