ワールド・フレイム   作:鎌鼬

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第1話

 

 

 殺す。

 

 殺す。

 

 殺して、殺す。

 

 向かってきて剣を振りかざした者を殺す。

 

 距離を取って狙撃してきた者を殺す。

 

 逃げようとしてトリガーを手放した者を殺す。

 

 目の前の光景が信じられずに呆然としている者を殺す。

 

 淡々と、粛々と、まるで機械的に周囲にいる敵を鏖殺し続ける。

 

 手にした武器ーーー製作者が〝炎の対剣(フレイムダンサー)〟と名付けた、二本の剣の柄が繋がったトリガーで、殺し続ける。

 

 別に感情が無いとは言わない。だが、こうも簡単に殺せる程度のレベルだけでは感じるものなどあるはずが無い。込み上がってきた欠伸を噛み殺しながら、発狂しながら向かってきた者を斬り捨てる。

 

 そうして敵陣を文字通りに切り進んでいけば視界にテントが、敵の設備した司令部が映る。

 

「敵の司令部を確認」

 

『そうか、ならばいつも通りだ。敵の護衛を殺し尽くし、指揮官をこちらまで引きずって連れて来い。上手にできたらご褒美をくれてやる』

 

「ご褒美とかいいからマトモな休みをくれよ。半休とかじゃなくてしっかりとした休みをさぁ」

 

『私もそれは進言しているのだが、他の者からすればお前たちは使い捨ての人材に過ぎないからな。死んだところでそれまで、足りなくなったら他所から攫って来ればいい程度の認識なのさ』

 

「まったく持って腐ってるな」

 

『まったくだ』

 

 通信機から聞こえる声に通信を切ることを伝えながら、トリガーの能力を起動する。

 

 背中からトリオンが噴き出し、燃焼し、真紅の炎となって燃え盛る。そして大地を蹴り、噴き出している炎をブースターとして使用する事で飛翔し、飛びかかってきた敵を斬り捨てながら高速で司令部へと突貫する。

 

「こ、ん、に、ち、わーーーッ!!」

 

 叫びながら突貫をした返礼は攻撃だった。流石は司令部の守護を任されているというべきか、外に居た雑多とは比べ物にならない練度の連携。四方からやって来る攻撃には逃げ場は無く、払い除ける事が出来たとしてもそれは二手までが関の山。その後の三撃目で、それを凌げたとしても四撃目で命を刈り取られるのが見えている。防御手段は備えているが、相手もそれを踏まえているのか〝防がれたとしても殺す〟という殺意が何とも()()()()

 

 だが、それを貰う訳にはいかない。殺し合いに楽しみを見出しているロクデナシだと自覚しているが、生憎と死にたいと望んでいないのだ。

 

「任せた」

 

『アイサー!!』

 

『了解』

 

 通信機から二つの声が聞こえるのと同時に、死角から迫っていた二人の頭部が弾け飛んだ。ここから遥か離れた場所にいた狙撃手の狙撃。

 

 それは同時に、必死だった四連撃が対処可能な二連撃に落ちた事を意味している。

 

 先に向かってきた斬撃を〝炎の対剣〟で受け止め、その威力を利用してやってくる二撃目をそれよりも加速した一撃で下手人を斬り捨てる。そしてそのまま止まらずに、返す刀で一撃目を振るった者を袈裟斬りに断つ。

 

 全員が致命傷を負った。通常ならばそのまま崩れ落ちるのだが、四人の身体にヒビが入り、爆ぜ、そこから無傷の四人が現れた。

 

 トリオン体が破壊され、戦闘能力は無くなった。しかし、生かしておけば後に再び敵として立つのが目に見えているので全員の首を刎ねる。

 

「ば、馬鹿なッ!!我が国の精鋭がーーー」

 

「残念でしたーーーッ!!」

 

 狼狽えている立派な軍服と髭が特徴的な初老の男性との間合いを一息で詰め、トリオン体に成られる前に腹パンで意識を奪う。

 

 指揮官相当の者は前線に出ないからなのか、トリオン体では無く生身でいることが多い。俺からすれば自殺志願者かな?と思うのだが、捕まえるのは楽なので助かっている。

 

「こちら(かがり)、こちら篝。敵指揮官の捕縛に成功した。これより帰還する」

 

『良くやった。帰ってきたらご褒美をくれてやろう』

 

「それはいいから休みくれ。気力で頑張ってるけど、流石に一週間で二時間しか睡眠時間無いのはキツい」

 

『無論、休日は用意させるとも。それとは別にお前にはご褒美があるというだけの話だ』

 

「はぁ、それはどっちにとってのご褒美になるんだか」

 

『お前が嬉しくて私も嬉しい。完璧じゃないか』

 

「黙れポンコツ」

 

 通信機の向こうから抗議の声が聞こえてくるが、それを無視して通信を切る。そして敵指揮官を肩に担ぎ、来た時と同じように炎をブースター代わりにしながら飛翔して味方の陣地に飛翔していく。

 

 その最中に上空から戦場を見下ろす。司令部を強襲し、指揮官を攫われた事で敵軍の動きは鈍く、一部は旗色の悪さを感じ取って逃亡を始めている。逆にこちら側は士気が高い。だが、それは小綺麗な格好の者たちばかりであって、泥だらけ傷だらけになっている者たちは疲れからか動きが鈍い。

 

 そしてそれを見た小綺麗な格好の者が、罵声を浴びせながら息絶え絶えになっている者を斬り捨てた。

 

 こうなりたくなければ戦えと叫べば、他の者たちは死に物狂いになって敵兵へと襲い掛かっていく。

 

「まったく持って腐ってるなぁ……はぁ、帰りてぇ」

 

 ここではない別の世界に望郷の念を抱きながらも、それは叶うわけがないと湧き上がってきた思いを捨てる。

 

 そして自陣へと帰還する事にした。

 

 

 

 

 帰還して捕らえた指揮官を引き渡し、身なりを見苦しくない程度に整えてから向かった先は上官の天幕。

 

「失礼します。篝、帰還致しました」

 

「ご苦労。入室を許可する」

 

「ハッ!!」

 

 通信している時には気軽に話していたとはいえ、この場では他の兵士の目があるので言葉遣いを正しながら話せば、向こうもそれを理解しているのか上官としての言葉遣いで入室が許される。

 

 だが、僅かに笑い声が含まれていたのは聞こえた。明らかに俺の敬語に笑っていやがる。

 

 天幕の中は豪奢とは言えないが、上等そうな調度品が置かれている。

 

 とてもでは無いが、()()()()()だとは思えない設備だった。

 

「篝部隊隊長、篝巴(かがりともえ)。ただいま帰還しました」

 

「うむ、ご苦労だった」

 

 肘置き付きの椅子に座りながら満足そうに頷くのは同じ年頃の少女だった。透き通るような銀髪を糸で括り、軍服を着こなした彼女はルビーの様に燃える真紅の目で俺を見つめながら優しく微笑みかけている。

 

 そしてご苦労だったと言った瞬間、彼女の雰囲気が緩んだように感じた。恐らくは、俺が無事に帰ってきた事に安堵しているのだろう。

 

 それは俺も同じだ。連れ去られて故郷に帰る事が出来なくなった今では、俺の帰るべき場所と言えるのは彼女の元だけなのだ。死ぬ事なく、傷つく事なく帰る事が出来たという事実を認識して、無意識の内に入っていた力が抜けていくのが分かる。

 

「良くやった。尋問で聞き出した情報が確かであれば、これで敵方の有力な指揮官は全て捕らえた事になる。我が軍の腐っている奴らが足を引っ張らなければ、この戦いは問題なく勝てるだろうな。まぁ、ブラックトリガーを警戒しなくてはならないがーーーあぁ、人払いは済ませているから言葉は崩して構わないぞ。カガリの敬語は聞いているだけで笑ってしまうからな」

 

「では失礼してーーー似合ってないのは分かってますよ〜だ。ったく、なんでどんだけ猫被っても似合わねえんだよ。おかしいだろうが。初対面の奴に話しかけたら巫山戯てるのかってキレられたんだけど?」

 

「それはカガリの雰囲気の問題だろうな。個人的にはこうしてぶっきらぼうに話している方がらしいと感じる。うむ、私としても今の方が好ましいぞ」

 

 上官と部下の立場を無視したいつものやり取りをして安心していると、少しばかり視界が揺れる。

 

 傷は負っていないが、ここ最近はマトモに休む事なく戦場を駆け巡っていたのだ。肉体的、精神的に疲弊していて当たり前だろう。気の緩みからか、それが噴き出して来たらしい。

 

「……大丈夫か?」

 

「疲れてるだけだ。休んだら元に戻るさ」

 

「そうか……ならばここで休め」

 

「いやいや、それは流石に不味いって」

 

「残念だが上官命令だ。断るという選択肢は無いぞ」

 

「お前……お前……ッ!!」

 

 立場を無視したやり取りをしているが、彼女と俺の関係は上官と部下だ。軍属である以上、上官からの命令は絶対であり、逆らう事は出来ない。

 

 悔しそうな顔をしながら命令を受け入れれば、彼女は満足そうに頷きながら椅子から立ち上がり、ベッドに腰を下ろす。そして自分の膝を叩いてここを使えとアピールしていた。

 

 疲れからか考えるのが面倒になっていたのでそれに素直に従い、ベッドに横になりながら彼女の膝の上に頭を乗せた。

 

 すると、彼女の手が優しく、労わるように頭を撫でた。

 

「良くやってくれた。カガリたちのお陰で予定していた期間よりも早くにこの戦争は終結するだろう。それはつまり、それだけこちらの被害が少なくなる」

 

「……俺は言われた通りの事をしただけだよ」

 

「それでも、だ。腐った連中の懐が肥える事は気に入らないが、死ぬはずだった命が救われた事が嬉しい。ありがとうカガリ、ゆっくり休んでくれ」

 

 優しく撫でられているからか、ベッドの柔らかさからか、膝から伝わる彼女の温もりからか、作戦中は感じる事の無かった眠気が込み上げてくる。これは眠ったら相当深い眠りになりそうだと思いながらも、その眠気を拒む事無く受け入れる。

 

「おやすみ、カガリ。良い眠りを」

 

「あぁ……おやすみ……ルナ……」

 

 そうして彼女、俺の飼い主である国の第三王女ルナの膝の上で眠りに就いた。

 

 






某所でワートリ話をしていたら書きたくなった作品。いつも通りに頭のネジを外した主人公を投下して行くわよ〜。

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