ぐらんぶるろまんす   作:てこの原理こそ最強

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青く晴れた空。燦々と照りつける太陽。そしてその陽射しに反射してキラキラと光る海。気温は少し暑いがすごしやすい

 

ここは静岡県伊豆市。豊かな自然環境に恵まれ、南側は天城山系の山並みに囲まれ、西側では青く澄んだ駿河湾に面しており、太平洋側の気候の影響から温暖な気候に恵まれ、年間を通じた平均気温は15度前後で、山間部などの地域で降水量の多いところもあるが、全体としては穏やかで住みやすい場所だ

 

そんな伊豆市の海沿いを一台のワゴンが走って行った

 

「大きくなったなー伊織。10年ぶりか」

 

「それくらいになりますね」

 

「これからは家族だ。敬語なんてよせよ」

 

「はい、わかりました」

 

「わかってねぇよ!」

 

北原伊織(きたはらいおり)。今年から伊豆の大学に通うためこの伊豆へやって来た青年。そしてワゴンを運転しながら助手席に座っている伊織の頭を強く撫で回すのが伊織の叔父である。伊織は大学進学を機に叔父の家へ居候することになっている

 

2人が楽しげに会話をする中、ワゴンは目的地に到着した

 

「diving shop ”Grand Blue”」

 

「どうだ立派なものだろう。車置いてくるからそこら辺でも見ててくれや」

 

「あ、はい」

 

伊織は10年ぶりに見る目の前の光景に目を奪われた。その光景の中にダイビングスーツを抜いでいる最中の上半身だけ水着姿の女性が入り込んだ。その光景に違う意味で目を奪われる伊織であった。その女性も伊織に気がついたのか数秒間見つめ合う形となった

 

『伊織ー?どこだ?』

 

「あ、はい!今行きます!」

 

叔父に呼ばれ駆け足で店へ急ぐ伊織

 

(あの子、見覚えがあるような...)

 

伊織の姿が見えなくなったと同時に、少女の元にある男性が近寄った。その格好は女性と同じく上半身だけダイビングスーツを脱いでいるものだ。その体はめちゃくちゃ筋肉がついているわけでもなく、細くなよなよしているわけでもない。程良い筋肉質と程良い体のライン。彼には細マッチョという言葉がしっくりくる

 

「(。´・ω・)?」

 

「あぁごめん。なんでもない」

 

「...」

 

彼は全く言葉を発していないにも関わらず彼女は彼の言いたいことを理解しそれに答えた

 

「あっ、ありがと」

 

「(。-`ω´-)」

 

彼は一瞬彼女が見ていた先に目をやるがすぐに彼女に目を戻し自分と彼女のタンクを持ち上げ歩いて行った。彼女はその後ろ姿を見て小さく笑みを浮かべて後を追うのであった

 

 

 

 

 

(今までとは違う環境で俺はどんな出会いをするのだろう)

 

これからの生活に胸を躍らせながら伊織は店のドアを開けた

 

『ウォォォーーー!!!アウト!セーフ!よよいのーー!!!』

 

伊織はドアを開けた先の光景に表情を変えることすら忘れて時間を巻き戻すようにドアを閉めた

 

「すぅーはぁー」

 

(俺はどんな出会いを)

 

さっきのを一旦リセットするべく伊織は深呼吸をはさみもう一度ドアを開けた

 

『よよいのよい!!!』

 

だがしかしこれは現実である。先ほども見たパンツ一丁の男共による野球拳の光景は変わりはしなかった。その光景を受け止めきれず、伊織は地面に手をついた

 

(ガッ!俺の望んだ新生活...)

 

「伊織。改めてようこそ、俺の店へ」

 

「叔父さん!なんですかこのおかしなのは!」

 

「ん?おー、よく言われるんだよ。俺にこのエプロンは似合ってないって」

 

「そうじゃなくて...!」

 

「服のことじゃないのか?」

 

「服のことですよ!」

 

叔父との会話が噛み合っていない中、伊織がさっきの男連中を指差す

 

「あーあ」

 

「出したぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

「いつもの光景だが」

 

「実家に帰らせていただきます!!!」

 

男の一人が野球拳に負け、最終防壁であるパンツを脱ぎだしたところを見て拒否反応が出たのか伊織は店から走り去ってしまった

 

「ホームシックか」

 

「店長、今のは?」

 

「伊豆大に入る甥っ子だ」

 

「甥っ子が伊豆大に?」

 

「ってことは時田...」

 

「そうだな寿...」

 

「「新人ゲットのチャンスだ!!!」」

 

新入生と聞いてとても悪い顔になる時田信治(ときたしんじ)と寿竜次郎(ことぶきりゅうじろう)。どちらも伊織が通う伊豆大の3年生である

 

そして2人はものすごい顔で伊織の後を追った。その格好のままで。そう...方やパンイチ、方や全裸で、だ...

 

「はぁ...はぁ...なんで店の中にあんな変態が...」

 

「「待てー!!!新入生ー!!!」」

 

「外に出てくるのかよー!!!?」

 

ある意味ゾンビ映画よりもよっぽど恐怖名絵面に再び逃げる伊織

 

「待てー新人!なぜ逃げる!」

 

「逃げるに決まってるでしょー!」

 

「さてはお前!人見知りのシャイボーイだな!」

 

「自分の格好わかってます!?」

 

「そんなことはどうでもいい!」

 

「いいわけあるかぁーー!!」

 

「とにかく俺達の話を聞くんだ!」

 

「イヤだぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

伊織の全力疾走も虚しくあっという間に2人捕まってしまった

 

「お帰り伊織。ホームシックは治ったか?」

 

時田の脇に抱えられながらの帰還を余儀なくされた伊織は玄関前に投げ捨てられた。それにしても大学生の男1人片腕で抱える時田の筋力とはいかほどのものなのか...

 

「ま、子供はいずれ親元を離れるものだ」

 

「大丈夫、すぐに慣れるさ」

 

「なぜ俺のホームシックで話が進められてるんだ...」

 

「違うのか?」

 

「違いますよ!店に入ったら全裸祭りなんだから驚いて逃げたんです!」

 

「お前は俺達が好きでこんな格好をしてるとでも?」

 

「違うんですか?」

 

「否定はしない」

 

伊織は2人の発言に頭を抱える

 

「あれはタンク準備を決めるためにじゃんけんをしていただけだぞ」

 

「タンク準備?」

 

「ダイビングのときに使う機材だ」

 

「あぁ〜あれか」

 

「それをじゃんけんで決めてたってわけだ」

 

「あぁ...それで?」

 

「それで、とは?」

 

「それが服を脱ぐのと何の関係が?」

 

「野球拳なんだから全裸になるのが常識だろ」

 

「あなた方は野球拳以外のじゃんけんを知らないんですかぁ!?」

 

野球拳とは元々愛媛県松山市のあるお祭りが発症であり、歌い踊りながらじゃんけんをする宴会芸・郷土芸能である。じゃんけんで負けると服を1枚脱ぐというルールがよく知られているが元はそんなルールはなかったと言われている。まぁ伊織がそんなこと知る由もなく、伊織の言う通り普通のじゃんけんをすればいいのだ

 

「俺は寿竜次郎。伊豆大機械工学科の3年だ」

 

「北原伊織です。同じ学科なんですね」

 

「おー、そうか。同じサークルに同じ学科のやつが入るのは嬉しいもんだな」

 

「入るとは言ってませんが...」

 

いろいろありすぎて疲れた伊織だが寿と自己紹介を交えつつタンク運びに付き添っている。ちなみに寿はちゃんと服を着ている

 

「ふっ、そんなもの目を見ればわかるさ」

 

「そうですかぁ...」

 

その伊織の表情はなんとも形容しがたいものであった。その後幾度か寿の言うサークルの入部届けに拇印を押させる、抵抗するというじゃれあいをしながら海沿いを進む

 

「ダイビングに興味は?」

 

「ありますよ」

 

「そうか!」

 

「でもやる気はありません」

 

「なぜだ?やってみたくないのか?」

 

「...俺泳げないですし」

 

「んー?はっは!さてはお前国語が苦手だろ」

 

伊織の告白に寿は笑いながら伊織の背中を叩く

 

「なんですか急に」

 

「だってやりたいかやりたくないに、できるできないで答えるなんて」

 

「でも海に潜るのに泳げないなんて」

 

「そんなものどうにでもなる」

 

「どうにでもってそんな...」

 

「最初から自分ができるものだけ選んでいたらなにも始まらない。大事なのはお前が興味を抱いているか、だろ?」

 

伊織は驚いていた。さっきまで店では全裸、挙げ句の果てには全裸のまま店から出た男がまともなことを言っていると。そしてその言葉は悔しくも伊織の心響いていた

 

そして少し歩いたところで寿が防波堤の下を覗いた

 

「下見、お疲れ様です。タンク置いてきますね」

 

「ありがとう」

 

下からする声の元にはこれまた上のダイビングスーツの上部分を脱ぎ、水着姿をあらわにしている綺麗な女性がいた。その女性は伊織に気がつくと小走りで階段を上って伊織に近づいた

 

「いらっしゃい伊織くん!」

 

「はい!はじめまして!」

 

「はじめまして?私のこと忘れちゃった?」

 

「えっ?」

 

「いとこの顔忘れるなんて冷たいな〜」

 

古手川奈々華(こてがわななか)。”Grand Blue”の看板娘。伊織とはいとこにあたる。なんと伊織は目の前の綺麗な人といとこであるにも関わらず忘れてしまっていたようであった。これはその内罰が下るであろう...

 

 

 

 

 

店に戻り伊織は奈々華のダイビングスーツの海水落としを手伝っている

 

「すいません、気がつかなくて...」

 

「10年ぶりだもんね。千紗ちゃんにはあった?」

 

「いえ、まだです」

 

「あったらびっくりするよ〜。とびっきり可愛くなったんだから!さっきまで一緒に潜ってたんだけど」

 

「あっ!もしかして!」

 

作業が終わって店に戻る最中、伊織は奈々華の言葉で店に着いたときに見た美人のことを思い出す

 

「時田くん達のサークルに入るの?」

 

「いえ」

 

「ダイビングは嫌い?」

 

「嫌いじゃないと思いますけど...」

 

「じゃあなんで?」

 

「せっかく男子校を卒業したんだから距離を取りたいんです」

 

「距離?なにと?」

 

「それは...」

 

伊織は店のドアノブに手をかけ、そして開ける

 

『ウェェェェェェェイ!!!!!』

 

「こういう男子校のノリってやつからですよ!」

 

ドアの向こう側には再び全裸の男達が...

 

「お、戻ってきたか」

 

「片付けお疲れさん」

 

「とりあえず服を着てください...」

 

「じゃあ伊織くんのことよろしくね」

 

「ウーッス!」

 

「あぁあぁあぁ!!!」

 

すでに逃げる道なし。捕まった伊織は酒で埋め尽くされたテーブルの前に連行された

 

「さぁ!今日はお前の歓迎会だ!」

 

「待ってください!オレはサークルに入る気ないですし!そもそも...!」

 

「それ以上言うな。いいか伊織」

 

「なんですか...?」

 

「お前は食わず嫌いが多いように思える」

 

「別にそんなこと...」

 

「そうだろう。やったこともないのに文句を言っているんだから」

 

「それはよくないな。やったこともないのに全裸で公道を走るのがよくないなどと!」

 

「それはこっちが正しくないですか...?」

 

「とりあえずこれを飲んで野球拳から始めてみるべきだろう」

 

「何事も経験だ」

 

「それ絶対必要のない経験ですよね」

 

そう言って時田と寿は伊織にビール大ジョッキを勧める。

 

「世の中に無駄な経験なんてものは存在しない」

 

「騙されたと思ってやってみろ」

 

「断固拒否します」

 

「そこをなんとか!」

 

「減るもんじゃないし!」

 

「やりません!俺はそんなノリに絶対ノリませんから!!」

 

人生経験が大事。やってみないとわからないことだってたくさんある。時田達の言っていることは正しく聞こえる。裸で公道を走ったりしなければ説得力もあるのだが...

 

 

 

 

 

所変わって夜、店の前の公道では...

 

「あれって、伊織だよね」

 

「(*´-ω・)?」

 

夜も更けて暗くなった公道を2人の男女が歩いている。古手川千紗(こてがわちさ)と我那覇拓海(がなはたくみ)である。2人とも伊織と同じく今年から伊豆大に通う

 

「朝見かけたやつ。もしかしたら知り合いかも」

 

「...」

 

「一応、男...」

 

「(; ・`д・´)!」

 

千紗の口から拓海以外の男と知り合いだった事実を聞いて拓海はその細い目を見開く

 

「ただのいとこだよ」

 

「(。´-д-) =3」

 

「もしかして、嫉妬した?」

 

「( ꒪⌓꒪)!」

 

「ふふっ、拓海ってホントわかりやすいよね」

 

拓海は朝と同じく全く声を発していない。しかし無愛想というわけではない。表情はころころ変わる。それも千紗に関することならなおさらだ

 

「大丈夫。まだいとこだって決まったわけじゃないし、仮にいとこだったとしても会うの10年ぶりぐらいだから向こうが忘れてるんじゃないかな」

 

「...」

 

千紗は大丈夫と言いつつもまだ不安が抜けない拓海

 

「それに...」

 

「(・・。)?」

 

「...今の私には、拓海しか映らないから......」

 

「(*゜△゜*)!?」

 

「...」

 

千紗の告白とも取れる言葉に拓海は顔を赤くし、言った本人の千紗も顔を赤くしている。なんと初々しい2人なのか。爆発すればいいのに...おっと失礼。見ればわかるようにこの2人はカップルである。その成り行きなどは〜...また次の機会にでも

 

「着いた。ありがと、いつも送ってくれて」

 

「...また明日

 

「うん。また明日ね」

 

拓海は無事”Grand Blue”に千紗を送り届け別れを惜しみつつも手を振って自分の帰路についた。一方の千紗は拓海の姿が見えなくなるまで名残惜しそうにその背中を見届け、見えなくなると店に入った。のだが...

 

「だらっしゃーーー!!!なんぼのもんじゃーーー!!!」

 

「やるじゃねぇか伊織!」

 

「3人抜きとは恐れ入ったぜ!」

 

「早く負けて俺様のご立派様を拝ませてやりたいですよ!」

 

「よく言うぜ!」

 

「どうせ爪楊枝だろ?」

 

『あはははは!!!!!』

 

そう。千紗がドアを開けて数秒動かなかったのはこれが原因だ。さっきまで変態扱いしていた時田や寿などの裸集団の中に伊織がいたのだ。パンイチで

 

「ふん!何人かかってこようが俺のパンツは!」

 

「あれ千紗ちゃん。おかえりなさい」

 

「ただいま...」

 

そんなパンイチ姿の伊織を見る千紗の目は、まるで汚物を見るような目になっていた。そして千紗の存在を知った伊織は固まった

 

「んんっ!よぉ、久しぶりだな千紗。俺のこと覚えてるか...?」

 

こんな状況の再会でも伊織は普通通りにいるとなぜ思ったのか。伊織は千紗に声をかけ肩にポンっと手を置いた。しかしそれを千紗は即座に振り払う

 

「これもう捨てないとダメみたい」

 

「俺の手そんなに汚いのか!?」

 

「伊織がこんな頭の悪い人間になってるとは思わなかった」

 

「違うんだぁぁぁぁーーー!!!」

 

千紗は伊織に触られたカーディガンを脱ぎ、それを姉である奈々華に渡して奥へ行ってしまった

 

「なんでこんなことに...」

 

「お前、千紗ちゃんといとこなんだって?」

 

「美人のいとこと同居とは贅沢者め」

 

「たった今汚物のように扱われましたけどね...でもいいんです。同じ家に奈々華さんがいるんですから!」

 

「それは諦めろ、伊織」

 

「どういう意味ですか?」

 

「いやな、奈々華さんは隠してるつもりらしいし実際当事者にだけはバレちゃいないんだが...」

 

時田の曖昧な言葉に伊織も奈々華の方に目をやる。するとそこには先ほど妹の千紗から受け取ったカーディガンを大事そうに抱えてキョロキョロする奈々華の姿があった。そして次の瞬間...

 

「スゥ〜はぁぁぁぁん!!!」

 

「あの人、重度のシスコンなんだ」

 

「この10年で何があったんだ!」

 

目の前の光景に心やられ伊織は再び頭を垂れた

 

「終わりだ...今日会った人の中で唯一の癒しが...」

 

「気にするな。所詮バラ色の家庭なんて手に入らない方が普通なんだからな」

 

「まぁ確かにそうですね。家の中にドラマなんて求めちゃいけませんよね」

 

「そうだ!」

 

「それならその分大学生活の中で頑張ります!」

 

「おう!燃えてるな!」

 

なんと切り替えが早い。切り替えの早いのは決して悪いわけではないのだがこれはこれでいいのだろうか

 

「あ、あの...」

 

「ん?どうした伊織」

 

「奈々華さんの表情が...!」

 

「「あー」」

 

伊織の指差す方にはさっきの千紗のカーディガンの匂いを嗅ぎだらしない顔になった奈々華ではなく、眉間にシワをよせた顔で千紗のカーディガンを睨みつけている

 

「そうか。千紗ちゃん今日あいつと一緒だったか」

 

「あいつ?」

 

「伊織は千紗ちゃんと奈々華さんのいとこのくせに本当になにも知らないんだな」

 

「仕方ないじゃないですか!10年ぶりなんですから!それで?あいつって誰ですか?今の奈々華さんの表情となんの関係が?」

 

「奈々華さんが重度のシスコンってのはさっき言ったな?」

 

「えぇ...驚きましたけど」

 

「そんな愛する妹に()()がいるってなったらどうなると思う?」

 

「...え?」

 

「千紗ちゃん、彼氏持ちだぞ」

 

「......え?」

 

伊織から出る今日1番の無気力の「え?」であった

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