王になれなかった女の話 作:石上三年
一体今更私に何用かな?
それとも今になって怖じ気づいたのか?
あの二人の密会の場所を教えたのは、私の見込み違いだったということか。
違う?
斬る理由も斬らなくていい理由も 斬ってはいけない理由も知った上で斬るために、あちこちで話を聞いて回っている?
……私とて溜め息もつく。
何を悠長に迂遠なことをしているのかと呆れているのだ。
斬ると決めているの何故そんなことを。
……まあいい。私には関係ないことだ。
いや待て、つまり私にもモルガンの話を聞きに来たのか?
よりにもよってお前が私に?
……怖い顔をしないでくれ、だと?
父上そっくりの顔で、父が全く浮かべなかったような顔をするから余計に怖い、だと? 私が知るか。
……はあ。
いや、私は物心ついた頃からお前やガウェイン卿と違ってモルガンに魔術師としての修行を受けていた。
王に仕える真っ当な騎士として育てられたのがお前とガウェイン卿なら、王に仕える魔術師として育てられたのが私ということだろう。
……いや、剣術を叩き込まれたのは、モルガンの知っている男で凄腕の魔術師があの男だからだろう。
まあアーサー王に仕えさせるにあたって騎士の方が都合がよかったというのもあったかもしれないが。
ああ、だから、お前たちと違って私は父と接した記憶があまりない。
物心ついてからは調略のために動いていたモルガンに従って各地を移動しながら、魔術の修行をしていた。
……そんなに私とあの女が城を空けていたのが意外か?
忘れたのか、あの女はマーリンでさえ敵対するのならば本気で警戒しなければいけない魔術の使い手だぞ。
空間移動といえばいいのか。あれは日常の食事と同じぐらい当たり前だった。
お前とガウェイン卿は父と母が、良き夫婦だったと思っているようだがな、そんなことありはしない。
あの女は様々な人間を籠絡するために自分の体を使うことを厭わなかった。
あの女と共に調略の結果を父に報告したことがある。
あの女が先に退出して私は父に、あの女が緒王を反乱のため焚き付けるのに何をしているのかを伝えた。
あの男は平然と笑顔を浮かべていた。
「調略の手段はモルガンに任せている」
「彼女が最後に帰ってくるのは私のところなのだから、私の居ないところで多少羽目を外したとてかまわない」
笑いながらそう言ったのだ。
母が父に隠していたのでもない。
父が母に命じていたのでもない。
最初から、ああだった。
お前はそんな二人の間にあるのが、愛だったと思えるのか?
調略に出た先で、何故そんなことをするのかあの女に聞いた。
あの女は「いずれ自分がブリテンの王になるためだ」と答えた。
数多の男に足を開いてから座る王の席のなんと汚らわしいことか。
王位などくだらない、と私は思った。
あの女はことあるごとに自分が王位についた時に行うべき政策について語った。
今思えば驚くべきことに、政と智略においては最善と最良にならずとも妥当な判断ができるそれなりに優秀な女だった。
だが、それだけで数多の民や騎士が従うはずはないのだ。
アーサー王でさえ、多くの人々に王と認められるのに長い時間がかかった。
あの女もそれは分かっていたはずだ。
結局のところあの女が王になったとして、暴君と成るしかない。
それを分かっていながら、それでよいと笑う女だ。
あの女は人間としての幸福を味わい楽しみ知りながら、他者のそれを迷うことなく良心の呵責なく踏みにじることができる。
モルガンは見た目が美しいだけで、その性根は魔女と呼ばれるにふさわしい、淫蕩で醜悪な女だとも。
なおアッくんはこの話で母に対する最大のトラウマ案件について全く言葉にしていません。