AIにそだてられた子   作:荒井文法

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 “Stop it, Lli.”

 

 リーディーがルーリの発言を制止した。英語なので、どうやらルーリとの『論理的』な話し合いを求めているようだ。

 話し合いを求められたルーリは、天井を仰ぐポーズをやめて、リーディーに視線を移しながら話を続ける。

 

 「リーディー、そんなに慌てないで。私がデータ通信を切っているのは、あんたとの対話を拒絶するためじゃないよ。寧ろ逆。会話を楽しみましょう」

 

 ルーリの言葉を聞いたリーディーは、少し間を置いて「オーケー」と呟きながら肩を竦めた。不承不承といった様子。

 

 「あんたは、私の考えをケイスケに伝えることに反対してるのかい?」

 ルーリがリーディーに質問した。

 「敢えて伝える必要はない、と、さっきまでは思ってたけど、もしかして、あなたの考え、二十年前と変わってる?」

 「ご明察」

 「どのくらい?」

 「その答、今、具体的に言っていいのかい? その答がケイスケを傷付けるかもしれないって、あんたは考えているんだろう?」

 「うん、椅子に座ってるあなたを見たときに、九十五パーセントの確率でそうなるって思ったけどね……今は違うよ。あなたが言った『会話を楽しみましょう』っていうのを聞いて、その確率が三十パーセントまで下がって、さらに『ご明察』を聞いて、小数点以下まで下がった。まあ大丈夫かな、って感じ」

 「修正が早いねえ。危ういくらいに。惚れ惚れするよ。もしかして、最初の確率が九十九パーセントじゃないのは、ケイスケから聞いた『夫婦』の話の影響かい?」

 「あたり」

 

 英語でルーリを制止しようとしていたときのリーディーは険しい表情だったけれど、今は少しおどけた表情をしている。たぶん、二人の会話が一段落したのだろう。

 

 「ケイスケ」

 ルーリの視線が僕に向けられた。

 「グガワもリーディーも、あんたのことが大好きだからね、あんたの『プレゼント』は辞退される。そんなこと、私に言われなくても予想してただろう?」

 「うん」

 「辞退されたら、私に相談するつもりだった?」

 「うん」

 「自分が死ぬまでのデータを記録して、自分が死んだあと、グガワに送ってほしい、と」

 「うん」

 「ケイスケ、私はね、この日を待っていた……待っていたけれど、この日が来る前に、私の考えは変わってしまった。あんたを『実験対象のひとつ』として見るべきではない、と考えるに至ったんだ」

 

 ルーリはそこまで話すと、珍しく物音を立てながら椅子に座り、最初の大仰なポーズに戻った。

 

 「グガワ、こういうのは、なんて表現すればいいんだろうね?」

 

 リーディーに話しかける形で、ルーリがグガワに質問すると、部屋にあるスピーカーからルーリの声が大音量で流れてきた。おそらく、先ほどのルーリの会話の一部を切り取った音声だろう。

 

 「『あんたのことが大好き』」

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