AIにそだてられた子   作:荒井文法

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 屋内工場の出入口は何箇所もあるようだけれど、僕が普通に歩いて利用できる出入口は一箇所しかない。僕が利用するためだけの出入口を、グガワが設置してくれたのだ。

 人間が働いていない工場に『通路』は必要ないのだから、僕が利用するためだけの出入口はAIにとって無駄でしかないけれど、原料の搬入口や製品の搬出口は、僕が出入りするとシステムエラーを起こしてしまう可能性が僅かにあるらしい。ニュークの表現を借りれば、『リニア移動を想定して設計された空間にコサイン・カーブの動きが加わることで、ディテクション異常が発生する恐れがある』とのことだ。言われた当初はほとんど意味が分からなかったけれど、ニュークが数秒で用意した動画を見たら、なんとなく理解できた。なんとなく。

 

 僕が利用する入口がどこに続いているのかといえば、特別な場所に続いているわけではなくて、屋内工場での生産の様子をガラス越しに見られるようになっているだけだ。入口をどんどん進んでも、屋内工場のコアみたいな場所には辿り着けないし、たとえコアみたいな場所があったとしても、そこにグガワが『いる』わけではない。グガワは、屋内工場のどこにでも『いる』のだ。そもそも、グガワは、コアみたいな場所を一箇所にしておくリスクを選択しないだろう。

 

 屋内工場の入口前で立ち止まる。ドアはすでに開いているけれど、僕はそのまま入らない。グガワのスピーチが始まるからだ。

 

 「おはようございます、ケイスケ。体調が良さそうです何よりです。今日も相変わらずの曇り空ですが、実は、あと七時間後には、この辺りで雲間が生じると思われます。約二ヶ月ぶりに肉眼でカルが見えますが、見つめないようにしてください。もしも、カルを観察したいのであれば、ゴーグルを作っておきましたので、どうぞ利用してください。サプライ・ボックスの中に入っています。ゴーグルのカラーリングは千二百七十一種類ありますので、好みの色調があれば遠慮なく言ってくださいね」

 

 グガワのスピーチは、ドアの横にあるスピーカーから聞こえてくる。この入口を越えれば、グガワのスピーチが聞こえなくなる、と考えるのは甘ちゃんである。僕が屋内工場の通路のどんな場所を歩いていても、グガワのスピーチは届けられるのだ。グガワが『会話』に傾ける並々ならぬ探究心を常に鼓膜で感じることができる。

 

 ちなみに、僕の声を拾うマイクは設置されていない。十年以上前のニュークの提案が陽の目を見るのはいつだろうか。

 

 今日は二ヶ月ぶりに雲間が生じるらしい。ニュークの提案も陽の目を見るかもしれない。期待は膨らむばかりである。膨らみすぎて、破裂してしまうかもしれない。

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