冒険の書―ロトゼタシアの勇者の聖杯探索―   作:陽朧

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始まりの試練

次に目を覚ましたのは、何処か見覚えのある気がする建物の前であった。

白亜の壁に囲まれたその建物は、太陽の光を艶やかに照り返している。

至る所からざわざわと人の声が聞こえ、先程までいた場所とは全く違う明るさがそこにあった。

 

ぼんやりと鈍い頭を軽く振ると、周囲を確認する。

しかし、あの鮮やかな青い髪は何処にも見当たらなかった。

 

 

 

そうして周囲の様子を窺っていると、イレブンから少し離れたところで、何やら魔法使いが装備するようなローブを身に纏った人間の集団が、次々と建物の中に入っていくのが見えた。

穏やかな風に揺れるそのローブからは、薄らと魔力のようなものを感じる。どうやら防御力よりも見栄えを重視した装備らしい。この辺りでは強い『まもの』は出ないのだろうかと、彼らの装備を見ていた彼は、ふと気付いた。人のことを言っている場合ではない。あの勇者のつるぎを失った今、彼は丸腰なのである。

 

取り敢えずイレブンは、周辺を探索することにする。

新しく訪れた土地に心躍らせながら探索を行うことは、冒険の醍醐味の一つでもある。

あわよくば、何か良いものが見つかるかもしれない。

 

そう考えたイレブンは、建物の輪郭をなぞるように歩き始める。

すると、壁の傍に整列しているツボを見つけた。

例によってそのツボを割っていくと、中からなんと『どうのつるぎ』が出て来た。

名前通り銅で出来たその剣は、冒険初心者向けの良く言えば扱い易い、悪く言えば攻撃力の低い剣であった。しかし今は、選り好みをしている場合ではないのでさっそく装備する。

丸腰である彼には、攻撃力の低い剣であっても無いよりはマシだ。

武器や防具は装備しなければ意味がないのである。

 

そもそも急に目醒められさせたイレブンは、かつての旅で集めた装備品を持っていなかった。

何故か勇者のつるぎは手にしていたが、その他の武器も、盾も、アクセサリーも置いてきてしまったのである。彼にとってこれは中々にショックなことだが、また集めれば良いと気を持ち直す。

 

 

「やあ、ようこそカルデアへ。

君はミッションの参加者かい?受け付けはあっちだよ」

 

「はああ、もう何徹目か分からなくなって聞いた……。

まあ今日が無事に終われば、心置きなく眠れるさ」

 

「……。お前は……見ない顔だな。

一般採用者か?ふん、雑魚が。

お前がこの僕に話し掛けるなんざ千年早いんだよ」

 

 

どうのつるぎを背にイレブンは、細やかな探索を行いつつ話を聞いて回った。

ノリ良く雑談をしてくれる者もいれば、素っ気ない者もいる。それはいつものことであるので、気にせずに話し掛けていく。

 

得られた情報はこの建物がカルデアということと、今日は何か特別なイベントがあるらしいということ。そして此処に集まった人間たちは、魔術師が殆どであることだ。

集められる情報はこれぐらいであろう。そろそろ入り口の方に移動しようとしたイレブンは、ふと緑の帽子を被った糸目の男が目に入った。そして、それはその男の方も同じであったようだ。

緑のコートを翻し、品の良い足取りで男は近付いて来た。

 

 

「君は……そうか、今日から特例で配属された新人さんだね。

私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。

君の名前は……?」

 

 

新人とは何のことだろうかと思いつつ名を告げると、レフと名乗った男は人好きする笑みを浮かべた。物腰の柔らかい、人当たりの良い男である。それがイレブンのレフに対する第一印象であった。

 

 

「ふむ、イレブン君と。

招集された48人の適正者、その最後の一人というワケか。

ようこそカルデアへ。歓迎するよ」

 

 

カルデア、という言葉はクーフーリンからも聞いたが、イレブンの目の前にあるこの建物のことであり、あの朽ちた建物の元の姿であるらしい。

あの崩れ落ちた瓦礫の山とは比べ物にならない姿に、ただ黙って彼はカルデアを見上げた。

 

 

「受け付けはまだ済ませていないようだね。

こちらへ、私が案内しよう」

 

 

掌を上にして、まるでエスコートでもするようにイレブンに道を示したレフは、先を歩き始めた。

未だ状況は把握できていないが、今は付いて行くしかないであろう。

カルデアの説明を今度はレフから聞きながら、長い廊下を歩いていく。

 

 

「今回君は異例の特例での採用となったんだ。

大まかにいうと、一般枠と特別枠があってね。

一般枠というのはまあ、数合わせさ。

特例とはどんな意味って?ははっ、それは後でのお楽しみさ」

 

 

レフとのそれは、会話というよりも一方的に聞かれたことを答えるだけであったので、イレブンの頭の中にはずっと疑問符が飛び交っていた。レフの話を聞いていると、自分は何かに採用されてこの施設を訪れることになっていたらしいが、全く以て記憶にないことである。

 

かつて時のオーブを壊した時は、時が戻り過去へと飛んだ。

ならば今この場所は、先ほどいた場所の正当な過去の姿なのだろうか。

色々と情報不足であるため、それすらも判断のしようがない。

クーフーリンが一緒ならわかったのかもしれないが、彼の姿は何処にも見当たらないのだ。

前途多難とはこのことである。などと考えている間にも、レフの話は続いた。

 

 

「魔術の名門から38人、才能ある一般人から9人……そして君だ。

なんとか48人のマスター候補を集められた。

これは喜ばしい事だ。この2015年において霊子ダイブが可能な適正者すべてをカルデアに集められたのだから。わからない事があったら私に遠慮なく声を掛けてくれ」

 

 

前記したように、レフはとても親切な男である。

しかし、彼の説明は、イレブンが知りたいこととは微妙にズレてしまっているのだ。

それを質問しようとしたが、タイミングの悪いことにもう目的地に着いてしまったようであった。

受付に座っていた女性にレフが話し掛けると、イレブンは何かの装置が並ぶ部屋へと通された。

 

イレブンが装置の前に立つと、直ぐにそれは作動し、ぴぴぴと何かを読み込むような音がした。

 

 

 

 

――塩基配列 ヒトゲノムと確認

――霊器属性 ……判定不可能

 

ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

ここは人理継続保障期間 カルデア。

 

指紋認証、生体認証、遺伝子認証 クリア

魔術回路の測定……。エラーが発生しました。

魔力回路の測定……。エラーが発生しました。

 

魔力回路の測定不可能。次の段階へ移ります。

 

登録名と一致します。

貴方を霊長類の一員である事を認めます。

 

はじめまして。

貴方は本日 最後の来館者です。

どうぞ、善き時間をお過ごしください。

 

……申し訳ございません。

測定不可能項目が存在したため、処理に時間を要します。

入館手続き完了まであと***必要です。

その間、模擬戦闘をお楽しみください。

 

レギュレーション:シニア

契約サーヴァント:セイバー ランサー アーチャー

 

スコアの記録はいたしません。

どうぞ気の向くまま、自由にお楽しみください。

 

英霊召喚システム フェイト 起動します。

***の間、マスターとして善い経験ができますよう。

 

 

 

 

 

黒く塗り潰されていた視界に、突然色が戻る。

建物の中にいた筈だが、目の前には青々とした草原が広がっていた。

移動魔法(ルーラ)でも使ったかのように、突然場所が変わったことに驚きを隠せないイレブンであったが、敵の気配を察知すると素早く背負っていた剣を抜いた。

先ほども言ったが、どうのつるぎ、という名の通り銅で造られた赤茶色の剣は、所謂初期装備の一つである。要するに大して攻撃力はない。が、扱う者は熟練した勇者であり、剣を極めた者である。

それが『丁度良いハンデ』となろうことは相手の顔を見て感じた。恰好付けて言うと、長年の戦いの勘というヤツである。

 

現れた敵らしきものは、闇の騎士のように、真っ黒な体を持った騎士であった。

シルエットそのものが具現化したようなものであるので、それが本当に騎士なのかもわからない。

邪悪さを垂れ流す赤の瞳が殺気立っている。本物の影のように地面から現われたそれらは、あっという間にイレブンの周りを囲ったのである。

 

 

 

 

 

―エラー発生。エラー発生。

緊急事態発生。緊急事態発生。

英霊召喚システム フェイト に重大なエラーが発生しました。

 

契約サーヴァント召喚 不可

システムの終了 不可

 

契約者の安全が 保障できません

 

 

 

 

 

突如けたたましい警告音が鳴り響いた。

良くはわからなかったが、システムに異常があったらしい。

だがそれを気にする余裕はない。イレブンは襲い掛かって来た敵の攻撃を躱すと、出来た隙を突いて剣を振り抜く。するとあっさりと消えていくそれと入れ替わるように姿を現した新手に、再び剣を構え直した。

 

 

 

 

 

――イレブン君!無事かい!?

ボクは医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。

なぜかみんなからDr.ロマンと略されていてね……って自己紹介は後にしよう。

 

すまないが、アナウンス通りだ!

システムにエラーが発生した挙句、緊急停止した。

くそ!こんなこと今までなかったのに!

 

落ち着いて聞いてくれ。

契約サーヴァント召喚は行えない。

でも、シミュレーションは続行される。

ということは、だ……。

システム通り敵は出現するが、サーヴァントは召喚されない。

 

今急いで予備システムを起動させ連結させている。

制御が行えるようになれば、直ぐにシステムを中止させられるだろう!

 

……すまない、こちらからでは君のサポートを行うことはできないんだ。

 

 

 

 

 

アナウンスが機械的なそれから肉声へと切り替わる。

若い男の声は焦りに満ちていた。

それ故か口早に、それでいて簡潔的確に事態を告げた。

その男の話からするに、これは絶望的な状況ということだろう。

 

仲間は来ず、敵は容赦なく襲い来るということだろうか。

ならば呪文は控えめに、物理攻撃を中心に攻撃を行うことにしよう。

脳内でさくせんを切り替えたイレブンは、飛び掛かって来た敵を躱すと剣で背中を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

この時ロマニの焦りと、イレブンの考えには少し……。いや大分ズレが生じていた。

 

要するに、流れるような剣捌きで、容赦なく敵に切り掛かるイレブンは、このシミュレーションが何のためにあるのかを全く理解していなかったのである。

 

 

 

 

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