AIにそだてられた子   作:荒井文法

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 アルコルフは、エア・ローダーで二時間ちょっとの散歩だ、と言った。散歩という言葉を、もう少し真摯に使ってもらいたい。

 

 「今回は歩きもしないの?」

 前回のアルコルフとの『散歩』で三時間ほど歩かされた僕の質問に対して、アルコルフは指を一本上げて得意げに答える。

 「そこから歩いて浜辺散策だ。海水浴も追加してやろう。おっと、俺は泳がないぜ。錆びちまうからな。泳ぐならケイスケひとりだ」

 「泳ぐわけないでしょ」

 「なんで?」

 「塩分の過剰摂取は体に悪いし」

 「飲まねーよ」

 「ベタベタするし」

 「俺にシャワー機能を追加してやろう、特別大サービスだぜ」

 「水着無いし」

 「「それなら」」

 

 二つの声が重なった。どうやら、アルコルフと同じタイミングで、今まで静観していたリーディーが口を開いたようだ。

 

 「あるぜ」

 「あるよ」

 

 二人の声とともに、二つの水着のような物が現れた。

 アルコルフは股間のあたりに『それ』を収納していたらしい。軽快な電子音が響いて、股間のハッチが開いた。中に何か見える。

 アルコルフの股間に目を奪われているあいだに、リーディーは既に水着を持っていた。予知能力があるマジシャンかもしれない。

 

 「とうとうこれをケイスケに渡す日が来たか」

 アルコルフは、自分の股間に手を突っ込みながら、しみじみ言った。取り出した物は、布というよりも、木のようだ。棒状で、少し反り返っていて、中が空洞で、輪っかになった紐が一本繋がっている。

 「知恵の実が生み出した文化の原点を体感しな」

 アルコルフの言葉を聞いて『それ』の装着方法を理解した僕は「却下」と呟いた。

 

 芸術と文化の密接な繋がりについて論じ始めたアルコルフを放置して、リーディーが持っている水着を見てみる。布ではあるけれど、表面積が極端に小さく、真紅である。アルコルフの『それ』と比べればマシではあるけれど、着るのは気が引ける。

 「うん、ケイスケに似合う」

 リーディーは根拠不明の言葉を言いながら、にこにこしている。『似合う』と断定したリーディーの言葉を鑑みると、おそらく、僕の身体データを基にして、水着を着た僕の姿をシミュレーションしたのだろう。やめてほしい。

 

 「こんな水着もある」

 なんと、シルフまで水着を持っていた。

 

 僕の水着姿でオルブの海が割れたり、空が輝いたりするのだろうか。それならば協力したいが、今のところ、現れるのは僕の羞恥心くらいだと思う。

 

 シルフの水着は、一番落ち着いた感じではある。表面積も充分で、紺色だ。

 「んー、まあ、それなら大丈……」

 言いかけて気付いた。シルフの持っている水着には白い布のようなものが縫い付けられていて、そこに大きく『オルブ けいすけ』と書かれている。

 「……どうして、名前が?」

 「所有権を明確にするためだ」

 「……オルブは、必要?」

 「オルブではない場所にケイスケと同名の人間がいる可能性を否定できないのだから、当然だ」

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