王になれなかった女の話 作:石上三年
は? 母上の話?
よりによって、お前が俺に聞くのかよ。
……おいおい、騎士が簡単に頭を下げるなよ。ったく、お前がそんなだと調子狂うぜ。
母上なあ。
円卓の連中、皆が知っているように悪辣な魔女で間違いないと思うぜ。
母上の関わった騒ぎってのは、全て母上が意図したこととは限らねえよ。
だが、意図して引き起こしたことも確かにある。
母上は何らかの基準で自分にとって邪魔な奴を追い落とすなり破滅させるなりしていた。
その中で俺はこういう奴を残しておくと国全体には悪影響だから、っていうのをガキの時点で何度も見せられた。
母上としては国内で王が排除すべき連中の見本を見せるってのが主な目的なんだろう。そいつらを破滅させる手段まで俺はきっちり見せつけられてるわけだ。
直接殺しちまえば手っ取り早いのに、母上はそうしない。まあ、母上には率いる兵も大義名分も王位という権威も無いからな。そうせざるをえなかったんだろう。
母上はあちこちに仕込んだ目と耳の代わりになるやつを通して、騒動のきっかけをつくり、破滅させる。
まあ、その騒動の中で改心して運良く難を逃れた連中もいるがな。
目と耳の代わりになるのは母上が作った使い魔の鳥どもってこともあれば、母上が作った人間もどきってこともあった。
……もどきども?
ああ、文字通り人間もどきだよ。
母上が自分の血とか他の動物の肉とか色んなものを使って作った人間そっくりの何かだよ。
大体数年で内側から壊れて死ぬ。傍目には何かの病気で弱っていったようにしか見えねえ。
昔の騒動に母上が関わっていたんじゃないかって思って探っても、決定的な証拠を持っていたやつは皆すぐに墓の下にベッドを作って休んでしまってるってワケだ。
まあ、キャメロットにはいないんじゃないか?
マーリンの野郎が結界を張ってるし、母上の手口をよく知ってるやつが目を光らせてっからさ。
まあ、そんなこんなで俺は母上の下で過ごしながら母上の基準で騎士として必要なものを、王に必要なものを教わりながら過ごした。
剣術、馬術、政の知識、ブリテンの風土やそこに住んでるやつらの人間関係とかな。
母上はこうも言っていた。
民というのは自分達をより幸福にしてくれるのなら、王とは誰でもいいのだと。
だから本当に死んではいけないのは、矢面に立つ王ではなく、政の采配を取る者なんだと。
もっともな言い分かもしれねえが、性格の悪さが透けて見えるだろう?
……騎士としての心構えは教わらなかったのか、って?
……ああ、教わらなかったよ。王が持つべき心構えってやつもな。
口ではどう言おうと母上にとって俺はそういう存在なんだろうよ。
まあ、そんな母上の下からキャメロットにやって来て、ひとつだけ後悔したことがある。
キャメロットで出る食事はな、母上の作った食事より不味い。
……何を呆気に取られてんだよ。
ああ、そうだよ。
母上って味にはうるさい方なんだよ。どうせ食べるなら美味しい方がいいって。
それだけは全くもって同感だ。
そんな考えで回りの使用人が最低限しか居なくて、食材も限られていて、王族としての見栄を張る必要があんまり無い状況であの母上が我慢するかよ。
俺がガキの頃住んでたのは母上の隠れ家のひとつだったしな。
……ああ、母上の手料理だけは悪くなかった。
本当にガウェインのやつは母上の血を分けた息子なのかよ。
って、おい。何目をそらしてやがる。俺は潰しただけの芋を歓迎の料理と称して食わされたことを忘れてねえからな!