ワールド・フレイム   作:鎌鼬

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第2話

 

 

 俺がこちらにやって来たのは、記憶が確かであるのなら五年前。

 

 当時十四歳だった俺は、通っていた学校の友人達と一緒にとある都市伝説を確かめようと言う話になって、その現場に向かう事になった。

 

 そこは人気の無いボロボロに寂れた神社。そこには深夜になるとどこからか化け物が現れ、見つかって捕まるとこの世では無い別の世界に連れ去られるというのだ。

 

 嘘だと分かっていながらも本当だったら面白いと、肝試し的な感じで行ってみようぜと盛り上がっていたのは覚えている。中には態々一眼レフのカメラを用意していた気合の入った者もいた。

 

 そして週末の休みを利用してその神社に向かい、その都市伝説が本当だということを思い知らされた。

 

 新月の夜に持参していた懐中電灯の明かりで寂れた神社を照らしながら化け物は何処だとふざけながら探していると、唐突に何も無い空間に穴が空いてそこから見た事も無い化け物たちが現れたのだ。

 

 言葉にするのなら人間サイズのメカメカしいデザインの一つ目が特徴的な蜘蛛。そいつらは突然の事態に硬直している俺たちを見つけると襲いかかってきたのだ。

 

 一人捕まり、二人捕まり、このまま都市伝説の通りにこの世では無いところに連れ去られると理解し、捕まっていない者達は全力で逃げ出した。蜘蛛に捕まって逃げられない者を見捨てて、助けてくれと泣き叫ぶ声を切り捨てて。

 

 それを責める事は誰も出来ない。誰だって見た事の無い化け物に襲われるような事態に遭遇すれば恐怖で我を見失い、一心不乱にその場から逃げたそうとする。

 

 誰もが逃げ出す中、俺だけは襲って来た蜘蛛の化け物に向かって全力の蹴りを放っていた。

 

 見た事の無い化け物に対して恐怖心が無かった訳では無い。それよりも、()()()()()()()()()()()という好奇心が勝ったが故の行動だった。今思えば本当に馬鹿なことをやったとやったと思う。だが当時の俺は、例え捕まったとしても倒せるかどうかを知りたかったのだ。

 

 結果、蜘蛛の化け物を蹴り飛ばす事は出来たがそれだけだった。ひっくり帰った蜘蛛の化け物はその身体に傷一つつける事無く、平然と起き上がった。試しに護身用のつもりで持って来ていた金属バットで殴っても吹き飛ばされるだけで何事も無く起き上がっていた。

 

 その後もしばらく抵抗を続けたものの、数の暴力には勝てることが出来ずに捕まった者一人に蜘蛛の化け物が一匹なのに対して、俺一人だけ五匹に捕まえられる事になった。

 

 そして化け物が這い出して来た穴を通り、俺たちは別の世界に連れて行かれた。

 

 そこでの扱いは物のように扱われるような乱雑なものではなく、かといって客人のように丁重に扱われるという訳でもなかった。

 

 俺たちの扱いは〝商品〟だった。

 

 小綺麗な格好をさせて見栄えを良くし、手枷と足枷が付けられた状態でオークション形式で売りに出された。次々と友人達の買取先が決まっていく中、俺はオークションの最後に出品させられた。何でも、連中が重視する素質が高かった事が理由らしい。

 

 そして買い取られ、奴隷としてでも扱われるのだろうかと考えていたところ、当日の内にメカメカしい見た目の武器を持たされて戦場に放り出された。

 

 普通にドン引きした。

 

 周りを見渡してもいるのは俺と同じような境遇だろう者たちだけ。軍人か騎士たちは後方から俺たちの事を眺めているだけ。せめてこのメカメカしい武器の使い方だけでも教えてくれても良かったんじゃないかなぁと現実逃避をして、

 

 戦争が始まった。

 

 最中の事なんて覚えていない。無我夢中になって襲ってくる人や蜘蛛の化け物と似た化け物たちを与えられた武器で斬っていた。無論、無傷で済むなんて都合の良い話は無い。そこの殺し合いが終わった頃には全身が自分の血と相手の返り血で汚れていて、手も足もしばらくは使い物にならないだろう程に小刻みに震えていた。切り傷、打撲、骨折と、普通ならそのまま入院するような状態だった。

 

 そして生き残った俺たちを見て、後ろで見ていただけの連中は満足げにイヤらしく笑いながらこう言ってのけた。

 

『これより殲滅戦に入る。奴隷兵、前進せよ』

 

 それを聞いてふざけているのかと思った。自分だけでは無く、他の者たちも似たような状態で、中には四肢を欠損しているか内臓が飛び出している者だっている。こんな状態では戦えるはずがないというのに、後ろで眺めていただけの連中はまだ戦えと言ったのだ。

 

 それに反応して、比較的に軽傷の者が怒鳴り声を上げた。そしたら、彼は命令を出した者に切り捨てられた。

 

 硬直したのは一瞬だけ。その場で生き残っていた者たちはそれを見て、全員理解した。

 

 あぁ、自分たちは道具になったのだと。逆らえば殺されるのだと。

 

 動かない身体を動かして行った殲滅戦で、生き残ったのは俺を含めてたったの十人だけだった。傷の治療も施される事はなく、狭い檻に詰め込まれて運ばれて、二、三日してから別の戦場に連れて行かれた。

 

 そこには別の奴隷兵たちがいた。

 

 これがこの国の戦い方だった。奴隷兵だけに戦わせ、勝てればそれで良し。例え奴隷兵が全滅したとしても、敵兵は消耗しているので温存しておいた自軍の兵で倒す。人道に反した超外道戦法。

 

 そんな中で、俺は生き残った。嫌だ、生きたい、死にたくない、殺されたくない。地球では感じる事のなかった生への欲求に突き動かされながら敵兵を倒し、殺し続けた。

 

 そんな生活は五年続いた。今ではルナに目をつけられたお陰で他の奴隷兵よりも高い位につけているが、それでも立場は変わる事はない。それでも、あの頃よりも良い環境で居られるのは確かだった。

 

 だから俺は彼女に従う。彼女に首輪の鎖を握られる事を良しとする。

 

 何故こんな考えに至ったのかは今になっても理解出来ない。良い環境を与えられた事による恩義か、腐った連中の中でもマトモである彼女に対する忠義か、それとも好意を抱いたからの恋慕か。

 

 分からないが、彼女の元に帰ってきた時には安心するのだ。彼女の側にいると心が軽くなるのだ。彼女に会えないと胸に穴が空いたような感覚がするのだ。

 

 少なくとも、今はそれで良い。

 

 そして、そんな彼女は、

 

「あぁ、カガリ。一月後に敵国侵入させてその隙に亡命するから覚悟しておいてくれ」

 

 笑顔でとんでもない事を言い切った。

 

 

 

 

「ちょっと待て、頭が追いつかないから」

 

 早朝、用事があるから来いと言われた彼女の自室で言われた事が咀嚼しきれずに待ったをかける。

 

「一月後に敵国を侵入()()()?」

 

「あぁ」

 

「その隙に亡命する?」

 

「その通り。正確に言うと私とカガリだ。あぁ、お前の部下の二人くらいなら一緒に連れて行けるぞ」

 

「マジで言ってる?」

 

「大マジだとも。ちなみに、同日にマトモな兵士たちによるクーデターを起こさせるつもりだ。フハハッ、いきなり現れた敵と内部から出てきた敵に慌てふためく馬鹿どもの顔をが目に浮かぶ……ッ!!」

 

「顔、顔。思いっきりゲスい顔してるぞ」

 

 地球にいた頃ならばSNSなんかで間違いなくネタ扱いされるようなゲスい顔を浮かべている彼女だったが、練られている計画はネタでは無かった。彼女がそうだと言うのなら、確実にそうなるように手筈は整えられている筈だ。少なくとも、これまでの付き合いでそう言うタイプの人間だと理解している。

 

 一瞬でもネタとして言っているのではないかと疑ったが、彼女ならばやってもおかしくは無いと思っている。

 

 何故ならば、ルナはこの国の王女でありながら、この国を誰よりも憎んでいる。

 

 理由は分からない。彼女の口からは語られなかったが、表情やこれまでの会話からこの国に対する憎悪の感情が見て取れたのだ。機会があれば国を滅ぼすだろうなぁ、と朧げに思っていた。

 

 まさか本当に実行するとは。

 

「で、手筈はどうなってるの?」

 

「敵国の侵入と同時にクーデターを起こさせて、その隙に船を確保して脱出する。出来る事ならば死亡したと偽装したいから、カガリには敵兵とでも派手に戦ってもらいたい」

 

「うっへぇ、戦わずには済まないの?」

 

「出来なくも無いが、その場合は追っ手を差し向けられる事になるだろうな。我が国でもトップクラスの戦力であるお前とトリオン量を持つ私が逃げるのだ。多少の被害を無視してでも確保したいと考えてもおかしくは無いさ」

 

「はぁ、いい加減血の匂いとは無縁の生活を送りたいもんだ」

 

「諦めろ、運命の犬は血と死の匂いに敏感だと聞くぞ?」

 

 隠す事も堪える事もせず、堂々と溜息を吐く。普通ならば無礼だと斬られてもおかしくない行動なのに、ルナは愉快そうに笑うだけで咎めるような事はしない。

 

 彼女が俺に対して戦争中以外に下した命令は一つだけ。彼女が求めれば、一切の立場を無視して対等に接しろというものだ。

 

 俺とは違い、ルナには安息の地は存在しない。有能でマトモな感性の持ち主であるが故に、国王を始めとした腐った連中からは軒並み疎まれていて、何度も暗殺や毒殺を企てられた事があるらしい。それを嘘だと思った事はない。彼女と知り合ってから暗殺者を何人か返り討ちしたし、毒味役が何人も死ぬ姿をこの目で見た。

 

 周りが全て敵であった彼女には、素を晒け出せるような相手は存在しなかった筈だ。奴隷兵相手だとはいえ、そんな相手を求めてもおかしくは無い。

 

「そういえば何で一月後何だ?ルナの事だから即日実行くらいすると思うんだけど」

 

「私だって出来る事ならば今日にでもこの国を壊したいと思っているさ。だが、残念な事に時期が悪い。我々の国が〝惑星国家〟なのは理解してるな?」

 

「成る程、そこの国が近づくのを待ってるんだな?」

 

「優秀な生徒は好きだぞ」

 

 〝惑星国家〟というのは正式な名称ではなく、ルナが作った造語だ。この世界では国と国との境は地球のように国境で分けられているのではなく、星のように空間を漂っている。そしてその国々は決まった軌道で進んでいるのだ。そのため通常では国家間でのやり取りは不可能である。

 

 船を使い、近接している国家を辿ればその限りでは無い。しかし、超外道戦法を使用するとはいえ、この国は軍事国家として知られている。侵略しようと思えば速攻で攻められるが戦力の限られる船ではなく、間を開けようとも十分な戦力を送り込める時を選ぶだろう。

 

 つまり一月後に、攻め込んでくる国家が侵略行為が行えるまで近づく事になる。

 

「ついでを言えば亡命を予定している国も一月後に近づくからな。とはいえそちらはすぐに離れてしまう。敵国がこの国を抑えるか、クーデターが成功するかした時には追跡は困難になっているはずだ」

 

「よく考えてるよ本当に……で、敵国と亡命先の国の名前は?俺が知ってる国なのか?」

 

「亡命先の国は知らないと思うが、敵国の方は有名だぞ。何せ、近界(ネイバーフッド)最大級の軍事国家様だからな」

 

「……うっわぁ、凄い嫌な予感がする」

 

 軍事国家として知られているこの国を滅亡させるのならば、それ以上の戦力を有している国に限られる。ルナが獰猛な笑みを浮かべながら最大級の軍事国家と言った時点で、俺の中では一つの名前しか残らなかった。

 

 

 「カガリも知っているだろう?敵国の名は〝アフトクラトル〟。亡命先の国の名は確か〝玄界(ミデン)〟と呼ばれる国だ」

 

 

 






自国絶対滅ぼすプリンセスのルナネキ。自国を滅ぼすためにアフトクラトルを呼び込むという殺意溢れるプレーにより、この国の運命は決定しました。


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