冒険の書―ロトゼタシアの勇者の聖杯探索―   作:陽朧

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目醒めと眠り

 

 

 

 

 おきのどくですが

 あなたの*******は  

 きえてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あらたに ぼうけんのしょを つくりますか?  

 →はい

  いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたの なまえを にゅうりょく してください。 

 →****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イレブン でよろしいですね?  

 →はい

  いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よくぞ もどられました。

 はじまりの ゆうしゃ イレブン よ。

 あなたは おおいなるしめいを すでにあたえられているようです。 

 

 かみより たまわりし おつげを ききますか?

 

 →はい

  いいえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いのちの たいじゅの もうしごよ

 

――ながき ねむりから さめるときが きました

 

 

――いま ふたたび せかいをすくうのです

 

――たとえ それが けっしてまじわらぬ ことのない せかいだとしても

 

――ゆうしゃとは ゆうきをもち ゆうきを あたえる もの

 

 

――いま あなたを もとめるものが います

 

――たとえ それが だれのきおくにも のこらない こどくな たたかいだとしても

 

――あなたは いかなければ なりません

 

――その てのこうに きざまれた もんしょうの もとに

 

 

 

 

 

――ときは きたれり

 

――いまこそ めざめるとき

 

――ゆうしゃよ いま ふたたび けんを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。ああ たびだたれる のですね。 

 かみさまは あなたを 

 いつも みまもっておいでです。

 どうか お気をつけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆうしゃ イレブン は、

 たびだつことを えらんだ。 

 

 そして よが あけた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「神の乗り物ケトス……かあ、」

 

「ふふっ。またそれを読んでいるんですか、先輩」

 

「うん、みんなが口を揃えていうからさ。

俺が読んだことがないっていうのが、余程衝撃だったみたい」

 

「それは納得です。

冒険の書は、世界各地で共通して読まれている伝記ですよ。

教科書にも乗るレベルのものです。

知らない人間の方が珍しいくらいですから」

 

「うう……。その珍しい人間だったわけか」

 

「そりゃあ……。レア度でいうと星5つです、先輩」

 

「そんな嬉しくないレア初めてだよ」

 

 

ふさふさとした高級感のある赤い表紙に、打ち込まれた金の文字。

日本語版であるため、日本語で書かれたタイトルを、リツカは指でなぞった。

 

黒髪の少年、リツカが人類最後のマスターとなってしまったのは、半年前くらいであろうか。

魔術も使えない、魔術回路も並み程度という良くも悪くも平凡な少年は、個性豊かな英霊(サーヴァント)たちに鍛え抜かれていた。容赦なく飛ばされるレイシフト先で、習うより慣れろというように戦場に赴き、死ぬ物狂いで戦い、その中で学び続けてきた。

リツカの体に傷が増えるに従い、戦いの経験が増えていく。

そして、戦いの中で絆を結んだ英霊たちが、カルデアへと召喚され、気が付けば静まり返っていたカルデア内も、逆に静かな場所を探すのが難しいくらいにまで増えていた。

 

相変わらず忙しい日々が続いていたが、それは少し余裕が出来るようになった時期であったと、リツカは記憶している。『あの本が読みたい』と幼い姿をした気難しい英霊に言われたのが始まりである。

聞いたこともない名前の本に首を傾げたリツカを見た、英霊は表情を変えた。

 

 

「まさか、いや……まさか、お前、知らないのか?」

 

「え?そ、そんなに有名なの?」

 

「……」

 

「あ、アンデルセン?」

 

「……。マスターよ、今すぐ管制室に赴き、あの軟弱男からぶん取って来るのだ。

ああまて、あの英雄王でも、いやこの際もはや誰でも良い!

あれが図書館にないとは論外だぞ馬鹿め」

 

 

その表情は、怒りも怒りも何もかも超越した完全な無であったと、後々リツカは振り返る。

言われた本のタイトルを求めたリツカは、結局偶々廊下を歩いていた太陽王に声を掛けることになったのである。リツカの話に大層驚いた素振りを見せた英霊は、直ぐに彼を自分の書庫に連れて行くと、その本を手渡した。手渡されたといっても、分厚い本を何十冊一度に寄越されては、支え切れるわけがない。

思わずその本を落としそうになると、突然現れたニトクリスに助けられ、序に説教をされる羽目になったのである。……その話はまた後日するとして、そうして手にした本を、リツカは読み耽っていた。

 

あまり紙の本を読むという習慣はなく初めは腰が重かったが、ページを捲る度にその世界へと引き込まれていったのだ。今では立派な中毒者である。

同じくらいの年で、世界という大き過ぎるものを背負い戦うその姿に、リツカが抱いたのは憧れであった。本の中の主人公は、自らの力で戦い、仲間と力を合わせて運命を切り開いていく。

同じような使命を背負うリツカだからこそ、余計に共感する部分があり、そして思う部分もあったのだろう。

 

 

 

 

 

リツカが、冒険の書の一冊を読み終えた日の翌日のことであった。

 

 

 

 

 

「い……、ぱい、……!先輩!」

 

「……う、ううん、……マシュ?」

 

「起きてください!外が!」

 

「へ?外……!?」

 

 

日が昇ろうとしている時間に、相棒であるマシュに叩き起こされたリツカは、何か嫌な予感を抱いて飛び起きた。険しい顔をしたマシュに手を引かれて部屋を出ると、そのまま廊下の窓へと行き着いた。

何人かの英霊が揃って空を見上げており、彼らはリツカを見ると、静かに空を指差した。

 

 

「おう、マスター。朝から最悪なお知らせだ」

 

「キャスター?どうしたの?

……っ!?なに、あれ……!」

 

 

マシュと同様に、戦闘時に見せるよりも険しい顔をしたキャスターのクーフーリンが、リツカに声を掛けた。これだけの英霊がいるのに、しんと静まり返った空気は、緊張を孕んでいた。

 

リツカは空を見上げる。

するとそこには、赤々と燃える巨大な球体が浮かんでいた。

今にも零れ落ちんばかりの距離にあるそれは、昨日まではなかったものだ。

目を見開いたリツカが、よくよくそれを見ると、何か魔法陣のようなものが編み上げられて出来ていることに気が付く。

 

 

「気が付いたかい。お前さんも随分成長したモンだ」

 

「……あれって、」

 

「あれは、かつて勇者の星と呼ばれたものですわ」

 

 

後ろから聞こえた声に振り返ると、少女の姿をした英霊マリーと、彼女の世話を何かと焼いているアマデウスの姿があった。いつもの可憐な笑みを打ち消したマリーは、リツカを見上げると困ったように眉を下げる。

 

 

「でも、その正体は……」

 

「なんと邪神ニズゼルファの封印体だったのさ!」

 

「にず……。って、まさか」

 

「そうだマスター。アンタが最近読み漁っている冒険の書、第一章に書かれている邪神サマさ」

 

「え、ええええ!?そんな……。なんで!?」

 

「……そりゃあこっちが聞きてえなあ。

(やっこ)さん突然現れやがったんだ」

 

「でもおかしいわ。邪神は勇者によって滅ぼされたと聞きます。

あの封印体が存在するなんて……」

 

「ああ、マリー。そんな顔をしないで。

今管制室で緊急会議が開かれている。

直ぐに対策が講じられる筈さ」

 

「……とはいってもなあ、アレが現れたのは云千年も前の話だろ?」

 

「ええ、伝記では“大地が落ち、世界が闇に包まれた後……。

突如として落下を始めた”そうですわ。

……ねえ、マスター。私……嫌な、予感がするの。

こんな気持ち、あの時以来だわ」

 

 

ぎゅっと胸の前で手を組んだマリーは、不安げな表情を隠せずに、空を見上げる。

リツカは何も言わずに、それを見た。

 

赤い球体に刻まれたオレンジの魔法陣は、熟れたトマトのようである。

 

――巨大な星が落ちる。

それはもしかしたら、今まさに救おうとしている世界の終焉を示しているのかもしれない。

 

この崩壊を迎えようとしている世界に、それは絶望の(しるし)であったのだ。

 

 

 

***

 

 

 

どこからか、澄んだ笛の音が聞こえる。

高く高くどこまでも清らかなそれに、竪琴の優しい音色が交差していた。

いつか、どこかで聞いたことのある、懐かしい調べ。

 

揺蕩う意識の中で、記憶が呼び起されようとしていた。

 

 

 

―双子の賢者の調べに、飛来する光の粒たち。

やがて一つの光となり、剣に宿る。

光を纏う剣を、選ばれしものの紋章を持つ勇者が掲げた。

 

高く、高く伸びる、光の柱は、

空を泳ぐ、聖なる鯨を覚醒させた―

 

 

 

今となっては、過ぎ去りし思い出であり、書物に記された伝記の一つである。

求めた世界で真の敵を打倒し、世界が平穏となった後、その記憶は人々の手によって一つの本となり、その名を継ぐものたちへと残されていった。

 

――ロトゼタシアを救いし勇者は、命の大樹である聖竜から『ロトの勇者』の称号を授かった。

『世界に闇が齎されしとき、光を継ぐ勇者が生まれるであろう』

いつかの時代に予言された言葉通りに、彼らは生まれ、運命に従い、闇を払う光となった。

彼らの記録は『冒険の書』として記されていき、大地が生まれし時から現代に至るまで、ずっと受け継がれてきたのである。

 

 

 

 

 

眠りについたその魂は、今、この時、再び肉体を得て覚醒の時を迎える。

 

大空を泳ぐ、神の乗り物ケトスは、かつて二度勇者を背に乗せ、魔王の張り巡らせた闇の結界を打ち破った聖獣である。かの背中に集まった光は、やがて人の形を成した。

 

 

 

勇者の再来に、ケトスは声を響かせる。

希望の誕生を、大地に知らせるように。

戦いの訪れを、世界に知らせるように。

 

闇と、光。それは決して交わることのないもの。

 

ケトスは、その再会に歓喜した。

強さと優しさを持ち合わせた、清らかなその少年を気に入っていたからだ。

ケトスは、その再会を悲しんだ。

勇者とは常に戦いと共に在る、その運命に翻弄された少年に安らぎはない。

 

 

 

ふと、光が止んだ。

吹き荒ぶ風が、さらさらとした髪を撫でる。

開かれたその瞳に宿る強い光は、何時如何なる絶望の淵に在ろうとも決して絶えることのなかった、勇者の光。

 

 

 

――勇者 イレブンよ。

再びまみえることが出来たこと 心より嬉しく思います。

 

 

 

ぱちぱちと目を瞬かせ、周囲を見回しているイレブンに、ケトスは話しかけた。

金色の甲冑にも似たケトスの体が、太陽の光を受けて穏やかに煌めく。

 

 

 

――あなたを 求める声が 聞こえます。

それは とても遠い世界……。

本来であれば 届く筈のない 声。

 

 

――あなたは 行かねば なりません。

命の大樹の申し子として ロトの勇者の名を授かりし者として。

 

 

――世界を越えたその先で あなたは この使命の意味を 知るでしょう。

 

 

――我が心 勇者ローシュと そして あなたと共にある。

ああ そうですね。

彼らの心も あなたと共に……。

どうか 忘れないでください。

 

 

 

いつの間にか背負った剣は、かつて仲間と鍛え……。いや、命の大樹から授けられた勇者のつるぎであった。戦いが終わった後、大樹に返した筈であるが、イレブンが再び使命を背負った証とするかのように、そこにあった。旅装束である、紫を基調とした服は当時のままだ。

言わずもがな、その手の甲には竜の紋章が浮かんでいた。

 

凛とした優しい声に、イレブンはかつての仲間たちを思い出す。

共に戦った大切な仲間たち。世界に平和が齎された後は、それぞれがそれぞれの場所で活躍していたが、彼には忘れられない記憶があった。

 

勇者であるイレブン以外は、誰も覚えていない『**』

こびり付いて落ちないそれを、彼はひっそりと引き摺っていた。

 

 

 

 

 

 

『これから先、このあたしがその背負ってる使命ごと、アンタをずーっと守ってあげるから、安心しなさい!』

赤い帽子に赤いスカートを身に着けたおさげの少女が、胸を張る。

彼女は、天才にして至高の魔術師であった。

 

 

 

『わしは、おぬしを信じとるよ』

『お前は、このわしの自慢の孫じゃからのう!』

白い口髭をたくわえた老人が、慈愛を浮かべる。

彼は、最後の肉親にして青年の見守り人であった。

 

 

 

『まだ俺にも守るべきものがある。お前が世界を救う勇者なら……俺は勇者を守る盾となろう』

黒い鎧を纏う厳格な男が、勇者の敵を睨む。

彼は、誇り高き武人であり崇高な正義であった。

 

 

 

『また私のこと……探しだしてくれますか?』

長い金髪におっとりとした雰囲気を纏う少女が、微笑む。

彼女は、芯の強い賢者であり、勇者を導く女神であった。

 

 

 

『あなたと出会って、失ったいろいろなものを取り戻せたの。

もう、二度と失いたくない……』

長い黒髪を高く結い上げた女性が、俯く。

彼女は、気品に溢れた嫋やかな姉のようなヒトだった。

 

 

 

『アタシね、考えてみたんだけど、

あなたと別れてまで手に入れたいものなんて、何もなかったわ』

鮮やかな服を纏うハンサムな顔立ちの男性(おとめ)が、真摯に見つめる。

彼女(かれ)は、根底に揺るぎない騎士道を宿した明るいヒトであった。

 

 

 

『オレもお前とはただならぬ運命を感じて、こうして一緒に旅をしているんだ。

お前とならこれから先も、人生楽しくやっていけそうだしな!

よろしく頼むぜ相棒!』

『また、会おうぜ……!』

青いツンツン頭の青年が、笑う。

……彼は、唯一無二の相棒であった。

 

 

 

 

 

空へ、空へと羽を広げるケトス。

不意にその前に、光の渦が現れた。

大きなケトスの体を、ひと呑みにできそうなほどの巨大な渦である。

 

ばさり、ばさりと大きく羽搏いたケトスは、躊躇することなく渦の中へと身を躍らせた。

 

イレブンは、ただ一度だけ振り返った。

 

 

空に浮かぶ、命の大樹。

その下に広がる大地は、ただうつくしかった。

 

 

 

 

 




唐突ですが、次回最終話となります。
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